
転職エージェントに登録したが、1社だけで足りているのか分からない。複数登録すると失礼になる気もするし、同じ求人を勧められたときにどうなるのかも分からない。
結論から書きます。複数登録は前提です。ただし増やす目的は求人数ではなく、見えていない求人の存在を潰すことです。公的な調査を見ると、そもそもエージェント経由は市場の一部でしかありません。
この記事では、複数登録が必要になる構造、適正な社数、重複応募のリスク、担当者への伝え方、管理の方法、合わない担当者の見分け方までを扱います。エージェントとの距離の取り方は転職エージェントに「迷っている」と相談していいのかで扱っています。
複数登録が必要な理由は、求人の分布にある
企業側の採用経路
事業所が転職者を募集した方法を見ると、ハローワーク等57.3%、求人サイト43.2%、縁故27.6%、自社サイト26.6%、民間の職業紹介機関24.8%、スカウト7.2%です(厚生労働省 令和2年転職者実態調査 表5・複数回答)。
つまり、エージェント経由で募集している事業所は4社に1社程度です。1社のエージェントに絞ると、その1社が扱う範囲の中の、さらに一部しか見えません。複数登録の目的は、この見落としを減らすことです。
応募者側の使っている手段
一方、転職した人が実際に使った手段は、求人サイト等39.4%、ハローワーク等34.3%、縁故26.8%、企業HP15.1%、民間の職業紹介機関14.8%です(同調査 表17)。
企業側24.8%に対して個人側14.8%という差があります。エージェント経由の求人が存在しているのに、応募者側が使っていない部分があるということです。逆に言えば、エージェントだけに絞るのも取りこぼしになります。
「1社で足りる」が成立する条件
1社で足りる場合もあります。特定の職種・業界に特化したエージェントで、自分の経歴がその領域に収まっているときです。領域が一致していれば、社数より担当者の精度が効きます。
逆に、職種を変える、業界を変える、地域が限定されるといった条件があるときは、1社では届きません。領域を跨ぐほど、複数登録の効果が上がります。異業種への移り方は異業種転職の職務経歴書で扱っています。
何社が適正か
役割で分けて2〜3社
目安は2〜3社です。社数を増やすと求人は増えますが、面談と連絡の負荷が線形に増えます。在職中に活動する場合、4社以上は日程調整だけで時間が消えます。
初回面談は1社あたり1時間から1時間半かかります。加えて、紹介への回答、書類の修正、面接日程の調整が各社で発生します。3社で週2〜3時間、4社なら4時間近くが管理だけに消えます。この時間は、書類の質を上げる時間から削られます。
登録の順番も決めておくと楽です。総合型を先に1社入れて相場と自分の位置を把握し、その結果を持って特化型に行く。先に相場を知っておくと、特化型での話が具体的になります。
増やす前に担当者を変えてもらう
紹介が合わないとき、社数を増やすより担当者の変更を依頼するほうが効くことがあります。同じ会社でも、担当者によって扱う求人と説明の精度が変わります。変更は電話やフォームから依頼できます。
依頼の理由は具体的に伝えます。「希望と異なる職種の紹介が続いているため」といった形です。抽象的な不満より、事実で伝えたほうが適切な担当者に替わります。
求人サイトとの併用が前提
エージェントだけで完結させないでください。企業側で最も多い募集方法はハローワーク等57.3%、次が求人サイト43.2%です。この2つを見ないと、母数の半分以上が視界に入りません。
実務的には、エージェント2社+求人サイト1〜2つ+気になる企業の直接応募、という組み合わせが現実的です。経路ごとの性格は転職の準備は何をするかで整理しています。
同じ求人に重複応募したときに起きること
重複は原則として通らない
複数のエージェントから同じ企業に応募すると、企業側で重複が判明します。この場合、先に推薦した側の応募が有効になり、後から来たものは受け付けられないのが通例です。紹介手数料の帰属が決まらないためです。
応募者にとっての損失は、選考が止まることです。企業側は確認のため一度保留にします。結果として、単独で応募した場合より選考が遅れます。
防ぎ方は1つ
防ぐ方法は、応募済みの企業名を自分で管理し、新しい紹介が来たら照合することです。エージェント同士は情報を共有しないため、照合できるのは応募者本人だけです。
紹介を受けた時点で、「この企業は他社経由で応募済みです」と伝えれば、その時点で止まります。応募前に伝えるのが唯一の防ぎ方で、応募後では手遅れになります。管理表の作り方は後の章で扱います。
企業名を教えてもらえない場合
まれに、社名を伏せて紹介されることがあります。この場合は照合できないため、「重複の可能性があるので社名を確認したい」と伝えてください。応募前に社名を明かさない紹介は、受けるべきではありません。
社名が分からないまま応募すると、重複だけでなく、条件の確認もできません。労働条件は応募前に確認するものです。確認項目は内定を承諾する前にで整理しています。
担当者に伝えること、伝えないこと
伝えるべきこと
| 項目 | 伝え方 | 伝える理由 |
|---|---|---|
| 他社も使っていること | 「2社にお願いしています」 | 隠すと重複応募の事故につながる |
| 応募済みの企業名 | 紹介を受けた時点で照合して伝える | 重複を応募前に止められる |
| 選考の進捗 | 他社の最終面接の日程など | 日程調整と条件交渉の材料になる |
| 希望の下限 | 年収・勤務地・休日の許容できない線 | 合わない紹介が減る |
他社利用を隠す必要はありません。担当者にとっても、重複応募の事故は困る事象です。伝えたことで紹介が減ることはありません。
伝えなくてよいこと
他社の担当者の名前、提示された求人の詳細、他社でのやり取りの内容は伝えなくて構いません。これらは選考の進行に必要のない情報です。聞かれた場合も「差し控えます」で足ります。
もう1つ、「転職すべきか迷っている」という相談も慎重にしてください。エージェントは成約で報酬が入るため、動く方向に寄った助言が返ります。判断は自分で持ち、事実だけを聞くのが基本です。
「第一志望です」と言わない
複数の選考が並行している段階で、どこかを第一志望と断言すると、他の選考が止まる可能性があります。担当者は志望度の高い先に注力するため、結果として選択肢が減ります。
比較している事実は、そのまま伝えてよいものです。「複数社の条件を比べて決めます」と言うほうが実態に合います。比較していることは、応募者として当然の行動です。比べ方は複数内定で迷ったときの比べ方で扱っています。
1枚の表で管理する
必要な列は6つ
| 列 | 記入内容 | この列がないと起きること |
|---|---|---|
| 企業名 | 正式名称 | 重複応募に気づけない |
| 経路 | どのエージェントか、直接応募か | 連絡先が分からなくなる |
| 応募日 | 推薦された日 | どちらが先か判断できない |
| 選考段階 | 書類・1次・2次・最終・内定 | 次に何をするか分からない |
| 次の期限 | 面接日、回答期限 | 期限を落とす。最も多い事故 |
| 判断メモ | その場で感じた条件面の懸念 | 後で比較できない |
最も重要なのは「次の期限」です。並行活動の破綻は、ほぼ日程の落としから起きます。この列だけは、更新のたびに必ず書き換えてください。
判断メモは面談直後に書く
6列目の判断メモは、面談や面接の直後に書きます。時間が経つと、記憶が印象に置き換わります。「残業の話を聞いたとき回答が曖昧だった」のような事実を、その日のうちに残してください。
内定が複数出た段階で、このメモが判断材料になります。条件の数字は書類に残りますが、回答の曖昧さや説明の一貫性は、自分のメモにしか残りません。
更新は週1回でよい
毎日更新する必要はありません。週1回、決めた曜日にまとめて更新するほうが続きます。ただし面接日や回答期限が確定したときは、その場で書き込んでください。
在職中の活動なら、更新の時間を週の決まった時間に固定します。10分で足ります。10分の更新で、期限の落としという最も重い事故を防げます。
置き場所は、携帯から見られる形にしてください。面接の直前や移動中に確認する場面が多いためです。手元で開けない管理表は、更新されずに止まります。表計算でもメモアプリでも、開く手間が少ないほうを選んでください。
合わない担当者の見分け方
4つの兆候
| 兆候 | 何が起きているか | 対応 |
|---|---|---|
| 希望と違う職種の紹介が続く | 要件が伝わっていない、または在庫消化 | 下限を書面で再提示する |
| 応募を急かされる | 成約の期限が担当者側にある | 期限は自分で決めると伝える |
| 社名を伏せて勧められる | 条件確認の前に応募させたい | 社名の開示を求める。断ってよい |
| 質問への答えが「確認します」で止まる | 企業との接点が薄い | 担当者変更、または別社へ切り替え |
4つのうち、3番目は特に注意してください。社名が分からないまま応募すると、重複応募と条件未確認の2つのリスクを同時に負います。断って構いません。
逆に、良い担当者の特徴
紹介できる求人がない場合に、はっきり「今はない」と言う担当者は信頼できます。無理に紹介しないことは、能力の低さではなく判断の正確さです。この場合は、紹介以外の用途で使ってください。
職務経歴書の添削、面接で聞かれる質問の傾向、同職種同年次の相場。これらは求人紹介がなくても得られる価値です。特に相場の情報は、他の経路では取りにくいものです。
担当者を替えるタイミング
兆候が2つ以上重なったら替えます。1つだけなら、要件の伝え方を変えて1往復試してください。要件が曖昧なまま紹介がずれているケースも実際にあります。
替える際は、退会ではなく担当者変更で足ります。会社を替えると登録の手間が再発します。同じ会社の別の担当者で改善する場合が多くあります。
依頼の窓口は、担当者本人ではなく問い合わせフォームか代表窓口です。本人に直接言う必要はありません。「相性の問題で、別の担当者にお願いしたい」で足ります。理由を詳しく説明する義務もありません。
登録を止める・退会するとき
内定承諾後は必ず連絡する
どこかに決まったら、選考が動いている全社に連絡してください。連絡しないと、企業側もエージェント側も待ち続けます。辞退の連絡は速さが最優先です。
伝えるのは「他社に決まったため、選考を辞退し、紹介も一度止めていただきたい」の2点です。理由の詳細は不要です。決めた当日か翌営業日に連絡してください。1日遅れるだけで、企業側は次の候補者への連絡をその分遅らせることになります。辞退の文例は内定辞退の伝え方にあります。
退会と休止の使い分け
今後も使う可能性があるなら、退会ではなく連絡の休止で足ります。「しばらく紹介は不要です」と伝えれば止まります。登録情報が残るため、次回の登録の手間が省けます。
退会すると、登録情報と職務経歴書のデータが削除されます。数年後に再登録する場合、また一から作ることになります。手元にファイルを保存しておけば問題ありませんが、保存していないなら休止を選んでください。
入社後に連絡が続く場合
入社後もスカウトや紹介の連絡が届くことがあります。配信停止の設定をするか、担当者に停止を依頼してください。在職中に転職サイトの活動が見えると、現職で不都合が生じることもあります。
特に、公開レジュメの設定は確認してください。現職の企業が閲覧できる状態になっていると、意図せず活動が知られます。ブロック設定がある場合は、現職名を登録しておくのが安全です。
まとめ
- エージェント経由で募集している事業所は24.8%。1社に絞ると、その1社が扱う範囲のさらに一部しか見えない
- 企業側24.8%に対して個人側の利用は14.8%。エージェント経由の求人が使われていない部分がある一方、エージェントだけに絞るのも取りこぼしになる
- 1社で足りるのは、特化型で自分の経歴がその領域に収まっているとき。領域を跨ぐほど複数登録の効果が上がる
- 目安は2〜3社。総合型1社(母数と相場)+特化型1社(深さ)+予備1社。4社以上は面談と連絡の管理が破綻しやすい
- 紹介が合わないときは社数を増やす前に担当者変更を依頼する。理由は事実で伝える
- 企業側の募集方法はハローワーク等57.3%・求人サイト43.2%が上位。この2つを見ないと母数の半分以上が視界に入らない
- 複数経由で同じ企業に応募すると、先に推薦した側が有効になり選考が止まる。エージェント同士は情報を共有しないため、照合できるのは本人だけ
- 社名を伏せた紹介は受けない。重複応募と条件未確認のリスクを同時に負う
- 他社利用は隠さない。応募済み企業名・選考進捗・希望の下限は伝える。他社担当者の名前や詳細は不要
- 並行中に「第一志望」と断言しない。担当者が志望度の高い先に注力するため選択肢が減る
- 管理表の列は6つ。企業名・経路・応募日・選考段階・次の期限・判断メモ。破綻はほぼ期限の落としから起きる
- 合わない担当者の兆候は4つ。希望と違う紹介が続く/応募を急かす/社名を伏せる/答えが「確認します」で止まる。2つ重なったら替える
- 決まったら全社に連絡する。今後も使うなら退会ではなく連絡の休止。公開レジュメの設定は現職に見えないか確認する
よくある質問(FAQ)
複数のエージェントに登録するのは失礼ですか。
失礼ではありません。前提と考えてください。エージェント経由で募集している事業所は24.8%で、1社に絞るとその範囲のさらに一部しか見えません。担当者にも「2社にお願いしています」と伝えて構いません。隠すと重複応募の事故につながるため、伝えるほうが双方にとって安全です。
何社に登録するのが適正ですか。
2〜3社が目安です。役割で分けてください。総合型1社で母数と相場を把握し、特化型1社で総合型に出てこない求人を拾い、必要なら予備を1社。4社以上になると面談と連絡の管理が破綻しやすく、在職中の活動では日程調整だけで時間が消えます。あわせて求人サイトも併用してください。
同じ企業を複数のエージェントから勧められました。
重複応募になるため、応募前に「他社経由で応募済みです」と伝えてください。重複が企業側で判明すると、先に推薦した側が有効になり、後から来たものは受け付けられないのが通例です。確認のため選考が保留になるので、単独で応募した場合より遅れます。エージェント同士は情報を共有しないため、照合できるのは本人だけです。
希望と違う求人ばかり紹介されます。
まず希望の下限を書面で再提示してください。年収・勤務地・休日の「許容できない線」を具体的に伝えます。それでも改善しない場合は、社数を増やすより担当者の変更を依頼するほうが効きます。同じ会社でも担当者によって扱う求人と説明の精度が変わります。変更の理由は「希望と異なる職種の紹介が続いているため」のように事実で伝えてください。
「第一志望です」と伝えたほうが有利ですか。
並行して選考が進んでいる段階では避けてください。担当者は志望度の高い先に注力するため、他の選考が止まり、結果として選択肢が減ります。「複数社の条件を比べて決めます」と伝えるほうが実態に合っており、比較していることは応募者として当然の行動です。
決まったら退会すべきですか。
今後も使う可能性があるなら、退会ではなく連絡の休止で足ります。「しばらく紹介は不要です」と伝えれば止まり、登録情報が残るため次回の手間が省けます。退会すると職務経歴書のデータも削除されるため、手元にファイルを保存していない場合は休止を選んでください。あわせて公開レジュメの設定を確認し、現職から見えない状態にしてください。
転職は、人生の経営判断です
複数登録の目的は求人数ではなく、見えていない求人を減らすことです。総合型1社と特化型1社、そして6列の管理表。これだけで並行活動は成り立ちます。
出典:厚生労働省「令和2年転職者実態調査の概況」(表5・表17)