
バナーや販売ページのデザインを受けると、原稿が送られてきます。「業界No.1」「今だけ半額」「効果に満足の声99%」。それを、目立つように配置してほしいと言われます。
ここで、多くの人が黙って作ります。中身の正しさは相手の責任だから、と考えるからです。その考え自体は自然ですが、聞かないまま進めると、後で困るのは自分でもあります。
この記事では、表示について定めた法律の条文を読みます。扱うのは、聞きにくさの正体、禁止されている表示の種類、「著しく」という言葉、根拠資料の規定、質問の仕方、条文の名宛人、課徴金、デザイン作業での注意点、受注時に決めること、確認の時間、つまずく場所です。
この記事は、公開されている条文を紹介するものであり、法律の解説ではありません。個別の判断は、弁護士などの専門家や、消費者庁の窓口にご相談ください。この表示は違反である、といった判断は書きません。条文に何が書かれているかと、作る側として確認できることを示します。
引用は、デジタル庁が運営するe-Gov法令検索で公開されている「不当景品類及び不当表示防止法」(昭和37年法律第134号)の条文を、取得して確認したものです。法令は改正されます。実際に判断するときは、最新の条文をご確認ください。
デザインの仕事で、中身は聞きにくい
まず、なぜ聞きにくいのかを整理します。
役割が分かれているように見える
原稿は相手が書き、デザインはこちらが作る。この分担だと、文言の正しさは相手の領域に見えます。
だから、疑うような質問はしにくい。「その数字は本当ですか」と聞くのは、相手を信用していないように聞こえます。ここが、聞きにくさの正体です。
そして、聞かずに進めるほうが早い。納期が迫っているほど、確認は後回しになります。急いでいるときほど、聞かない理由が増えていきます。
そして、原稿には手を入れられないことも多い。文言は相手が決めたものだからです。だから、こちらにできるのは確認と提案までになります。
ですが、作るのはこちらです
文言を書いたのは相手でも、それを目立たせる、大きくする、注釈を小さくする。この操作はこちらがやっています。
デザインは、伝わり方を変える作業です。同じ文言でも、配置によって受け取られ方が変わります。だから、まったくの無関係だとも言いにくい。
文言を変えるわけではありません。大きさ、位置、色。変えているのは見え方です。見え方を設計しているのがデザインの仕事だと考えれば、無関心でいるのも不自然です。
この感覚を持っておくと、作るときの目が変わります。自分が何を目立たせているのかを、意識して置く。無意識に強調すると、後から説明できません。
聞き方を変えれば、聞ける
疑うのではなく、確認する形にすればよい。「この数字の出典を、注釈として入れたほうがよいでしょうか」。
デザインの提案として聞けば、角が立ちません。そして、出典があるかどうかもこの質問で分かります。相手を疑わずに、情報だけが手に入ります。
そして、この聞き方なら相手も答えやすい。「あります」か「ありません」で返せます。考えさせる質問より、選べる質問のほうが返事が早い。
そして、聞くのは1回にまとめてください。気になるたびに聞くと、相手の手間が増えます。原稿を通して読んで、確認点をまとめて出す。
その前提として、条文を知っておく
なぜ出典が要るのか。それは条文を読むと分かります。根拠資料についての規定が、実際に置かれています。
知らないまま「なんとなく不安だから聞く」のと、条文の規定を知ったうえで聞くのでは、質問の質が変わります。
読むのは数条で足ります。第五条と、第七条の第2項。この2つを読むだけで、確認すべきことが決まります。全文を読む必要はありません。
そして、読んだ日付を控えておいてください。法令は改正されます。いつ時点の理解かを言えるようにしておく。
条文が禁止しているのは、2種類の表示
中心になる条文から読みます。
第五条の構造
見出しは「不当な表示の禁止」。条文はこう始まります。「事業者は、自己の供給する商品又は役務の取引について、次の各号のいずれかに該当する表示をしてはならない」。
そして、3つの号が続きます。実務でよく出てくるのは、最初の2つです。
第三号は、内閣総理大臣が指定するものと書かれています。つまり、条文だけでは中身が決まらない号です。告示を見に行く必要があるので、この記事では扱いません。
3つの号は、並列で書かれています。「次の各号のいずれかに該当する」。どれか1つに当たればよい、という構造です。
第一号は、中身についての表示
こうあります。「商品又は役務の品質、規格その他の内容について、一般消費者に対し、実際のものよりも著しく優良であると示し、又は事実に相違して当該事業者と同種若しくは類似の商品若しくは役務を供給している他の事業者に係るものよりも著しく優良であると示す表示」。
対象は「品質、規格その他の内容」。効果や性能を伝える文言が、ここに関わります。
「品質、規格その他の内容」という言い方なので、品質と規格だけに限られません。商品やサービスの中身に関わる表示が、広く対象になり得ます。
第二号は、価格や取引条件についての表示
こちらはこうです。「商品又は役務の価格その他の取引条件について、実際のもの又は当該事業者と同種若しくは類似の商品若しくは役務を供給している他の事業者に係るものよりも取引の相手方に著しく有利であると一般消費者に誤認される表示」。
価格、送料、期間、条件。セールのバナーで扱う情報の多くが、この号の対象になります。
「価格その他の取引条件」も、同じ書き方です。価格だけではありません。送料、支払い方法、期間、特典。取引の条件として示すものが入ってきます。
どちらにも共通する後半部分
第一号も第二号も、最後がこう結ばれています。「不当に顧客を誘引し、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれがあると認められるもの」。
この一文が両方に付いています。誤解を招くだけでなく、選択を阻害するおそれがあるかどうかまでが条件に書かれています。
条文を読むときは、号の最後まで読んでください。前半の定義だけを読むと、条件が抜けます。号の末尾に、共通する条件が置かれていることがあります。
どちらにも「著しく」という言葉が入っている
読み落とせない部分です。
条文の表現
第一号は「実際のものよりも著しく優良であると示し」。第二号は「取引の相手方に著しく有利であると一般消費者に誤認される表示」。
どちらにも「著しく」が入っています。少しでも良く見せたら違反、とは書かれていません。
この言葉があるおかげで、条文の趣旨も見えます。広告で良く見せること自体を禁じているわけではない。程度の問題として書かれている、ということです。
そして、この言葉は両方の号に入っています。片方だけの条件ではありません。中身についても、価格についても、程度が問われる書き方になっています。
ですが、線は条文に書かれていない
どこからが「著しく」なのか。条文には、その基準が数字で示されていません。
だから、ここは自分で判断する部分ではありません。この記事でも、どこからが著しいかは書きません。迷う場面があれば、専門家や消費者庁の窓口に相談する場面になります。
数字がない条件は、判断が必要な条件です。だから、判断する立場にない人は判断しない。これは逃げではなく、役割の線引きです。
線が書かれていない条件は、事例で判断されることになります。だから、過去の事例を調べる必要が出てきます。そこまで行くと、制作側の仕事の範囲を超えます。
デザイナーが持つべき感覚
判断はしないとしても、「この表現は、実際と離れていないか」という問いを持つことはできます。
そして、離れていそうなら確認する。判断するのではなく、確認する。この線引きを持っていれば、越権にもならず、黙認にもなりません。
そして、気づいた点は伝えてください。伝えるところまでが、作る側にできることです。気づいて黙るのが、いちばん後味が悪い。
そして、気づける人になるには、条文を1度読んでおくのがいちばん早い。読んでいないと、何に気づけばよいかも分かりません。読むのは30分で足ります。
強調はデザインの仕事そのもの
大きくする、色をつける、先頭に置く。これらはすべて、目立たせるための操作です。
デザインは、強調する仕事でもあります。だからこそ、何を強調しているのかに意識的でいる必要があります。強調した結果、実際と離れて見えていないか。
強調した結果を、一度引いて見る時間を取ってください。作っている最中は、見慣れてしまいます。翌日に見直すだけで、印象が変わることがあります。
そして、強調する要素は絞ってください。全部を強調すると、どれも目立ちません。デザインとしても、絞るほうが効果的です。
根拠資料を出せないと、みなされる規定がある
この記事でいちばん重要な条文です。
第七条第2項
条文はこうです。「内閣総理大臣は、前項の規定による命令……に関し、事業者がした表示が第五条第一号に該当するか否かを判断するため必要があると認めるときは、当該表示をした事業者に対し、期間を定めて、当該表示の裏付けとなる合理的な根拠を示す資料の提出を求めることができる」。
裏付けとなる資料の提出を求めることができる、とされています。そして、次の一文が決定的です。
この規定は、第五条第一号について書かれています。中身に関する表示についての規定です。数値や効果を示す表示が、ここに関わってきます。
出さなければ、該当するとみなされる
続きはこうです。「この場合において、当該事業者が当該資料を提出しないときは、同項の規定の適用については、当該表示は同号に該当する表示とみなす」。
資料を出せないときは、その表示は第五条第一号に該当するものとみなされる、と書かれています。証明できないことが、そのまま結論につながる構造です。
「みなす」という言葉は、条文では強い意味を持ちます。反証を待たずに、そう扱うということです。この語を見たら、結論が決まる規定だと考えてください。
だから、作る前に根拠を確認する意味がある
数字を載せるなら、その数字の出どころがある。これは、後から用意するものではなく、最初からあるものです。
デザイン中に「この99%の根拠は何だろう」と思ったら、その時点で聞くのがいちばん早い。公開してから探すのでは、遅い場合があります。
そして、根拠があるなら載せたほうが伝わります。出典のある数字は、説得力が上がります。確認は、守りだけでなく効果の話でもあります。
聞くのは、原稿を受け取った日です。その日なら、まだ何も作っていません。作った後に聞くと、直す前提の質問になってしまいます。
「合理的な根拠」という言葉
条文では「合理的な根拠を示す資料」とされています。資料であればよい、ではなく、合理的な根拠を示すもの。
何が合理的かは条文に書かれていません。ここも判断の領域なので、こちらが線を引く部分ではありません。あるかどうかを確認するところまでが、作る側の役割です。
条文にこの言葉があると知っているだけで、質問が具体的になります。「資料はありますか」ではなく「出典として示せるものはありますか」。言葉を借りると、質問が正確になります。
だから「根拠はありますか」は、自然な質問になる
実務の話に落とします。
聞く理由が条文にある
疑っているのではなく、条文に根拠資料についての規定があるから確認している。この立て付けなら、説明もできます。
言い方を決めておいてください。「数値を載せる場合、出典の注釈を入れる形が一般的ですが、いかがいたしましょうか」。デザインの提案の形にすると、自然に聞けます。
理由を説明できると、聞くこと自体が仕事に見えます。気にしすぎる人ではなく、慣れている人として扱われる。同じ質問でも、伝わり方が変わります。
出典があるなら、デザインに組み込む
出典があると分かったら、それを載せる場所を設計します。小さくても構いませんが、読める大きさにする。
ここもデザインの仕事です。読めない大きさにすることは、こちらの操作です。読める設計にしておけば、こちらの作業としては説明がつきます。
出典の置き場は、最初に決めておいてください。デザインが固まってから足すと、収まりません。注釈の場所を確保してから、本文を組む。この順番です。
そして、出典の書き方も揃えてください。調査名、実施主体、時期。何をどう書くかを決めておけば、毎回同じ形で載せられます。
ないと言われたら、どうするか
「特にありません」と言われることもあります。そのときに、こちらが判断する必要はありません。
伝えるべきことを伝えて、判断は相手に委ねます。「表示の裏付けとなる資料について定めた条文がありますので、ご確認いただけますと安心です」。この一文で十分です。
そして、それ以上は踏み込まない。伝えたことは記録に残り、判断は相手のものです。繰り返し言うと、関係のほうが壊れます。
そして、伝えたことは1度で足ります。繰り返さない。伝えた記録が残っていれば、それ以上の役割はありません。
やりとりは残しておく
聞いたこと、返ってきた答え。メッセージで残しておいてください。
これは他の回でも繰り返している話です。記録は、責めるためではなく、何を確認したかを示すためのものです。
残すのは、案件が終わってからしばらくの間で足ります。広告は掲載期間があるので、その期間は残しておく。永久に保管する必要はありません。
残す場所も決めておいてください。案件ごとのフォルダか、メッセージの履歴か。探せない場所にあるものは、残していないのと同じです。
条文の名宛人は誰か
作る側の立場を、条文から確認します。
第五条の主語
もう一度読みます。「事業者は、自己の供給する商品又は役務の取引について、次の各号のいずれかに該当する表示をしてはならない」。
主語は「事業者」で、「自己の供給する商品又は役務」についての表示が対象と書かれています。
「自己の供給する」という限定も入っています。誰の商品についての表示かが、条文で絞られています。主語だけでなく、目的語の限定も読んでください。
条文を読むときは、主語と目的語を線で囲ってみてください。誰が、何について。この2つが分かれば、自分に関係するかどうかが判断できます。
措置命令の相手も書かれている
第七条第1項はこうです。「内閣総理大臣は、第四条の規定による制限若しくは禁止又は第五条の規定に違反する行為があるときは、当該事業者に対し、その行為の差止め……を命ずることができる」。
命令の相手は「当該事業者」。そして、既になくなっている場合の相手として、合併後の法人や事業を譲り受けた事業者などが列挙されています。
列挙されているのは、合併後の法人や事業を譲り受けた事業者です。いずれも、その事業を引き継いだ側。制作を受託した者は、この列挙の中にありません。
第二条には、みなす規定もある
ただし、定義の条文にはこうあります。「この法律で『事業者』とは、商業、工業、金融業その他の事業を行う者をいい、当該事業を行う者の利益のためにする行為を行う役員、従業員、代理人その他の者は、次項及び第三十六条の規定の適用については、これを当該事業者とみなす」。
「代理人その他の者」という言葉が出てきます。ただし、このみなし規定は「次項及び第三十六条の規定の適用については」と、適用範囲が限定されています。条文はここまでしか書いていません。
限定の言葉を飛ばして読むと、意味が変わります。「次項及び第三十六条の規定の適用については」。この一節があるかないかで、条文の射程がまったく違います。
だから、この記事では結論を書きません
制作を受託した立場がどう扱われるかは、個別の状況によって判断が分かれる部分です。
ここで押さえたいのは、条文の主語が誰かを確認する習慣のほうです。自分が名宛人かどうかを確かめてから、必要な範囲で動く。判断が必要なら、専門家に相談してください。
結論が書けないことを、曖昧だと感じるかもしれません。ですが、書けない部分を書かないことが正確さです。断定した情報のほうが、後で困ることがあります。
そして、判断が必要な場面には窓口があります。消費者庁のほか、弁護士への相談。相談先を知っていることも、備えのうちです。
課徴金の規定も置かれている
制度の重さを知っておくための条文です。
第八条の本文
こうあります。「事業者が、第五条の規定に違反する行為(同条第三号に該当する表示に係るものを除く。……)をしたときは、内閣総理大臣は、当該事業者に対し、当該課徴金対象行為に係る課徴金対象期間に取引をした当該課徴金対象行為に係る商品又は役務の政令で定める方法により算定した売上額に百分の三を乗じて得た額に相当する額の課徴金を国庫に納付することを命じなければならない」。
売上額の「百分の三」という数字が条文に書かれています。
「命ずることができる」ではなく「命じなければならない」と書かれています。要件を満たせば命じる、という構造です。語尾の違いに注意して読んでください。
ただし書きが2つある
続けて、こうあります。「ただし、当該事業者が当該課徴金対象行為をした期間を通じて当該課徴金対象行為に係る表示が次の各号のいずれかに該当することを知らず、かつ、知らないことにつき相当の注意を怠つた者でないと認められるとき、又はその額が百五十万円未満であるときは、その納付を命ずることができない」。
知らなかった場合の規定と、「百五十万円未満であるとき」という金額の規定です。
金額の基準が条文に書かれているのも特徴です。「百五十万円未満であるとき」。数字が条文に出てくる部分は、確認しやすい箇所でもあります。
「相当の注意を怠つた者でない」
ただし書きの中に、この表現があります。知らなかっただけでなく、注意を怠っていないことが条件として書かれています。
これは、表示をする事業者についての規定です。ですが、制作を依頼する側が確認を求められる場面があることも、ここから読み取れます。
この言い回しは、他の法律でも出てきます。知らなかったことと、注意していたことは別に判断される。知らなければよい、という構造にはなっていません。
そして、この規定があるから、発注側も確認を求めることがあります。こちらへの質問が増える理由でもある。背景が分かっていると、質問にも答えやすくなります。
制度全体の構造
禁止の規定があり、命令の規定があり、金銭的な規定がある。この構造を知っておくと、相手がなぜ慎重になるのかも理解できます。
そして、こちらが確認を求めることが、相手にとっても意味があることが分かります。面倒な質問ではなく、役に立つ確認になります。
そして、この構造は他の法律でも共通です。定義、禁止、命令、金銭的な措置。1つの法律で構造を覚えると、他の法律も読みやすくなります。
そして、構造が分かると、必要な条だけを読めるようになります。禁止の条と、自分に関わる条。105条ある法律を、全部読む必要はありません。
デザインの作業で、気をつける場所
作る手を動かす場面の話です。
注釈の大きさと位置
本文が大きく、注釈が極端に小さい。この配置をするのは、デザイナーです。
読める大きさを確保する、本文の近くに置く。作る側が決められる部分では、読める側に寄せておく。これは判断ではなく、作業の方針です。
本文との距離も効きます。離れた場所に置くと、関係が伝わりません。何に対する注釈かが分かる位置に置いてください。
そして、行間も確保してください。小さい文字は、詰めると余計に読みにくい。サイズだけでなく、周囲の余白も可読性に効きます。
価格の見せ方
取り消し線を引いた価格の横に、新しい価格を大きく置く。よく使う表現ですが、第五条第二号は価格その他の取引条件を対象にしています。
だから、比較している元の価格が何なのかは、確認する価値があります。「取り消し線の価格は、いつの時点のものでしょうか」。デザインの確認として聞けます。
そして、比較の対象が何かも書かれているほうが親切です。通常価格なのか、他社の価格なのか。何と比べているかが分かる表示になっているかを見てください。
期間や条件の表示
「今だけ」「先着」「限定」。これらの言葉には、期間や数量という事実が対応しているはずです。
デザイン上は短いほうが収まりますが、条件が示されない状態で載せるより、入る形を設計するほうが安全です。スペースがないなら、その旨を相談してください。
スペースが足りないときは、レイアウトを変える提案もできます。「条件を入れる場所を確保するため、この配置をご提案します」。入らないから省く、ではなく、入る形を作る。
画像の加工
写真の加工も、内容に関わる場合があります。効果を示す画像であれば、第五条第一号の対象になり得る領域です。
加工の程度を相手に確認しておく。「どこまでの補正をしてよいか、方針を教えてください」。これも、デザインの確認として自然に聞けます。
方針が決まれば、作業も速くなります。毎回どこまでやるか考える必要がなくなる。1回聞いておけば、その相手の案件では使い回せます。
そして、加工前の画像も残しておいてください。後から比較を求められることがあります。元データがないと、何をしたかを説明できません。
受注時に決める5項目
広告の制作を受けるときに、着手前に決めることです。
- 原稿の責任:文言は誰が用意し、誰が確認するか
- 数値の出典:数字を載せる場合、出典を注釈に入れるか
- 注釈の扱い:入れる位置と、最小の文字サイズ
- 画像の加工範囲:どこまで補正してよいか
- 確認後の変更:修正の指示が来た場合の扱い
1つ目を、明文で残す
書き方はこれで足ります。「掲載する文言および数値の内容については、ご提供いただいたものとして制作いたします」。
責任の切り分けではなく、役割の確認として書いておく。そのうえで、気になる点は個別に確認します。
そして、この一文があると、気になる点を伝えやすくもなります。役割を確認したうえでの指摘になるからです。何も決めていない状態で指摘すると、越権に見えることがあります。
そして、この文は定型にしておいてください。案件ごとに考えない。同じ文面を使い続けるほうが、抜けもありません。
3つ目に、数字を入れておく
「小さく」ではなく、最小のサイズを決めます。媒体によりますが、数値で決めておけば毎回悩みません。
そして、そのサイズを下回る指示が来た場合の扱いも決めておいてください。「ご指示のサイズでは読みにくいため、この大きさをご提案します」と返せます。
媒体ごとに決めておくと、さらに楽です。バナー用、販売ページ用、印刷用。表示される大きさが違うので、同じ基準では合いません。
そして、決めたサイズは自分の作業でも守ってください。基準を作った本人が破ると、意味がなくなります。守れる基準にしておくことも大事です。
5つ目が効く場面
公開後に「この表現を変えてほしい」と言われることがあります。差し替えの作業として、追加の料金が発生するかどうか。
広告の差し替えは、急ぎになることが多い。急ぎの対応をどう扱うかも、先に決めておいてください。
そして、差し替えの依頼は感情的になりやすい場面でもあります。先に決めておけば、その場で条件を話さずに済みます。急いでいるときに条件交渉をしないための備えです。
そして、差し替えの作業自体は短いことが多い。文言を1つ変えるだけ、ということもあります。短い作業でも、対応の枠を空ける必要があります。そこを含めて条件にしてください。
書面に残す
5項目とも、メッセージで残します。着手前の1通で足ります。
そして、この5項目を出すこと自体が、仕事の丁寧さとして伝わります。広告を扱い慣れていると見られる材料にもなります。
文面は使い回せます。案件ごとに変えるのは、数字の部分だけ。1度作れば、次からは数分で送れます。
そして、返信がなくても構いません。送ったことが記録として残ります。返事を待って作業を止める必要はありません。
ただし、3つ目と5つ目については、返事をもらってから進めるほうが安全です。注釈のサイズと、変更時の扱い。この2つは、後から揉めやすい項目です。
1本あたりの確認の想定モデル
確認にかかる時間に公的な統計はありません。以下は、バナー1本を作る場合を置いた本メディアの想定モデルで、統計ではありません。
| 工程 | 時間 | 備考 |
|---|---|---|
| 原稿の読み込み | 15分 | 数値・期間・条件を洗い出す |
| 確認事項をまとめて送る | 15分 | 出典と注釈の方針を聞く |
| デザイン | 120分 | 注釈の配置も含む |
| 読みやすさの確認 | 20分 | 実サイズで注釈を確認 |
| 納品と説明 | 15分 | 確認した内容を添える |
合計3時間5分
185分です。このうち、確認に関わるのが50分。
デザイン以外に、これだけの時間がかかります。見積もりに入れていなければ、無給の作業になります。広告の制作では、この工程を項目として立ててください。
デザインそのものは120分です。残りの65分が、確認と説明の時間になります。作業時間の3分の1が、デザイン以外に使われている計算です。
そして、初めて扱う商材ならもっとかかります。何が数値で、何が条件かの判別に時間がいる。2本目からは、その商材の型が分かってきます。
読みやすさの確認に20分を置く理由
画面上では読める注釈が、実際の表示サイズでは読めないことがあります。バナーは縮小されて表示されることが多い。
だから、実際に使われるサイズで確認してください。スマートフォンの画面に出して見るのが、いちばん確実です。
確認の方法も決めておいてください。実サイズで書き出して、端末で見る。画面上の拡大表示で判断しないこと。手順にしておけば、毎回同じ精度で確認できます。
そして、他の人に見てもらうのがいちばん確実です。作った本人は、内容を知っているので読めてしまいます。知らない人が読めるかどうかが基準です。
2本目以降は短くなる
同じ相手の2本目からは、方針が決まっています。注釈のサイズも、出典の書き方も。
確認の50分が20分程度に縮むでしょう。方針を決めておくことが、そのまま作業時間を減らします。
方針は文書にしておくと、他の案件にも使えます。注釈の最小サイズ、出典の書き方、加工の範囲。自分用のガイドラインを1枚持っておくと、提案にも使えます。
そして、ガイドラインは提案にも使えます。「当方ではこの基準で制作しています」。基準を持っている人として見られます。
確認したことを、納品時に添える
「注釈は実サイズでの可読性を確認済みです」。この一行が、仕事の質として伝わります。
見えない作業を見える形にする話は、他の回でも繰り返しています。確認したことは、書かなければ伝わりません。
書き方は短くて構いません。1行か2行。長く書くと、心配しているように見えます。事実だけを淡々と書いてください。
そして、確認していないことは書かないでください。書いた以上は、やったことになります。実際にやったことだけを書く。当たり前ですが、これが信用の土台です。
つまずく場所は5つに決まっている
この分野でつまずくのは、ほぼ5つです。
| つまずく場所 | 条文に書かれていること |
|---|---|
| 数値の出典を聞かない | 資料を提出しないときは……該当する表示とみなす |
| 注釈を読めない大きさにする | (記載外。作る側が決められる部分) |
| 取り消し線の価格を確認しない | 価格その他の取引条件について……著しく有利 |
| 自分は無関係だと考える | (第二条にみなす規定。ただし適用範囲は限定) |
| 判断してしまう | (「著しく」の線は条文に書かれていない) |
1・数値の出典を聞かない
第七条第2項は「当該事業者が当該資料を提出しないときは、同項の規定の適用については、当該表示は同号に該当する表示とみなす」としています。
根拠があるかどうかは、作る前に分かったほうがよい情報です。デザインの確認として聞けば、自然に聞けます。
聞くタイミングは、原稿を受け取った直後がいちばんよい。作り始めてからだと、聞きにくくなります。最初のやりとりの中に混ぜてしまうのが自然です。
そして、聞いた結果は記録に残ります。確認したという事実が残るだけでも意味があります。聞かなければ、何も残りません。
2・注釈を読めない大きさにする
条文に大きさの規定はありません。ですが、読めない大きさにする操作をしているのは、こちらです。
作る側が決められる部分では、読める側に寄せておく。方針として決めておけば、毎回悩みません。
指示で小さくするよう言われた場合も、提案としては伝えられます。「この大きさですと読みにくいため」と理由を添える。最終的な判断は相手に委ねます。
そして、提案したこと自体も記録に残ります。指示に従った場合でも、提案した経緯は残る。言ったかどうかが分かる形にしておいてください。
3・取り消し線の価格を確認しない
第五条第二号は「価格その他の取引条件について……取引の相手方に著しく有利であると一般消費者に誤認される表示」を挙げています。
比較の元になっている価格が何かは、確認する価値があります。「取り消し線の価格は、いつの時点のものでしょうか」。
そして、確認した内容は原稿に反映してもらってください。こちらが勝手に書き足すのは避けます。文言は相手の領域なので、提案までにとどめる。
そして、価格の表示はデザインの見せ場でもあります。目立たせる前提で作ることが多い。目立たせるものほど、確認する価値があります。
4・自分は無関係だと考える
第五条の主語は「事業者」で、措置命令の相手も「当該事業者」と書かれています。ですが、第二条には「代理人その他の者」を事業者とみなす規定もあり、その適用範囲は「次項及び第三十六条の規定の適用については」と限定されています。
この記事では結論は書きません。押さえたいのは、条文の主語を確認する習慣のほうです。
無関係だと決めてしまうと、確認の動機もなくなります。関わりの有無より、確認するかどうかが実務では効きます。確認するのに、名宛人である必要はありません。
5・判断してしまう
「著しく」の線は、条文に書かれていません。だから、こちらが違反かどうかを判断する立場ではありません。
確認して、情報を渡して、判断は相手に委ねる。越権にも、黙認にもならない位置がここです。迷う場面では、専門家や消費者庁の窓口に相談してください。
判断しないことは、無責任とは違います。判断できる人に判断してもらうための行動を取る、ということです。誰が決めるべきかを見極めるのも、仕事のうちです。
そして、判断しない代わりに、確認は丁寧にしてください。確認を省いて判断もしない、では役割を果たしていません。確認するからこそ、判断しなくてよい。
30代につながるのは、聞ける人であること
このメディアは、20代の副業を「30代に何が残るか」で選ぶ立場で書いています。この分野で残るのは、デザインの技術だけではありません。
疑わずに確認する技術
残るのは、相手を疑わずに、必要な情報を得る聞き方です。「本当ですか」ではなく「注釈に入れましょうか」。
30代になると、確認しなければならない場面が増えます。角を立てずに確認できる人は、情報が集まります。そして、問題を早く見つけられます。
この技術は、練習で身につきます。聞き方の型をいくつか持っておくだけです。提案の形にする、選択肢を示す、理由を添える。この3つで、たいていの確認はできます。
そして、この聞き方は社内でも使えます。上司にも、同僚にも。確認の技術は、職種を問いません。
判断と確認を分ける感覚
自分が判断すべきことと、確認して渡すべきこと。この2つを混同すると、越権になるか、黙認になるかのどちらかになります。
自分の役割の範囲を、条文や契約から確かめる。これはどの仕事でも使う考え方です。
そして、判断できないことを認めるのも能力です。分からないと言えないと、間違った判断をします。分からないので確認します、が言える人は強い。
そして、判断を求められたときの返し方も決めておいてください。「制作の立場からは判断いたしかねますので、ご確認をお願いします」。断るのではなく、役割を示す言い方です。
条文の主語を見る習慣
誰に対する規定なのか。今回も、第五条の主語、第七条の命令の相手、第二条のみなし規定と、主語を追いながら読みました。
主語を見れば、自分が名宛人かどうかが分かります。分かったうえで、必要な範囲で動く。これができる人は、余計な心配もしません。
主語を見る習慣は、読む速度も上げます。自分に関係のない条は、飛ばせるからです。全部を読まずに済む読み方が身につきます。
そして、関係すると分かった条は、丁寧に読んでください。飛ばすためではなく、絞るための読み方です。絞った先を深く読むほうが、全体を浅く読むより役に立ちます。
まとめ
- 第五条は「事業者は、自己の供給する商品又は役務の取引について、次の各号のいずれかに該当する表示をしてはならない」とし、第一号で「実際のものよりも著しく優良であると示し」、第二号で「取引の相手方に著しく有利であると一般消費者に誤認される表示」を挙げている
- どちらにも「著しく」が入っており、その線は条文に書かれていない。だから、作る側が判断する部分ではない
- 第七条第2項は、表示の裏付けとなる資料について「当該事業者が当該資料を提出しないときは、同項の規定の適用については、当該表示は同号に該当する表示とみなす」としている
- だから「この数字の出典を注釈に入れましょうか」という確認には、条文上の理由がある。疑うのではなく、デザインの提案として聞ける
- 第五条の主語は「事業者」、第七条の命令の相手は「当該事業者」。第二条には「代理人その他の者」を事業者とみなす規定もあるが、適用範囲は「次項及び第三十六条の規定の適用については」と限定されている
- 第八条は課徴金について「売上額に百分の三を乗じて得た額」とし、ただし書きで「百五十万円未満であるとき」などを定めている
- デザインの作業では、注釈の大きさと位置、価格の見せ方、期間や条件の表示、画像の加工が確認どころになる
- 想定モデルはバナー1本で3時間5分、うち確認に関わるのが50分。見積もりの項目として立てておく
- この記事は公開されている条文の紹介であり、法律の解説ではありません。個別の判断は弁護士などの専門家や、消費者庁の窓口にご相談ください
よくある質問(FAQ)
原稿は相手が書いたものです。デザイナーが中身を気にする必要はありますか。
この記事では、責任がどこにあるかという結論は書きません。条文に書かれていることをお伝えします。第五条の主語は「事業者」であり、「自己の供給する商品又は役務の取引について」の表示が対象とされています。第七条の措置命令の相手も「当該事業者」と書かれています。一方で、第二条には「当該事業を行う者の利益のためにする行為を行う役員、従業員、代理人その他の者は、次項及び第三十六条の規定の適用については、これを当該事業者とみなす」という規定もあり、その適用範囲は条文で限定されています。個別の判断は弁護士などの専門家にご相談ください。実務としては、気になる点を確認して情報を渡す、という関わり方が現実的です。
「この数字の根拠はありますか」と聞くのは、失礼になりませんか。
聞き方を変えれば、自然に聞けます。「この数値の出典を、注釈として入れたほうがよいでしょうか」。デザインの提案として聞く形なら、相手を疑うことにはなりません。そして、この質問には条文上の理由もあります。第七条第2項は、表示の裏付けとなる合理的な根拠を示す資料について定め、「当該事業者が当該資料を提出しないときは……当該表示は同号に該当する表示とみなす」としています。出典を確認することは、相手にとっても意味のある確認になります。
注釈はどのくらいの大きさにすればよいですか。
条文に大きさの規定はありません。この記事でも、何ポイント以上といった数字は示しません。ただ、注釈を読めない大きさにする操作をしているのは制作する側なので、作る側が決められる部分では読める側に寄せておく、という方針は立てられます。着手前に最小のサイズを決めておくと、毎回悩まずに済みます。そして、実際に表示されるサイズで確認してください。画面上では読める文字が、縮小表示では読めないことがあります。
相手から「もっと強く言い切ってほしい」と言われたらどうしますか。
判断はこちらでせず、情報を渡して相手に委ねるのが現実的です。第五条の第一号・第二号にはどちらも「著しく」という言葉が入っており、その線は条文に書かれていません。だから、どこからが問題かを制作側が判断する立場にはありません。「表示の裏付けとなる資料について定めた条文がありますので、ご確認いただけますと安心です」と伝えたうえで、指示に従うかどうかはご自身で決めてください。迷う場面では、専門家や消費者庁の窓口に相談する場面になります。
副業として始めるとき、確定申告や会社への影響はどうなりますか。
この記事では広告制作の確認事項だけを扱っています。副業全般の論点は姉妹メディア「20代の放課後」で扱っています。確定申告と20万円ルール、副業の始め方を参照してください。デザインの周辺では、バナー制作の回やフォントのライセンスの回もあわせてどうぞ。
作る前に、条文そのものを読んでおく
表示について定めた法律は、e-Gov法令検索で全文が公開されています。今回見たのは第二条、第五条、第七条、第八条。法令は改正されるので、判断するときは最新の条文を確認し、個別の相談は専門家や消費者庁の窓口へ。