
英語のPDFを翻訳にかけたら、文章が途中で切れていたり、表の数字がずれていたりする。ツールを変えても、また別の壊れ方をする。
ツールの問題もありますが、そのPDFがどう作られているかで、壊れ方は決まっています。先に型を見分けると、対処が変わります。
ツールを変える前に、PDFの型を見分ける
同じPDFという拡張子でも、中身は別物です。
文書から書き出したPDFと、紙を取り込んだPDF
文書作成ソフトから書き出したものには、文字の情報が入っています。一方、紙をスキャンしたものは画像です。見た目は同じでも、後者には文字が1つも入っていません。この2つを同じ方法で処理しようとすると、片方は必ず失敗します。
ツール比較の記事は、この前提を飛ばしている
「レイアウトが崩れないツール6選」のような記事はたくさんありますが、どのツールでも壊れるPDFがあります。しかも、会社によっては使えるツールが決まっています。選択肢が限られている前提で、手持ちの手段をどう使うかのほうが実務的です。
いちばん危ないのは、壊れたことに気づかない場合
訳文が日本語として自然に読めると、壊れていても気づけません。段組みの読み順が入れ替わっただけなら、文はつながって見えます。そのまま数字を引用すると、後で訂正することになります。英語の論文をAIで読むときと同じで、出てきた日本語を信じる前に、元に戻れる形にしておくのが先です。
3秒でできる判定
開いたら、最初にこれだけ確認します。
| 確認 | 結果 | 意味 |
|---|---|---|
| 本文をドラッグして選択 | 選択できる | 文字情報あり。そのまま渡せる |
| 同上 | 選択できない | 画像。文字認識が必要 |
| 語を1つ検索 | ヒットする | 文字情報あり |
| 同上 | ヒットしない | 画像、または文字化け |
選択できないPDFは、訳す前に文字にする
画像のPDFをそのまま翻訳にかけると、何も訳されないか、ファイル名から推測した内容が返ってきます。後者が厄介で、それらしい日本語が出るので気づきにくい。まず文字認識をかけて、テキストに変換してから訳してください。認識の精度は原本の状態に左右されるので、変換後に必ず目視で確認します。
一部だけ選択できるPDFもある
本文は選択できるのに、図の中の文字だけ選択できないことがあります。図は画像として貼られているためです。この場合、本文は訳せても図中の文字は訳されません。図に重要な情報があるなら、別途扱う必要があります。
文字化けするPDFは、埋め込みの問題
選択はできるがコピーすると記号になる場合、フォントの埋め込み方が原因のことがあります。この状態で訳すと、意味不明な文が出ます。作成者に元ファイルをもらえないか聞くのが、いちばん早い解決です。
崩れるのは4つの要素
文字情報があるPDFでも、この4つで壊れます。
段組みが、いちばん気づきにくい
2段組みの資料を丸ごと渡すと、左列の1行目、右列の1行目、左列の2行目、という順で読み取られることがあります。訳文は日本語として成立してしまうので、読んでいても違和感が出ません。内容がちぐはぐだと感じたら、まず段組みを疑ってください。
表は、数値が行ごとにずれる
罫線が引かれていない表や、セルの結合がある表は、列の区切りが認識されません。結果として、別の行の数値が結びつきます。数値を使う予定があるなら、表の部分だけは訳文を信じず、原本と1つずつ突き合わせてください。
脚注とページ番号が本文に混ざる
ページの下部にある注記が、本文の文末に割り込むことがあります。訳すと、文の途中に関係のない語が入る。読みにくいだけなら害は小さいですが、注記に条件が書かれている場合、本文の条件と混同します。
崩れる前提での渡し方
完全に崩れない方法はないので、崩れても分かる形にします。
ページ単位で渡す
50ページを一度に渡すと、どこが崩れたか分かりません。必要なページだけを抜き出して、5ページずつ渡してください。手間は増えますが、崩れた箇所を特定できます。そもそも全ページ必要なことは、あまりありません。
段組みは、コピーしてから整える
本文を選択してテキストとしてコピーし、改行の位置を直してから渡す方法があります。段組みの読み順の問題は、これで解決します。1ページなら1分程度です。全ページやる必要はなく、実際に読む数ページだけで足ります。
表は切り出して、行ごとに渡す
表の部分だけを別に扱ってください。行を1行ずつテキストに書き出して渡すと、列の対応が崩れません。数が多いなら、まず見出し行と最初の3行だけ渡して、形式が保たれるかを確認してから残りを渡します。
訳が壊れたことに気づく検算
訳文を読むだけでは、壊れに気づけません。数える方法を使います。
| 検算 | やり方 |
|---|---|
| 数字の個数 | 原文と訳文で数字の数を数える |
| 段落の数 | 原文と訳文で段落数を比べる |
| 固有名詞 | 製品名が同じ回数出ているか |
| 見出し | 見出しの数と順序が一致するか |
数字の個数が合わなければ、どこか落ちている
原文に数字が20個あって、訳文に17個しかなければ、3つ落ちています。落ちたのが重要な数字かもしれません。数えるだけなので1分で済みますし、これで見つかる事故はかなり多いです。文書作成ソフトの検索機能で数えられます。
段落の数がずれたら、結合か分割が起きている
段落が減っていれば、複数の段落が1つにまとめられています。増えていれば、途中で切れている。どちらも読み順が変わっている可能性があるので、その周辺を原文で確認してください。
読んで違和感があったら、原文に戻る
話の流れが急に変わる、同じ内容が繰り返される、主語が合わない。この3つは、読み順が崩れたときの典型です。訳文を直そうとせず、その箇所の原文を見てください。訳が悪いのではなく、渡し方の問題であることが多いです。
ツールを選ぶ前に確認すること
使えるツールは、自由に選べるとは限りません。
社内規程を先に確認する
PDFは社外秘の情報を含むことがあります。外部のサービスにファイルを入れてよいかを、始める前に確認してください。禁止されている場合、社内で使える環境があるかを情報システムの担当に聞きます。ここを飛ばすと、あとで大きな問題になります。英語マニュアルを自分で訳すならでも書きましたが、翻訳の作業より先に済ませる確認です。
受け取った相手に、元ファイルを聞く
PDFで届いたものでも、元の文書ファイルが存在します。それをもらえれば、段組みも表もそのまま扱えます。聞くのは失礼ではありませんし、5分で解決することがあります。ツールを探す前に、一度聞いてみてください。
用途で、かける手間を変える
内容をざっと把握したいだけなら、多少崩れていても構いません。数値を引用する、社内資料に載せる、判断の根拠にする。この場合だけ、ここまでの手順を丁寧にやってください。全部に同じ手間をかけると終わりません。
まとめ
ツールを変える前に、PDFの型と用途を見分けます。
- 文書から書き出したPDFと、紙を取り込んだPDFは別物。処理も別
- 開いたら、本文を選択できるかを3秒で確認する
- 選択できないなら画像。文字認識をかけてから訳す
- 崩れるのは4つ。段組み、表、脚注、図中の文字
- 段組みがいちばん気づきにくい。訳文は自然に読めてしまう
- ページ単位で渡し、表は切り出して行ごとに渡す
- 検算は、数字の個数と段落の数を数える
- 外部サービスの利用は、社内規程の確認が先
訳文が自然に読めることは、正しいことの証拠になりません。数えて確かめてください。
よくある質問
どのツールがいちばん崩れませんか
PDFの作られ方によるので、どれか1つが常に優れているということはありません。手元のPDFで2つ試して、数字の個数が合うほうを使ってください。比較記事の順位より、自分が扱う文書で試すほうが確実です。
スキャンしたPDFの文字認識は、どのくらい正確ですか
原本の状態に左右されます。印字がはっきりしていて傾いていなければ、かなり読めます。手書きの書き込みや、コピーを繰り返した資料は精度が落ちます。変換後に必ず目視で確認してください。とくに数字と記号は誤りやすい部分です。
訳文をそのまま社内で共有してもいいですか
共有する場合は、機械翻訳であることと、原本の場所を添えてください。読む人が原本に戻れる状態にしておくのが要点です。数値を含む場合は、その部分だけ確認済みかどうかも書いてください。
全ページ訳す必要がありますか
たいていは不要です。目次や見出しから、必要なページを2〜3ページに絞れることがほとんどです。全ページ訳すと、確認の手間も全ページ分かかります。絞ってから訳すほうが早く終わります。
図の中の文字はどうしますか
画像なので訳されません。重要な図なら、その部分を切り取って文字認識をかけるか、図の中の語だけを手で書き出して訳してください。図を飛ばしたまま進めると、後で数値の根拠が分からなくなります。