
デザインの副業というと、バナーやサムネイルが最初に浮かびます。ただ、案件の数がいちばん安定しているのは資料です。営業資料、サービス紹介、社内の説明用、採用の説明会用。どの会社にも常にあって、しかも整った形で作れる人が社内にいません。頼まれた人が夜に自力で作っている、という状態の会社が大量にあります。
そして、この分野はバナー制作の回とは単価の構造が違います。バナーは1枚がどこで何回使われるかで決まりましたが、資料は枚数と、こちらがどこまで決めるかで決まります。同じ「30枚の資料」でも、体裁を整えるだけの仕事と、構成から考える仕事では、かかる日数が数倍変わります。
この記事では、資料・スライドのデザイン代行を分解します。扱うのは、単価の割れ方、1枚単価を成立させる条件、受注前にもらうもの、公式が挙げる読みやすさの基準、作業時間と手取り、フォントと図版の扱い、案件の取り方、つまずく場所です。「やってみたら月いくらでした」という結果報告はしません。
相場はクラウドワークスが発注側に公開しているページ、資料の作り方の基準はマイクロソフトの公式サポートを一次情報にしています。
資料の案件は「枚数」ではなく「何を決めるか」で値段が割れる
まず相場です。クラウドワークスが発注する企業側に向けて公開している数字から、資料まわりを抜き出します。
| 依頼の種類 | 相場と単位 | 納期目安 |
|---|---|---|
| 営業資料のパワーポイント作成 | 1,000円〜/枚 | 15日前後 |
| 改善点レポートの資料(10枚ほど) | 5,000円〜/時間 | – |
| 会社案内のパンフレット(A4・4ページ) | 70,000円〜(一式) | 10日前後 |
まず見るべきは金額ではなく、単位
この表で見落としてはいけないのが、右列の単位です。営業資料のパワーポイント作成は1枚あたり1,000円から。改善点レポートは1時間あたり5,000円から。パンフレットはA4・4ページで一式70,000円から。3行とも、値段の数え方が違います。
単位をそろえてみます。パンフレットを1ページあたりに割ると17,500円から。同じ1ページでも、営業資料の1,000円とは17倍以上ひらきます。金額だけを見比べても意味がないということが、この3行から読み取れます。(割り算はこちらでしたもので、公式が出している数字ではありません)
差を生んでいるのは、内容を誰が決めるか
1枚1,000円のほうは、原稿が決まっていて、体裁を整えるだけの案件です。文章も構成も相手が用意していて、こちらは文字の大きさを揃え、色を統一し、余白を整える。判断はほとんど必要ありません。
一式70,000円のほうは、構成から写真の選定、文字を詰める作業、印刷所への入稿までが入ります。決める範囲が広く、しかもやり直しが効きません。WordPressの回で書いた「壊れたときの損失」で値段が決まるのと同じ構造です。印刷物は刷った後に直せない。この、元に戻せないという性質が値段に乗っています。
だから、聞くのは枚数ではなく範囲
「30枚の資料を作ってほしい」と言われたときに、枚数だけで見積もると必ずずれます。聞くべきは3つです。原稿はあるか。図表はこちらが作るのか。ページの構成は誰が決めるのか。
原稿があり、図表も支給され、構成も決まっているなら、30枚でも半日で終わります。原稿の断片だけを渡されて構成から考えるなら、同じ30枚が3日の仕事になります。この差を見積もりの段階で言葉にできるかどうかが、この分野で赤字を出さない分岐点です。支給された図表が他社のものだった場合は、載せる前に確かめることがあります。資料の図表の回で扱っています。
1枚1,000円を成立させる3つの条件
資料の案件でよくある単価が「1枚あたりいくら」です。この形で受けるなら、成立する条件を先に確認してください。条件が揃わないまま受けると、時間あたりが大きく崩れます。
条件1・5種類の型を最初に作る
表紙、中扉、本文、図表、まとめ。この5種類の型を最初に作り、以降はそこに流し込む形にします。1枚ずつ考えて作ると、1枚1,000円では絶対に合いません。
型があると、2枚目以降は10分程度で仕上がります。文字の位置も色も決まっているので、考える対象は「この内容をどの型に入れるか」だけになります。30枚の資料なら、最初の1時間で型を作り、残りを流し込む。
型を作るときに決めるのは6つです。見出しの位置と大きさ、本文の大きさ、余白の幅、使う色を3色まで、図表の枠の位置、ページ番号の形。ここを決めずに1枚目を作ると、10枚目で必ず崩れます。
条件2・原稿の確定を待つ
原稿が固まる前に作り始めると、作り直しが発生します。文章の変更は、そのままレイアウトの変更になるからです。1行増えれば入り切らなくなり、文字を小さくするか、2枚に割るか、削るかの判断が発生します。
提案の段階で書いておきます。「原稿のご確定後に着手します。着手後の文章変更は、1枚あたり◯円で承ります」。この一文があるだけで、相手も先に原稿を固めてくれます。相手を縛るための文ではなく、相手の手戻りも減らすための文です。
どうしても急ぐ案件では、工程を分けます。型だけ先に作って確認をもらい、流し込みは原稿が来てから。こうすれば、原稿が変わっても捨てる作業が最小で済みます。
条件3・修正の回数と単位を決める
修正は2回まで、1回の連絡でいただいた指示をまとめて1回と数える。バナーの回で書いた定義と同じです。
資料は枚数が多いぶん、指示が分散しがちです。「3枚目の色を」「あとで気づいたけど12枚目も」「上司が見て20枚目も」と小分けに来ると、2回の約束が実質10回になります。だから単位の定義のほうが、回数より重要です。
加えて、修正の締め切りも入れます。「納品後7日以内にいただいたご指示を修正の範囲とします」。期限がないと、2か月後の連絡にも応じる義務が残ります。
受注前に必ずもらう3点
作業を始める前に、この3つが揃っているかを確認します。揃っていなければ、揃えるところから見積もります。
- 確定した原稿:文章として完成しているもの。箇条書きの断片ではなく
- 使う色とロゴ:会社の指定がある場合は、その規定も
- 提出先と使い方:誰に、どの場面で見せるか。画面か紙か
3つ目がいちばん軽視されている
同じ内容でも、画面で見せる資料と、印刷して配る資料では作り方が違います。画面なら横長で、1枚に1つの主張。話す人が補足する前提なので、文字は少なくできます。印刷なら情報量を増やせますが、文字の大きさに下限があり、読む人は自分のペースで進みます。
オンラインの商談で画面共有するのか、対面で紙を配るのか、メールで送って各自が読むのか。読む人が置かれる状況を聞かないと、適切な作りが決まりません。
特に注意するのが、メールで送って各自が読む形です。話す人がいないので、資料だけで意味が通る必要があります。この場合は文字を増やすほうが正解で、画面共有用の作り方をすると「何が言いたいのか分からない」と言われます。
ロゴと色は、データでもらう
画像からスポイトで色を拾うと、微妙にずれます。会社の指定色があるなら、色の番号でもらってください。ロゴも、画像ではなく元データでもらえるか聞きます。
元データがない会社も多いので、その場合は既存の資料から使い回します。ただし、解像度の低いロゴを引き伸ばして使わないこと。画面では気づきにくくても、印刷すると輪郭がぼやけて一目で分かります。
ロゴの使い方に規定がある会社もあります。最小の大きさ、周囲に空ける余白、色を変えてよいか、写真の上に載せてよいか。規定があるなら必ずもらってください。守らずに納品して困るのは、こちらではなく依頼者です。
原稿がない案件は、別の見積もりにする
「だいたいの内容は伝えるので、いい感じにまとめてほしい」という依頼があります。これはデザインの案件ではなく、構成と執筆を含む案件です。
断る必要はありませんが、値段を分けます。構成と原稿の作成で別立て、デザインで別立て。ライティングの回で書いたとおり、公式の相場に別の項目として載っている作業は、別立てで見積もる根拠があります。
分けて出すと、相手が選べるようになります。原稿は自社で用意してデザインだけ頼む、という判断もできる。まとめて1つの金額で出すと、高いか安いかしか判断できません。見積もりを分けるのは、値段を上げるためではなく、相手に選択肢を渡すためです。
公式が挙げている「読みやすい資料」の基準
資料の良し悪しを感覚で語ると、修正が終わりません。マイクロソフトの公式サポートが、読みやすい資料の条件を項目として挙げています。これを基準にすると、議論が事実の話になります。
すべてのビジュアルに代替テキストを入れる
公式は「すべてのビジュアルに代替テキストを含めます」とし、その理由を「代替テキストは、画面を見ることができないユーザーが、画像やその他のビジュアルで何が重要であるかを理解するのに役立ちます」と説明しています。
資料の案件では、ここまでやる人がほとんどいません。だからこそ、納品時に「すべての図版に代替テキストを設定済みです」と添えられると、それだけで差がつきます。作業としては、図を選んで説明を打ち込むだけです。30枚の資料でも30分かかりません。
書き方にもコツがあります。「グラフ」ではなく「売上が3年連続で増えていることを示す棒グラフ」と書く。図が何であるかではなく、その図で何が重要かを書く。この書き分けを説明できると、単なる作業者には見えません。
意図した順序で読み上げられるようにする
「スライドの内容を意図した順序で読み上げられるようにします」という項目もあります。要素を後から追加していくと、見た目の並びと読み上げの並びがずれます。
公式は、読み上げ順に問題がある可能性のあるスライドを見つける機能があるとも説明しています。納品前にこの確認を通すのを手順に入れてください。自分では気づけない種類の不具合なので、機能に任せるのが確実です。
この確認は、見た目の品質にも効きます。読み上げ順が乱れているスライドは、たいてい要素の配置も後付けで散らかっています。順序を整える作業が、そのまま構造を整える作業になります。
テキストと背景に十分なコントラストを付ける
「テキストと背景の色に十分なコントラストを付けます」と明記されています。理由として「弱視のユーザーがコンテンツを確認し、利用できるよう、テキストと背景のコントラストを強くします」という説明が添えられ、「プレゼンテーション内のテキストはハイ コントラスト モードで読み取り可能である必要があります」とも書かれています。
薄いグレーの文字を白背景に置く。写真の上に白文字を重ねる。赤と緑だけで良し悪しを表す。どれも資料でよく見かける作りですが、読めない人がいます。色に意味を持たせるときは、形や文字も併用するのが基本です。
実務では、投影環境の問題も重なります。会議室のプロジェクターは、パソコンの画面よりコントラストが落ちます。画面で見て「ぎりぎり読める」ものは、投影すると読めません。提出先が投影なら、ここを厚めに取ります。
リンクのテキストは、単体で意味が通るようにする
公式は「わかりやすい正確なハイパーリンクテキストとヒントを追加します」とし、リンクの一覧を調べるユーザーがいることを挙げています。「こちら」だけのリンクは、一覧にしたときに意味を持ちません。
資料に外部のリンクを入れる案件では、この点を提案に含められます。細かい話に見えますが、公式の基準を根拠にできる提案は、感覚の提案より通ります。「見やすくしました」と言うより「公式が挙げている項目を確認しました」のほうが、相手も社内で説明しやすい。
チェック機能を、納品前の固定工程にする
公式には、アクセシビリティに関する問題を確認する機能の説明もあります。納品前にこれを通すだけで、代替テキストの抜け、読み上げ順の問題、コントラストの不足がまとめて出ます。
手順に組み込むのが大事です。急いでいるときに飛ばすと、抜けるのはここです。「書き出す前にチェックを通す」を固定の工程にしてください。作業としては数分で終わります。
ここまでの項目は、どれも見た目の好みの話ではありません。公式に書かれている条件です。だから修正の指示が感覚で来たときに、基準の話に戻せます。「挙げられている項目は満たしています。そのうえで、どこが気になりますか」と聞ける状態を作っておくと、修正が収束します。
30枚の資料にかかる時間と手取り
制作時間に公的な統計はありません。以下は30枚の営業資料(原稿と図表の数字は支給される想定)を置いた本メディアの想定モデルで、統計ではありません。
| 工程 | 時間 | やること |
|---|---|---|
| 要件の確認 | 30分 | 提出先、使い方、原稿の状態を聞く |
| 型の作成 | 60分 | 5種類のレイアウトを作る |
| 流し込み(30枚) | 300分 | 1枚10分の想定 |
| 図表の作成 | 60分 | グラフや図を5点 |
| 確認と納品 | 60分 | 読み上げ順、代替テキスト、書き出し |
手取りは25,740円、時間あたり約3,028円
合計は8時間30分です。1枚1,000円で30枚なら30,000円(税抜)。クラウドワークスのシステム利用料は税込の金額に対してかかるため、税込33,000円から利用料と消費税が引かれ、手取りは25,740円になります。時間あたりは約3,028円です。
この数字は、副業として悪くありません。ただし成立しているのは、原稿と図表の数字が支給されている前提だからです。原稿から書く案件を同じ単価で受けると、時間は倍以上になり、時間あたりは大きく落ちます。
時間あたりを決めているのは、最初の1時間
この計算が成り立つのは、1枚10分で流し込めるからです。型がないと1枚20分から30分かかり、流し込みだけで10時間から15時間。時間あたりは半分以下になります。
最初の1時間の使い方が、この案件の収支を決めます。急いで1枚目から作り始めたくなりますが、型を先に作ってください。型づくりの1時間を惜しむと、あとで7時間を失います。
逆に言えば、型づくりが得意になれば単価はそのままで収入が上がります。同じ30,000円の案件を6時間で終えられれば、時間あたりは約4,290円。単価交渉より先に、工程の改善で上げられる余地があります。これは受注の数を増やさなくても効く改善です。
2本目以降は、さらに速くなる
1本目で作った型は、次の案件でも使えます。会社ごとに色とロゴを差し替えるだけなので、型の作成が60分から15分に縮みます。同じ8時間30分の仕事が7時間45分になり、時間あたりは約3,321円に上がります。
だから、この分野は続けるほど時間あたりが上がる構造です。営業資料の型、採用資料の型、セミナー投影用の型。3種類持っていれば、たいていの依頼に初速で入れます。
型を増やすときは、実案件のついでに作ります。採用資料の依頼が来たら、その案件用の型を汎用の形でも保存しておく。1案件ごとに資産が1つ増える進め方にすると、3案件目から明確に楽になります。
フォントと図版で、あとから困らないために
納品後に起きる問題は、だいたいこの2つに集まります。
フォントは、相手の環境にあるものを使う
こちらのパソコンにしかないフォントを使うと、相手が開いたときに別のフォントに置き換わり、レイアウトが崩れます。文字が枠からはみ出し、行数が変わり、1枚に収まっていたものが2枚に割れる。編集できる形で納品する案件では、相手の環境にあるフォントを確認してから作る必要があります。
フォントのライセンスも同じ話です。商用利用が可能か、納品データに同梱してよいか。編集可能な形で渡す場合は、相手の環境でも使える状態にする必要があるため、この確認が必須になります。
迷う場合は、標準で入っているフォントに寄せます。見た目の面白さは落ちますが、崩れない資料のほうが、凝った資料より評価されます。崩れた時点で、相手は中身を読めません。
図版は、あとから直せる形で作る
グラフを画像として貼ると、数字が変わったときに作り直しになります。資料は更新されるものなので、編集できる形で作っておくと、次の依頼につながります。
更新の依頼は、新規の制作より単価は低いものの、作業時間は圧倒的に短い。数字を差し替えて確認を通すだけなら30分です。時間あたりで見れば、更新のほうが良い仕事になります。
図版の元データを納品物に含めるかも、決めておきます。含めれば相手が自分で直せますが、こちらへの依頼は減ります。含めなければ更新の依頼は来ますが、相手に不便をかけます。私は含める側を勧めます。自動化の回と同じで、相手が自走できる納品のほうが、長い関係になります。
案件の取り方と、単発で終わらせない形
入り方と、1本で終わらせない方法を書きます。
手順1・自分の職場の資料を1本作り直す
サンプルが要ります。実際の資料をそのまま出すことはできないので、内容を架空のものに差し替えて、型だけを見せる形にします。会社名も数字も架空にすれば、守秘の問題は起きません。
見せ方は、作り直す前と後を並べるのが効きます。情報を詰め込んだ1枚と、整理した1枚。何を捨てたかが伝わると、判断ができる人だと見られます。きれいにした結果だけを見せるより、はるかに強い。
添える説明は3行で足ります。何を整えたか、何を削ったか、その判断の理由。作業の説明ではなく、判断の説明を書く。ここが書けているサンプルは、提案文を読む側からすると「話が通じそうな人」に見えます。
手順2・得意な種類を1つ決める
営業資料、採用資料、社内の説明資料、セミナーの投影資料。それぞれ求められるものが違います。営業資料は相手の判断を促す構成、採用資料は雰囲気の伝達、社内資料は情報の網羅性。1つに絞ると、提案文に具体性が出ます。
本業で作っている種類があるなら、それを選ぶのがいちばん強い。読む人の立場を知っているので、体裁を整えるだけでなく構成の提案までできます。営業をしている人なら、どの順番で見せれば話が進むかを知っています。
手順3・更新の話を納品時にする
資料は必ず古くなります。数字が変わる、サービスが増える、担当者が替わる、料金が改定される。納品時に「更新が必要になったらご相談ください」と一言添えるだけで、次につながります。
さらに踏み込むなら、更新しやすい形で納品したことを説明します。「グラフは編集可能な形にしてあるので、数字の差し替えだけで更新できます」「型を5種類に統一してあるので、ページの追加も同じ見た目で作れます」。ここまで言える人は多くありません。
手順4・資料の型そのものを商品にする
3種類の型を持ったら、型の提供自体を売れます。会社の色とロゴに合わせた型を5種類納品し、あとは社内で作れる状態にする。1本の資料を作るより単価は上げられますし、作業時間は短い。
この形だと、依頼が途切れることを心配する必要も減ります。型を入れた会社は次の資料でも同じ型を使い、崩れたときや新しい種類が必要になったときに戻ってきます。作業を売るより、仕組みを売るほうが続きます。
型を納品するときは、使い方の説明を1枚つけてください。どの型をいつ使うか、色を変えるときはどこを触るか。説明がないと型は使われず、数か月で元の状態に戻ります。1枚の説明が、納品物を生き残らせます。
つまずく場所は5つに決まっている
資料の案件でつまずくのは、ほぼ5つです。それぞれ、先に決めておけば防げます。
| つまずく場所 | 先に決めておくこと |
|---|---|
| 原稿が固まる前に着手 | 原稿の確定を着手の条件にする |
| 1枚ずつ作って崩れる | 5種類の型を先に作る |
| 提出先を聞いていない | 画面・紙・投影のどれかを確認 |
| 図版を画像で貼る | 編集できる形で作る |
| 枚数だけで見積もる | 原稿・図表・構成の3軸で見積もる |
1・原稿が固まる前に作り始める
いちばん多い失敗です。文章が変われば、レイアウトも変わります。原稿の確定を待つことを、最初の合意に入れてください。
急ぎの案件では、原稿が固まらないまま進めることもあります。その場合は工程を分けます。型だけ先に作って確認をもらい、流し込みは原稿が来てから。工程を分けると、手戻りが最小になります。
このとき「型の確認」を1つの工程として明示しておくのが要点です。型を承認してもらってから流し込むので、あとで全体の見た目に指摘が出ても、承認済みの型の話に戻せます。承認の段階を作ることが、自分を守ります。
2・1枚ずつ考えて作る
型を作らずに1枚ずつ作ると、見た目も揃わず、時間もかかります。5種類の型を先に作る。これだけで、収支と品質の両方が変わります。
途中で「この枚だけ特別に」と崩したくなる場面も来ます。崩すなら、崩す型として追加してください。例外を1枚作ると、10枚目には型がなくなっています。
型の数は5種類から増やさないのが目安です。7種類を超えると、どの型を使うか迷う時間が生まれ、型のない状態に近づきます。足りないと感じたら、増やす前に既存の型で収まらない理由を考えてください。たいていは内容の整理で解決します。
3・提出先を聞いていない
画面で見せる資料と、印刷して配る資料では作りが違います。文字の大きさ、情報量、色の使い方、1枚に載せる要素の数。聞かずに作ると、納品後に全面的な作り直しになります。
特に投影用は落とし穴です。パソコンの画面で確認して納品し、会議室で投影したら読めなかった、ということが起きます。投影用と聞いたら、文字を1段大きく、コントラストを強めに取ってください。
確認のしかたも決めておきます。納品前に、画面を縮小して全体を眺める。縮小して読めない文字は、投影しても読めません。プロジェクターが手元になくても、この方法で当たりはつけられます。
4・図版を画像で貼る
後から数字を直せなくなります。更新の依頼を自分から手放すことにもなるので、編集できる形で作ってください。
画像で貼らざるを得ない場合もあります。相手から画像でしか支給されなかった図などです。その場合は、納品時に「この図は支給データが画像のため、更新には元データが必要です」と伝えておく。後で言うと言い訳に聞こえますが、先に言えば仕様です。
もう一歩進めるなら、支給された画像の図を作り直す提案もできます。数字さえもらえれば、編集できる形で作り直せる。追加の見積もりを出す機会にもなり、相手の資産も良くなります。断られても損はありません。
5・枚数だけで見積もる
30枚という数字だけで金額を出すと、原稿から作る案件だったときに大幅な赤字になります。枚数ではなく、決める範囲で見積もる。これがこの分野の基本です。
見積もりを出す前に、3つの軸を確認する。原稿、図表、構成。この3つを聞く5分が、10時間を守ります。
聞き方は簡単です。「原稿は確定したものをいただけますか」「図表は数字をいただいて作図でしょうか、画像のご支給でしょうか」「ページの順番はご指定がありますか」。この3問を定型にしておくと、聞き忘れません。
30代につながるのは、伝わる順番を設計する力
このメディアは、20代の副業を「30代に何が残るか」で選ぶ立場で書いています。資料の仕事で残るのは、ソフトの操作ではありません。
読む人の理解の順番を設計する力
残るのは、読む人の理解の順番を設計する力です。何を最初に見せ、何を後回しにし、何を削るか。これは、提案でも報告でも企画でも同じ構造です。
30代になると、資料で人を動かす場面が増えます。社内の決裁、取引先への提案、採用の場面。ここで差がつくのは、見た目の美しさではなく、読む人が判断できる順番に並んでいるかです。3枚目で結論が分かる資料と、25枚目でようやく結論が出る資料では、通る確率が変わります。
この力は、他人の資料を整える仕事でしか鍛えにくい。自分の資料だと、書いた本人には順番の問題が見えないからです。他人の原稿を並べ替える経験の量が、そのまま設計力になります。副業でこれを積める機会は、案外少ない。
読みやすさを、基準で語れること
もう1つ残るのが、読みやすさを公式の基準で語れることです。代替テキスト、読み上げの順序、コントラスト、リンクのテキスト。感覚ではなく基準で話せる人は、社内の資料の質も上げられます。
「なんとなく見にくい」と言われて直す側から、「この項目を満たしていません」と言える側に回る。基準を持っている人は、議論の主導権を持てます。これは資料に限った話ではありません。
基準は覚える必要もありません。公式のページを開いて、書かれている項目を順に確認するだけです。記憶ではなく、参照する習慣のほうが長持ちします。仕様が変わっても、参照先を見れば追いつけます。
捨てる判断を、人に説明できること
資料づくりの本質は、載せないものを決めることです。相手が渡してくる情報は、たいてい1枚に収まる量を超えています。何を捨てるかを決め、なぜ捨てたかを説明する。
この訓練は、30代で仕事を任される側になったときに効きます。会議の議題、企画書の論点、部下への指示。全部言う人は伝わらず、選べる人が伝わります。資料の副業は、その選ぶ訓練を有償で積める仕事です。
そして捨てた理由を説明できると、相手も納得します。「この3点は次の資料に回しました。今回は判断に必要な情報だけに絞っています」。削ったことを黙っていると手抜きに見え、説明すると設計に見えます。同じ作業でも、伝え方で評価が変わります。
まとめ
- 資料の相場は、営業資料のパワーポイント作成が1枚1,000円から、改善点レポートの資料が1時間5,000円から、会社案内のパンフレット(A4・4ページ)が一式70,000円から。単位が3行とも違う(クラウドワークス発注相場)
- 差を生んでいるのは枚数ではなく原稿・図表・構成を誰が決めるかの3軸。3つとも支給されるなら速いが、原稿から作るなら別の仕事になる
- 1枚単価を成立させる条件は3つ。先に5種類の型を作る、原稿の確定を待つ、修正の回数と単位を決める
- 受注前にもらうのは、確定した原稿、色とロゴ、そして提出先と使い方。画面か紙か投影かで作りが変わる
- 公式が挙げる基本は、すべてのビジュアルへの代替テキスト、意図した読み上げ順序、テキストと背景の十分なコントラスト、単体で意味が通るリンクテキスト、そして納品前のチェック(マイクロソフト公式)
- 30枚の想定モデルは8時間30分で手取り25,740円、時間あたり約3,028円。決めているのは最初の1時間の型づくり
- 2本目以降は型を使い回せるため、同じ仕事が7時間45分に縮み、時間あたりは約3,321円に上がる
よくある質問(FAQ)
1枚1,000円は安すぎませんか。
条件次第です。原稿と図表の数字が支給されていて、5種類の型を先に作れば、2枚目以降は10分程度で仕上がります。30枚で8時間30分、手取り25,740円なら時間あたり約3,028円です。逆に、原稿から作る案件をこの単価で受けると赤字になります。枚数ではなく、原稿・図表・構成の3軸で見積もってください。
デザインソフトを持っていなくても受けられますか。
資料の案件は、相手が編集できる形での納品を求められることが多いので、提出先で一般的に使われているソフトで作るのが基本です。凝った加工よりも、型の統一と読みやすさのほうが評価されます。ただし、印刷物のパンフレットは入稿の規定があるため、別の技能と確認が必要です。
代替テキストまで設定する必要がありますか。
マイクロソフトの公式サポートは「すべてのビジュアルに代替テキストを含めます」としています。求められていない案件でも、設定したうえで納品時に伝えると差がつきます。読み上げ順序の確認、テキストと背景のコントラスト、リンクテキストの分かりやすさも、同じ資料内で公式が挙げている項目です。作業は30枚で30分ほどです。
単発で終わらないようにするには。
納品時に、更新の話をしてください。資料は数字やサービス内容が変わるたびに古くなります。グラフを編集できる形で作っておき、「数字の差し替えだけで更新できます」と伝える。更新の依頼は単価こそ低いものの作業時間が短いので、時間あたりでは良い仕事になります。さらに進めるなら、型5種類そのものを納品する形も取れます。
副業として始めるとき、確定申告や会社への影響はどうなりますか。
この記事では資料制作の中身だけを扱っています。副業全般の論点は姉妹メディア「20代の放課後」で扱っています。確定申告と20万円ルール、副業の始め方を参照してください。
納品の前に、公式のチェック項目を通す
代替テキスト、読み上げの順序、コントラスト、リンクのテキスト。マイクロソフトの公式サポートに、確認すべき項目がまとまっています。これを手順に組み込むだけで、納品物の説得力が変わります。