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転職しなかった後悔と、転職した後悔はどちらが重いか|データで見る「残る」判断

窓の外が見えるオフィスの席。現職に残るか動くかを考えている状態のイメージ

転職するか迷った末に、今回は動かないことにした。あるいは、動けないまま時間が過ぎている。そのとき頭をよぎるのは「あのとき動いていれば」という将来の後悔です。転職しなかった後悔のほうが重い、という話もよく聞きます。

ですが、この比較には前提の誤りが含まれています。転職を「不満が解消される装置」だと考えている点です。実際には、転職した人のうち半数近くが、転職後もまた動く可能性を抱えています。

この記事では、転職した人が転職後に何を考えているかを公的統計で確認したうえで、2つの後悔の性質の違い、残ると決める前の確認事項、そして残ると決めたあとに何をするかまでを解説します。転職を止める記事ではありません。残るという選択を、我慢ではなく決断にするための記事です。

転職した人の半数近くが、また動く可能性を抱えている

転職後の「今後の転職希望」

厚生労働省の「令和2年転職者実態調査」は、実際に転職した人に「今後の転職希望」を聞いています。結果は次のとおりです。

転職した人の「今後の転職希望」 厚生労働省 令和2年転職者実態調査 今の職場で今後も働きたい 52.7 わからない 24.9 機会があれば転職したい 21.0 転職したのに、45.9%が 「ここが終点」と思えていない 転職は不満が消える装置ではなく、 環境を1回入れ替える手段にすぎない (前回調査では「今後も働きたい」は56.0%)

「今の職場で今後も働きたい」が52.7%、「わからない」が24.9%、「機会があれば転職したい」が21.0%です。転職を実行した人であっても、45.9%は「ここが終点」と思えていないということになります。

この数字が意味すること

この数字は、転職を否定するものではありません。示しているのは、転職が「不満が消える装置」ではないという一点です。環境を1回入れ替える手段であって、入れ替えた先でまた別の課題が出るのは普通のことです。

ここを誤解したまま「転職しなかった後悔」を恐れると、判断が歪みます。動かなかったことを悔やむとき、人は「動いていれば全部解決していた」という前提を無意識に置きます。実際には、動いた人の半数近くがまだ探しているのですから、その前提は成り立ちません。

年代別に見ると20代前半は少し違う

同じ調査を年齢階級別に見ると、「機会があれば転職したい」の割合は15〜19歳で37.5%と突出して高く、30〜34歳で25.7%、40〜44歳で25.6%、50〜54歳で25.5%となっています。若い層ほど、次を視野に入れながら働いている傾向が読み取れます。

これは20代にとって、今回の選択が最後の選択ではないことを意味します。今回残ったとしても、次の機会は来ます。1回の判断に人生全体を賭ける必要はありません。

2つの後悔は、性質がまったく違う

転職した後悔は「検証できる」

転職して後悔した場合、何が期待と違ったのかを具体的に言えます。任される業務が想定と違った、人間関係が合わなかった、条件の説明が実態と違った。事実として確認できるので、次の判断材料になります。

この後悔は痛みを伴いますが、学習に変換できます。「配属先が確定しているかを確認する」「固定残業代の実態を聞く」といった、次回の具体的な確認項目に落とせるからです。

転職しなかった後悔は「検証できない」

一方、動かなかったことへの後悔は、比較対象が存在しません。行かなかった会社での自分は観測できないので、「あちらが良かったはずだ」という想像と比べ続けることになります。想像上の選択肢は、時間が経つほど良く見えます。今の不満が増えるたびに、行かなかった道が理想化されていきます。

この非対称があるため、「転職しなかった後悔のほうが重い」と語られやすくなります。ですがそれは、比較できないものを比較しているだけです。重さの違いではなく、検証できるかどうかの違いだと理解してください。

だから「残る」を決断の形にする必要がある

検証できない後悔を減らす方法は1つです。残ることを「決めなかった結果」ではなく「決めた結果」にすること。何を基準に、いつまで残ると決めたのかが言えれば、それは選択した状態です。選択したことへの後悔は、転職した後悔と同じように検証でき、次に活かせます。

逆に、決めないまま日が過ぎた場合、後で振り返っても何も残りません。迷いの整理そのものは転職するか迷うのは情報不足ではないで扱っています。

残ると決める前に確認する3つ

1:自分の市場価値を、一度は外から見ておく

残ると決める前に、外の評価を1回だけ確認してください。応募する必要はありません。求人サイトで同じ職種の募集要件と提示額を見る、エージェントの面談で相場を聞く。この2つで足ります。

これをやる理由は、残る判断の根拠を「知らないから」にしないためです。外を見たうえで残るのと、見ないまま残るのとでは、後の納得度がまったく違います。外の情報の取り方は転職エージェントに「迷っている」と相談していいのかで扱っています。

2:不満のうち、現職で変えられるものを特定する

不満を書き出し、それぞれを「現職で変えられるか」で仕分けます。業務配分、担当領域、働き方の制度、評価面談の頻度。これらは交渉や申請で変わる余地があります。一方、会社の事業構造、意思決定の速度、業界そのものの将来性は、個人では動かせません。

変えられるものが多いなら、残って作り変える価値があります。変えられないものが不満の中心なら、残っても状況は改善しません。この仕分けが、残るか動くかの実質的な判断になります。

3:残った場合の3年後を、具体的に書く

3つ目は、残った場合に3年後どうなっているかを書くことです。任される業務、身についている経験、想定される年収。書けない場合、それは会社が先を示していないか、自分が聞いていないかのどちらかです。

聞いていないなら、上司に聞いてください。「3年後にどういう仕事を任せたいと考えていますか」。この質問は転職の意思表示にはなりません。むしろ意欲の表明として受け取られます。返ってきた答えが具体的なら残る根拠になり、曖昧なら動く根拠になります。どちらに転んでも判断材料が増えます。

残ると決めたあとにやる「現職の作り変え」4手

1:担当の範囲を、自分から動かす

残ると決めたなら、同じ状態のまま続けても不満は変わりません。最初にやるのは、担当業務の範囲を自分から動かすことです。今の業務に隣接していて、誰もやっていない領域を1つ見つけて手を挙げる。

大きな異動を狙う必要はありません。週に2時間だけ別の仕事をする、という規模で十分です。この2時間が、1年後の職務経歴書に1行増やします。転職する場合も、残る場合も、この1行は同じ価値を持ちます。

2:評価の基準を、書面で確認する

評価への不満がある場合、基準を文書で確認する依頼を出してください。「次の評価で見られる項目を、具体的に教えていただけますか」。多くの会社には評価シートや等級定義があり、依頼すれば開示されます。

開示されたら、そこに書かれている項目に沿って働きます。基準を知らずに頑張るのと、知って狙うのとでは、同じ労力でも結果が変わります。開示を断られた場合、それ自体が「この会社では評価が構造的に読めない」という情報になり、次の判断に使えます。

3:社外に評価の軸をもう1本持つ

社内の評価だけに依存していると、評価が下がったときに逃げ場がなくなります。社外に軸をもう1本作ってください。業界の勉強会に参加する、資格の勉強を始める、副業で小さく仕事を受ける。

目的は収入でも転職準備でもありません。自分の市場での立ち位置を、社内の評価とは別に測れる状態にすることです。この軸があると、社内の評価に一喜一憂しなくなり、判断が落ち着きます。

4:辞めたい理由を、記録に残しておく

残ると決めた時点で、何が不満だったかを日付付きで記録しておいてください。半年後に見直したとき、その不満が消えているか、残っているか、増えているかが分かります。

記憶だけに頼ると、その時々の気分に引きずられます。記録があると、「本当に改善したのか」を事実で判断できます。これは次の見直しのときに、最も効く材料になります。

4手を1枚にまとめると

4つの手は、どれも今週から着手できる規模にしてあります。所要時間と、半年後に何が残るかを並べると次のようになります。

やること 最初の一手 半年後に残るもの
担当範囲を動かす 隣接する未着手の領域を1つ挙げ、週2時間だけと提案する 職務経歴書に書ける1行(動いても残っても同じ価値)
評価基準を確認する 次の評価で見られる項目を具体的に聞く 狙って動ける状態(非開示なら判断材料)
社外の軸を持つ 勉強会に1回申し込む、資格に申し込む 社内評価に依存しない立ち位置
不満を記録する 今日の日付で不満を3つ書く 半年後に改善を事実で判断できる

4つのうち、最も効くのは4つ目の記録です。半年後の自分は、今日の不満の強さを正確には覚えていません。記録がないと「なんとなく慣れた」のか「本当に改善した」のかを区別できず、次の判断も曖昧になります。所要時間は5分です。

残る判断には、必ず期限をつける

「当面残る」は決断ではない

残ると決めるときに最も重要なのが、期限を置くことです。期限のない「当面残る」は、決断ではなく保留です。保留は何も生まないまま時間だけを消費します。

目安は半年です。「半年後の◯月◯日に、同じ判断表をもう一度埋めて決め直す」と決めてカレンダーに入れてください。この日付があるだけで、それまでの半年は迷いから解放されます。途中で気持ちが揺れても、「見直し日に判断する」と処理できます。

見直し日に見るのは3項目だけ

見直しの日には、次の3つだけを確認します。1つ目、記録しておいた不満は減ったか。2つ目、前章の「作り変え4手」で何が実際に動いたか。3つ目、3年後の姿が、半年前より具体的に書けるようになったか。

3つとも改善していれば、残る判断は正しかったということです。3つとも変わっていないなら、残る根拠は半年前より弱くなっています。1つか2つだけ改善している場合は、もう半年延ばすか、動くかを、その時点で改めて決めてください。

期限を置くと、現職での動きも変わる

期限を置く効果は、判断だけではありません。「半年で変えられるところまで変える」と決めると、現職での動き方が変わります。遠慮していた依頼を出す、聞けていなかったことを聞く。期限があるほうが行動は具体的になります。

期限がないと、人は「いつか状況が変わるかもしれない」と待ちます。待っている間は、依頼も質問も先送りになります。半年という区切りがあると、「残り3か月で結果を見たいから、今週中に相談する」という形で、行動の締切が自動的に決まります。

この効果があるため、期限は長すぎないほうがよいと考えてください。1年以上先に置くと、途中で忘れます。半年は、現職で1つか2つの変化を試して結果を見るのにちょうどよい長さです。逆に3か月では、異動希望や評価面談の結果が出ないことが多く、判断材料が揃いません。

それでも動くべき3つのサイン

1:心身に影響が出ている

眠れない、休日に回復しない、週明けが来るのが怖い。この状態が続いているなら、残るか動くかを比べている段階ではありません。環境から距離を取ることを優先してください。転職に限らず、休職や異動も選択肢に入ります。

判断力そのものが落ちている状態で重要な決断をすると、次の選択も誤りやすくなります。順番は、まず距離を取る、回復してから決めるです。

2:不満の中心が、個人では動かせない構造にある

事業が縮小している、意思決定の仕組み自体が変わらない、業界全体が構造的に縮んでいる。こうした場合、個人の努力で状況は変わりません。残って作り変えられる範囲を超えています。

見分け方は、その不満を解決するために「誰が何を決めればいいか」を書けるかどうかです。書けて、働きかける手段があるなら、まだ変えられます。書けないか、書けても手段がないなら、構造の問題です。

3:見直し日を2回続けて先送りした

半年の期限を置いたのに、見直し日に判断せず、また「当面残る」にした。それが2回続いたら、それは残るという選択ではなく、決めることを避けている状態です。

このとき起きているのは、多くの場合「決めるのが怖い」であって、情報不足ではありません。2回先送りしたら、3回目は期限を切って必ず決めるとあらかじめ決めておいてください。

残ってよいサインと、動くべきサインの対比

3つのサインは、裏返すとそのまま「残ってよいサイン」になります。自分がどちら側にいるかを確認してください。

観点 残ってよいサイン 動くべきサイン
心身の状態 休日に回復する。週明けに普通に出社できる 眠れない、休日に回復しない、週明けが怖い
不満の性質 業務配分・担当領域・働き方など、交渉で動く 事業構造・意思決定の仕組み・業界の縮小
誰が決めれば変わるか 書けて、働きかける手段がある 書けない、または書けても届く手段がない
3年後の姿 上司に聞いて、具体的な答えが返ってきた 聞いても曖昧、聞ける相手がいない
見直しの履歴 前回の見直しで何かが動いた 見直し日を2回続けて先送りした

5つの観点のうち、「心身の状態」だけは他の4つと重みが違います。ここが動くべき側にあるなら、他の4つがどうであれ、まず距離を取ることを優先してください。残りの4つは、2つ以上が動くべき側に寄ったら、次の見直しを待たずに判断を早めてよい目安です。

「逃げ」かどうかを気にしなくていい理由

採用する側は「逃げ」という見方をしない

転職を考えるとき、「これは逃げではないか」と自問する人は多いものです。ですが採用する側から見ると、この問いにはあまり意味がありません。見ているのは、その人が自分の状況を説明できるか、そこから何を学んだかだけです。

環境を変えた理由が「合わなかったから」であっても、何が合わなかったかを具体的に言え、次に同じことを避けるために何を確認しているかが言えれば、それは判断ができる人として評価されます。理由の勇ましさは見ていません。

残ることも「逃げ」ではない

逆も同じです。動かないことを「決断力がない」と自分を責める必要もありません。外を見たうえで、変えられる範囲を特定して、期限を決めて残る。これは立派な選択です。

問題があるのは、残ることでも動くことでもなく、決めないまま時間が過ぎることだけです。どちらを選んでも、基準を言葉にして決めたなら、それは納得した決断になります。

まとめ

  • 転職した人の「今後の転職希望」は、今の職場で働きたい52.7%、わからない24.9%、機会があれば転職したい21.0%(厚生労働省 令和2年転職者実態調査)。転職した人でも45.9%は「ここが終点」と思えていない
  • 転職は不満が消える装置ではなく、環境を1回入れ替える手段。この前提を誤ると「動いていれば全部解決した」という成り立たない比較をしてしまう
  • 転職した後悔は検証できて次に活かせる。転職しなかった後悔は比較対象がなく、時間が経つほど理想化される。重さの違いではなく検証できるかの違い
  • 残ると決める前に3つ確認する。外から見た市場価値、現職で変えられる不満の特定、残った場合の3年後を具体的に書けるか
  • 残ると決めたら現職を作り変える。担当範囲を週2時間だけ動かす、評価基準を書面で確認する、社外に評価軸をもう1本持つ、辞めたい理由を日付付きで記録する
  • 残る判断には必ず期限をつける。目安は半年。見直し日に「不満は減ったか」「4手のうち何が動いたか」「3年後を前より具体的に書けるか」の3つだけを確認する
  • 動くべきサインは3つ。心身に影響が出ている、不満の中心が個人では動かせない構造にある、見直し日を2回続けて先送りした
  • 「逃げ」かどうかは考えなくていい。採用する側が見ているのは、状況を説明できるかと、そこから何を学んだかだけ

よくある質問(FAQ)

転職しなかった後悔のほうが大きい、と聞きます。本当ですか。

重さが違うのではなく、性質が違います。転職した後悔は何が違ったかを事実で言えるので次に活かせます。転職しなかった後悔は比較対象が存在せず、行かなかった道が時間とともに理想化されます。検証できないぶん消えにくいだけで、動けば解決したという前提自体は、統計上も成り立ちません。転職した人の45.9%が、転職後もまた動く可能性を抱えています。

残ると決めましたが、本当にこれでよかったのか不安です。

不安が残るのは、期限を決めていないからである可能性が高いです。「半年後の特定の日に、同じ判断表をもう一度埋めて決め直す」と決めてカレンダーに入れてください。日付があると、それまでの半年は迷いから解放され、途中で気持ちが揺れても「見直し日に判断する」と処理できます。

残る場合、具体的に何をすればいいですか。

4つあります。担当業務に隣接する領域を1つ見つけて週2時間だけ手を挙げる。評価基準を書面で確認する。社外に評価の軸をもう1本作る(勉強会・資格・小さな副業)。そして辞めたい理由を日付付きで記録しておく。最後の1つは半年後の見直しで最も効きます。同じ状態のまま続けると、不満は変わりません。

上司に「3年後にどんな仕事を任せたいか」と聞くのは、転職を疑われませんか。

疑われることはほとんどありません。多くの場合、意欲の表明として受け取られます。この質問の価値は、答えが具体的なら残る根拠になり、曖昧なら動く根拠になる点にあります。どちらに転んでも判断材料が増えるので、聞かない理由がありません。

不満はありますが、転職するほどではない気がします。

その場合は、不満を「現職で変えられるもの」と「個人では動かせないもの」に仕分けてください。変えられるものが多いなら、残って作り変える価値があります。変えられないもの(事業構造・意思決定の仕組み・業界の縮小)が中心なら、残っても改善しません。見分け方は、その不満について「誰が何を決めればいいか」を書けるかどうかです。

残ることを選ぶのは、逃げではないでしょうか。

逃げではありません。外の情報を見たうえで、変えられる範囲を特定し、期限を決めて残るなら、それは選択です。問題があるのは、残ることでも動くことでもなく、決めないまま時間が過ぎることだけです。採用する側も「逃げかどうか」は見ておらず、状況を説明できるかと、そこから何を学んだかだけを見ています。

転職は、人生の経営判断です

残るという選択も、決めたのであれば同じ重さの決断です。違いは、期限と基準を言葉にしたかどうかだけ。まずは半年後の見直し日をカレンダーに入れて、今の不満を日付付きで書き残してください。

出典:厚生労働省「令和2年転職者実態調査の概況」(表23)

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