
クラウドソーシングで案件を受ける。知り合いの会社から単発で頼まれる。SNS経由で依頼が来る。
副業でこういう働き方をしている人は、たいてい業務委託です。雇われているわけではないので、労働基準法は原則として使えません。だから「そういうものだ」と思って、いろいろ飲んできた人も多いはずです。
報酬が3か月後。納品したあとで「やっぱり半額で」。契約書はなく、連絡はチャットだけ。
2024年11月から、そこに法律ができています。
名前は「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」。長いので、略称のフリーランス・事業者間取引適正化等法、あるいはフリーランス新法と呼ばれます。
この記事では、条文そのものを読んで、副業で受けている人に何が保証されているのかを整理します。
あなたはたぶん「特定受託事業者」です
まず、自分が対象かどうかです。第2条第1項が、この法律が守る相手を定義しています。
一 個人であって、従業員を使用しないもの
二 法人であって、一の代表者以外に他の役員(…)がなく、かつ、従業員を使用しないもの」
「個人であって、従業員を使用しないもの」。 副業で一人で受けているなら、ここに当たります。
条文に書かれていないことにも注目してください。開業届を出しているかどうか、本業があるかどうか、収入がいくらか。どれも要件に入っていません。 会社員をしながら月に数万円受けているだけでも、従業員を雇っていない個人である以上、特定受託事業者です。
発注側は2種類に分かれます
ここが少しややこしいところで、発注する側の区分によって、課される義務が変わります。
- 業務委託事業者(第2条第5項)=特定受託事業者に業務委託をする事業者。つまり発注側すべて
- 特定業務委託事業者(第2条第6項)=そのうち、個人なら従業員を使用するもの、法人なら二以上の役員があるか従業員を使用するもの
ざっくり言えば、ひとりでやっている人からの発注か、組織からの発注かです。会社から頼まれているなら、まず後者でしょう。
義務の重いほうが特定業務委託事業者で、報酬の支払期日も、禁止行為も、解除の予告も、ここにかかります。
契約したら、発注側には明示の義務があります

「契約書がないまま始まった」。副業ではよくあります。
第3条は、こう定めています。
「直ちに」「明示しなければならない」。 義務です。しかも主語は「業務委託事業者」なので、ひとりでやっている発注者も含めて全員にかかります。
電磁的方法でもよいので、メールやチャットでも構いません。紙の契約書が絶対に必要、という話ではないのです。逆に言えば、チャットで条件が示されていれば、それが明示にあたり得るということでもあります。
もうひとつ、第2項も知っておくと使えます。
書面をくださいと言えば、出さなければならない。 チャットだけで不安なときは、これを使えます。
なお第1項にはただし書があり、内容が定められないことに正当な理由がある事項は明示を要しないとされています。ただしその場合も「当該事項の内容が定められた後直ちに」明示しなければなりません。あとで決まったら、そのとき示す義務が残る、ということです。
報酬は60日以内。決めていなければ、受け取った日が期日です
ここがいちばん効く条文です。第4条第1項。
読みどころが3つあります。
ひとつめ。起算点は「受領した日」です。 請求書を出した日でも、検収が終わった日でもありません。納品物を受け取った日から数えます。
ふたつめ。「検査をするかどうかを問わず」と明記されています。 「まだ検収中だから」は、60日を延ばす理由になりません。
みっつめ。「かつ、できる限り短い期間内」。 60日が標準という意味ではなく、上限です。
そして第2項が、決めていなかったときの扱いを定めています。
支払期日を決めていなければ、納品した日が支払期日とみなされます。 「決めていないから、いつでもいい」ではありません。逆です。
60日を超える期日を定めてしまった場合も、60日を経過する日が期日とみなされます。契約書に「支払いは90日後」と書いてあっても、この条文が上書きします。
なお、発注側がさらに別の会社から請けていて、その一部をあなたに再委託している場合は別のルールです。第3項により、元委託の支払期日から起算して30日以内とされています(再委託である旨などを明示している場合に限ります)。
期間で増えていく義務
この法律は、委託の期間によって、発注側にかかる義務が増えていくつくりです。
やってはいけない7つ。ただし1か月以上の委託に限ります
第5条が、発注側の禁止行為を定めています。まず条件から確認してください。
条文は「特定業務委託事業者は、特定受託事業者に対し業務委託(政令で定める期間以上の期間行うもの…に限る。)をした場合は、次に掲げる行為…をしてはならない」としています。
その「政令で定める期間」は、施行令第1条で一月です。つまり1か月以上の業務委託が対象です。単発の短い案件は、この条文の射程外になります。
そのうえで、禁止されているのが次の行為です。第1項が5つ。
- 特定受託事業者の責めに帰すべき事由がないのに、給付の受領を拒むこと
- 責めに帰すべき事由がないのに、報酬の額を減ずること
- 責めに帰すべき事由がないのに、受領した後、その給付に係る物を引き取らせること
- 同種又は類似の内容の給付に対し通常支払われる対価に比し著しく低い報酬の額を不当に定めること
- 正当な理由がある場合を除き、自己の指定する物を強制して購入させ、又は役務を強制して利用させること
第2項は、特定受託事業者の利益を不当に害してはならないとして、さらに2つ。
- 自己のために金銭、役務その他の経済上の利益を提供させること
- 責めに帰すべき事由がないのに、給付の内容を変更させ、又は受領した後に給付をやり直させること
副業でよくある場面に当てはめると、こうなります。
| 言われたこと | 条文 |
|---|---|
| 「予算が減ったので報酬を下げさせて」 | こちらに落ち度がなければ報酬の減額にあたり得ます |
| 「やっぱり要らなくなったので納品は結構です」 | こちらに落ち度がなければ受領拒否にあたり得ます |
| 「全部作り直して。追加料金は出ません」 | こちらに落ち度がなければやり直しにあたり得ます |
| 「うちのツールを契約してくれたら発注する」 | 購入・利用の強制にあたり得ます |
どれも「責めに帰すべき事由がないのに」が前提です。 こちらが納期を守らなかった、明らかに仕様と違うものを出した、という場合までカバーされるわけではありません。ここを外して「全部違法だ」と考えないほうがいいでしょう。
急に切られたとき。30日前の予告と、理由の開示
継続して受けていた仕事が、いきなり終わる。これにも条文があります。第16条第1項です。
「更新しない場合を含む」と書かれているのが大事なところです。打ち切りだけでなく、更新されないことも予告の対象です。
ここでいう継続的業務委託は、第13条で定義されていて、政令で定める期間以上のものを指します。その期間は施行令第3条で六月とされています。つまり6か月以上続いている委託が対象です。
そして第2項。
理由を聞けます。 ただし請求した場合なので、黙っていると開示されません。聞くという行動が要ります。
どちらにも例外があり、災害その他やむを得ない事由により予告が困難な場合などは除かれます(厚生労働省令で定める場合)。理由の開示も、第三者の利益を害するおそれがある場合などは除かれます。
募集で見た条件と違ったとき
クラウドソーシングや求人の掲載を見て応募したら、話が違った。これにも規定があります。第12条です。
「2 …広告等により前項の情報を提供するときは、正確かつ最新の内容に保たなければならない。」
「正確かつ最新の内容に保たなければならない」。古い条件を放置しておくことも対象です。
対象となる情報は施行令第2条に列挙されていて、次の5つです。
- 業務の内容
- 業務に従事する場所、期間又は時間に関する事項
- 報酬に関する事項
- 契約の解除(契約期間の満了後に更新しない場合を含む)に関する事項
- 特定受託事業者の募集を行う者に関する事項
募集ページのスクリーンショットを撮っておく意味がここにあります。 応募した時点の表示が、あとで変わってしまうことがあるからです。
ハラスメントと、育児・介護への配慮
取引先からのハラスメントについても、第14条が発注側に措置を義務づけています。
対象となる言動は3つです。性的な言動、妊娠又は出産に関する事由に関する言動、そして取引上の優越的な関係を背景とした言動であって業務を遂行する上で必要かつ相当な範囲を超えたものです。
発注側は、これらにより就業環境を害されることのないよう「その者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の必要な措置を講じなければならない」とされています。
そして第2項が重要です。
相談したことを理由に切るのは、それ自体が禁止されています。
育児・介護についても第13条があります。6か月以上の継続的業務委託については、特定受託事業者からの申出に応じて、妊娠・出産・育児・介護と両立できるよう「必要な配慮をしなければならない」。6か月未満の委託については、同じ配慮が努力義務とされています。
ここも申出に応じてなので、言わないと始まらないわけです。
どこに言えばいいか。言ったことを理由に切られないために

条文を知っていても、言い出せなければ意味がありません。そこにも規定があります。第6条です。
「3 業務委託事業者は、特定受託事業者が…申出をしたことを理由として、当該特定受託事業者に対し、取引の数量の削減、取引の停止その他の不利益な取扱いをしてはならない。」
申し出たことを理由に切られること自体が、禁止されています。 これがあるから、言える構造になっています。
違反に対しては、公正取引委員会などによる勧告や命令の仕組みがあり、命令に違反した場合などは第24条で50万円以下の罰金と定められています。
言う前に、残しておくもの
相談でも交渉でも、効くのは記録です。副業の業務委託なら、次の4つを残しておいてください。
チャットでもメールでも構いません。第3条の明示は電磁的方法でもよいので、そのスクリーンショットが「明示されたこと」の記録になります。
② 納品した日が分かるもの
60日の起算点は受領日です。送信日時の残る形で納品し、その記録を保存します。
③ 募集ページの表示
応募した時点の報酬・業務内容・契約の解除に関する記載。あとから書き換えられることがあります。
④ 言われたことの記録
「報酬を下げたい」「作り直して」と言われたら、その場で口頭で終わらせず、「先ほどのお話ですが」とチャットに書いて残す。これだけで証拠になります。
相談先
- フリーランス・トラブル110番(第二東京弁護士会が運営し、厚生労働省の事業として実施されているもの)。無料で弁護士に相談できます
- 公正取引委員会・中小企業庁。第6条の申出先です
- 厚生労働省の相談窓口。第12条から第16条(募集情報、育児介護への配慮、ハラスメント、解除の予告)は厚生労働省の所管です
なお、取引条件の明示や報酬の支払期日は公正取引委員会・中小企業庁、就業環境に関する部分は厚生労働省、と担当が分かれています。どちらか分からなければ、フリーランス・トラブル110番で整理してもらうのが早いでしょう。
今日からできること
3つあります。
ひとつめ、5分。いま受けている案件の「支払期日」を確認する。
契約書やチャットを開いて、支払期日が書かれているかを見ます。書かれていなければ、納品した日が支払期日とみなされます(第4条第2項)。書かれていて、それが受領日から60日を超えているなら、60日を経過する日が期日とみなされます。
「いつ振り込まれるか分からない」と思っていた案件が、実は期日を過ぎているかもしれません。
ふたつめ、3分。条件が「明示」されているかを見る。
給付の内容、報酬の額、支払期日。この3つがチャットでもメールでも示されていれば、第3条の明示にあたり得ます。示されていなければ、求めてください。 電磁的方法で示された場合でも、書面の交付を求めれば遅滞なく交付する義務があります(第3条第2項)。
みっつめ、10分。記録の置き場所を決める。
条件が示されたやりとり、納品日、募集ページの表示、言われたことの記録。この4つをひとつのフォルダかスレッドにまとめておくだけで、いざというときの動きが変わります。
案件ごとにチャットツールが違うと散らかるので、スクリーンショットを自分宛のメールに送っておくのが手軽です。
まとめ
副業で業務委託を一人で受けているなら、あなたは「特定受託事業者」です。第2条は「個人であって、従業員を使用しないもの」としていて、開業届の有無も、本業があるかどうかも、収入額も要件にありません。
発注側には、契約したら直ちに、給付の内容・報酬の額・支払期日などを書面または電磁的方法で明示する義務があります(第3条)。チャットでも構いませんが、書面がほしければ求められます。
報酬は、受領した日から60日以内。検査をするかどうかを問わず、できる限り短い期間内にと定められています。支払期日を決めていなければ、納品した日が支払期日とみなされます(第4条)。
1か月以上の委託では、受領拒否・報酬の減額・やり直し・購入の強制など7つの行為が禁止されます(第5条、施行令第1条)。いずれも「こちらに落ち度がないのに」が前提です。
6か月以上続いている委託では、更新しない場合も含めて30日前の予告が必要で、理由の開示を請求できます(第16条)。
そして、公正取引委員会や中小企業庁に申し出たことを理由に取引を切ることは、禁止されています(第6条第3項)。言える構造になっている、ということです。
よくある質問(FAQ)
Q1. 会社員の副業でも、この法律の対象になりますか?
対象になります。特定受託事業者の定義は「業務委託の相手方である事業者であって、個人であって、従業員を使用しないもの」(第2条第1項第1号)で、本業があるかどうか、開業届を出しているかどうか、収入がいくらかは要件に入っていません。会社員をしながら一人で業務委託を受けているなら、従業員を雇っていない限り該当します。ただし、発注側がどの区分にあたるかで課される義務は変わり、報酬の支払期日や禁止行為は「特定業務委託事業者」(従業員を使用する個人、または二以上の役員があるか従業員を使用する法人)の義務です。
Q2. 契約書がありません。チャットのやりとりだけです。
第3条は「書面又は電磁的方法により」明示しなければならないとしているので、メールやチャットでも明示の方法として認められています。給付の内容、報酬の額、支払期日などが示されていれば、紙の契約書がなくても明示にあたり得ます。逆に、何も示されていないなら発注側が義務を果たしていない状態です。なお第3条第2項により、電磁的方法で明示された場合でも、書面の交付を求められたときは遅滞なく交付しなければならないとされています。不安であれば書面を求めてください。
Q3. 報酬の支払いが3か月後と言われました。これは問題ないのですか?
第4条第1項は、報酬の支払期日を「給付を受領した日から起算して六十日の期間内において、かつ、できる限り短い期間内において、定められなければならない」としています。3か月後はこれを超えています。さらに第2項は、この規定に違反して支払期日が定められたときは「給付を受領した日から起算して六十日を経過する日」が支払期日とみなされると定めているので、契約書に90日後と書かれていても、条文上は受領日から60日を経過する日が期日になります。なおこの義務は特定業務委託事業者にかかるものです。
Q4. 支払期日を何も決めていません。いつ払ってもらえますか?
第4条第2項が「報酬の支払期日が定められなかったときは特定業務委託事業者が特定受託事業者の給付を受領した日が…報酬の支払期日と定められたものとみなす」としています。つまり、決めていない場合は納品した日が支払期日とみなされます。決めていないから発注側がいつ払ってもよい、ということにはなりません。むしろ最短になります。まずは納品した日が分かる記録を確保してください。
Q5. 納品後に「予算が減ったので報酬を下げて」と言われました。
第5条第1項第2号が「特定受託事業者の責めに帰すべき事由がないのに、報酬の額を減ずること」を禁止しています。こちらに落ち度がないのに下げるよう求めるのは、この禁止行為にあたり得ます。ただし条件がふたつあります。ひとつは「責めに帰すべき事由がないのに」なので、納期を守らなかった、仕様と明らかに違うものを出したといった事情がある場合は別です。もうひとつは、第5条が適用されるのが政令で定める期間以上の業務委託に限られることで、その期間は施行令第1条で一月と定められています。1か月未満の単発案件はこの条文の射程外です。
Q6. 単発の短い案件でも守られますか?
条文によって変わります。取引条件の明示(第3条)と報酬の支払期日(第4条)には期間の条件がないので、短い案件でも適用されます。一方、受領拒否や報酬の減額などを禁じる第5条は「政令で定める期間以上の期間行うもの」に限られ、その期間は施行令第1条で一月です。また、育児介護への配慮(第13条)と30日前の解除予告(第16条)が対象とする継続的業務委託は、施行令第3条により六月以上とされています。つまり、明示と60日ルールは全案件、禁止行為は1か月以上、予告と配慮は6か月以上、という構造です。
Q7. 継続していた仕事を、更新せず終わりにすると言われました。
6か月以上続いている継続的業務委託であれば、第16条第1項により少なくとも30日前までの予告が必要です。条文は「契約の解除(契約期間の満了後に更新しない場合を含む。)」としているので、打ち切りだけでなく更新しないことも予告の対象です。さらに第2項により、予告がされた日から契約が満了する日までの間に理由の開示を請求すれば、遅滞なく開示しなければならないとされています。ただし請求した場合に限られるので、黙っていると開示されません。なお災害その他やむを得ない事由により予告が困難な場合などは例外とされています。
Q8. 募集ページに書いてあった報酬と、実際の提示額が違いました。
第12条第1項は、募集に関する情報を提供するときに「虚偽の表示又は誤解を生じさせる表示をしてはならない」としています。さらに第2項で「正確かつ最新の内容に保たなければならない」とされているので、古い条件を放置することも対象になります。対象となる情報は施行令第2条に列挙されていて、業務の内容、業務に従事する場所・期間・時間に関する事項、報酬に関する事項、契約の解除に関する事項、募集を行う者に関する事項の5つです。応募した時点の表示は書き換えられることがあるので、スクリーンショットを残しておいてください。
Q9. 取引先に言いづらいです。言ったら切られませんか?
第6条第1項は、違反する事実がある場合に公正取引委員会または中小企業庁長官に申し出て、適当な措置をとるべきことを求めることができるとしています。そのうえで第3項が「申出をしたことを理由として、当該特定受託事業者に対し、取引の数量の削減、取引の停止その他の不利益な取扱いをしてはならない」と定めています。申し出たことを理由に切ること自体が禁止されている、という構造です。また、ハラスメントの相談についても第14条第2項が同様に、相談したことを理由とする契約の解除その他の不利益な取扱いを禁止しています。
Q10. まずどこに相談すればいいですか?
窓口が分かれている点に注意してください。取引条件の明示や報酬の支払期日、禁止行為については公正取引委員会・中小企業庁が、募集情報の表示、育児介護への配慮、ハラスメント対策、解除の予告については厚生労働省が担当しています。どちらに当たるか分からない場合は、フリーランス・トラブル110番(第二東京弁護士会が運営し、厚生労働省の事業として実施されているもの)で無料の相談ができます。相談の前に、条件が示されたやりとり、納品日が分かる記録、募集ページの表示、言われたことの記録を手元にそろえておくと話が早く進みます。
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