この記事の内容
立ち上げが失敗する順番
インサイドセールスを立ち上げるとき、最初にやることは何か。多くの場合、人を採ることかツールを選ぶことから始まります。
この順番だと、まず止まります。理由は単純で、渡す先が決まっていないからです。
よくある立ち上げの順番
| よくある順番 | 何が起きるか |
|---|---|
| 1. 人を採る/担当を決める | やることが決まっていないので、本人が自分で考えることになる |
| 2. ツールを選ぶ | 記録する項目が決まっていないので、初期設定で止まる |
| 3. リストを作る | 誰に当てるかが決まっていないので、量だけ増える |
| 4. 架電・送信を始める | アポが取れても、渡す先が「とりあえず営業部」になる |
| 5. 現場から苦情が出る | 「こんな案件を渡すな」。ここで止まる |
5番目まで来てから基準を作り直すことになります。先に決めておけば済んだことを、現場の不信感を抱えた状態でやる。これが最も重い遠回りです。
順番を逆にする
決めるべき順番は、渡す先 → 記録 → リスト → 架電です。人とツールは、この後ろに来ます。
渡す先、つまり誰が受け取って、どうなったら成功なのか。ここが決まっていないと、他のすべてが評価できません。
同じ5工程でも、順番が違うと最後に作り直しになる。渡す先を最初に置く。
架電は3週目から。前半2週は準備で、ここを飛ばすと最後に作り直しになる。
1週目。渡す先を決める
最初の1週間で決めるのは、受け取る側との約束です。架電はまだしません。
決める4つ
- 何を渡すか。アポなのか、資料送付の許可なのか、情報提供だけなのか
- どの状態なら渡してよいか。渡してよい条件を箇条書きにする
- 誰が受け取るか。部署ではなく人の名前
- 受け取ったあと何日以内に動くか。受け取る側の約束
4つ目を忘れないでください。渡す側だけが約束を負う形にすると、受け取る側が動かなくても誰も困らない状態になります。
渡してよい条件は、最初は緩くする
条件を厳しく作りたくなりますが、最初は緩めに置いてください。厳しすぎると件数が出ず、何が足りないのかを測るためのデータが溜まりません。
基準の作り方はインサイドセールスのトスアップ基準で書きました。立ち上げ期は、そこで挙げた条件のうち2つか3つだけから始めます。
そして条件を1か月変えないと決めてください。途中で変えると、前半と後半のデータが比較できなくなります。
書面にして両方が持つ
口頭で決めると、必ずずれます。1枚にまとめて、渡す側と受け取る側の両方が同じものを見られる場所に置いてください。
そしてその1枚に日付を入れる。1か月後に見直すとき、いつ決めたものかが分かります。
受け取る側を巻き込む
1週目の難所は、条件を決めることより受け取る側に時間を使ってもらうことです。
「とりあえず始めてみて、後で調整しましょう」と言われることがあります。善意の言葉ですが、これを受けると条件が無いまま始まります。
通す方法が1つあります。条件のたたき台をこちらで作って、直してもらう形にする。ゼロから考えてもらうのと、直してもらうのでは、必要な時間が違います。
30分で終わる形にしてください。1枚に5行書いて、その場で赤を入れてもらう。会議を設定すると、日程調整で2週間が消えます。
2週目。リストと記録を作る
渡す先が決まったら、次は手元の準備です。ここもまだ架電しません。
記録を先に作る
リストより記録を先に作ってください。順番が逆だと、架電を始めてから記録の項目を足すことになります。
途中で項目を足すと、最初の数百件に値が入っていない列ができます。その列は集計に使えません。
必要な項目はテレアポの記録項目で書いたとおり、通話中に4つ、通話後に2つ。立ち上げ期でもこれは減らさないでください。
リストは300件から始める
最初から数千件を用意しないこと。300件あれば、最初の1か月は足ります。
理由は2つあります。1つ目、立ち上げ期はリストの条件自体が間違っている可能性が高い。大量に作ってから間違いに気づくと、作り直しの量が増えます。
2つ目、リスト作成に時間をかけると、架電を始めるのが遅れます。立ち上げで最も価値があるのは、早く数字を見始めることです。
作り方は営業リストの鮮度で書いた公的データからの作成が、最も早くて制約も少ない。
この週に用意する3つ
1 記録の表(会社の表と履歴の表の2つ) 2 リスト300件(取得元の列つき) 3 トークスクリプトの初版 スクリプトは完成させない。 3週目に使いながら直すので、初版は骨格だけでよい
3つとも、2週目のうちに「使える状態」にする。完成度は問わない。
リストの条件を1枚に書く
300件を作るとき、どういう条件で抽出したかを1枚に書いてください。業種、規模、エリア、そして除外した条件。
これを書いておく理由は、1か月後に条件が合っていたかを検証するためです。接続率が低かったとき、トークの問題かリストの問題かを切り分ける材料になります。
書いていないと、「なんとなくこのあたりを抽出した」という状態になります。再現できない条件は、良くても悪くても次に活かせません。
そして取得元の列も必ず入れてください。公的データか、公開情報か、他社から受け取ったものか。立ち上げ期に入れておけば、後から全件を遡る作業が要りません。
3週目。少量で回す
ここで初めて架電します。ただし量は抑えます。
1日20件から
最初の週は1日20件程度で足ります。件数を追うと、記録が雑になります。
この週の目的は、件数を出すことではありません。記録が最後まで埋まる状態を作ることです。
20件やってみて、記録の入力率が8割を切るなら、項目が重すぎます。件数を増やす前に、項目を削ってください。
毎日、終わりに15分
その日の記録を見返す時間を、毎日15分だけ取ってください。立ち上げ期はこれが効きます。
見るのは2つ。記録が埋まっているか。そして、相手の言葉として何が多いか。
断り文句が3回続けて同じなら、その週のうちにスクリプトを直せます。月末まで待つ必要はありません。
この週に出るはずの問題
| 出る問題 | 対処 |
|---|---|
| 記録が埋まらない | 項目を削る。件数は増やさない |
| 受付で切られ続ける | 最初の1文を直す。1か所だけ |
| 不通が多い | リストの条件か、時間帯。先にリストを疑う |
| アポは取れるが渡せない | 1週目の条件が厳しすぎる。緩める |
最後の行が出たら、1週目に戻って条件を見直してください。ここだけは、1か月待たずに直してよい例外です。
スクリプトは使いながら直す
2週目に作った初版は、骨格だけで構いません。3週目に使いながら直すほうが、机上で完成させるより速い。
直す箇所には順番があります。最初の1文、名乗りの直後、そして用件の言い方。この順で、1日に1か所だけ変えてください。
複数箇所を同時に変えると、どれが効いたか分かりません。20件という少ない件数では、なおさら判別できなくなります。
そして変えた日を記録に残す。後から数字を見返すとき、変更の前後で分けて数えられます。設計の考え方はトークスクリプトの作り方のとおりです。
4週目。数えて直す
最後の1週間で、数字を出します。
出すのは4つだけ
接続率 人が出た件数 ÷ 架電件数 通過率 担当者と話せた件数 ÷ 人が出た件数 前進率 前進した件数 ÷ 担当者と話せた件数 渡せた率 渡した件数 ÷ 前進した件数
4つとも分母が違う。前の工程の結果が、次の分母になる。
立ち上げ期は、この4つで足ります。アポ数という1つの数字だけ見ると、どこで落ちているか分かりません。
件数が足りないのは当然
1日20件で3週目から始めたなら、月末時点の架電は200件前後です。この件数で率を判断してはいけません。
では何のために出すのか。計算できる状態かどうかを確かめるためです。
どれか1つでも計算できないなら、記録に穴があります。来月の前に直してください。これが30日目の本当の成果物です。
渡した先がどうなったかを追う
渡した案件が、受け取る側でどうなったか。ここまで見てください。
渡して終わりにすると、渡す条件が合っているかどうかを永久に評価できません。件数が少ない立ち上げ期こそ、1件ずつ追えます。
追う項目は3つ。受け取った日、最初に動いた日、そして現在の状態。
渡した先の反応を聞きに行く
4週目にもう1つやることがあります。受け取る側に、渡した案件の感想を聞くことです。
数字では見えないものが出てきます。「条件は満たしているが、話がかみ合わなかった」という評価は、記録には残りません。
聞き方は具体的にしてください。「どうでしたか」ではなく、「渡した3件のうち、商談に入りやすかったのはどれですか」。比較で聞くと答えやすくなります。
そして出てきた違いを、1週目の条件に足すかどうかを判断します。条件を増やすのは、この時点から。最初から詰め込むと、件数が出ずに検証できません。
1人で始める場合
専任がおらず、他の業務と兼任で始める場合の話です。
時間を先に固定する
兼任で最も多い失敗は、時間が取れない日が続いて、そのまま止まることです。
防ぎ方は1つ。予定表に架電の時間を先に入れて、他の予定を入れないこと。空いた時間にやる、という形では続きません。
1日2時間を週3日。これだけでも、1か月で十分なデータが溜まります。毎日やる必要はありません。
渡す先が自分の場合
1人で始めると、アポを取るのも商談するのも自分になります。この場合でも1週目の4つは決めてください。
自分が受け取るからこそ、基準が曖昧になります。「なんとなく見込みがありそう」で商談を入れると、商談の時間が溶けます。
条件を書いておけば、自分の判断を後から検証できます。渡す先が自分でも、書面は要ります。
記録を省かない
1人だと、記録を省きたくなります。覚えているからです。
ただし覚えているのは直近の数十件だけ。200件を超えると、どの会社に何を言われたか分からなくなります。
そして人を増やすときに、記録が無いと引き継げません。立ち上げ期の記録は、将来の自分ではなく次の人のために取ります。
他の業務から守る
兼任で始めると、架電の時間が真っ先に削られます。他の業務には締切があり、架電にはないからです。
だから架電にも締切を作ってください。週の終わりに「今週の架電件数」を誰かに報告する形にするだけで、守られ方が変わります。
報告先は上長でも、同じ立ち上げを進めている人でも構いません。重要なのは自分以外が件数を知っていることです。
そして報告するのは件数と入力率だけにしてください。アポ数を報告させると、件数を追う動きが出ます。立ち上げ期に追うべきはそこではありません。
外部に頼む場合
立ち上げを外部に委託する選択もあります。判断の材料を書いておきます。
委託しても決めるのは自社
1週目の4つは、委託しても自社で決める必要があります。渡す先と条件を外部が決めることはできません。
ここが曖昧なまま委託すると、委託先は件数を追います。件数は出るが、渡された案件が使えないという状態になる。
よくある不満の正体は、委託先の質ではなく、条件を渡していなかったことです。
委託するときに渡す3つ
- 1週目に作った1枚。渡してよい条件と、受け取る人
- 記録の項目。委託先の様式ではなく、自社の様式で出してもらう
- 禁止事項。送ってはいけない相手、使ってはいけない情報源
2つ目が重要です。委託先の形式で報告を受けると、委託をやめた瞬間にデータが使えなくなります。
3つ目については、地図サービスからの取得を禁じる1行を入れてください。根拠は地図サービスから営業リストを作っていいのかで整理しました。
自社でやる場合との比較
| 項目 | 自社でやる | 外部に頼む |
|---|---|---|
| 立ち上がりの速さ | 遅い。手順を作るところから | 速い。手順は持っている |
| スクリプトの改訂 | 自分で回せる | 依頼が要る。反映に時間がかかる |
| 記録の蓄積 | 自社に残る | 様式を指定しないと残らない |
| 条件の見直し | その場でできる | 契約の範囲による |
最初の30日に限れば、外部に頼んでも自社の学習は進みません。手順が自社に残らないからです。
逆に、量を早く出したい段階では有効です。順番としては、自社で30日回して基準を作ってから委託するのが無駄が少ない。
契約の期間を短くする
委託する場合、最初の契約は短くしてください。3か月より、1か月を2回のほうが学習が進みます。
1か月目のデータを見てから条件を直し、2か月目に反映する。長期で契約すると、この見直しが契約更新のタイミングまで待つことになります。
単価は上がりますが、条件が合っていない状態で3か月回すほうが損です。件数は出るが使えない案件が積み上がります。
そして契約書に、月次で条件を見直す旨を1行入れてください。見直しが契約の一部になっていれば、委託先も前提として動けます。
30日のあとに決めること
30日で作るのは件数ではなく、判断できる状態でした。では何を判断するか。
3つの判断
- 渡す条件は合っていたか。渡した案件が受け取る側で動いたか
- どこで落ちているか。4つの率のうち、最も低いのはどこか
- 量を増やしてよいか。記録の入力率が保たれているか
3つ目が条件です。入力率が落ちている状態で件数を増やすと、数字が出なくなります。
増やす順番
量を増やすときも順番があります。1日の件数 → 稼働日 → 人数の順です。
いきなり人を増やすと、手順が固まっていないものを複数人で回すことになります。同じ会社に2人が掛ける事故も起きます。
1人で1日40件まで上げて、入力率が保たれる。それを確認してから、2人目を入れてください。
2か月目に足すこと
30日で手を付けなかったものを、2か月目に足します。
時間帯の測定。曜日の比較。そしてスクリプトの型を増やすこと。どれも1か月目のデータが無いと設計できないものです。
逆に言えば、1か月目にこれらをやろうとすると、判断材料が無いまま形だけ作ることになります。
やらないことを決める
30日で手を付けないものも、先に決めておいてください。決めておかないと、途中で気になって手を出します。
この期間にやらないのは、時間帯の最適化、曜日の比較、スクリプトの型を複数持つこと、そしてツールの導入です。
どれも1か月目のデータが無いと設計できません。データが無い状態で作ると、形だけできて後から全部やり直すことになります。
やらないことを書いておくと、周囲からの提案も断りやすくなります。「2か月目にやります」と言える状態にしておくのが、立ち上げを前に進める条件です。
まとめ
- よくある順番は人 → ツール → リスト → 架電。これだと最後に現場の苦情で止まる
- 決める順番は渡す先 → 記録 → リスト → 架電。人とツールはその後ろ
- 1週目に決める4つ。何を渡すか/どの状態なら渡すか/誰が受け取るか/受け取ったあと何日で動くか
- 4つ目を忘れない。渡す側だけが約束を負うと、受け取る側が動かなくても誰も困らない
- 渡してよい条件は最初は緩く。厳しすぎると、何が足りないかを測るデータが溜まらない
- 条件は1か月変えない。途中で変えると前半と後半が比較できない
- 2週目はリストより記録を先に作る。後から項目を足すと、最初の数百件に穴が開く
- リストは300件から。大量に作ってから条件の間違いに気づくと、作り直しが増える
- 3週目で初めて架電。1日20件。目的は件数ではなく、記録が最後まで埋まる状態を作ること
- 入力率が8割を切るなら項目が重い。件数を増やす前に項目を削る
- 毎日15分、記録を見返す。断り文句が3回続けて同じなら、その週のうちに直せる
- 「アポは取れるが渡せない」が出たら、1か月待たずに1週目の条件を緩める
- 4週目に出す率は4つ。接続率・通過率・前進率・渡せた率
- 件数が足りないのは当然。率を判断するのではなく、計算できる状態かを確かめる
- 渡した案件が受け取る側でどうなったかまで追う。件数が少ない立ち上げ期こそ1件ずつ追える
- 兼任なら予定表に架電の時間を先に入れる。1日2時間を週3日で足りる
- 渡す先が自分でも書面は要る。自分が受け取るからこそ基準が曖昧になる
- 委託しても1週目の4つは自社で決める。不満の正体は委託先の質ではなく、条件を渡していなかったこと
- 委託するなら記録は自社の様式で出してもらう。委託先の形式だとやめた瞬間に使えなくなる
- 量を増やす順番は1日の件数 → 稼働日 → 人数
最初の30日で作るのは、件数ではありません。判断できる状態です。4つの率が計算できて、渡した案件を追えている。ここまで来ていれば、2か月目からは数字を見ながら増やせます。
よくある質問
インサイドセールスの立ち上げは何から始めますか
渡す先を決めることからです。人を採る、ツールを選ぶ、リストを作る、の順で進めると、アポが取れたあとに「こんな案件を渡すな」という苦情で止まります。先に、何を渡すか・どの状態なら渡してよいか・誰が受け取るか・受け取ったあと何日で動くかの4つを決めてください。
インサイドセールスとフィールドセールスの違いは何ですか
立ち上げの文脈では、工程の分け方の違いとして捉えてください。インサイドセールスが接触して条件を満たした案件を作り、フィールドセールスが商談する。重要なのは名前ではなく、2つの間に「渡してよい条件」があるかどうかです。この条件が無いと、分けた意味がありません。
立ち上げでよくある失敗は何ですか
最も多いのは、渡す先を決めないまま始めることです。次に多いのが、リストを大量に作ってから条件の間違いに気づくこと、そして記録の項目を後から足して最初の数百件に穴が開くこと。どれも順番の問題で、渡す先・記録・リスト・架電の順にすれば起きません。
最初は何件くらい架電すればいいですか
1日20件程度で足ります。この段階の目的は件数ではなく、記録が最後まで埋まる状態を作ることです。20件やって記録の入力率が8割を切るなら、項目が重すぎます。件数を増やす前に項目を削ってください。1日40件まで上げても入力率が保たれるなら、次の段階に進めます。
立ち上げを外部に委託してもいいですか
委託しても、渡す先と渡してよい条件は自社で決める必要があります。ここが曖昧なまま委託すると、委託先は件数を追い、渡された案件が使えない状態になります。よくある不満の正体は、委託先の質ではなく条件を渡していなかったことです。記録も自社の様式で出してもらってください。
1人でも立ち上げられますか
できます。ただし予定表に架電の時間を先に入れて、他の予定を入れないでください。空いた時間にやる形では続きません。1日2時間を週3日で、1か月分のデータは溜まります。そして渡す先が自分でも、渡してよい条件は書面にしてください。自分が受け取るからこそ基準が曖昧になります。
30日経ったら何を見ればいいですか
接続率・通過率・前進率・渡せた率の4つです。ただし件数が少ないので、率そのものを判断材料にはできません。見るのは「4つとも計算できる状態か」です。どれか1つでも計算できないなら記録に穴があります。これを直すことが、30日目の本当の成果物です。