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署名はマナーではなく表示義務
営業メールの署名について調べると、書き方のマナーが出てきます。会社名、部署、氏名、連絡先を4行から6行で、といった話です。
ただし営業メールの署名には、マナーとは別の側面があります。法律で書くべき項目が決まっているということです。
特定電子メールの定義に件数の要件はない
最初に確認すべきは、自分が送っているメールが法律の対象かどうかです。ここで誤解が起きます。
特定電子メール法第2条第2号は、特定電子メールをこう定義しています。
「電子メールの送信(中略)をする者(営利を目的とする団体及び営業を営む場合における個人に限る。以下『送信者』という。)が自己又は他人の営業につき広告又は宣伝を行うための手段として送信をする電子メールをいう。」
ここに件数の要件はありません。「一時に多数」という言葉は同法第1条の目的規定に出てきますが、定義には入っていません。
つまり1通ずつ手で書いて送る営業メールも、特定電子メールにあたります。一斉配信だけの話ではありません。
法第4条が求める3つ
同法第4条は、特定電子メールの送信にあたって、受信者の画面に正しく表示されるようにしなければならない事項を3つ挙げています。
- 第1号。当該送信者の氏名または名称
- 第2号。第3条第3項本文の通知を受けるためのメールアドレス、または省令で定める符号
- 第3号。その他省令で定める事項
2つ目が分かりにくいところです。第3条第3項本文の通知とは、「今後送らないでほしい」という意思表示のこと。つまりそれを受け取るための宛先を書けという条項です。
署名のどこが義務なのか
署名の行ごとに根拠が違う。削れる行と削れない行が、条文で分かれている。
省令が足す3項目
法第4条第3号の「省令で定める事項」の中身は、同法施行規則第9条にあります。3つです。
規則第9条の3つ
| 号 | 書くこと | 実務での形 |
|---|---|---|
| 第1号 | 送信を拒否する通知ができる旨 | 「配信停止をご希望の場合は下記へ」の1行 |
| 第2号 | 法第4条第1号に規定する者の住所 | 会社の所在地 |
| 第3号 | 苦情・問合せ等を受け付けることのできる電話番号、メールアドレス、またはURL | 代表番号か問い合わせ先 |
第1号が見落とされます。拒否用の宛先を書くだけでは足りず、「拒否の通知ができる」と書く必要があります。アドレスだけ置いても、それが何のアドレスか分かりません。
住所はどこまで書くか
第2号は「住所」とあります。建物名や階数まで条文が求めているわけではありませんが、郵便物が届く粒度で書くのが自然です。
都道府県から書いてください。市区町村から始めると、同名の地名で特定できない場合があります。
そしてこの住所は、法第4条第1号の「送信者」の住所です。送信を外部に委託している場合、誰を送信者とするかで書く住所が変わります。
苦情・問合せの受付先
第3号は、電話番号、メールアドレス、URLのいずれかです。3つ全部を書く必要はありません。
ただし配信停止用のアドレスと、苦情・問合せの受付先は役割が違います。同じアドレスにしても構いませんが、その場合は両方の用途で機能する必要があります。
実務では分けたほうが管理しやすい。配信停止は機械的に処理でき、苦情は人が読む必要があるからです。
書く場所まで決まっている
条文は、書く内容だけでなく書く場所も定めています。ここは知られていません。
規則第7条第1項第1号
法第4条第1号(氏名または名称)と第2号(拒否用の宛先)については、こう定められています。
「特定電子メールの任意の場所であって、当該特定電子メールの受信をする者が容易に当該事項を認識することのできる場所」
任意の場所でよいが、容易に認識できる必要がある。本文の最後に署名として置く形は、これを満たします。
「直前又は直後」という指定
規則第9条第1号(拒否の通知ができる旨)だけ、場所の指定が厳しくなります。規則第7条第1項第2号です。
「法第4条第2号に掲げる事項の表示がされた場所の直前又は直後」
つまり拒否用の宛先のすぐ前か、すぐ後ろに書けということです。署名の上のほうに「配信停止はこちら」と書いて、宛先を下のほうに置く形は、この指定から外れます。
ただし同号にはかっこ書きがあります。受信者が送信に用いられたアドレスに返信するだけで拒否の通知ができる場合は、任意の場所でよい。
営業メールの多くは、返信で意思表示できる状態になっています。その場合はかっこ書きが効きますが、返信を受け取って処理する運用が実際にあることが前提です。
外部ページに逃がせるもの
規則第9条第2号(住所)と第3号(苦情・問合せ先)については、規則第7条第1項第3号が緩やかです。
「任意の場所(当該事項を特定電子メール以外の場所に表示されるようにするときは、その場所を示す情報が当該特定電子メールの任意の場所に表示されるようにしなければならない)」
住所と問合せ先は、メール外のページに書いてもよい。ただしそのページの場所をメールに書く必要があります。
| 項目 | メール外に逃がせるか |
|---|---|
| 氏名・名称(法4条1号) | 逃がせない |
| 拒否用の宛先(法4条2号) | 逃がせない |
| 拒否できる旨(規則9条1号) | 逃がせない。しかも場所の指定あり |
| 住所(規則9条2号) | 逃がせる。URLをメールに書く |
| 苦情・問合せ先(規則9条3号) | 逃がせる。URLをメールに書く |
署名を短くしたい場合、削るのではなくこの2項目を会社概要ページに逃がすのが正しい方法です。
文字コードの指定がある
規則第7条第2項に、もう1つ条件があります。表示の方法についてです。
通信文と同じ文字コードで
「前項各号に掲げる事項(中略)は、通信文で用いられるものと同一の文字コードを用いて符号化することにより表示されるようにしなければならない。」
本文と同じ文字コードで書け、という規定です。読み取れるのは、表示すべき事項をテキスト以外の形にしてはいけないということです。
画像にしてはいけない
署名部分を画像にして貼るデザインがあります。ロゴだけならよいのですが、会社名や住所や拒否用の宛先を画像に含めると、文字コードで符号化されていない状態になります。
実務上も問題があります。画像がブロックされている環境では、表示すべき事項が消えます。
そして画像内のアドレスは、コピーもクリックもできません。拒否したい相手に手間をかけさせる形は、条文の趣旨からも遠い。
HTMLメールの場合
同項にはただし書きがあります。「特定電子メールの送信に必要な範囲において、他の符号化方法により重ねて符号化したものは、重ねて符号化する前の文字コードを用いて符号化しているものとみなす。」
転送時の変換などで重ねて符号化された場合を想定した規定です。HTMLメール自体が禁止されるわけではありません。
ただしテキスト版を併せて送る形にしておくほうが確実です。受信側の設定でHTMLが表示されない場合でも、表示すべき事項が残ります。
短くするときに削れないもの
署名は短いほうが読まれます。ただし削れる範囲が決まっています。
削れない4項目
- 会社名または送信者の名称(法4条1号)
- 拒否の通知ができる旨の1行(規則9条1号)
- 拒否用の宛先(法4条2号)
- 住所と問合せ先(規則9条2号・3号)。ただしURLで逃がせる
4つ目だけ、メール内に書かずに済ませられます。残りは削れません。
削れるもの
担当者の氏名、部署名、役職、携帯番号、サイトのURL、肩書きの説明。これらは条文上の義務ではありません。
ただし氏名を省くと、返信の宛先が分からなくなります。義務ではないという話と、書かないほうがよいという話は別です。
削る順番としては、役職、肩書きの説明、携帯番号、サイトURLの順が自然でしょう。氏名と部署は残したほうが実務が回ります。
2通目以降も通ごとに必要
表示義務は、特定電子メールの送信ごとにかかります。1通目に書いたから2通目は省略してよい、という規定はありません。
再送のときに本文を短くする話は営業メールの再送で書きました。本文は短くしますが、署名の義務部分は削りません。
3通目が100字前後になっても、署名は同じ内容が付きます。ここは短縮の対象外です。
表示義務が軽くなる場合
規則第9条には、ただし書きがあります。特定の場合には、この3項目が不要になります。
規則第6条の3つの場合
規則第9条のただし書きは「第六条各号のいずれかに掲げる場合における特定電子メールの送信をする場合は、この限りでない」としています。規則第6条は3つ挙げています。
- 第1号。契約の申込みをした者や契約を締結した者に対し、その契約の申込み・内容・履行に関する事項を通知するメールにおいて、広告または宣伝が付随的に行われる場合
- 第2号。広告が行われることを条件として提供されるメールサービスで、その提供者により広告が付随的に行われる場合
- 第3号。広告以外の行為を主たる目的として送信されるメール(受信者の意思に反することなく送信されるものに限る)において、広告が付随的に行われる場合
新規開拓の営業メールでは使えない
3つとも、広告が「付随的」であることが条件です。新規開拓の営業メールは、広告宣伝が主たる目的です。
第3号のかっこ書きも効きます。「受信者の意思に反することなく送信されるものに限る」。まだ関係の無い相手への営業メールは、これを満たすと言いにくい。
したがってこの例外は、新規開拓では使えないと考えてください。既存顧客への納品連絡に案内が1行付く、という場面のための規定です。
「取引関係」との違い
混同しやすいのが、法第3条第1項第3号の「取引関係にある者」です。これは送ってよいかどうかの例外で、表示義務の話ではありません。
取引関係にある相手には同意なしで送れますが、送る以上は第4条の表示義務がかかります。2つの条文は別の話です。
オプトインの例外については名刺を営業リストに入れていいのかで整理しました。名刺交換は第2号にあたりますが、そちらも表示義務は免除されません。
実際の署名の形
条文を踏まえて、実際の形にします。
並び順
──────────────── サンプル商事株式会社 営業部 山田 太郎 東京都千代田区丸の内1-1-1 TEL 03-1234-5678 info@example.co.jp 配信停止をご希望の場合は、 下記アドレスまでご連絡ください。 stop@example.co.jp ────────────────
9行。配信停止の案内を拒否用アドレスの直前に置き、規則7条1項2号を満たす形にしている。
この順番には理由があります。会社名を最初に置くのは、誰からのメールかを最初に認識させるためです。
そして配信停止の2行を最後に置き、間に空行を入れています。固まりとして認識されるので、探している人が見つけやすい。
行数の目安
義務を満たしたうえで、9行から11行に収まります。住所と問合せ先をURLに逃がせば、7行まで減らせます。
それ以上短くしようとすると、義務の部分に手が入ります。7行が下限だと考えてください。
スマートフォンでの見え方
署名の1行が長いと、スマートフォンで折り返されます。住所が2行になり、見た目が崩れます。
1行を全角25文字程度に収めてください。長い住所は、意味の切れ目で自分で改行します。
そして区切り線の記号を長くしすぎないこと。30文字の罫線は、スマートフォンで折り返されて2行になります。
運用で崩れるところ
署名を決めても、運用で崩れます。3つ挙げます。
担当者ごとに署名が違う
各自がメールソフトで設定すると、項目が揃いません。配信停止の行が抜けている人が出ます。
防ぎ方は、署名のひな形を1つ作り、氏名と部署だけを差し替える運用にすること。各自に作らせないことです。
そして月に1回、実際に送られたメールを1通見てください。設定は正しくても、送信ツールの側で切れていることがあります。
転送・返信で消える
相手から返信が来て、それに返す。このとき引用部分が長くなり、署名が下のほうに埋もれます。
規則第7条第1項第1号は「容易に認識することのできる場所」を求めています。引用20行の下にある署名が、これを満たすかは疑わしい。
返信するときは、引用を必要な範囲だけに削ってください。これは読みやすさの話でもあります。
配信停止の受け口が死んでいる
最も重い失敗がこれです。署名に書いたアドレスが、誰も見ていない。
拒否の通知を受けたら送信できなくなるのが第3条第3項です。受け取っていないと主張しても、送ったという事実は残ります。
確認することは3つ。そのアドレスが実在するか。届いたメールを人が見る運用があるか。見た結果をリストの状態に反映する手順があるか。
3つ目が抜けやすい。読んで終わりでは、次の配信で同じ相手に送ります。
まとめ
- 営業メールの署名はマナーではなく表示義務。特定電子メール法第4条が求めている
- 特定電子メールの定義に件数の要件はない。「一時に多数」は第1条の目的規定で、第2条第2号の定義には入っていない
- だから1通ずつ手で書いて送る営業メールにも、表示義務がかかる
- 法第4条が求めるのは3つ。名称/拒否用の宛先/省令で定める事項
- 省令(規則第9条)が足すのは3つ。拒否できる旨/住所/苦情・問合せ先
- 拒否用の宛先を書くだけでは足りない。「拒否の通知ができる」と書く必要がある(規則9条1号)
- 書く場所も決まっている。規則7条1項2号で、9条1号は法4条2号の直前または直後
- ただし返信だけで拒否できる場合は任意の場所でよい(同号かっこ書き)。返信を処理する運用があることが前提
- 住所と問合せ先はメール外のページに逃がせる。ただしその場所をメールに書く(規則7条1項3号)
- 名称・拒否用の宛先・拒否できる旨は逃がせない
- 規則7条2項。通信文と同じ文字コードで表示する。会社名や住所を画像に含めない
- 削れるのは氏名・部署・役職・携帯・サイトURL。義務ではないが、氏名を省くと返信の宛先が分からなくなる
- 表示義務は通ごと。再送で本文を短くしても、署名の義務部分は削らない
- 規則9条ただし書きの例外は、広告が「付随的」な場合のみ。新規開拓では使えない
- 法3条1項3号の「取引関係」は送ってよいかの例外で、表示義務の話ではない
- 義務を満たすと9行から11行。URLに逃がせば7行。7行が下限
- 署名のひな形を1つ作り、各自に作らせない。月に1回、実際に送られたメールを見る
- 配信停止の受け口が死んでいるのが最も重い失敗。実在・人が見る・状態に反映する、の3つを確認する
署名は、メールの中で最も機械的に作れる部分です。条文が求める項目と場所が決まっているので、一度ひな形を作れば迷いません。迷う余地があるとすれば、それは義務を満たしていない可能性があります。
なお本稿は条文の原文から線を引いたものです。個別の事案については、条文と各ガイドラインを確認してください。
よくある質問
1通ずつ手で送る営業メールにも表示義務はありますか
あります。特定電子メール法第2条第2号の定義に件数の要件はありません。「一時に多数」という言葉は第1条の目的規定に出てきますが、定義には入っていません。営利を目的とする団体等が、自己または他人の営業につき広告・宣伝を行うための手段として送るメールであれば、1通でも特定電子メールにあたります。
営業メールの署名に何を書けばいいですか
法第4条で3つ、施行規則第9条で3つです。送信者の名称、拒否の通知を受けるためのメールアドレス、そして拒否の通知ができる旨・住所・苦情や問合せの受付先。氏名や部署や役職は条文上の義務ではありませんが、氏名を省くと返信の宛先が分からなくなります。
配信停止のアドレスを書けば足りますか
足りません。施行規則第9条第1号は「送信をしないように求める通知ができる旨」を表示させる規定です。アドレスだけ置いても、それが何のアドレスか分かりません。「配信停止をご希望の場合は下記へ」のような1行を添えてください。そして同規則第7条第1項第2号で、その1行はアドレスの直前または直後に置きます。
署名を短くしたいのですが、どこを削れますか
削るのではなく、住所と苦情・問合せ先を会社概要ページに逃がしてください。施行規則第7条第1項第3号がこれを認めています。ただしそのページの場所をメールに書く必要があります。名称、拒否用の宛先、拒否できる旨の3つは逃がせません。義務を満たすと7行が下限です。
署名を画像にしてもいいですか
ロゴだけならよいのですが、会社名や住所や拒否用の宛先を画像に含めないでください。施行規則第7条第2項が、通信文と同一の文字コードで符号化して表示することを求めています。実務上も、画像がブロックされる環境では表示すべき事項が消え、画像内のアドレスはコピーもクリックもできません。
2通目以降は署名を省略できますか
できません。表示義務は特定電子メールの送信ごとにかかり、1通目に書いたから省略してよいという規定はありません。再送で本文を短くするのは有効ですが、署名の義務部分は短縮の対象外です。3通目が100字前後になっても、署名は同じ内容が付きます。
既存顧客へのメールも同じですか
施行規則第9条のただし書きで、規則第6条各号にあたる場合は3項目が不要になります。ただし3つとも広告が「付随的」であることが条件です。納品連絡に案内が1行付く形なら該当し得ますが、新規開拓の営業メールは広告宣伝が主たる目的なので使えません。法第3条第1項第3号の「取引関係」は送ってよいかの例外で、表示義務とは別の話です。