
転職しようか迷っている段階で、転職エージェントに登録していいのか。登録したら急かされるのではないか。まだ決めていないのに面談を受けるのは失礼ではないか。そう考えて、登録を先延ばしにしている人は多いはずです。
結論から言えば、迷っている段階で登録して構いません。ただしエージェントに聞いてよい質問と、聞いても正確な答えが返りにくい質問があります。その線引きは、エージェントがどういう仕組みで成り立っているかを理解すると、はっきりします。
この記事では、企業がどの経路で人を募集しているかを公的統計で確認したうえで、エージェントの収益構造、聞くべきこと、そしてエージェント以外の経路との組み合わせ方を解説します。エージェントを否定する記事ではありません。使いどころを正確にするための記事です。
エージェントで募集している企業は、4社に1社
企業側から見た募集方法の内訳
まず事実確認から始めます。厚生労働省の「令和2年転職者実態調査」は、転職者を採用した事業所に「どの方法で募集したか」を聞いています。結果は次のとおりです。
| 転職者の募集方法(複数回答) | 事業所の割合 |
|---|---|
| ハローワーク等の公的機関 | 57.3% |
| 求人サイト・求人情報専門誌、新聞、チラシ等 | 43.2% |
| 縁故(知人、友人等) | 27.6% |
| 自社のウェブサイト | 26.6% |
| 民間の職業紹介機関(転職エージェント等) | 24.8% |
| スカウト | 7.2% |
| 親会社、グループ会社 | 7.0% |
| 会社説明会(合同説明会を含む) | 4.6% |
エージェントを含む「民間の職業紹介機関」で募集している事業所は24.8%です。およそ4社に1社。つまりエージェントだけを使っていると、残りの4分の3の企業が視界に入りません。
この図で確認してほしいのは、順位ではなく使う経路の数です。上位5つの経路はどれも2割を超えており、1つに絞る合理性がありません。経路ごとに出てくる企業が違うため、複数を並行して見るのが前提になります。
なぜ「非公開求人が多い」と感じるのか
エージェントのサイトを見ると「非公開求人◯万件」と書かれていて、そこにしかない求人が大量にあるように感じます。実際、エージェント経由でしか出てこない求人はあります。ただしそれは「エージェントを使う24.8%の企業の中での話」です。
この構造を理解しておくと、登録すべきかどうかで迷う必要がなくなります。答えは「登録はする。ただしそれだけにしない」です。24.8%を捨てる理由はありませんが、そこだけを見る理由もありません。
事業所規模で傾向が変わる
同じ調査では、事業所規模が大きいほど「民間の職業紹介機関」「求人サイト」「自社のウェブサイト」を使う割合が高くなる傾向が示されています。逆に言えば、規模の小さい会社ほど、公的機関や縁故での募集に寄るということです。
ここは希望する会社の規模によって、使う経路を変えるべきだという話につながります。大手志向ならエージェントと求人サイトの比重を上げる。中小企業や地域の会社を見たいなら、公的機関と自社サイトを直接見に行く必要があります。
エージェントの収益構造と、そこから読めること
報酬は「採用が決まったとき」に企業から入る
転職エージェント(有料職業紹介事業者)は、求職者からは原則として料金を取りません。報酬は、紹介した人の採用が決まったときに、企業側から支払われる成功報酬です。この仕組みが、エージェントの行動をほぼ決めています。
ここから読めることは3つあります。1つ目、あなたが転職しなければ、エージェントには収益が発生しません。2つ目、決まるまでは無料で相談に乗れます。3つ目、成約の可能性が高い人ほど、時間を割いてもらえます。これは善悪の話ではなく、成功報酬という形式が必然的に生む性質です。
だから「転職すべきか」は聞かない
この構造を踏まえると、聞いてはいけない質問がはっきりします。「自分は転職すべきでしょうか」です。転職しないという結論は、相手の収益がゼロになる結論なので、公平な答えを期待するのが酷です。
誠実な担当者なら「今は動かないほうがいい」と言うこともありますし、実際にそう言う人もいます。ですが、それを期待して判断を委ねるのは設計として間違っています。判断は自分で持ち、エージェントには判断材料を求める。これが正しい使い方です。迷いの整理そのものは転職するか迷うのは情報不足ではないで扱っています。
紹介される求人が偏るのも構造による
紹介される求人が、自分の希望とずれていると感じることがあります。これも多くは担当者の怠慢ではなく構造によるものです。エージェントは、決まりやすい組み合わせを優先します。あなたの経歴で通過率が高く、かつ企業側が急いでいる求人が、先に出てきます。
だから希望を抽象的に伝えると、通過率の高い求人ばかりが来ます。「成長できる環境」ではなく「入社後6か月以内に企画の起案を任される規模の組織」のように、具体的な条件で伝えると、紹介の精度が上がります。条件を絞ると紹介数は減りますが、それは正常な反応です。
「迷っている」と言っていいのか
言っていい。ただし言い方で結果が変わる
迷っている段階で登録してよいか、という問いへの答えは「よい」です。ただし伝え方で、その後の対応が変わります。「まだ転職するか決めていません」とだけ伝えると、成約の見込みが低い人と判断され、優先度が下がることがあります。
そうではなく、「何が分かれば決められるか」を伝えてください。「現職に残るか迷っているので、まず自分の経歴が市場でどう評価されるかを知りたい」「3か月以内に判断したい」。期限と、必要な情報が示されていれば、相手は時間を割く理由を持てます。
初回面談で確認しておくと後が楽なこと
初回の面談では、こちらからも確認しておくことがあります。次の3つは、聞いておくと後の進め方が変わります。
- 担当者の得意領域(どの業界・職種の支援が多いか。自分の希望と合っているか)
- 連絡の頻度と手段(電話が多いのか、メールでよいのか。在職中は特に重要)
- 応募の進め方(こちらの同意なしに応募が進むことはないか。書類を出す前に必ず確認があるか)
3つ目は特に確認してください。まれに、同意の範囲が曖昧なまま複数社に書類が出ていることがあります。応募状況は自分で管理できる状態にしておくのが原則です。
「今すぐ決めてください」と言われたら
内定後に極端に短い回答期限を提示され、急かされていると感じることがあります。このとき確認すべきなのは、その期限が企業側の事情なのか、エージェント側の事情なのかです。
「企業側は何日まで待てるとおっしゃっていますか」と、事実として聞いてください。企業側の期限であれば、その日程で調整するか、こちらから延長を相談できます。承諾期限の延ばし方は内定が2つ出て決められないで扱っています。
エージェントに聞くべきこと・聞いてはいけないこと
聞くべきなのは「事実」
エージェントが持っている価値は、個人では集めにくい事実です。次のような情報は、聞く相手として最適です。
| 聞くべきこと(事実) | なぜエージェントに聞くのが適しているか |
|---|---|
| 同じ経歴の人が、どの職種でいくらの提示を受けているか | 複数の成約事例を持っているため、相場観が具体的 |
| その企業が過去に採用した人の前職 | 紹介実績があれば、どういう人が通ったかを知っている |
| 選考で落ちた場合の理由 | 企業から直接フィードバックを受け取れる立場にある |
| その企業の選考フローと所要期間 | 直近の実績から具体的に答えられる |
| 提示条件の交渉余地があるか | 過去の交渉事例を持っている |
共通しているのは、どれも「検証できる事実」だという点です。エージェントの価値はここに集中しています。
聞いても正確な答えが返りにくいこと
一方、次の質問は、相手の立場上、公平な答えが返りにくいものです。
| 聞いても偏りやすいこと | 代わりに聞くとよいこと |
|---|---|
| 自分は転職すべきでしょうか | 私の経歴だと、どの職種でいくらの提示が出ていますか |
| 今の会社に残るのと、どちらがいいですか | この求人に決めた方は、前職で何が課題だったと言っていましたか |
| この会社の社風はいいですか | 過去に紹介された方で、入社後1年以内に辞めた方はいますか |
| 急いだほうがいいですか | この求人の募集はいつまでで、現在何名が選考中ですか |
右列に共通するのは、答えが事実になる形に質問を作り替えていることです。意見を求めると立場が入りますが、事実を求めれば立場は入りにくくなります。
担当者が合わないと感じたとき
担当者は変更を依頼できる
希望と違う求人ばかり紹介される、連絡が取りづらい、話が噛み合わない。こうした場合、担当者の変更を依頼できます。多くのエージェントには変更の窓口があり、問い合わせフォームや代表連絡先から依頼できます。
変更を頼むのは失礼ではありません。合わない担当者と進めるほうが、双方にとって時間の損失です。依頼するときは、感情ではなく事実で伝えてください。「希望した職種と異なる求人の紹介が続いているため」「連絡手段をメール希望とお伝えしたが、電話でのご連絡が続いているため」。
使う会社は2社から始める
複数のエージェントに登録する場合、最初から5社も6社も登録すると、同じ求人に別々のエージェント経由で応募してしまう事故が起きます。2社で始めて、足りないと感じたら3社目を足すのが扱いやすい数です。
2社にする理由は、比較ができるからです。同じ経歴を見せて、提示される求人や相場観が大きく違うなら、その差自体が情報になります。1社だけだと、その担当者の見立てが唯一の基準になってしまいます。
応募先は必ず自分で管理する
複数社を使う場合、どの求人にどの経路で応募したかを自分で記録してください。表計算ソフトでもメモでも構いません。会社名・応募日・経路・選考状況の4項目があれば足ります。
同じ企業に2つの経路から応募すると、企業側で重複が発覚し、心証を損ねます。この管理はエージェント側ではなく、応募する側の責任範囲です。3社以上を使うなら、記録は必須と考えてください。
エージェント以外の4つの経路
1:公的機関(57.3%が利用)
募集方法で最も多いのが、ハローワーク等の公的機関です。57.3%の事業所が使っています。手数料が発生しないため、規模の小さい会社ほど比重が高くなります。地域の会社を探す場合、ここを見ないと選択肢が大きく欠けます。
ハローワークインターネットサービスは、窓口に行かなくても求人検索ができます。地域と職種で絞って、どういう会社が出てくるかを見るだけでも、その地域の相場観がつかめます。使わない理由がない経路です。
2:求人サイト(43.2%が利用)
2番目に多いのが求人サイトです。エージェントと違って自分で応募するため、進め方を自分で決められます。書類の準備や日程調整を自分でやる手間はありますが、応募ペースを自分で管理したい人には向いています。
エージェント経由と求人サイト経由では、同じ企業でも募集している職種が違うことがあります。両方を見ると、その企業が今どこを強化しているかが見えます。
3:企業の採用ページ(26.6%が利用)
自社のウェブサイトで募集している事業所は26.6%です。気になる企業がある場合、直接その企業の採用ページを見る価値があります。特に、エージェントに手数料を払わずに採りたい企業は、自社サイトのみで募集していることがあります。
直接応募には、企業側に紹介手数料が発生しないという副次的な効果もあります。条件交渉の場面で、これが有利に働く可能性はゼロではありません。本命の企業が決まっているなら、採用ページの確認は必須です。
4:縁故(27.6%が利用)
知人・友人を通じた採用は27.6%で、実はエージェントより多い経路です。声をかけてもらうのを待つのではなく、自分から「転職を考えている」と伝えておくだけで、この経路は開きます。
在職中で周囲に知られたくない場合は、社外の知人に限って伝えれば足ります。前職の同僚、学生時代の友人、取引先で親しくなった人。この経路は求人票に出ないので、条件が柔軟に決まることもあります。
経路の組み合わせ方
迷っている段階は「情報を取る2経路」から
まだ転職するか決めていない段階では、応募を伴わない経路から始めるのが合理的です。具体的には、エージェント1社の面談(自分の市場価値を聞く)と、求人サイトでの検索(相場と求人の中身を見る)の2つです。
この2つは、どちらも応募せずに情報だけを得られます。面談を受けたからといって応募する義務はありません。ここで得た情報を持ち帰って、転職するかどうかを自分で判断する。順番としてはこれが正しくなります。
転職すると決めたあとは4経路を並行する
決めたあとは、エージェント2社・求人サイト・公的機関・企業の採用ページを並行して見ます。経路によって出てくる求人が違うので、1つに絞る合理性がありません。ただし前述のとおり、応募先の管理は自分で行ってください。
希望する会社の規模によって比重を変えます。大手中心ならエージェントと求人サイト。中小や地域の会社を見たいなら公的機関と自社サイトの比重を上げる。経路の選択は、会社の規模の選択とほぼ同じことだと考えてください。
まとめ
- 転職者を募集した事業所のうち、民間の職業紹介機関(エージェント等)を使ったのは24.8%。ハローワーク等の公的機関が57.3%、求人サイトが43.2%、縁故が27.6%、自社サイトが26.6%(厚生労働省 令和2年転職者実態調査)
- エージェントだけを使うと、4分の3の企業が視界に入らない。登録はするが、それだけにしない
- エージェントの報酬は採用が決まったときに企業から入る成功報酬。だから「転職すべきか」は聞かない。判断は自分で持ち、判断材料を求める
- 迷っている段階の登録は問題ない。「何が分かれば決められるか」と期限を伝えると、対応が変わる
- 聞くべきは検証できる事実(相場・過去の採用実績・選考フロー・交渉余地)。意見ではなく事実の形に質問を作り替える
- 担当者の変更は依頼できる。使うのは2社から始め、足りなければ3社目。応募先の管理は自分の責任範囲
- 迷っている段階は「エージェント面談+求人サイト検索」の2経路で情報だけ取る。決めたあとは4経路を並行する
- 規模の小さい会社ほど公的機関と縁故に寄る。経路の選択は、会社の規模の選択とほぼ同じ
よくある質問(FAQ)
まだ転職するか決めていませんが、エージェントに登録してもいいですか。
登録して構いません。面談を受けたからといって応募する義務はありません。ただし「まだ決めていません」とだけ伝えると優先度が下がることがあるので、「何が分かれば決められるか」と期限を添えてください。「自分の経歴が市場でどう評価されるかを知りたい」「3か月以内に判断したい」と言えば、相手も時間を割く理由を持てます。
エージェントに「転職しないほうがいい」と言ってもらえますか。
そう言う担当者は実際にいますが、期待して判断を委ねるのは避けてください。エージェントの報酬は採用が決まったときに企業から入る成功報酬なので、転職しないという結論は相手の収益がゼロになる結論です。判断は自分で持ち、エージェントには「相場」「過去の採用実績」といった検証できる事実を求めてください。
希望と違う求人ばかり紹介されます。担当者を変えるべきですか。
まず希望の伝え方を具体化してください。「成長できる環境」のような抽象的な条件だと、通過率の高い求人が優先的に出てきます。「入社後6か月以内に企画の起案を任される規模の組織」のように具体化すると精度が上がります。それでも変わらない場合は、担当者の変更を依頼できます。感情ではなく「希望した職種と異なる紹介が続いている」という事実で伝えてください。
エージェントには何社登録するのがいいですか。
2社から始めて、足りないと感じたら3社目を足すのが扱いやすい数です。2社にする理由は比較ができるからで、同じ経歴に対する提示や相場観の差自体が情報になります。多く登録しすぎると、同じ求人に別経路で応募してしまう事故が起きます。3社以上使うなら、会社名・応募日・経路・選考状況の記録は必須です。
ハローワークは求人の質が低いイメージがあります。
募集方法として最も多く使われている経路で、転職者を採用した事業所の57.3%が利用しています。手数料が発生しないため、規模の小さい会社ほど比重が高くなります。地域の会社や中小企業を見たい場合、ここを外すと選択肢が大きく欠けます。窓口に行かなくてもインターネットで検索できるので、地域と職種で絞って相場観を見るだけでも使う価値があります。
本命の企業がある場合、エージェント経由と直接応募のどちらがいいですか。
まずその企業の採用ページを確認してください。自社サイトのみで募集している場合、エージェント経由の求人自体が存在しません。両方に出ている場合、直接応募には企業側に紹介手数料が発生しないという違いがあります。一方、エージェント経由では選考フローや過去の採用実績といった情報を得られます。本命1社だけなら直接、複数社を並行するならエージェントも使う、という使い分けが現実的です。
転職は、人生の経営判断です
エージェントは判断を代わりにしてくれる相手ではなく、自分では集めにくい事実を持っている相手です。聞く内容を「意見」から「事実」に変えるだけで、同じ面談から得られるものが変わります。
出典:厚生労働省「令和2年転職者実態調査の概況」(表5)