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BCC事故で最初に判断すべきこと
BCCに入れるはずのアドレスを、TOやCCに入れて送ってしまう。営業メールの一斉送信で最も起きる事故です。
起きた直後に検索すると、「個人情報の漏えいにあたるので、個人情報保護委員会への報告が必要」と書かれた記事が並びます。
これは正確ではありません。報告が必要になるのは、条文が定める4つの事態に当たる場合だけです。
もちろん、報告義務がないことと、何もしなくてよいことは違います。ただしやることの順番が変わるので、まず線を正確に引きます。
事故発生からの時間軸。判定を飛ばすと、やらなくてよい報告に時間を使う。
報告義務が生じる4つの事態
個人情報保護法の第26条第1項は、こう定めています。
個人情報取扱事業者は、その取り扱う個人データの 漏えい、滅失、毀損その他の個人データの 安全の確保に係る事態であって 個人の権利利益を害するおそれが大きいものとして 個人情報保護委員会規則で定めるものが生じたときは、 (中略)当該事態が生じた旨を 個人情報保護委員会に報告しなければならない。
個人情報保護法 第26条第1項本文。読みやすさのため改行を入れています。
注目すべきは「個人情報保護委員会規則で定めるもの」という部分です。すべての漏えいが対象ではなく、規則が定めた事態に限られます。
規則が定める4類型
一 要配慮個人情報が含まれる個人データの 漏えい等が発生し、又は発生したおそれがある事態 二 不正に利用されることにより財産的被害が 生じるおそれがある個人データの漏えい等が 発生し、又は発生したおそれがある事態 三 不正の目的をもって行われたおそれがある 当該個人情報取扱事業者に対する行為による 個人データの漏えい等が発生し、 又は発生したおそれがある事態 四 個人データに係る本人の数が千人を超える 漏えい等が発生し、又は発生したおそれがある事態
個人情報の保護に関する法律施行規則 第7条。読みやすさのため改行を入れています。
営業メールのBCC事故に当てはめます。
| 類型 | BCC事故では |
|---|---|
| 1号 要配慮個人情報 | 該当しないのが通常。病歴や信条などが含まれる営業リストは、まず無い |
| 2号 財産的被害のおそれ | 該当しないのが通常。クレジットカード番号などが出た場合は別 |
| 3号 不正の目的による行為 | 該当しない。自分の操作ミスであって、外部からの攻撃ではない |
| 4号 本人の数が1,000人超 | ここだけが現実的な分岐点。宛先が1,000件を超えていたかどうか |
判定は件数ではなく「本人の数」
4号は「個人データに係る本人の数」です。同じ人が2つのアドレスで入っていれば1人と数えます。逆に、法人の代表アドレスのように特定の個人を識別できないアドレスだけなら、そもそも個人データではありません。info宛やcontact宛ばかりのリストなら、1,000件送っても該当しない可能性があります。
営業代行の場合、誰が報告するのか
クライアントから預かったリストで送っていた場合、報告の主体が問題になります。
法第26条第1項にはただし書きがあり、個人データの取扱いの委託を受けた事業者が、委託元にその旨を通知したときは、自ら報告する義務を免れます。つまり営業代行として預かったリストなら、委託元へ通知することで足ります。
ただし、これは契約上どう扱うかを事前に決めていることが前提です。事故が起きてから「どちらが報告するのか」を相談すると、速やかにという要件を満たせません。委託契約の段階で、事故時の連絡先と報告の主体を書いておいてください。
自社で集めたリストで送っていたなら、委託の話ではないので、自社が報告します。リストの出どころによって扱いが変わるので、リストに取得元の列を持たせておく意味はここにもあります。
「おそれがある事態」も含まれる
4つの類型はいずれも「発生し、又は発生したおそれがある事態」と書かれています。確定していなくても、その可能性があれば対象になります。
BCC事故の場合、送信した事実は確定しているので、判断が必要なのは件数と中身だけです。ここは曖昧になりません。
本人への通知はどうなるか
第26条第2項に、本人への通知が定められています。
前項に規定する場合には、個人情報取扱事業者は、 本人に対し、個人情報保護委員会規則で定めるところにより、 当該事態が生じた旨を通知しなければならない。 ただし、本人への通知が困難な場合であって、 本人の権利利益を保護するため必要な これに代わるべき措置をとるときは、この限りでない。
個人情報保護法 第26条第2項。読みやすさのため改行を入れています。
冒頭が「前項に規定する場合には」です。つまり第1項の報告対象事態であることが前提になります。
4類型に当たらないなら、法律上の通知義務も生じません。
それでも連絡はする
義務がないからといって、黙っていてよいわけではありません。TOに入っていた全員が、他の宛先を見ています。
連絡しなければ、相手の側には「アドレスが流出したのに何も言ってこない会社」という認識だけが残ります。義務ではなく、実務として送ります。
実際に起きたときの手順
1. 送信を止める
配信ツールを使っているなら、残りの送信を停止します。分割送信の途中なら、ここで被害が止まります。
すでに送信済みのメールは、取り消せません。送信取り消し機能に期待しないでください。相手の環境によっては効きませんし、効いたかどうかを確認する手段もありません。
2. 何が、何件出たかを確定する
| 確認する項目 | 判定に使う理由 |
|---|---|
| 宛先の総数 | 4号の1,000人超に当たるかの判定 |
| そのうち個人が識別できるアドレスの数 | info宛などを除いた実数を出す |
| 重複の有無 | 本人の数で数えるため、同一人物の複数アドレスを1と数える |
| 本文に個人情報が含まれていたか | 宛先以外に氏名や所属が入っていれば、範囲が広がる |
ここを曖昧にしたまま報告すると、後で訂正することになります。数分かけて正確に出してください。
3. 社内に共有する
外部への連絡より先に、社内で共有します。理由は2つあります。
1つは、相手から電話が来たときに、受けた人が状況を知らないと二次被害になること。代表電話に問い合わせが入ったとき、「そのような事故は聞いていません」と答えられると、隠していると受け取られます。
もう1つは、同じリストで他の担当者が送信しようとしている場合に止められることです。リストの共有範囲が広いほど、この確認が要ります。
4. お詫びと削除依頼を送る
当日中に送ります。文面は短く、必要なことだけ書きます。
件名:メールアドレスの誤送信についてのお詫び 先ほどお送りしたメールにつきまして、 本来BCCで送信すべき宛先を 誤ってTOに入れて送信いたしました。 他の受信者のメールアドレスが 表示される状態となっておりました。 深くお詫び申し上げます。 お手数ですが、先ほどのメールを 削除していただけますようお願いいたします。 また、表示されたアドレスの 利用や転載はお控えください。 原因と再発防止につきましては、 (社名・担当者名・連絡先)までご連絡ください。
お詫びの文面。言い訳を書かず、事実と依頼だけにする。
このお詫びメールも必ずBCCで送ります。ここでもう一度TOに入れる事故が実際に起きます。緊急で焦っているときほど起きやすいので、送信前に宛先欄を2回見てください。
5. 該当する場合だけ、報告する
4類型のいずれかに当たる場合、報告は2段階です。
| 段階 | 期限 | 内容 |
|---|---|---|
| 速報 | 事態を知った後、速やかに | その時点で把握している範囲で9項目を報告 |
| 確報 | 知った日から30日以内 | 同じ9項目を、確定した内容で報告 |
報告する9項目は規則第8条第1項に列挙されています。概要、漏えいした個人データの項目、本人の数、原因、二次被害の有無、本人への対応の実施状況、公表の実施状況、再発防止のための措置、その他参考となる事項です。
なお、規則第7条第3号の事態、つまり不正の目的による行為が原因の場合は、確報の期限が60日以内になります。BCC事故は自分の操作ミスなので、30日側です。
起きない仕組みにする
注意喚起では防げません。この事故は忙しいときに、急いで送るときに起きます。注意力が最も落ちている状況で起きるので、注意で対策する設計が成立しません。
手順で塞ぐ
| 対策 | 効き方 |
|---|---|
| 一斉送信は配信ツールでのみ行う | メールソフトで手動一斉送信をしないルールにする。BCC欄そのものを使わない |
| 宛先を入れるのを最後にする | 本文を書き終えてから宛先を入れる。書きかけで誤送信する事故も防げる |
| 送信予約を数分後にする | 送信直後に気づいた場合、取り消せる |
| 1通目を自分宛に送る | 表示を確認してから残りを送る |
チェックを2人にしない
再発防止として「送信前に2人で確認する」を挙げたくなりますが、これは長続きしません。忙しい時期に、確認する側が先に折れるからです。
そして2人で見ると、かえって見落とします。相手が見ているだろうという前提が働くためです。人を増やすより、手順を変えてください。
配信ツールを使う理由
配信ツールは、1通ずつ個別に送る仕組みです。そもそも他の宛先が見える状態になりません。
BCCでの一斉送信は、事故が起こり得る方法です。件数が数件なら手作業でも構いませんが、数十件を超えるならツールを使ってください。無料の範囲で使えるものもあります。
個人名を集めない設計
そもそもリストに個人が識別できる情報を持たなければ、事故が起きても個人データの漏えいにはなりません。
法人の代表アドレスや問い合わせ窓口だけでリストを作る。これは営業リストをスクレイピングで作っていいのかでも書いた考え方で、集めないことが最も手間の少ない対策になります。
宛名の差し込みで起きる別の事故
配信ツールを使っていても、別の事故があります。差し込みのズレです。
1行ずれると、全員に別の会社名が出る
リストの並び順と差し込みの対応が1行ずれると、A社宛のメールにB社の社名が入ります。これはBCC事故より気づきにくく、そして相手にとっては同じくらい印象が悪い事故です。
原因はたいてい、リストの編集中に行を追加・削除したことです。見出し行の有無が変わるだけでもずれます。
防ぎ方
- 差し込みの列に、照合用の値も入れる。社名の列とは別に、法人番号やリストの通し番号を持たせて、テスト送信で一致を確認する
- テスト送信は、リストの先頭・中間・末尾の3件で行う。先頭だけ見ても、ズレは見つかりません
- 差し込みに使う列を、送信直前に並べ替えない。並べ替えたら、テスト送信をやり直す
差し込みが空欄になる場合の設定
リストに社名が入っていない行があると、「様、お世話になっております」のような文面が送られます。差し込みが空のときの既定値を設定してください。「ご担当者様」に置き換わる設定があれば有効にします。無ければ、空欄の行を送信対象から外します。
一斉送信には表示義務がかかる
ここも実務で漏れやすい部分です。広告宣伝を目的とするメールには、特定電子メール法の表示義務が適用されます。
1通ずつ手で送っている場合も対象ですが、一斉送信ではテンプレートに入れ忘れると全件に影響します。
入れる内容
- 送信者の氏名または名称。署名に会社名と担当者名を書く
- 受信拒否の通知を受けるための連絡先。メールアドレスかURL
受信拒否の窓口は、実際に受け付けられる状態にしておきます。記載したアドレスが機能していない、あるいは誰も見ていないという状態では、意味がありません。
条文の内容と、公表されているアドレスに送る場合の例外については営業メールは何時に送るべきかで整理しています。
本文に入れる位置
署名の中にまとめて書くのが一般的ですが、受信拒否の連絡先は署名とは別に1行立てるほうが親切です。署名の中に埋もれると、探す手間が発生します。
「今後のご連絡が不要な場合は、このメールへのご返信でお知らせください」の一文で足ります。専用のアドレスを用意しなくても、返信で受け付ける形なら運用できます。
ただし、その受信箱を誰が見るかを決めておいてください。返信で受け付ける形にして、誰も見ていないというのが最も悪い状態です。
配信停止の処理を決めておく
受信拒否の連絡が来たら、その時点で除外します。この義務には期限がありません。1年前に断られた相手も対象です。
一斉送信では、除外リストを配信ツール側に持たせてください。手元のスプレッドシートで管理していると、別のリストから送るときに漏れます。
そもそも一斉送信にしない選択
最後に、設計の話をします。新規開拓のメールで、一斉送信が本当に必要かどうかです。
一斉送信が向く場合と向かない場合
| 向く | 向かない |
|---|---|
| 既存の接触先へのお知らせ。展示会の案内、セミナーの告知 | 初回の新規開拓。1社ごとに送る理由が違う |
| 内容が全員同じでよいもの | 「なぜこの会社に送ったか」を書く必要があるもの |
| 相手がすでに自社を知っている | 相手が自社を知らない |
新規開拓のメールで返信を得るには、その会社に送った理由が書かれている必要があります。これは一斉送信と相性が悪い要素です。
1通ずつ送るのは、思ったより遅くない
新規開拓で1社ずつ送ると時間がかかると思われがちですが、実際には文面の型が固まっていれば1社あたり数分です。
内訳は、相手のサイトを見る時間が大半を占めます。この時間は一斉送信にしても消えません。むしろ、見ないまま送るから返信が来ないという構造になります。
一斉送信で削れるのは、送信ボタンを押す回数だけです。そこは作業全体の中で最も軽い部分なので、削っても効果が小さい。
件数を追うなら、文面の型を分ける
全社に同じ文面を送るのではなく、業種や状況で3つから5つの型に分けます。型ごとに送れば、1通ずつ書くより速く、完全な一斉送信より刺さります。
型の分け方と、型ごとの結果の比べ方はフォーム営業の文面と同じ考え方が使えます。
送る前に、送らない相手を決める
件数を増やす前にやることがあります。送らない条件を先に決めることです。
過去に断られた会社。サイトに営業お断りと書かれている会社。すでに取引がある会社の別部署。この3つは、リストの段階で外します。
一斉送信は、除外の漏れがそのまま全件に及びます。1通ずつなら送信前に気づける見落としも、一斉送信では気づけません。除外の精度が、そのまま事故の確率になります。
事故のリスクも下がる
型ごとに数十件ずつ送る形にすると、1回あたりの送信件数が減ります。事故が起きたときの範囲も、同じだけ小さくなります。
これは副次的な効果ですが、1,000人超という4号の基準に近づかないという意味では、実務上の価値があります。
まとめ
- 「BCC事故=即報告義務」ではない。報告が必要なのは、規則第7条が定める4類型に当たる場合だけ
- 営業メールのBCC事故で現実的な分岐点は4号の「本人の数が1,000人超」。判定は件数ではなく本人の数で、個人が識別できないアドレスはそもそも個人データではない
- 本人への通知義務(第26条第2項)は「前項に規定する場合には」が前提。4類型に当たらないなら、法律上の通知義務も生じない
- ただし義務の有無と関係なく、お詫びと削除依頼は当日中に送る。そのお詫びメールも必ずBCCで送る
- 報告は2段階。速やかな速報と、知った日から30日以内の確報(不正の目的による行為が原因なら60日以内)
- 注意喚起では防げない。忙しいときに起きる事故なので、配信ツールを使う・宛先を最後に入れる・送信予約を数分後にする、といった手順で塞ぐ
- 差し込みのズレは、BCC事故より気づきにくい。テスト送信は先頭・中間・末尾の3件で行う
- 一斉送信は広告宣伝目的なら表示義務の対象。送信者名と受信拒否の連絡先をテンプレートに入れ、除外リストは配信ツール側に持たせる
事故が起きたときに困るのは、何をすべきか分からない時間です。判定の基準を先に知っておけば、やらなくてよいことに時間を使わずに済みます。
よくある質問
BCCに入れ忘れて100件に送ってしまいました。委員会への報告は必要ですか
規則第7条の4類型に当たらなければ、報告義務は生じません。営業メールのBCC事故で現実的な分岐点は4号の「本人の数が1,000人超」なので、100件なら通常は該当しません。ただし要配慮個人情報やクレジットカード番号が含まれていた場合は、件数に関係なく1号や2号に当たります。報告義務がなくても、お詫びと削除依頼は当日中に送ってください。
本人への通知はしなくていいのですか
法第26条第2項は「前項に規定する場合には」と始まるので、第1項の報告対象事態であることが前提です。4類型に当たらないなら、法律上の通知義務は生じません。ただし実務としては連絡します。TOに入っていた全員が他の宛先を見ているので、黙っていると「アドレスが流出したのに何も言ってこない会社」として記憶されます。
件数の数え方を教えてください
条文は「個人データに係る本人の数」です。同じ人が2つのアドレスで入っていれば1人と数えます。また、法人の代表アドレスや問い合わせ窓口のように特定の個人を識別できないアドレスは、そもそも個人データではありません。info宛やcontact宛が中心のリストなら、送信件数が多くても該当しない可能性があります。
報告の期限はいつまでですか
2段階です。まず事態を知った後、速やかに速報を出します。その時点で把握している範囲で構いません。次に、知った日から30日以内に確報を出します。ただし規則第7条第3号の事態、つまり不正の目的による行為が原因の場合は60日以内です。BCC事故は自分の操作ミスなので、30日側になります。
送信取り消し機能を使えば大丈夫ですか
期待しないでください。相手のメール環境によっては効きませんし、効いたかどうかを確認する手段もありません。取り消せた前提で対応を省くと、実際には見られていた場合に対応が遅れます。送信済みとして扱ってください。
再発防止として何を書けばいいですか
注意喚起や研修だけを書くと、実効性がないと見られます。この事故は忙しいときに起きるので、注意力で対策する設計が成立しないからです。一斉送信を配信ツールでのみ行う、宛先を入れるのを最後にする、送信予約を数分後にする、といった手順の変更を書いてください。
配信ツールを使っていれば事故は起きませんか
BCCの事故は起きませんが、差し込みのズレという別の事故があります。リストの並び順と差し込みの対応が1行ずれると、A社宛のメールにB社の社名が入ります。BCC事故より気づきにくいので、テスト送信をリストの先頭・中間・末尾の3件で行ってください。先頭だけ確認してもズレは見つかりません。