
デザインの副業は、道具のハードルが最も下がった分野です。Canvaが無料で使えるようになり、絵が描けなくてもバナーやチラシが形になります。そのぶん、別の場所でつまずく人が増えました。作れるようになったのに、そのデザインを「売っていいのかどうか」が分からないという場所です。
ここを曖昧にしたまま受注すると、あとから取り返しがつきません。納品したロゴが商標登録できないと言われる、同じテンプレートを2社に納品してしまう、素材をそのまま使った画像をグッズにされる。どれも、契約の後に発覚すると相手との関係ごと終わります。
この記事では、デザインの副業を「その道の専門家」の目で分解します。扱うのは、成果物の種類ごとの単価、手数料を引いた手取り、1枚にかかる時間、Canvaのライセンスで許されている範囲、最初の案件の取り方、単価が上がる順番、つまずく場所です。「やってみたら月いくらでした」という結果報告はしません。
単価はクラウドワークスの公式ページ、手数料はクラウドワークスとココナラの公式ページ、ライセンスと料金はCanva公式のヘルプとコンテンツ使用許諾契約を一次情報にしています。数字と条件はすべて規約と価格は改定されるので、契約の前に必ず公式ページで読み直してください。
デザインの単価は「作る手間」ではなく「使われ方」で決まる
Webライターの報酬が文字単価、動画編集が「尺と作業範囲」で語られるのに対して、デザインの報酬は成果物の種類ごとに相場が分かれます。作業時間が長いものが高い、という並びにはなっていません。
クラウドワークスが公式に出している発注相場を、デザイン分野だけ抜き出すと次のようになります。発注する企業側に向けて「これくらい払ってください」と示している数字なので、受注側から見れば上限ではなく出発点です。
| 依頼の種類 | 相場 | 納期目安 |
|---|---|---|
| 広告用バナー作成 | 5,000円〜 | 7日前後 |
| 名刺デザインのリニューアル | 20,000円〜 | 10日前後 |
| チラシ(A5カラー片面) | 30,000円〜 | 10日前後 |
| アイコンのデザイン | 30,000円〜 | 10日前後 |
| ロゴ作成(飲食店の例) | 30,000円〜 | 10日前後 |
| パンフレット(A4・4ページ) | 70,000円〜 | 10日前後 |
出典はクラウドワークスの発注相場ページです。同じページには実際の募集例も並んでいて、「ウェブサイトのアイキャッチバナーの作成5枚で1.5万円」「アフィリエイト用の広告バナーをコンペで33,000円」といった案件が出ています。バナー5枚で1.5万円なら1枚3,000円で、相場表の5,000円より下です。相場表は「そこから始まる」数字であり、実際の募集はその前後に散らばっています。
なぜバナーがいちばん安いのか
バナーは作業時間が短いから安いのではありません。使われる範囲と、外れたときの影響が小さいからです。広告バナーは差し替えが前提で、反応が悪ければ来週には別の絵に変わります。取り返しがつく仕事は、単価が上がりにくい。
逆にロゴや看板は、一度決めたら何年も使われます。名刺に載り、契約書に載り、店の前に立ちます。作り直すときに全部刷り直すことになるので、発注側は慎重になり、そのぶん予算がつきます。ここが、デザインの単価を決めている本当の軸です。
「1枚いくら」で考えると受け方を間違える
この軸が分かっていないと、案件の選び方を間違えます。たとえば「バナー1枚5,000円」と「チラシ1枚30,000円」を時間あたりで比べて、チラシのほうが得だと判断するのは早すぎます。チラシは掲載する情報の点数が多く、原稿の取りまとめと校正のやり取りが発生し、印刷所の入稿規定に合わせる作業まで含まれることがあります。
最初に取るべきなのは、責任の範囲が狭くて、回数を重ねられる仕事です。バナーはその条件を満たしています。安いから初心者向けなのではなく、失敗しても差し替えが効くから、最初の実績を積む場所として向いているということです。
手数料を引いた手取りと、バナー1枚に何時間かかるか
受け取る金額は、契約金額そのままではありません。クラウドソーシングを使う場合、システム利用料が引かれます。ここを計算に入れていないと、時間あたりの見え方が2割ずれます。
クラウドワークスの場合
クラウドワークスのワーカーシステム利用料は、契約金額のうち10万円以下の部分が20パーセント、10万円超20万円以下の部分が10パーセント、20万円超の部分が5パーセントです。公式ページには計算例も載っていて、契約金額10,000円(税抜)の場合、システム利用料は税込2,420円、ワーカーが受け取る額は8,580円と明記されています。
さらに、報酬を口座に振り込む段階で振込手数料がかかります。楽天銀行なら税込100円、それ以外の銀行なら税込500円です。副業の入口で扱う金額は小さいので、この差は無視できません。デザインの副業を始めるなら、楽天銀行の口座を先に作っておくと、毎月の手数料が5分の1になります。
ココナラの場合
ココナラは通常の販売の手数料が税込22パーセント(20パーセントに消費税)です。公式ヘルプの計算例では、125,000円の販売に対して手数料が差し引かれ、受け取りは97,500円になります。同じページには、ビデオチャットのサービスは税込27.5パーセントという別枠も書かれています。
同じ5,000円でも、受け取る額はサービスによって変わります。クラウドワークスの利用料は消費税込みの金額に対してかかり、ココナラの手数料は販売価格に対してかかるためです。
| 受注先 | 5,000円の案件 | 手取り |
|---|---|---|
| クラウドワークス | 契約金額5,000円(税抜) | 約4,290円 |
| ココナラ | 販売価格5,000円 | 3,900円 |
クラウドワークスの計算は、5,000円に消費税を足した5,500円に対して20パーセントと消費税のシステム利用料1,210円がかかり、残りが4,290円という順序です。ここからさらに振込手数料が引かれます。この数字を頭に入れたうえで、次の時間の話を読んでください。
バナー1枚にかかる時間(本メディアの想定モデル)
デザインの所要時間には公的な統計がありません。以下は、標準的な進め方を工程に分解した本メディアの想定モデルで、統計ではありません。自分の作業ログに置き換えて使ってください。
| 工程 | 時間 | やること |
|---|---|---|
| 要件の確認 | 30分 | サイズ、掲載先、伝えたいこと1つ、締切 |
| 参考集め | 20分 | 同じ業種の広告を10点集めて方向を決める |
| ラフ2案 | 60分 | 文字の並びだけ決めた粗い案を2つ |
| 清書 | 45分 | 選ばれた案を仕上げる |
| 修正2回 | 30分 | 文言差し替えと色の調整 |
| 書き出しと納品 | 15分 | 指定形式で書き出し、確認事項を添えて送る |
合計すると1枚あたり3時間20分前後です。手取りで見ると、クラウドワークス経由なら時間あたり約1,287円、ココナラ経由なら約1,170円になります。ここで効いてくるのが修正の回数です。修正を2回と決めていれば上の計算で収まりますが、回数を決めずに受けて5回、6回と続くと、同じ報酬で時間だけが倍になります。デザインの副業で時間あたりの単価を壊すのは、安い案件ではなく、終わらない修正です。
Canvaで受けていい仕事と、受けてはいけない仕事
Canva以外の道具でどこまで受けられるかは、無料ツールの範囲の回で別に整理しています。ここではCanvaに絞ります。
ここがこの記事の本題です。Canvaは無料でも大量の素材が使えますが、「使えること」と「売っていいこと」は別の話です。Canvaはコンテンツ使用許諾契約とヘルプで、クライアントワークの条件を明示しています。
クライアントのためにデザインを作るときの3つの条件
Canva公式のヘルプは、クライアントのためにデザインを作って報酬を受け取れるのは、次の3つを満たす場合に限るとしています。
- 完成したデザインの権利を、クライアントと契約を結んで譲渡すること
- クライアント側もコンテンツ使用許諾契約を守っていることを確認すること
- 1つのクライアントにだけ譲渡すること。同じデザインを複数のクライアントに譲渡したり販売したりしないこと
3つ目が実務でいちばん引っかかります。よくできたバナーの型を作ると、業種を変えて他社にも売りたくなります。文字と色だけ差し替えて別の会社に納品する、という受け方は、この条件に反します。使い回すのであれば、素材と構成をゼロから組み直す必要があります。
素材を「単独で」使うのは禁止されている
Canvaの素材は、それ単体を商品にすることができません。公式ヘルプは、コンテンツをそのままの形で使う、フィルターだけをかける、色を変える、サイズを変える、切り抜く、ボーダーなど最小限の装飾を足して1点の素材を使う、といった使い方を「単独の使用」と定義し、認めていません。
具体例として挙げられているのは、ライブラリの写真を取り出してTシャツに貼って販売するケースです。これは自分でプリントしても、プリントオンデマンドのサービスを通しても同じ扱いになります。販売できるのは、素材と編集を組み合わせて作った「新しい作品」だけという線引きです。
バナー制作の実務に置き換えると、写真1枚に文字を1行乗せただけの納品物は、この境界に近づきます。レイアウト、余白の設計、文字の組み方、複数素材の組み合わせ。そこに自分の判断が入っているかどうかが、線を越えないための基準になります。
テンプレートを販売するときはもう1段きびしい
テンプレートの販売にも条件があります。Canvaプロの素材を含むテンプレートは、Canvaのテンプレートリンクとして共有する形でしか販売できません。PDFやその他のファイル形式で売ることは、フラット化していても認められていません。
無料版の素材と、自分で撮影してアップロードした写真だけで作ったテンプレートであれば、PDFとしてもテンプレートリンクとしても販売できます。テンプレート販売を副業の柱にするつもりなら、最初から「無料素材と自分の素材だけで作る」と決めておくほうが、後から作り直さずに済みます。
ロゴの案件だけは、引き受ける前に伝えることがある
ロゴは相場が30,000円からで、デザインの副業では上位の単価です。ただし、Canvaで作るロゴには、他の成果物にはない制約があります。
Canvaの素材が入ったロゴは商標登録できない
Canva公式は、ライブラリのイラストや写真を含むロゴは商標登録できないと明記しています。素材に与えられるのは非独占的なライセンスで、他のユーザーも同じ素材を使えるからです。商標は、自分が独占的に使える要素で構成されている必要があります。
一方で、次の2つは商標登録が可能だとしています。ひとつは、フォントとシンプルな線・図形だけで組んだロゴ。もうひとつは、自分で描いた(あるいはイラストレーターに依頼して作った)オリジナルのアートワークをCanvaにアップロードして使う方法です。素材の独占権を買い取る仕組みは、現在は提供されていません。フォント自体にも使ってよい範囲があるので、フォントライセンスの回で納品前に確かめることを扱っています。
受注前に一言入れておく
この話を納品後にすると、確実にもめます。相手は店名やサービス名を登録するつもりでロゴを発注していることがあるからです。提案の段階で、次のように伝えておけば済みます。
「将来的に商標登録をお考えでしたら、素材集のイラストを含まない構成(文字と図形のみ)でお作りします。イラストを入れる場合は、登録ができない点をご了承ください」。この一文を提案文に入れておくだけで、後から起きる事故のほとんどは防げます。専門家として信頼されるのは、きれいなロゴを出すことよりも、この制約を先に説明できることです。
必要なものは3つだけ。有料プランは後から
動画編集と違って、デザインの副業は初期投資がほぼ要りません。必要なものを順に並べます。
1. パソコンとCanvaの無料アカウント
スマホアプリでも作れますが、案件として受けるならパソコンで作業してください。指定サイズの入力、文字の細かい位置調整、書き出し形式の選択が、画面の広さでそのまま速度になります。特別なスペックは不要で、ブラウザが快適に動けば足ります。
Canvaの無料版で使えるのは、470万点以上の写真・動画・イラスト・音源と、160万点以上のテンプレート、クラウドストレージ5GBです(公式料金ページ)。最初の数件はこれで足ります。
2. 有料プランは「継続案件が決まってから」
Canvaプロは年払いで1人あたり11,800円、Canvaビジネスは18,800円です(同日確認)。プロにすると、プレミアムを含む360万点以上のテンプレート、1億4,100万点以上のプレミアム素材、背景透過などのAI機能、ブランドキット5個、ストレージ100GBが使えます。
ただし、これは案件が1件も決まっていない段階で払うものではありません。年額11,800円は、5,000円のバナー案件の手取り(3,900〜4,290円)で換算すると3件分です。継続の依頼が来て、素材を探す時間が惜しくなった時点で切り替えるのが、順番として正しい。前回の動画編集の記事と同じ原則で、道具にお金を払うのは、その道具で回収できる見込みが立ってからです。
3. 納品の形を決めておく道具
納品でつまずかないために、受注前に決めておく項目があります。書き出し形式(PNGかJPGかPDFか)、サイズ(ピクセル指定か、印刷ならミリと解像度)、ファイル名の付け方、修正の回数と期限。この4つをテンプレート化して、提案文に貼れるようにしておきます。書き出しの中身をどう決めるかは、画像納品の回で扱っています。
もう1つ、参考書を1冊置いておくと、独学の穴が埋まります。Canvaの操作そのものより、余白の取り方や文字の組み方といった判断の基準が身につくものを選んでください。『基本とプロのコツが両方学べる Canvaデザイン』(ベーコン著・2,420円)は、操作と判断の両方を扱っています。
最初の案件を取る手順
実績ゼロの状態から最初の1件を取るまでを、順番に書きます。ここを飛ばして案件に応募しても、提案が読まれません。
手順1:自主制作を3点だけ作る
架空の店舗や商品を設定して、バナーを3点作ります。3点それぞれで、サイズと目的を変えてください。たとえば、Instagram用の正方形、Web広告用の横長、イベント告知用の縦長。実在する企業のロゴや商品写真を勝手に使わないこと。自主制作でも、他社の権利物を無断で使えば実績ではなく事故になります。
作ったら、それぞれに「誰に、何を、1つだけ伝えるために、どう並べたか」を2〜3行で添えます。発注側が見ているのは絵のうまさではなく、意図を説明できるかどうかです。
手順2:クラウドワークスで固定報酬の案件を探す
最初はコンペ形式ではなく、固定報酬制の案件を選びます。コンペは選ばれなければ作業時間がゼロ円になり、実績も残りません。固定報酬制なら、受注が決まってから作業に入れます。
検索は「バナー」だけでなく「アイキャッチ」「サムネイル」「ヘッダー」「アイコン」でも行ってください。同じ作業が別の名前で募集されています。募集要項にサイズと用途が具体的に書かれている案件を選ぶと、認識のずれが起きにくくなります。
逆に、避けたほうがいい募集にも特徴があります。参考デザインも掲載先も書かれていない「おしゃれなバナーをお願いします」だけの依頼、修正回数の記載がない依頼、報酬の記載が「応相談」だけの依頼。この3つは、着手してから条件が動く確率が高く、最初の1件には向きません。
単価の下限も決めておきます。相場表の5,000円が出発点なので、1枚2,000円を切る募集は、慣れるまでの練習台として割り切る場合を除いて受けない。最初の実績を作るために極端に安く受けると、そのクライアントとの次の取引も同じ水準から始まります。
手順3:提案文は3つの要素で組む
提案文に長い自己紹介は要りません。①募集内容のうち、何を理解したか(掲載先と目的の言い換え) ②自主制作3点のうち、いちばん近いものへのリンクと一言 ③修正回数・納期・納品形式の提示。この3つで十分です。
特に③を自分から書くと、返信率が変わります。発注側がいちばん不安なのは、やり取りが長引くことだからです。「修正は2回まで、追加はご相談」と先に書いておけば、条件を決める手間が省けて相手が動きやすくなります。
手順4:ココナラは「出品」なので並行して置いておく
ココナラは応募ではなく出品です。作って置いておけば、動いていない間も見られます。クラウドワークスで応募を続けながら、同じ3点を使って出品ページを作っておくと、入口が2つになります。手数料は税込22パーセントなので、価格を決めるときは差し引いた金額で考えてください。
出品ページで効くのは、サービス名の書き方です。「バナー作ります」ではなく、用途と条件を入れて「Instagram広告用のバナーを1枚、修正2回込みでお作りします」と書く。検索される言葉と、相手が知りたい条件が同じ行に入ります。
説明文には、納品までの流れを時系列で並べておきます。購入後にヒアリングシートを送る、2営業日でラフを2案出す、選んでいただいてから清書、修正は2回まで、最終データはPNGとJPGで納品。ここまで書いてあると、初めての相手でも購入の判断ができます。
単価が上がる順番は「成果物の種類」で決まる
デザインの副業で単価が上がるのは、腕が上がったからではありません。任される成果物の種類が変わるからです。公式の相場に沿って並べると、上がり方は4段階になります。
この階段を上がるために必要なのは、上の段の練習ではありません。下の段で「任せても崩れない」と思われることです。バナーを10枚納品して、毎回同じ品質で、修正が予定内に収まり、締切より早く出てくる。そういう相手にだけ、発注側は名刺やチラシを渡します。
2段目から3段目に上がるところに、はっきりした壁があります。ロゴは、作る技術よりも、聞き出す力が問われる仕事だからです。何を大事にしている会社なのか、10年後にどう呼ばれたいのか。ヒアリングの質がそのまま成果物の質になります。バナーの段階から、要件確認のときに1つだけ深い質問を入れる練習をしておくと、この壁が低くなります。
つまずく場所は決まっている
この副業をやめる人が引っかかる場所は、ほぼ5つに集約されます。どれも技術ではなく、決めごとを先に決めていないことが原因です。副業全般の続け方については20代の放課後の記事に譲り、ここではデザイン特有の5つに絞ります。
1. 修正の回数を決めずに受ける
先に書いたとおり、時間あたりの単価を壊す最大の要因です。「修正は2回まで、3回目以降は1回あたり◯円」と提案の時点で書いてください。回数の制限は、相手にとっても悪い話ではありません。回数が決まっていると、発注側は指示をまとめて出すようになり、結果としてやり取りが短くなります。回数より先に決めることがある、という話は修正ルールの回にまとめています。
合わせて、何を1回と数えるかも決めておきます。「1回の連絡でいただいた修正指示をまとめて1回と数えます」と書いておけば、思いついた順に5通届いて5回分になる、という事故が防げます。逆に、こちらのミス(誤字、指定サイズ違い、指示の見落とし)の直しは回数に数えない、と明記しておくと、相手も安心して依頼できます。
期限も同じです。「納品後7日以内のご連絡分を対象とします」と添えておくと、3か月後に「あの件の直しを」と戻ってくることがなくなります。
2. 素材のライセンスを確認しないまま納品する
Canvaの素材をそのまま使った画像を納品し、相手がそれをグッズやパッケージに使う。こうなると、条件から外れます。納品時に「この画像は広告バナーとしての使用を想定しています。物販グッズに使う予定がある場合はご相談ください」と一文添えるだけで防げます。
受注の段階で用途を聞いておくのがもっと確実です。聞くのは3つ、どこに掲載するか、どれくらいの期間使うか、印刷物や商品に転用する予定があるか。3つ目に「いずれTシャツにもしたい」という答えが返ってきたら、素材の選び方が変わります。ライブラリの素材に頼らず、自分で撮影した写真や、自分で組んだ図形を中心に構成することになります。
この確認は、Canvaに限った話ではありません。写真素材サイトを併用する場合も、サイトごとに再配布や商品化の条件が違います。使った素材の出どころと、その利用条件を確認した日付を、案件フォルダにメモとして残しておく習慣をつけてください。
3. 権利を渡す一文を契約に入れていない
Canvaの条件は、完成デザインの権利をクライアントと契約を結んで譲渡することを求めています。クラウドソーシング上の契約には成果物の権利に関する条項が用意されていますが、直接取引の場合は自分で書く必要があります。「本件デザインの著作権(著作権法第27条・第28条の権利を含む)は、報酬の支払い完了をもって発注者に譲渡する」といった一文を、見積書か発注書に入れておきます。
支払い完了をもって、という条件を入れておくのが要点です。先に権利だけ渡して入金が止まると、こちらに手立てがなくなります。
あわせて、自分の実績としての掲載可否も同じ書面で確認しておきます。「納品物は制作実績として自身のポートフォリオに掲載してよいか」を一行入れるだけです。未発表の商品や、社外秘のキャンペーンでは断られることもあります。断られた場合に備えて、掲載できない案件が続いても困らないよう、自主制作の3点は残しておいてください。
4. 同じ型を複数のクライアントに売る
効率化のつもりが、条件違反になります。テンプレートとして複数に売りたいなら、Canvaのテンプレート販売のルール(プロ素材を含む場合はテンプレートリンクのみ)に沿って、受注制作とは別の商品として設計してください。受注制作の納品物を使い回すのとは、まったく別の話です。
では、効率化はどこでするのか。使い回していいのは、デザインそのものではなく手順です。要件を聞くときの質問リスト、提案文の型、書き出し前のチェック項目、納品メールの文面。これらを整えておくと、1件あたりの時間は確実に短くなり、規約にも触れません。
作風の一貫性も同じ考え方で守れます。同じ色数の制約、同じ余白の取り方、同じ文字の階層。ルールを共通にすれば、素材と構成が違っていても、自分の仕事だと分かるものになります。
5. サイズ違いを無料で作り続ける
「同じデザインで、Instagram用も作ってください」は、追加作業です。要素の配置を組み直す必要があり、正方形と横長では入る文字数も変わります。1点目の見積もりの時点で「サイズ展開は1点につき◯円」と書いておくと、断らずに済みます。
金額は、1点目の半額前後を目安にすると説明しやすくなります。構成そのものは流用できるが、組み直しと文字量の調整は発生する。この理由をそのまま伝えれば、値引きの交渉になりにくい。
依頼が来る前に先回りする手もあります。最初の見積もりで「基本セット(横長・正方形・縦長の3サイズ)」として出しておけば、単価は上がり、相手も後から頼む手間が省けます。追加作業を無料で引き受けるのではなく、最初から見積もりに入れておく。これが、修正回数と並んで、時間あたりの単価を守るいちばん確実な方法です。
30代につながるのは、きれいに作る力ではない
このメディアは、20代の副業を「30代に何が残るか」で選ぶという立場で書いています。デザインの副業で残るのは、Canvaの操作スキルではありません。操作は、道具が変われば入れ替わります。
残るのは、1つの画面で伝えることを1つに絞るという判断の習慣です。バナーは面積が限られているので、情報を足すほど伝わらなくなります。何を捨てるかを毎回決めることになり、この訓練は資料作成、提案書、採用広報、社内の説明資料まで、そのまま持ち出せます。
もうひとつ残るのが、権利と契約の感覚です。素材のライセンス、著作権の譲渡、商標の可否。これを扱ったことがある人は、30代で外部の制作会社やフリーランスに発注する側に回ったときに、確認すべき場所が分かります。デザインの副業を1年やった人が、本業で「この契約書、権利の譲渡が書かれていませんよ」と言えるようになる。これが複利の形です。
まとめ
- デザインの単価は作業量ではなく使われ方で決まる。バナー5,000円〜、名刺20,000円〜、チラシ・ロゴ・アイコン30,000円〜、パンフレット70,000円〜(クラウドワークス発注相場)
- 手取りはクラウドワークスなら契約金額10,000円(税抜)で8,580円、5,000円なら約4,290円。ココナラは通常の販売が税込22パーセントで、5,000円なら3,900円。振込手数料は楽天銀行100円・他行500円
- バナー1枚は要件確認から納品まで3時間20分前後(本メディアの想定モデル。統計ではない)。時間あたりを壊すのは安い案件ではなく終わらない修正
- Canvaでクライアントワークを受ける条件は、①契約で権利を譲渡 ②相手もライセンスを守る ③1クライアントにのみ譲渡、の3つ
- 素材を単独で使った納品物は不可。ライブラリのイラスト・写真を含むロゴは商標登録できない。この2点は受注前に伝える
- Canvaプロ(年11,800円)は継続案件が決まってから。最初の数件は無料版で足りる
よくある質問(FAQ)
絵が描けなくてもデザインの副業はできますか。
バナー、名刺、チラシ、資料のデザインは、描く仕事ではなく並べる仕事です。文字の大きさ、余白、色の数を決める判断が中心なので、イラストが描けることは必須ではありません。ただし、イラスト作成やキャラクターデザインの案件は描く力が前提になるため、入口としては並べる仕事から始めるのが現実的です。
Canvaの無料版だけで仕事を受けても問題ありませんか。
問題ありません。Canva公式のコンテンツ使用許諾契約は、無料版とプロの両方について、オリジナルデザインであることなどの条件のもとで商用の利用を認めています。無料版とプロの違いは使える素材の量と機能で、商用利用の可否そのものではありません。ただし、素材をそのまま使う「単独の使用」はどちらのプランでも認められていません。
納品したバナーを、クライアントが別の広告に使い回すのは止められますか。
権利を譲渡している以上、譲渡先が自分の広告に使う分には止められません。問題になるのは、Canvaの条件から外れる使い方(素材を単独で商品化するなど)をされた場合です。納品時に想定している用途を書き添え、物販グッズやパッケージへの転用は相談してほしいと伝えておくのが実務的な守り方です。
ロゴの案件は避けたほうがいいですか。
避ける必要はありません。制約を先に伝えられるかどうかの問題です。商標登録を考えている相手には、文字と図形だけで構成する案を出すか、オリジナルのアートワークを用意する方法を提案します。制約を説明できる人は、説明しない人より信頼されます。
副業として始めるとき、会社に知られない方法や確定申告はどうすればいいですか。
この記事ではデザインという仕事の中身だけを扱っています。副業全般の論点は姉妹メディア「20代の放課後」で扱っています。副業の始め方、確定申告と20万円ルール、スキマ時間の使い方を参照してください。
まずは無料版で、自主制作を3点つくる
Canvaは無料アカウントのまま、この記事で書いた手順をすべて試せます。有料プランに切り替えるのは、継続の依頼が来てからで間に合います。