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マイケル・ジョーダンの失敗の名言|「9000回外した」を書いたのは本人ではない

名言の裏側

「私はキャリアで9000回以上シュートを外した。約300試合に敗れた。勝敗を決めるシュートを26回任され、外した」。マイケル・ジョーダンの言葉として知られていますが、この文章を書いたのは本人ではありません。1997年のナイキのCMのために、広告代理店のコピーライターが書いたものです。しかも3つの数字は、確からしさがそれぞれ違います。とくに「26回」は、記録が存在しないために推定で置かれた数字でした。

あの名言を書いたのは、ジョーダンではない

失敗について語るとき、必ずと言っていいほど引かれる言葉です。

ただ、これは彼が自分の言葉で語ったものではありません。1997年に放送されたナイキのテレビCM「Failure」の台本です。

書いたのは、広告代理店ワイデン・アンド・ケネディのコピーライター、ジェイミー・バレット。ジョーダンは、用意された文章を読み上げています。

誤解のないように書いておくと、これは捏造ではありません。CMという形式では、話し手が自分で書かないのは当たり前です。問題は、それが本人の内省として引用され続けていることのほうにあります。

CMの全文

30秒の映像で語られるのは、これだけです。

「私はキャリアで9000回以上シュートを外してきた。約300試合に敗れた。勝敗を決めるシュートを任されて、26回外した。人生で何度も何度も失敗してきた。だからこそ、私は成功するのだ」

原文: I’ve missed more than 9,000 shots in my career. I’ve lost almost 300 games. 26 times I’ve been trusted to take the game winning shot and missed. I’ve failed over, and over and over again in my life. And that is why I succeed. / 出典: Sneaker Freaker

数字が3つ出てきます。9000回、300試合、26回。この3つは、出どころがそれぞれ違います。

「9000回」はどう出した数字か

バレットは、統計を調べてからこの数字を書いたわけではありませんでした。

彼が知っていたのは、ジョーダンの通算得点と、おおよそのシュート成功率です。そこから単純な計算で「外した本数は8000から9000くらいだろう」と見積もりました。

そして、あとから実際の記録を調べたところ、その概算は当たっていました(Sneaker Freaker)。

つまり「9000回」は、推定から出発して、後から裏が取れた数字ということになります。

「26回」は、記録が存在しない

問題はこちらです。

「勝敗を決めるシュートを任されて外した回数」という統計は、当時そもそも記録されていませんでした。調べようがないのです。

バレットには2つの選択肢がありました。ジョーダンの13年分の試合をすべて見て数えるか、それとも見積もるか。

彼は後者を選びます。「1シーズンにつき2回くらいだろう」と置き、13年をかけました。

3つの数字の、確からしさは同じではない300試合に敗れた試合の勝敗は記録が残っている。実測にあたる9000回以上外した通算得点と成功率から概算。あとで調べたら当たっていた26回、決勝シュートを外した当時この統計は存在しない。1シーズン2回と置いて13年ぶんを掛けた推定濃いほど確か。同じ一文の中に、実測と推定が混ざっている。

3つの数字は並べて語られるが、根拠の強さは同じではない。

計算は合います。2回 × 13年 = 26回。

バレット本人が、この数字についてはより自由に決めたと認めています。統計が存在しない以上、それ以外に方法がなかったからです。

ここが「裏」の部分

世界でもっとも有名な「失敗についての言葉」の中に、記録が存在しないために推定で置かれた数字が混ざっています。しかも、それが最も具体的で説得力のある数字として引用されてきました。

「9000回」は大きすぎて実感しにくい。「300試合」も同じです。ところが「26回」は、思い浮かべられる回数です。具体的だからこそ信じられる。そして具体的な数字ほど、根拠が薄いことがあるということになります。

「高校でカットされた」も、正確ではない

ジョーダンにはもうひとつ、有名な話があります。高校のバスケットボール部を切られた、というものです。

これも記録を見ると、少し違います。

1978年に何が起きたのか

舞台はノースカロライナ州ウィルミントンのレイニー高校。ジョーダンは2年生で、身長は5フィート10インチ、およそ178センチでした。

トップチームであるバーシティの選考に臨みましたが、名簿に彼の名前はありませんでした。ここまでは知られているとおりです。

ただし、彼は切られていません。下級生チームであるジュニア・バーシティの15人に選ばれています(OLDSKOOLBBALL)。

当時、2年生がバーシティに入るのは稀でした。通常は下級生チームから始め、3年生で昇格します。つまり彼の扱いは、当時の慣行どおりだったことになります。

では、なぜ「カットされた」話になったのか

その年、コーチのクリフトン・”ポップ”・ヘリングは例外を1人だけ作りました。チームの身長不足を補うためです。

選ばれたのは、6フィート7インチ、およそ201センチの2年生。リロイ・スミスという、ジョーダンの親しい友人でした。

1978年、貼り出された2枚の名簿バーシティ(トップチーム)上級生が中心3年生・4年生リロイ・スミス(2年生)201センチ・例外の1人ジョーダンの親しい友人だったジュニア・バーシティ2年生は通常こちらから始める15人が選ばれたマイケル・ジョーダン178センチ・2年生切られてはいない名簿は2枚あった。彼の名前は、右側にあった。

「落選」ではなく「配属」だった。ただし友人の名前が左側にあったことは、事実として残る。

ジョーダンは家に帰り、部屋で泣いたと記録されています。

彼を打ちのめしたのは、バーシティの名簿に自分の名前がなかったことだけではありません。そこに友人の名前があったことのほうでした。

制度としては通常どおりの配属です。しかし本人にとっては、友人が上に行き、自分は残された、という出来事でした。この2つは矛盾しません。

それでも本人は、この話を語り続けた

ここが興味深いところです。

実際にはカットされていないにもかかわらず、ジョーダン自身がこの話を「落とされた経験」として語り続けました。2009年の殿堂入りスピーチでは、当時のコーチに向けて「あなたは間違いを犯した」という趣旨の言葉を投げています。

本人が繰り返し語ることで、「カットされた」という形が定着していきました。

ナイキのCMも同じ構図です。コピーライターが書いた文章を本人が読み上げ、それが本人の言葉として広まった。語り手が誰かということと、その話が広まる力は、必ずしも一致しません。

この話の弱点

「失敗したから成功した」という要約には、いくつか注意点があります。

1. 因果が逆に見える

CMの締めは「だからこそ、私は成功するのだ」です。ただし論理としては、失敗が成功をもたらしたわけではありません。

9000回外せるほど打った人が、それだけ打てる場所に居続けたというのが実際に起きたことです。外した回数は、挑戦の量の裏返しにすぎません。同じ回数外して終わった選手のほうが、はるかに多いはずです。

2. 広告としての目的がある

これはナイキのCMです。商品を売るために作られています。失敗を肯定的に描くのは、そのほうが視聴者の心に残るからでもあります。

内容が間違っているという話ではありません。目的を持って書かれた文章だと分かったうえで読むかどうかで、受け取り方が変わるという話です。

3. 数字の確からしさが混ざっている

実測、当たった概算、根拠のない推定。3つが1つの文章の中に並んでいます。引用するとき、この違いは消えます。

具体的な数字が入っていることは、その話が正確であることを意味しません。

では、自分はどうするか

1. 引用する前に、誰が書いたかを確かめる

この言葉は、広告のために書かれた文章です。それを知らずに「本人の内省」として引くと、話がずれます。

今日できること:資料や提案で使う予定の名言を1つ選び、初出をたどってください。本人の著書か、インタビューか、広告か、後世のまとめか。この4つのどれかで、扱い方が変わります。1回さかのぼるだけで十分です。

2. 具体的な数字ほど、根拠を疑う

「26回」が信じられたのは、それが具体的だったからです。曖昧な表現より、数字のほうが強く見えます。

今日できること:自分が資料に書いた数字を1つ選び、「これは実測か、概算か、推定か」を分類してください。3つのうちどれかを、数字の横に書き添えます。読む側の判断が変わりますし、自分でも思い込みに気づけます。

3. 制度上の扱いと、本人の実感を分けて記録する

ジョーダンは制度上はカットされていません。しかし本人にとっては打ちのめされる出来事でした。どちらも本当です。

今日できること:うまくいかなかった出来事について、「事実として何が起きたか」と「自分がどう感じたか」を2行に分けて書いてください。混ぜたまま覚えていると、時間が経つにつれて感情のほうが事実を書き換えていきます。

まとめ

「9000回外した」という言葉は、1997年のナイキのCM「Failure」の台本です。書いたのはワイデン・アンド・ケネディのコピーライター、ジェイミー・バレットでした。

3つの数字は、確からしさが違います。300試合は記録に基づく実測。9000回は通算得点と成功率からの概算で、あとから調べたら当たっていました。そして26回は、当時その統計が存在しなかったため、1シーズン2回と置いて13年をかけた推定です。

「高校でカットされた」という話も、正確ではありません。1978年、2年生だった彼はジュニア・バーシティの15人に選ばれています。当時2年生がバーシティに入るのは稀で、彼の扱いは慣行どおりでした。ただしその年、身長を補うために例外として1人だけ上げられたのが、201センチの親友リロイ・スミスだったという事実は残ります。

制度としては通常の配属。本人にとっては打ちのめされる出来事。この2つは、どちらも本当です。

よくある質問

「9000回外した」の名言は誰の言葉ですか

文章を書いたのは、広告代理店ワイデン・アンド・ケネディのコピーライター、ジェイミー・バレットです。1997年のナイキのテレビCM「Failure」の台本で、ジョーダンはそれを読み上げました。捏造ではありませんが、本人が自分の言葉として語ったものでもありません。

CMの数字は正確なのですか

確からしさが3つで異なります。「約300試合に敗れた」は記録に基づきます。「9000回以上外した」は通算得点と成功率からの概算で、あとから調べたところ当たっていました。「決勝シュートを26回外した」は、当時その統計が存在しなかったため推定で置かれた数字です。

26回という数字はどう決めたのですか

コピーライターのバレットが「1シーズンにつき2回くらいだろう」と見積もり、ジョーダンの13年のキャリアを掛けて出しています。2×13で26です。全試合を確認するか推定するかの二択で、彼は後者を選んだと説明しています。

ジョーダンは高校でカットされたのですか

切られてはいません。1978年、2年生だったジョーダンは下級生チームであるジュニア・バーシティの15人に選ばれています。当時2年生がトップチームに入るのは稀で、通常は下級生チームから始めて3年生で昇格する慣行でした。

なぜカットされた話として広まったのですか

バーシティの名簿に名前がなかったこと、そして同じ2年生である親友のリロイ・スミスが例外として選ばれていたことが理由です。ジョーダンは家で泣いたと記録されています。さらに本人がこの経験を繰り返し語り、2009年の殿堂入りスピーチでも当時のコーチに触れたことで、その形が定着しました。

リロイ・スミスはなぜ選ばれたのですか

身長です。当時のレイニー高校のチームは背の高さで不利があり、コーチのクリフトン・ヘリングは補強のために2年生を1人だけ例外的に引き上げました。それが6フィート7インチ、およそ201センチのリロイ・スミスでした。178センチだったジョーダンとは20センチ以上の差があります。

物語の続きは、耳と目で。

記事で読んだ人物の話は、音声「一流の耳学」とYouTube、noteでも配信しています。移動中や作業中に、耳から。

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