
「ライバー事務所 デメリット」で検索すると、メリット・デメリットを並べた記事が出てきます。手数料がかかる、縛りがある、質にばらつきがある。そして最後に、うちは違います、という案内が置かれています。
書いてあること自体は事実です。ただ、その記事を書いているのが事務所自身である以上、自分に当てはまるデメリットは書けません。
この記事では、事務所側が構造上書きにくい部分を扱います。還元率が100%でも残る利害のずれ、そして2025年12月に公正取引委員会が実際に注意した契約の中身。どちらも、入る前に知っておくと判断が変わります。
デメリットの記事を書いているのは、たいてい事務所
まず、情報源の話から始めます。ここを押さえておくと、読み方が変わります。
運営元を見ると、ほとんどが事務所
検索結果に並ぶ「メリット・デメリット」の記事を開いて、運営会社を確認してみてください。多くが、ライバー事務所を運営している会社です。
自社にとって不利な話を書かないのは、当然のことです。責める話ではありません。ただ、読む側からすると、デメリットの一覧が完全ではない可能性があります。
とくに、業界全体に共通する構造の話は出てきません。特定の事務所の問題なら「うちは違います」と書けますが、構造の話は自分にも当てはまるからです。
確認の仕方は簡単です。記事の最下部か、サイトの運営者情報を見てください。会社名が出ていて、その会社がライバー事務所を運営しているなら、その記事は自社の宣伝を兼ねています。悪いことではありませんが、読み方は変わります。
書かれるデメリットは、だいたい同じ3つ
実際に読み比べると、挙げられるデメリットはほぼ共通しています。手数料がかかること、アプリや活動に縛りがあること、事務所によって質にばらつきがあること。
この3つは本当です。ただ、どれも「良い事務所を選べば解決する」形で書かれています。だから結論が、自社への相談に接続できます。
逆に言えば、選び方では解決しないデメリットは、書かれていません。次の章が、そこです。
それと、この3つの書かれ方にも特徴があります。手数料は「うちは0%です」、縛りは「うちは専属ではありません」、質のばらつきは「うちは実績があります」。全部が自社の紹介につながる形で並んでいます。
並びが同じなのは、テンプレートがあるからだと思います。だから、どの記事を読んでも同じ結論にたどり着きます。
入る前提の記事と、入るかどうかの記事は違う
もうひとつ、記事の前提を確認してください。「どこがいいか」を扱う記事は、入ることが決まっている人向けです。「入るべきか」を扱う記事は、その手前です。
この2つを混ぜて読むと、判断が早まります。まだ決めていない段階なら、比較の前に構造を見てください。比較軸そのものは事務所の比較軸の記事にまとめています。
なお、そもそも入らない選択については別の記事で扱っています。この記事は、入る場合に何を引き受けることになるかの話です。
還元率100%でも消えない、構造上の話
ここが本題です。手数料の有無とは別のところに、利害のずれがあります。
事務所の収益は、どこから来ているか
手数料を取らない事務所があります。還元率100%と案内されているものです。では、その事務所は何で成り立っているのか。
説明としてよく挙げられるのが、配信アプリの運営会社から事務所へ支払われる報酬です。所属ライバーの活動実績に応じて、事務所側に入る仕組みがあるとされています。
この場合、事務所の収入は、所属ライバー全体の配信時間や課金額と連動します。つまり、ライバーの手取りから引いていなくても、ライバーにたくさん配信してもらうほど事務所の収入が増える、という関係は残ります。
ライバーが増やしたいものと、ずれる
一方、ライバー側が増やしたいのは、1時間あたりの成果です。同じ収入なら、配信時間は少ないほうがいい。生活があるからです。
ここがずれます。事務所にとっては、1人あたりの効率より、全体の合計が増えるほうが望ましい。だから、配信時間を増やす提案や、イベント参加の案内が来やすくなります。
繰り返しますが、これは悪い事務所の話ではありません。収益の出どころから自然に生まれるもので、良い事務所を選んでも消えません。知らずに入ると、提案を断る理由を自分の中に持てなくなります。
担当1人あたりの人数という、もうひとつの構造
サポートの手厚さも、構造で決まる部分があります。担当者が何人のライバーを見ているか。ここは規模と人員で決まるので、意欲とは関係ありません。
100人を数人で見ている事務所なら、1人あたりに割ける時間は限られます。返信が遅いのは担当者が怠けているからではなく、単純に人数の問題です。
だから、入る前に聞いておいてください。「担当は何人のライバーを見ていますか」。この質問に具体的な数字で答えられるかどうかも、ひとつの情報になります。
| 見えるもの | 実は構造で決まる |
|---|---|
| 時間を増やす提案 | 収益が合計に連動する |
| 返信の速さ | 担当1人あたりの人数 |
| イベントの案内 | アプリ側の評価との関係 |
| 休むときの反応 | 実績が止まること |
実際に行政が注意した内容
ここからは、推測ではない話です。実際に公的機関が問題を指摘した事例があります。
2025年12月、公正取引委員会が4社に注意
公正取引委員会は、2025年12月9日に「ライバー事務所を運営する事業者に対する注意について」を公表しました(確認日2026年9月22日)。
公表によれば、4社が所属ライバーとのマネジメント契約において、合理的な理由が認められないにもかかわらず、契約終了後の一定期間について次の制限を設けていたとされています。
「ライブ配信活動を行うことの禁止」「他のライバー事務所との間でマネジメント契約を締結することの禁止」「自社と同種の事業を営むことの禁止」。つまり、辞めたあとも配信できない、という内容の契約です。
どの規定に触れるおそれがあるとされたか
公表では、これらが「独占禁止法第19条(不公正な取引方法第12項(拘束条件付取引)又は第14項(競争者に対する取引妨害))の規定の違反につながるおそれ」がある、とされています。
そのうえで、公正取引委員会は未然防止の観点から4社に注意を行い、注意後、4社から「今後、前記の規定の内容を見直す予定である」との申出があった、と記載されています。
この事例が重要なのは、契約書に書いてあっても問題になりうる条項がある、と公的機関が示した点です。契約書に書いてあるから従うしかない、とは限りません。
| 契約に書かれていた制限 | 期間 |
|---|---|
| ライブ配信活動の禁止 | 契約終了後の一定期間 |
| 他事務所との契約の禁止 | 契約終了後の一定期間 |
| 同種の事業を営むことの禁止 | 契約終了後の一定期間 |
この話をどう使うか
使い方は2つあります。ひとつは、契約書を読むときのチェック項目として。契約終了後を縛る条項があるかを、必ず確認してください。
もうひとつは、すでに入っていて困っている場合の根拠として。似た条項があるなら、それが当然に有効とは限らない、という前提で相談できます。
ただし、個別の契約が違法かどうかは、その内容と事情によります。自分で判断せず、窓口に持ち込んでください。相談先は6章に挙げます。
契約書のどこを見れば分かるか
構造と事例が分かったところで、実物の見方に入ります。
契約終了後を縛る条項
まず、契約が終わったあとについて何か書かれていないかを探してください。見出しは「競業避止」「専属性」「契約終了後の義務」などになっていることが多いです。
あれば、期間と範囲を確認します。何か月間なのか、何が禁止されるのか。期間が長いほど、範囲が広いほど、合理的な理由の説明が必要になります。
そして、その理由を聞いてください。「この条項は、どういう理由で必要なんですか」。答えが返ってこない、あるいは「みんな同じです」で済まされる場合は、記録に残しておいてください。
解除と予告の条項
次に、どうやって終わるかです。自分から辞めるときの手順、事務所から切られるときの扱い、どちらも見てください。
ここでは、フリーランス法の第16条が参考になります。6か月以上の期間で行う業務委託について、発注事業者が契約の解除または不更新をしようとする場合、例外事由に該当する場合を除いて、解除日または契約満了日から30日前までに予告しなければならない、とされています(確認日2026年9月22日)。
公式パンフレットには、「一定の事由がある場合に事前予告なく解除できる」と定めていても、例外事由に該当しない限り直ちに予告が不要とはならないと明記されています。契約書の書き方だけで決まるわけではない、ということです。
違約金と、費用の負担
3つ目が、お金の条項です。違約金があるなら、金額より先に発生条件を見てください。どういう行為をしたときに、いくら発生するのか。
とくに、自分から辞めるときに発生する条項があるかどうか。ある場合、契約期間の途中なのか満了なのかで変わることもあります。
あわせて、費用の負担も確認してください。レッスン代、機材代、イベントの参加費。入るときに無料でも、あとから請求される項目がないかを見ておく必要があります。フリーランス法の第5条には、購入・利用強制の禁止や、不当な経済上の利益の提供要請の禁止が挙げられています。
それでも事務所が合う人
ここまで構造の話をしてきましたが、事務所が合わないという結論ではありません。
時間を差し出せる状態にある人
事務所の仕組みは、配信時間を増やせる人と相性が良いです。イベントに参加でき、まとまった時間を取れる状態なら、提案に乗ることで実際に結果が出やすくなります。
逆に、仕事や家事のあとに週2〜3日しか開けられない場合、同じ提案が負担にしかなりません。仕組みが悪いのではなく、前提が合っていないだけです。
だから、入る前に自分の使える時間を数字にしておいてください。いちばん調子の悪い月に、何日、何時間開けられるか。これが提案を受けるかどうかの基準になります。
判断を外注したい人
もうひとつ合うのが、どのイベントに出るか、どう伸ばすかを自分で考えたくない人です。情報を集める時間が取れない場合、外注する価値があります。
この場合、期待するのは「収入が増えること」ではなく「考える時間が減ること」です。期待の置き方を間違えなければ、満足度は高くなります。
ただし、外注しても配信そのものは自分でやります。ここを代わってもらうことはできません。事務所に入れば楽になる、という期待は、範囲を限定してください。
| 合いやすい人 | 合いにくい人 |
|---|---|
| 時間をまとめて取れる | 週2〜3日しか開けない |
| 判断を外注したい | 自分で決めたい |
| イベントに出たい | 静かに続けたい |
| 相談相手が欲しい | 連絡が負担になる |
相談相手が欲しい人
3つ目が、ひとりで続けるのがつらい場合です。配信は基本的に孤独な作業なので、話せる相手がいることに価値を感じる人はいます。
この場合も、期待の置き方が大事です。担当者は友人ではなく、仕事として接しています。関係が事務的でも、それは冷たいのではなく適切です。
そして、相談相手だけが目的なら、事務所以外の選択肢もあります。同じ時期に始めた配信者どうしでつながる、という方法もあります。
入ったあとに気づいたときの動き方
最後に、すでに入っていて違和感がある場合の話です。
まず、記録を残す
動く前に、事実を集めてください。契約書または提示された条件、やり取りの記録、そして実際に起きたことの時系列です。
時系列は、日付と、誰が何を言ったかだけで足ります。口頭のやり取りは、あとから再現できません。これから先のやり取りは、記録の残る手段に移してください。
記録を集めること自体は、相手を疑う行為ではありません。認識のずれを減らすための作業です。
集めるときは、感情のメモと事実のメモを分けてください。つらかった、という記録も自分には大事ですが、相談に持っていくのは日付と発言のほうです。混ざっていると、話すときに整理が必要になります。
そして、いまある契約書は必ず手元にコピーを置いてください。事務所のシステム内でしか見られない形になっている場合は、画面を保存しておいてください。辞めたあとに見られなくなることがあります。
相談先を知っておく
相談できる場所は複数あります。取引上のトラブルなら、フリーランス・トラブル110番。フリーランスが弁護士にワンストップで相談できる窓口として案内されていて、和解あっせんも行っているとされています。
法違反かどうか分からない段階でも相談できる、と公式資料に書かれています。違反かどうかを自分で判定してから相談する必要はありません。
行政への申出もできます。公正取引委員会、中小企業庁、厚生労働省。そして、申出をしたことを理由に契約解除などの不利益な取扱いをしてはならない、とされています。この定めがあることは、知っておく価値があります。
| 状況 | 相談先 | 費用 |
|---|---|---|
| 条項の読み方 | トラブル110番 | 無料 |
| 法違反の疑い | 公取委など3機関 | 無料 |
| 係争になりそう | 弁護士 | 有料 |
辞めると決める前に、条件を確認する
辞めると決めた場合も、手順を踏んでください。契約書の解除条項、予告の期間、違約金の有無。この3つを確認してから動きます。
そして、伝えるのは記録の残る方法で。口頭で伝えたつもりが伝わっていなかった、という話は実際に起きます。具体的な手順は辞めたいときの記事にまとめています。
最後にひとつ。合わなかったとしても、それは失敗ではありません。契約の形が自分に合っていなかっただけです。次に選ぶときの基準が1つ増えた、と考えてください。
まとめ
デメリットの記事を書いているのは、多くが事務所自身です。だから、構造の話は出てきません。
- 書かれるデメリットは、だいたい同じ3つ。手数料・縛り・質のばらつき。どれも「良い事務所を選べば解決する」形で書かれている
- 還元率100%でも、利害のずれは残る。事務所の収益がアプリからの報酬なら、所属者全体の配信時間や課金額と連動する。手数料が0%でもこの構造は変わらない
- ライバーが増やしたいのは1時間あたりの成果。事務所が増やしたいのは合計。だから配信時間を増やす提案やイベントの案内が来やすい
- サポートの厚さも構造で決まる。担当1人あたりの人数は規模と人員の問題で、意欲とは関係ない。入る前に人数を聞く
- 2025年12月9日、公正取引委員会が4社に注意した。合理的な理由が認められないにもかかわらず、契約終了後の一定期間について「ライブ配信活動の禁止」「他事務所との契約の禁止」「同種事業の禁止」を設けていた
- 独占禁止法第19条(不公正な取引方法第12項・第14項)の違反につながるおそれ、とされた。注意後、4社から規定を見直す予定との申出があった
- 契約書に書いてあっても、当然に有効とは限らない。契約終了後を縛る条項は、期間と範囲と理由を必ず確認する
- フリーランス法では、6か月以上の業務委託の解除は原則30日前までの予告が必要。「事前予告なく解除できる」と定めていても、例外事由に当たらない限り予告は不要にならない
- 事務所が合うのは、時間をまとめて取れる人と、判断を外注したい人。週2〜3日しか開けないなら、同じ提案が負担になる
- 違和感があったら、まず記録を残す。そのうえでフリーランス・トラブル110番へ。違反かどうかを自分で判定してから相談する必要はない
今日できるのは、契約書の「契約終了後」に関する条項を探して、期間と範囲を書き出すことだけで十分です。良い事務所を選ぶ前に、何が構造で決まっているかを知ってください。
よくある質問(FAQ)
還元率100%なら、デメリットはないのでは
手数料に関するデメリットはありません。ただ、事務所の収益がアプリからの報酬である場合、所属ライバー全体の配信時間や課金額と連動します。つまり、たくさん配信してもらうほど事務所の収入が増えるという関係は残ります。これは悪意の話ではなく、収益の出どころから来る構造です。知ったうえで入れば、提案を断る理由を自分の中に持てます。
契約書に「辞めたあと1年間は配信禁止」とあります
2025年12月9日に公正取引委員会が4社に注意した事例が、まさにこの種の条項についてでした。合理的な理由が認められないにもかかわらず契約終了後の活動を制限するものは、独占禁止法第19条の違反につながるおそれがある、とされています。ただし、個別の契約が違法かどうかは内容と事情によります。自分で判断せず、契約書を持ってフリーランス・トラブル110番などに相談してください。
入る前に聞いておくべきことは何ですか
4つあります。担当は何人のライバーを見ているか。契約終了後を縛る条項はあるか、あるなら期間と範囲と理由は何か。自分から辞めるときに違約金が発生するか。あとから請求される費用の項目はあるか。どれも記録の残る方法で聞いて、回答を保存しておいてください。口頭の回答は、あとから確認できません。
イベント参加を断ると、扱いが悪くなりませんか
断ったことで扱いが変わるかどうかは、事務所によります。ただ、断る基準を先に決めておくと、そのつど悩まずに済みます。いちばん調子の悪い月に何日・何時間開けられるかを数字にしておいて、それを超える提案は断る、という形です。断るときは理由を説明しすぎないほうがいいです。「その期間は時間が取れません」で足ります。
事務所に入らないほうがいいということですか
そうは言っていません。時間をまとめて取れる人、判断を外注したい人、相談相手が欲しい人には合います。言いたいのは、構造上のずれを知らずに入ると、提案を断る理由を自分の中に持てなくなる、ということです。知ったうえで入るなら、問題ありません。
もう入ってしまっていて、違和感があります
まず記録を集めてください。契約書、やり取りの記録、起きたことの時系列。そのうえで、フリーランス・トラブル110番に相談できます。法違反かどうか分からない段階でも相談できる、と公式資料に書かれています。行政機関への申出をしたことを理由に不利益な取扱いをしてはならない、という定めもあります。急いで辞める前に、まず条件を確認してください。
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