
職務経歴書の自己PR欄で手が止まる。強みを書けと言われても、目立った実績があるわけではない。同期のほうが数字を出している。そう考えて、「責任感があります」「コミュニケーションが得意です」といった、誰でも書ける言葉に落ち着いてしまう。
この状態を抜けるには、強みという言葉の扱い方を変える必要があります。強みとは性格のことではなく、「面倒な状況で自分が引き受けた範囲」のことです。そして、それを言語化する必要があるのには、企業側の事情という明確な理由があります。
この記事では、企業が応募者の評価で何に困っているかを公的統計で確認したうえで、強みの材料の探し方、1行にする手順、その強みが本物かを確かめる方法までを解説します。転職理由の作り方は納得のいく転職理由の作り方で扱っています。
企業の38.8%が「応募者を評価する客観的な基準がない」と答えている
採用側も評価に困っている
厚生労働省の「令和2年転職者実態調査」は、企業に「転職者を採用する際の問題」を聞いています。「問題がある」と答えた事業所は84.1%。その内訳(複数回答)は次のとおりです。
| 転職者を採用する際の問題(複数回答) | 事業所の割合 |
|---|---|
| 必要な職種に応募してくる人が少ないこと | 67.2% |
| 応募者の能力評価に関する客観的な基準がないこと | 38.8% |
| 採用時の賃金水準や処遇の決め方 | 32.3% |
注目すべきは2番目です。4割近い企業が「応募者の能力をどう評価すればいいか分からない」と答えている。これは、応募する側にとって決定的な意味を持ちます。
だから、基準ごと渡す必要がある
企業側に確立した評価基準がないということは、こちらが「何を見てほしいか」を提示しないと、評価されないまま終わるということです。黙っていても見抜いてもらえる、という前提は成り立ちません。
強みを言語化する目的は、自分を良く見せることではありません。相手が持っていない評価基準を、こちらから渡すことです。この目的が分かると、書くべき内容も変わります。性格の話ではなく、「こういう状況で、これができる人です」という判定可能な情報を渡すことになります。
「盛る」必要がない理由
基準を渡すという発想に立つと、誇張する意味がなくなります。誇張した基準で評価されれば、入社後にその基準で見られ続けるからです。等身大の基準を渡したほうが、入社後の評価と一致します。
実際、採用する側として困るのは、能力が低い候補者より、自己申告と実態がずれている候補者です。前者は育成の計画が立ちますが、後者は配置の判断そのものを誤ります。正確さは、誠実さの問題である以上に、実務上の利益です。
肩書きと前職年収は、処遇にほぼ影響しない
処遇を決めるのは「経験・能力・知識」が53.7%
同じ調査で、企業が転職者の処遇(賃金・役職等)を決める際に最も重視した要素を1つ選ばせた結果が、次のグラフです。
「これまでの経験・能力・知識」が53.7%で突出し、「前職の役職」は0.6%、「前職の賃金」は0.4%です。肩書きと前職の年収は、処遇の決定要素としてほぼゼロだということです。
2位の「年齢」11.9%、3位の「免許・資格」10.7%と比べても、1位との差は大きく開いています。処遇の決定は、実質的に経験の中身の評価で決まっていると読んでよい分布です。
この分布を知っているかどうかで、職務経歴書に何を書くかが変わります。紙面の大半を使うべきなのは、肩書きの列挙でも在籍年数でもなく、経験の中身の記述です。次の節で、その具体的な違いを見ていきます。
「主任」「リーダー」と書いても伝わらない
この数字が意味するのは、職務経歴書で役職を強調しても評価につながらないということです。同じ「主任」でも、会社によって任される範囲はまったく違います。だから採用する側は役職名を判断材料にできません。
書くべきなのは役職名ではなく、その役職で何を任され、どこまで自分で決めていたかです。「営業主任」ではなく「担当顧客30社の年間計画を自分で立て、値引きは10%まで自分の裁量で決めていた」。後者だけが評価の材料になります。
年収交渉の材料にもならない
前職の賃金を最重視する企業が0.4%ということは、「前職が◯◯万円だったので」という交渉がほとんど効かないことも意味します。効くのは、これまでの経験・能力・知識が、その金額に見合うと示せるかだけです。
交渉するなら、金額ではなく中身を出してください。「前職では△△の範囲まで一人で担当していたので、同等の役割であれば◯◯万円を希望します」。役割と金額を結びつけた形なら、53.7%の土俵で話すことになります。
強みの材料は「面倒を引き受けた場面」にある
実績ではなく、引き受けた範囲を探す
20代で数字の実績がない場合、探す場所を変えてください。見るべきは成果ではなく、「誰もやりたがらなかったが、自分がやったこと」です。
採用する側が20代に見ているのは、大きな成果ではありません。面倒なことが起きたときに逃げずに引き受けるか、引き受けた後に最後まで持っていくか。この2点です。実績は環境に左右されますが、この2点は本人の性質に近いため、次の職場でも再現されると判断できます。
探し方の手順
過去1年を振り返り、次の3つの問いに答えてください。それぞれ2つずつ書き出すのが目安です。
- 誰もやりたがらなかったのに、自分がやったことは何か(引き継ぎ資料の整備、クレーム対応、退職者の業務の巻き取り)
- やり方が決まっていない状態で、自分で決めて進めたことは何か(前例のない依頼、初めての取引先、新しいツールの導入)
- 人に聞かれることが多いのは何についてか(同僚が自分に質問してくる領域は、自分が詳しい領域)
3つ目は見落とされがちですが、有力な手がかりです。人に聞かれるということは、その領域で自分が基準になっているということです。自分では当たり前だと思っていることほど、外から見ると強みになります。
「小さすぎる」と感じても書き出す
書き出す段階では、大きさを判断しないでください。「後輩に業務を教えた」「マニュアルを作った」程度でも構いません。判断するのは次の手順で、材料が足りないほうが困ります。
実際、採用する側から見ると、小さくても構造が見える経験のほうが、大きいが状況が見えない実績より判断しやすいものです。「売上1億円達成」より「引き継ぎ資料のない状態から12社を3か月で維持した」のほうが、何ができる人かが分かります。
場面を1行にする3つの穴埋め
誰に対して・何を・どこまで自分で
書き出した場面を、次の3つの穴埋めで1行にします。この3つが揃うと、相手が判断できる情報になります。
| 穴埋め | 埋める内容 | 埋まっていないと起きること |
|---|---|---|
| 誰に対して | 相手の種類と規模(顧客30社、新人6名、3部署) | 難易度が伝わらず、規模の判断ができない |
| 何を | 扱った対象と業務の範囲(引き継ぎ、月次決算、発注) | 職種の言い換えで終わり、中身が見えない |
| どこまで自分で | 提案まで/実行まで/数字の責任まで | 言われてやったのか自分で決めたのかが不明 |
3つ目が最も重要です。同じ業務でも、指示されてやったのか、自分で決めて動いたのかで、評価はまったく変わります。ここを曖昧にすると、どれだけ多くの業務を並べても印象に残りません。
書き換えの例
実際の書き換えを見てください。左が3つの穴埋めが埋まっていない状態、右が埋まった状態です。
| 埋まっていない | 3つの穴埋めが埋まった書き方 |
|---|---|
| 後輩の指導を担当 | 新人6名に対し、入社3か月間の業務手順を自分で文書化して教え、4か月目には全員が単独で日次業務を回せる状態にした |
| クレーム対応の経験あり | 納期遅延の申し出があった顧客に対し、社内の製造・物流と調整して代替案を作り、提示から合意まで自分で進めた。継続取引を維持 |
| 業務改善を提案 | 3部署にまたがる申請書の重複記入について、現場5名にヒアリングして様式を1枚に統合。月あたりの記入時間を削減した |
| 引き継ぎを担当 | 退職した先輩の担当顧客12社を、引き継ぎ資料がない状態から取引履歴を整理して引き継ぎ、3か月間解約ゼロで維持した |
右列に共通するのは、読んだ人が「この人に何を任せられるか」を判断できることです。左列では判断できません。
数字は無理に作らない
1行にするとき、数字を入れられるなら入れますが、ないものを作ってはいけません。「大幅に削減」「多くの顧客」といった曖昧な表現も避けてください。深掘りされると答えられません。
数字がない場合は、期間と範囲で代替します。「3か月で」「12社を」「3部署にまたがる」。これらは正確に書けるうえ、規模の判断材料になります。正確な小さい数字は、曖昧な大きい表現より強いと考えてください。
その強みが本物かを確かめる再現性テスト
テスト1:別の場面でも同じことをしているか
1回きりの出来事は、強みではなく偶然かもしれません。同じ性質の行動を、別の場面でもしているかを確認してください。2回以上見つかれば、それは再現される性質です。
たとえば「引き継ぎ資料を整備した」が1回だけなら、必要に迫られただけかもしれません。「マニュアルを作った」「手順を文書化した」も出てくるなら、「暗黙知を文書にする」という一貫した強みが見えてきます。これが本当の強みです。
テスト2:環境が変わっても使えるか
2つ目は、業界や職種が変わっても通用するかです。業界特有の知識に依存した強みは、環境が変わると価値が下がります。判定の仕方は簡単で、その1行から業界名を消しても意味が通るかを見ます。
通るなら持ち運べる強みです。通らないなら、業界知識の話をしています。異業種を検討している場合、この判定は特に重要です。詳しくは未経験の異業種転職で後悔する人の共通点で扱っています。
テスト3:反対の行動を取る人がいるか
3つ目は少し変わったテストです。その強みと反対の行動を取る人が、実際にいるかを考えてください。いるなら、それは強みとして機能します。いないなら、当たり前のことを書いているだけです。
「責任感がある」の反対は「責任感がない」ですが、自己PRで責任感がないと書く人はいません。だからこの表現は判別に使えません。一方「暗黙知を文書にする」の反対は「自分のやり方を自分の中に留める」で、これは実際に多くの人がやっています。反対側に実在する人がいる表現だけが、差になります。
職種別・見落とされやすい強みの例
成果が数字に出ない職種ほど、書き方で差がつく
事務、管理、サポート系の職種は、成果が数字に出にくいため自己PRで不利だと思われがちです。ですが実際は、書き方を変えるだけで十分に伝わります。
| 職種 | 見落とされやすい強み | 1行にするときの着眼点 |
|---|---|---|
| 事務・アシスタント | 複数人の依頼を並行して捌く優先順位づけ | 同時に扱った案件数と、判断の基準 |
| 経理・総務 | 期限が動かせない業務を、毎回同じ品質で回す | 月次・年次の周期と、遅延ゼロの期間 |
| 販売・接客 | 初対面の相手から短時間で必要な情報を引き出す | 1日の接客件数と、そこから得た情報の使い道 |
| カスタマーサポート | 怒っている相手を、事実確認の会話に戻す | 対応件数と、社内へエスカレーションする基準 |
| 製造・技術 | 異常の兆候を、決められた検査の前に見つける | 発見した件数と、それが後工程に与えた影響 |
| 保育・介護・教育 | 言葉で説明しない相手の状態を観察から判断する | 担当人数と、記録・共有した相手の範囲 |
どの職種でも、「その仕事で毎日やっている判断」が強みの正体です。判断は本人にとって無意識なので、自分では気づきにくい。だから手順を踏んで掘り出す必要があります。
強みが1つしか出なくてもよい
掘り出した結果、強みが1つしか出ないこともあります。それで問題ありません。複数並べるより、1つを深く説明できるほうが評価されます。3つ並べて全部が浅いより、1つで具体的な場面を2つ語れるほうが強い。
職務経歴書でも面接でも、時間と紙面には限りがあります。1つに絞れば、その1つに使える情報量が3倍になります。
面接で「強みは」と聞かれたときの答え方
結論→場面→再現性の順で話す
答え方の型は決まっています。まず強みを1文で言い、次に具体的な場面を1つ話し、最後に「別の場面でも同じことをした」と添える。この3段で、再現性まで伝わります。
「暗黙知を文書にすることが強みです。退職した先輩の顧客12社を引き継いだとき、資料がなかったので取引履歴を整理して一覧にしました。同じことを新人教育でもやっていて、3か月分の業務手順を文書化しています」。2つ目の場面が、話を一段強くします。
「その強みは、うちでどう活きますか」への備え
強みを話すと、次に「それはうちでどう活きるか」と聞かれます。ここで詰まる人が多いのは、応募先の業務を具体的に把握していないためです。
備え方は1つで、求人票の業務内容から、自分の強みが効きそうな場面を1つ特定しておくことです。「中途入社の方が多いとのことなので、業務手順が個人に紐づいている部分があれば、そこを文書にするところから貢献できると思います」。仮説でよく、外れていれば面接官が訂正してくれます。
強みを聞かれない面接もある
最後に。強みを直接聞かれない面接もあります。その場合でも、職務経歴の説明の中に1行として入れておけば伝わります。「強み」という言葉を使う必要はありません。
むしろ、経歴の説明の中で自然に「引き継ぎ資料がなかったので整理して一覧にしました」と話せているほうが、自己PRとして聞くより信用されます。準備した強みは、聞かれたときに出す札ではなく、話の随所に混ぜる材料だと考えてください。
まとめ
- 転職者の採用で「問題がある」とした事業所は84.1%。内訳は応募者が少ない67.2%、応募者の能力評価に関する客観的な基準がない38.8%、賃金・処遇の決め方32.3%(厚生労働省 令和2年転職者実態調査)
- 4割近い企業が評価基準を持っていない。だから強みは「こちらから基準ごと渡す」ものであって、見抜いてもらうものではない
- 処遇を決める際に最も重視される要素は「これまでの経験・能力・知識」53.7%。前職の役職は0.6%、前職の賃金は0.4%で、肩書きと前職年収はほぼ影響しない
- 強みの材料は「誰もやりたがらないことを引き受けた場面」「やり方が決まっていない状態で自分で決めた場面」「人に聞かれることが多い領域」から探す
- 1行にするときは「誰に対して・何を・どこまで自分で」の3つを埋める。3つ目(自分で決めた範囲)が最も評価を左右する
- 数字は無理に作らない。曖昧な大きい表現より、正確な小さい数字や期間・範囲のほうが強い
- 本物かは3つのテストで確かめる。別の場面でも同じことをしているか、業界名を消しても意味が通るか、反対の行動を取る人が実在するか
- 強みは1つでよい。複数並べて浅くなるより、1つを深く説明できるほうが評価される
- 面接では「結論→場面→別の場面でも同じことをした」の3段で話す。2つ目の場面が再現性を示す
よくある質問(FAQ)
実績がないので、書ける強みがありません。
探す場所を変えてください。成果ではなく「誰もやりたがらなかったが自分がやったこと」「やり方が決まっていない状態で自分で決めて進めたこと」「人によく聞かれる領域」の3つから探します。引き継ぎ資料の整備や新人教育も立派な材料です。採用する側が20代に見ているのは成果の大きさではなく、面倒な状況を引き受けて最後まで持っていくかどうかです。
「責任感がある」「コミュニケーションが得意」ではだめですか。
判別に使えないため、評価されません。判定方法は、その強みと反対の行動を取る人が実在するかです。自己PRで「責任感がない」と書く人はいないので、この表現は差になりません。一方「暗黙知を文書にする」の反対は「自分のやり方を自分の中に留める」で、実際にそうする人は多くいます。反対側に実在する人がいる表現だけが差になります。
前職の役職や年収は、職務経歴書に書くべきですか。
事実として書いても構いませんが、強調しても効果は薄いです。企業が処遇を決める際に最も重視する要素として「前職の役職」を挙げたのは0.6%、「前職の賃金」は0.4%にとどまります。最も重視されるのは「これまでの経験・能力・知識」で53.7%です。役職名ではなく、その役職で何を任され、どこまで自分で決めていたかを書いてください。
強みは何個書けばいいですか。
1つで構いません。複数並べると、それぞれに使える情報量が減り、全部が浅くなります。1つに絞れば、具体的な場面を2つ語れるだけの分量が確保できます。場面が2つあると再現性が伝わるため、1つを深く説明するほうが強くなります。
自己分析ツールの結果を強みとして使ってもいいですか。
入り口としては有効ですが、結果をそのまま書かないでください。出てきた特性について「その特性が出た具体的な場面を2つ挙げられるか」を確認してから使います。挙げられないなら、面接の深掘りで答えられません。挙げられたなら、ツールの結果ではなくその場面のほうを語ってください。
面接で「その強みはうちでどう活きるか」と聞かれて詰まりました。
応募先の業務を具体的に把握していないと答えられません。事前に求人票の業務内容を読み、自分の強みが効きそうな場面を1つ特定しておいてください。仮説で構いません。「中途入社の方が多いとのことなので、業務手順が個人に紐づいている部分があれば、そこを文書にするところから貢献できると思います」という形なら、外れていても面接官が訂正してくれます。
転職は、人生の経営判断です
強みとは、あなたの性格ではなく、面倒な状況で引き受けた範囲のことです。過去1年で「誰もやりたがらなかったが自分がやったこと」を2つ書き出すところから始めてください。そこに、相手へ渡すべき評価基準があります。
出典:厚生労働省「令和2年転職者実態調査の概況」(図1・転職者を採用する際の問題)