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内定を承諾する前に|労働条件通知書で確認する5項目と、2024年4月に加わった「変更の範囲」

並んだ複数の扉。内定を受ける前に条件を確認しているイメージ

内定が出た。年収も聞いた。あとは承諾の返事をするだけ。そう思っている段階で、確認を1つ飛ばしている人が多くいます。労働条件通知書を受け取り、中身を読むことです。

入社後に「聞いていた話と違う」となる原因の多くは、ここにあります。求人票と労働条件通知書は、目的も拘束力も違う別の書類です。求人票を信じて承諾すると、条件が確定しないまま入社することになります。

この記事では、2つの書類の違い、2024年4月に追加された明示事項、承諾前に確認すべき5項目、そして食い違いを見つけたときの対応を解説します。内定が複数ある場合の比べ方は内定が2つ出て決められないで扱っています。

求人票と労働条件通知書は、別の書類

役割が違う

求人票は、応募者を集めるために会社が作る募集用の資料です。記載された条件は「この範囲で採用を予定している」という見込みであり、個別の契約内容ではありません。

一方、労働条件通知書は、労働基準法にもとづいて採用する人に対して個別に示される書面です。実際に適用される条件が書かれています。この2つは作られる目的が違うため、内容が一致するとは限りません。

3つの書類の関係

応募から入社までに出てくる3つの書類 ① 求人票(募集用) ・目的:応募者を集めること ・内容:採用を予定している条件の範囲 → 個別の契約内容ではない ↓ ② 労働条件通知書(個別・法定) ・目的:あなたに適用される条件を示す ・根拠:労働基準法にもとづく明示義務 ・2024年4月から「変更の範囲」が追加 → 承諾前に読むべきはこれ ↓ ③ 雇用契約書(双方が署名) ・目的:双方の合意を記録する ・②と兼ねている会社も多い → 署名前に②の内容と照合する ①だけを見て承諾すると、条件が確定しないまま入社することになる

承諾の返事をする前に読むべきなのは②です。②を受け取らないまま承諾すると、条件が確定しない状態で意思表示をすることになります。

②と③を1枚の書面で兼ねている会社も多くあります。その場合、署名を求められた時点が実質的な確認の最後の機会です。署名してしまうと、内容に合意したことになるため、署名前に必ず全項目を読む時間を取ってください。その場で署名を求められても、「持ち帰って確認します」と伝えて構いません。

3つの書類が別々に出てくる会社では、①と②、②と③の間でそれぞれ内容がずれていないかを確認します。ずれが見つかったときに、どれが適用されるのかを聞いておけば、入社後の認識違いはほぼ防げます。

「求人票に書いてあった」は後から効きにくい

入社後に条件が違うと分かったとき、求人票の記載を根拠に主張しようとしても、相手は「あれは募集条件の範囲であって、個別の契約は通知書のとおり」と説明できます。

効くのは、個別に示された書面に何と書いてあるかです。だから承諾前の確認が重要になります。逆に言えば、通知書さえ確認しておけば、後から揉める余地は大きく減ります。

2024年4月から「変更の範囲」が明示事項に加わった

何が変わったか

厚生労働省は「2024年4月から労働条件明示のルールが変わります」として、労働基準法施行規則の改正(厚生労働省令第39号)にもとづく明示事項の追加を告知しています。適用は2024年4月以降に締結される労働契約からです。

追加された主な内容は、就業場所と業務の内容について、雇入れ直後のものに加えて「変更の範囲」を示すことです。つまり、入社直後にどこで何をするかだけでなく、将来的に配置転換や異動でどこまで変わりうるかが書面に書かれるようになりました。

なぜ重要なのか

この改正は、転職者にとって実用的な意味を持ちます。以前は「勤務地:東京本社」とだけ書かれていた場合、将来の転勤の可能性が読み取れませんでした。改正後は、変更の範囲として異動しうる範囲が明示されるため、入社前に判断できます。

業務内容も同じです。入社直後の担当だけでなく、変更されうる業務の範囲が示されます。「営業で入ったのに、1年後に別部署へ」という事態が、事前に読み取れる形になりました。

読むときの着眼点

変更の範囲を読むときは、その範囲が広いか狭いかではなく、自分が受け入れられる範囲かどうかで判断してください。範囲が広いこと自体は悪いことではなく、キャリアの選択肢が多いとも読めます。

確認すべきは、受け入れられない範囲が含まれていないかです。転居を伴う異動が困難な事情があるなら、その地域が範囲に入っているかを見る。特定の業務を避けたい理由があるなら、それが範囲に含まれていないかを見る。範囲に書かれている以上、後から「聞いていない」とは言えません。

承諾前に確認する5項目

確認の一覧

項目 見るポイント 見落とすと起きること
賃金の内訳 固定残業代が含まれるか。含まれるなら何時間分か。超過分は別途支払われるか 提示額が高く見えて、時給では下がっている
就業場所と変更の範囲 雇入れ直後の場所と、異動しうる範囲の両方 転居を伴う異動の可能性に気づかない
業務内容と変更の範囲 入社直後の担当と、変更されうる業務の範囲 想定と違う部署へ配置される
労働時間 始業・終業、休憩、所定外労働の有無。裁量労働制やみなし残業の適用 残業代の計算方法が想定と異なる
契約期間と試用期間 期間の定めの有無。試用期間中の条件が本採用後と違うか 試用期間中だけ条件が低い

5項目のうち、転職者が最も見落とすのは試用期間中の条件です。試用期間があること自体は一般的ですが、その間の賃金や待遇が本採用後と異なる場合があります。期間の長さと、その間の条件の両方を確認してください。

確認は「読む」だけでなく「照合する」

書面を受け取ったら、面接で聞いた内容と1項目ずつ照合してください。記憶だけで進めると、口頭の説明と書面のずれに気づきません。

照合の方法は単純です。面接で聞いた条件をメモに書き出し、通知書の該当箇所に印をつけていく。印がつかない項目があれば、それは書面に書かれていない条件なので、確認が必要です。

この作業は15分ほどで終わります。面接のメモを取っていない場合でも、記憶にある範囲で「年収」「勤務地」「担当業務」「残業の見込み」「試用期間」の5つを書き出してから読めば足ります。先に自分の期待値を書いてから読むのが要点で、先に書面を読むと、書いてある内容に記憶が引きずられます。

固定残業代は時給に割り戻して比べる

提示額だけでは比べられない

5項目のうち、金額の判断でいちばん差が出るのが賃金の内訳です。月給が同じでも、固定残業代が含まれているかどうかで実質はまったく変わります。

A社 B社
月給の提示額 30万円 28万円
固定残業代 含む(30時間分・6万円) 含まない
基本給にあたる部分 24万円 28万円
想定される月の労働時間 160+30=190時間 160時間
1時間あたり 約1,579円 約1,750円

提示額ではA社が2万円高いのに、時間で割り戻すとB社のほうが1時間あたり170円ほど高くなります。固定残業代は「その時間まで働く前提」で設計された金額なので、時間を含めて比べないと実態が見えません。

3つを確認する

確認すべきは3点です。何時間分が含まれるか、超えた分は別途支払われると書いてあるか、その時間を実際に使っている人が多いか。

3つ目は面接で聞けます。「固定残業代の時間分は、実際どのくらい使われていますか」。ほとんど使っていないという回答なら、実質的にその分が上乗せされている状態です。逆に、毎月上限まで使っているなら、提示額はその労働時間とセットの金額だということになります。

求人票と食い違っていたときの対応

まず、どちらが正しいかを確認する

求人票と通知書で条件が違う場合、慌てて辞退する前に確認してください。単純な記載ミスや、求人票の更新漏れであることもあります。

聞き方は事実確認の形にします。「求人票では月給◯◯万円と拝見しましたが、通知書では△△万円となっています。どちらが適用される条件でしょうか」。責める調子にする必要はありません。相手も気づいていない可能性があります。

説明がつかない場合の判断

説明を求めて、納得できる理由が返ってこない場合は、承諾を見送る判断材料になります。入社前の段階で説明が曖昧な会社は、入社後の説明も曖昧である可能性が高いためです。

ただし、差が小さく、理由が説明されるなら、それ自体は問題ではありません。「求人票は募集時点の想定で、選考の結果この等級での提示になりました」という説明は、実務上ありうる話です。判断すべきは、差の大きさと説明の有無です。

交渉する場合の順序

条件を上げてほしい場合は、承諾の返事をする前に伝えます。承諾後の交渉は、実質的にできません。

交渉の形は、金額を要求するのではなく役割と金額を結びつけた説明にします。「前職では△△の範囲まで一人で担当していたので、同等の役割であれば◯◯万円を希望します」。処遇の決定で最も重視されるのは経験・能力・知識(53.7%)であり、前職の賃金は0.4%にとどまります(厚生労働省 令和2年転職者実態調査)。前職年収を根拠にした交渉は、ほとんど通りません。

書面が出てこないときの依頼の仕方

依頼は当然の行為

内定の連絡が口頭やメールだけで、書面が出てこないことがあります。この場合、こちらから依頼して構いません。労働条件の明示は法律にもとづく事業者側の義務だからです。

依頼の文面は簡潔で足ります。「内定のご連絡をありがとうございます。承諾のお返事の前に、労働条件通知書を拝見できますでしょうか」。この依頼を嫌がられる場合、その反応自体が判断材料になります。

「入社日に渡します」と言われたら

入社日に渡すという回答が返ってくることがあります。ですが、入社日に受け取っても、そのときには退職の手続きが完了しています。条件が想定と違っても、戻る先がありません。

この場合は、「承諾の判断のために、事前に内容を確認させていただきたい」と理由を添えて再度依頼してください。それでも出てこないなら、条件が確定していない可能性があります。

最低限、メールで残す

どうしても書面が出ない場合の次善策は、口頭で聞いた条件をメールで送り、確認を取ることです。「先日お伺いした条件は下記の認識でよろしいでしょうか」と列挙して送ります。

返信で「そのとおりです」と得られれば、記録が残ります。やり取りの記録は、口頭の記憶より確実です。手間は5分程度なので、必ずやっておいてください。

入社後に話が違ったら

まず書面と照合する

入社後に条件が違うと感じたら、感情的に動く前に労働条件通知書と照合してください。書面に書かれている範囲内であれば、それは想定の問題であって違反ではありません。

特に、2024年4月以降の契約では「変更の範囲」に書かれた異動や業務変更は、事前に示された内容です。承諾した時点で、その範囲を受け入れたことになります。

書面と違う場合の相談先

書面に書かれた条件と実態が明確に違う場合は、記録を残したうえで相談してください。相談先は、まず社内の人事、次に労働基準監督署の総合労働相談コーナーです。

相談の際に必要なのは、労働条件通知書と、実態が分かる記録です。勤務時間の記録、給与明細、業務内容が分かるやり取り。これらを揃えてから相談すると、話が早く進みます。

早期に判断する

入社後に違いが分かった場合、時間が経つほど判断が難しくなります。在籍期間が短いうちは説明もしやすく、動くコストも小さいためです。

実際、直前の勤め先の通算勤務期間を見ると、1年未満が17.7%、2年未満まで含めると34.8%を占めます(厚生労働省 令和2年転職者実態調査)。短期間での転職は珍しくありません。説明できる理由があるなら、早く動くほうが損失は小さくなります。

その際、面接で聞かれる「なぜ短期間で」への答えは用意しておいてください。書面と実態が違ったという事実を示し、次はその点をどう確認しているかを添える。この形なら、学習した人として読まれます。詳しい伝え方は納得のいく転職理由の作り方で扱っています。

まとめ

  • 求人票は募集用の資料で、労働条件通知書は個別に示される法定の書面。承諾前に読むべきは後者
  • 2024年4月以降に締結される労働契約から、就業場所と業務内容について「変更の範囲」の明示が加わった(厚生労働省、労働基準法施行規則の改正)
  • 変更の範囲は、広いか狭いかではなく、自分が受け入れられる範囲かで判断する。書かれている以上、後から「聞いていない」とは言えない
  • 承諾前に確認する5項目は、賃金の内訳、就業場所と変更の範囲、業務内容と変更の範囲、労働時間、契約期間と試用期間
  • 固定残業代が含まれる提示は、労働時間で割り戻して1時間あたりで比べる。提示額が高いほうが実質は低いことがある
  • 求人票と食い違う場合は、事実確認の形で聞く。差が小さく理由が説明されるなら問題ではない。説明がつかない場合は見送りの材料
  • 交渉は承諾前に行い、役割と金額を結びつけて説明する。前職年収を根拠にした交渉はほとんど通らない(前職の賃金を最重視する企業は0.4%)
  • 書面が出ない場合は依頼してよい。それでも出ないなら、口頭で聞いた条件をメールで送って確認を取り、記録を残す
  • 入社後に違いが分かったら、まず書面と照合する。書面と明確に違う場合は記録を揃えて人事または労働基準監督署の総合労働相談コーナーへ

よくある質問(FAQ)

求人票の条件と違う提示をされました。断るべきですか。

まず理由を確認してください。記載ミスや求人票の更新漏れであることもあります。「求人票では月給◯◯万円と拝見しましたが、通知書では△△万円です。どちらが適用される条件でしょうか」と事実確認の形で聞きます。差が小さく理由が説明されるなら実務上ありうる話です。説明がつかない場合は、見送りの判断材料になります。

労働条件通知書は、いつもらえるものですか。

労働条件の明示は事業者側の義務ですが、渡される時期は会社によって異なります。承諾の返事をする前に依頼して構いません。「承諾のお返事の前に、労働条件通知書を拝見できますでしょうか」と伝えてください。「入社日に渡します」と言われた場合は、そのときには退職手続きが完了していて戻れないため、事前確認を理由に再度依頼してください。

「変更の範囲」が広く書かれていました。断ったほうがいいですか。

広いこと自体は悪いことではなく、キャリアの選択肢が多いとも読めます。判断すべきは、自分が受け入れられない範囲が含まれていないかです。転居を伴う異動が難しい事情があるなら、その地域が範囲に入っているかを見てください。書かれている以上、後から「聞いていない」とは言えなくなります。

固定残業代込みの提示は、避けたほうがいいですか。

制度自体が問題なのではなく、比べ方の問題です。労働時間で割り戻して1時間あたりで比較してください。確認すべきは3点で、何時間分が含まれるか、超えた分は別途支払われると書いてあるか、その時間を実際に使っている人が多いかです。3つ目は面接で「固定残業代の時間分は実際どのくらい使われていますか」と聞けば分かります。

条件の交渉はいつすればいいですか。

承諾の返事をする前です。承諾後の交渉は実質的にできません。金額を要求するのではなく、役割と金額を結びつけて説明してください。処遇の決定で最も重視されるのは経験・能力・知識で53.7%、前職の賃金は0.4%にとどまるため、前職年収を根拠にした交渉はほとんど通りません。

入社してから条件が違うと分かりました。どうすればいいですか。

まず労働条件通知書と照合してください。書面の範囲内であれば想定の問題です。明確に違う場合は、勤務記録・給与明細・やり取りなどの記録を揃えたうえで、社内の人事、次に労働基準監督署の総合労働相談コーナーへ相談してください。なお在籍1年未満での転職者は17.7%、2年未満まで含めると34.8%を占めるため、短期間での再転職は珍しくありません。

転職は、人生の経営判断です

承諾の返事は、条件を確認してからで遅くありません。書面を受け取り、面接で聞いた内容と1項目ずつ照合する。この30分が、入社後の「聞いていた話と違う」をほぼ防ぎます。

出典:厚生労働省「2024年4月から労働条件明示のルールが変わります」(労働基準法施行規則の改正・厚生労働省令第39号)/「令和2年転職者実態調査の概況」(表12・図1)

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