
転職理由を書こうとして、手が止まる。ネットで例文を探すと「キャリアアップのため」「新しい環境で挑戦したい」といった文章が並んでいて、自分の状況に当てはめてみても、どこかしっくりこない。面接で言えそうな気はするけれど、自分では納得していない。
この違和感には理由があります。転職理由には「辞める理由」と「選ぶ理由」の2つがあり、それを1つの文にまとめようとすると必ず無理が出るからです。例文が空虚に感じるのは、多くが後者だけを書いているためです。
この記事では、面接官を納得させる前に自分が納得するための手順を扱います。2つの理由を分けて書き出し、片方を翻訳し、最後に面接で話せる形に整えるところまでを、公的統計と採用する側の視点で解説します。転職するかどうかで迷っている段階の方は、転職するか迷うのは情報不足ではないを先に読んでください。
転職理由が書けないのは、2つの理由を1つにしようとしているから
「なぜ辞めるのか」と「なぜその会社か」は別の問い
転職理由という言葉は、実は2つの異なる問いをまとめて指しています。1つは「なぜ今の会社を辞めるのか」。もう1つは「なぜ次にその会社を選ぶのか」です。この2つは、時間の向きも、感情の種類も違います。
辞める理由は過去に向いていて、不満・限界・疲れといった感情を含みます。選ぶ理由は未来に向いていて、期待・意欲を含みます。向きの違う2つを1文にまとめようとするから、どちらも薄まった、誰にでも当てはまる文章になります。例文集の文章が自分のものに感じられないのは、この薄まりのせいです。
面接で聞かれるのは後者だが、納得に必要なのは前者
面接で主に問われるのは「なぜその会社か」です。採用する側は、自社で長く働いてもらえるかを判断したいので、未来の話を聞きます。だから対策記事は選ぶ理由の作り方に集中します。
ところが、自分自身が納得するために必要なのは逆です。辞める理由を直視していないまま転職すると、次の職場で同じ状況に出会ったときに、また同じ判断を迫られます。面接を通過するための言葉と、自分が納得するための言葉は、作る順番が違うだけで、どちらも要ります。先に作るべきなのは、人に見せない前者のほうです。
順番を逆にすると何が起きるか
選ぶ理由から先に作ると、辞める理由が「選ぶ理由の裏返し」になります。「成長できる環境で働きたい」と決めたあとで辞める理由を書くと、「今の会社では成長できないから」になる。これは本当の理由ではなく、後から辻褄を合わせた説明です。
採用する側から見ると、この作られた感は伝わります。深掘りの質問を2つ重ねると、具体的な出来事が出てこないからです。作られた理由は、面接で強くなく、入社後にも効きません。順番は、辞める理由が先です。
データで見る「辞める理由」と「選ぶ理由」のずれ
辞めた人の76.6%は自己都合
厚生労働省の「令和2年転職者実態調査」によると、転職した人が直前の勤め先を離職した主な理由は「自己都合」が76.6%で最も高くなっています。契約期間の満了が4.9%、倒産・整理解雇等が5.8%、定年が3.0%です。
つまり転職者の4人に3人は、自分の意思で辞めているということです。会社都合でやむを得ず動いたのではなく、自分で決めて動いている。この事実は、辞める理由を隠す必要がないことを示しています。自己都合は多数派であって、後ろめたいものではありません。
選ぶ理由の1位は「仕事の内容・職種」
同じ調査で、転職者が現在の勤め先を選んだ理由(3つまでの複数回答)を見ると、次のようになります。
| 選んだ理由 | 割合 | この理由が示す「得たいもの」 |
|---|---|---|
| 仕事の内容・職種に満足がいくから | 41.0% | 扱う対象・業務の中身そのもの |
| 自分の技能・能力が活かせるから | 36.0% | これまでの経験が通用する場 |
| 労働条件(賃金以外)がよいから | 26.0% | 時間・休日・働き方の設計 |
| 転勤が少ない、通勤が便利だから | 20.8% | 生活の土台の安定 |
| 安全や衛生等の職場環境がよいから | 15.1% | 働き続けられる身体的条件 |
| 賃金が高いから | 12.2% | 金銭的な余裕 |
注目すべきは、上位2つが「仕事の中身」と「自分の経験が活きること」だという点です。辞める理由は不満(人間関係・待遇・働き方)から出やすいのに、選ぶ理由は仕事の中身に集まる。この2つは地続きではありません。だから翻訳という作業が必要になります。
ずれを図にすると
2つの理由の役割を、1枚に整理すると次のようになります。上段が自分のために書くもの、下段が面接で話すもので、上から下へ翻訳する向きに進みます。上段を飛ばして下段だけを作ると、辻褄合わせの理由になり、深掘りで崩れます。
この図で確認してほしいのは、上段と下段で使う言葉がまったく違うという点です。上段は不満・限界といった感情の言葉で書き、下段は業務・制度といった具体的な名詞で書きます。同じ言葉が上下にそのまま出てくるなら、翻訳がまだ済んでいません。
手順1:辞める理由を、言い換えずに書き出す
感情の言葉のまま、まず全部出す
最初の作業は、誰にも見せない前提で、辞めたい理由をそのまま書き出すことです。「上司の詰め方が理不尽」「評価の基準が説明されない」「毎月の残業が減る見込みがない」。ここで前向きな言葉に変換してはいけません。変換は次の手順でやります。
紙でもテキストファイルでも構いませんが、面接対策のメモと同じ場所に書かないでください。同じ場所に書くと、無意識に「見せられる言葉」を選んでしまいます。分けて書くことが、この手順の要点です。
出来事と数字を1つずつ添える
書き出した項目それぞれに、具体的な出来事を1つと、可能なら数字を添えます。「評価の基準が説明されない」なら、「昨年度の評価面談で、評価が下がった理由を聞いたが、総合的な判断としか説明されなかった」「2年間で昇給は月5,000円」のように書きます。
出来事と数字を添えると、2つのことが起きます。1つは、書けない項目が出てくることです。具体例が出てこない不満は、実際にはそれほど大きくないか、他の不満から派生したものです。もう1つは、書けた項目が面接で使える素材になることです。ここは後の手順で使います。
「その不満は、次の会社では起きないのか」を1行で書く
最後に、各項目の横に「次の会社では起きないのか」への答えを1行足します。たとえば「上司の詰め方」は、次の会社の上司次第なので、転職で必ず解決するとは限りません。一方「評価基準が非公開」は、評価制度が公開されている会社を選べば構造的に解決します。
この作業で、不満が「人に依存するもの」と「仕組みに依存するもの」に分かれます。仕組みに依存するものは、次の会社の選定基準にそのまま使えます。人に依存するものは、転職で解決する保証がないと理解したうえで持っていく。ここを分けておくと、入社後の落差が小さくなります。
手順2:辞める理由を「選ぶ理由」に翻訳する
「ない」を「ほしい」に、ただし具体名詞で
翻訳のルールは1つだけです。「〜がない」という形を「〜がほしい」に変え、そのときに必ず具体的な名詞にする。「成長できない」を「成長できる環境がほしい」に変えるのは翻訳ではありません。抽象度が同じままだからです。
正しくはこうです。「評価基準が説明されない」→「評価基準が文書で公開され、期初に目標をすり合わせる会社がいい」。「裁量がない」→「企画の起案から実行まで、一人で担当できる規模の組織がいい」。名詞にすると、求人票や面接で確認できる形になります。確認できない翻訳は、翻訳になっていません。
翻訳の例を職種別に
| 辞める理由(自分用) | 翻訳した選ぶ理由(面接で話せる形) |
|---|---|
| 既存顧客のフォローばかりで新規提案の機会がない | 顧客の課題を聞いて企画から提案する営業をしたい。担当顧客数が絞られ、1社あたりに時間をかける体制の会社を選びたい |
| 作業の手順が細かく決まっていて改善提案が通らない | 現場の手順を自分で設計し直せる裁量がほしい。業務改善の提案が制度として受け付けられている会社がいい |
| 評価の基準が説明されず、昇給が2年で月5,000円 | 評価基準が文書で公開され、期初に目標をすり合わせる会社で働きたい |
| 扱う商材が1つで、他の業界の知識が増えない | 複数業界の顧客を担当し、業界ごとの違いを扱える環境で経験を広げたい |
| 月の残業が3か月連続で45時間を超えている | 所定外労働の平均が公開されていて、繁忙期以外は定時で帰れる設計の会社を選びたい |
右列は、そのまま面接で話せます。そして右列に書いたことは、面接で逆質問として確認すべき項目にもなります。「評価基準が文書で公開されているか」を選ぶ理由に挙げたなら、面接で確認しなければ筋が通りません。翻訳した文が、そのまま質問リストになります。
翻訳できない項目は、転職で解決しない
書き出した辞める理由のうち、どうしても具体的な名詞に翻訳できないものが残ることがあります。「なんとなく合わない」「疲れた」といった項目です。これらは、転職で解決するかどうかが読めません。
ここで大事なのは、翻訳できない項目を無理に言葉にしないことです。翻訳できない項目が全体の大半を占めるなら、それは転職ではなく休養や配置転換で扱うべき状態かもしれません。心身の不調が背景にある場合は、順番として、まず距離を取ることを優先してください。
手順3:面接で話す形に整える(嘘をつかずに)
話すのは選ぶ理由。ただし聞かれたら辞める理由も答える
面接で最初に話すのは、翻訳後の選ぶ理由です。「〜がしたいので御社を志望しました」という形になります。ここまでは対策記事と同じです。
違うのはその後です。多くの面接で「では、今の会社ではそれができないのですか」と聞かれます。ここで辞める理由を答えます。隠す必要はありません。手順1で出来事と数字を添えてあるので、事実として答えられます。「評価基準を確認しましたが、公開されておらず、2年間で昇給は月5,000円でした」。これは悪口ではなく事実の報告です。
悪口にならない言い方の分かれ目
事実の報告と悪口の違いは、主語が人か、仕組みかです。「上司が私を評価してくれませんでした」は人が主語で、聞き手には不満の表明として届きます。「評価基準が公開されておらず、基準を確認する手段がありませんでした」は仕組みが主語で、事実の説明として届きます。
中身は同じでも、主語を仕組みに置き換えるだけで印象が変わります。これは言い換えのテクニックというより、自分がどこに問題を見ているかを正確に言うことです。人に問題があると思っているなら、次の会社でも人の問題は起きます。仕組みに問題があると見ているなら、仕組みで選べます。
改善を試みた事実があると、説明が一段強くなる
辞める理由を話すとき、「改善を試みたが変わらなかった」という事実があると、説明の強さが変わります。異動希望を出した、上司に業務配分を相談した、制度を調べた。何か一つでも動いた事実があれば、それを添えてください。
採用する側が見ているのは、不満の大きさではなく不満に対してどう動く人かです。動いた事実があれば、「入社後も問題があれば自分で動く人だ」と読まれます。動いていない場合は、無理に作らず、正直に「相談はしていません」と答えて構いません。嘘を足すと、深掘りで崩れます。
やってはいけない3つの変換
1:待遇の不満を「成長意欲」に置き換える
いちばん多い失敗です。本当は給与や労働時間が理由なのに、「成長したい」と言い換えてしまう。この変換が危険なのは、面接で「成長」の中身を深掘りされたときに答えられないからだけではありません。入社後に、成長機会を用意されても待遇が変わらず、また同じ不満が残るからです。
待遇が理由なら、待遇を選ぶ理由に書いてかまいません。「現在の等級と職務内容に対して、月給が業界の水準を下回っていたため、職務に応じた賃金テーブルが公開されている会社を志望しました」。これは正当な理由として通ります。
2:人間関係を「チームワーク重視」に置き換える
人間関係が辞める理由のとき、「チームで成果を出す環境を求めています」と変換するのもよく見かけます。これも中身が空になります。人間関係の何が問題だったのかを、仕組みの言葉にしてください。
たとえば「情報が特定の人に集中していて、必要な情報が回ってこない」なら、「議事録や意思決定の経緯がドキュメントに残る運用の会社がいい」と翻訳できます。人間関係の問題の多くは、実は情報の流れ方や役割分担の設計の問題です。そこまで分解できると、次の会社を選ぶ基準になります。
3:期間の短さを「ミスマッチ」の一言で済ませる
在籍期間が短い場合、「入社前に聞いていた話と違い、ミスマッチでした」とだけ答える人がいます。これは説明になっていません。採用する側は「うちでも同じことを言われるのでは」と考えます。
短期離職を説明するときは、何が違ったのかを事実で1つ、そして次に同じことを起こさないために何を確認するようにしたか、の2つを言います。「配属は営業と聞いていましたが、入社後に別部署へ配属されました。今回は選考の段階で、配属先が確定しているかと、変更の範囲がどう決まっているかを必ず確認しています」。この形なら、学習した人として読まれます。
強みが出てこないときの掘り方
実績ではなく「面倒を引き受けた場面」を探す
20代の転職では、数字で語れる実績がまだない人が多数です。そこで「強みが書けない」と止まります。ですが採用する側が20代に期待しているのは、大きな実績ではありません。面倒なことが起きたときに、それを引き受けて動いた経験があるかです。
探し方はこうです。過去1年で「誰もやりたがらなかったが、自分がやったこと」を3つ書き出してください。引き継ぎ資料の整備、新人のフォロー、クレーム対応、退職者の業務の巻き取り。どれも実績欄には書きにくいものですが、これらは全部「任せられる人かどうか」の証拠になります。
3つの穴埋めで1行にする
書き出した場面を、「誰に対して」「何を」「どこまで自分で」の3つの穴埋めで1行にします。「退職した先輩の担当顧客12社を引き継ぎ、引き継ぎ資料がない状態から取引履歴を整理して、3か月間解約ゼロで維持した」。実績の大きさではなく、状況の面倒さと、自分が動いた範囲が伝わる書き方です。
この形にできると、そのまま職務経歴書にも面接の回答にも使えます。強みとは性格の話ではなく、こうした場面の積み重ねの言い換えです。「責任感がある」と書くより、上の1行のほうが強いのは、検証できるからです。
自己分析ツールは、出た結果を検証してから使う
診断ツールや適性検査を使うこと自体は有効です。ただし、出てきた結果をそのまま強みとして書かないでください。結果に対して「その特性が出た具体的な場面を3つ挙げられるか」を自分で確認してから使います。
3つ挙げられないなら、その結果は自分の言葉になっていません。面接で深掘りされたときに答えられないので、使わないほうが安全です。挙げられたなら、その3つの場面のほうを語ってください。ツールの結果は入り口であって、答えではありません。
まとめ
- 転職理由は「辞める理由(過去・自分用)」と「選ぶ理由(未来・面接用)」の2つ。1文にまとめようとするから薄まる
- 転職者の離職理由は自己都合が76.6%(厚生労働省 令和2年転職者実態調査)。自分の意思で辞めるのは多数派で、隠す必要はない
- 選んだ理由の上位は「仕事の内容・職種」41.0%、「自分の技能・能力が活かせる」36.0%。辞める理由(不満)と選ぶ理由(仕事の中身)は地続きではないので翻訳が要る
- 手順1:辞める理由を言い換えずに書き、出来事と数字を1つずつ添える。「次の会社では起きないのか」を1行足して、人に依存するものと仕組みに依存するものに分ける
- 手順2:「〜がない」を「〜がほしい」に変え、必ず具体的な名詞にする。求人票や面接で確認できない翻訳は翻訳になっていない
- 手順3:面接では選ぶ理由を話し、聞かれたら辞める理由も事実として答える。主語を人ではなく仕組みに置くと、悪口にならない
- やってはいけない変換は、待遇の不満を「成長意欲」に、人間関係を「チームワーク重視」に、短期離職を「ミスマッチ」の一言に置き換えること
- 強みは実績ではなく「誰もやりたがらないことを引き受けた場面」から探し、「誰に対して・何を・どこまで自分で」の3つで1行にする
よくある質問(FAQ)
転職理由が「給料が低いから」だけです。面接で言っても大丈夫ですか。
言って構いません。ただし金額の事実を添えてください。「現在の職務内容と等級に対して、業界の水準を下回っていた」「2年間の昇給が月5,000円だった」のように具体化すると、正当な理由として通ります。避けるべきは、それを「成長したい」に言い換えることです。入社後に成長機会を与えられても待遇が変わらなければ、同じ不満が戻ります。
人間関係が理由ですが、面接で言うと印象が悪くなりませんか。
そのまま言うと不利になりますが、隠す必要もありません。人ではなく仕組みを主語にして話してください。「情報が特定の人に集中していて必要な情報が回ってこなかった」なら、「意思決定の経緯がドキュメントに残る運用の会社で働きたい」と翻訳できます。人間関係の問題の多くは、情報の流れ方や役割分担の設計の問題として言い直せます。
在籍1年未満での転職です。理由をどう説明すればいいですか。
2つを必ずセットで言ってください。何が想定と違ったのかを事実で1つ、そして同じことを繰り返さないために今回の選考で何を確認しているか、の2つです。「配属先が入社後に変わった」「今回は配属先が確定しているかと、変更の範囲を必ず確認している」という形なら、学習した人として読まれます。「ミスマッチでした」だけでは説明になりません。
辞める理由を書き出したら、ほとんどが「なんとなく」でした。
具体的な出来事に落とせない項目が大半なら、転職で解決するかどうかが読めない状態です。まずは、今の会社で変えられる手を1つ試してください(異動希望、業務配分の相談、制度の確認)。それでも変わらなければ、その事実自体が説明できる転職理由になります。心身の不調が背景にある場合は、順番として距離を取ることを優先してください。
実績がないので強みが書けません。
20代に期待されているのは実績の大きさではなく、面倒な状況を引き受けて動いた経験です。過去1年で「誰もやりたがらなかったが自分がやったこと」を3つ書き出し、それぞれを「誰に対して・何を・どこまで自分で」の3つの穴埋めで1行にしてください。引き継ぎ資料の整備や退職者の業務の巻き取りも、立派な素材になります。
自己分析ツールの結果を転職理由に使ってもいいですか。
入り口としては有効ですが、結果をそのまま書かないでください。出てきた特性について「その特性が出た具体的な場面を3つ挙げられるか」を確認してから使います。3つ挙げられないなら、面接の深掘りで答えられません。挙げられたなら、ツールの結果ではなく、その3つの場面のほうを語ってください。
転職は、人生の経営判断です
面接官を納得させる言葉より先に、自分が納得する言葉を作る。人に見せない紙に、辞める理由を言い換えずに書き出すところから始めてください。翻訳はそのあとで間に合います。
出典:厚生労働省「令和2年転職者実態調査の概況」(表15・表21-1)