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開封率は2021年に壊れた
営業メールの効果を測るとき、最初に見るのは開封率でしょうか。その数字は、2021年を境に意味が変わっています。
フォーム営業と違って、メールには開封を測る仕組みがあります。ただし仕組みがあることと、正しく測れていることは別です。
開封はどう測っているか
メールの開封は、本文に埋め込んだ小さな画像で測ります。受信者がメールを開くと画像が読み込まれ、その読み込みを開封として数える。この仕組みが前提です。
つまり「画像が読み込まれた=人が読んだ」という置き換えで成り立っています。ここが崩れると、開封率という数字も崩れます。
そして置き換えが崩れた
入口が2つあるのに、出口は1つ。開封率という数字は、2つを足したものになっている。
フォーム営業との違い
フォーム営業の返信率では、そもそも開封を測る手段が無いと書きました。メールは違います。手段はあるが、出てくる数字が信用できない。
測りようが無いのと、測れるが当てにならないのとでは、対処が変わります。前者は諦めるしかない。後者は数字が出てしまう分、かえって誤解を生みます。
Appleの説明を読む
何が起きているのかを、提供元の説明で確認します。推測ではなく、公式の記述を読みます。
公式の記述
メールプライバシー保護とプライバシーに、こうあります。
「メール送信者があなたの『メール』のアクティビティに関する情報を知ることを防ぎ、あなたのプライバシーを保護することができます」
そして仕組みの説明として、決定的な一文があります。
「あなたがメールをどのように操作したかにかかわらず、リモートコンテンツはデフォルトでバックグラウンドでダウンロードされます」
この一文の意味操作にかかわらず、つまり開いていなくても画像は読み込まれる。開封を測る仕組みの前提が、提供元の設計によって外されています。
IPアドレスも見えない
同じページに、こうも書かれています。「ダウンロードされたすべてのリモートコンテンツは、異なる事業者によって運用される2つの個別のリレーを経由して送信されます」
送信側から見えるのは、リレーのアドレスです。受信者の所在地も、使っている回線も分かりません。
開封時刻から相手の活動時間を推定する、といった分析も成立しなくなります。読み込まれた時刻は、人が開いた時刻ではないからです。
影響の大きさ
どのくらい影響するかは、送信先の受信環境によります。自社のリストの構成は自社にしか分かりません。
今回読んだ解説記事のうち2本が、この影響で開封率が10ポイントから20ポイント水増しされていると書いていました。ただしどちらも算出の根拠は示していません。
数字の大きさより、構造を押さえてください。開封率は「読まれた量」ではなく「受信環境の構成」を映す数字に変わったということです。
他の受信環境でも同じことが起きる
この話をAppleだけの問題と受け取らないでください。同じ方向の変更は、他の受信環境でも進んでいます。
企業のメールサーバーには、届いたメールを開く前に検査する仕組みが入っていることがあります。添付やリンクの安全性を確かめるためのものですが、その過程で本文の画像が読み込まれる場合があります。
この場合も、人は読んでいません。それでも開封として数えられます。
つまり開封率の水増しは、特定の会社の機能の話ではなく、受信側が安全とプライバシーのために取る動きの副産物です。だから今後、元に戻る方向には動きません。
出回っている数字を並べる
次に、返信率の相場を確認します。公開されている解説記事5本を、本文まで読みました。
拾えた数字
| 指標 | 示された値 | 出典の記載 |
|---|---|---|
| 返信率 | 0.1〜1% | なし |
| 返信率 | プラットフォーム全体で3.43% | 海外ツールのベンチマーク。母数は数十億通と記載 |
| 返信率 | 0.45% | 海外の調査。2025年、750万通と記載 |
| 返信率 | 3〜5%が許容、5〜10%が良好 | なし |
| 開封率 | 全業種平均 約21% | 海外ツールの公表値。年の記載あり |
| 開封率 | 全業種平均 36.1% | 別の海外ツールの公表値。年月の記載あり |
| 開封率 | BtoBは20〜25% | なし |
返信率の幅は0.1%から10%
下限0.1%と上限10%で、100倍の幅があります。フォーム営業のときと同じ構造です。
原因も同じで、分母と分子が揃っていません。送信数を分母にするか、到達数を分母にするか。自動返信を分子に入れるか、前向きな返信だけにするか。
誠実な書き方をしていた記事
5本のうち1本は、平均値を出すことを明確に拒んでいました。「異なる条件をまとめた数値を『BtoB営業メールの平均返信率』として掲載しません」と書いています。
そして計算式を示していました。「宛先ベースの返信率=人による返信があった宛先数÷到達した宛先数×100」
分母を「到達した宛先数」、分子を「人による返信があった宛先数」と定義しています。この記事の立場は、次の章で書く設計とほぼ同じです。
また5本のうち4本が、メールプライバシー保護の影響に触れていました。この論点は、業界側でも認識されています。
返信率の分母を決める
ここから設計です。まず分母を1つに決めます。
候補は3つ
| 分母 | 中身 | この分母が答える問い |
|---|---|---|
| 送信した件数 | 送信操作をした総数 | 作業量に対する成果 |
| 到達した宛先数 | 送信数からエラーを引いた数 | 文面の質 |
| リスト全件 | 抽出した企業の総数 | リストからどれだけ商談が生まれるか |
文面を評価したいなら、到達した宛先数です。ここがメールの強みで、フォームと決定的に違うところ。
メールは到達が測れる
宛先が存在しなければ、エラーが返ります。だから送信数から到達数を確定できます。
フォーム営業では、完了画面が出ても届いたかどうか分かりませんでした。メールにはこの問題がありません。到達を分母にできることが、メールの測定上の利点です。
だから2段に分けます。
- 到達率。分母は送信数、分子は到達した宛先数。リストの鮮度を見る
- 返信率。分母は到達した宛先数、分子は返信があった宛先数。文面の質を見る
到達率の分母は送信数、返信率の分母は到達数。入れ子になっているので、1つの率にまとめられない。
エラーを2つに分ける
到達率を出すとき、エラーを2種類に分けてください。
宛先が存在しない恒久的なエラーと、容量超過や一時的な受信拒否です。前者はリストから外す。後者は再送の対象として残す。
混ぜると、リストの鮮度が実際より悪く見えます。この区別は営業リストの鮮度で書いた考え方と同じです。
到達率を何日で締めるか
到達率を出すとき、いつ締めるかを決めてください。エラーは送信直後に返るとは限りません。
宛先が存在しない場合は、たいてい数分以内に返ります。一方、受信側のサーバーが一時的に受け取れない場合は、数時間から数日かけて再試行されたあとにエラーが返ります。
だから送信当日に到達率を出すと、実際より高く出ます。3営業日で締めるのが現実的です。それ以降に返ってきたエラーは、次回の送信前にリストへ反映します。
この日数も、決めたら固定してください。締めの日数が月によって違うと、到達率の比較ができなくなります。
返信を3つに分ける
分母が決まったら分子です。返ってくるものは1種類ではありません。
3つに分類する
| 返ってきたもの | 分子に入れるか | 別に数えるか |
|---|---|---|
| 自動応答(不在通知・受付完了) | 入れない | 到達の裏づけとして使う |
| 断り・配信停止の依頼 | 入れない | 数える。増減が文面の信号になる |
| 人による返信(質問・前向き) | 入れる | これが分子 |
自動応答を分子に入れると、数字が一気に膨らみます。不在通知は一定の割合で必ず返ってくるので、率が安定して高く出てしまう。
自動応答の使い道
捨てずに使ってください。自動応答が返ってきた宛先は、到達が確定した宛先です。
到達数の精度を上げる材料になります。そして不在通知に後任者のアドレスが書かれていることもあり、リストの更新にも使えます。
断りは減点ではない
配信停止の依頼が来ると、失敗のように感じます。ただし断りが来ること自体は、読まれた証拠です。
問題になるのは、急に増えたときだけ。文面か送信先の選び方が変わった合図です。断られた相手の扱いは営業メールの署名で書いた第3条第3項のとおり、以後は送れません。
クリック率はどうか
開封率が使えないなら、クリック率はどうか。こちらは開封率よりは信用できます。ただし条件が付きます。
安全性の検査でリンクが自動的に開かれることがあるためです。本文にリンクを1本だけ置いている場合、その1クリックが人によるものか判別できません。
見分ける方法が1つあります。同一の宛先から、送信直後に全リンクがクリックされている場合は、機械の動きと考えてよい。人は全部のリンクを一度に押しません。
ただしここまでやるなら、返信率を見るほうが早い。返信は人が書かないと発生しません。機械が混ざらない唯一の指標です。
他社の数字と比べない
自分の数字が出ると、相場と比べたくなります。ここは止めてください。
比較が成立する条件
他社の数字と並べてよいのは、次の4つが一致しているときだけです。
- 分母。送信数か、到達数か、リスト全件か
- 分子。自動応答を入れているか、断りを入れているか
- 締めの期間。何日待って集計したか
- 送信先の性質。既存顧客か、完全な新規か
4つ目が特に効きます。既存顧客への配信と、新規開拓のコールドメールでは、桁が違って当然です。これを混ぜた「平均」に意味はありません。
海外の数字はさらに合わない
今回拾った数字のうち、出典が明記されていたものは海外のツールや調査でした。母数が大きく、その点では信頼できます。
ただし母数が大きいことと、自社に当てはまることは別です。商習慣、言語、業種構成、そして受信環境が違います。
外の数字の唯一の使い道
桁の確認です。自社の返信率が20%と出たなら、数え方を疑ってください。自動応答を分子に入れている可能性が高い。
公開されている値がおおむね0.1%から10%の範囲なら、その外に出た時点で計算を見直す合図になります。目標値には使えません。
下がったとき、どこを見るか
2段に分けた効果が、ここで出ます。どちらが下がったかで、直す場所が変わります。
到達率が下がった
リストの鮮度か、送信の仕組みの問題です。文面ではありません。
| 症状 | 疑うところ |
|---|---|
| 宛先不明が増えた | リストが古い。担当者が異動・退職した |
| 一時的な拒否が増えた | 送信量が急に増えた。送信元の評価が下がっている |
| 特定のドメインだけ届かない | そのドメイン側で拒否されている |
返信率が下がった
文面か、送信先の選び方です。順番は文面から。送信先を変えると、比較の土台が変わってしまいます。
変えるのは1か所だけ。件名を変えたなら、本文は触らない。件名の設計は営業メールの件名で書きました。
何件たまったら判断するか
返信率1%の水準なら 到達 200件 返信 2件 1件の増減で率が1.5倍動く 到達 500件 返信 5件 まだ振れ幅が大きい 到達 2,000件 返信 20件 判断に使える 返信が20件たまるまでは、返信率を判断に使わない
到達率は分母が大きいので早く安定する。先に見られるのはこちら。
返信率1%なら、返信20件に必要な到達は2,000件です。それまでは到達率と、断りの件数だけ見ていれば足ります。
下がる前に気づく
返信が20件たまるまで返信率を見られないなら、その間は何も分からないのか。そうではありません。
返信率より早く動く指標が2つあります。到達率と、断り率です。どちらも分母が大きいので、少ない件数でも傾向が出ます。
到達率が落ちたらリストが古い。断り率が上がったら文面か送信先が合っていない。この2つは、返信率が判断に使えるようになる前の早期警報として機能します。
そして断り率には上限を決めておいてください。ここを超えたら送信を止めて文面を見直す、という線です。放っておくと、送信元の評価が下がって到達率にも響きます。
運用に落とす
最後に、決めることを整理します。
記録する列
送信履歴の表 送信日 / 宛先ID / 到達の可否 / エラーの種類 返信の有無 / 返信の種類 / 返信日 集計する値 到達率 到達した宛先数 ÷ 送信数 返信率 人による返信があった宛先数 ÷ 到達した宛先数 断り率 配信停止・断りの件数 ÷ 到達した宛先数
3つとも分母が違う。どの値も、分母を書いた状態で残す。
開封率をどう扱うか
取得をやめる必要はありません。ただし判断に使わないと決めてください。
取っておく価値があるのは、同じ条件で並べたときの変化だけです。同じリストに同じ時間帯で送り続けているなら、大きな変動には何か理由があります。
ただしその理由が受信環境の変化である可能性が、常に残ります。だから開封率が動いても、それ単独で施策を変えないでください。
ツールの数字をそのまま信じない
配信ツールを使っている場合、画面に率が表示されます。ここで1つ確かめてください。その率の分母が何かです。
ツールによって、開封率の分母が「送信数」だったり「到達数」だったりします。返信率を表示するツールでは、自動応答を含めているものもあります。
同じ配信について、ツールの画面と自分の計算で値が違うなら、ほぼ確実に分母か分子が違います。どちらが正しいかではなく、どちらの定義を使うかを決めてください。
そしてツールを乗り換えたときは、必ず数字が飛びます。乗り換えの前後をまたいで比較しないこと。切り替えた日を記録に残しておけば、後から見た人が誤解しません。
定義を1枚に残す
分母、分子、締めの日数、エラーの分類。この4つを1枚に書いて、記録の表と同じ場所に置いてください。
書いていないと、半年後に数字を見返したときに当時の定義を思い出せません。数字だけ残って定義が消えた記録は、比較に使えなくなります。
そして定義を変えたら、変えた日を残す。変更前後をまたいだ比較をしないためです。
誰が数えるかを決める
最後に、抜けやすいところを。返信の分類を誰がやるかを決めてください。
自動応答か、断りか、人による返信か。この判定は機械では完全にできません。「担当が変わりました」という返信は、断りでも前向きでもなく、リストの更新情報です。
だから受信箱を見る人が、その場で分類して記録に入れる形にしてください。あとでまとめて分類する運用は、必ず溜まります。
そして分類の基準は1枚に書いて共有する。人によって「前向き」の線が違うと、月をまたいだ比較が成立しません。判定に迷った例を月に1回持ち寄って揃えると、精度が上がります。
まとめ
- 開封は本文の画像の読み込みで測る。「画像が読み込まれた=人が読んだ」という置き換えで成り立っている
- Appleの公式説明にこうある。「あなたがメールをどのように操作したかにかかわらず、リモートコンテンツはデフォルトでバックグラウンドでダウンロードされます」
- つまり開いていなくても画像は読み込まれる。開封率の前提が、提供元の設計によって外されている
- リレーを経由するため、受信者のIPアドレスも所在地も分からない。開封時刻からの推定も成立しない
- 開封率は「読まれた量」ではなく「受信環境の構成」を映す数字に変わった
- 解説記事5本を本文まで読んだ。うち4本がこの影響に触れていた
- 返信率の幅は0.1%から10%で100倍。原因は分母と分子が揃っていないこと
- 1本は平均値を出すことを明確に拒み、「人による返信があった宛先数÷到達した宛先数」と定義していた
- メールは到達が測れる。エラーが返るので、送信数から到達数を確定できる。フォームとの決定的な違い
- 2段に分ける。到達率でリストの鮮度、返信率で文面の質
- エラーは2種類に分ける。恒久的なエラーはリストから外し、一時的な拒否は再送対象に残す
- 分子に自動応答と断りを入れない。自動応答は到達の裏づけとして使う
- 断りが来ること自体は読まれた証拠。問題になるのは急に増えたときだけ
- 他社の数字と比べない。とくに既存顧客への配信と新規開拓を混ぜた「平均」に意味はない
- 外の数字の唯一の使い道は桁の確認。20%が出たら自動応答を数えている
- 到達率が下がったらリストか送信の仕組み。返信率が下がったら文面から直す
- 返信が20件たまるまで返信率を判断に使わない。返信率1%なら到達2,000件
- 開封率は取得してもよいが判断に使わない。動いても、それ単独で施策を変えない
- 分母・分子・締めの日数・エラーの分類を1枚に書いて記録と同じ場所に置く
メール営業は、フォーム営業より測れる要素が多い。ただし測れるものが多いことと、当てになる数字が多いことは別です。到達率と返信率の2つに絞って、定義を自分で決める。開封率は、その2つが揃ってから参考にする程度で足ります。
よくある質問
営業メールの返信率の平均はどのくらいですか
公開記事5本を本文まで読みましたが、0.1%から10%まで100倍の幅がありました。出典が明記されていたのは海外のツールや調査のもので、国内の新規開拓に当てはまる保証はありません。原因は分母と分子が揃っていないことです。平均を探すより、自分の定義を決めて先月と比べるほうが実務では役に立ちます。
営業メールの開封率はどのくらいが平均ですか
海外ツールの公表値で全業種平均21%や36.1%という数字がありますが、この指標自体を判断に使わないでください。Appleの公式説明に「あなたがメールをどのように操作したかにかかわらず、リモートコンテンツはデフォルトでバックグラウンドでダウンロードされます」とあり、開いていなくても開封として数えられます。
件名を変えると開封率は上がりますか
上がったとしても、それが件名の効果かは確かめられません。開封率には、人が読んだ分と自動で読み込まれた分が混ざっているためです。件名の効果を測りたいなら、開封率ではなく返信率で比べてください。分母を到達した宛先数に固定して、件名だけを1か所変えます。
返信率の分母は何にすればいいですか
文面を評価したいなら、到達した宛先数です。メールはエラーが返るので、送信数から到達数を確定できます。ここがフォーム営業との決定的な違いです。リストの鮮度は「到達率」として別に出し、2段構成にしてください。数字が動いたときに原因を1つに絞れます。
自動返信は返信に数えますか
数えません。不在通知や受付完了の自動応答は一定の割合で必ず返ってくるので、分子に入れると率が安定して高く出てしまいます。ただし捨てずに使ってください。自動応答が返った宛先は到達が確定するため、到達数の精度を上げる材料になります。後任者のアドレスが書かれていることもあります。
何件送れば返信率を判断に使えますか
返信が20件たまるまで待ってください。返信率1%なら到達2,000件です。到達200件で返信2件の段階では、1件の増減で率が1.5倍動きます。それまでは到達率と断りの件数だけ見ていれば足ります。到達率は分母が大きいので、早く安定します。
開封率はもう取らなくていいですか
取得をやめる必要はありませんが、判断には使わないと決めてください。価値があるのは、同じリストに同じ条件で送り続けたときの変化だけです。ただしその変化が受信環境の変化である可能性は常に残るため、開封率が動いても、それ単独で施策を変えないでください。