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「平均アポ率」を目標に置かない
インサイドセールスのKPIを設計するとき、最初にやりがちなのが、他社の平均値を探すことです。
「インサイドセールス KPI 平均」「テレアポ アポ率 平均」で検索すると、数字が出てきます。ただし、それらの一次的な出典にはたどり着けません。各社の解説記事が互いを参照している状態に見えます。
仮に正確な平均があっても、使えない
出典の問題を脇に置いても、他社の平均は目標として機能しません。理由が3つあります。
| 理由 | 内容 |
|---|---|
| 分母の定義が違う | 架電数で割るのか、接続数で割るのか。同じ「アポ率」でも計算が違えば比べられない |
| アポの定義が違う | 日程が確定したものだけか、興味ありと言われた時点で計上するか |
| 前提が違う | 商材の単価、リストの質、既存顧客との関係。これらで数字は何倍も変わる |
1つ目が特に厄介です。分母が違う数字を並べると、良いほうが悪く見えます。そして「うちは平均以下だ」という結論だけが残ります。
使えるのは、自社の前月との比較だけ
改善しているかどうかは、同じ定義で測った自社の数字でしか分かりません。他社と比べるのではなく、先月の自分と比べます。
この記事では、何を数えるか、どう割るか、そして数字が動かないときにどこを見るかを書きます。専用のツールを前提にせず、スプレッドシートでも回せる粒度にしています。
歩留まりを5つに割る
「アポが取れない」という1つの数字を見ていると、原因が特定できません。工程ごとに割ります。
歩留まりの5段階。それぞれで直す場所が違う。
分母を必ず書いておく
率の名前だけを共有すると、人によって計算が変わります。「接続率=接続数÷架電数」のように、分母と分子を文章で残してください。
とくに分けるべきなのが、架電数と接続数です。この2つを混ぜると、番号の鮮度の問題とトークの問題が区別できなくなります。
数え方で迷う場面を先に潰す
率の定義を書いても、実際に数え始めると迷う場面が出ます。よくある4つを先に決めておきます。
| 迷う場面 | 決め方の例 |
|---|---|
| 同じ会社に複数回架電した | 架電数は回数で数え、接続や通過は会社単位で1回だけ数える |
| 留守番電話につながった | 接続には数えない。人と話していないため |
| 受付で「担当がいない」と言われた | 通過には数えない。取り次がれていないため |
| 折り返しで担当者から電話が来た | 接触に数える。こちらの架電が起点なので |
正解はありません。決めて、全員が同じように数えることが目的です。ただし、一度決めたら途中で変えないでください。定義を変えると、前月と比べられなくなります。
どうしても変えたいときは、変更した日を記録して、前後を別の期間として扱います。変更前の数字を新しい定義で計算し直せるなら、そうするほうが望ましい。
メールとフォームも同じ構造で割る
電話以外の手段でも、考え方は同じです。
| 工程 | メール | フォーム |
|---|---|---|
| 届いたか | 到達数 ÷ 送信数 | 送信成功数 ÷ 送信試行数 |
| 読まれたか | 返信数 ÷ 到達数(断りも数える) | 返信数 ÷ 送信成功数 |
| 前に進んだか | 前向きな返信 ÷ 到達数 | 前向きな返信 ÷ 送信成功数 |
メールの開封率を入れていないのは、追跡画像が読み込まれないことが多く、数字が実態とずれるためです。数えられるのに信頼できない指標は置きません。
どれを目標にするか
5つ全部を目標にすると、どれも追えなくなります。目標にするのは1つか2つです。
立ち上げ期は「接続率」と「通過率」
始めたばかりの時期は、そもそも人と話せていないことが多い。ここを上げないと、トークの良し悪しを測る機会が生まれません。
そしてこの2つはリストの質で大きく動きます。トークの改善より先に、リスト側で解けることが多い段階です。
軌道に乗ったら「前進率」
人と話せるようになったら、話した結果が次につながっているかを見ます。ここが上がらないなら、トークかターゲットのどちらかに問題があります。
手段が複数あるときの見方
電話、メール、フォームを併用している場合、手段ごとに率を分けます。合算すると、どの手段が効いているか分かりません。
そのうえで、比べるのは率ではなく「1件の前進を得るのにかかった手数」にしてください。手段によって1件あたりの作業時間が違うためです。
電話の前進率がメールの3倍でも、1件あたりの時間が5倍かかるなら、効率はメールのほうが上です。率だけを並べると、この判断を誤ります。
最終的な受注率は、KPIにしない
受注はフィールドセールスの仕事なので、インサイドセールス側の行動では動かせません。動かせない数字を目標にすると、改善のしようがなくなります。
ただし受注率は見ます。トスアップした案件がどれだけ受注に至ったかは、トスアップの基準が正しいかを判断する材料になります。目標にはしないが、観測はする。この区別が要ります。
目標と観測を分ける
目標は、自分の行動で動かせるものだけに置きます。観測は、動かせなくても判断材料になるものを含めます。この2つを混ぜると、動かせない数字を追いかけて疲弊するか、見るべき数字を見なくなるかのどちらかになります。
行動量は目標ではなく制約
架電数や送信数を目標にすると、数を稼ぐ動きが生まれます。返信の見込みが薄い相手にも送るようになり、率が下がります。
上限と下限を決める
行動量は「これ以上やる」ではなく「この範囲でやる」という形で持ちます。
| 設定 | 意味 |
|---|---|
| 下限 | これを下回ると、率を測るのに必要な件数が集まらない |
| 上限 | これを超えると、1件あたりの準備が雑になる |
上限を決めるのが重要です。件数を増やせば成果が増えるという前提は、どこかで崩れます。崩れる点を超えると、件数は増えて率は下がり、合計は変わらないか減ります。
上限を超えたときに何が起きるか
上限を決めていない現場で実際に起きるのは、次の順番です。
まず、リストの精査が省かれます。ターゲットに合わない会社も対象に入り、母集団が膨らむ。件数は達成できます。
次に、架電前の下調べが消えます。「ご担当者様」としか言えなくなり、受付の通過率が落ちます。
そして、記録が雑になります。断られた理由が残らなくなり、次回の接触で同じ入り方を繰り返す。
ここまで来ると、件数は増えているのに成果が減っている状態になります。そして原因が記録に残っていないので、何が起きたか後から分かりません。
上限は、この連鎖を止めるために置きます。件数を制限するためではなく、1件あたりの質を守るためです。
準備の時間を行動量に含める
架電前に相手のサイトを見る時間、フォーム営業で「なぜこの会社に送ったか」を書く時間。これらは成果に直結する作業です。
行動量の目標を件数だけで置くと、この時間が最初に削られます。削ると率が下がるので、件数を増やしても合計が伸びません。
数だけ見ると必ず質が落ちる
KPIを数だけで設計すると、数を満たす動きが出ます。これは担当者の問題ではなく、設計の問題です。
起きること
| 目標の置き方 | 起きる動き |
|---|---|
| アポ件数だけ | 見込みの薄い相手ともアポを取る。商談が空振りする |
| 架電数だけ | つながらない番号に繰り返し掛ける。準備をしなくなる |
| トスアップ件数だけ | 基準を満たさない案件を渡す。差し戻しが増える |
| 送信数だけ | 「なぜこの会社に送ったか」を書かなくなる |
質の指標を1つ入れる
数の指標と対になる質の指標を、必ず1つ入れてください。
- アポ件数を見るなら、商談実施率(実際に商談が行われた割合)も見る
- トスアップ件数を見るなら、差し戻し率も見る
- 送信数を見るなら、返信率も見る
対になる指標があると、片方だけを上げる動きが成立しなくなります。これは監視のためではなく、担当者が正しく動けるようにするためです。
差し戻し率を責めない
質の指標を入れると、今度はそれを責めたくなります。差し戻し率が高い、商談実施率が低い、と。
責めると、確実な案件しか出さなくなり、件数が落ちます。見るべきは率の高さではなく、理由の偏りです。差し戻しの理由が特定の項目に集中しているなら、基準か手順の問題です。
トスアップの基準そのものについてはインサイドセールスのトスアップ基準で扱っています。
いつ測るか、何件で判断するか
集計は週次、判断は月次
週次で集計して、数字を見えるようにします。ただし週の数字で施策を変えないでください。件数が少なすぎて、偶然の振れ幅のほうが大きくなります。
判断は月次です。月の数字を見て、次の月に何を変えるかを決めます。
必要な件数
率を比べるには、分母がある程度必要です。目安を置きます。
| 分母 | 判断できるか |
|---|---|
| 10件 | できない。1件動くだけで率が10ポイント変わる |
| 50件 | 大きな差なら見える。細かい比較には足りない |
| 100件以上 | 比較に使える |
分母が小さい段階で率を追いかけると、偶然の上下に振り回されます。件数が足りないうちは、率ではなく件数の積み上げだけを見てください。
変える施策は1つずつ
トークと架電の時間帯を同時に変えると、どちらが効いたか分かりません。月に1つだけ変えます。
変えたら、その月は他を動かさない。これを守らないと、数字を測っている意味がなくなります。
数字を誰に見せるか
KPIは設計より運用のほうが難しい部分があります。誰が、いつ、何を見るかを決めておきます。
個人別の数字の扱い
個人別に率を出すと、比較が始まります。比較自体は悪くありませんが、分母が小さい状態で個人別に出すと、偶然の差が実力の差に見えます。
1人あたりの月間の件数が数十件なら、個人別の率は参考値です。チーム全体の数字で施策を判断し、個人別は改善の会話のきっかけに使います。
見せる頻度を上げすぎない
数字を毎日見せると、日次の上下に反応するようになります。今日は率が低い、昨日は高かった。1日の件数では、偶然の振れ幅のほうが大きいにもかかわらずです。
週次で十分です。日次で共有するのは件数だけにして、率は週次にまとめてください。
そして、率が下がった週に理由を問い詰めないこと。分母が小さいので、理由が無くても下がります。問い詰められた担当者は、次の週から数を優先し始めます。
本人が自分で見られるようにする
上長だけが数字を持っている状態だと、担当者は自分の状態が分かりません。分からないまま指摘されると、納得感が出ません。
本人が、いつでも自分の数字を見られる形にしてください。週次の集計を共有するだけで足ります。
営業代行として入る場合
依頼元に報告する数字は、契約の段階で決めておきます。後から定義を変えると、成果が下がったように見えることがあります。
とくにアポの定義は必ず文章で合意してください。日程が確定したものだけか、担当者が興味を示した時点か。ここがずれていると、報告のたびに揉めます。
数字が動かないときの読み方
最後に、改善しても数字が動かない場合の読み方を書きます。
どこが落ちているかで、見る場所が変わる
| 落ちている場所 | まず疑うもの |
|---|---|
| 接続率が低い | リストの番号の鮮度。次に架電の時間帯 |
| 通過率が低い | 名乗りの組み立て。次にリストの担当部署情報 |
| 接触率が低い | 架電の時間帯。次に不在時の再架電の設計 |
| 前進率が低い | ターゲットの選び方。次にトークの内容 |
| すべて低い | リスト全体。ターゲットの定義から見直す |
最後の行が重要です。すべての率が低いとき、原因はトークではありません。そもそも合っていない相手に接触しています。
季節と曜日で動く分を差し引く
月次で比べるとき、外部の要因で動く分があります。ここを施策の効果と混同しないでください。
年度末や年度初め、大型連休の前後、決算期。これらの時期は、相手側の事情で接触率も前進率も動きます。施策を何も変えていなくても動きます。
だから、前月比だけでなく前年同月とも比べられるようにしてください。1年分のデータがたまるまでは、外部要因の影響を分離できません。
それまでは、大きく動いた月に「何か外部の出来事がなかったか」を記録しておきます。1行で構いません。後から振り返るときに効きます。
トークを直す前に、リストを疑う
改善というと、まずトークを直したくなります。ですがトークで動くのは通過率と前進率だけです。接続率と接触率は、リストと時間帯で決まります。
そして前進率も、ターゲットが合っていなければ上がりません。リストの問題をトークで解こうとすると、時間だけが過ぎます。順番としては、リストを疑い、時間帯を疑い、それから初めてトークを疑ってください。
改善が頭打ちになったとき
一通り直して、それ以上動かなくなる時期が来ます。ここで無理に率を追うと、質を犠牲にする方向へ進みます。
頭打ちになったら、見る場所を変えてください。率ではなく、「1件の成果を得るのにかかった総時間」です。
率が同じでも、準備の手順が整理されて時間が短くなっているなら、改善しています。逆に率が横ばいで時間も変わらないなら、そこが今のやり方の上限です。
上限に達したと判断したら、やり方そのものを変える段階です。手段を増やすか、ターゲットを変えるか、商材の見せ方を変えるか。率の小数点以下を追いかけても、そこから先は出ません。
数字が上がらないことを、そのまま報告する
施策を打って動かなかったとき、動かなかったという事実が情報です。隠したり、別の数字で補ったりしないでください。
「この施策は効かなかった」と記録が残ると、次に同じことを試さずに済みます。効かなかった施策の一覧は、効いた施策の一覧と同じくらい価値があります。
まとめ
- 他社の平均アポ率を目標に置かない。一次出典が確認できないうえ、分母とアポの定義が違えば比べられない
- 使えるのは同じ定義で測った自社の前月との比較だけ
- 歩留まりを5つに割る。接続率、通過率、接触率、前進率、トスアップの通過率。それぞれ直す場所が違う
- 分母と分子を文章で残す。率の名前だけを共有すると、人によって計算が変わる
- 目標にするのは1つか2つ。立ち上げ期は接続率と通過率、軌道に乗ったら前進率
- 受注率はKPIにしない。ただし観測はする。目標と観測を分ける
- 行動量は目標ではなく制約。上限と下限で持つ。上限を決めないと、件数が増えて率が下がる
- 数の指標には、必ず対になる質の指標を入れる。アポ件数なら商談実施率、トスアップ件数なら差し戻し率
- 質の指標を責めない。見るべきは率の高さではなく、理由の偏り
- 集計は週次、判断は月次。分母が100件を超えるまで、率を比較に使わない
- すべての率が低いとき、原因はトークではない。リストとターゲットの定義から見直す
KPIは、担当者を評価するためではなく、どこを直せばよいかを特定するために置きます。特定できない数字は、いくら精密に測っても使えません。
よくある質問
アポ率の平均はどのくらいですか
流通している数字の一次的な出典は確認できませんでした。そして仮に正確な平均があっても、目標としては使えません。分母を架電数で取るか接続数で取るかで数字が変わりますし、アポの定義も会社によって違います。同じ定義で測った自社の前月と比べてください。
歩留まりはいくつに分ければいいですか
電話なら5つです。接続率、受付の通過率、担当者との接触率、前進率、そしてトスアップの通過率。それぞれ低いときに直す場所が違うので、分けないと原因が特定できません。メールやフォームでも、届いたか、読まれたか、前に進んだか、の3段階で同じように割れます。
受注率をKPIにしてはいけませんか
目標にはしないでください。受注はフィールドセールスの仕事なので、インサイドセールス側の行動では動かせません。動かせない数字を目標にすると、改善のしようがなくなります。ただし観測はしてください。トスアップした案件がどれだけ受注に至ったかは、トスアップの基準が正しいかを判断する材料になります。
架電数を目標にするのは間違いですか
目標ではなく制約として持ってください。「これ以上やる」ではなく「この範囲でやる」という形です。下限は率を測るのに必要な件数、上限は1件あたりの準備が雑にならない件数。とくに上限が重要で、これを決めないと件数が増えて率が下がり、合計が伸びません。
質の指標を入れると、担当者を追い詰めませんか
追い詰めるのは、質の指標そのものではなく使い方です。差し戻し率が高いことを責めると、確実な案件しか出さなくなり件数が落ちます。見るべきは率の高さではなく、理由の偏りです。同じ理由が複数の担当者から出ているなら、それは個人ではなく基準か手順の問題です。
何件たまったら率を比べていいですか
分母が100件を超えてからにしてください。10件では1件動くだけで率が10ポイント変わります。50件なら大きな差は見えますが、細かい比較には足りません。件数が足りないうちは、率ではなく件数の積み上げだけを見てください。
すべての率が低いときは、何から直せばいいですか
リストです。すべての率が低いとき、原因はトークではありません。そもそも合っていない相手に接触しています。ターゲットの定義から見直してください。トークで動くのは受付の通過率と前進率だけで、接続率と接触率はリストと時間帯で決まります。