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兼任のDX担当が進める方法|使える時間から逆算して、着手するものを1つに絞る

DX推進を任されたものの、専任ではない。本来の業務を持ったまま、月に数時間だけ時間を作って進めている。中小企業でDXを担当している人の多くが、この状態にあります。

この状況で最初にやるべきことは、計画を立てることではありません。何をやらないかを決めることです。兼任である以上、使える時間には上限があります。その上限の中で成果を出すには、対象を絞る以外の方法がありません。この記事では、月に何時間使えるかから逆算して、着手するものを1つに絞る手順を説明します。

この記事でわかること

  • DX人材の不足が調査でどの程度の水準にあるか。兼任は例外ではないという前提
  • 月に使える時間から逆算し、着手するものを1つに絞る手順
  • 兼任であることを隠さずに合意を取る方法と、引き受けてはいけない依頼の見分け方

現状:人材不足は例外ではなく前提

まず、自社だけの問題ではないことを数字で確認しておきます。

独立行政法人情報処理推進機構(IPA)が2026年7月16日に公表した「DX動向2026」調査は、国内企業1,799社から回収したものです。この調査でDXを推進する人材の量の確保状況を尋ねた結果、「やや不足している」と「大幅に不足している」の合計は85.5%でした。2024年度、2023年度の調査ともほぼ同じ水準で推移しています。

AI関連の人材についても、同調査では多くの人材種別で「不足している」が過半数を占めるとされています。特に「現場の知見と基礎的AI知識を持ち、自社へのAI導入を推進できる従業員」の不足を挙げる回答は高いままです。

人が増えないなら、対象を減らすしかない

この数字から導ける結論は単純です。人材の確保を待ってからDXを進める、という順番は成立しません。いまいる人が、いま使える時間の中で進めるしかない。

そして、使える時間が月10時間なら、月10時間でできることしかできません。この当たり前の制約を認めずに計画を立てると、着手した案件がすべて途中で止まります。

捨てるものと、残すもの

よくある進め方 兼任では成立しない理由 代わりにやること
全社の業務を棚卸しする 棚卸しだけで数か月かかる 2部門に絞って聞く
中期の計画を作る 作った時点で前提が変わる 3か月の計画だけ作る
ツールを比較検討する 比較に時間が溶ける 既存の契約の範囲で試す
複数の部門で同時に進める どれも中途半端に止まる 1部門1件に絞る

右の列が、兼任の担当者にできることです。左の列は、専任のチームがいる会社のやり方であって、真似すると時間が足りなくなります。

全体の設計図:時間から逆算して1つに絞る

1. 使える時間を数える 月に何時間か。希望ではなく実績で ここが全部の前提になる 2. 2部門に絞って話を聞く 全社の棚卸しをしない 困っていることを30分ずつ聞く 3. 1件だけ選ぶ 使える時間で終わる大きさか 終わらない大きさなら分割する 4. 3か月で終わらせて、次へ 終わった実績が、次の話を通す 同時に2件を進めない DXを推進する人材の量 ・やや不足+大幅に不足=85.5% ・過去2回の調査ともほぼ同水準 出典: IPA「DX動向2026」(2026年7月16日公表)

この順番の要点は、1番目を飛ばさないことです。使える時間を数える前に案件を選ぶと、必ず入りきらない大きさのものを選びます。

必要なものと費用(2026年9月23日時点)

必要なもの 用途 費用の考え方
時間の記録 実際に使えた時間を測る 0円。カレンダーに記録するだけ
1枚の計画 3か月で何をやるか 0円。A4で1枚
既存のツール 試す環境 新規契約は最初の3か月は避ける
上司の合意 断る基準を共有しておく 0円。30分の面談

3つ目が重要です。最初の3か月は新しいツールを契約しないでください。契約すると、使わなければならないという圧力が生まれ、対象を絞る判断が歪みます。既存の契約でできる範囲で1件終わらせてから、必要なものを契約する順番です。

進め方:使える時間を数えるところから

Step 1:2週間、実際に使えた時間を記録する

最初にやるのは、計画でも調査でもありません。自分がDXの仕事に実際に使えた時間を、2週間記録することです。

希望ではなく実績で測ってください。「週5時間は取れるはず」と考えていても、実際は本来の業務に押されて2時間だった、ということが普通に起きます。この実績が、以降のすべての判断の基準になります。

記録の方法は、カレンダーに実際に着手した時間を書き残すだけで十分です。細かく測る必要はありません。2週間の合計を2倍して、月に使える時間の目安とします。

Step 2:2部門に絞って、30分ずつ聞く

全社の業務棚卸しをしないでください。兼任の時間では終わりません。

代わりに、2部門を選んで30分ずつ話を聞きます。選ぶ基準は、困っているという声が上がっている部門と、協力が得やすい部門の2つです。協力が得やすい部門を1つ入れておくのが要点で、最初の1件が成功するかどうかがここで決まります。

聞くのは3つだけです。毎週必ず発生していて、面倒だと思っている作業は何か。その作業に週何時間くらい使っているか。それが減ったら、空いた時間で何をするか。

3つ目を必ず聞いてください。答えが出てこない場合、その業務は減っても喜ばれません。減らした後にやりたいことがある人と組むのが、協力を続けてもらう条件です。

Step 3:使える時間で終わる大きさか判定する

候補が出たら、自分の使える時間で3か月以内に終わるかを判定します。判定は、次の4つの項目で見ます。

見る項目 終わる条件 当てはまらない場合
元データの所在 すでに電子で存在する 紙なら、まず電子化が別案件
関わる部門の数 1部門で完結する 2部門以上なら調整に時間が要る
既存システムの改修 改修が不要 必要なら見積と稟議で数か月
判断の複雑さ 手順が決まっている 毎回判断が要るなら対象外

4つすべてに当てはまるものを選んでください。1つでも外れるなら、それは兼任の時間では終わらない案件です。惜しくても、いまは選ばない。

すべての候補が外れた場合は、案件を分割できないかを考えます。たとえば2部門にまたがる業務なら、自部門の中で完結する部分だけを切り出す。分割しても意味が残るなら、それが最初の1件になります。

聞き方のコツ:解決策を提案させない

30分の聞き取りで失敗しやすいのが、相手に「どうすればいいと思いますか」と聞いてしまうことです。

この聞き方をすると、返ってくるのはツールの名前か、「システムを入れてほしい」という要望になります。そこから先は、予算と稟議の話になり、兼任の時間では動かせません。

聞くのは、あくまで現状です。何をしているか、どれくらい時間がかかっているか、その後どうなるか。解決策は聞き取りの後に自分で考えるほうが、使える時間に収まる案が出ます。

そしてもう1つ。聞いた内容は、その場でメモを取って相手に見せてください。認識が違っていればその場で直せます。後から資料にまとめて確認を取ると、そのやり取りだけで往復が発生します。

Step 4:3か月の計画を、1枚で作る

計画は1枚で十分です。書くのは4つ。

何を減らすか。誰と進めるか。3か月後にどうなっていれば成功か。そして、今月・来月・再来月にそれぞれ何時間使うか。

3つ目を数字で書くのが要点です。「効率化する」ではなく「この作業の月あたり所要時間を、3か月後に測って比べる」と書く。曖昧に書くと、3か月後に成功か失敗かを自分でも判断できません。

Step 5:終わらせてから、次に進む

同時に2件を進めないでください。兼任の時間では、2件を並行した瞬間にどちらも遅れます。

そして、1件目が終わったら必ず報告してください。減った時間、変わった作業、現場の反応。終わった実績があると、2件目の協力が得やすくなります。逆に、進行中の案件をいくつも抱えている状態では、新しい協力を求めても応じてもらえません。

作ったものを、自分しか直せない状態にしない

兼任の担当者が作った仕組みは、担当者が異動したり忙しくなったりすると止まります。これを避ける工夫を、最初から入れてください。

やることは2つです。1つは、使ったツールを既存の契約の範囲に収めること。特殊な環境で作ると、引き継ぐ相手がいなくなります。もう1つは、何をどう作ったかを1枚に書き残すことです。

1枚に書くのは、どのシートのどこに何があるか、どの処理がいつ動くか、止まったときに誰に連絡するか。詳細な設計書は要りません。止まったときに原因を探せる程度の情報があれば十分です。

この1枚があると、自分が対応できない月でも現場が困りません。兼任である以上、常に対応できる前提で作らないことが、結果として仕組みを長持ちさせます。

現場の合意の取り方:兼任であることを隠さない

兼任の担当者が陥りやすいのは、期待に応えようとして抱え込むことです。

場面 やりがちな対応 代わりにやること
他部門から依頼が来る 断りにくくて引き受ける 順番待ちの一覧に入れ、着手時期を伝える
進みが遅いと言われる 残業で埋める 使えた時間の実績を示す
経営層に成果を求められる 大きな計画を出す 1件の完了を先に見せる

順番待ちの一覧を、公開しておく

依頼を断るのは難しいものです。断らずに済ませる方法があります。順番待ちの一覧を作り、誰でも見られる場所に置くことです。

新しい依頼が来たら、その一覧に追加して「いまは3番目なので、着手は12月ごろになります」と伝える。断っているのではなく、順番を示している。この形にすると、依頼した側も納得しやすくなります。

そして、一覧が長くなってきたら、それ自体が人員の必要性を示す材料になります。口頭で「手が足りません」と言うより、待ち行列の長さを見せるほうが伝わります。

上司とは、断る基準を先に合意する

依頼を受けるかどうかを毎回自分で判断していると、判断そのものが負担になります。上司と30分話して、基準を決めてください。

決めるのは2つです。いま進めている1件より優先するものは何か。そして、誰が優先順位を変えられるか。優先順位を変える権限を自分ではなく上司に置くと、他部門との関係が楽になります。

他部門から急ぎの依頼が来たときに「上司に確認します」と返せる状態にしておく。これは責任逃れではなく、担当者が1人で全社の優先順位を決められる立場にないという事実に即した形です。

あわせて、月に1回、上司に進捗と順番待ちの状況を共有する時間を作ってください。5分で構いません。この共有があると、上司の側からも優先順位の判断を出しやすくなります。

失敗パターンと限界:やってはいけない引き受け方

引き受けてはいけない依頼

兼任の立場で引き受けると確実に破綻する依頼が、3つあります。

1つ目、既存システムの入れ替え。ベンダーとの折衝、要件の整理、移行の計画。どれも専任でなければ回りません。この種の案件は、外部の支援を入れるか、専任の体制を作ってから着手する話です。

2つ目、全社規模の同時展開。1部門で成立した仕組みを全社に広げる作業は、教育と問い合わせ対応が発生します。展開の作業量は、作る作業量より大きくなることがあります。

3つ目、期限が先に決まっている案件。「年度内に」と言われた時点で、使える時間から逆算した判定ができません。期限が先にあるなら、それは兼任ではなく体制の話として扱ってください。

時間が取れない月があることを、前提にする

決算期、繁忙期、突発的なトラブル。兼任である以上、DXの時間がまったく取れない月が必ず来ます。

これを想定外にしないでください。3か月の計画を立てるときに、1か月は時間が取れないものとして見積もる。実質2か月で終わる計画にしておけば、想定どおりに進みます。

自社の繁忙期が分かっているなら、計画を立てる時点でその月を避けてください。決算期に着手して途中で止まると、再開するときに前提の確認からやり直しになります。中断のコストは、想像より大きいものです。

そして、時間が取れなかった月は、そう記録してください。言い訳のためではなく、次の計画の精度を上げるためです。年間で何か月が実質的に使えないかが分かると、見積もりが現実に近づきます。

この進め方が向かない場合

経営層が短期で大きな成果を求めており、その認識を変えられない場合、この進め方では期待に応えられません。1件ずつ積み上げる方法は、半年から1年かけて効いてくるものです。

この場合は、進め方を変えるのではなく、期待の水準そのものを合わせる話を先にしてください。調査では85.5%の企業がDX人材の不足を挙げています。これは自社の努力不足ではなく、全体の傾向です。この事実を示したうえで、何ができて何ができないかを合意する必要があります。

外部の支援を入れる判断

すべてを自分でやろうとしないでください。兼任の時間で足りない部分は、外に出す判断も選択肢です。

出しやすいのは、手を動かす部分です。スプレッドシートの処理を書く、フォームを作る、データを整える。こうした作業は、要件さえ決まっていれば外に出せます。

逆に、出しにくいのは現場の合意を取る部分です。誰が何に困っているか、どこまでなら受け入れられるか。これは社内の人間にしか分かりません。ここを外部に任せると、動くけれど使われないものができます。

つまり、外に出すなら作る部分、自分に残すのは決める部分です。この分け方をしておくと、限られた時間を使うべき場所がはっきりします。

効果の測り方

数字 測り方 いつ見るか
実際に使えた時間 カレンダーの記録を合計する 毎月
完了した件数 終わって運用に乗った件数 四半期ごと
順番待ちの件数 一覧に溜まっている依頼の数 毎月

2つ目は、進行中の件数ではなく完了した件数で見てください。兼任の担当者は、進行中の件数が多いほど成果が出ているように見えますが、実際は逆です。終わっていないものは、まだ誰の時間も減らしていません。

3つ目が増え続けるなら、それは体制を見直す時期です。待ち行列が長くなり続ける状態は、処理の速さが依頼の量に追いついていないことを示しています。担当者の努力では解決しません。

まとめ

DXを推進する人材の不足は、調査で85.5%の企業が挙げている水準です。兼任は例外ではなく前提として扱ってください。

そのうえで、最初にやるのは計画ではなく、自分が実際に使えた時間を2週間測ることです。希望ではなく実績で。その時間から逆算して、2部門に30分ずつ話を聞き、着手する案件を1件だけ選びます。選ぶ基準は、元データが電子である、1部門で完結する、既存システムの改修が不要、手順が決まっている、の4つすべてに当てはまることです。

依頼は断らず、順番待ちの一覧に入れて着手時期を伝える。上司とは、断る基準と優先順位を変える権限を先に合意しておく。3か月の計画では1か月は時間が取れないものとして見積もる。そして、同時に2件を進めず、1件終わらせてから次に進む。終わった実績が、次の協力を得るいちばん確実な材料になります。

よくある質問

使える時間が月5時間しかありません。何ができますか

月5時間なら、3か月で15時間です。この範囲で終わるのは、既存のスプレッドシートに集計の式を入れる、フォームで入力を受ける形に変える、といった規模になります。小さく見えますが、それが確実に終わるなら意味があります。終わらない大きさのものに着手するより、はるかに前に進みます。

2部門を選ぶとき、協力が得やすい部門をどう見分けますか

すでに自主的に工夫している部門を探してください。独自にスプレッドシートを作っている、手順書を整備している、といった動きがある部門です。そこには改善したいという意思が既にあります。逆に、困っているという声だけが大きく、自分では何もしていない部門は、最初の1件には向きません。

順番待ちの一覧を公開すると、催促されませんか

催促は来ますが、非公開のときより減ります。非公開だと、依頼した側は自分の案件がどうなっているか分からず、確認のために連絡してきます。順番と着手時期が見えていれば、その連絡が不要になります。更新を月1回にしておけば、一覧の維持にも時間はかかりません。

1件目が失敗したら、どうすればよいですか

失敗の内容を分けて見てください。時間が足りなくて終わらなかったのか、作ったが使われなかったのか。前者なら案件の大きさの見積もりが甘かったので、次はもっと小さくします。後者なら、話を聞いた相手が「減った時間で何をするか」に答えられていなかった可能性があります。

経営層から中期計画の提出を求められています

3か月の計画を3つ並べる形で出してください。1年先まで具体的に書こうとすると、前提が変わって書き直しになります。最初の3か月は詳細に、その先は方向だけ。そして、次の3か月の内容は前の3か月の結果を見て決める、と明記してください。

専任になるべきタイミングはありますか

順番待ちの件数が増え続けているとき、そして完了した案件が3件を超えて効果が数字で示せるときです。この2つが揃うと、体制の話がしやすくなります。逆に、完了実績がない状態で専任を求めても、根拠を示せません。

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