
クローゼットの奥の服。使わなくなったゲーム機。サイズの合わなくなった靴。
フリマアプリで片づけていたら、1年で思ったより売れていた。そこで気になるのが、「これ、確定申告が要るんだろうか」という話だと思います。
ネットで調べると「20万円を超えたら申告」という説明が出てきます。でも、その手前にもっと大事な条文があります。
不用品を売っただけなら、そもそも所得税がかかりません。
この記事では、その非課税の根拠と、どこから外れるのかの線引きを、所得税法の条文と国税庁の資料で確かめます。
不用品を売っただけなら、そもそも非課税です
出発点は所得税法第9条第1項です。この条は「次に掲げる所得については、所得税を課さない」として、非課税になるものを並べています。
その第9号。
「じゆう器」は什器、つまり日常使う道具類のことです。
自分や家族が生活のために使っていたものを売った所得には、所得税を課さない。条文はそう書いています。
国税庁のタックスアンサーには、具体的な例が挙がっていました。
国税庁タックスアンサーNo.3105「譲渡所得の対象となる資産と課税方法」
通勤用の自動車まで入っています。着なくなった服、使わなくなった家電、読み終えた本、子どもの頃のおもちゃ。生活の中で使っていたものは、基本的にここに入ります。
「20万円を超えたら申告が必要」は、課税される所得がある場合の話です。
非課税の所得は、そもそもその判定の手前で外れます。不用品を売った分は、金額に関係なく所得税の対象になりません。
例外は「1個30万円超」の貴金属や骨とうだけ
条文の末尾が「政令で定めるもの」となっていました。その政令が所得税法施行令第25条です。見出しもそのまま「譲渡所得について非課税とされる生活用動産の範囲」。
一 貴石、半貴石、貴金属、真珠及びこれらの製品、べつこう製品、さんご製品、こはく製品、ぞうげ製品並びに七宝製品
二 書画、こつとう及び美術工芸品」
読み方が少しややこしいので、分解します。
非課税になるのは「生活に通常必要な動産」のうち、次の2つを除いたもの。
除かれるのは、第1号・第2号に挙がっているもので、かつ1個または1組の価額が30万円を超えるもの。
つまり、30万円という金額の線は、貴金属や書画・骨とうといった列挙されたものにだけかかります。
ここを取り違えると、結論がまったく変わってしまう。
- 30万円で売れたソファ … 列挙に入っていないので、非課税のまま
- 30万円で売れた宝石 … 第1号に当たり、30万円を超えていないので非課税
- 35万円で売れた宝石 … 第1号に当たり、30万円を超えるので課税の対象
- 35万円で売れたノートパソコン … 列挙に入っていないので、非課税のまま
「高く売れたら課税」ではなく、「その種類のものが高く売れたら課税」です。
図にすると、こうなります。
非課税なら、いくら売れても申告は要りません
ここが、この記事でいちばん伝えたいところです。
「20万円を超えたら確定申告」という説明は、よく目にすると思います。出どころは国税庁タックスアンサーNo.1900の、給与所得者で確定申告が必要な人の条件です。条件はこう書かれています。「各種の所得金額(給与所得、退職所得を除く。)の合計額が20万円を超える人」。
ここで数えるのは「所得金額」です。非課税とされているものは、そもそも所得金額に入りません。
だから、順番はこうなります。
2 施行令25条の列挙物で、1個(1組)30万円超か → いいえ なら、やはり非課税
3 非課税なら、20万円の判定にそもそも入らない
服や家電を片づけて年に50万円分売れたとしても、それが全部生活用動産なら、所得税の話にはなりません。
逆に言えば、20万円という数字が意味を持つのは、課税される所得が出ている場合だけです。その「課税される場合」が次の章です。
課税されるのは、売るために仕入れたとき
非課税の条文は「生活の用に供する」資産についてのものでした。ここが効いてきます。
最初から売るために買ったものは、生活のために使っていたものではありません。だから第9条第1項第9号の非課税には当たらず、所得税の対象になります。
- 安く仕入れて高く売る目的で買った商品
- 限定品を転売するために買ったもの
- 仕入れて加工して売っているハンドメイド作品
こうしたものから得た所得は、譲渡所得ではなく、雑所得または事業所得として扱われます。どちらになるかを決めるのは、その活動の実態です。
分類によって何が変わるかは、別の記事で国税庁の資料を引きながら整理しました。
判断の軸は「何を売ったか」ではなく「どういうつもりで持っていたか」です。同じスニーカーでも、履くために買って履かなくなったから売るのと、抽選に当たったから売るために買ったのとでは、扱いが変わります。
課税される場合の計算には、50万円の控除があります
生活用動産ではあるけれど30万円を超える宝石、といったケースでは、譲渡所得として計算します。
国税庁タックスアンサーNo.3152が計算式を示しています。
50万円の特別控除があります。同じページは「譲渡所得の特別控除の額は、その年の長期の譲渡益と短期の譲渡益の合計額に対して50万円」としており、合計額が50万円以下ならその額までしか控除できない、とも書いています。
用語も押さえておきます。
- 取得費 … 「一般に購入代金のことです。このほか、購入手数料や設備費、改良費なども含まれます」
- 譲渡費用 … 「売るために直接かかった費用のことです」。フリマアプリの販売手数料や送料は、ここに当たる性質の支出です
保有期間でも分かれます。5年を超えて持っていたものは長期譲渡所得、5年以内なら短期譲渡所得。そして「長期譲渡所得の金額はその2分の1が総合課税の対象になります」。
10年前に20万円で買った宝石が、40万円で売れた。販売手数料と送料が合わせて4万円だったとします。
譲渡所得 = 40万円 -(20万円 + 4万円)- 50万円 = マイナス
50万円の控除があるので、残りません。1個30万円を超えていても、利益が50万円に届かなければ課税される所得は出ない、ということです。
買ったときのレシートがないとき
ここは正直に書きます。
取得費は「一般に購入代金のこと」です。何年も前に買ったものだと、レシートもクレジットカードの明細も残っていないのが普通だと思います。
この記事で確かめられたのは、取得費が購入代金であることと、計算式に取得費が入ることまでです。手元に資料がないときにどう扱うかについては、総合課税の譲渡所得に関する公的な指針を自分で確認できていないため、断定しません。
そのうえで、現実的にできることを挙げます。
- 購入時の記録を探す。クレジットカードや電子マネーの利用明細、通販サイトの注文履歴、保証書、箱に貼られた値札。レシートがなくても、金額が分かる資料はあります。
- 金額が大きいなら、売る前に確認する。30万円を超える貴金属や骨とうを売ろうとしているなら、売ったあとで困るより先に、税務署の相談窓口で聞くほうが早いです。
- そもそも非課税の範囲なら、悩まなくていい。第1章・第2章のとおり、服や家電を売った分は金額に関係なく対象外です。取得費の話は、課税される場合にだけ出てきます。
多くの人にとっては、最後の1行で終わる話だと思います。
20万円ルールは、住民税には効きません
ここも誤解が多いところなので、触れておきます。
20万円の基準は、所得税の確定申告が必要かどうかの話です。住民税には、この基準がありません。
課税される所得が出ているなら、たとえ20万円以下でも、住民税のほうの手続きは別に考える必要があります。
この点は、確定申告の記事でまとめています。
ただし繰り返しになりますが、非課税の所得については、この話も関係ありません。不用品を売った分は、そもそも課税される所得が出ていないからです。
学生や、扶養に入っている場合
親の扶養に入っている人からよく出る質問です。
扶養の判定に使われるのは合計所得金額です。非課税とされている所得は、ここにも入りません。
つまり、服や本を売って年に30万円になったとしても、それが生活用動産の譲渡なら、扶養の判定には響かない、ということです。
一方、転売目的で仕入れたものを売って得た所得は、雑所得または事業所得として合計所得金額に入ります。こちらは扶養の判定に効いてきます。
金額が大きくなりそうなら、親の勤務先の扶養手当の条件も含めて、早めに確認しておくほうが安全です。
自分のケースを判定する
ここまでを、順番に当てはめる形にします。
ステップ1:売ったものを2つに分ける
A:自分や家族が使っていたもの
着ていた服、使っていた家電、読んだ本、持っていたゲーム、乗っていた自転車。
B:売るために手に入れたもの
転売目的で買った商品、仕入れた在庫、売る前提で確保した限定品。
この分け方が最初です。同じ品目でも、Aに入るかBに入るかで結論が変わります。
ステップ2:Aは、列挙物かどうかを見る
Aのうち、施行令25条が挙げている貴金属・宝石・真珠・べっこう・さんご・こはく・ぞうげ・七宝の製品、書画、こつとう、美術工芸品に当たるものを抜き出します。
当たらないもの(服、家電、本、家具、自動車など)は、ここで終わりです。金額に関係なく非課税です。
ステップ3:列挙物は、1個(1組)の価額を見る
抜き出したものについて、1個または1組の価額が30万円を超えているかを確認します。
30万円以下なら非課税。超えていれば、譲渡所得として計算します。
ステップ4:計算して、残るかを確かめる
譲渡価額から取得費と譲渡費用を引き、さらに50万円の特別控除を引きます。残らなければ、課税される所得は出ません。
5年を超えて持っていたものは、その2分の1が総合課税の対象になります。
ステップ5:Bは、所得区分を決める
Bに分けたものから得た所得は、雑所得または事業所得です。経費を引いた残りが所得になります。
ここで初めて、20万円ルールや住民税の話が出てきます。
残しておくもの
課税される可能性がある人向けの実務です。
◇ 売った側の記録
フリマアプリの取引履歴は、アプリの中に残ります。ただしサービスの仕様で遡れる期間が変わるので、年末にその年の売上を画面保存しておくだけでも違います。
残すのは3つ。売れた日、売れた金額、差し引かれた手数料と送料。手数料と送料は、課税される場合に譲渡費用として効いてきます。
◇ 買った側の記録
高額なものを買ったときだけで構いません。購入の記録を残しておいてください。レシートの写真、注文履歴のスクリーンショット、保証書。
将来売るときの取得費になるものです。第6章のとおり、ここが分からないと計算が止まります。
◇ 仕入れているなら、分けて記録する
転売を続けているなら、AとBを帳簿上で混ぜないことです。
不用品の売却(非課税)と、仕入れた商品の売却(課税)が同じ口座・同じアプリで動いていると、あとから分けるのが大変になります。仕入れた分だけでも、仕入日・仕入額・販売日・販売額を1行ずつ残しておいてください。
今日からできること
3つあります。
ひとつめ、3分。今年売ったものを、AとBに分けてみる。
「使っていたから売った」のか「売るために手に入れた」のか。これだけで、ほとんどの人は第1章で終わります。終わらない人は、次に進む理由がはっきりします。
ふたつめ、5分。30万円を超えて売れたものがあるか確認する。
あったとして、それが貴金属・宝石・書画・骨とう・美術工芸品に当たるかどうかを見ます。当たらなければ、金額がいくらでも非課税です。
みっつめ、5分。年末にアプリの売上画面を保存しておく。
課税されない人にとっても、「この年はこれだけ売った、全部不用品だった」と自分で説明できる状態にしておく価値はあります。後から思い出すのは大変です。
まとめ
自分や家族が生活のために使っていたものを売った所得には、所得税がかかりません。所得税法第9条第1項第9号が「自己又はその配偶者その他の親族が生活の用に供する家具、じゆう器、衣服その他の資産で政令で定めるものの譲渡による所得」を非課税としています。
例外は、所得税法施行令第25条が挙げる貴金属・宝石・真珠・べっこう・さんご・こはく・ぞうげ・七宝の製品、書画、こつとう、美術工芸品で、かつ1個または1組の価額が30万円を超えるものです。30万円という線は、この列挙されたものにだけかかります。家具やパソコンがいくらで売れても、この線は関係ありません。
そして非課税の所得は、20万円の判定にそもそも入らない。「20万円を超えたら申告」は、課税される所得がある場合の話です。
課税されるのは、売るために手に入れたものを売ったときです。この場合は譲渡所得ではなく、雑所得または事業所得になります。
生活用動産でも30万円を超える列挙物を売った場合は、譲渡所得として計算します。譲渡価額から取得費と譲渡費用を引き、さらに50万円の特別控除を引いた残りが所得です。5年を超えて持っていたものは、その2分の1が総合課税の対象になります。
取得費の資料が残っていないときの扱いについては、公的な指針を自分で確認できていないため、この記事では断定していません。金額が大きいなら、売る前に税務署の相談窓口で聞くのが確実です。
あわせて読みたい
よくある質問(FAQ)
Q1. メルカリで不用品を売りました。確定申告は必要ですか?
生活のために使っていたものを売っただけなら、所得税はかかりません。所得税法第9条第1項第9号が「自己又はその配偶者その他の親族が生活の用に供する家具、じゆう器、衣服その他の資産で政令で定めるものの譲渡による所得」を非課税としているためです。国税庁タックスアンサーNo.3105も「家具、じゅう器、通勤用の自動車、衣服などの生活に通常必要な動産の譲渡による所得です」と説明しています。例外は、貴金属や宝石、書画、骨とうなどで1個または1組の価額が30万円を超えるものです。
Q2. いくらから税金がかかりますか?
不用品の売却については、金額の線はありません。生活に通常必要な動産であれば、年に50万円売れても100万円売れても所得税の対象外です。30万円という数字は出てきますが、これは所得税法施行令第25条が挙げる貴金属・宝石・真珠・べっこう・さんご・こはく・ぞうげ・七宝の製品、書画、こつとう、美術工芸品について、1個または1組の価額が30万円を超えるかどうかの線です。家具やパソコンがいくらで売れても、この線はかかりません。
Q3. 「20万円を超えたら申告」と聞きました。
それは課税される所得がある場合の話です。国税庁タックスアンサーNo.1900は、給与所得者で確定申告が必要な人の条件として「各種の所得金額(給与所得、退職所得を除く。)の合計額が20万円を超える人」を挙げています。ここで数えるのは所得金額で、非課税とされているものはそもそも入りません。不用品を売った分は、第9条第1項第9号で非課税なので、20万円の判定の手前で外れます。なお、課税される所得が出ている場合は、20万円の基準は所得税の話であって住民税には同じ基準がない点に注意してください。
Q4. 転売目的で買ったものを売った場合はどうなりますか?
非課税にはなりません。第9条第1項第9号が非課税としているのは「生活の用に供する」資産の譲渡による所得です。最初から売るために買ったものは、生活のために使っていたものではないため、この条文には当たりません。こうした所得は譲渡所得ではなく、雑所得または事業所得として扱われます。どちらになるかはその活動の実態で分かれ、分類によって青色申告の可否や損益通算の扱いが変わります。
Q5. 30万円を超えるブランドバッグを売りました。いくら税金がかかりますか?
まず、それが所得税法施行令第25条の列挙に当たるかを確認してください。列挙されているのは、貴石、半貴石、貴金属、真珠及びこれらの製品、べつこう製品、さんご製品、こはく製品、ぞうげ製品、七宝製品、書画、こつとう、美術工芸品です。当たる場合、譲渡所得として計算します。国税庁タックスアンサーNo.3152の式は「譲渡価額 -(取得費 + 譲渡費用)- 50万円」です。50万円の特別控除があるので、買ったときより高く売れていても、その差が50万円に届かなければ課税される所得は出ません。5年を超えて持っていた場合は、残った金額のさらに2分の1が総合課税の対象になります。
Q6. 買ったときのレシートがありません。
国税庁タックスアンサーNo.3152は取得費を「一般に購入代金のことです。このほか、購入手数料や設備費、改良費なども含まれます」としています。レシートがないときにどう扱うかについては、この記事では公的な指針を直接確認できていないため、断定を避けます。現実的には、クレジットカードや電子マネーの利用明細、通販サイトの注文履歴、保証書、値札など、金額が分かる資料を探すことになります。金額が大きいなら、売る前に税務署の相談窓口で確認するのが確実です。なお、非課税の範囲であれば取得費の話は出てきません。
Q7. 送料や販売手数料は引けますか?
課税される場合の計算では、譲渡費用として扱う余地があります。国税庁タックスアンサーNo.3152は譲渡費用を「売るために直接かかった費用のことです」としており、売るために負担した送料や販売手数料は、この性質の支出です。計算式は「譲渡価額 -(取得費 + 譲渡費用)- 50万円」なので、取得費と合わせて差し引きます。なお、非課税の範囲の取引については、そもそも計算をしないので関係ありません。
Q8. 学生です。親の扶養から外れませんか?
扶養の判定に使われるのは合計所得金額です。非課税とされている所得は、ここに入りません。生活のために使っていた服や本を売って得たお金は、金額にかかわらず合計所得金額に含まれないので、扶養の判定に影響しません。一方、転売目的で仕入れたものを売って得た所得は、雑所得または事業所得として合計所得金額に入ります。こちらは扶養の判定に効いてきます。金額が大きくなりそうなら、親の勤務先の扶養手当の条件も含めて早めに確認してください。
Q9. 同じスニーカーでも、扱いが変わることがありますか?
変わります。条文が見ているのは品目ではなく「生活の用に供する」かどうかだからです。履くために買って、履かなくなったから売る。これは生活用動産の譲渡で、非課税の範囲です。一方、抽選に当たったので売るために確保した、という場合は、生活のために使っていたものではありません。この場合は雑所得または事業所得になります。判断の軸は「何を売ったか」ではなく「どういうつもりで持っていたか」です。
Q10. 何を記録しておけばいいですか?
課税される可能性がある人は3つです。ひとつ、売った記録(売れた日、売れた金額、差し引かれた手数料と送料)。アプリの取引履歴は遡れる期間が変わることがあるので、年末にその年の売上画面を保存しておくと確実です。ふたつ、高額なものを買ったときの記録(レシートの写真、注文履歴、保証書)。将来売るときの取得費になります。みっつ、転売を続けているなら、不用品の売却と仕入れた商品の売却を混ぜないこと。同じ口座・同じアプリで動いていると、あとから分けるのが大変になります。


