
仲介手数料の上限が告示で決まっていることは、比較的知られています。では、その周辺で請求されるお金はどうでしょうか。案内料、申込料、広告費、調査費用。
結論から書くと、宅地建物取引業者が受け取れるのは報酬と「依頼者の依頼によって行う広告の料金」だけです。告示第十一が「第二から第十までの規定によるほか、報酬を受けることができない」と定め、国土交通省の解釈・運用の考え方が「いわゆる案内料、申込料(中略)の報酬を受領することはできない」と明記しています。
そしてもう1つ、知られていない取扱いがあります。住宅ローンが通らず、それを理由に売買契約を解除したときは、受け取った報酬を返還しなければならない——これも同じ解釈・運用の考え方に書かれた取扱いです。
この記事では、昭和45年建設省告示第1552号(最終改正 令和6年6月21日)と、国土交通省「宅地建物取引業法の解釈・運用の考え方」だけを根拠に、仲介手数料の周辺で動くお金を整理します。
結論:告示が認めているのは報酬と「依頼者の依頼によって行う広告の料金」だけ
告示第十一の本文
報酬の告示は、第二から第十までで報酬の上限を定めたうえで、第十一に歯止めを置いています。表題は「第二から第十までの規定によらない報酬の受領の禁止」です。
本文で全部を禁じ、ただし書きで1つだけ例外を認める。この構造です。
例外は1つだけ、しかも条件つき
ただし書きが認めているのは「依頼者の依頼によって行う広告の料金に相当する額」です。3つの要素があります。
- 依頼者の依頼によって行うものであること(業者の判断で行ったものは含まない)
- 広告の料金であること(調査費や案内の対価ではない)
- その料金に相当する額であること(実費であって、上乗せした報酬ではない)
3つのどれかが欠ければ、告示の本文に戻ります。受け取れません。
結論:確認するのは2点
条文の構造がこうなっているので、手数料以外の請求を受けたときにやることは単純です。名目ではなく、次の2点を確認します。
- それは自分が依頼した広告の料金か(依頼していなければ告示の本文に戻る)
- 事前に説明と承諾があったか(後述する特別の費用の場合の条件)
請求書に書かれた名目は、判断の材料になりません。「広告費」と書いてあっても自分が依頼していなければ受け取れませんし、「調査費」と書いてあっても特別の依頼で事前の承諾があれば受け取れます。名前ではなく、経緯で決まります。
案内料・申込料は受領できない
解釈・運用の考え方が名指ししている
国土交通省の「宅地建物取引業法の解釈・運用の考え方」は、告示第十一関係の項でこう書いています。
案内料と申込料が名指しで挙げられています。解釈が分かれる余地を残さない書き方だと言えます。
「物件を見に行く」ことへの対価はない
案内料とは、物件の案内に対する対価です。現地に連れて行く、内見に同行する。こうした行為に対して別途お金を受け取ることはできません。
報酬の告示は、媒介という業務全体に対する対価の上限を定める作りになっています。そのなかに案内も含まれている、という整理です。案内だけを切り出して別料金にすることは、告示の構造上できません。
現地案内にかかる交通費は、後述する「履行に要した費用」として整理されており、販売活動に要する費用の一部として業者の側にあるものです。
「申し込む」ことへの対価もない
申込料も同様です。買付証明書を出す、申込書を書く。この行為に対する対価を受け取ることはできません。
なお、申込時に「申込証拠金」「預り金」としてお金を預かること自体は、報酬の受領とは別の話です。ただしこちらにも規制があり、申込みを撤回したときに返還を拒むことは宅地建物取引業法施行規則で禁止されています。手付金との違いは手付金の上限と保全措置で扱いました。
通常の広告費・調査費は業者の負担
標準媒介契約約款の解釈
解釈・運用の考え方は、標準媒介契約約款についての項でも、費用の分担を明示しています。
レインズへの登録、通常の広告、物件の調査。これらは業者の負担です。売主に請求するものではありません。
「通常の」がどこまでかが線引きになる
条文が禁じているのは、依頼者の依頼によらない広告の料金です。裏返すと、依頼者が特別に依頼した広告なら請求できます。
続く一文がその手順を示しています。
あらかじめ、見積りを説明してから実行する。この順序です。実行したあとに請求書が来るのは、手順として逆になります。
成約しなくても請求できる
もう1点、知っておくべき取扱いが同じ箇所にありました。「なお、費用の請求は、成約の有無に関わらずできるものである」という一文です。
特別に依頼した広告や出張の費用は、売れなくても請求されうるということです。「売れたときだけ払えばいい」と考えていると、認識がずれます。
だからこそ、依頼する前に見積りを聞く意味があります。
例外はある。ただし「事前の承諾」が条件
広告以外の実費にも道はある
告示第十一のただし書きは広告の料金だけを挙げていますが、解釈・運用の考え方は、もう少し広く整理しています。
条件は3つ
長い一文ですが、条件は3つに分解できます。
- 依頼者の特別の依頼により支出を要するものであること
- 特別の費用に相当する額であること(実費相当であって報酬の上乗せではない)
- その負担について事前に依頼者の承諾があること
例として挙げられているのは、遠隔地における現地調査と、空家の特別な調査です。いずれも「特別の依頼」が起点になっています。
逆に言えば、承諾がなければ受け取れない
3つ目の条件が実務では効きます。事前の承諾がないまま支出された費用は、この整理に乗りません。
「調査に行ったので費用をいただきます」と後から言われた場合、確認するのは次の2点です。自分がその調査を依頼したか。依頼したとして、費用負担について事前に説明を受け、承諾したか。
どちらも「いいえ」なら、告示第十一の本文に戻ります。
費用を請求するなら、明細書と領収書で立証する
請求の方法まで決まっている
解釈・運用の考え方は、媒介契約を解除した場合などに業者が請求できる「履行に要した費用」についても、請求の方法を示しています。
費目が例示されている
この一文には、請求しうる費目が区分ごとに列挙されています。抽象的な「実費」ではなく、具体的な名前が並んでいるのが特徴です。整理します。
| 区分 | 例示されている費目 |
|---|---|
| 現地調査に要する費用 | 交通費、写真代 |
| 権利関係等調査に要する費用 | 交通費、謄本代 |
| 販売活動に要する費用 | 新聞・雑誌等の広告費、通信費、現地案内交通費 |
| 契約交渉に要する費用 | 交通費 |
「明細書を作成し、領収書等で金額を立証して」
ここが実務でいちばん使えます。概算での請求は、この文言に沿いません。費目ごとの明細書と、金額を裏づける領収書等が求められています。
たとえば「調査費用一式 5万円」という請求は、明細書にも領収書にもなっていません。交通費がいくら、謄本代がいくら、と分かれている必要があります。
請求を受けたら、明細書を出してもらってください。これは特別なお願いではなく、解釈・運用の考え方が示している請求の方法そのものです。
ローンが通らず解除したら、報酬は返還される
解釈・運用の考え方に明記されている
これは知られていない取扱いです。報酬返還請求の理由について、こう書かれています。
住宅ローンが通らず、いわゆるローン特約で契約を解除した場合、すでに払った仲介手数料は返還されるということです。
売買契約時に半分を払っている場合
実務では、売買契約時に仲介手数料の一部を払い、決済時に残りを払う形が使われます。この段階でローンが否決されて解除になったら、契約時に払った分が返ってくるという関係になります。
逆に言えば、解除になったのに返還の話が出てこない場合は、この記述を根拠に確認できます。約款に基づく契約かどうかは、媒介契約書のチェック欄で分かります。
手数料の上限そのものは告示が定めており、その計算手順は家を売って手元に残る金額で扱いました。
買い換えの場合の取扱いも示されている
続けて、買い換えのケースにも言及があります。
買い換えのための売却と購入の媒介を受ける業者は、依頼物件の売却が行われない場合の措置として、売却の媒介契約による売買契約の不成立が確定した際、購入の媒介契約による売買契約の成立により受領した約定報酬があるときは、その全額を依頼者に遅滞なく返還する旨の特約をし、書面化等することが望ましいとされています。
こちらは「望ましい」なので義務ではありません。だからこそ、買い換えをする場合は契約時にこの特約を入れてもらえるか確認する意味があります。
契約が切れた後の直接取引でも、報酬請求権が認められる
2年という期間
逆の方向の取扱いも押さえておきます。直接取引について、こう書かれています。
媒介契約が終わったあと、紹介された相手と直接取引をしても、2年以内なら報酬請求権が認められるという整理です。
「寄与した割合に応じた相当額」
全額ではありません。契約の成立に寄与した割合に応じた相当額とされています。どこまで寄与したかによって金額が決まる、という書き方です。
物件を紹介し、内見に同行し、条件交渉まで進めていたなら寄与は大きい。名前を伝えただけなら小さい。個別の事情で変わるため、一律の金額は示されていません。
いずれにせよ、「媒介契約が切れるのを待って直接交渉すれば手数料が浮く」という発想は、この取扱いの前では成り立ちません。
媒介契約の期間と、あわせて理解する
媒介契約の有効期間は専任・専属専任とも3か月が上限で、更新は依頼者の申出によります。期間が満了して更新しない選択はできますが、その後2年間はこの取扱いが及びます。
3か月という区切りは見直しのタイミングとして機能しますが、紹介を受けた相手との関係まで切れるわけではない、ということです。会社を変えるのと、相手と直接取引するのは別の話になります。
媒介契約の法的な仕組みは媒介契約3種類の選び方でまとめました。
依頼者に不利な特約は、約款では認められない
違約金の上限
特約についても、解釈・運用の考え方が線を引いています。
媒介契約の違約金は、約定報酬額が上限ということです。
さらに、違約金の性質についても記述があります。「違約金は、成約した場合に当該依頼者に請求し得る約定報酬額に相当する額であり、他の顧客からも報酬を受領できる見込みがあったとしても、その分を含めて請求することはできない」。両手になる見込みがあったから2倍、という請求はできません。
買取保証の特約は、条件つきで可
もう1つ、実務でよく出てくる特約についても言及があります。
一定の期間中に売却できなかったときは業者が媒介価額を下回る価額で買い取る旨の特約は、「売主が宅地建物取引業者に安く売ることを義務付けず、売主の希望があれば宅地建物取引業者が買い取るべきことを定めたのみであれば差し支えない」とされています。
ポイントは、売主に売る義務を負わせない形になっているかです。買取保証を提案されたら、契約書の文言がこの条件を満たしているかを確認してください。
更新は「あらかじめ約定する」ことができない
更新についても明記があります。「更新の申出は、有効期間満了の都度行われるべきもので、あらかじめ更新することを約定することは許されない」。また、「依頼者の申出はあっても、宅地建物取引業者が更新に同意しないときは契約は更新されない」とされています。
更新は毎回、満了のたびに依頼者が申し出るものです。契約時に「自動で更新する」と決めておくことはできません。
まとめ
仲介手数料の周辺で請求されるお金について、告示第十一は本文で全部を禁じ、ただし書きで「依頼者の依頼によって行う広告の料金に相当する額」だけを例外としています。
国土交通省の解釈・運用の考え方は、これを受けて「いわゆる案内料、申込料や依頼者の依頼によらずに行う広告の料金に相当する額の報酬を受領することはできない」と書きました。案内料と申込料は名指しです。
通常の広告、物件の調査、レインズへの登録にかかる費用は、業者の負担とされています。特別に依頼した広告や遠隔地への出張については請求できますが、あらかじめ見積りを説明してから実行するという手順があり、事前に依頼者の承諾があることが条件です。そして費用の請求は、成約の有無に関わらずできるとされています。
請求の方法にも定めがあります。「明細書を作成し、領収書等で金額を立証して請求するものとする」。概算での請求は、この文言に沿いません。
最後に、返ってくるお金の話です。ローンの不成立が確定し、これを理由として売買契約等を解除したときは、業者は受領した約定報酬額を返還しなければならないとされています。契約時に手数料の一部を払っていても、返ってくるということです。この一文を知っているかどうかで、ローン特約で解除になったときの動きが変わります。
よくある質問(FAQ)
物件を案内してもらったら「案内料」を請求されました
国土交通省の「宅地建物取引業法の解釈・運用の考え方」は、告示第十一関係の項で「告示第二から第十までの規定による報酬及び依頼者の依頼によって行う広告の料金に相当する額以外にいわゆる案内料、申込料や依頼者の依頼によらずに行う広告の料金に相当する額の報酬を受領することはできない」と明記しています。案内料は名指しされている費目です。なお、現地案内にかかる交通費は「履行に要した費用」の例示の中で販売活動に要する費用として整理されており、媒介契約を解除した場合などに明細書と領収書等で立証して請求されるものです。請求の名目と根拠を確認してください。
広告費を別途請求されました。払う必要がありますか
「依頼者の依頼によって行う広告」かどうかで変わります。告示第十一のただし書きが認めているのは、依頼者の依頼によって行う広告の料金に相当する額だけです。解釈・運用の考え方は「通常の広告、物件の調査等のための費用は、宅地建物取引業者の負担となる」としており、業者の判断で行った通常の広告は請求できません。また、特別に広告を依頼する場合について「あらかじめ、依頼者に標準媒介契約約款の定めに基づき請求する費用の見積りを説明してから実行すべきである」とされています。依頼した記憶がなく、事前の見積りの説明も受けていないなら、その点を確認してください。
住宅ローンが否決されて契約を解除しました。仲介手数料は戻りますか
解釈・運用の考え方は、報酬返還請求の理由について「ローンの不成立が確定し、これを理由として依頼者が売買契約等を解除したときも、宅地建物取引業者は、受領した約定報酬額を返還しなくてはならない」としています。売買契約時に手数料の一部を支払っている場合、その分が返還される関係になります。なお、これは標準媒介契約約款において、ローンが不成立の場合に購入者に売買契約等の解除権が留保されている例が多いことを踏まえた記述です。実際の契約でローン特約がどう定められているかは、売買契約書で確認してください。
媒介契約が切れてから、紹介された売主と直接契約してもいいですか
制度上は契約自体が禁じられているわけではありませんが、報酬の請求は受けます。解釈・運用の考え方は「媒介契約の有効期間終了後2年以内に、依頼者が宅地建物取引業者の紹介によって知った相手方と直接取引をした場合には、宅地建物取引業者は契約の成立に寄与した割合に応じた相当額の報酬請求権が認められるものである」としています。全額ではなく、寄与した割合に応じた相当額です。「契約が切れるのを待てば手数料が浮く」という発想は、この取扱いの前では成り立ちません。
媒介契約を途中で解除したら、費用を請求されますか
履行に要した費用を請求されることがあります。解釈・運用の考え方は、その請求方法について「現地調査に要する費用として、交通費、写真代、権利関係等調査に要する費用として、交通費、謄本代、販売活動に要する費用として、新聞・雑誌等の広告費、通信費、現地案内交通費、契約交渉に要する費用として、交通費(中略)として明細書を作成し、領収書等で金額を立証して請求するものとする」としています。概算での請求はこの文言に沿いません。明細書の提示を求めてください。なお、違約金については「約定報酬額を超える違約金を請求する旨の特約等、依頼者に不利な特約は標準媒介契約約款による契約としては認められない」とされています。
買取保証を提案されました。注意点はありますか
解釈・運用の考え方は、一定の期間中に売却できなかったときに業者が媒介価額を下回る価額で買い取る旨の特約について、「売主が宅地建物取引業者に安く売ることを義務付けず、売主の希望があれば宅地建物取引業者が買い取るべきことを定めたのみであれば差し支えない」としています。つまり、売主に売る義務を負わせない形になっているかが分かれ目です。契約書の文言が、売主の希望があれば業者が買い取る、という構成になっているかを確認してください。義務として書かれている場合は、その点を指摘して修正を求める材料になります。
告示と解釈は、国土交通省が公開しています
報酬の上限は昭和45年建設省告示第1552号に、案内料・申込料の扱いや費用の請求方法は「宅地建物取引業法の解釈・運用の考え方」に書かれています。手数料以外の請求を受けたら、この2つで根拠を確認できます。
本記事は一般的な情報提供を目的としています。個別の契約内容の判断は、宅地建物取引士または弁護士にご相談ください。