
動画編集の案件を受けていると、次の相談が来ることがあります。「投稿の管理もお願いできませんか」。ここからがSNS運用代行です。作業を納品する仕事から、アカウントを預かる仕事に変わります。
この変化は、単価だけの話ではありません。他人の看板で発信することになるので、責任の重さが違います。素材ライセンスの回で書いた事故は素材の話でしたが、運用代行では発信そのものが事故になり得ます。
この記事では、SNS運用代行の副業を分解します。扱うのは、業務範囲のパターン、アカウントの預かり方、権限の仕組み、受注時に決めること、月の作業時間、成果の約束の限界、案件の取り方、つまずく場所です。「やってみたら月いくらでした」という結果報告はしません。アカウントを預からず、文章だけを書いて渡す形もあります。その場合に確かめることは文章代行の回で扱っています。
権限の仕組みはYouTubeの公式ヘルプ、単価はクラウドワークスの公式ページを一次情報にしています。
SNS運用代行は「何をやるか」が案件ごとに違う
この分野の募集は、言葉が同じでも中身が違います。まず、想定される作業を並べます。
| 作業 | 中身 |
|---|---|
| 投稿の制作 | 画像や動画を作る、文章を書く |
| 投稿の実行 | アカウントに入って投稿する、予約を入れる |
| 反応の管理 | コメントやメッセージへの返信 |
| 分析と報告 | 数値をまとめて、次の方針を出す |
| 企画 | 何を発信するかを決める |
クラウドワークスの発注相場では、TikTok動画の撮影と文字入れが1本3,000円から、YouTube用15分尺の編集が1本8,000円からと出ています。これは制作だけの数字です。運用代行はここに、実行、返信、分析、企画が乗ります。
「運用代行」という言葉で受けない
募集に「SNS運用代行」と書かれていたら、上の5つのうちどれを指しているのかを必ず確認してください。制作だけのつもりで受けて、返信まで求められると、拘束時間がまったく違ってきます。
特に返信の業務は、時間を拘束するのに成果が見えにくいという性質があります。1日に何度も確認する必要があり、しかも作業量が読めません。受けるなら、対応する時間帯と頻度を先に決めます。
確認の仕方は簡単です。「今回のご依頼は、投稿の制作までという理解でよろしいでしょうか。投稿の実行やコメントへの返信も含む場合は、別途ご相談させてください」。この一文で、範囲がはっきりします。
制作だけで受けるのが、最初の形
本業がある20代が最初に受けるなら、制作までにとどめるのが現実的です。作って渡すところまでなら、自分の時間で作業できます。
実行や返信を引き受けると、相手のタイミングに自分の時間が縛られます。副業として続けられるかどうかは、この拘束の量で決まります。
制作だけでも、価値は十分に出せます。投稿の型を作る、画像の体裁を揃える、文章の言い回しを統一する。ここが整うだけで、アカウントの見え方は変わります。
範囲を広げるのは、相手との関係ができてからで間に合います。最初から全部を引き受けて疲れるより、続く形から始めてください。
アカウントを預かる形が、いちばんの論点
投稿の実行まで引き受けると、アカウントに入る必要があります。ここで2つの方法があります。
1. IDとパスワードを共有してもらう
いちばん簡単ですが、いちばん危険です。パスワードを知っている人が複数いる状態になり、何かあったときに誰の操作か分かりません。
また、パスワードを変更されると作業できなくなり、逆にこちらがパスワードを変更すれば相手が入れなくなります。権限の貸し借りではなく、鍵そのものを渡している状態です。
相手にとっても危険です。委託先にパスワードを渡していた、という事実は、その後に問題が起きたときに説明が難しくなります。断るのは、相手のためでもあります。
2. 権限を付与してもらう
サービスによっては、アカウントのパスワードを教えずに、別の人へ権限だけを渡す仕組みが用意されています。こちらが本来の形です。
YouTubeの場合、公式ヘルプに明確な説明があります。チャンネル所有者のGoogleアカウントにアクセスすることなく、複数のユーザーに5つの異なるレベルの権限を付与して、チャンネルを管理できると書かれています。
この形なら、相手はパスワードを守ったまま作業を任せられます。こちらも、必要な範囲だけを預かるので、責任の範囲が明確になります。
他のサービスでも、名称は違っても似た仕組みが用意されていることがあります。受注時に、扱うサービスで権限の分離ができるかを調べてください。
権限を分けて渡せる仕組みがある
YouTubeの公式ヘルプの説明を、もう少し見ます。チャンネルの権限機能を使うと、チャンネルのデータやツール、機能へのアクセス権を他のユーザーに付与できます。
利点として挙げられているのが「アクセスレベルを指定することで、チャンネルを表示できるユーザーや更新できるユーザーを細かく制御できます」という点です。つまり、見るだけの人、編集できる人、権限を管理できる人を分けられるということです。
所有者の役割は譲渡できない
公式には「他のユーザーに所有者の役割を譲渡することはできません」と明記されています。所有者はすべてのチャンネルデータを表示でき、権限を管理でき、チャンネルの詳細を編集できます。ただし、チャンネルの削除はできないという記述もあります。
この仕組みは、運用代行を受ける側にとっても守りになります。所有者の権限を渡されない、つまり最悪の事故を起こせないということだからです。
権限のレベルは、必要な作業に合わせて選びます。投稿だけなら編集の権限、数値を見るだけなら閲覧の権限。多くもらうほど良い、ということはありません。
相手が判断に迷っているときは、こちらから提案します。「投稿と分析のみですので、編集の権限で足ります」。必要な範囲を説明できると、それだけで信用されます。
提案の段階で、権限での受け渡しを勧める
相手がこの仕組みを知らない場合、パスワードを送ってこようとします。そこで一言添えるだけで、印象が変わります。
「アカウントのパスワードではなく、権限の付与でお願いできますか。ご自身のアカウント情報を共有せずに作業できます」。これは相手の安全を守る提案なので、断られることはまずありません。
サービスごとに仕組みの名前も条件も違います。受注時に、扱うサービスで権限の分離ができるかを確認してください。できないサービスなら、投稿の実行は相手側に残す設計にします。
受注時に決める5つ
運用代行でもめる原因は、だいたい決めていないことです。次の5つを先に決めます。
- 業務の範囲:制作、実行、返信、分析、企画のどこまでか
- 投稿の本数と頻度:月に何本、どの曜日に出すか
- 確認の流れ:投稿前に承認が必要か、事後報告でよいか
- 返信の対応時間:何時から何時まで、どの頻度で見るか
- アカウントの権限:どのレベルをもらうか、終了時にどうするか
確認の流れは、こちらから提案する
毎回の承認を求めると、相手の手間が増えます。逆に全部を任されると、方針がずれたときに戻せません。
おすすめは、最初の1か月は投稿前に確認、その後は月初にまとめて確認という形です。最初に方針が合ったら、以降は投稿の自由度を上げる。この提案ができると、相手も判断しやすくなります。
確認の手段も決めます。メッセージで画像を送るのか、共有のフォルダに置くのか。相手が使っているツールに合わせると、確認が滞りません。
期限も添えます。「◯日までにご確認いただけない場合は、この内容で投稿します」。これがないと、承認待ちで投稿が止まります。
終了時の手順まで決めておく
契約が終わったとき、権限をどう戻すか。ここを決めていないと、放置されたアカウントに自分の権限が残り続けます。
「契約終了後、権限の削除をお願いします」と最初の合意に入れておきます。何かあったときに疑われないための、自分を守る手続きでもあります。
あわせて、作った素材の扱いも決めます。画像や動画の元データを渡すのか、書き出したものだけか。次の担当者が引き継げる形にしておくと、関係が良いまま終われます。
投稿の型をまとめた資料を1枚添えると、さらに印象が良くなります。使っている書式、投稿の時間帯、うまくいった型。引き継ぎの材料としても、再依頼の入口としても機能します。
月にかかる時間を、作業別に出す
運用の作業時間に公的な統計はありません。以下は月8本の投稿を想定した本メディアの想定モデルで、統計ではありません。
| 作業 | 月の時間 | 備考 |
|---|---|---|
| 企画と構成 | 2時間 | 月初にまとめて決める |
| 制作(8本) | 8時間 | 1本1時間の想定 |
| 投稿と予約 | 1時間 | まとめて予約を入れる |
| 返信の対応 | 4時間 | 1日10分×20日 |
| 分析と報告 | 2時間 | 月末にまとめる |
合計で月17時間です。返信の対応が4時間を占めている点に注目してください。1日10分でも、20日で4時間になります。
返信を含めるなら、金額を分ける
制作8時間と返信4時間では、性質がまったく違います。制作は自分の都合で進められますが、返信は毎日の拘束です。
見積もりでは、制作費と運用費を分けて出すのが正解です。制作は本数単価、運用は月額。こうすると、相手も必要な範囲を選べます。
分けておくと、途中で範囲が変わったときの調整も楽になります。本数を増やすなら制作費だけ、返信をやめるなら運用費だけ動かせばいい。
まとめて1つの金額にすると、この調整ができません。値上げにも値下げにも、根拠を示せなくなります。
成果の約束は、どこまでしていいか
この分野で注意が必要なのが、成果の話です。フォロワーが増える、再生数が伸びる、といった結果は、こちらの作業だけでは決まりません。
約束できるのは「実行」まで
月8本の投稿を、決めた品質で、決めた日に出す。ここまでは約束できます。それによってフォロワーが何人増えるかは、約束の対象外です。
提案文にも、この線引きを書いておきます。「投稿の本数と品質はお約束しますが、フォロワー数の増加をお約束するものではありません」。誠実に見えるうえに、後の揉め事を防ぎます。
数字を約束する同業者がいると、比較で不利に見えることがあります。それでも約束しないでください。達成できなかったときに失うのは、その案件だけではありません。
数字を見るなら、投稿と反応の関係を出す
約束はできませんが、分析は価値になります。どの投稿が伸びて、どれが伸びなかったか。共通点は何か。次に何を試すか。
この報告を月1回出せる人は、単発の作業者ではなく相談相手になります。サムネイルの回で書いた、A/Bテストの結果を次に反映する話と同じ構造です。
報告の形式は1枚で足ります。今月の投稿本数、反応が多かった投稿とその理由、来月に試すこと。3項目あれば、相手は判断できます。
数字が伸びなかった月ほど、報告の価値が上がります。何を試して、何が効かなかったか。これが積み上がると、次の判断が速くなります。
最初の案件の取り方
入り方は3つあります。
1. 制作の案件から広げる
いちばん現実的な道です。動画編集や画像制作で取引がある相手に、運用の一部を提案する。すでに品質を知ってもらえているので、話が早い。
提案のタイミングは、納品が3回から5回続いたあたりです。相手の業務の流れも見えているので、どこを引き受ければ楽になるかを具体的に言えます。
切り出し方も具体的にします。「投稿の予約まで含めてお引き受けできます。毎回の受け渡しの手間がなくなります」。相手の作業が減る形で提案すると通ります。
2. 自分のアカウントを実績にする
他人のアカウントを預かる前に、自分で運用してみます。どの投稿が伸びたか、何本作るとどれくらい時間がかかるか。この記録が提案の材料になります。
フォロワーの数より、継続した本数と、分析の記録のほうが説得力があります。3か月で24本投稿し、反応を記録している人は、実務ができる人だと分かります。
扱うジャンルは、相手の業種に近いものを選んでおくと話が早くなります。まったく違う分野の実績でも、継続と記録があれば材料になります。
3. 小さい範囲で試してもらう
いきなり月額の契約は、相手も不安です。「まず1か月、制作だけお試しいただけますか」と提案します。範囲が小さいほど、始めてもらいやすい。
1か月終わったら、実績を数字で出して範囲の拡大を提案します。この順番なら、双方にとって安全です。
提案の材料は、初月の記録そのものです。何本作って、どの投稿が伸びて、何時間かかったか。事実を並べるだけで、次の話ができます。
1か月で判断が付かないなら、3か月まで延ばしてもかまいません。短い期間の数字だけで方針を決めると、たまたまの結果に引きずられます。
つまずく場所は決まっている
運用代行でつまずくのは、ほぼ5つです。
1. パスワードを預かってしまう
いちばん避けるべき形です。権限の付与で対応できないか、必ず先に確認してください。
できないサービスなら、投稿の実行は相手側に残します。こちらは画像と文章を渡し、投稿の操作は相手が行う。手間は増えますが、事故の範囲が限定されます。
この形でも、予約投稿ができるツールを相手側に導入してもらえば、手間はほとんど変わりません。導入の提案まで含めると、価値のある提案になります。
すでにパスワードを預かってしまっている案件がある場合は、次の更新のタイミングで切り替えを提案します。「運用の安全のため、権限での付与に変更させてください」。途中からでも遅くありません。
2. 返信の対応時間を決めていない
「なるべく早く」で受けると、24時間縛られます。平日の21時から22時に確認します、といった形で先に決めてください。
緊急の連絡が必要な場合の連絡手段も決めておきます。SNSのメッセージではなく、別の手段にするのが安全です。アカウントに問題が起きたときに、そのアカウントで連絡が取れなくなるからです。
連絡先は2つ以上控えておきます。メールと電話、あるいは別のメッセージツール。片方が使えない場面は、実際に起こります。
3. 炎上したときの役割を決めていない
発信には、意図せず反発を受ける可能性があります。そのとき、誰が判断して、誰が対応するのか。決めていないと、現場で固まります。
原則として、対外的な判断は相手側が行う設計にします。こちらは事実を報告し、投稿の停止など技術的な対応を担う。この分担を最初に決めておきます。
あわせて、判断に迷う内容は投稿前に相談する、という基準も決めます。政治、宗教、他社への言及、社会的な出来事への反応。この4つは、こちらの判断で出さないほうが安全です。
4. 成果を約束してしまう
契約を取りたくて「フォロワーを増やします」と言ってしまう。数字は多くの要因で決まるので、約束できません。
約束するのは、本数と品質と納期です。この3つなら、自分の努力で守れます。守れる約束だけをするのが、続く働き方です。
相手から数字を求められたら、目標として扱います。「目標として置くのは構いませんが、保証はいたしかねます」。この言い方なら、前向きさと誠実さを両立できます。
目標を置く場合は、こちらが動かせる数字にします。投稿本数、企画の種類、テストした回数。結果ではなく行動の指標なら、約束として成立します。
5. 終了時に権限が残る
契約が終わったのに、自分のアカウントがまだ相手のチャンネルにつながっている。これは相手にとってもリスクです。
終了時に削除を依頼し、削除されたことを確認してください。自分の画面から相手のアカウントが消えていれば確認できます。
削除までに時間がかかる場合は、いつまでにお願いしたいかを伝えます。相手が忘れているだけのことも多いので、催促ではなく確認として連絡します。
あわせて、自分の手元に残っている相手の情報も整理します。共有されたファイル、パスワードのメモ、分析のデータ。不要なものは消す。最後の作業まで含めて、仕事です。
30代につながるのは、他人の看板で発信した経験
このメディアは、20代の副業を「30代に何が残るか」で選ぶ立場で書いています。運用代行で残るのは、特定のサービスの使い方ではありません。
残るのは、自分の名前ではない看板で発信した経験です。個人の発信なら、自分の好みで書けます。他人の看板では、その組織の立場、過去の発言との整合、読む人の期待を考える必要があります。
この感覚は、30代で会社の顔として話す場面でそのまま効きます。広報の文章、採用の説明、取引先への案内。個人の意見と、組織の発信を分けて考えられる人は多くありません。
もう1つ残るのが、預かったものを返す作法です。権限をもらい、使い、終わったら返す。当たり前に見えて、できていない人は多い。この一連を経験しておくと、大きな権限を預かる立場になったときに迷いません。
まとめ
- SNS運用代行は、制作、実行、返信、分析、企画のどこまでかが案件ごとに違う。「運用代行」という言葉だけで受けない
- 制作の相場は、TikTok動画の撮影と文字入れが1本3,000円から、YouTube用15分尺の編集が1本8,000円から(クラウドワークス発注相場)。運用はここに拘束時間が乗る
- アカウントはパスワードではなく権限で預かる。YouTubeの公式ヘルプは、チャンネル所有者のGoogleアカウントにアクセスすることなく、5つのレベルの権限を付与できると説明している
- 公式には「他のユーザーに所有者の役割を譲渡することはできません」とも明記されている。これは受ける側にとっての守りにもなる
- 想定モデルでは月8本で17時間。うち返信の対応が4時間(1日10分×20日)。制作費と運用費は分けて見積もる
- 約束できるのは本数と品質と納期まで。フォロワーの増加は約束しない。代わりに、投稿と反応の関係を月1回報告する
よくある質問(FAQ)
アカウントのパスワードを教えてもらうのは駄目ですか。
避けてください。パスワードを知る人が複数いると、何かあったときに誰の操作か分からなくなります。多くのサービスには、パスワードを共有せずに権限だけを渡す仕組みがあります。YouTubeの公式ヘルプは、チャンネル所有者のGoogleアカウントにアクセスすることなく、複数のユーザーに5つの異なるレベルの権限を付与できると説明しています。
フォロワーを増やすと約束してもいいですか。
約束しないでください。数字は投稿以外の多くの要因で決まります。約束できるのは、決めた本数を、決めた品質で、決めた日に出すことまでです。提案文に「投稿の本数と品質はお約束しますが、フォロワー数の増加をお約束するものではありません」と書いておくと、後の揉め事を防げます。
コメントへの返信まで引き受けるべきですか。
引き受けるなら、対応する時間帯と頻度を先に決めてください。想定モデルでは、1日10分でも月20日で4時間になります。制作は自分の都合で進められますが、返信は毎日の拘束です。見積もりでは、制作費と運用費を分けて出すほうが、双方にとって分かりやすくなります。
炎上したらどうすればいいですか。
役割を先に決めておくことが対策です。原則として、対外的な判断は相手側が行う設計にします。こちらは事実を報告し、投稿の停止など技術的な対応を担う。この分担を契約の段階で決めておけば、実際に起きたときに現場で固まりません。
副業として始めるとき、確定申告や会社への影響はどうなりますか。
この記事では運用代行の業務範囲だけを扱っています。副業全般の論点は姉妹メディア「20代の放課後」で扱っています。確定申告と20万円ルール、副業の始め方を参照してください。
受注の前に、権限の仕組みを読む
パスワードを共有せずに、必要な範囲だけを受け取る。この形を提案できるかどうかで、相手からの信用が変わります。YouTubeの場合は、公式ヘルプに5つの権限レベルの説明があります。