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勤怠の記録を「客観的な方法」で残す仕組みの作り方

勤怠の集計に、毎月何時間もかかっている。紙のタイムカードを見ながら表計算に打ち直し、押し忘れを本人に聞いて回る。この作業は、記録の取り方を決めていないことから生まれます。

勤怠には、法令が求める2種類の記録があります。賃金台帳に書く労働時間数と、面接指導のために把握する労働時間の状況です。この2つは根拠も保存年数も違い、対象者の範囲も違います。ここを整理しないまま打刻機だけ入れ替えても、集計の手間は減りません。この記事では、法令が求める項目を先に確定してから、打刻と保存の形を決める手順を説明します。

この記事でわかること

  • 賃金台帳の労働時間数と、労働時間の状況の把握が別物である理由
  • 労働基準法施行規則が定める賃金台帳の記入8項目と、記入が要らない労働者
  • 保存年数が3年と5年で食い違って見える理由と、実務での決め方

ムダの現状:集めてから直している

勤怠の集計に時間がかかる会社では、だいたい同じ順番で作業が起きています。

作業 中身 なぜ起きるか
集める 紙や個別の表を回収する 記録の置き場所が人ごと
打ち直す 集計用の表に転記する 記録の形が揃っていない
聞いて回る 押し忘れ、直行直帰を確認する 例外の扱いを決めていない
直す 本人の申告で書き換える 直した記録が残らない

4つのうち、時間を食っているのは3番目と4番目です。打刻機を新しくしても、例外の扱いを決めていなければ、聞いて回る作業はそのまま残ります。

賃金台帳と「労働時間の状況」は別物

勤怠まわりで混乱が起きるのは、根拠の違う2つの記録を1つだと思っているからです。

1つ目は賃金台帳です。労働基準法第108条は、使用者は各事業場ごとに賃金台帳を調製し、賃金計算の基礎となる事項と賃金の額その他厚生労働省令で定める事項を、賃金支払の都度遅滞なく記入しなければならないと定めています。月末にまとめて作るものではなく、支払のたびに書くものです。

2つ目は労働時間の状況の把握です。労働安全衛生法第66条の8の3は、事業者は面接指導を実施するため、厚生労働省令で定める方法により労働者の労働時間の状況を把握しなければならないと定めています。こちらは賃金計算のための記録ではなく、働きすぎている人を見つけて医師の面接につなげるための記録です。

目的が違うので、対象になる人の範囲も違います。ここを取り違えると、管理職の勤怠を一切取っていない状態になります。

機械に渡せる部分と、人に残す部分

勤怠の仕組みを検討するとき、どこまで自動にできるかを先に線引きしておくと、製品選びの基準がはっきりします。工程ごとに分けると次のようになります。

工程 誰がやるか 理由
打刻の記録 機械 客観的な記録が残る
時間数の集計 機械 計算の間違いが減る
例外の判断 人。基準は事前に文書化 個別の事情が絡む
修正の承認 人。履歴は機械が残す 誰が直したかが要る

機械に渡せるのは、記録と計算です。判断は人に残ります。ただし判断の基準を先に決めておけば、判断そのものが短くなります。

スキームの全体図:打刻から保存まで一本にする

1. 記入する項目を確定する 賃金台帳は施行規則で8項目が決まっている 足りない項目から、集める形を逆算する 2. 打刻の方法を、1つに決める 省令は客観的な方法を例示している 部署ごとに違う方法にすると集計が増える 3. 例外の扱いを、先に決める 直行直帰、押し忘れ、修正の申請 聞いて回る時間が、ここで消える 4. 締め日の前に、確認する 未打刻と、長い時間の人を先に出す 締めた後に直すと、支払にかかる 5. 保存の年数と場所を決める 労働時間の状況の記録は3年間 賃金台帳は5年、当分の間は3年 打刻機の入れ替えではなく、決め事の整理から

順番が大事です。多くの会社は2番目から始めますが、1番目を飛ばすと、入れた仕組みで必要な項目が足りないことが後から分かります。

必要なツールと費用(2026年9月23日時点)

必要なもの 用途 費用の考え方
記入項目の一覧 法令が求める項目の確認 作成の時間のみ
打刻の手段 客観的な記録を残す 1人あたりの月額が主流
例外の申請の形 修正の理由と承認を残す 既存のフォームで足りる
保存の場所 年数が経っても取り出せる 既存の保管領域で足りる

費用が読みにくいのは2番目だけです。打刻の手段は人数で値段が決まる形が多いので、対象人数を先に数えてから見積もりを取ってください。パート社員を含めるかどうかで金額が変わります。

導入手順:法令の項目から決める

Step 1:賃金台帳の8項目を、いまの記録と突き合わせる

労働基準法施行規則第54条第1項は、使用者が労働者各人別に賃金台帳へ記入する事項として、次の8つを挙げています。

号 記入する事項
一 氏名
二 性別
三 賃金計算期間
四 労働日数
五 労働時間数
六 延長時間数、休日労働時間数、深夜労働時間数
七 基本給、手当その他賃金の種類ごとの額
八 賃金の一部を控除した場合の、その額

いまの記録と並べて、足りない項目に印を付けてください。抜けやすいのは六号です。延長時間数と休日労働時間数と深夜労働時間数を、まとめて「残業時間」の1列にしている会社が多く見られます。3つは別の欄に分けてください。

同じ第54条には、記入を省ける場合も書かれています。日々雇い入れられる者で1か月を超えて引き続き使用される者を除く場合は、三号の賃金計算期間の記入は要りません。また、労働基準法第41条各号のいずれかに該当する労働者と、第41条の2第1項により労働させる労働者については、五号の労働時間数と六号の記入は要らないとされています。

ここが誤解の入口です。賃金台帳への記入が要らないことと、労働時間を把握しなくてよいことは別です。次の段で分けて扱います。

Step 2:打刻の方法を、1つに決める

労働安全衛生規則第52条の7の3第1項は、労働安全衛生法第66条の8の3が定める方法について、タイムカードによる記録、パーソナルコンピュータ等の電子計算機の使用時間の記録等の客観的な方法その他の適切な方法とすると定めています。

条文は特定の製品を指定していません。タイムカードと、パソコンの使用時間の記録が例として挙げられているだけです。自社の働き方に合う形を選べます。

働き方 向いている打刻 注意する点
1か所に出勤する 入口の端末 朝の混雑で行列ができる
直行直帰がある 携帯からの打刻 電波の届かない場所の扱い
在宅勤務がある パソコンの使用時間 私用の時間との切り分け
複数拠点を回る 携帯からの打刻 移動時間の扱いを決める

部署ごとに違う方法を許すと、集計のときに形を揃える作業が増えます。方法は原則1つにして、どうしても無理な部署だけ例外にしてください。例外は、後で必ず手作業として返ってきます。

Step 3:例外の扱いを、先に文書にする

集計に時間がかかる原因のほとんどは、ここを決めていないことです。決めるのは4つだけです。

場面 決めること 残すもの
押し忘れた いつまでに、誰に申請するか 申請の日時と理由
直行直帰 どの時点を始業とするか 訪問先と時刻
打刻の時刻を直す 誰が承認するか 直す前の値と、直した人
休憩を取れなかった 申告の方法 理由

3番目の直す前の値を残すことが特に重要です。上書きしてしまうと、後から記録の正しさを説明できません。修正の履歴が自動で残る形にしておけば、説明の手間がなくなります。

この4つを1枚の紙にまとめ、全員に配ってください。長い規程は読まれません。読まれる長さにすることが目的です。

Step 4:締め日の前に、2つの一覧を出す

締めてから直すと、賃金の支払に間に合わなくなります。締め日の3日前に、次の2つを出してください。

一覧 中身 誰が見るか
未打刻の一覧 打刻が片方しかない日 本人と上長
時間の長い人の一覧 時間外が一定を超えた人 上長と人事

1番目は集計の手間を減らすため、2番目は面接指導につなげるためです。目的が違うので、一覧を1つにまとめないでください。まとめると、どちらかが見られなくなります。

この確認を上長に任せる場合、上長がやることは一覧を見て本人に声をかけることだけにしてください。集計や修正まで上長の仕事にすると、続きません。

Step 5:保存の年数と場所を決める

勤怠の記録には、根拠の違う2つの保存年数があります。

対象 年数 根拠
労働時間の状況の記録 3年間 労働安全衛生規則第52条の7の3第2項
賃金台帳など 5年間 労働基準法第109条
同上(当分の間) 3年間 労働基準法附則第143条第1項

労働安全衛生規則第52条の7の3第2項は、事業者は把握した労働時間の状況の記録を作成し、3年間保存するための必要な措置を講じなければならないと定めています。

賃金台帳のほうは形が違います。労働基準法第109条は、労働者名簿、賃金台帳および雇入れ、解雇、災害補償、賃金その他労働関係に関する重要な書類を5年間保存しなければならないと定めています。そして同法附則第143条第1項が、第109条の適用については当分の間、同条中の「五年間」を「三年間」とするとしています。

つまり条文の本則は5年、経過措置で当分の間は3年という二段構えです。実務では、本則の5年で保存の設計をしておくほうが安全です。経過措置は当分の間という書き方なので、終わる時期が条文からは読めません。3年で捨てる運用にしていると、経過措置が終わったときに全部を作り直すことになります。

最初は、1つの部署だけで回す

全社で一斉に切り替えると、例外の洗い出しが追いつきません。人数が20人前後で、働き方が1種類の部署を選んでください。1か月回すと、決めていなかった例外が3つか4つ出てきます。それを文書に足してから、次の部署に広げます。

この順番だと、2つ目の部署は最初から例外が書かれた文書で始められます。全社で一斉にやると、例外が同時に何十件も出て、人事が対応しきれません。

現場の合意の取り方:監視ではないと伝える

勤怠の記録を変えるとき、いちばん出てくる反発は「監視されている」という感覚です。これは説明の順番で減らせます。

打刻の修正を、後ろめたくしない

打刻の修正に理由を書かせると、修正すること自体が悪いことのように受け取られます。すると、修正を申請せずに実態と違う記録が残ります。これは会社にとっていちばん困る状態です。

修正の申請は、正しい記録を残すための手続きであって、ミスの報告ではないと説明してください。運用でも、修正の件数を個人の評価に使わないと明言します。件数を数えるのは、方法そのものに無理がないかを見るためです。

ある部署だけ修正が多いなら、その部署の打刻の方法が働き方に合っていません。人ではなく、方法を直す材料として使ってください。

管理職の手間が減ることを、先に見せる

説明の相手は、まず管理職です。管理職には、いまやっている作業のうち何がなくなるかを具体的に伝えてください。

いまやっていること 切り替え後
部下の勤怠表を集めて確認する 未打刻の一覧を見るだけ
残業時間を手で足す 自動で集計される
押し忘れを個別に聞く 本人が申請する

3番目が大きい変化です。押し忘れの確認を本人の申請に移すと、管理職の作業が承認だけになります。この点を先に見せると、管理職が現場への説明を手伝ってくれます。

逆に、管理職の手間が増える設計にすると、現場への説明が進みません。締め日の確認を管理職の仕事にする場合も、見るのは一覧だけに限ってください。

失敗パターンと限界:記録しても実態は変わらない

打刻と実態がずれる

打刻を客観的な方法にしても、実態とずれることはあります。打刻してから作業を続ける、打刻前に準備を始める。こうした行動は記録に出ません。

この設計で分かるのは、ずれの兆候だけです。パソコンの使用時間と打刻の時刻が大きく離れている人がいれば、そこに何かあります。記録の突き合わせで見つかるのは候補であって、事実ではありません。実態の確認は、本人と上長への聞き取りになります。

記録しただけでは、長時間労働は減らない

勤怠の記録を整えても、仕事の量が変わらなければ労働時間は変わりません。減るのは、集計と確認の作業です。

記録の整備は、長時間労働を見つけやすくする土台です。そこから先は、業務の割り振りを変える話になります。この2つを混ぜて説明すると、仕組みを入れたのに労働時間が減らないという評価になります。目的は集計の手間を減らすことと、見つけやすくすることだと、最初に伝えてください。

賃金台帳の記入が要らない人も、把握の対象

ここが実務でいちばん間違えられるところです。

労働基準法施行規則第54条では、労働基準法第41条各号のいずれかに該当する労働者と、第41条の2第1項により労働させる労働者について、労働時間数と時間外等の時間数の記入が要らないとされています。

一方、労働安全衛生法第66条の8の3は、労働時間の状況を把握する対象から除くのは、次条第1項に規定する者だけとしています。賃金台帳の記入の免除と、労働時間の状況の把握の対象は、範囲が一致しません。

実務での結論は単純です。賃金台帳に労働時間数を書かない人でも、労働時間の状況は把握してください。打刻の対象から外さないという運用にしておけば、この食い違いで悩む必要がなくなります。

この設計が向かない場合

働き方が1人ずつ違い、人数が10人に満たない会社では、仕組みを入れる手間のほうが大きくなることがあります。この場合は、打刻の方法だけ決めて、集計は表計算のままにするほうが早いことがあります。

ただし、保存の年数と修正の履歴だけは最初から決めてください。人数が増えてから遡って整えるのは、いちばん高くつきます。

AIを使うなら、ずれの抽出に

勤怠でAIを使う場面は限られます。向いているのは、打刻の記録とほかの記録を突き合わせて、説明が必要そうな日を抜き出すことです。

向かないのは、労働時間の判断そのものです。ある時間が労働時間にあたるかは法的な判断であり、記録から自動で決められるものではありません。AIには候補を出させて、判断は人が行ってください。出てきた候補をそのまま処理に流すと、判断の根拠が残りません。

効果の測り方

測る項目は3つです。切り替えの前に1か月分を取っておいてください。

項目 測り方 見る向き
集計にかかった時間 締めから確定までの作業時間 減る
確認の往復の件数 本人に聞いた回数 減る
締め後の修正の件数 確定した後に直した件数 減る

3番目が、支払の間違いに直結します。締め日の前に一覧を出す手順がうまく回っていれば、ここが目に見えて減ります。

逆に、1番目だけ減って2番目が減らない場合は、例外の文書が現場に届いていません。文書を配っただけで説明していない状態です。もう一度、朝礼などの場で読み合わせてください。

同じ法令・同じ論点の記事

同じ安衛法66条の8の3と安衛則52条の7の3は、勤怠チェックを自動化するで締め前のチェック項目として扱っています。

労働基準法109条と附則143条1項の保存期間は、ツールを乗り換えるときのデータ移行でも同じ条文から年数を出しています。

まとめ

勤怠の集計に時間がかかるのは、打刻機が古いからではありません。記録の項目と例外の扱いを決めていないからです。

最初にやることは、労働基準法施行規則第54条第1項の8項目と、いまの記録を突き合わせることです。抜けやすいのは、延長時間数と休日労働時間数と深夜労働時間数を分けて記入する部分です。

次に、打刻の方法を原則1つに決めます。労働安全衛生規則第52条の7の3第1項は、タイムカードによる記録やパソコンの使用時間の記録などの客観的な方法その他の適切な方法とだけ定めており、製品は指定していません。働き方に合う形を選べます。

そして、押し忘れ、直行直帰、打刻の修正、休憩の4つについて、いつ誰に申請し何を残すかを1枚にまとめてください。集計の時間を食っているのは、この4つです。

保存は、労働時間の状況の記録が労働安全衛生規則第52条の7の3第2項で3年間、賃金台帳などが労働基準法第109条で5年間、附則第143条第1項により当分の間は3年間です。本則の5年で設計しておけば、経過措置が終わっても作り直しが要りません。

最後に、賃金台帳への労働時間数の記入が要らない労働者でも、労働時間の状況の把握の対象からは外れません。打刻の対象から外さない運用にしておいてください。

よくある質問

紙のタイムカードのままでも問題はありませんか

労働安全衛生規則第52条の7の3第1項は、タイムカードによる記録を客観的な方法の例として挙げています。紙であること自体が問題になるわけではありません。ただし、紙のままだと集計の転記が残り、3年間の保存も場所を取ります。集計の手間と保管の手間を、切り替えの費用と比べて判断してください。

自己申告の勤怠表だけで運用しても大丈夫ですか

労働安全衛生規則第52条の7の3第1項は、客観的な方法その他の適切な方法と定めており、客観的な方法を先に挙げています。自己申告だけにする場合は、なぜ客観的な方法が取れないのかを説明できる状態が要ります。実務では、客観的な方法を原則にして、どうしても取れない場面だけ申告で補う形が無難です。

管理職の勤怠は取らなくてよいのですか

賃金台帳の記入と、労働時間の状況の把握は別です。労働基準法施行規則第54条では、労働基準法第41条各号に該当する労働者について労働時間数の記入が要らないとされていますが、労働安全衛生法第66条の8の3が把握の対象から除いているのは次条第1項に規定する者だけです。打刻の対象から外さない運用にしておくのが安全です。

保存は3年ですか、5年ですか

2つの根拠が並んでいます。労働時間の状況の記録は、労働安全衛生規則第52条の7の3第2項で3年間です。賃金台帳などは、労働基準法第109条で5年間と定められていますが、同法附則第143条第1項により当分の間は3年間とされています。設計は本則の5年に合わせておくと、経過措置が終わっても作り直しが要りません。

打刻の修正が多い社員がいます。どう扱えばよいですか

まず、修正の件数を個人の評価に使わないでください。使うと、申請せずに実態と違う記録が残ります。件数を見るのは、打刻の方法が働き方に合っているかを確かめるためです。ある部署や職種だけ修正が多いなら、その働き方に打刻の方法が合っていません。人ではなく方法を直してください。

どこから手を付ければよいですか

労働基準法施行規則第54条第1項の8項目と、いまの記録を並べることからです。紙とペンでできます。足りない項目が分かってから、打刻の方法を選んでください。先に製品を決めると、必要な項目が取れないことが後から分かり、選び直しになります。

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