
携帯を乗り換えようとすると、引き止めの仕組みに出会います。
解約金がかかる。2年縛りがある。いま機種変更すれば端末が安くなる。長く使っているほど得なキャンペーンがある。
どれも「そういうものだ」と思って受け入れがちですが、これらにはひとつずつ、法律で上限が決まっています。
根拠は電気通信事業法第27条の3と、同法施行規則です。条文を読むと、具体的な金額や年数が書かれています。
この記事では、その数字を条文で確認します。最後に、この規制が当てはまらない会社があるという大事な話も加えます。
解約金は1,000円が上限です
まず、いちばん知られていない数字から。
電気通信事業法第27条の3第2項第2号は、指定を受けた事業者に対し、契約の解除を「不当に妨げる」提供条件を約してはならないとしています。その中身は、施行規則第22条の2の17に列挙されました。
第4号を読んでください。
合計で1,000円を超えてはいけない、と書かれています。
「特定経済的利益」というのは、同じ条文の中で「違約金等の定めに係る期間における期間内変更等を理由として受けることができないこととする経済的利益」と説明されています。途中で変えたら受け取れなくなる特典のことです。
つまり、解約金そのものだけでなく、「途中でやめると失う特典」も合算して1,000円までということになります。解約金を0円にして、代わりに大きな特典を取り上げる、という設計も通りません。
かつて1万円近い解約金が当たり前だった時期を知っている人ほど、ここは知っておく価値があります。
縛れる期間にも上限があります

同じ第22条の2の17の第1号です。
2年を超える縛りは置けません。 3年契約で縛る、といった設計はこの号に当たります。
さらに第2号には、もうひとつ条件が付いています。
読み方はこうです。縛りなしのプランを用意していない会社は、縛れる期間が1年までになります。 2年縛りを置きたいなら、縛りなしの選択肢も出しなさい、という構造です。
「縛りなしプランは高い」にも天井があります
ここが、いちばんよくできている規定だと思います。
縛りなしプランを用意しさえすればいい、という話にはなっていません。第3号です。
差額は月170円まで。
縛りなしプランを形だけ用意して、月1,000円高くしておく。そうすれば誰も選ばない。——その抜け道が、この号でふさがれています。
数字が具体的なので、自分の契約で確認できます。いま2年契約を結んでいるなら、同じ会社の縛りなしプランとの月額差を見てください。170円を大きく超えているなら、何か前提が違うはずです(プランの内容が同一でない、対象の事業者ではない、など)。
端末の値引きに上限ができた理由
「一括1円」が見られなくなったのも、同じ第27条の3が根拠です。第2項第1号を受けて、施行規則第22条の2の16が値引きの上限を定めています。
条文は長いので、要点だけ取り出します。
・原則 四万円
・端末の対照価格が2万円を超え8万円以下の場合は、対照価格の5割に相当する額または2万円のいずれか高い額
・端末の対照価格が2万円以下の場合は、対照価格(実質0円まで可)
さらに、これと「対照価格から先行同型機種の下取り対価を減じた額」とのいずれか低い額が上限になります。
ここでいう「対照価格」は、回線契約を条件としない場合の販売価格のことです。
安い端末ほど、割引できる割合は大きい。 2万円以下なら実質0円まで値引けるので、エントリー機の「1円」は残り得ます。一方で、高い端末を回線契約で大幅に引く形は、上限に当たります。
この規制がなぜあるかというと、第27条の3の条文そのものに書かれています。目的は「電気通信事業者間の適正な競争関係を阻害するおそれ」を防ぐことです。端末の大幅値引きで囲い込むと、乗り換えが起きにくくなる、という考え方ですね。
上限を一枚に
自動更新の設計にも、決まりがあります
「更新月を逃すとまた2年」。この仕組みにも条文があります。第22条の2の17第5号です。
自動更新できる契約を提供する場合に、次のようなものを定めてはいけないとされています。
- 新たな契約の締結に際して、利用者が期間満了時に更新するかどうかを選択できないこと
- その選択の内容によって料金その他の提供条件が異なること
- 期間満了時に、利用者が更新するかどうかを選択できないこと
- 期間が満了する日の属する月とその翌月・翌々月(縛りなしに更新することを選択している場合は満了月)において、違約金等の支払をせず、または特定経済的利益の提供を受けないこととせずに、契約の変更または解除を行うことができないこと
最後のものが、いわゆる更新月の話です。条文は満了月・翌月・翌々月の3か月を挙げています。かつて「更新月は1か月だけ」という設計がありましたが、そこが広げられているわけです。
「更新するかを選べないこと」「選択によって条件が変わること」まで禁止されているのは、知っておくといいでしょう。更新を選ばないと高くなる、という設計は、この号に当たります。
長く使った人への特典にも上限があります
意外なところにも天井がありました。第6号です。
契約を一定期間続けたことに応じて提供される料金の減免などの経済的利益について、「それにより利用者が受けることとなる一年当たりの利益の額が当該契約に係る一月当たりの料金(契約した日の属する月の初日から起算して6か月を経過する日までの間は、一月当たりの利益の額が一月当たりの料金)を超えるもの」を定めてはいけない、とされています。
長期利用の特典は、年あたりで月額料金1か月分まで。 「長く使うほど得」を強くしすぎると、それ自体が乗り換えを妨げる、という整理です。
ただし、すべての会社が対象ではありません

ここが、この記事でいちばん伝えたい注意点です。
ここまでの規制は、電気通信事業法第27条の3第1項により総務大臣が指定した事業者にかかるものです。条文はこう書いています。
「3 第一項の規定による移動電気通信役務の指定及び電気通信事業者の指定は、告示によつて行う。」
そして、指定の対象から外れる基準が施行規則第22条の2の15にあります。
仮想移動電気通信サービス、いわゆるMVNO(格安SIM)で、利用者数の割合が4%を超えないものは、指定の対象外になります。
つまり、小規模な格安SIMには、ここまでの上限がそのままは当てはまりません。 解約金が1,000円を超える設定になっていても、この規制の違反にはならない可能性があります。
乗り換え先を選ぶときは、その会社が指定事業者かどうかで前提が変わるということです。安さだけで比べて、解約条件を見落とさないようにしてください。
なお、自分で基地局を設置している事業者やその特定関係法人は、この除外の対象から外されています。大手系列のサブブランドは、同じ土俵に乗ることがあるということです。
乗り換える前に確認する4つ
ここからは実務です。契約を開く前に、見る場所を決めておきます。
① いまの契約の「違約金等」と「失う特典」を合算する
解約金の欄だけ見て安心しないでください。条文が合算しているのは、違約金等の額と特定経済的利益の額です。
- 解約金(違約金)はいくらか
- 途中でやめると受け取れなくなる特典はあるか(長期利用割引、ポイント付与、キャッシュバックなど)
指定事業者であれば、この合計が1,000円を超える設計にはなっていないはずです。超えているように見えるなら、その内訳を問い合わせる価値があります。
② 縛りなしプランとの月額差を見る
同じ会社の、縛りなしプランの月額を調べます。いまの契約との差が170円を大きく超えていないか。
超えているなら、プランの内容が同一でない可能性があります(データ量が違う、オプションが違うなど)。条文の比較対象は「違約金等及び特定経済的利益並びに料金以外の条件が同一のもの」なので、条件をそろえて比べる必要があります。
③ 端末の残債と、値引きの条件を分けて考える
端末の分割がまだ残っている場合、それは解約金とは別のものです。この規制は端末代の支払義務をなくすものではありません。
確認するのは2つ。
- 残債はいくらか(乗り換えても支払いは続きます)
- 端末の返却を前提にしたプログラムに入っていないか(途中でやめると条件が変わることがあります)
下取りに出す場合の注意はスマホを下取りに出す前ににまとめました。
④ 乗り換え先が指定事業者かどうかを意識する
格安SIMに移る場合、第7章のとおり上限ルールが当てはまらないことがあります。
- 最低利用期間はあるか
- 解約金はいくらか
- それはいつまでかかるか
大手から大手への乗り換えでは気にしなくてよかった部分が、ここで戻ってきます。契約前に、解約条件のページを必ず開いてください。
今日からできること
3つあります。
ひとつめ、5分。いまの契約の解約条件を開く。
マイページの契約内容から、解約金の有無と金額、契約期間、更新月を見ます。解約金が1,000円を大きく超えているなら、いつ結んだ契約かを確認してください。 古い契約が残っている可能性があります。
ふたつめ、3分。縛りなしプランの月額と比べる。
同じ会社の縛りなしプランの月額を調べ、いまの契約との差を出します。170円程度に収まっているなら、縛りを外しても負担はほとんど変わりません。縛りがあること自体の価値が小さい、ということが数字で分かります。
みっつめ、10分。端末の残債を確認する。
解約金と端末の残債は別物です。乗り換えで実際に動くお金は、ほとんどの場合こちらが大きくなります。残債額と、返却を前提にしたプログラムの有無。この2つを確認してから、乗り換え先を比べてください。
まとめ
携帯の乗り換えを引き止める仕組みには、ひとつずつ法律の天井があります。
解約金は、途中でやめると失う特典と合算して1,000円まで(施行規則第22条の2の17第4号)。縛れる期間は2年までで、縛りなしプランを出していない会社は1年まで。縛りなしプランとの月額差は170円まで。
端末の値引きは原則4万円が上限で、対照価格が2万円超8万円以下なら対照価格の5割か2万円の高いほう、2万円以下なら対照価格まで。安い端末ほど割引できる割合は大きくなります。
更新の設計にも決まりがあり、更新するかどうかを選べないことや、選択によって条件が変わることは禁止されています。更新月は満了月とその翌月・翌々月の3か月です。
長期利用の特典にも上限があり、年あたりで月額料金1か月分までとされています。
そして、いちばん大事な注意点。これらが当てはまるのは、総務大臣が指定した事業者だけです。MVNOで利用者数の割合が4%を超えないものは対象外になります。格安SIMに乗り換えるときは、解約条件を自分で確かめてください。
よくある質問(FAQ)
Q1. 携帯の解約金はいくらまでなら合法ですか?
電気通信事業法施行規則第22条の2の17第4号が「違約金等の額と特定経済的利益の額との合計額が千円を超えるものであること」を禁止の対象としています。つまり1,000円が上限です。ここで合算されるのは解約金そのものだけではありません。「特定経済的利益」は同じ条文で「違約金等の定めに係る期間における期間内変更等を理由として受けることができないこととする経済的利益」とされており、途中でやめると受け取れなくなる特典も含まれます。解約金を0円にして大きな特典を取り上げる設計も、合算で1,000円を超えれば対象です。ただしこの規制は総務大臣が指定した事業者にかかるものです。
Q2. 3年契約のような長い縛りは認められますか?
認められません。施行規則第22条の2の17第1号が「違約金等の定めに係る期間が二年を超える期間であること」を禁止の対象としています。さらに第2号では、違約金等の定めがない契約を提供していない場合について、違約金等の期間が1年を超えることや、違約金等の定めがある契約に更新できるものであることも対象とされています。読み替えると、2年の縛りを置きたいなら縛りなしの選択肢も用意する必要があり、用意しないなら1年までということになります。
Q3. 縛りなしプランがあっても、高ければ意味がないのでは?
そこにも上限があります。施行規則第22条の2の17第3号は、違約金等の定めがない契約を提供している場合に、その一月当たりの料金が違約金等の定めがある契約の一月当たりの料金に「百七十円を加えたもの」を超えることを禁止の対象としています。差額は月170円までということです。形だけ縛りなしプランを用意して誰も選ばない価格にする、という抜け道がふさがれています。比較するときは、条文が「料金以外の条件が同一のもの」としている点に注意して、データ量やオプションをそろえて見てください。
Q4. 「一括1円」はもう無くなったのですか?
端末によります。施行規則第22条の2の16は、回線契約とセットの値引き(合計利益提供額)の上限を原則4万円としたうえで、端末の対照価格が2万円を超え8万円以下の場合は対照価格の5割に相当する額または2万円のいずれか高い額、対照価格が2万円以下の場合は対照価格、としています。つまり2万円以下の端末なら対照価格まで引けるので、実質的に非常に安い価格は残り得ます。一方、高価格帯の端末を回線契約で大幅に引く形は上限に当たります。さらに、先行同型機種の下取り対価を踏まえた額とのいずれか低い額が上限になる仕組みもあります。
Q5. 更新月を逃すとまた2年、という仕組みは認められますか?
更新そのものは認められていますが、設計に条件があります。施行規則第22条の2の17第5号は、自動更新できる契約について、利用者が期間満了時に更新するかどうかを選択できないこと、その選択の内容によって料金その他の提供条件が異なること、期間満了時に選択できないこと、そして期間が満了する日の属する月とその翌月・翌々月において違約金等の支払をせずに契約の変更または解除を行うことができないこと、を禁止の対象としています。更新月にあたる期間は満了月を含む3か月です。また「更新を選ばないと高くなる」という設計も、選択によって条件が異なることにあたります。
Q6. 長く使っている人向けの特典にも制限があるのですか?
あります。施行規則第22条の2の17第6号は、契約を一定期間継続して締結していたことに応じて行われる料金の減免その他の経済的利益について、それにより利用者が受けることとなる一年当たりの利益の額が、その契約に係る一月当たりの料金を超えるものを禁止の対象としています。年あたりで月額料金1か月分まで、という上限です。長期利用の特典を強くしすぎると、それ自体が乗り換えを妨げることになる、という考え方によるものです。
Q7. 格安SIMでも解約金は1,000円までですか?
そうとは限りません。ここまでの規制は、電気通信事業法第27条の3第1項により総務大臣が指定した事業者にかかります。そして施行規則第22条の2の15は、仮想移動電気通信サービスを提供する電気通信事業者について、利用者数の割合を百分の四と定めています。つまりMVNOで利用者数の割合が4%を超えないものは指定の対象外です。小規模な格安SIMでは、解約金が1,000円を超える設定であっても、この規制の違反にはならない可能性があります。ただし、自ら基地局を設置している事業者やその特定関係法人は、この除外から外されています。
Q8. 端末の分割が残っていても乗り換えられますか?
乗り換え自体はできますが、端末代の支払義務はなくなりません。ここで説明している上限は、回線契約の解約金や値引きに関するもので、端末の残債は別の話です。確認しておきたいのは2つあります。ひとつは残債がいくらか。乗り換えても支払いは続きます。もうひとつは、端末の返却を前提にしたプログラムに入っていないか。途中でやめると条件が変わることがあります。乗り換えで実際に動くお金は、解約金より残債のほうが大きくなることがほとんどです。
Q9. いま契約しているプランの解約金が1万円でした。違法ですか?
直ちに違法とは言えません。確認したいことが3つあります。ひとつは、いつ結んだ契約か。古い契約がそのまま残っている場合があります。ふたつめは、その事業者が総務大臣の指定を受けているか。指定は告示によって行われると第27条の3第3項が定めており、MVNOで利用者数の割合が4%を超えないものは対象外です。みっつめは、その金額が何の名目か。端末の残債や、オプションの違約金が含まれていることがあります。まずは契約内容の内訳を事業者に確認してください。
Q10. この規制は何のためにあるのですか?
条文に目的が書かれています。電気通信事業法第27条の3は、総務大臣が指定した事業者の禁止行為として、端末販売に関して「電気通信事業者間の適正な競争関係を阻害するおそれがある利益の提供」を約することと、契約の解除を「不当に妨げる」提供条件を約することを挙げています。つまり、利用者を囲い込んで乗り換えが起きにくくなる状態を防ぐ、というのが狙いです。解約金の上限も、縛れる期間の上限も、端末値引きの上限も、すべて同じ条文から出ています。
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