
「AIが分析した銘柄を教えます」「AI診断であなたに合った投資先が分かります」。こうした言葉を見たことがあるかもしれません。この記事は、金融庁が「AI診断」を投資詐欺の手口として挙げている事実を示したうえで、AIに任せてよいことと、絶対にさせてはいけないことを分けたものです。
先に結論を3つ書いておきます。1つ目。「AI診断」は、金融庁が公表している投資詐欺の事例に含まれています。AIという言葉が、誘い文句として使われているということです。2つ目。ChatGPTなどのAIに、投資の判断をさせてはいけません。知識の期限、間違い、そして責任の所在という3つの理由があります。3つ目。それでも任せてよいことはあります。言葉の言い換えと、質問リストを作ることまでです。
この記事は、金融庁のウェブサイトで確認した注意喚起にもとづいています。特定の金融商品をすすめるものでも、投資の判断を助言するものでもありません。
金融庁が「AI診断」を詐欺の手口に挙げている
まず、事実から入ります。ここを知らないまま「AIで投資」と検索すると、危ないところに入りかねません。
公表されている事例
金融庁は「それ詐欺です!SNS上の投資勧誘にご注意ください!」というページで、SNS上の投資詐欺が疑われる事例を公表しています。そこに並ぶ事例の1つが、「AI診断を謳い文句に誘導され、投資への勧誘が行われる事例」です。
特徴として書かれているのは、「AI診断を謳い文句にウェブサイトへ誘い込み、分析レポートを配信すると偽ってSNSへ誘導し、投資話を持ち掛ける」という流れです。AIという言葉が、信用させるための材料として使われている、ということになります。
「AIだから正確そう」が狙われている
なぜAIが誘い文句になるのか。AIという言葉には、人間の主観が入らない、計算で導かれた、という印象があるからです。「人がすすめてくる」より「AIが分析した」のほうが、疑いにくい。そこを突かれています。
この記事の媒体では毎回書いていることですが、AIは自信満々に間違えます。OpenAIの公式ヘルプにも「自信は信頼性ではありません」と明記されています。詐欺でなくても、AIの分析が正しいという前提が、そもそも成り立ちません。AIの間違いについては別の記事に詳しく書いています。
金融庁の但し書きも書いておく
公平を期すために、同じページに書かれている注記も紹介します。「以下に該当するもの全てが投資詐欺であることを示すものではありません。また、全ての投資詐欺の手法を網羅するものでもありません」。
つまり、AIという言葉が出てきたら全部詐欺、という話ではありません。そして逆に、ここに載っていない手口もある、ということです。パターンを覚えるより、確かめる手順を持つほうが確実です。その手順は後半に書きます。
誘い文句のパターン
金融庁のページには、AI診断以外にも事例が並んでいます。知っておくと、入口で気づけます。
チャットに誘導される
公表されている事例の1つは、「動画投稿サイトの広告等からSNSのクローズドチャットへ誘導され、投資への勧誘が行われる」というものです。特徴として、次のような点が挙げられています。
投資関連の投稿をフォローするとDMが届き、最終的にクローズドチャットへ誘導される。誘導された先のアカウント名に「◯◯証券」「◯◯運用会社」「◯◯投資クラブ」といった名称や、著名人の名称や画像が使われている。「講師」や「先生」「アシスタント」が登場し、投資の指南をする。グループチャット内にいわゆるサクラがおり、指南に従えば利益が上がるかのようなメッセージが投稿される。
最初は儲かる
もう1つ、押さえておきたい特徴があります。金融庁のページにはこう書かれています。「情報交換や勉強会などから始まり、その後、虚偽の成功談をもとに投資話を持ち掛ける。架空の口座で取引させ、しばらくは利益が出て出金もできるかのように装いながら、追加で高額な入金をさせる」。
ここが一番こわいところです。最初は本当に出金できるので、信じてしまいます。そして金額を大きくしたところで、出金できなくなる。「試しに少額から」が通用しない構造になっています。
業者を騙るパターン
ほかにも事例が挙げられています。国内に登録のない海外FX業者をSNS上で紹介している事例。既存の金融商品取引業者の名称やそれらしい名称を使い、登録番号を詐称する事例。既存の業者に似せた偽のウェブサイトへ誘導してくる事例。そして、高速取引行為者(HFT業者)は投資勧誘を行うことができないにもかかわらず、それを騙る事例です。
名前と登録番号は偽装できます。だから、示された名前を見るのではなく、金融庁側のリストで確かめる必要があります。手順は後半に書きます。
| 入口 | 特徴 | 対応 |
|---|---|---|
| AI診断の広告 | 分析レポートを配信と称する | 開かない |
| クローズドチャット | 講師・サクラがいる | 入らない |
| 著名人の名前や画像 | なりすまし | 信じない |
| 登録番号の提示 | 詐称されうる | 金融庁側で確認 |
AIに投資判断をさせてはいけない3つの理由
ここからは、詐欺ではなく、手元のChatGPTなどに投資を相談する話です。結論から言うと、判断はさせないでください。理由は3つあります。
1. 知識に期限がある
OpenAIの公式ヘルプには、モデルの制限として「知識の期限」が挙げられています。特定の時点までのデータで訓練されており、検索ツールを使わない限り、それ以降の出来事は回答に反映されません。
投資の判断に必要なのは、今日の情報です。相場も、制度も、企業の状況も動きます。古い前提で組み立てられた説明は、それらしく見えても、判断材料になりません。検索が使われていたとしても、必要な情報が取得できたとは限りません。
2. 自信満々に間違える
公式ヘルプは、ハルシネーションの具体例として「捏造された引用、研究、出典、または存在しない情報源への参照」を挙げています。存在しない調査や、実在しない統計が、それらしい形で出てくることがあるということです。
数字が入っていると、文章全体が正確に見えます。「過去10年の平均利回りは◯%」と書かれていたら、つい信じます。しかし、その数字の出どころを確かめない限り、根拠はありません。お金が動く判断で、確かめていない数字を使わないでください。
3. 責任を取る人がいない
これが一番大きい理由です。AIの答えで損をしても、誰も責任を負いません。相手は事業者ではなく、あなたに対して助言をする立場にもありません。
投資について助言を業として行うには、日本では登録が必要です。金融庁のページにも、「日本の居住者を相手に、株取引やFX取引、暗号資産取引などの金融商品取引業・暗号資産交換業を行う者は、日本の法令に基づき、登録を受ける必要があります」と書かれています。手元のAIは、その枠組みの外にいます。枠の外から出てきた「判断」に、乗らないでください。
では、何なら任せてよいか
禁止だけ並べても役に立たないので、使える範囲を書きます。この媒体で毎回言っている線引きと同じです。整理はAI、判断は人。
分からない言葉を言い換えてもらう
これは安全です。制度や商品の名前ではなく、一般的な用語の意味を聞くだけなら、判断が入りません。
「『信託報酬』という言葉の一般的な意味を、金融の知識がない人に向けて3行以内で説明してください。特定の商品名や会社名は出さないでください。おすすめや評価は書かないでください。」
「特定の商品名や会社名は出さないでください」「おすすめや評価は書かないでください」。この2つを必ず入れてください。入れないと、説明のついでに商品をすすめてくることがあります。意味を知りたいだけで、選んでほしいわけではありません。
窓口に持っていく質問リストを作る
もう1つの安全な使い方が、これです。相談に行く前に、何を聞けばいいかを整理してもらいます。
「投資信託について金融機関の窓口で相談するときに、確認しておくべき質問を10個作ってください。専門用語は使わず、そのまま口に出せる言い方にしてください。どの商品がよいかの提案や、金額の目安は書かないでください。質問だけを並べてください。」
「質問だけを並べてください」が線引きです。質問には判断が含まれないので、間違った結論に引きずられません。そして、答えは窓口の人からもらう。AIは、相談の準備をするための道具として使ってください。
自分で書いたメモを整理してもらう
3つ目は、自分がすでに持っている情報を整理してもらう使い方です。「入っている制度を表にする」「加入時期を並べ替える」といった作業なら、AIが新しい情報を持ち込みません。
ただし、金額や口座番号は入れないでください。割合や、項目の名前だけで整理は成立します。家計の整理を割合だけで行う手順は、別の記事にまとめています。保険の整理も同じ考え方で、こちらの記事に書いています。
整理してもらったあとの使い道も決めておいてください。表になったものを見て、自分が何を知らないかを見つける。そして、その部分を質問リストにして窓口へ持っていく。整理は、相談の入口を作る作業です。整理した結果そのものが答えになるわけではありません。ここを取り違えると、表を見て自分で決めてしまいます。
相手が本物か、自分で確かめる手順
詐欺に戻ります。名前も登録番号も偽装できる以上、相手が示すものを見ても確かめたことになりません。金融庁側から確認します。
登録業者の一覧で確認する
金融庁は、登録を受けている業者の一覧を公表しています。ページには「金融商品取引業の登録を受けている業者一覧」「暗号資産交換業の登録を受けている業者一覧」へのリンクがあります。取引を行う前に、ここで確認してください。
さらに、「金融庁から免許・許可・登録等を受けている金融事業者検索(金融事業者一括検索機能)」という仕組みも案内されています。名称や電話番号を入れて検索できる、と書かれています。相手から聞いた名前や番号を、そのまま入れて調べてください。
警告リストも見る
もう1つ、確認すべきリストがあります。金融庁は、無登録で金融商品取引業や暗号資産交換業を行っている者に警告書を出した場合、その旨を公表しています。「無登録で金融商品取引業を行う者の名称等」「無登録で暗号資産交換業を行う者の名称等」というリストです。
登録業者の一覧に載っていないことに加えて、警告リストに載っていないかも見ておくと、二重に確認できます。どちらにも該当しない場合でも「安全」ではなく「確認できない」だけだと考えてください。
無登録だと、何が起きるか
金融庁のページには、無登録業者との取引で実際に寄せられている声が書かれています。「預けた資金を出金しようとしたときに、これまで出金ができていたにもかかわらず、出金の拒否や法外な出金手数料を請求されたりするほか、これまで連絡が取れていたのに急に連絡が取れなくなる」。
そして、登録を受けていないということは、「投資者等の保護のための態勢が確保されているか当局では確認できず、登録を受けている業者と同等の態勢が整っていない可能性が高い」と説明されています。金融庁の結論は明快で、無登録業者とは取引を行わない、です。
入力してはいけないもの、相談先
最後に、この記事の範囲で入れてはいけないものと、困ったときの行き先を整理します。
入れてはいけないもの
口座番号、証券会社の口座情報、残高、保有している商品と数量。年収と勤務先。家族構成と年齢の詳細。そして、相手から送られてきたリンクやファイル。AIに「このサイトは安全ですか」と聞いて確かめようとするのは、やめてください。AIはそのサイトの実態を知りませんし、安全だと答えたとしても根拠がありません。
資産の話は、まとめて見ると生活が丸見えになります。この媒体で繰り返し書いているとおり、断片は無害でも、集まると別のものになります。相談したい場合は、金額を出さず、割合と項目名だけで整理してください。
困ったときの行き先
金融庁のページには、相談先が案内されています。SNS上の投資詐欺が疑われる広告等に関する情報受付窓口。金融庁金融サービス利用者相談室。証券取引等監視委員会情報提供窓口。そして、被害に遭った、あるいは遭いそうな場合は最寄りの警察署に相談するよう書かれています。
「自分が悪かったから相談できない」と思う必要はありません。金融庁が事例を公表しているということは、それだけ多くの人が同じ手口に遭っているということです。早く相談するほど、選べる手が残ります。
家族に話しておく
もう1つ、現実的な対策を書いておきます。投資の話が来たら、実行する前に家族の誰かに話す。これを家のルールにしてください。詐欺の手口は、閉じたチャットの中で、急かして決めさせる構造になっています。外の人に一度話すだけで、その構造が崩れます。
親世代と離れて暮らしている場合は、この記事の内容を共有しておいてください。特に「AI診断」という言葉は新しいので、その言葉が出たら一度立ち止まるということだけでも伝わっていれば、十分に役に立ちます。
まとめ
金融庁は、SNS上の投資詐欺が疑われる事例として「AI診断を謳い文句に誘導され、投資への勧誘が行われる事例」を公表しています。AIという言葉が、信用させるための材料として使われている。まず、この事実を知っておいてください。
そのうえで、手元のAIに投資判断をさせてはいけない理由が3つあります。知識に期限があること。自信満々に間違えること。そして、責任を取る人がいないこと。投資について助言を業として行うには登録が必要ですが、手元のAIはその枠組みの外にいます。
任せてよいのは3つだけです。分からない言葉を言い換えてもらう。窓口に持っていく質問リストを作ってもらう。自分が持っているメモを整理してもらう。どれも「おすすめや評価は書かないでください」を添えてください。
そして、相手が本物かは金融庁側のリストで確かめてください。登録業者の一覧、無登録業者の警告リスト、金融事業者の一括検索。相手が示す名前と登録番号は偽装できます。最後に、投資の話が来たら実行する前に家族の誰かに話す。閉じたチャットの外に一度出すだけで、手口の前提が崩れます。
最後に、相手の話を確かめる順番をもう一度だけ。業者名と、登録の有無。この2つを、相手に聞かずに自分で調べてください。相手に聞くと、相手の用意した答えが返ってきます。そして、急がせてくる話はすべて断ってください。今日だけ、あと何人、いまなら、という言葉が出たら、それだけで理由になります。本物の金融商品は、翌日に申し込んでも条件が変わりません。
AIに判断させてはいけない理由は、仕組みの側にもあります。公式は避けるべき使い方として「捏造された引用、研究、出典、または存在しない情報源への参照」を挙げています。存在しない出典が並ぶことがある、ということです。投資の話は、根拠の出どころが結論を決めます。その出どころが作られてしまうなら、結論は確かめようがありません。だから、相場や銘柄の判断は任せない。任せてよいのは、この記事で挙げた3つ、つまり言葉の意味を調べる、届いた文面を読み解く、聞くことを整理する、までです。お金を動かす判断は、人が行ってください。
最後に、相談先について。おかしいと思った時点で、身近な人に一度話してください。詐欺の手口は、相手を孤立させることで成り立ちます。家族や友人に話すだけで、冷静になれることが多いです。そして、公的な相談窓口があります。金融サービス利用者相談室と、消費生活センター。どちらも無料で、申し込む前の段階でも相談できます。「まだ契約していないから」と遠慮する必要はありません。契約前がいちばん止めやすい段階です。
そして、入力してはいけないものをもう一度だけ。口座番号、カード番号、マイナンバー、そして資産の総額。この4つは、どんな相手にも、どんな道具にも入れないでください。AIに相談するときも同じです。言葉の意味を調べるだけなら、これらは1つも必要ありません。必要だと言ってくる相手が、そもそもおかしいと考えてください。
よくある質問(FAQ)
「AI診断」と書いてあったら、全部詐欺ですか?
そうとは限りません。金融庁のページにも「以下に該当するもの全てが投資詐欺であることを示すものではありません。また、全ての投資詐欺の手法を網羅するものでもありません」という注記があります。ただ、AI診断を謳い文句にウェブサイトへ誘い込み、分析レポートを配信すると偽ってSNSへ誘導する事例が実際に公表されている、という事実は知っておいてください。パターンを覚えるより、相手が登録業者かを自分で確かめる手順を持つほうが確実です。
ChatGPTに「この銘柄は買いですか」と聞いてもいいですか?
やめてください。理由は3つあります。1つ、知識に期限があり、検索ツールを使わない限り最新の情報が反映されません。2つ、存在しない統計や出典が、それらしい形で出てくることがあります。3つ、損をしても誰も責任を負いません。投資について助言を業として行うには登録が必要ですが、手元のAIはその枠組みの外にいます。
少額から試すなら大丈夫ではないですか?
金融庁が公表している事例には、「架空の口座で取引させ、しばらくは利益が出て出金もできるかのように装いながら、追加で高額な入金をさせる」という特徴が挙げられています。最初は本当に出金できるため、信じてしまう構造です。「試しに少額から」が判断材料にならない、ということです。
相手が登録番号を見せてきました。信用していいですか?
相手が示す番号ではなく、金融庁側のリストで確認してください。公表されている事例には「金融商品取引業者の登録番号を詐称している」「既存の金融商品取引業者に似せた偽物のウェブサイトへ誘導してくる」という特徴が挙げられています。金融庁は登録業者の一覧のほか、名称や電話番号で調べられる一括検索機能も案内しています。あわせて、無登録業者の警告リストも確認してください。
AIに投資のことは何も聞けないのですか?
判断以外なら使えます。用語の意味を一般的な範囲で説明してもらう、金融機関の窓口で聞く質問リストを作ってもらう、自分が持っているメモを整理してもらう。この3つです。いずれの場合も「特定の商品名や会社名は出さないでください」「おすすめや評価は書かないでください」を添えてください。口座番号、残高、保有商品、年収は入れないでください。
もう入金してしまいました。どうすればいいですか?
すぐに相談してください。金融庁は、SNS上の投資詐欺が疑われる広告等に関する情報受付窓口、金融庁金融サービス利用者相談室、証券取引等監視委員会情報提供窓口を案内しており、あわせて最寄りの警察署への相談も呼びかけています。「自分が悪かったから」と抱え込まないでください。金融庁が事例を公表しているということは、同じ手口に多くの人が遭っているということです。早いほど、選べる手が残ります。
整理はAI、判断は人。お金はとくに
この記事は特定の金融商品をすすめるものでも、投資の判断を助言するものでもありません。実際の判断は、登録を受けた金融機関の窓口や専門家にご相談ください。手口の詳細と相談窓口は、金融庁のページで確認できます。