
スキルを教える副業は、単発から始まります。1回1時間のレッスン、1回の相談。オンライン講座の回では、手数料が集客経路で変わる構造を分解しました。
続けていると、相手から言われます。「まとめてお願いできませんか」。3か月分をまとめて、10回分を先に払ってもらう。単価が上がり、収入も安定します。
ここで、知っておくべきことがあります。一定の期間と金額を超えると、特定商取引法の「特定継続的役務提供」に当たる場合があるということです。当たると、書面を渡す義務や、クーリング・オフの対象になります。
この記事では、その線引きを整理します。扱うのは、対象になる7つの役務、期間と金額の基準、オンラインの扱い、回数券の扱い、対象になったときの義務、広告の制限、契約変更の扱い、対象にならない形での始め方、つまずく場所です。
記述は、消費者庁の特定商取引法ガイド「特定継続的役務提供Q&A」を一次情報にしています。この記事は法律の一般的な解説ではなく、公開されている記述の紹介です。自分の提供するものが該当するかどうかの判断は、必ず専門家や消費生活センター等の窓口にご相談ください。
継続して教える形にした瞬間、別の法律の話になる
まず、なぜこの法律があるのかを押さえます。
「効果が出るか確実でない」ものを、先払いで買わせる構造
公式のQ&Aは、特定継続的役務の定義を法第41条第2項の規定として2つ挙げています。1つは「役務の提供を受ける者の身体の美化又は知識若しくは技能の向上その他のその者の心身又は身上に関する目的を実現させることをもって誘引が行われるもの」。
もう1つが、「役務の性質上、前号に規定する目的が実現するかどうかが確実でないもの」です。美しくなる、英語が上達する。そういう目的で誘われるが、実現するかは確実でない。
そして、そのために一定期間、継続して受ける必要があり、まとまった金額を先に払う構造になっている。だから消費者を守る規定が置かれています。
1回で完結するものは、対象外
Q&Aは「逆に、理髪、マッサージ等の基本的に1回の役務提供で完結し、継続的に役務提供を受ける必要がない役務は該当しません」と書いています。
単発のレッスンや1回の相談が対象外なのは、この理屈です。その場で提供し、その場で終わる。だから、先払いで長期間拘束される問題が起きません。
逆に言えば、オンライン講座の回で書いたような単発の講座を続けているうちは、この論点は出てきません。出てくるのは、継続の契約に切り替えたときです。
自分がどちら側かを、先に確認する
だから、提案の前に確認します。自分が売ろうとしているのは、1回で完結するものか、継続して受けてもらうものか。
そして継続のほうなら、次の章の7つの役務に当たるかを見ます。当たらなければ、この規定の対象ではありません。順番に確認していけば、判断できる構造になっています。
この順番が大事なのは、いきなり「自分は該当するのか」と考えても答えが出ないからです。単発か継続か、7つのどれかに当たるか、期間と金額を超えるか。1つずつ潰していけば、どこかで結論が出ます。最初の質問で外れれば、そこで終わりです。
対象になる7つの役務と、期間・金額の線
ここが、この記事でいちばん具体的な部分です。
政令で定められた7つ
Q&Aは「政令で定める下記の『特定継続的役務』を一定期間を超える期間にわたり、一定金額を超える対価を受け取り提供(役務提供を受ける権利の販売も含む。)するものが規制対象となります」としています。
挙げられているのは、いわゆるエステティック、いわゆる美容医療、いわゆる語学教室、いわゆる家庭教師、いわゆる学習塾、いわゆるパソコン教室、いわゆる結婚相手紹介サービスの7つです。
副業で関わりうるのは、語学教室、家庭教師、学習塾、パソコン教室のあたりでしょう。英語を教える、受験の勉強を見る、パソコンの操作を教える。どれも個人で始めやすい分野です。
| 役務 | 期間 | 金額 |
|---|---|---|
| エステティック/美容医療 | 1月を超えるもの | 5万円を超えるもの |
| 語学教室 | 2月を超えるもの | 5万円を超えるもの |
| 家庭教師 | 2月を超えるもの | 5万円を超えるもの |
| 学習塾 | 2月を超えるもの | 5万円を超えるもの |
| パソコン教室 | 2月を超えるもの | 5万円を超えるもの |
| 結婚相手紹介サービス | 2月を超えるもの | 5万円を超えるもの |
金額には、受講料以外も入る
ここが重要です。Q&Aは「『対価』については、入学金(入会金)・受講料・教材費・施設利用費、関連商品の販売等、契約金の総額が5万円を超えていると対象になります」と書いています。
受講料だけで判断してはいけません。教材費や、一緒に売った商品も含めた総額で見ます。受講料4万円でも、教材を1万5千円で売れば総額5万5千円です。
「5万円以内に収めたつもりだった」という見落としは、たいていここで起きます。入会金を取るなら、それも足して計算してください。
期間と金額は、どちらも超えて初めて対象
表のとおり、期間と金額の両方の条件があります。語学教室なら、2月を超える期間で、かつ総額5万円を超える場合です。
2か月ちょうどなら「2月を超える」に当たらない、という読み方になります。ただし、この期間の数え方や、実質的にどう判断されるかは個別の事情によります。ぎりぎりの設計をするなら、専門家に確認してください。
そして後の章で見るとおり、Q&Aには「外形上『一か月』としていても当然に契約期間の延長を前提としており実質的に法律の要件に該当している場合」についての記述もあります。形式だけ短くする設計は想定済みだということです。線の手前を狙うより、超える前提で作るほうが簡単な場合もあります。
学習塾と家庭教師には、細かい除外がある
Q&Aには注記もあります。「『学習塾』及び『家庭教師』には、小学校又は幼稚園に入学するためのいわゆる『お受験』対策は含まれません」。
また「『学習塾』には、浪人生のみを対象にした役務(コース)は対象になりません」とし、「(高校生と浪人生が両方含まれるコースは全体として対象になります。)」と続けています。
定義自体も細かく、家庭教師は「いわゆる学習塾以外の場所において提供されるもの」、学習塾は「役務提供事業者の事業所その他の役務提供事業者が当該役務提供のために用意する場所において提供されるもの」と書き分けられています。場所によって、どちらに当たるかが変わるということです。
オンラインでも対象になる
副業でいちばん関係があるのが、この一文です。
公式の記述
Q&Aの役務一覧の下に、注記としてこう書かれています。「役務の内容がファックスや電話、インターネット、郵便等を用いて行われる場合も広く含まれます」。
この注記は、7つの役務の定義を並べた表のすぐ下にあります。つまり、7つすべてについての注記です。語学教室も、パソコン教室も、提供の手段を問わないということになります。
対面の教室だけの話ではありません。ビデオ通話で教える形も、チャットで添削する形も、含まれ得ます。「オンラインだから関係ない」という理解は、この一文で否定されています。
オンラインだから、かえって該当しやすい
オンラインのレッスンは、まとめ売りと相性がいい。移動がないので週2回の設定がしやすく、3か月のコースが作りやすい。決済もまとめて済ませられます。
つまり、期間と金額の両方を超えやすい形です。対面の単発レッスンより、むしろ該当する可能性が高い。手軽に始められる形だからこそ、確認が要ります。
そして、教材をデータで渡す形も一般的です。Q&Aは総額に「教材費」を含めるとしているので、データの教材も金額に入ってくると考えておくほうが安全でしょう。無料で配るつもりでも、コースの一部として渡すなら、扱いは個別に確認が要ります。
プラットフォームを使っていても、提供するのは自分
スキル販売のサービス上で契約している場合、義務がどちらにあるのかは個別の契約関係によります。ただ、役務を提供しているのは自分だという前提で考えておくほうが安全です。
プラットフォームの規約には、法令の遵守が出品者の責任として書かれているのが通例です。せどりの回で書いた「許可・届出・免許等が必要な商品を、許可等なく出品することは禁止行為」という記述と、構造は同じです。
プラットフォーム側が書面を用意してくれるわけでもありません。決済と集客を借りているだけで、役務を提供する主体は自分です。この前提で、自分が何をすべきかを考えてください。
回数券や会員制にしても、逃れられない
期間の条件を外すために、回数券の形にすればいい。そう考える人がいます。Q&Aは、ここにも触れています。
チケット制・会員権制も対象
「いわゆる『チケット制』や、『会員権制』のエステティック、語学教室等についても、基本的に規定の対象としています」と書かれています。
有効期限のあるものについては「有効期限をもって役務提供期間とみなし、これが基準期間を超えれば対象となり」ます。3か月有効の回数券なら、3か月の役務提供期間として見られる、ということです。
理由も書かれています。「有効期限内はいつでも役務提供を受けることが可能なことから」。実際に何回使ったかではなく、使える状態が続いた期間で見るという考え方です。1回しか使わなくても、期間は有効期限で数えられます。
有効期限をなくすと、常に対象になる
では期限をなくせばいいかというと、逆です。Q&Aは「有効期限のないものについては、いつでも使用可能ということから、役務提供期間は常に基準期間を超えるとみなします」と書いています。
期限をなくすと、期間の条件は自動的に満たされます。あとは金額が5万円を超えるかどうかだけになる。回避の手段にはなりません。
「いつでも使えます」は、売り文句としては強い。ですが、その設計は期間の条件を満たす方向に働きます。親切のつもりの仕様が、規制の対象を広げるという構造になっています。設計の段階で知っておく価値があります。
第三者が売る場合も対象
さらに「こうしたチケットや会員権を、役務提供を行う事業者以外の第三者が販売する場合には、『特定権利販売契約』として、同様に法律の対象となります」とも書かれています。
誰かに代わりに売ってもらう形にしても、同じ話になります。形を変えて外そうとする設計は、たいてい想定済みです。回避を考えるより、該当する前提で準備するほうが早い。
紹介してくれた人に販売まで任せる、代理店のような形を作る。こうした設計を考えるときは、自分だけでなく売る側にも義務が及ぶ可能性があることを頭に置いてください。人を巻き込むほど、確認すべきことが増えます。
対象になると、書面を2回渡す義務が生まれる
該当した場合に何をしなければならないか。
契約前と契約時の2回
Q&Aは「特定継続的役務提供を行う場合は、事業者は契約締結までと契約締結時の2回、それぞれ書面を交付することが義務付けられています」としています。
1回ではなく2回です。契約書を渡せば終わり、ではありません。その前に、もう1つ渡すものがあります。
2回に分かれているのは、それぞれ目的が違うからです。1つ目は申し込むかどうかを判断するための情報、2つ目は結んだ契約の内容の記録。渡すタイミングも、中身も別のものです。
概要書面は、判断するための情報
契約締結までに交付する書面について、Q&Aは「消費者が契約を締結するに当たって知っておくべき必要な情報を提供するものです」と説明しています。
そして「契約を締結するまでの間に、具体的には、契約を締結する等のために事業者の店舗を訪れた消費者に対して、役務内容等の説明とあわせて交付することになります」と続きます。
相手が申し込むかどうかを決める前に渡すものです。決めた後に渡しても、意味がありません。
オンラインで完結する場合、この「契約を締結するまでの間」をどう作るかが実務上の課題になります。申込みボタンの前に置くのか、申込前のやりとりで送るのか。渡したことが記録に残る形にしておくのが安全です。方法については専門家に確認してください。
契約締結時書面は、遅滞なく
もう1つの書面について、Q&Aは「契約を締結した後、当該契約の内容及び当該契約に関して法律で定められた事項について情報提供するもの」とし、「『遅滞なく』交付されるべきもので、特段の事情がない限り、契約の締結を行ったその場で交付することとなります」と書いています。
「後で送ります」では足りない、ということです。その場で渡すのが原則。オンラインで契約するなら、申し込みの直後に届く形を作っておく必要があります。
クーリング・オフと中途解約の対象になる
Q&Aには、クーリング・オフと中途解約についての記述もあります。「役務の提供を受けるに当たって、役務の提供の際に購入する必要があるとして購入した商品についてもクーリング・オフが可能です」として、関連商品も対象になることが説明されています。
つまり、受講料だけでなく、一緒に売った教材も返品の対象になり得ます。「教材は返品不可」と書いておけば済む、という話ではありません。
だから、教材の作り方も変わります。返品されて困るものを、コースの一部として売らない。あるいは、返品を前提にした条件を最初から書いておく。売り方を決める前に、返されたときのことを考えるという順番になります。
広告で書いてはいけないこと
該当する場合、広告にも制限がかかります。ここは副業でやりがちな表現が並びます。
誇大広告の禁止
Q&Aは、虚偽・誇大広告の基準として「著しく事実に相違する」と「実際のものよりも著しく優良・有利であると人を誤認させる」の二点を設けている、と説明しています。
そして具体例として、「当該役務を直接提供する者に関する事項(施術者、講師等の資格や能力等)に関する誇大広告」を挙げています。講師の資格や能力を盛る表現が、まさに該当します。
また「『文部大臣認定』、『経済産業省推薦』、『東京都公認』等の虚偽の表示をした場合」も挙げられています。公的な機関の名前を、根拠なく添えない。
「必ず上がります」は危ない
Q&Aは、効果を強調した広告についても具体的に書いています。「『-○○kg、あなたにも保証します。』といった記述、根拠がないにもかかわらず『+○○点アップを実現します。』との記述は、誇大広告に該当する可能性が高いと考えられます」。
判断基準として、「役務提供を受ける全ての者について、このような効果があると誤認されるような記述、表現があるか否か」によるとも説明されています。
一部の人に出た結果を、全員に出るかのように書かない。これはSNS運用代行の回で書いた「成果を約束しない」と同じ話ですが、こちらは法律の規定です。
体験談の使い方にも注意が要る
Q&Aは「役務の提供により著しい効果の発生、目的の実現があった者を広告上で紹介し」た広告が見受けられる、と指摘しています。そのうえで、他の不特定多数についても同様の効果を、実態上は不確実であるにもかかわらず確実であるかのように謳っているか、で判断されるとしています。
実際にあった体験談でも、見せ方によっては問題になり得るということです。載せるなら、全員に同じ結果が出るわけではないことが伝わる形にしてください。
不実の告知と、威迫して困惑させることの禁止
Q&Aは、解約を妨げるために事実と違うことを告げることも禁止行為として説明しています。例として「契約解除の申し出た時に、『あなたの場合は特殊事情であり、解約はできないことになっている。』といった不実の説明を行い契約の解除を回避すること」を挙げています。
また「威迫」を「脅迫に至らない程度に人に不安を生ぜしめるような行為」と説明しています。解約を申し出られたときの対応が、ここに当たります。引き止めたい気持ちは分かりますが、線があります。
契約を変更したときの扱い
途中で期間や金額を変えることもあります。ここにも記述があります。
対象外だった契約を変更した場合
Q&Aは「当初規制対象外であった契約の内容が変更された場合、基本的には新たに契約が締結された場合と同様に考えて、変更後の契約内容が法律の要件に該当する場合には、契約変更の時点から新たに法規制の対象となり、書面交付義務が発生し、クーリング・オフ、中途解約ができることになります」としています。
1か月のコースを受けてもらって、気に入ったので延長する。この延長で条件を超えれば、そこから対象になります。
これは、続けてもらえた結果として起きる話です。うまくいっているときほど、該当しやすくなる。最初の1本が終わって延長の相談が来たら、その時点でもう一度この記事の判断を通してください。
「延長前提の1か月」は、最初から対象
さらに踏み込んだ記述もあります。「例えば当初の契約において、外形上『一か月』としていても当然に契約期間の延長を前提としており実質的に法律の要件に該当している場合には、そもそも当初の契約の時点で規制対象に該当するものと考えられます」。
形式上短くしておいて、実質は継続前提、という設計は通りません。ここまで書かれているということは、そういう例が実際にあったということでしょう。
実務で気をつけたいのは、悪意がなくても該当し得ることです。1か月ごとの更新にしているだけのつもりでも、実質的に継続が前提なら判断は変わります。自分の意図ではなく、外から見た実態で判断されるという前提で考えてください。
対象だった契約は、一方的に変更できない
Q&Aは「当初から特定継続的役務提供に該当する場合については、契約締結時に期間、金額等法律上規定された契約内容を全て書面により明らかにしなければならないのが原則です。したがって、事業者が事後的に一方的にその内容を変更することはできません」としています。
値上げも、回数の変更も、一方的にはできません。最初に書面で決めたことが、そのまま効きます。だから、最初の設計が重要になります。
Q&Aは、合意によって変更する場合についても「その実質に着目して判断することになります」とし、新たな契約が締結されたと考えられる場合には新たに書面交付等を行い、その時点を起算点としてクーリング・オフができる、と説明しています。変更のしかたによって、手続きが変わるということです。
対象にならない形で始めるという選択
ここまで読んで、面倒だと思ったかもしれません。それも1つの判断です。
単発を続ける形にする
いちばん簡単なのは、1回ごとの契約を続けることです。1回のレッスン、1回の相談。終わるたびに完結させ、次を受けたければまた申し込んでもらう。
収入は不安定になりますが、書面の義務も、クーリング・オフの対応も発生しません。副業として始めた段階では、こちらのほうが現実的です。
単発を続けることには、別の利点もあります。合わない相手と長期間続けなくて済むことです。1回ごとに終わる形は、こちらからも降りられるということでもあります。実績が積み上がるまでは、この身軽さのほうが役に立ちます。
総額を5万円以内に収める
まとめて受けるにしても、総額を抑える方法があります。ただし先に書いたとおり、入会金・受講料・教材費・施設利用費、関連商品の販売等を合わせた総額で見られます。
教材を別で売るから大丈夫、という考え方はできません。実質的にどう判断されるかは個別の事情によるので、線の近くで設計するなら確認が要ります。
そもそも、5万円という線を意識して価格を下げるのが正しいとも限りません。内容に見合う金額なら、堂々と超えて、必要な手続きをする。金額を法律に合わせて削ると、提供する中身まで削ることになりがちです。
該当する前提で、きちんと作る
もう1つの道が、該当する前提で準備することです。概要書面と契約締結時書面を用意し、クーリング・オフと中途解約の条件を書いておく。
手間はかかりますが、できる人は少ないので、それ自体が差になります。相手から見れば、書面が整っている人のほうが信用できます。準備するなら、専門家に確認しながら作ってください。
相談先としては、弁護士のほか、各地の消費生活センターや中小企業向けの相談窓口があります。最初の1回さえ作ってしまえば、次からは同じ型を使えます。継続的にこの形で売っていくつもりなら、早い段階で作っておくほうが安く済みます。
判断に迷ったら、窓口に聞く
該当するかどうかの判断は、個別の事情によります。この記事は公開されている記述を紹介したもので、判断を示すものではありません。
迷ったら、消費生活センターや専門家に相談してください。契約を結ぶ前に聞くのが、いちばん安い。これはせどりの回で書いた「分からないものは仕入れない」と同じ考え方です。
聞くときは、自分が売ろうとしているものを具体的に説明できる状態にしておきます。期間、総額、内訳、提供の方法、対象者。この5つを紙に書いてから相談すると、話が早い。曖昧なまま聞いても、曖昧な答えしか返ってきません。
該当する前提で準備する場合の作業量
準備にかかる時間の公的な統計はありません。以下は語学のオンラインレッスンで3か月・総額8万円のコースを作る場合を置いた本メディアの想定モデルで、統計ではありません。また、書面の記載事項は法令で定められているため、作成にあたっては専門家に確認してください。
| やること | 時間 | 備考 |
|---|---|---|
| Q&Aを通しで読む | 60分 | 最初の1回だけ |
| 専門家への相談 | 60分 | 該当の有無と書面の記載事項 |
| 概要書面の作成 | 120分 | 契約前に渡すもの |
| 契約締結時書面の作成 | 120分 | 申込直後に届く形にする |
| 申込みの流れの整備 | 60分 | 2つの書面が順に届く導線 |
初期に7時間、2本目からはほぼゼロ
合計で7時間です。相談の費用は別にかかりますが、これは最初の1回だけの作業です。2つ目のコースを作るときは、同じ書面の型を使い回せます。
単発のレッスンを1回5,000円で受けているとして、7時間は14回分にあたります。3か月8万円のコースが1本決まれば回収できる計算になります。継続の契約に切り替える価値があるなら、この初期投資は見合います。
逆に、継続のコースを売る予定が当面ないなら、この7時間は今やらなくてよい作業です。必要になってから着手しても間に合います。ただし、相手から「まとめてお願いしたい」と言われてから慌てないよう、該当の条件だけは頭に入れておいてください。
書面は、信用の材料にもなる
手間として見ると重いのですが、渡す側から見ると別の意味があります。条件が書面になっていると、相手は安心して申し込めます。
個人から高額のコースを買うとき、相手がいちばん不安なのは「途中でやめたくなったらどうなるか」です。そこが書面に書いてあること自体が、他との差になります。義務だから用意するのではなく、売るための材料として使えます。
提案のときに、こう言えます。「契約の前に概要をまとめた書面をお渡しします。途中解約の条件もそこに書いてあります」。この一言が言える個人は、多くありません。同じ金額でも、選ばれる理由になります。
つまずく場所は5つに決まっている
この分野でつまずくのは、ほぼ5つです。
| つまずく場所 | 公式に書かれていること |
|---|---|
| オンラインなら対象外だと思う | インターネット等を用いる場合も広く含まれる |
| 受講料だけで5万円を判断する | 入学金・教材費・関連商品等の総額で見る |
| 回数券にすれば外れると考える | チケット制・会員権制も基本的に対象 |
| 期限をなくせば大丈夫と考える | 期限がないものは常に基準期間を超えるとみなす |
| 効果を保証する広告を出す | 誇大広告に該当する可能性が高い |
1・オンラインなら対象外だと思う
いちばん多い誤解です。Q&Aは「役務の内容がファックスや電話、インターネット、郵便等を用いて行われる場合も広く含まれます」と明記しています。
教室を持っていないから関係ない、という理解は成り立ちません。提供の手段ではなく、役務の中身と期間と金額で判断される構造です。
むしろオンラインのほうが、まとめ売りをしやすいぶん該当しやすい面があります。手軽さと、規制の対象になりやすさは別だと考えてください。
そして、相手が遠方に住んでいても同じです。場所の条件は、7つのうち学習塾と家庭教師の定義に出てきますが、これは学習塾と家庭教師を区別するためのものです。オンラインだから対象外になる、という条件ではありません。
2・受講料だけで5万円を判断する
公式は「入学金(入会金)・受講料・教材費・施設利用費、関連商品の販売等、契約金の総額が5万円を超えていると対象になります」としています。
受講料を4万9千円に設定して安心していると、教材費で超えます。合計してから判断してください。
計算するときは、相手が払う総額を1つの数字にします。入会金、受講料、教材費、施設利用費、関連商品。相手の財布から出る金額の合計で見るのが、いちばん間違えません。
見積もりや案内文にも、その総額を書いてください。内訳を分けて書くと、相手も総額を把握しにくくなります。合計を明示することは、自分の確認にもなり、相手への説明にもなります。
3・回数券にすれば外れると考える
チケット制も会員権制も、基本的に対象とされています。有効期限があるものは、その期限を役務提供期間とみなして判断されます。
形式を変えることで外そうとする発想は、Q&Aの中で先回りして潰されています。読めば分かる構造なので、読んでおく価値があります。
Q&Aを読んでいて気づくのは、想定される抜け道が1つずつ書かれていることです。思いつく程度の回避は、すでに検討されていると考えたほうが早い。時間を使うなら、回避の設計ではなく、中身の設計に使うほうが建設的です。
4・期限をなくせば大丈夫と考える
これは逆効果です。公式は「有効期限のないものについては、いつでも使用可能ということから、役務提供期間は常に基準期間を超えるとみなします」としています。
期限をなくすと、期間の条件は自動的に満たされる。良かれと思った設計が、該当させる方向に働きます。
回数券や会員制を考えるときは、期限の有無を必ず決めてください。決めないまま売ると、期限なしとして扱われることになります。決めていないことが、不利に働く場面です。
5・効果を保証する広告を出す
集客のために「必ず上がります」と書きたくなります。ですがQ&Aは、根拠がないにもかかわらず「+○○点アップを実現します。」との記述は誇大広告に該当する可能性が高い、としています。
講師の資格や能力についての誇大広告も、具体例として挙げられています。盛りたくなる場所が、そのまま規定されていると考えてください。
代わりに書けることはあります。何回のレッスンで、何を扱い、どう進めるか。約束できるのは、提供する内容と量までです。結果ではなく、過程を具体的に書く。これは他の分野の記事でも繰り返している線引きです。
30代につながるのは、自分の仕事にかかる法律を知っていること
このメディアは、20代の副業を「30代に何が残るか」で選ぶ立場で書いています。この分野で残るのは、教える技術だけではありません。
自分の商売にかかる法律を、自分で調べる習慣
残るのは、自分がやろうとしていることに、どの法律がかかるかを調べる習慣です。特定商取引法のガイドは、消費者庁が公開しています。誰でも読めます。
30代になると、事業や商品を設計する側に回ります。サブスクリプションの設計、解約条件の設定、広告の表現。どこに線があるかを知っている人と、知らない人では、作れるものの安全性が違います。
そして、調べ方自体が身につきます。所管の官公庁を探し、ガイドを読み、Q&Aに当たる。この手順は、どの法律でも同じです。特定商取引法で1回やっておけば、次に別の法律が関わる仕事が来ても、同じ手順で調べられます。
回避ではなく、設計で解く発想
該当しない形に逃げるのではなく、該当する前提できちんと作る。この発想は、仕事の質を変えます。
書面を整え、条件を明示し、解約の手続きを用意する。手間はかかりますが、その手間をかけた商品は、揉めません。そして揉めないことが、結局はいちばん安い。
回避を考える時間と、設計する時間は、だいたい同じくらいかかります。同じ時間を使うなら、後に残るほうに使う。回避の工夫は資産になりませんが、整えた書面は次のコースでも使えます。
相手を守る設計が、自分を守る
クーリング・オフも、書面の交付も、消費者を守るための規定です。ですが、条件を先に書面で明らかにしておくことは、提供する側の防御にもなります。
言った言わないが起きません。解約の条件も最初に示してあります。30代で自分のサービスを持つときに、この作り方を知っているかどうかは大きな差になります。
この考え方は、副業に限りません。社内の制度でも、取引先との契約でも同じです。相手が不利にならないように条件を明示することが、結果として自分の立場も守る。規制を守るというより、揉めない仕組みを作る、という捉え方をしておくと続きます。
まとめ
- 継続して教える形にすると、特定商取引法の「特定継続的役務提供」に当たる場合がある。定義は「心身又は身上に関する目的を実現させることをもって誘引が行われるもの」かつ「目的が実現するかどうかが確実でないもの」(法第41条第2項)
- 対象は政令で定める7つ。エステティック、美容医療、語学教室、家庭教師、学習塾、パソコン教室、結婚相手紹介サービス。期間はエステ・美容医療が1月超、他は2月超。金額はいずれも5万円超
- 金額は受講料だけでなく入学金(入会金)・受講料・教材費・施設利用費、関連商品の販売等の総額で見る
- 「役務の内容がファックスや電話、インターネット、郵便等を用いて行われる場合も広く含まれます」。オンラインでも対象になり得る
- チケット制・会員権制も基本的に対象。有効期限のないものは、役務提供期間が常に基準期間を超えるとみなされる
- 該当すると、契約締結までと契約締結時の2回の書面交付が義務。関連商品もクーリング・オフの対象になり得る
- 広告では、講師の資格や能力の誇大表示、公的機関の虚偽表示が具体例として挙げられ、根拠のない「+○○点アップを実現します。」は誇大広告に該当する可能性が高いとされている
- 出典は消費者庁「特定継続的役務提供Q&A」。該当するかどうかの判断は専門家や窓口へ
よくある質問(FAQ)
オンラインだけで教えている場合も、対象になりますか。
消費者庁のQ&Aには、役務ごとの定義の注記として「役務の内容がファックスや電話、インターネット、郵便等を用いて行われる場合も広く含まれます」と書かれています。提供の手段ではなく、役務の中身と期間と金額で判断される構造です。個別の判断は専門家や消費生活センター等の窓口にご相談ください。
コーチングや相談は、7つのどれに当たりますか。
公式に挙げられている7つは、いわゆるエステティック、美容医療、語学教室、家庭教師、学習塾、パソコン教室、結婚相手紹介サービスです。自分が提供しているものがこのいずれかの定義に当たるかどうかは、個別に判断が必要です。名称ではなく、Q&Aに書かれた定義の文言と照らしてください。判断に迷う場合は、専門家や窓口にご相談ください。
受講料を4万9千円にすれば対象外ですか。
Q&Aは「『対価』については、入学金(入会金)・受講料・教材費・施設利用費、関連商品の販売等、契約金の総額が5万円を超えていると対象になります」としています。受講料だけでなく、教材費や一緒に売った商品も含めた総額で見られます。合計してから判断してください。
回数券にすれば、期間の条件から外れますか。
Q&Aは「いわゆる『チケット制』や、『会員権制』のエステティック、語学教室等についても、基本的に規定の対象としています」としています。有効期限のあるものは有効期限を役務提供期間とみなし、有効期限のないものは「役務提供期間は常に基準期間を超えるとみなします」と書かれています。期限をなくすと、かえって期間の条件を満たすことになります。
副業として始めるとき、確定申告や会社への影響はどうなりますか。
この記事では特定継続的役務提供の線引きだけを扱っています。副業全般の論点は姉妹メディア「20代の放課後」で扱っています。確定申告と20万円ルール、副業の始め方を参照してください。
まとめ売りを提案する前に、Q&Aを読んでおく
対象になる7つの役務、期間と金額の線、書面の義務、広告の制限。消費者庁の特定商取引法ガイドに、一問一答の形でまとまっています。継続の契約に切り替える前に、一度通しで読んでおいてください。