2008年、イーロン・マスクは2つの会社を同時に失いかけていました。SpaceXはロケットの打ち上げに3回連続で失敗し、Teslaは手元資金が900万ドルまで落ち込みます。決着がついたのは同年12月の2日間でした。12月23日にNASAがSpaceXと16億ドルの契約を結び、その翌日のクリスマスイブ、午後6時にTeslaの資金調達が成立します。マスク本人の言葉を借りれば「破産まで3日」という地点でした。
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2008年、2つの会社が同時に終わりかけていた
マスク本人が、2008年を「人生で最悪の年」と呼んでいます(Space.com)。
誇張ではありません。この年、彼が抱えていた2社は、どちらも数か月以内に資金が尽きる状態にありました。
片方は宇宙へロケットを飛ばそうとしていた会社。もう片方は電気自動車を売ろうとしていた会社。事業内容はまるで違いますが、共通点が1つありました。どちらもまだ、まともに稼げていなかったということです。
そして2008年9月、世界の金融市場が凍りつきます。資金を出してくれる相手が、市場から消えました。
SpaceXは何回失敗したのか
答えは3回です。しかも、3回続けてでした。
SpaceXが開発していたFalcon 1は、民間企業が自力で作った液体燃料ロケットです。前例がありません。だからこそ、失敗の仕方も毎回違いました。
Falcon 1の打ち上げ記録。失敗の原因は毎回違っていた。4回目が落ちていれば、そこで終わっていた。
1回目は2006年3月24日。マーシャル諸島から離陸した直後に機体が回転をはじめ、26秒後に制御を失い、41秒後には発射台からわずか76メートルの浅瀬に落ちました(Falcon 1 – Wikipedia)。
2回目は2007年3月21日。今度は打ち上げ自体には成功します。しかし1段目と2段目を切り離す瞬間、上部の構造物が2段目のエンジンノズルに接触しました。
3回目は2008年8月3日。1段目の性能は良好でした。ところが切り離しの後、エンジンに残っていた燃料が気化してわずかな推力を生み、1段目が2段目に追いついて、もう一度ぶつかってしまいます。
3回とも、原因が違います。1つ潰すと、次の問題が出てくる。開発というのは、そういうものです。
4回目に、残っていたすべてを賭けた
3回目の失敗から、わずか8週間後でした。
2008年9月28日、Falcon 1の4回目の打ち上げが行われます。搭載されていたのは165キログラムのダミーの荷物でした。実際の衛星ではありません。それでも、軌道に到達しました。
民間が自力で開発した液体燃料ロケットが地球の周回軌道に乗ったのは、これが史上初です。
この時点での会社の状態を、マスク本人がこう説明しています。
「あのときは燃えかすで飛んでいるようなものだった。資金はほとんど残っていなかった。4回目の失敗は、完全にゲームオーバーを意味していた」
出典: The Saturday Evening Post ※原文は “We were running on fumes at that point. We had virtually no money… a fourth failure would have been absolutely game over.”
成功したから語れる話です。もし4回目も落ちていたら、SpaceXという会社は2008年に消えていました。
同じ年、Teslaも尽きていた
ここからが、あまり語られない部分です。
SpaceXが3回目の失敗をしていたころ、Teslaも別の場所で崩れかけていました。しかもこちらは、すでに商品を売ってしまっている状態でした。
2008年2月、最初の1台が納車される
2008年2月1日、量産型のTesla Roadsterの1号車が納車されます。受け取ったのはマスク本人でした。
問題は、その後です。顧客はすでに代金を払っていました。1台あたり最大で10万9,000ドル。前払いです。それなのに、会社には車を作り続ける資金がありませんでした。
2008年10月、1億ドルの調達が飛ぶ
2008年9月、リーマン・ショックが起こります。Teslaが進めていた1億ドルの資金調達ラウンドは、この信用収縮によって成立しませんでした。
10月、マスクは自らCEOに就任します。同時に、従業員の25パーセントを削減しました(The Register)。
この時点でマスクがTeslaに投じていた自己資金は、5,500万ドルを超えていました。PayPalを売って手にした資金です。
12月、手元に残っていたのは900万ドル
年末の時点で、Teslaの手元資金は900万ドルまで落ちていました。
この金額の意味を、具体的に考えてみます。すでに10万9,000ドルを払った顧客が何人もいて、その人たちに車を届けなければなりません。従業員の給与も毎月出ていきます。工場も動かさなければなりません。900万ドルというのは、そのすべてを賄うには足りない金額でした。
| 時期 | SpaceX | Tesla |
|---|---|---|
| 2008年 2月 | 2回目の失敗から11か月 | Roadster 1号車を納車 |
| 2008年 8月 | 3回目の失敗 | 資金が細りはじめる |
| 2008年 9月 | 4回目が成功(28日) | 金融危機で1億ドルの調達が失敗 |
| 2008年10月 | ─ | マスクがCEO就任。従業員の25%を削減 |
| 2008年12月 | NASAと16億ドルの契約(23日) | 手元資金900万ドル。24日18時に調達成立 |
マスクは最終的に、自分の手元に残っていた2,000万ドルをかき集めます。そのうえで、投資家に「自分と同額を出してほしい」と求めました。
12月23日と、その翌日に起きたこと
決着は、48時間のうちにつきました。
2008年12月23日と24日。2社の運命が、続けて決まった。
12月23日、NASAがSpaceXと契約を結びます。国際宇宙ステーションへ少なくとも20トンの物資を運ぶ、12回の飛行を含む契約でした。金額は16億ドルです。
4回目の打ち上げ成功から、3か月も経っていませんでした。
その翌日、12月24日。クリスマスイブの午後6時に、Teslaの資金調達がまとまります。転換社債でおよそ4,000万ドルでした。
マスクは後年、この瞬間をこう振り返っています。
「あの資金調達は2008年のクリスマスイブ、午後6時に完了した。可能な最後の日の、最後の1時間だった。投資家たちはその夜に街を出るところだったし、我々は破産まで3日という状態だった」
出典: Startup Archive ※原文は “That funding round completed 6pm on Christmas Eve in 2008. Last hour of last day possible, as investors were leaving town that night & we were 3 days away from bankruptcy.”
ここが「裏」の部分
この2つの出来事は、偶然に並んでいるわけではありません。12月23日のNASA契約が、翌日のTeslaの資金調達を後押ししたと見られています。
投資家から見れば、前日に16億ドルの契約を取った経営者と、何の実績もない経営者とでは、判断がまるで変わります。片方の会社での成功が、もう片方の会社を生かした形です。
では、自分はどうするか
2008年のマスクの動きから、実務に落とせることを3つ挙げます。
1. 失敗の原因を、毎回違うものとして扱う
Falcon 1の3回の失敗は、原因がすべて違いました。制御の喪失、段分離時の接触、切り離し後の再接触。同じ失敗を3回繰り返したわけではありません。
「3回失敗した」と一括りにすると、ただの連敗に見えます。しかし1回ごとに別の問題を潰していたのなら、それは前進です。
今日できること:うまくいかなかった試みを3つ書き出し、それぞれの原因を1行で書いてください。原因が全部違うなら、あなたは前に進んでいます。原因が同じなら、そこが本当の課題です。
2. 資金が尽きる日を、日付で把握しておく
マスクは「破産まで3日」という言い方をしています。何日残っているかを、日単位で把握していたということです。
手元資金が900万ドルという数字も、単体では意味を持ちません。毎月いくら出ていくかと突き合わせて、はじめて「あと何か月か」が分かります。
今日できること:毎月の固定支出を合計し、手元の残高を割ってください。出てきた数字が、あなたに残されている月数です。事業でも個人の家計でも同じです。この数字を知らないまま判断するのが、一番危険です。
3. 別の場所での成果が、こちらの交渉を助けることがある
TeslaはTeslaの実績だけで資金を得たのではありません。前日にSpaceXが取った契約が、投資家の判断材料になりました。
複数の取り組みを持っていると、片方の成果がもう片方の信用になります。逆に言えば、1つしか持っていない場合、その1つが揺らいだときに支えがありません。
今日できること:自分が外に見せられる実績を書き出してください。本業以外のもの、たとえば副業の実績、発信の数字、資格、社外での役割も含めます。それが交渉の場で使える材料になります。
まとめ
2008年、イーロン・マスクは2つの会社を同時に失いかけていました。SpaceXは3回続けてロケットを落とし、Teslaの手元資金は900万ドルまで減少。どちらも、あと数か月で尽きる状態です。
助かったのは、12月の2日間です。23日にNASAが16億ドルの契約を出し、24日の午後6時にTeslaの資金調達がまとまりました。破産まで3日という地点でした。
結果を知っている今からは、劇的な逆転劇に見えます。ただ、その渦中にいた本人にとっては、ただ資金が尽きていく1年でした。何日残っているかを数えながら、次の打ち上げの準備をしていた。それだけです。
よくある質問
イーロン・マスクはいつ破産寸前だったのですか
2008年です。SpaceXとTeslaの資金が同時に尽きかけていました。本人は2008年12月24日の時点で「破産まで3日」だったと語っています。マスク自身、この年を「人生で最悪の年」と呼んでいます。
スペースXは何回失敗したのですか
Falcon 1の打ち上げで3回連続の失敗があります。2006年3月24日、2007年3月21日、2008年8月3日です。4回目となる2008年9月28日に成功し、民間が開発した液体燃料ロケットとして史上はじめて地球周回軌道に到達しました。
テスラはなぜ倒産危機になったのですか
2008年9月の金融危機で、進めていた1億ドルの資金調達が成立しなかったことが直接の原因です。10月にマスクがCEOに就任して従業員の25パーセントを削減しましたが、年末の手元資金は900万ドルまで落ち込んでいました。
テスラを救った資金はいくらだったのですか
2008年12月24日午後6時に成立した、転換社債による約4,000万ドルの調達です。マスクは自身の手元に残っていた2,000万ドルをかき集め、投資家に同額の拠出を求めました。
NASAとの契約はいくらだったのですか
16億ドルです。2008年12月23日に締結され、国際宇宙ステーションへ少なくとも20トンの物資を運ぶ、12回の飛行を含む内容でした。Teslaの資金調達が成立する前日の出来事です。
マスクは自分の資金をいくら投じたのですか
2008年後半の時点で、Teslaだけで5,500万ドルを超える自己資金を投じていました。PayPalの売却で得た資金です。さらに12月には手元に残っていた2,000万ドルを追加しています。