
営業メールをAIに書かせると、驚くほど自然な文面が出てきます。ただ、その文面をそのまま送れるかというと、ほとんどの場合そうではありません。広告や宣伝のためのメールには、法律で表示が義務づけられている項目があり、AIはそれを知らないまま本文だけを作るからです。
この記事では、総務省が公開している「特定電子メールの送信の適正化等に関する法律のポイント」をもとに、AIが作った文面を送れる状態にするまでに人が足すものを整理しました。資料は総務省のサイトから取得したものです。なお本記事は法令の解説ではなく、自社の運用を組み立てるための整理です。最終的な判断は自社の法務部門や専門家に確認してください。
結論:AIが作るのは本文だけ
先に全体像を示します。AIに任せられる部分と、人がやるしかない部分の線引きがはっきりすると、確認にかかる時間が一気に短くなります。ここを曖昧にしたまま運用を始めると、毎回すべてを読み直すことになります。
足りないのは文章力ではなく、3つの要素
AIが生成するのは、あいさつから本題、結びまでの本文です。しかし総務省の資料によると、広告宣伝メールを送るときに満たすべきことは本文の外側にあります。整理すると3つです。1つ目、そもそもその相手に送っていいのか。2つ目、メールに表示しなければならない項目が入っているか。3つ目、同意の記録を保存しているか。どれも文章のうまさとは関係がなく、AIが判断できる範囲の外にあります。だから「良い文面が出たから送れる」とはなりません。逆にいえば、この3つを定型で押さえてしまえば、本文はAIに任せて構わないということでもあります。
対象になるメールの範囲
まず、どこからが規制の対象かを押さえます。総務省の資料は、対象となるのは広告宣伝のために送信される電子メールだとしたうえで、いくつか補足を挙げています。携帯端末同士で電話番号によりメッセージを送受信するサービス、たとえばショートメッセージサービス(SMS)も対象になります。他人の営業のために送信されるものも対象です。海外から送信され、日本に着信する広告宣伝メールも対象になります。一方で、非営利団体や営業を営まない個人が送信する電子メールは対象外とされています。つまり、会社の営業として送る以上は、基本的に対象だと考えて組み立てるのが安全です。
AIに任せる部分と、人がやる部分
下の3つを定型にしてしまえば、毎回考えるのは本文だけになる。
まず「送っていい相手か」を決める
文面を作るより前の工程です。ここが決まっていないと、どれだけ良い文面でも送れません。制度の考え方と、同意がなくても送れるとされている場合を順に見ていきます。例外には条件が付いているので、そこまでセットで押さえてください。
原則はオプトイン方式
総務省の資料は、いわゆる迷惑メール対策について、原則としてあらかじめ同意した者に対してのみ広告宣伝メールの送信が認められる「オプトイン方式」が導入されていると説明しています。つまり、同意がない限り送信は禁止で、同意があった場合に送信できる、という構造です。ここでいう同意は、こちらが「送ってもいいだろう」と判断することではなく、相手から得るものです。営業リストを買ってきて一斉に送る、という発想がそもそも制度の前提と合っていない、ということでもあります。まずこの原則を出発点に置いてください。
同意なしに送信できるとされている場合
そのうえで、資料は例外として、同意なしに送信することができる場合を挙げています。取引関係にある者に送信する場合。名刺などの書面により自己の電子メールアドレスを通知した者に対して送信する場合。自己の電子メールアドレスを通知した者に対して、同意の確認をするためのメール、契約や取引の履行に関する事項を通知するメールであって付随的に広告宣伝が行われているもの、フリーメールサービスを用いたメールであって付随的に広告宣伝が行われているものを送る場合。そして、自己の電子メールアドレスをインターネットで公表している者に送信する場合です。ただしこの最後のものには、個人の場合は営業を営む場合の個人に限る、という限定が付いています。
例外にも条件が付いている
例外には注記があり、ここを読み落とすと危ない部分です。資料の注記には、取引関係にある者と名刺で通知を受けた者への送信について、送信される電子メールが通信販売などの電子メール広告の場合には、特定商取引法が適用されるため、請求・承諾なしに送信することはできないと書かれています。もうひとつ、インターネットで公表しているアドレスについては、アドレスの公表と併せて、広告宣伝メールの送信をしないように求める旨が公表されている場合は、同意なく送信することはできないとされています。会社のサイトに「営業目的のご連絡はお断りします」と書かれているケースがこれに当たります。公開されているから送っていい、とは限らないということです。
名刺とWeb公開アドレスの扱い
営業の現場でいちばん頻度が高いのが、この2つの入口です。どちらも例外として挙げられていますが、条件の読み方が違います。運用に落とすときに、どこを記録し、どこを人が確認するのかまで含めて整理します。どちらも一度決めれば使い回せます。
名刺は「書面により通知を受けた」入口
総務省の資料が挙げているのは、名刺などの書面により自己の電子メールアドレスを通知した者に対して送信する場合、という表現です。つまり名刺そのものが特別扱いされているというより、相手が自分の意思でアドレスを書面で渡してきた、という事実が根拠になっています。ここで実務上の注意点があります。名刺をもらったのは誰か、いつか、という情報が残っていないと、後からこの入口に該当することを説明できません。交換した日と場面を記録に残す運用にしておくと、あとで迷いません。これは次章の記録の話とも直結します。
Webに公開されたアドレスは条件付き
もうひとつが、インターネットで公表されているアドレスです。資料は、自己の電子メールアドレスをインターネットで公表している者に送信する場合を例外に挙げつつ、個人の場合は営業を営む場合の個人に限る、としています。そして先ほど触れたとおり、公表と併せて広告宣伝メールの送信をしないよう求める旨が公表されている場合は、同意なく送信することはできないとされています。実務に落とすと、送信先の一覧を作る段階で、そのサイトに営業メールを断る記載がないかを確認する工程が要る、ということです。AIにリストを作らせる場合でも、この確認は人が担当する部分になります。
AIの文面に必ず足す表示
ここが、AIが書いた文面に人が必ず足す部分です。項目は決まっているので、定型文として用意しておけば毎回の作業は貼り付けるだけになります。ただし何をどこに置くかまで指定があるので、並べれば済むわけではありません。
表示が義務づけられている項目
総務省の資料は、広告宣伝メールの送信に当たって表示が義務づけられているものとして、次を挙げています。送信者などの氏名または名称。受信拒否の通知ができる旨。受信拒否の通知を受けるための電子メールアドレスまたはURL。送信者などの住所。苦情・問合せなどを受け付けることができる電話番号、電子メールアドレス、URL。あわせて、送信者情報、つまり送信に用いた電子メールアドレス、IPアドレス、ドメイン名を偽って送信することは禁止されている、とも書かれています。AIに文面を書かせると、この5項目はまず入りません。本文の末尾に貼り付ける定型ブロックとして、あらかじめ作っておくのが現実的です。
置き場所にも指定がある
項目を並べるだけでは足りない部分があります。資料は、受信拒否の通知ができる旨について、受信拒否の通知先の直前または直後に表示する必要があるとしています。また、送信に用いられた電子メールあてに送信することで通知できる場合は、その旨を電子メールの中の受信者が容易に認識できる場所に表示する必要がある、とも書かれています。URLで案内する場合についても、リンク先において受信拒否に必要な情報が明確かつ平易に提供され、受信拒否の通知が容易に行えるよう、必要な措置が講じられている必要があるとされています。リンクを貼れば済む、という話ではないということです。
リンク先にまとめてよいもの
一方で、リンク先での表示が認められているものもあります。資料によると、送信者などの住所と、苦情・問合せなどを受け付けることができる連絡先については、リンク先での表示とすることも可能です。ただし条件があり、その場合は表示場所を示す情報を電子メールの中に表示する必要があるとされています。また、特定商取引法上の販売業者などと送信者などが異なる場合には、販売業者などの氏名または名称と、相手方が電子メール広告の提供を受けない旨の意思を表示するための連絡先も必要になると書かれています。代理店が送る場合などが該当します。
同意の記録を残す
ここは送信の前後で発生する事務です。見落とされやすい一方で、残すものと期間が具体的に決まっています。AIの話からは離れますが、運用として組み込んでおかないと後で困る部分です。先に型を作っておけば負担は軽く済みます。
何を残すか
総務省の資料は、広告宣伝メールの送信に当たっては、受信者から送信することについて同意をとっている旨の記録を保存する必要があるとしています。保存するものとして挙げられているのは、個別の電子メールアドレスについて、同意を受けた際の状況を示す記録、具体的には時期と方法などです。加えて、同意の取得に際して書面の提示、電子メールの送信、ウェブサイトからの通信文の伝達をしていた場合は、電子メールアドレスのリストに加えて、その書面や通信文のうち定型的な事項とすることも可能だとされています。毎回の文面を全部残す必要はなく、型のほうを残せばよい、という趣旨です。
保存期間は用途で変わる
期間も具体的です。資料によると、記録の保存に係る広告宣伝メールを最後に送信した日から1ヶ月が基本で、ただし特定電子メール法に基づく措置命令を受けた場合は1年間とされています。さらに、広告宣伝メールが特定商取引法上の通信販売電子メール広告などに該当する場合は、上記の記録に加えて、請求・承諾があったことを示す書面または電子データなどを、通信販売電子メール広告などを行った日から3年間保存する必要があるとされています。1ヶ月と3年では運用がまったく違うので、自社の送るメールがどちらに当たるかは、最初に整理しておく必要があります。
受信拒否が来たあと
送ったあとの話です。ここを止められる仕組みになっているかどうかで、事故の起きやすさが変わります。手動の名簿で管理していると、いずれ漏れます。何が禁止され、何は例外とされているのか、そして違反したときに何が起きるのかまで見ておきましょう。
同意があっても、以後は送れない
総務省の資料は、広告宣伝メールの送信について同意された場合であっても、受信拒否の通知を受けた場合には、以後の送信が禁止されるとしています。受信拒否の方法としては、メール中に表示されている受信拒否用のアドレスあてに、拒否する自分のアドレスと拒否する旨を伝える方法や、メール中のURLから誘導されるウェブサイトで必要事項を入力する方法が挙げられています。注意事項として、受信拒否の通知を受けた際には、後日、通知の有無について争いになることを避けるため、その記録を保存するよう案内されています。拒否の連絡も記録の対象だということです。
それでも送れるとされているもの
例外も示されています。受信拒否の通知を受けた場合であっても送信できるものとして、契約や取引の履行に関する事項を通知する電子メールにおいて付随的に広告宣伝が行われる場合、フリーメールサービスを用いた電子メールなどにおいて付随的に広告宣伝が行われる場合、その他、広告または宣伝以外の行為を主たる目的として送信される電子メールにおいて広告宣伝が付随的に行われる場合が挙げられています。ただし最後のものには、受信者の意思に反することなく送信されるものに限るという限定が付いています。請求書の送付に一言お知らせを添える、といった場面がこれに近い形です。
違反したときに何が起きるか
資料には主要な罰則も整理されています。送信者情報を偽った送信は、1年以下の懲役または100万円以下の罰金で、法人の場合は行為者を罰するほか、法人に対して3,000万円以下の罰金とされています。同意のない者への送信、受信拒否者への送信、表示義務違反については、総務大臣および内閣総理大臣による命令の対象となり、命令に従わない場合は1年以下の懲役または100万円以下の罰金(法人の場合は3,000万円以下の罰金)とされています。同意の記録義務違反についても命令の対象で、従わない場合は100万円以下の罰金です。ここまで見ると、記録を残す作業が事務ではなく防御であることが分かります。
AIへの指示文の作り方
ここまでを踏まえて、実際にAIへ出す指示を組み立てます。前回の記事で扱った4つの部品の型が、そのまま使えます。ポイントは、法令に関わる部分をあえて指示から外すことです。なぜ外すのか、そして送信前に何を見るのかまであわせて説明します。
本文だけを頼む
指示に含めるのは、目標・コンテキスト・期待値・ソースの4つです。目標は「初回接触の営業メールの本文を書く」。コンテキストは相手の業種・役職・こちらとの接点、たとえば「先週の展示会で名刺交換した製造業の購買担当」。期待値は「300字以内、結論から、専門用語なし、依頼は1つだけ」。ソースは自社のサービス説明の資料です。ここで「法律に沿った形式で」と頼まないでください。AIは自社の住所も受信拒否の窓口も知らないので、それらしい文言を作ってしまう可能性があります。表示部分は人が用意した定型を貼る、と決めてしまうほうが安全で、しかも速いです。
禁止ではなく、条件で書く
営業メールでは、書いてほしくないことが出てきます。前回触れたとおり、公式のガイドは「やらない」ことより「何をすべきか」を伝えるほうが効果的だとしています。「大げさな表現を使わないで」ではなく「資料に書かれている事実だけで書いて」と指定する。加えて、判断に迷う場面は条件の形で決めておきます。「資料に根拠がない数字は書かず、その箇所は空欄のままにしてください」のような書き方です。空欄で返ってくれば人が埋められますが、それらしい数字で埋められると気づけません。営業メールは外に出る文書なので、ここは特に効きます。
送信前に見る4点
最後に、送る前のチェックです。1つ目、相手が同意している、または例外に当てはまることを確認したか。2つ目、表示の5項目が入っていて、受信拒否の旨が通知先の直前または直後にあるか。3つ目、記録が残っているか。4つ目、本文の中に、資料にない数字や事実が紛れていないか。1から3は定型化できるので、実質的に毎回見るのは4つ目だけになります。ここまで組み立てて初めて、AIに営業メールを書かせることが時短になります。文面が速く出ることではなく、確認する範囲が狭くなることが本当の効果です。
まとめ
AIが作るのは本文だけです。総務省の資料を読むと、広告宣伝メールには本文の外側に満たすべきことがあり、それは3つに整理できます。送っていい相手かの判断、表示が義務づけられた項目、そして同意の記録です。原則はオプトイン方式で、同意がない限り送信は禁止。例外として、取引関係にある者、名刺などの書面でアドレスを通知した者、インターネットでアドレスを公表している者などが挙げられていますが、それぞれに条件が付いています。
表示が必要なのは、氏名または名称、受信拒否の通知ができる旨、受信拒否の通知先、住所、苦情・問合せの窓口です。受信拒否の旨は通知先の直前または直後に置く必要があり、住所と苦情窓口はリンク先でもよいものの、その場合は表示場所を示す情報をメール中に出す必要があります。記録の保存期間は最後に送信した日から1ヶ月で、特定商取引法上の通信販売電子メール広告などに該当する場合は3年間です。
AIへの指示は、目標・コンテキスト・期待値・ソースの4部品で本文だけを頼み、法令に関わる表示は人が用意した定型を貼る。そして「根拠がない数字は空欄のままに」と条件で指定しておく。こうしておけば、送信前に人が見る範囲は本文の事実確認だけになります。速く書けることより、確認が軽くなることのほうが効きます。
よくある質問(FAQ)
展示会で名刺交換した相手には送っていいのですか
総務省の資料は、同意なしに送信できる場合のひとつとして「名刺などの書面により自己の電子メールアドレスを通知した者に対して送信する場合」を挙げています。ただし注記があり、送信するメールが通信販売などの電子メール広告に当たる場合は特定商取引法が適用され、請求・承諾なしには送信できないとされています。自社のメールがどちらに当たるかは法務部門に確認してください。
会社のサイトに載っているアドレスなら自由に送れますか
いいえ。資料は、インターネットでアドレスを公表している者への送信を例外に挙げつつ、個人の場合は営業を営む場合の個人に限るとしています。さらに、アドレスの公表と併せて広告宣伝メールの送信をしないよう求める旨が公表されている場合は、同意なく送信することはできないとされています。
本文に何を書けば表示義務を満たせますか
資料が挙げているのは、送信者などの氏名または名称、受信拒否の通知ができる旨、受信拒否の通知を受けるための電子メールアドレスまたはURL、送信者などの住所、苦情・問合せなどを受け付けることができる電話番号・電子メールアドレス・URLです。受信拒否の旨は通知先の直前または直後に表示する必要があります。
同意の記録はどれくらい残せばいいですか
資料によると、記録の保存に係る広告宣伝メールを最後に送信した日から1ヶ月が基本で、特定電子メール法に基づく措置命令を受けた場合は1年間です。特定商取引法上の通信販売電子メール広告などに該当する場合は、請求・承諾があったことを示す書面または電子データなどを、行った日から3年間保存する必要があるとされています。
配信停止の連絡をもらったあと、一切連絡できなくなりますか
資料は、受信拒否の通知を受けた場合であっても送信できるものとして、契約や取引の履行に関する事項を通知するメールで付随的に広告宣伝が行われる場合などを挙げています。ただし、広告宣伝以外を主たる目的とするものについては、受信者の意思に反することなく送信されるものに限る、という限定が付いています。
AIに「法律に沿った営業メールを書いて」と頼めばいいのでは
おすすめしません。AIは自社の正式名称・住所・受信拒否の窓口・苦情の連絡先を知らないため、それらしい文言を作ってしまう可能性があります。表示部分は自社で用意した定型を貼る運用にして、AIには本文だけを頼むほうが安全で、確認も速く終わります。
原典を確認する
制度の内容は改正されることがあります。運用を決める前に、迷惑メール対策(総務省)で最新の資料とガイドラインを確認してください。