
メール配信を始めるときに、必ず出てくるのが「送信ドメインの接続」です。専門用語が並ぶので、後回しにされがちな作業でもあります。
ただ、これを飛ばすと受け取った人の画面に、自社とは違う差出人情報が見える状態になります。届く・届かない以前に、信用の問題になります。
そしてもう1つ。この機能は無料ツールのみのアカウントでは使えません。Starter以上が必要です。ここを知らずに設計すると、配信の直前で止まります。
この記事では、必要なDNSレコードと手順、そして触る前に決めておくことを扱います。
先に結論:3つだけ押さえてください
- 対象はStarter・Professional・Enterprise。無料ツールのみのアカウントでは接続できません
- 必要なDNSレコードは4種類。MX、DKIM、SPF、DMARCです
- 接続するドメインは、差出人アドレスのドメインと一致させます。ここがずれると意味がありません
作業自体はDNSに数行を足すだけです。ただし、触る場所を間違えると自社のメールが止まります。
前提:送信ドメインの接続は有料プランの機能です
公式ヘルプの冒頭には、対象としてMarketing Hub、Sales Hub、Service Hub、Content HubのStarter、Professional、Enterpriseが挙げられています。
つまり、無料ツールのみのアカウントでは、この接続そのものができません。
無料のまま配信を設計すると、ここで止まります
よくある進み方はこうです。無料で試しながらリストを整え、文面を作り、いざ送る段になって「差出人の設定」で止まる。
止まったあと、慌ててプランを決めることになります。本来は、配信を本格的に始めると決めた時点で、必要なプランを確認しておくべきところです。
「送れる」と「自社の名前で送れる」は別です
誤解されやすいのですが、無料でもメールの作成と送信そのものはできます。止まるのは差出人のドメインを自社のものとして認証する部分です。
少数への案内なら気にならないかもしれません。ただ、リストに数百件たまってから直すのは面倒です。本格的に配信を始める前に、この線を確認してください。
接続しないと、差出人が自社に見えません
送信ドメインを接続する目的は2つです。
1. 受け取った人に、自社から届いたと分かるようにする
接続していない状態でメール配信サービスから送ると、受信側の画面に配信サービス側の情報が表示されることがあります。「〜経由」といった表記です。
取引先からすれば、見慣れない名前が差出人欄に混じっている状態です。開封率以前に、迷惑メールと判断される材料になります。
2. 受信側に「送ってよい相手」だと伝える
もう1つが認証です。DNSに情報を置くことで、このドメインからこの経路で送ることを、自社が認めていると受信側に伝えられます。
この仕組みがないと、受信側はなりすましと区別できません。結果として、迷惑メール扱いになる確率が上がります。
必要なDNSレコードは4種類
公式には、接続時に設定が必要なDNSレコードとしてMX、DKIM、SPF、DMARCの4種類が挙げられています。
| 種類 | レコードの形 | 役割 |
|---|---|---|
| DKIM | CNAMEを2つ | 送信元を署名で証明する |
| SPF | TXTを1つ | 送ってよい経路を宣言する |
| DMARC | TXTを1つ | 認証に失敗したときの扱いを指定する |
| MX | MX | 受信の経路を示す |
公式には、DKIMには2つのCNAMEレコード、SPFとDMARCにはそれぞれ1つのTXTレコードが必要と書かれています。
なぜ4種類も要るのか
1つで済まないのは、確認したいことが違うからです。受信側は「本当にそのドメインの持ち主が送ったのか」と「その経路を持ち主が認めているのか」を、別々に確かめます。
片方だけでは、なりすましを見分けられません。封筒に例えるなら、差出人の署名と、差し出した郵便局の記録の両方を照合しているようなものです。
近年は、この照合を厳しくする受信側が増えています。数年前は認証がなくても届いていた、という経験は、今の判断材料になりません。
役割を1行で押さえておく
専門用語に見えますが、やっていることは単純です。DKIMが署名、SPFが経路の宣言、DMARCが失敗したときの扱いの指定です。
この3つがそろって、受信側が「このメールは本物だ」と判断できます。1つでも欠けると、判断材料が減ります。
すでに他のサービスを使っている場合
メール配信や業務用メールで、すでにSPFやDMARCを設定していることがあります。その場合は、既存のレコードを消さずに追記する形になります。
とくにSPFは、1つのドメインに複数持たせられない決まりがあります。新しく1行足すのではなく、既存の1行の中に追記します。ここを間違えると、既存のメールが届かなくなります。
接続の手順
画面の操作自体は短時間で終わります。時間がかかるのは、DNSの反映を待つ部分です。
- 右上の設定アイコンを開きます
- ドメインとURLの設定に移動します
- ドメインを接続する、を選びます
- Eメール送信ドメインを選びます
- 接続したいドメインを入力します
- 表示されたDNSレコードを、自社のDNSに登録します
- 画面に戻って、確認のボタンを押します
DNSを触る人が別なら、情報を丸ごと渡す
DNSの管理を制作会社やサーバー会社に任せている場合は、画面に表示された値をそのままコピーして渡してください。手で打ち直すと、必ず打ち間違いが出ます。
とくにDKIMの値は長い文字列です。前後の空白が入っただけでも通りません。スクリーンショットではなく、テキストで渡すのが確実です。
反映には時間がかかります
DNSの変更は、すぐに世界中へ伝わるわけではありません。数分で通ることもあれば、数時間かかることもあります。
登録した直後に確認して通らなくても、設定が間違っているとは限りません。1時間ほど空けて、もう一度確認してください。何度も押し直すより確実です。
どのドメインを接続するか
ここは接続の前に決めておく必要があります。あとから変えるのは面倒だからです。
差出人アドレスと一致させます
公式には、接続するサブドメインは「マーケティングEメールの送信に使用している送信元Eメールアドレスのドメインと一致している必要があります」と書かれています。
つまり、差出人を info@example.co.jp にするなら、接続するのは example.co.jp です。別のドメインを接続しても効きません。
サブドメインを使うという選択
公式には、サブドメインを接続することもできると明記されています。たとえば news.example.co.jp のような形です。
この場合、差出人アドレスもそのサブドメインに合わせます。配信用と業務用を分けたい場合の選択肢になります。
| 選び方 | 向いている場合 |
|---|---|
| 本体のドメイン | 配信の件数が多くなく、差出人を統一したい |
| サブドメイン | 配信を業務メールと切り分けたい |
接続できるドメイン数には余裕があります
公式には、全てのアカウントで最大2,000件のEメール送信ドメインを接続できると書かれています。1〜10人の会社で上限に当たることは、まずありません。
数の心配は不要ですが、だからといって増やす理由もありません。差出人を分けるほど、受信側から見た「その差出人の実績」も分かれます。最初は1つで十分です。
DNSを触るときの注意
この作業でいちばん怖いのは、配信ではなく自社の業務メールを止めてしまうことです。
触る前に、今の設定を控える
作業の前に、現在のDNSレコードを画面ごと保存してください。テキストにコピーしておくだけで構いません。
何かおかしくなったときに、元に戻せる状態を作っておく。これがないと、原因を探る間ずっとメールが止まったままになります。
既存のレコードを上書きしない
前述のとおり、SPFは追記です。既存の行を消して新しい行を置く、という操作をしないでください。
MXレコードも同様です。業務メールの受信経路が入っているはずなので、内容を確認せずに書き換えると受信が止まります。
作業する時間帯を選ぶ
DNSの変更は、反映までのあいだ挙動が不安定になることがあります。取引先とのやりとりが多い時間帯は避けてください。
現実的には、始業前か、週の後半の夕方以降です。金曜の夕方だけは避けてください。問題が起きたときに、確認できる人が捕まりません。
制作会社に依頼するときの伝え方
1〜10人の会社では、DNSを自社で触っていないことがほとんどです。依頼の仕方で、往復の回数が変わります。
そのまま送れる依頼文
次の内容を、値のテキストと一緒に送ってください。
参考にした公式ドキュメント
メール配信ツールの送信ドメイン認証のため、DNSレコードの追加をお願いします。添付の値をそのままご登録ください。
・CNAMEを2件(DKIM用)
・TXTを1件(DMARC用)
・SPFは既存のレコードがある場合、新規追加ではなく既存の1行に追記をお願いします
作業前に現在の設定の控えをいただけると助かります。完了後にご連絡ください。こちらで反映を確認します。
「SPFは追記」だけは必ず書く
依頼の文面で省略できないのがここです。普段DNSを触り慣れていない担当者だと、新しい行として足してしまうことがあります。
SPFが2行ある状態になると、既存のメールまで認証に失敗し始めます。この1行を書いておくだけで、その事故がほぼ防げます。
完了の連絡だけでは終わりにしない
「作業しました」と連絡が来ても、そこで完了にしないでください。自分の画面で確認のボタンを押して、通ったことを見るまでが作業です。
登録はされたが値が1文字違う、という状態は、相手の画面では正常に見えます。確認できるのは、こちら側だけです。
反映されないときの切り分け
登録したのに確認が通らない。この状態のときは、上から順に見てください。
いちばん多いのは「別の場所に入れていた」
ドメインを取った会社と、DNSを管理している会社が違うことがあります。サーバーを移したときに、DNSの管理先だけ移っているケースです。
この場合、元の管理画面に登録しても効きません。今どこが実際に動いているかを確認してから登録してください。
ホスト名の入れ方にも癖があります
管理会社によって、ホスト名の入力形式が違います。ドメイン名まで含めて入れる形式と、その手前までしか入れない形式があります。
同じ値を入れたつもりで、二重になっていることがあります。登録後の一覧で、実際にどう表示されているかを確認してください。
接続したあとにやること
接続は手段です。終わったら、実際に届くかを確かめてください。
自分宛に1通送る
まず、自社の業務用アドレスと、フリーメールのアドレスの両方に送ってください。片方だけでは分かりません。
受け取ったメールで、差出人の表示が自社のものになっているかを見ます。メールの詳細表示で、認証の結果が確認できる場合もあります。
最初は少ない件数から送る
接続が終わった直後に、数百件へ一斉に送らないでください。そのドメインからの配信実績がまだない状態です。
反応の良い相手から順に、少しずつ件数を増やす。この進め方が、結果的にいちばん早く届くようになります。
ドメインを変えるときの段取り
会社名の変更やサイトのリニューアルで、ドメインを変えることがあります。ここは事故が起きやすい場面です。
新しいほうを先に接続します
順番が大事です。先に新しいドメインを接続し、配信できる状態を作ってから、差出人を切り替えます。
古いほうを先に外すと、その間に配信が止まります。期限のある案内を送る予定があるときは、とくに順番を守ってください。
切り替えたことを相手に伝える
差出人のドメインが変わると、受信側では別の送信者として扱われます。それまでの実績が引き継がれません。
切り替えの前後で、届きにくくなる期間が生じることがあります。重要な案内は、切り替えの直前か、実績が戻ってからにしてください。
古いドメインをいつ外すか
切り替えたあとも、しばらくは古いドメインを残しておくのが安全です。返信が古いアドレス宛に来ることがあるからです。
目安として、切り替えから数か月は両方を生かしておく。外すのは、古い宛先への返信が来なくなってからで構いません。
いつ差出人を切り替えるかを決めておく
接続が終わっても、差出人の設定は自動では切り替わりません。配信の設定画面で、差出人アドレスを接続したドメインのものに変える必要があります。
ここを忘れると、せっかく接続したのに古いままの差出人で送られます。接続の確認が通ったら、その場で差出人の設定も見に行ってください。別の日にすると、まず忘れます。
返信先をどこにするかも決める
あわせて決めておきたいのが返信先です。案内メールに返信が来たとき、それが誰に届くか。
配信用のアドレスを誰も見ていない、という状態がいちばん多い失敗です。返信先は、実際に人が毎日開いているアドレスにしてください。問い合わせの返信が1週間放置される事故は、ここから起きます。
無料のまま送る場合の注意
今は有料にできない、という場合もあります。その前提での注意を書きます。
件数を絞る
認証が整っていない状態で大量に送ると、迷惑メール扱いが積み上がります。一度そうなると、あとで接続しても回復に時間がかかります。
無料のまま送るなら、反応がある相手だけに、件数を絞って送ってください。
重要な連絡は通常のメールで
契約や請求のように、確実に届く必要がある連絡は、配信機能ではなく通常のメールで送ってください。個別のやりとりは、この記事の対象外です。
配信機能は、あくまで案内やお知らせのためのものだと切り分けておくと、事故が減ります。請求書の送付を配信機能で行って、迷惑メールに入って気づかれない。この形の事故が、いちばん実害が大きくなります。
まとめ
送信ドメインの接続は、配信を始める前の土台です。
- 対象はStarter・Professional・Enterprise。無料ツールのみのアカウントでは接続できません
- 必要なレコードは4種類。DKIMはCNAMEを2つ、SPFとDMARCはTXTを1つずつです
- 接続するドメインは、差出人アドレスのドメインと一致させます。サブドメインも使えます
- SPFは追記です。既存の行を消して置き換えると、業務メールが止まります
- 反映には時間がかかります。1時間空けてから再確認してください
作業自体は短時間で終わります。怖いのは設定ではなく、触る場所を間違えることです。今の設定を控えてから始めてください。
そして、接続が通ったらその場で差出人と返信先の設定まで見に行く。ここまでを1回の作業にしておくと、「接続したのに古い差出人のまま送っていた」という取り返しのつかない1通を防げます。
よくある質問(FAQ)
無料版でも送信ドメインを接続できますか
できません。公式ヘルプの対象はMarketing Hub、Sales Hub、Service Hub、Content HubのStarter、Professional、Enterpriseです。無料ツールのみのアカウントでは、この接続機能を使えません。
必要なDNSレコードは何ですか
MX、DKIM、SPF、DMARCの4種類です。DKIMには2つのCNAMEレコード、SPFとDMARCにはそれぞれ1つのTXTレコードが必要と公式に記載されています。
サブドメインでも接続できますか
できます。公式にサブドメインを接続できると明記されています。ただし、接続するサブドメインは、マーケティングメールの送信に使う差出人アドレスのドメインと一致している必要があります。
すでにSPFを設定しています。もう1行足せばいいですか
足すのではなく、既存の1行に追記します。1つのドメインにSPFを複数持たせられない決まりがあるためです。既存の行を確認したうえで、その中に追記してください。
登録したのに確認が通りません
まず1時間ほど空けて再確認してください。それでも通らない場合は、ドメインを実際に管理している会社の画面に登録したかを確認します。最後に、値が一字一句同じかを見てください。前後の空白や末尾の点で通らないことがあります。
接続できるドメインの数に制限はありますか
公式には、全てのアカウントで最大2,000件のEメール送信ドメインを接続できると記載されています。少人数の会社で上限に当たることは、まずありません。
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