
真夏にエアコンが動かなくなった。お湯が出ない。換気扇が回らない。
このとき最初に浮かぶのは、「これ、自分が払うんだろうか」という不安だと思います。
管理会社に連絡したら「様子を見てください」と言われた。業者の手配待ちのまま1週間が過ぎた。そういう話もよく聞きます。
この記事では、民法の条文と、国土交通省が公開している賃貸住宅標準契約書を読んで、誰が払うのか、いつまで待てばいいのか、待っても直らないときに何ができるのかを整理します。
条文は4つだけです。覚える必要はありません。どこに何が書いてあるかが分かれば十分です。
修理代を払うのは、原則として貸主です
出発点は民法第606条です。短い条文なので、そのまま読んでください。
「賃貸人」は貸主、つまり大家さんです。「賃借人」は借りている側、つまり自分のこと。
読み方はこうなります。
部屋を使うために必要な修理は、貸主がする。ただし、自分のせいで壊れたときは別。
エアコンや給湯器が寿命で動かなくなった、経年で水栓から水が漏れるようになった。こういうものは「自分のせい」ではないので、貸主の義務の側に入ります。
一方、物をぶつけて壊した、取扱説明書に反する使い方をして故障させた。これはただし書のほう。
・寿命・経年・自然に起きた故障 → 貸主が直す/貸主が払う
・自分の故意や過失で壊した → 自分が払う
この線引きが、以降のすべての話の前提になります。
なお、第606条第2項は「賃貸人が賃貸物の保存に必要な行為をしようとするときは、賃借人は、これを拒むことができない」としています。貸主が修理に入るとき、正当な理由なく断ることはできない、ということです。
まず「通知」する。ここを飛ばすと、次が使えません
ここが実務でいちばん効きます。
民法第615条は、借りている側に通知の義務を置いています。
壊れたことに気づいたら、遅滞なく伝える。これは権利ではなく義務として書かれています。
そして実際的な意味はここです。通知していないと、このあとの第607条の2も第608条も、使いにくくなります。
黙って自分で業者を呼んで直して、あとから請求する。この順番だと、貸主の側に「言ってくれれば自分で安く手配できた」と反論する余地が残ります。
連絡先は、契約書に書かれている管理会社で構いません。条文は「賃貸人に通知」としていますが、貸主本人に直接伝えなければならないという運用にはなっていないのが実情です。
伝えるタイミングも大事です。「少し様子を見てから」と待っているあいだは、記録が残りません。気づいた日に、ひとこと送っておくだけで十分です。
相当の期間を過ぎたら、自分で直せます
通知した。それでも直らない。このときに使えるのが民法第607条の2です。
一 賃借人が賃貸人に修繕が必要である旨を通知し、又は賃貸人がその旨を知ったにもかかわらず、賃貸人が相当の期間内に必要な修繕をしないとき。
二 急迫の事情があるとき。」
2つのルートがあります。
一号は、通知してから待ったのに直らないルート。条文は「相当の期間」としか書いておらず、何日とは決めていません。壊れたものの種類と季節によって変わる、ということです。真夏のエアコンと、予備のある照明器具とでは、相当といえる長さが違います。
二号は、待っていられないルート。「急迫の事情」があれば、通知より先に手を打てます。水が噴き出している、ガスのにおいがする、といった場面です。
◇ 払った費用は、終わりを待たずに請求できます
自分で直した場合、そのお金はどうなるか。民法第608条第1項です。
「必要費」は、部屋を使える状態に保つために要った費用のこと。エアコンの修理代は、本来は貸主が払うものなので、ここに入ります。
そして「直ちに」です。退去のときに精算、ではありません。払ったその時点で請求できます。
同じ条文の第2項は「有益費」、つまり部屋の価値を高める支出について定めていますが、こちらは賃貸借の終了時の精算になります。修理と、勝手な設備追加とでは扱いが違う、ということです。
使えなかった分、家賃は減額されます
ここは2020年施行の改正で大きく変わったところです。民法第611条第1項を読んでください。
末尾に注目してください。「減額を請求することができる」ではなく、「減額される」と書かれています。
請求して初めて減るのではなく、条件を満たせば当然に減る、という書き方です。借りている側が何かをしなくても、法律上はその状態になっている。
ただし、いくら減るのかは条文に書かれていません。「割合に応じて」としか決まっていないので、実際の金額は当事者で決めることになります。後ほど出てくる国土交通省の標準契約書も、この点は「協議するものとする」という書き方です。
同じ条文の第2項は、「残存する部分のみでは賃借人が賃借をした目的を達することができないとき」は契約を解除できる、としています。住める状態ではなくなったときの最終手段です。
「全額タダにしてほしい」ではなく、「使えなかった設備が、部屋の使用のどれくらいを占めるか」で話すほうが通りやすくなります。条文が「部分の割合に応じて」と書いているのは、そういう趣旨です。
なお、自分の不注意で壊したときは「賃借人の責めに帰することができない事由」に当たらないので、減額の対象外になります。
契約書には、法律よりくわしい手順が書いてあります
ここまでは民法の話でした。実際に動くときに見るのは、手元の賃貸借契約書です。
国土交通省が、契約をめぐるトラブルを防ぐための雛形として賃貸住宅標準契約書を公開しています。多くの契約書がこれをもとにしているので、自分の契約書を読むときの目安になります。
その第9条(契約期間中の修繕)が、民法の規定を手順に落とし込んでいます。
3 乙は、本物件内に修繕を要する箇所を発見したときは、甲にその旨を通知し修繕の必要について協議するものとする。
4 前項の規定による通知が行われた場合において、修繕の必要が認められるにもかかわらず、甲が正当な理由なく修繕を実施しないときは、乙は自ら修繕を行うことができる。この場合の修繕に要する費用については、第1項に準ずるものとする。」
「甲」が貸主、「乙」が借主です。民法第606条と第607条の2を、そのまま契約の言葉にしたものだと分かります。
国土交通省の解説コメントは、この手順をわざわざ書いた理由をこう説明しています。
したがって標準契約書では、賃借人が要修繕箇所を発見したときは賃貸人に通知し、修繕の必要性等について協議するといった手続きルールを明文化し、当該手続きを経たにもかかわらず賃貸人が正当な理由なく修繕を実施しないときにはじめて、賃借人が修繕を実施し、賃貸人に費用を請求できるものとして、当該紛争の防止を図っている。」
順番を守ること自体が、自分を守る手になるということです。
家賃の減額についても、同じ標準契約書の第12条第1項に書かれています。
減ること自体は確認的に書かれていて、額は協議。民法と同じ構造です。
自分で替えていいものは、決まっています
では、何でもかんでも連絡しなければいけないのか。そうではありません。
標準契約書の第9条第5項と、そこで参照される別表第4が、借主が自分で行ってよい小修繕を挙げています。
別表第4(第9条第5項関係)
ヒューズの取替え/蛇口のパッキン、コマの取替え/風呂場等のゴム栓、鎖の取替え/電球、蛍光灯の取替え/その他費用が軽微な修繕
電球を替えるたびに管理会社に電話する人はいないと思いますが、それはこの別表に根拠があります。
そして大事なのは「請求するほか、自ら行うことができる」という書き方です。電球交換も、本来は貸主に頼んでいい。頼むなら貸主負担、自分でやるなら自分負担、という選択になっています。
部屋の中のものを、この線で分けると次のようになります。
図のいちばん下に書いたとおり、残置物には注意が必要です。前の入居者が置いていったエアコンなどは、契約上の設備ではなく「あるだけのもの」として扱われている場合があります。この扱いは契約書の物件の表示欄や特約に書かれているので、入居時に一度見ておくと安心です。
「古いので新品に替えてください」は通りません
壊れたのを機に、新しい機種にしてほしい。これは通るのか。
国土交通省の解説コメントが、まさにこの質問を事例として取り上げています。
修繕義務は「元に戻す」ところまで。「良くする」ところまでは含まれない、という整理です。
直すより買い替えたほうが安い、という理由で新品になることはありますが、それは貸主の判断であって、こちらが求められる権利ではありません。
逆に言えば、「直す」ことまでは義務です。「古い機種なので部品がなく直せません、ご自身で新しいものをご用意ください」という回答は、この整理とは合いません。使える状態に戻す責任は貸主側にあります。
退去のときの負担とは、別の話です
ここを混同すると話がこじれます。
入居中の修繕は第606条。退去時の原状回復は民法第621条で、別の条文です。
どちらにも「経年のものは借主の負担ではない」という考え方が流れていますが、タイミングも手続きも違います。
入居中に壊れたものを「退去のときにまとめて精算しましょう」と言われたら、第608条第1項が「直ちにその償還を請求することができる」としている点を思い出してください。入居中の修理代は、入居中に片付く話です。
退去時の負担区分については、国土交通省のガイドラインに耐用年数の考え方まで含めて整理されています。そちらは別の記事にまとめました。
連絡の仕方と、残しておく記録
ここからは実際に動く話です。条文を知っていても、伝え方で止まってしまうことがあります。
◇ 連絡は、電話ではなく文字で
電話で済ませると、第615条の通知をしたという記録が残りません。メール、管理会社の専用フォーム、チャットアプリ。どれでも構わないので、日付が残る形で送ってください。
電話が早いなら、電話したあとに「先ほどお電話した件です」と一行送るだけでも違います。
◇ 最初の連絡に入れる5つ
長文は不要です。次の5つが入っていれば足ります。
- 部屋番号と氏名
- 何が、いつから、どうなっているか(例:エアコンが8月3日の朝から冷風が出ない)
- 自分で試したこと(例:リモコンの電池交換とブレーカーの確認は済んでいる)
- 生活への影響(例:日中の室温が35度を超えている)
- いつまでに見通しがほしいか(例:今週中に対応の予定を教えてほしい)
3番が入っていると「まず電池を替えてみてください」という一往復を省けます。4番は、あとで第611条の減額を話すときの材料にもなります。
◇ そのまま使える文面
エアコンが8月3日の朝から、運転はするものの冷風が出ない状態です。リモコンの電池交換とブレーカーの確認は済ませましたが、変わりませんでした。日中の室温が35度を超えており、在宅での生活に支障が出ています。
修理の手配をお願いできますでしょうか。あわせて、いつごろ対応いただけるかの見通しを、今週中にご連絡いただけると助かります。
よろしくお願いいたします。
請求や権利の話を最初から持ち出す必要はありません。多くの場合、これで手配は進みます。
◇ 残しておくもの
動いたあとで必要になるのは、次の4つです。
- 連絡した日時が分かるもの(送信済みメール、フォームの控え、チャットの画面)
- 壊れている状態の写真や動画(エラー表示、水漏れ、温度計の数字)
- やりとりの記録(「業者に連絡しました」「来週伺います」といった返信)
- 自分で直した場合の領収書と作業内容が分かる明細
4番目は、第608条第1項で償還を請求するときにそのまま根拠になります。「エアコン修理一式」ではなく、何をいくらで直したかが分かる明細をもらっておいてください。
◇ 待っても動かないときの一段階ずつ
いきなり自分で業者を呼ぶ前に、踏むべき段階が4つ。
- 期限を切って、もう一度文字で送る(「〇月〇日までにご連絡がない場合は…」)
- 管理会社ではなく、貸主に直接連絡する(契約書に貸主の連絡先が記載されています)
- 自治体の住宅相談窓口や、消費生活センターに相談する(消費者ホットライン 188)
- それでも動かないときに、第607条の2による自主修繕を検討する
1番の「期限を切る」は、第607条の2第1号の「相当の期間内に必要な修繕をしないとき」を満たしたことを示す材料になります。ここを飛ばさないのが要点です。
なお、自主修繕に進むかどうかは慎重に判断してください。範囲や金額が過大だと、解説コメントが指摘しているとおり紛争になり得ます。高額な設備交換に踏み切る前に、3番の相談を挟むのが現実的です。
ケース別の進め方
よくある4つのケースで、どう動くかを並べておきます。
ケース1:真夏にエアコンが止まった
寿命・経年による故障なら、第606条第1項の本文に当たるので貸主の負担です。
まず文字で通知(第615条)。室温の数字を添えておくと、「相当の期間」が短く見積もられる方向に働きます。
修理までのあいだ、エアコンが使えないことは「一部が…使用及び収益をすることができなくなった場合」に当たり得るので、第611条第1項の減額の対象になります。ただし額は協議です。
代わりに買った扇風機の代金は「必要費」とは性質が違うので、当然に請求できるとは限りません。買う前に、その費用を負担してもらえるかを確認しておくほうが確実です。
ケース2:給湯器が壊れてお湯が出ない
考え方はケース1と同じです。入浴ができない影響は大きいので、「急迫の事情」(第607条の2第2号)に近づくケースもあります。
銭湯代を請求できるか、という疑問がよく出ますが、これも必要費とは別の性質の支出です。条文から当然に出てくる結論ではないので、請求するなら事前に相談し、合意の記録を残してください。
ケース3:蛇口からぽたぽた水が漏れる
パッキンやコマの取替えで直るなら、別表第4の小修繕です。自分で替えてよいし、貸主に頼んでもかまいません。
一方、水栓本体の交換が必要な状態なら、小修繕の範囲を超えるので第606条第1項の話に戻ります。
迷ったら、まず通知してください。通知して困ることはありません。
ケース4:自分でぶつけて壊してしまった
第606条第1項のただし書に当たるので、自分の負担です。
ただし、黙っておくのは得策ではありません。放置して被害が広がると、その広がった分まで自分の責任になります。第615条の通知義務は、自分のせいで壊れたときにも消えません。
なお、加入している火災保険に借家人賠償責任や個人賠償責任の特約が付いていれば、使える場合があります。保険証券を確認してみてください。
今日からできること
3つあります。
ひとつめ、5分。契約書の修繕の条項を開く。
「契約期間中の修繕」あるいは「修繕」という見出しの条項を探してください。標準契約書の第9条に当たる部分です。借主が自分で行える小修繕の一覧(別表第4に相当するもの)が付いていることが多いので、何が自分の側かを先に知っておくと、壊れたときに迷いません。
ふたつめ、3分。連絡先を、スマホのメモに控える。
管理会社の緊急連絡先と、貸主の連絡先。この2つです。契約書は引き出しの奥にあることが多く、夜中に水が漏れたときに探すのは現実的ではありません。
みっつめ、10分。設備の型番を写真に撮っておく。
エアコン、給湯器、コンロ。本体に貼られている型番のシールを撮っておくと、連絡するときに「どの機種か」を伝えられます。業者の手配が一往復早くなります。
ついでに、入居時から付いている設備かどうかも確認しておいてください。残置物だった場合、修繕義務の対象から外れていることがあります。
まとめ
入居中に設備が壊れたときの修理代は、原則として貸主の負担です(民法第606条第1項)。自分の責めに帰すべき事由で壊れたときだけ、ただし書で自分の負担になります。
壊れたら、遅滞なく通知する義務があります(第615条)。この通知が、あとの手続きの出発点になります。
通知しても相当の期間内に直らないとき、または急迫の事情があるときは、自分で修繕できます(第607条の2)。そこで払った必要費は、退去を待たずに直ちに償還を請求できます(第608条第1項)。
使えなくなった部分については、賃料は「その使用及び収益をすることができなくなった部分の割合に応じて、減額される」。第611条第1項は、そう書いています。請求して減るのではなく、当然に減る書き方です。ただし額は協議になります。
国土交通省の賃貸住宅標準契約書は、第9条でこの手順を明文化し、別表第4で借主が自分で行ってよい小修繕(電球・蛍光灯、蛇口のパッキンやコマ、風呂場のゴム栓や鎖、ヒューズなど)を挙げています。
修繕義務は「本来あるべき価値まで戻す」ところまでで、最新機種への交換までは含まれません。一方で、使える状態に戻すことまでは義務です。
そして、入居中の修繕と退去時の原状回復は別の条文の話です。入居中の修理代を退去時にまとめて精算する必要はありません。
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よくある質問(FAQ)
Q1. エアコンが壊れました。修理代は誰が払いますか?
原則として貸主です。民法第606条第1項は「賃貸人は、賃貸物の使用及び収益に必要な修繕をする義務を負う」としています。寿命や経年による故障であれば、この本文に当たります。ただし同項のただし書は「賃借人の責めに帰すべき事由によってその修繕が必要となったときは、この限りでない」としているので、自分の故意や過失で壊した場合は自分の負担です。国土交通省の賃貸住宅標準契約書第9条第1項も「乙の責めに帰すべき事由により必要となったものは乙が負担し、その他のものは甲が負担する」と、同じ線で書いています。
Q2. 管理会社に連絡しても直してくれません。どうすればいいですか?
民法第607条の2が使えます。「賃借人が賃貸人に修繕が必要である旨を通知し、又は賃貸人がその旨を知ったにもかかわらず、賃貸人が相当の期間内に必要な修繕をしないとき」は、借主が自分で修繕できるとされています。ただし順番が大事です。先に通知し、期限を切ってもう一度連絡し、それでも動かないという経過を記録に残してください。国土交通省の解説コメントも、手続きを経ずに自己判断で工事をすると「紛争となりかねない」と指摘しています。高額な設備交換に進む前に、自治体の住宅相談窓口や消費生活センターに相談するのが現実的です。
Q3. 自分で修理したお金は、いつ返してもらえますか?
退去を待つ必要はありません。民法第608条第1項は「賃借人は、賃借物について賃貸人の負担に属する必要費を支出したときは、賃貸人に対し、直ちにその償還を請求することができる」としています。「直ちに」と書かれているので、支出した時点で請求できます。請求するときのために、何をいくらで直したかが分かる明細と領収書を取っておいてください。なお同条第2項の「有益費」、つまり部屋の価値を高める支出については、賃貸借の終了時の精算になります。
Q4. 設備が使えない期間、家賃は減りますか?
法律上は減ります。民法第611条第1項は「賃借物の一部が滅失その他の事由により使用及び収益をすることができなくなった場合において、それが賃借人の責めに帰することができない事由によるものであるときは、賃料は、その使用及び収益をすることができなくなった部分の割合に応じて、減額される」としています。「請求することができる」ではなく「減額される」という書き方です。ただし、いくら減るかは条文に書かれていません。国土交通省の賃貸住宅標準契約書第12条第1項も「甲及び乙は、減額の程度、期間その他必要な事項について協議するものとする」としており、実際の金額は話し合いで決めることになります。
Q5. 「相当の期間」とは何日のことですか?
条文に日数は書かれていません。民法第607条の2第1号は「相当の期間内に必要な修繕をしないとき」としか定めておらず、何が相当かは状況によります。真夏に冷房が使えない場合と、予備のある照明が切れた場合とでは、同じ長さにはならないということです。だからこそ、生活への影響を具体的に伝えておくことに意味があります。室温の数字、在宅勤務の有無、同居している家族の状況など、事実を添えて伝えてください。なお、水漏れやガスのにおいのように待てない事情があるときは、同条第2号の「急迫の事情があるとき」に当たり、通知を待たずに動けます。
Q6. 電球が切れました。これも連絡していいのですか?
連絡してもかまいませんし、自分で替えてもかまいません。国土交通省の賃貸住宅標準契約書は、別表第4に「電球、蛍光灯の取替え」を挙げたうえで、第9条第5項で「乙は、別表第4に掲げる修繕について、第1項に基づき甲に修繕を請求するほか、自ら行うことができる」としています。貸主に頼めば貸主の負担、自分でやれば自分の負担、という選択です。別表第4にはほかに「ヒューズの取替え」「蛇口のパッキン、コマの取替え」「風呂場等のゴム栓、鎖の取替え」「その他費用が軽微な修繕」が挙げられています。
Q7. 古い機種なので、新品に交換してもらえますか?
交換までは義務ではありません。国土交通省の解説コメントは「修繕義務は、物件や設備等の破損等により賃貸物件がその時点において本来有すべき価値を下回ったときに、本来あるべき価値まで戻すために行うもの」としたうえで、「空調設備の修理は賃貸人の修繕義務の内容となるが、最新機種への交換は特段の事情…がない限り賃貸人の義務ではなく、物件の競争力の維持向上などの観点から賃貸人の任意の判断によることになる」と説明しています。つまり「直す」ところまでが義務で、「良くする」ところは貸主の任意です。逆に言えば、使える状態に戻すことまでは貸主の責任になります。
Q8. 契約書に「修理は借主負担」と書いてあったら、従うしかないですか?
まず、その条項が何をどこまで借主負担としているかを正確に読んでください。小修繕の範囲を借主負担とする定めは、国土交通省の標準契約書にも別表第4という形で置かれており、特別なものではありません。一方、貸主の修繕義務を広く免除するような内容であれば、その有効性は個別の判断になります。この記事では裁判例を直接確認していないため、有効か無効かの断定は避けます。負担の重い条項を見つけたときは、自治体の住宅相談窓口や消費生活センター(消費者ホットライン188)に、契約書を手元に置いて相談するのが確実です。
Q9. 前の入居者が置いていったエアコンが壊れました。
契約上の設備かどうかで扱いが変わります。民法第606条第1項の修繕義務は「賃貸物」についてのものなので、借りている部屋の設備として契約に含まれていれば対象です。一方、前の入居者の残置物として、契約の対象外と整理されている場合があります。この扱いは契約書の物件の表示欄や特約に書かれていることが多いので、まずそこを確認してください。入居時の説明で「使っていただいてかまいませんが、壊れても交換はしません」と言われているケースもあります。判断がつかないときは、修理を頼む前に管理会社へ確認したほうが安全です。
Q10. 入居中の修理代を、退去のときにまとめて精算すると言われました。
入居中の修繕と退去時の原状回復は、別の条文の話です。入居中に貸主の負担に属する必要費を立て替えたのであれば、民法第608条第1項が「直ちにその償還を請求することができる」としています。退去を待つ必要はありません。一方、退去時の原状回復は第621条の話で、「通常の使用及び収益によって生じた賃借物の損耗並びに賃借物の経年変化を除く」と明記されています。混ざった状態で話が進むと、どちらの負担区分も曖昧になります。立て替えた分は入居中に、退去時の費用は退去時に、と分けて扱ってください。


