
「転職したら給料は上がるのか」。検索すると、転職サービスの調査結果がたくさん出てきます。
それらが役に立たないわけではありません。ただ、母集団はそのサービスを使った人たちです。国の統計とは見ている集団が違うので、そのまま「転職した人全体の数字」として読むことはできません。
この記事では、国の雇用動向調査を使います。事業所を抽出して行う統計調査で、転職サービスの利用者に限りません。
先に、この数字が誰のものかを確認する
数字の前に前提を置きます。ここを飛ばすと、あとの数字を自分に当てはめすぎます。
- 厚生労働省「令和7年(2025年)雇用動向調査」
- 対象は16大産業に属し、常用労働者5人以上の事業所から抽出した約15,000事業所
- 事業所調査・入職者調査・離職者調査の3本立てで、転職者の賃金変動や辞めた理由は入職者本人が回答
- 「転職入職者」とは、入職者のうち入職前1年間に就業経験のある者
農林漁業や公務は入っていません。常用労働者4人以下の事業所も入っていません。「日本の転職者全体」ではない、ということです。
20代の転職入職率。男女で山の位置が違う
令和7年の転職入職率を、性・年齢階級別に見るとこうなっています。
| 年齢階級 | 男 | 女 |
|---|---|---|
| 19歳以下 | 15.3% | 14.7% |
| 20〜24歳 | 16.5% | 15.8% |
| 25〜29歳 | 14.1% | 17.1% |
| 30〜34歳 | 11.4% | 13.1% |
| 35〜39歳 | 7.8% | 9.3% |
| 40〜44歳 | 7.3% | 10.5% |
調査の本文は、「20〜24歳」以下および「60〜64歳」以上の階級で男性が女性より高く、「25〜29歳」から「55〜59歳」の階級では女性が男性より高いと説明しています。
男性は20代前半、女性は20代後半に山が来ます。そして女性25〜29歳の17.1%は、性・年齢階級別に見たときの最高値です。
30代に入ると、どちらも下がります。動く人が多いのは20代のうち、というのは数字にも出ています。
辞めた理由は、20代前半と後半で変わる
次に、転職した人が前職を辞めた理由です。
ここは調査側の集計方法に沿う必要があります。厚生労働省自身が、男性については「その他の個人的理由」と「その他の理由(出向等を含む)」の両方を除いて順位を述べています。以下も同じ扱いにします。
| 1位 | 2位 | 3位 | |
|---|---|---|---|
| 男 20〜24歳 | 給料等収入が少なかった 13.8% |
労働時間、休日等の労働条件が悪かった 12.4% | 職場の人間関係が好ましくなかった 10.3% |
| 男 25〜29歳 | 給料等収入が少なかった 13.1% |
会社の将来が不安だった 11.0% | 職場の人間関係が好ましくなかった 10.7% |
| 女 20〜24歳 | 労働時間、休日等の労働条件が悪かった 18.8% |
職場の人間関係が好ましくなかった 10.3% | 定年・契約期間の満了 6.5% |
| 女 25〜29歳 | 労働時間、休日等の労働条件が悪かった 14.1% |
給料等収入が少なかった 13.4% | 職場の人間関係が好ましくなかった 10.5% |
女20〜24歳の3位「定年・契約期間の満了」6.5%は、4位「能力・個性・資格を生かせなかった」6.4%との差が0.1ポイントしかありません。しかもこの表には「前職を辞めた理由不詳」が含まれており、女20〜24歳では5.8%がそれに当たります。3位と4位の順番は、そこまで確かなものとして読まないほうがよいでしょう。
なお「定年・契約期間の満了」は、表では定年と契約期間の満了がひとつの項目にまとめられており、内訳は示されていません。
読み取れることが3つあります。
1つめ。男性はどちらの年代も「給料」が1位です。20〜24歳13.8%、25〜29歳13.1%。
2つめ。女性はどちらの年代も「労働時間・休日等」が1位です。とくに20〜24歳は18.8%と高く、2位の人間関係10.3%に大きく差をつけています。
3つめ。25〜29歳になると、男性では「会社の将来が不安だった」が11.0%で2位に入ります。20〜24歳では2.4%しかありません。目先の条件が上位に来る20代前半と、会社そのものの先行きが上位に入る20代後半。理由の構成が違います。ただしこれは令和7年の1時点を年齢階級で切った断面で、同じ人を追いかけた変化ではありません。
女性のほうも、25〜29歳では「給料等収入が少なかった」が13.4%で2位に上がってきます(20〜24歳は5.3%)。
最大の項目は「その他の個人的理由」
ここは書いておいたほうがフェアなので、続けます。
実は、どの区分でもいちばん大きいのは「その他の個人的理由」です。男20〜24歳26.5%、男25〜29歳20.0%、女20〜24歳28.7%、女25〜29歳27.1%。
前の章で「除いて」と書いたのはこの項目です。調査側も除いて順位を述べているので、それに合わせています。
ただ、2〜3割の人が、用意された選択肢のどれでもない理由で辞めているという事実自体は、押さえておく価値があります。
転職サービスの調査で「転職理由の1位は給料」と出るとき、その選択肢は各社が設計したものです。公的統計で大きな「その他」が残るのは、実際の理由が選択肢に収まりきらないことの表れとも読めます。
自分の理由が、よく見るランキングのどれにも当てはまらない。それは珍しいことではありません。
転職して給料はどうなったか

いちばん知りたいところだと思います。
数字で並べるとこうです。
| 増加 | うち1割以上の増加 | 変わらない | 減少 | うち1割以上の減少 | |
|---|---|---|---|---|---|
| 20〜24歳 | 55.2% | 44.2% | 19.9% | 17.5% | 10.2% |
| 25〜29歳 | 49.8% | 34.2% | 25.0% | 23.9% | 16.5% |
| 全年齢階級(計) | 40.8% | 28.2% | 25.5% | 31.0% | 21.9% |
20〜24歳は55.2%が増加、17.5%が減少。差は37.7ポイントです。全年齢階級の差が9.8ポイントなので、20代前半はかなり大きいほうです。
とくに「1割以上の増加」が44.2%。20〜24歳で転職した人の4割以上が、1割以上、賃金が上がっています。
25〜29歳も、増加49.8%に対し減少23.9%で、差は25.9ポイント。
なお前年(令和6年)と比べると、「増加」は20〜24歳が4.7ポイント、25〜29歳が3.5ポイント上昇しています。全体の上昇が0.3ポイントなので、「増加」で見れば20代の伸びのほうが大きいといえます。
ただし中身は、20代前半と後半で別です。20〜24歳は「1割以上の増加」も5.7ポイント上昇していますが、25〜29歳は「1割以上の増加」が3.7ポイント低下しています。増加が3.5ポイント伸びたぶんは「1割未満の増加」(7.3ポイント上昇)に移っただけで、上げ幅の大きい転職が増えたわけではありません。
厚生労働省も同じ並べ方をしていて、全年齢階級の計について「『増加』した割合は0.3ポイント上昇した一方、『1割以上の増加』の割合は1.2ポイント低下した」「『減少』した割合は1.6ポイント上昇し」と書いています。増加側だけを見ていると、この違いには気づけません。
年齢が上がると、この差はどうなるか
「増加−減少」の差を年齢階級で並べると、傾向が見えます。
| 年齢階級 | 増加−減少 |
|---|---|
| 19歳以下 | +48.2pt |
| 20〜24歳 | +37.7pt |
| 25〜29歳 | +25.9pt |
| 30〜34歳 | +19.6pt |
| 35〜39歳 | +19.6pt |
| 40〜44歳 | +17.5pt |
| 45〜49歳 | +11.0pt |
| 50〜54歳 | −12.6pt |
| 55〜59歳 | −13.4pt |
| 60〜64歳 | −33.2pt |
| 65歳以上 | −20.1pt |
おおむね年齢とともに縮小し、50〜54歳でマイナスに転じます。
ただし、きれいな一直線ではありません。30〜34歳と35〜39歳は同じ+19.6ポイントですし、65歳以上(−20.1)は60〜64歳(−33.2)より戻しています。「年齢が上がるほど必ず下がる」とは言えません。
それでも、プラスが大きいのは20代のうちという傾向は読み取れます。
この数字から言えないこと
ここが大事なので、独立して書きます。数字を自分に当てはめる前に読んでください。

- 「20代の◯人に1人が転職した」とは言えません。転職入職率の分母は、年齢階級別では6月末日現在の常用労働者数です。人口に対する割合ではありません
- 「年収が◯割増えた」とは言えません。賃金変動は入職者本人が「1割以上の増加」などの区分で答えたもので、基本給か総支給か、賞与を含むかは「結果の概況」に定義がありません
- 「20代は◯%」とはまとめられません。表には20〜24歳と25〜29歳が別々にあり、20代の合算値は割合から計算できません
- 辞めた理由と賃金変動の表は、母集団が狭くなります。「転職入職者のうち前職雇用者で調査時在籍者」に限られ、前職が自営業だった人と、転職先を調査時点までに離れた人は含まれません
- 表の数字を足しても100%になりません。どちらの表にも「不詳」が含まれています。たとえば賃金変動の20〜24歳は55.2+19.9+17.5で92.6にとどまり、残り7.4%は不詳です
- ここでの「転職」は、日常語より広いです。調査の「入職者」には他企業からの出向者・出向復帰者も含まれ、辞めた理由の表にも「その他の理由(出向等を含む)」という項目があります
最後の点は効いてきます。転職してすぐ辞めた人は、この集計から落ちています。うまくいかなかったケースが一部抜けている可能性がある、ということです。
数字は「転職すれば上がる」を保証するものではありません。そういう人が多かった、という事後の集計として読んでください。
今日からできること

転職するかどうかを今日決める必要はありません。決めるのは順番です。
ステップ1(今日・15分):自分の理由を、選択肢に当てはめずに書く
先ほど見たとおり、公的統計でも2〜3割が「その他の個人的理由」です。用意されたランキングに自分を当てはめる必要はありません。
紙でもスマホのメモでも構いません。「なぜ今の状態が嫌なのか」を、思いついた順に箇条書きにしてください。きれいにまとめないのがコツです。
そのうえで、各項目に「転職で解決するか/しないか」を書き足します。ここで「しない」が多いなら、動く先を間違える可能性があります。
ステップ2(今週・30分):いまの条件を数字にする
比較の土台がないと、提示された条件が良いのか悪いのか判断できません。
- 額面の月給と、直近の賞与の合計:源泉徴収票か給与明細で確認できます
- 先月の実労働時間:残業を含めた合計。勤怠システムで出ます
- 年間休日数:就業規則か労働条件通知書に書いてあります
- 通勤の片道時間:意外と条件比較で効きます
男性の1位は「給料」、女性の1位は「労働時間・休日等」でした。どちらも、いまの数字を知らないと比べられません。
ステップ3(今月・1時間):辞めずに変えられるかを先に試す
これは転職をやめさせたいという話ではありません。順番の話です。
25〜29歳の男性で「会社の将来が不安だった」が2位に来ていました。この理由は、部署異動や業務変更では解決しません。一方で「労働時間」や「人間関係」は、配置転換で変わることがあります。
ステップ1で書いた理由が会社そのものに関わるものなら、動くほうが早い。部署や業務に関わるものなら、社内で試す余地があります。1か月かけて確かめても、遅くはありません。
まとめ
厚生労働省の令和7年雇用動向調査によると、転職入職率は男性が20〜24歳(16.5%)、女性が25〜29歳(17.1%)で山を迎えます。動く人が多いのは20代のうちです。
辞めた理由は、男性はどちらの年代も「給料等収入が少なかった」が1位(13.8%・13.1%)、女性はどちらも「労働時間、休日等の労働条件が悪かった」が1位(18.8%・14.1%)。25〜29歳になると、男性では「会社の将来が不安だった」が11.0%で2位に入ります。
賃金は、20〜24歳で55.2%が増加・17.5%が減少、25〜29歳で49.8%が増加・23.9%が減少。全年齢階級の計(増加40.8%・減少31.0%)より、20代のほうが増加に寄っています。
ただしこれは事後の集計で、転職先を早期に離れた人は含まれていません。「転職すれば上がる」を保証する数字ではない、という前提で見てください。
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よくある質問(FAQ)
Q1. 20代で転職すると給料は上がりますか?
厚生労働省「令和7年(2025年)雇用動向調査」によると、転職入職者のうち前職の賃金と比べて「増加」した割合は、20〜24歳が55.2%、25〜29歳が49.8%でした。「減少」はそれぞれ17.5%、23.9%です。全年齢階級の計では増加40.8%・減少31.0%なので、20代のほうが増加に寄っています。ただしこれは実際に転職した人の事後の集計であり、誰でも上がることを示すものではありません。また賃金の定義(基本給か総支給か、賞与を含むか)は「結果の概況」に記載がありません。
Q2. 20代の転職率はどれくらいですか?
同調査の転職入職率は、20〜24歳が男16.5%・女15.8%、25〜29歳が男14.1%・女17.1%です。ただしこれは人口に対する割合ではありません。転職入職率の分母は常用労働者数で、年齢階級別の場合は6月末日現在の常用労働者数が使われます。また調査対象は16大産業に属する常用労働者5人以上の事業所に限られ、農林漁業や公務は含まれません。「20代の◯人に1人が転職した」という言い方はできない数字です。
Q3. 20代が仕事を辞める理由の1位は何ですか?
男女で違います。同調査で、厚生労働省が男性について除いている「その他の個人的理由」と「その他の理由(出向等を含む)」を除くと、男性は20〜24歳・25〜29歳とも「給料等収入が少なかった」が1位(13.8%・13.1%)です。女性は「その他の個人的理由」を除くと、20〜24歳・25〜29歳とも「労働時間、休日等の労働条件が悪かった」が1位(18.8%・14.1%)でした。
Q4. 20代前半と後半で、辞める理由に違いはありますか?
あります。男性では、25〜29歳で「会社の将来が不安だった」が11.0%で2位に入りますが、20〜24歳では2.4%にとどまります。女性では、25〜29歳で「給料等収入が少なかった」が13.4%で2位に上がりますが、20〜24歳では5.3%です。ただしこれは令和7年の1時点を年齢階級ごとに切った断面であり、同じ人を追いかけた変化ではありません。20代前半と後半で理由の構成が違う、という読み方にとどめてください。
Q5. 「その他の個人的理由」が多いのはなぜですか?
理由までは調査から分かりません。ただし割合は大きく、男20〜24歳26.5%、男25〜29歳20.0%、女20〜24歳28.7%、女25〜29歳27.1%と、いずれの区分でも最大の項目です。厚生労働省自身も順位を述べる際にこの項目を除いています。2〜3割の人が用意された選択肢のどれでもない理由で辞めている、という事実として押さえておくとよいでしょう。
Q6. 年齢が上がると転職で給料は下がりますか?
「増加−減少」の差で見ると、おおむね年齢とともに縮小し、50〜54歳でマイナス(−12.6ポイント)に転じます。ただし一直線ではありません。30〜34歳と35〜39歳はどちらも+19.6ポイントで同じですし、65歳以上(−20.1ポイント)は60〜64歳(−33.2ポイント)より戻しています。「年齢が上がるほど必ず下がる」とは言えませんが、プラス幅が大きいのは若い階級だという傾向は読み取れます。
Q7. 転職サービスの調査と数字が違うのはなぜですか?
母集団が違うためです。転職サービスの調査は、そのサービスを利用した人が対象になります。一方で雇用動向調査は、16大産業に属する常用労働者5人以上の事業所から抽出した約15,000事業所を対象とした統計調査で、事業所調査・入職者調査・離職者調査の3本立てです。どちらが正しいというより、見ている集団が違うと理解してください。
Q8. この調査の数字はいつのものですか?
令和7年(2025年)1年間の状況です。雇用動向調査は上半期調査と下半期調査を合算して年計としています。なお本記事の数値は、同調査の「結果の概況」に掲載された図表から取っています。
Q9. 転職してすぐ辞めた人もこの数字に入っていますか?
入っていない可能性があります。前職を辞めた理由と賃金変動の表には「転職入職者のうち前職雇用者で調査時在籍者についてみたものである(自営業からの転職入職者を含まない)」という注記があります。つまり調査時点でその職場にいた人が対象で、転職先を早期に離れた人や、前職が自営業だった人は含まれません。うまくいかなかったケースが一部抜けている点は、読むときに意識しておくとよいでしょう。
Q10. 転職する前に何をしておけばいいですか?
まず自分の理由を、既存のランキングに当てはめずに書き出すことです。公的統計でも2〜3割が「その他の個人的理由」であり、用意された選択肢に収まらないほうが普通です。そのうえで、各項目が転職で解決するかどうかを書き足します。次に、いまの条件(額面の月給と賞与、先月の実労働時間、年間休日数、通勤時間)を数字にしておくと、提示された条件と比較できます。会社そのものに関わる理由なら動くほうが早く、部署や業務に関わる理由なら社内で変えられる余地があります。


