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レジの不足金を自腹で払う決まりは、法律にはありません|給料から引けるもの・引けないものの境目

机の上で電卓を使いながら書類を確かめている人の手元

レジを締めたら、現金が合わなかった。食器を割ってしまった。会社のタブレットを落として、画面にひびが入った。

そのあと「今月の給料から引いておくね」と言われたことはないでしょうか。あるいは、何も言われないまま、明細に見覚えのない控除が増えていた。

結論から言うと、給料から勝手に引くことは、原則としてできません。そして「ミスしたら1回〇円」のような取り決めは、金額を決めておくこと自体が禁止されています。

この記事では、労働基準法の条文を読んで、引いていいもの・引けないもの・引けるとしても上限があるものの境目を整理します。

アルバイトでも正社員でも、同じ条文が適用されます。

給料は「全額」払うのが原則です

出発点は労働基準法第24条第1項です。

「賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない。」

短い一文ですが、3つのことが書かれています。通貨で払う。本人に直接渡す。そして、全額を払う。

この「全額払い」が、今日の話の軸になります。

厚生労働省の「確かめよう労働条件」は、この原則の理由をこう説明しています。

「賃金の一部を支払留保することによる労働者の足止めを封じるとともに、直接払の原則と相まって、労務の対価を残りなく労働者に帰属させるため」(確かめよう労働条件・賃金Q7)

働いた分は、まるごと渡す。そこから何かを差し引くのは例外だ、という構造です。

同じ条文の第2項は「賃金は、毎月一回以上、一定の期日を定めて支払わなければならない」としています。支払日をずらす、まとめて翌月に回す、といったこともできません。

引いていいのは、法令か労使協定があるものだけ

では、どんなときに引けるのか。第24条第1項のただし書に書かれています。

「ただし、…法令に別段の定めがある場合又は当該事業場の労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がないときは労働者の過半数を代表する者との書面による協定がある場合においては、賃金の一部を控除して支払うことができる。」

入口は2つしかありません。

ひとつめは、法令に定めがあるもの。所得税の源泉徴収、住民税の特別徴収、健康保険料・厚生年金保険料・雇用保険料。明細の控除欄にいつも並んでいるものです。

ふたつめは、労使協定があるもの。ここが見落とされがちです。会社と、労働者の過半数代表との間で結んだ書面による協定が要ります。社長が決めただけ、就業規則に書いただけでは足りません。

厚生労働省の同じQ&Aは、協定で控除できる例として「社内預金、購買代金、組合費等」を挙げています。

逆に言うと、レジの不足金やミスの弁償は、このどちらにも当てはまりません。法令に定めはなく、そうした控除のための労使協定もふつうは結ばれていないからです。

明細の控除欄を、この2つの入口で分けてみましょう。

明細の「控除」欄を、根拠で分けると

控除(例)

法令に定めがある 所得税 住民税 健康保険料 厚生年金保険料 雇用保険料 同意がなくても控除できる

書面による労使協定がある 社内預金 購買代金 社宅費 組合費 過半数代表との書面が要る。就業規則だけでは足りない

どちらでもない レジの不足金 備品の弁償 ミスの罰金 制服代 一方的に引けば、全額払いの原則に触れる

24条1項ただし書 「法令に別段の定めが ある場合」

24条1項ただし書 「書面による協定が ある場合」

24条1項 本文 「その全額を支払わ なければならない」

※ 出典 労働基準法第24条第1項/厚生労働省「確かめよう労働条件」賃金Q7

「ミスしたら〇円」は、それ自体が禁止されています

控除の手続きとは別に、もうひとつ重い条文があります。労働基準法第16条です。

「使用者は、労働契約の不履行について違約金を定め、又は損害賠償額を予定する契約をしてはならない。」

読みどころは「予定する契約」という言葉です。

禁じられているのは、実際にいくらの損害が出たかに関係なく、先に金額を決めてしまうこと。

そこで、ひとつの取り決めがこの条文に当たるかどうかは、次の問いで見分けられます。

判定の問い
その取り決めは、実際の損害がいくらかに関係なく、金額が先に決まっているか。

決まっている … 第16条の「予定」に当たる
実際の損害額しだい … 第16条の「予定」ではない(ただし、別の問題は残る)

当てはめてみます。

「皿を割ったら1枚500円」。割った皿が100円のものでも1,000円のものでも500円。損害額と切り離して金額が決まっているので、第16条が禁じる「予定」に当たります。

「レジが合わなければ、不足分は本人が負担」。こちらは金額が「不足分」、つまり実際に生じた差額です。先に金額を決めているわけではないので、第16条の「予定」そのものではありません。ただし、その不足分を給料から引けば第24条の問題になりますし、そもそも負担させてよいのかという論点も残ります。次の章で扱います。

「研修を受けて1年以内に辞めたら研修費30万円を返還」。金額が先に決まっているという点では「予定」の形をしていますが、費用の性質(会社の業務のための研修か、本人のための留学や資格取得か)によって評価が分かれる論点です。この記事では裁判例を直接確認していないため、第16条に当たり得る、という書き方にとどめます。

「遅刻1回につき1,000円」。これは第16条ではなく、減給の制裁として第91条の話になります。就業規則に定めがあり、上限の範囲内なら許されます。上限がいくらかは第6章で計算します。

第16条に違反した場合の罰則は、第119条第1号で「六月以下の拘禁刑又は三十万円以下の罰金」とされています。控除の手続き違反(第24条)より重い扱いです。

3つを混ぜないこと
・損害額と無関係に金額を先に決める … 第16条(違約金・賠償額の予定)
・給料から一方的に引く … 第24条(全額払い)
・懲戒として賃金を減らす … 第91条(減給の制裁の上限)

現場で起きることは、たいていこのうち2つ以上にまたがります。なお「本人が同意したから引いた」と言われても、同意は第24条ただし書が求める労使協定の代わりにはなりません。それどころか、同意の対象になっている取り決め自体が第16条に当たることもある、という順番で見てください。

なお、退職時の引き止めで研修費の返還を求められる場面については、別の記事でも触れています。

実際に損害が出たときは、どうなるのか

ここは正確に書きます。

第16条が禁じているのは「損害賠償額を予定する契約」であって、実際に生じた損害について会社が賠償を求めること自体を、この条文が一律に禁じているわけではありません。

ただし、求められたからといって、次の2つまで自動的に認められるわけでもない。ここが大事なところです。

ひとつ、請求した金額がそのまま通るわけではない。実際にいくらの損害が出たのか、その原因に本人の落ち度がどれだけあるのか。これは個別に判断される話で、会社が言った金額がそのまま確定するものではありません。

ふたつ、給料から勝手に引いてよいことにはならない。仮に賠償の義務があるとしても、それと「給料から控除する」ことは別です。第24条の全額払いは、法令か労使協定がなければ崩れません。

つまり、こう整理できます。

会社が「弁償してほしい」と言うこと自体は、ただちに違法とは限らない。
しかし、金額をあらかじめ決めておくことは第16条に当たる。
そして、給料から一方的に引くことは第24条に触れる。

だから、現場で起きがちな「決まった額を、給料から引く」という形は、2つの条文にまたがって問題になります。

どこまで負担すべきかに納得がいかないときは、その場で答えを出さず、第10章の相談先に持ち込むのが安全です。

遅刻や欠勤の分は「制裁」ではありません

ここを混同すると、引かれていい分まで「違法だ」と言ってしまうことになります。

働いていない時間の分の賃金は、もともと発生しません。いわゆるノーワーク・ノーペイです。

厚生労働省の労働局は、この点をはっきり書いています。

「働いてない部分については支払わなくてもよいので、遅刻や欠勤分だけを賃金から差し引いたとしても、減額の制裁とはなりません」
「差し引かれる額が遅刻や欠勤分を少しでも超えた場合、それがたとえ1円でも、その超えた分は減給の制裁」(山梨労働局)

30分遅刻して30分ぶんの賃金が引かれる。これは制裁ではありません。

一方、30分遅刻したのに1時間ぶん引かれた。この超えた30分ぶんが「減給の制裁」になり、次の章の上限がかかります。

明細を見るときは、引かれた時間と、実際に遅れた時間を突き合わせるところから始めてください。

減給の制裁には、2つの上限があります

懲戒として減給すること自体は、禁止されていません。ただし、労働基準法第91条が上限を決めています。

「就業規則で、労働者に対して減給の制裁を定める場合においては、その減給は、一回の額が平均賃金の一日分の半額を超え、総額が一賃金支払期における賃金の総額の十分の一を超えてはならない。」

第3章で後回しにした「遅刻1回につき1,000円」は、ここに入ります。就業規則に定めがあり、下の上限の範囲内であれば許されます。上限を超えていれば、その超えた分が問題になります。

上限は2段構えです。

1回あたりは、平均賃金の1日分の半額まで。

1か月(一賃金支払期)の合計は、その期間の賃金総額の10分の1まで。

条文の冒頭が「就業規則で…定める場合においては」となっている点も見てください。第89条第9号は、就業規則に記載すべき事項として「表彰及び制裁の定めをする場合においては、その種類及び程度に関する事項」を挙げています。就業規則に何も書かれていないのに減給だけされる、という形は条文の想定の外です。

平均賃金は、こうやって出します

「平均賃金の1日分の半額」と言われても、いくらなのか分からないと確かめられません。計算方法は第12条第1項にあります。

「この法律で平均賃金とは、これを算定すべき事由の発生した日以前三箇月間にその労働者に対し支払われた賃金の総額を、その期間の総日数で除した金額をいう。」

割るのは「労働日数」ではなく「総日数」、つまり暦の日数です。ここを間違えると、数字が大きく変わってしまいます。

ただし、時給や日給で働いている場合には下限があります。同項第1号です。

「賃金が、労働した日若しくは時間によつて算定され…た場合においては、賃金の総額をその期間中に労働した日数で除した金額の百分の六十」を下回ってはならない

具体的に計算してみます

月給24万円の人が、ある月に1回の減給処分を受けたとします。直前3か月の賃金の総額が72万円、その3か月の暦の日数が92日だったとしましょう。

  • 平均賃金=72万円 ÷ 92日 = 約7,826円
  • 1回の上限=7,826円 ÷ 2 = 約3,913円
  • その月の合計の上限=24万円 ÷ 10 = 24,000円

つまり、1回の処分で引けるのは4,000円に届きません。複数の処分が重なっても、その月は24,000円が天井になります。

よく聞く「減給10分の1」という言い方は、1回につき給料の10分の1という意味ではありません。条文の10分の1は、1か月の合計の上限のほうです。1回の上限は、あくまで平均賃金1日分の半額です。

よくある誤解
・「減給10分の1を6か月」のように、同じ処分を何か月も続ける
・「1回につき給料の10分の1まで引ける」と読む

どちらも条文の読み方としては成り立ちません。山梨労働局も「減給10分の1を6か月」のような形は違反になると示しています。

前借金との相殺も、禁止されています

関連して、もうひとつ短い条文を。労働基準法第17条です。

「使用者は、前借金その他労働することを条件とする前貸の債権と賃金を相殺してはならない。」

「働くことを条件に先に貸したお金」を、給料と差し引きすることはできない、という定めです。

入社時に会社が立て替えた費用を、働き続けることを条件に貸付の形にして給料から回収する。そうした仕組みは、この条文の射程に入ってきます。

第17条の違反も、第119条第1号で「六月以下の拘禁刑又は三十万円以下の罰金」の対象です。

違反すると、どうなるのか

罰則の重さを整理しておきます。

条文 内容 罰則
第16条 違約金・損害賠償額の予定の禁止 6月以下の拘禁刑又は30万円以下の罰金(第119条第1号)
第17条 前借金相殺の禁止 6月以下の拘禁刑又は30万円以下の罰金(第119条第1号)
第24条 賃金の全額払い等 30万円以下の罰金(第120条第1号)
第91条 減給の制裁の制限 30万円以下の罰金(第120条第1号)

そして、労働者の側には申告する権利が明記されています。第104条です。

「事業場に、この法律又はこの法律に基いて発する命令に違反する事実がある場合においては、労働者は、その事実を行政官庁又は労働基準監督官に申告することができる。」
「2 使用者は、前項の申告をしたことを理由として、労働者に対して解雇その他不利益な取扱をしてはならない。」

申告したことを理由とする不利益な取扱いは、第2項で禁止されています。そしてこの第104条第2項の違反は、第119条第1号の対象です。

請求できる期間にも決まりがあります。第115条は賃金の請求権を5年としていますが、附則第143条第3項により「当分の間」は3年と読み替えられています。退職手当は5年のままです。

3年という期間は、気づいたときにはもう一部が過ぎている、ということが起こり得る長さです。明細は捨てないでください。

明細を1行ずつ確かめる手順

ここからが実務です。条文が分かっても、自分の明細を見ないと話が始まりません。

手順1:控除欄をすべて書き出す

明細の「控除」の欄を、項目名と金額のまま紙かメモアプリに写します。合計も一緒に。

写すのは、頭の中で「これはいつものやつ」と飛ばしてしまうのを防ぐためです。見覚えのない1行は、たいてい流し読みの中に埋もれています。

手順2:3つに仕分ける

書き出した各行を、第2章の図のとおりに分けます。

A:法令に定めがあるもの
所得税、住民税、健康保険料、介護保険料、厚生年金保険料、雇用保険料。これは根拠があります。

B:労使協定があれば引けるもの
社宅費、寮費、社内預金、購買代金、親睦会費、組合費など。ここに当たる行があったら、手順3へ。

C:どちらでもないもの
レジの不足金、備品の弁償、ミスの罰金、制服代、備品代、研修費。この欄に金額が入っていたら、根拠を確かめる対象です。

手順3:Bの行は、協定の有無を聞く

Bに仕分けた項目があるなら、会社にこう聞けます。

「〇〇の控除について、労働基準法24条1項ただし書の労使協定を見せていただけますか」

協定は書面で結ぶものなので、あるなら示せるはずです。就業規則に書いてある、入社時に同意書を書いた、という回答は、条文が求めているものとは違います。

手順4:Cの行は、何の根拠で引かれたかを聞く

いきなり「違法です」と切り出す必要はありません。事実を確かめる形で十分です。

お疲れさまです。〇月分の給与明細について確認させてください。
控除欄に「〇〇」という項目で〇,〇〇〇円が記載されています。こちらはどのような根拠で控除されたものか、教えていただけますでしょうか。
あわせて、根拠となる規程または労使協定がありましたら、確認させていただきたいです。
よろしくお願いいたします。

口頭ではなく、メールやチャットなど日付が残る形で送ってください。回答もその形で返してもらうと、あとで相談するときの材料になります。

手順5:遅刻・欠勤の控除は、時間で突き合わせる

第5章のとおり、遅れた時間ぶんだけなら制裁ではありません。

タイムカードや打刻の記録と、控除された金額を突き合わせます。時給換算と合わない、遅れた時間より多く引かれている、という場合は、その超過分が減給の制裁として第91条の上限にかかります。

相談する前に揃えるものと、相談先

会社に聞いても解決しないときに動きます。

揃えておくもの

  • 給与明細(引かれている月と、引かれていない月の両方)
  • 労働条件通知書または雇用契約書
  • 就業規則(制裁の定めがあるか。見せてもらえないときは、その事実もメモに残す)
  • 勤務時間の記録(打刻データ、シフト表、自分で付けた記録)
  • やりとりの記録(控除について質問したメールと、その回答)
  • 言われた内容のメモ(口頭だった場合は、日付・場所・相手・発言をその日のうちに)

相談先

労働基準監督署が第一の窓口です。第104条の申告先がここになります。全国の所在地は厚生労働省の全国労働基準監督署の所在案内で確認できます。

総合労働相談コーナーも各労働局・監督署内に置かれていて、どこに持ち込めばよいか分からない段階でも相談できます。

在職中で、会社に知られたくないという不安があるときは、その点も含めて相談してください。第104条第2項が、申告を理由とする不利益な取扱いを禁止しています。

今日からできること

3つあります。

ひとつめ、5分。直近3か月の明細を並べて、控除欄だけ見比べる。

金額が動いている行、ある月だけ出てくる行を探します。毎月同じ金額で並んでいるのは、たいてい法令に定めがあるものです。動いている行に、確かめるべきものが混ざっています。

ふたつめ、10分。自分の平均賃金を1回だけ計算しておく。

直近3か月の賃金総額を、その3か月の暦の日数で割る。それが平均賃金です。半分にした額が、減給1回あたりの上限です。一度出しておくと、何かあったときに判断が早くなります。

みっつめ、3分。就業規則がどこにあるかを確認する。

常時10人以上の労働者がいる事業場では、就業規則の作成と届出が義務づけられています(第89条)。制裁の定めがあるなら、その種類と程度も書かれているはずです。社内の共有フォルダか、事務所の棚か。どこにあるかだけでも把握しておいてください。

まとめ

給料は「通貨で、直接労働者に、その全額を」支払うのが原則です(労働基準法第24条第1項)。

そこから控除できるのは、法令に別段の定めがある場合か、労働者の過半数代表との書面による労使協定がある場合に限られます。レジの不足金やミスの弁償は、このどちらにも当てはまりません。

さらに第16条は「違約金を定め、又は損害賠償額を予定する契約をしてはならない」としています。禁じられているのは、実際の損害額と切り離して金額を先に決めてしまうことです。「皿を割ったら1枚500円」はこれに当たります。一方、「不足分を負担」は金額が実損なので第16条の「予定」ではなく、給料から引く点が第24条の問題。「遅刻1回1,000円」は第16条ではなく、減給の制裁として第91条の上限の話です。研修費の返還は、費用の性質によって評価が分かれるため、第16条に当たり得る、という整理にとどめます。

実際に生じた損害について会社が賠償を求めること自体を、第16条が一律に禁じているわけではありません。問題はその先、請求された額がそのまま確定するのか、そして給料から引いてよいのか、という2点です。

遅刻や欠勤の分だけを引くのは制裁ではありませんが、1円でも超えればその分は減給の制裁になります。減給の制裁には、1回が平均賃金の1日分の半額、1か月の合計が賃金総額の10分の1、という2つの上限があります(第91条)。

前借金と賃金の相殺も禁止されています(第17条)。

違反には罰則があり、第16条・第17条は6月以下の拘禁刑又は30万円以下の罰金、第24条・第91条は30万円以下の罰金です。労働者には申告する権利があり(第104条第1項)、申告を理由とする不利益な取扱いは禁止されています(同条第2項)。

賃金の請求権の時効は、当分の間3年です。明細は捨てないでください。

よくある質問(FAQ)

Q1. レジの不足金を給料から引かれました。これは違法ですか?

労働基準法第24条第1項は「賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない」としています。控除できるのは、同項ただし書により「法令に別段の定めがある場合」か、労働者の過半数代表との「書面による協定がある場合」に限られます。レジの不足金は法令に定めがなく、そうした控除を定めた労使協定もふつうはありません。一方的に引けば全額払いの原則に触れることになります。なお「不足分は本人が負担」という取り決めは、金額が実際の差額なので第16条の「予定」そのものではありません。第16条に当たるのは「皿を割ったら1枚500円」のように、実損と切り離して金額を先に決めている場合です。

Q2. 入社時に同意書に署名しています。それでも引けないのですか?

署名があれば何でも引けるわけではありません。第24条第1項ただし書が求めているのは、本人の同意書ではなく「労働者の過半数で組織する労働組合」または「労働者の過半数を代表する者」との書面による協定です。個人の同意書は、この要件とは別のものです。加えて、同意の対象になっている取り決めが「皿を割ったら1枚500円」のように実損と切り離して金額を先に決めるものであれば、その取り決め自体が第16条の禁じる「損害賠償額を予定する契約」に当たります。署名していても、その点は変わりません。

Q3. 会社の備品を壊しました。弁償はまったく必要ないのですか?

そこまでは言えません。第16条が禁じているのは「違約金を定め、又は損害賠償額を予定する契約」であって、実際に生じた損害について会社が賠償を求めること自体を、この条文が一律に禁じているわけではありません。ただし、会社が言った金額がそのまま確定するわけではなく、実際の損害額や本人の落ち度の程度によって個別に判断される話です。そしていずれにしても、給料から一方的に引いてよいことにはなりません。金額に納得がいかないときは、その場で答えを出さず、労働基準監督署や総合労働相談コーナーに相談してください。

Q4. 遅刻した分を引かれました。これも違法ですか?

遅れた時間の分だけであれば、違法ではありません。働いていない時間の賃金はもともと発生しないためです。山梨労働局も「遅刻や欠勤分だけを賃金から差し引いたとしても、減額の制裁とはなりません」としています。問題になるのは、引かれた額が遅れた分を超えたときです。同じ説明の中で「それがたとえ1円でも、その超えた分は減給の制裁」とされており、第91条の上限がかかります。打刻の記録と控除額を突き合わせて確かめてください。

Q5. 「減給10分の1」とよく聞きますが、1回につき給料の10分の1まで引けるのですか?

違います。第91条は「一回の額が平均賃金の一日分の半額を超え、総額が一賃金支払期における賃金の総額の十分の一を超えてはならない」としています。10分の1は1回の上限ではなく、1か月(一賃金支払期)の合計の上限です。1回の上限は平均賃金の1日分の半額のほうで、こちらのほうがずっと小さい金額になります。また「減給10分の1を6か月」のように同じ処分を何か月も続ける形も、条文の読み方としては成り立ちません。

Q6. 平均賃金はどうやって計算しますか?

第12条第1項が「これを算定すべき事由の発生した日以前三箇月間にその労働者に対し支払われた賃金の総額を、その期間の総日数で除した金額」としています。割るのは労働日数ではなく暦の総日数です。たとえば直近3か月の賃金総額が72万円、その期間の暦日数が92日なら、平均賃金は約7,826円。減給1回の上限はその半額の約3,913円になります。時給や日給で働いている場合は下限があり、同項第1号により「賃金の総額をその期間中に労働した日数で除した金額の百分の六十」を下回らない額とされています。

Q7. 制服代や備品代を毎月引かれています。

まず、その控除に労使協定があるかを確かめてください。第24条第1項ただし書は、法令に定めがある場合か、過半数代表との書面による協定がある場合にだけ控除を認めています。厚生労働省は協定で控除できる例として「社内預金、購買代金、組合費等」を挙げており、購買代金に当たる整理で協定が結ばれていることはあります。協定があるなら会社は示せるはずなので、「労働基準法24条1項ただし書の労使協定を見せていただけますか」と、日付の残る形で聞いてみてください。協定がないまま引かれているのであれば、全額払いの原則に触れます。

Q8. 「1年以内に辞めたら研修費を返せ」と言われています。

金額をあらかじめ決めて、辞めた場合に返還させる取り決めは、第16条の「労働契約の不履行について違約金を定め、又は損害賠償額を予定する契約」に当たり得ます。第16条の違反は第119条第1号により「六月以下の拘禁刑又は三十万円以下の罰金」の対象で、第24条の違反より重い扱いです。また、返還分を最後の給料から差し引く形も、第24条の全額払いの問題になります。退職の引き止めで言われることへの答え方は、別の記事でまとめています。実際に請求されている場合は、労働基準監督署または総合労働相談コーナーに、契約書と言われた内容のメモを持って相談してください。

Q9. アルバイトでも同じですか?

同じです。労働基準法は雇用形態で適用を分けていません。第24条の全額払いも、第16条の賠償予定の禁止も、第91条の減給の上限も、アルバイトやパートにそのまま適用されます。むしろ、レジの不足金や商品の破損の負担を求められる場面は、現場で働くアルバイトのほうが多いかもしれません。平均賃金については、時給で働いている場合に第12条第1項第1号の下限(労働した日数で割った額の100分の60)が効いてくるので、計算のときに注意してください。

Q10. 相談したら会社にばれて不利益を受けませんか?

第104条第1項は「労働者は、その事実を行政官庁又は労働基準監督官に申告することができる」として申告する権利を定め、第2項で「使用者は、前項の申告をしたことを理由として、労働者に対して解雇その他不利益な取扱をしてはならない」としています。この第2項の違反は、第119条第1号の対象です。とはいえ、在職中の不安はもっともなので、相談するときにその点を伝えてください。どこに持ち込めばよいか分からない段階であれば、各労働局・労働基準監督署内の総合労働相談コーナーでも相談できます。あわせて、賃金の請求権の時効は当分の間3年とされているので、明細や記録は捨てずに残しておいてください。

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