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ハンドメイドの原価計算|材料費は一部でしかなく、自分の時間はどの定義にも入っていない

ミシンの脇に置かれた裁ちばさみと糸切りばさみ、布と白い糸

ハンドメイドを副業にするとき、値付けでつまずく人が多くいます。材料費に少し足した金額で出してみたら、作れば作るほど手元にお金が残らない。よく聞く話です。

原因は、たいてい計算の範囲にあります。材料費は、原価の一部でしかありません。そして、いちばん大きな要素である自分の作業時間は、税金の計算にはそもそも入ってきません。

この記事では、国税庁が公開している必要経費の定義を読み、そこから「値付けのための原価」をどう組み立てるかを整理します。扱うのは、材料費だけで計算するとずれる理由、公式の定義の構造、家事関連費、計上する年、人件費の扱い、自分の時間、2種類の計算の分け方、時間を原価に入れる手順、想定モデル、つまずく場所です。

この記事は、公開されている記述を紹介するものであり、税務の解説ではありません。個別の判断は、所轄の税務署や税理士にご相談ください。記事の中で、これは経費になる・ならないという結論は書きません。公式に書かれていることと、そこから自分で確認すべきことを示します。

引用は国税庁のタックスアンサー「No.2210 必要経費の知識」と「No.2075 青色事業専従者給与と事業専従者控除」から、両ページには「令和8年4月1日現在法令等」と記載があります。制度は改正されるので、実際の判断の際は最新のページをご確認ください。

「材料費=原価」で計算すると、どこがずれるか

まず、よくある計算から見ます。

材料費に「気持ち」を足す計算

布代が600円、ボタンとファスナーで200円、糸を少し。合計900円くらいだから、2,000円で売ろう。この計算をしている人は、とても多いはずです。

差額の1,100円が利益に見えます。ですが、ここから引かれるものがいくつもある。引かれた後に残る金額を、作業時間で割ってみたことがあるでしょうか。そこを見ないまま続けると、忙しいのにお金が増えない状態になります。

この計算が悪いわけではありません。始めるときは、これで十分です。問題は、売れ始めた後も同じ計算を続けてしまうことです。個数が増えるほど、抜けている分も増えていきます。

間に入ってくるもの

販売の場を使えば手数料がかかります。発送には資材と送料がかかる。梱包用の箱、緩衝材、宛名シール。作品の写真を撮るための背景紙や照明も、いつか買ったはずです。

これらは1個ずつ見ると小さい金額です。だから頭から抜けます。ところが、まとめると材料費と同じくらいになることがある。小さい費用ほど、計算から落ちます。

数えるときは、1か月分のレシートを並べてみてください。作品に使ったもの以外で、何にいくら使ったか。1回やってみるだけで、抜けていた項目がだいたい出そろいます。

そして、時間が入っていない

いちばん大きいのがこれです。2時間かけて作ったものなら、2時間分の価値がある。ですが、材料費に足す計算では、時間はどこにも現れません。

時間は目に見えないので、計算から抜けやすい。そして抜けたまま値段を決めると、時給が後から決まることになります。先に決めるのではなく、結果として決まってしまう。これが、この分野でいちばん多い順番の間違いです。

時間を入れない計算には、もう1つの問題があります。早く作れるようになっても、それが金額に反映されません。上達しても収入が変わらない構造になっている。続ける気力に関わる部分です。

だから、定義から確認する

感覚で足していくと、抜けたものに気づけません。そこで、公的に定義されているものから確認します。

国税庁は、必要経費に何が入るかを公開しています。まずそれを読んで、税金の計算で認められる範囲を把握する。そのうえで、値付けのために自分で足すものを決める。この順番なら、抜けが減ります。

幸い、この分野には公開された定義があります。税金の計算のために、国が基準を示しているからです。値付けのために作られたものではありませんが、費用を数える枠としては使えます。使えるものは、目的が違っても使います。

公式の定義は、2つの束でできている

国税庁のページを読みます。

公式の記述

タックスアンサー「No.2210 必要経費の知識」には、こう書かれています。「事業所得、不動産所得および雑所得の金額を計算する上で、必要経費に算入できる金額は、次の金額です」。そして2つが並びます。

「(1)総収入金額に対応する売上原価その他その総収入金額を得るために直接要した費用の額」、「(2)その年に生じた販売費、一般管理費その他業務上の費用の額」。1つではなく、2つの束に分かれています。

この2つは、性質の違うものを分けて書いたものです。売れたものに直接かかったか、事業全体のためにかかったか。この分け方は、値付けの計算でもそのまま使えます。

1つ目の束が「売上原価」

売れたものに直接かかった費用です。ハンドメイドなら、その作品に使った材料がここに当たります。ここで大事なのは「総収入金額に対応する」という条件です。

売れた分に対応する、という意味になります。つまり、まとめ買いした材料のうち、まだ作品になっていない分は扱いが違ってきます。買った金額がそのまま全部この束に入るわけではない、ということです。

ハンドメイドで言えば、その作品に入っている布や金具がここです。「その作品に入っているか」で判断すると分かりやすい。作品に残らないもの(梱包材や道具)は、性質が違ってきます。

2つ目の束が「販売費、一般管理費その他業務上の費用」

こちらは、個々の作品に直接ひもづかない費用です。条文の言葉としては「販売費、一般管理費その他業務上の費用の額」。手数料や送料、道具類は、性質としてはこちらの側で考えることになります。

ここが抜けやすい。材料費だけを見ている人は、1つ目の束しか見ていません。公式の定義が2つに分かれていること自体が、計算の抜けを防ぐ手がかりになります。

この束は、作品の個数と比例しないものが多く含まれます。だから、1個あたりに割る作業が必要になります。月にいくらかかっているかを出して、その月の個数で割る。この一手間で、1個あたりの姿が見えます。

読み方として押さえること

定義が2つに分かれているということは、チェックリストも2つ必要だということです。この作品に直接使ったものは何か。事業全体のために使ったものは何か。

この2問を分けて考えると、漏れが減ります。1つの問いで思い出そうとすると、必ずどちらかに偏ります。これは他の分野でも同じで、確認する軸を分けることが抜けを防ぎます。

そして、どちらに入るか迷うものは、迷ったこと自体を記録しておいてください。相談するときの材料になります。迷った項目を一覧にして持っていける人は、相談が1回で済みます。

公式の定義は2つの束。時間はそこにない (1)売上原価など 総収入金額を得るために 直接要した費用の額 例:その作品に使った材料 (2)販売費・一般管理費 その他業務上の 費用の額 例:手数料・送料・道具 自分の作業時間は、この2つのどちらにも項目がない 税金の計算に出てこない = 値付けでも忘れられる だから、帳簿の計算とは別に、自分で時間を置いた計算を持つ
必要経費の2つの束と、そこに入らないもの

自宅で作る人が最初にぶつかる「家事関連費」

同じページに、注意事項として書かれている項目があります。

家事関連費についての記述

こうあります。「家事上の費用は必要経費となりませんが、個人の業務においては一つの支出が家事上と業務上の両方にかかわりがある費用(家事関連費といいます。)となるものがあります」。

例として挙げられているのが「店舗併用住宅に係る費用(租税公課、家賃、水道光熱費など)」です。自宅の一室で作っている人は、まさにこの状況にあります。

「家事関連費」という言葉が、条文の中で定義されています。日常語ではないので、この言葉を知らないと該当箇所を探せません。公式のページを検索するときは、この言葉で探してください。

条件が明記されている

続けて、こう書かれています。「この家事関連費のうち必要経費になるのは、取引の記録などに基づいて、業務遂行上直接必要であったことが明らかに区分できる場合のその区分できる金額に限られます」。

「明らかに区分できる場合」「その区分できる金額に限られます」。区分できることが条件で、区分できた金額だけが対象、という二重の絞りになっています。

この条件の書き方に注目してください。できる、とだけ書いてあるのではなく、どういう場合に、どこまでが対象かが同じ文に入っています。条文は、許可と条件を1つの文にまとめることがあります。途中で読むのをやめると、条件を見落とします。

だから、記録が先になる

区分の根拠は「取引の記録などに基づいて」とされています。つまり、後から思い出して割合を決めるのではなく、記録があることが前提になっています。

作業した時間、使った部屋の広さ、materialを置いている場所。どう区分したのかを説明できる材料を、その都度残しておく。これは値付けのためにも役に立ちます。時間の記録がそのまま、後で見る原価の材料になるからです。

記録は、後から作れません。その日に使った時間や場所は、翌月には思い出せなくなります。記録するかどうかを迷っている時点では、まだ間に合います。迷ったら、残す側を選んでください。

判断は自分で決めない

どこまでが区分できるかは、状況によって変わります。この記事では、具体的にどう按分すればよいかは書きません。

公式のページにも、割合の決め方までは書かれていません。ここは所轄の税務署や税理士に確認する場面です。記録に基づいて区分できる金額に限られる、という条件を知ったうえで相談できるかどうかで、話の通りやすさが変わります。

相談先は、所轄の税務署のほか、確定申告の時期に開かれる相談会もあります。費用をかけずに聞ける窓口があります。自分で決めて後から直すより、先に聞いたほうが早い場面です。

支払った年ではなく、債務が確定した年

もう1つ、計上の時期についての記述があります。

債務の確定という条件

こうあります。「必要経費となる金額は、その年において債務の確定した金額(債務の確定によらない減価償却費などの費用もあります。)です」。

そして、「つまり、その年に支払った場合でも、その年に債務の確定していないものはその年の必要経費になりませんし、逆に支払っていない場合でも、その年に債務が確定しているものはその年の必要経費になります」。支払いのタイミングと、経費になるタイミングは別だということです。

「債務の確定」という言い方も、日常では使いません。ですが、この言葉が分かれば、いつの経費になるかを自分で判断できるようになります。用語を覚えることが、そのまま判断力になる部分です。

3つの要件が並んでいる

「その年において債務が確定している」の中身も明記されています。「(1)その年の12月31日までに債務が成立していること」「(2)その年の12月31日までにその債務に基づいて具体的な給付をすべき原因となる事実が発生していること」「(3)その年の12月31日までに金額が合理的に算定できること」。

この3つを「すべて満たす場合」とされています。条件が3つ並んでいるときは、全部か一部かを必ず確認してください。ここは「すべて」と書かれています。

ハンドメイドで効く場面

年末に材料をまとめ買いした場合を考えてみてください。支払いは終わっている。ですが、売上原価は「総収入金額に対応する」ものでした。

買っただけで、まだ作品になっていない材料。この扱いは、思っているのと違う可能性があります。年をまたぐ買い物をするときは、先に確認しておいたほうがよい場面です。

逆に、年明けに買えばよかった、という話でもありません。必要なときに買うのが基本で、扱いを知っておくことが目的です。税金のために買い物の時期を決めるのは、順番が逆になります。

値付けの側でも、同じ発想が要る

税務の話とは別に、値付けでも同じ考え方が使えます。まとめ買いした材料の金額を、そのまま1個の原価にしてはいけない。

10個分の材料を買ったなら、1個あたりに割る。使い切れずに残った分も、いつかは原価のどこかに乗ります。余りが出る前提で仕入れるなら、その分も含めて考えておく必要があります。

使い切れずに残る前提なら、その分も価格に含めておく。あるいは、残らない量だけ買う。どちらを選ぶにしても、残りが出ることを計算に入れておくことが先です。

人件費は、払う相手によって扱いが変わる

作業を手伝ってもらう場合の話です。

必要経費にならないものの例

「No.2210 必要経費の知識」には、必要経費にならないものの例として、こうあります。「生計を一にする配偶者その他の親族に支払う給与賃金(青色事業専従者給与は除きます。)は必要経費になりません」。

家族に手伝ってもらって、お金を渡した。それが自動的に経費になるわけではない、ということです。

「生計を一にする」という条件が入っています。この言葉も定義のある用語で、一緒に住んでいるかどうかとは必ずしも一致しません。該当しそうな場合は、この用語の意味から確認してください。

特別な取扱いも明記されている

「No.2075 青色事業専従者給与と事業専従者控除」には、こう書かれています。「これらの給与は原則として必要経費にはなりませんが、次のような特別の取扱いが認められています」。

そして、青色申告の場合の「青色事業専従者給与」と、白色申告の場合の「事業専従者控除額」が説明されています。白色申告については「配偶者は最高 86 万円、15 歳以上のその他の親族は最高 50 万円を必要経費として差し引くことができます」とあります。

条件も細かく並んでいる

青色事業専従者給与には要件が並びます。「その年の12月31日現在で年齢が15歳以上であること」「その年を通じて6か月を超える期間(一定の場合には事業に従事することができる期間の2分の1を超える期間)、その青色申告者の営む事業に専ら従事していること」。

さらに届出書の提出も要件です。原則は経費にならず、条件を満たした場合に例外が認められる、という構造になっています。この構造は、他の制度でもよく出てきます。

生計を一にしない人なら

公式の記述はいずれも「生計を一にする」親族についてのものです。それ以外の人に支払う場合の扱いは、このページには書かれていません。

つまり、誰に払うかで見るページが変わります。人件費という1つの言葉の中に、扱いの違う複数の状況が入っている。自分がどれに当たるかを先に決めてから、該当するページを読んでください。

友人に手伝ってもらう、外注する。こうした場合は、また別の論点が出てきます。誰にいくら払うのかが決まってから、その状況に合うページを探してください。先に一般論を読んでも、当てはまりません。

自分の作業時間は、どちらの束にも入っていない

ここが、この記事でいちばん伝えたい点です。

定義を読み返してみる

必要経費の定義は2つでした。「総収入金額に対応する売上原価その他その総収入金額を得るために直接要した費用の額」と「その年に生じた販売費、一般管理費その他業務上の費用の額」。

どちらも「費用の額」です。自分が働いた時間を金額に置き換える項目は、この定義の中にありません。人件費についての記述も、支払う相手がいる場合の話でした。

この事実は、制度の欠陥ではありません。税金の計算は、事業の外にお金が出ていったかどうかで見ているからです。自分の時間は、外に出ていくお金ではない。だから入らない、という筋の通った話です。

つまり、帳簿には現れない

材料を買えば、レシートが残ります。手数料が引かれれば、明細に出ます。ですが、2時間かけて作ったという事実は、どこにも金額として記録されません。

記録に現れないものは、計算からも落ちます。そして、落ちたまま値段を決めると、自分の時間がただになります。これが、ハンドメイドで手元にお金が残らない仕組みの正体です。

現れないものを見えるようにする方法は、記録しかありません。時計で測って、数字にする。面倒に見えますが、最初の1か月だけやれば、あとは感覚で分かるようになります。

帳簿上は、黒字に見える

ここが厄介なところです。材料費と手数料だけを引けば、たいてい残ります。帳簿の上では利益が出ている。

ところが、そこに使った時間で割ると、時間あたりの金額はとても小さい。数字は嘘をついていませんが、見ている範囲が違います。黒字かどうかと、割に合っているかどうかは、別の問いです。

この状態がいちばん危ないのは、問題が起きていないように見えることです。赤字ならすぐ気づきますが、少ない黒字は気づかないまま何年も続けられます。気づくきっかけは、時間で割る計算だけです。

だから、自分で置くしかない

公式が用意していない以上、自分で時間の値段を決めることになります。いくらに置くかは自由ですが、置かないという選択だけは避けてください。

置かなければ、ゼロを置いたのと同じです。決めていないのではなく、ゼロに決めていることになります。この自覚があるかどうかで、値付けの態度が変わります。

置く金額に、正解はありません。高すぎて売れないなら下げればよく、それも判断です。決めた数字があるから、下げるという判断もできます。数字がなければ、判断という行為自体が発生しません。

だから、帳簿の計算と値付けの計算は分ける

実務としての結論です。

2つの計算は目的が違う

帳簿の計算は、税金を正しく申告するためのものです。ルールが決まっていて、入れてよいものと悪いものがある。

値付けの計算は、続けられる価格を決めるためのものです。こちらにはルールがなく、自分で決めます。目的が違うので、同じ数字を使う必要がありません。

目的が違うので、答えが違っても構いません。帳簿では黒字、値付けの計算では足りない。この2つは矛盾ではなく、別のことを測った結果です。同じにしようとすると、どちらかを歪めることになります。

混ぜると、どちらも歪む

帳簿の数字をそのまま値付けに使うと、時間が抜けます。逆に、時間を入れた数字を帳簿に書くわけにもいきません。

だから、2つの表を持ちます。1つは申告のための記録。もう1つは、自分が値段を決めるための計算。材料費や手数料は両方に出てきますが、時間は後者だけに出てきます。

混ざりやすいのは、確定申告の時期です。帳簿を作りながら値付けを考えると、頭の中で1つになってしまう。時期をずらすのも手です。値付けの見直しは、申告が終わってから落ち着いてやる。

後者を作るのは、そんなに手間ではない

表計算のシートを1枚用意して、作品ごとに行を作る。材料費、手数料、送料、資材、そして作業時間。列を5つ作るだけです。

作るたびに1行埋めれば、数か月で傾向が見えてきます。どの作品が時間あたりで割に合っているか。感覚ではなく、記録から分かるようになります。

最初から完璧な表を作ろうとしないでください。列が5つあれば足ります。項目を増やすより、毎回埋めることのほうが大事です。埋まらない表は、どんなに立派でも役に立ちません。

記録は、税務の側にも効く

先に見たとおり、家事関連費の区分は「取引の記録などに基づいて」とされていました。時間や使用状況を記録しておくことは、こちら側でも意味を持ちます。

2つの計算は分けますが、記録する行為そのものは共通しています。1回の手間で、両方に使えるものが残ります。

そして、記録があると相談もしやすくなります。「だいたいこのくらい」ではなく、実際の数字で話せる。聞かれたことに答えられると、相談は短く済みます。

窓口の時間は限られています。数字を持っていけば、その場で答えが出ることも多い。準備の差が、そのまま相談の成果の差になります。

時間を原価に入れる4つの手順

具体的な進め方です。

  • 1・作業を分けて、それぞれ測る:制作だけでなく、撮影・梱包・やりとりも
  • 2・自分の時間単価を決める:金額はいくらでもよいが、必ず数字にする
  • 3・1個あたりに割り振る:まとめてできる作業は、個数で割る
  • 4・手数料は最後に上から乗せる:率で引かれるものは、率で戻す

1・作業を分けて、それぞれ測る

作る時間だけを測る人が多いのですが、それでは足りません。写真を撮る時間、説明文を書く時間、梱包する時間、問い合わせに返信する時間。これらも仕事です。

1週間、すべての作業に時間を記録してみてください。制作以外の時間が、想像より多いことに気づくはずです。ここが見えていないと、制作時間だけで計算して、実態とずれます。

測り方は、スマートフォンのタイマーで十分です。始めるときに押して、終わったら止める。正確さより、続けられることを優先してください。5分単位の記録でも、傾向は十分につかめます。

2・自分の時間単価を決める

いくらに置くかは自由です。今のアルバイトの時給でもよいし、将来こうなりたいという金額でもよい。大事なのは、決めることです。

決めた金額はメモに残しておいてください。半年後に見直すときの基準になります。そして、上げるときは理由を書く。慣れて早くなったのか、技術が上がったのか。理由があれば、自信を持って上げられます。

最初は低めに置いても構いません。置いた数字で計算してみて、現実の価格とどれだけ差があるかを見るのが目的です。差が分かれば、次に何をすべきかも決まります。

3・1個あたりに割り振る

5個まとめて作るなら、共通の作業は5で割ります。撮影をまとめてやるなら、その時間も割る。1個だけ作るときと、まとめて作るときでは、1個あたりの時間が変わります。

これが分かると、受注の仕方も変わります。まとめて作れる注文のほうが、時間あたりの条件が良くなる。同じ作品を複数出すか、受注生産にするか。判断の材料になります。

ただし、まとめて作れば疲れます。1日に何個までなら品質を保てるかも、あわせて記録しておいてください。計算上は効率的でも、続けられない量なら意味がありません。

4・手数料は最後に上から乗せる

販売の場に払う手数料は、たいてい販売価格に対する率で決まります。だから、原価に足すのではなく、価格に対して逆算する必要があります。

原価の合計が1,500円で、手数料が1割なら、1,500円を0.9で割る。足し算ではなく割り算になります。ここを足し算でやると、手数料の分だけ足りなくなります。率で引かれるものは、率で戻してください。

手数料の率は、使う場所によって違います。そして、変更されることもあります。自分が使っている場所の最新の率を、公式のページで確認してください。人から聞いた数字で計算しないこと。

1個あたりで考えたときの想定モデル

ハンドメイドの作業時間や価格に公的な統計はありません。以下は、布小物を1個作る場合を置いた本メディアの想定モデルで、統計ではありません。使っている手数料の率も、どこかの事業者の実際の率ではなく、計算の形を示すための仮の数字です。

項目 金額・時間 備考
材料費 900円 布・金具・糸
梱包資材 120円 箱・緩衝材・シール
制作時間 100分 裁断から仕上げまで
撮影・説明文 20分 5個分をまとめて割った時間
梱包・発送 15分 1個ごとに発生

時間の合計は135分

制作100分、撮影と説明文で20分、梱包と発送で15分。合計135分、2時間15分です。

制作時間だけを見ていると100分ですが、実際には35分多い。この35分が、計算から抜けやすい部分です。1個では小さく見えますが、月に20個作れば11時間を超えます。

この35分は、作品を作っていない時間です。だから、作る楽しさもありません。楽しくない時間ほど、計算から落ちやすい。意識して数えないと、いつまでも見えないままになります。

時間単価を1,200円に置いてみる

135分は2.25時間です。1,200円を掛けると2,700円。材料費900円と資材120円を足すと、3,720円になります。

ここに販売手数料を乗せます。仮に1割とすると、3,720円を0.9で割って約4,133円。この作品は、4,200円前後で売って、ようやく時間単価1,200円が成り立つ計算になります。

この4,200円という数字を見て、高いと感じたでしょうか。その感覚も、大事な情報です。自分の作品にその金額をつけられないと感じるなら、理由を考える価値があります。

2,000円で売っていた場合

同じ作品を2,000円で売ったとします。手数料1割で手取り1,800円。材料費と資材で1,020円を引くと、残りは780円。

これを2.25時間で割ると、時間あたり約347円です。帳簿の上では780円の黒字ですが、時間で見るとこうなります。どちらの数字も正しく、見ている範囲が違うだけです。

この計算をしたことがない人は、一度やってみてください。自分の作品で、実際の数字を入れる。他人の例では、実感になりません。1個でいいので、最後まで計算してみることをおすすめします。

この差をどうするか

取れる手は3つです。価格を上げる。作る時間を短くする。まとめて作って共通作業を割る。どれを選ぶにしても、まず数字が見えていることが前提になります。

そして、価格を上げられないと判断したなら、それは「時間単価347円で続ける」という判断をしたということです。知ったうえで選ぶのと、知らずに続けるのは違います。

すぐに価格を上げられないことも多いはずです。その場合は、まとめて作る方向から試してください。価格は相手のある話ですが、作り方は自分で変えられます。自分で変えられるところから手をつけます。

つまずく場所は5つに決まっている

この分野でつまずくのは、ほぼ5つです。

つまずく場所 公式に書かれていること
材料費だけで原価を計算する 必要経費の定義は2つの束に分かれている
制作時間だけを測る (記載外。撮影・梱包・やりとりも仕事)
自宅の費用をなんとなく入れる 明らかに区分できる場合のその区分できる金額に限られる
支払った年に全部入れる その年において債務の確定した金額
手数料を足し算で計算する (記載外。率で引かれるものは率で戻す)

1・材料費だけで原価を計算する

公式の定義は「売上原価その他その総収入金額を得るために直接要した費用の額」と「その年に生じた販売費、一般管理費その他業務上の費用の額」の2つです。

材料費は前者の一部でしかありません。定義が2つあることを知っていれば、チェックする軸も2つになります。

直すのは簡単です。作品に入っているものと、そうでないもので分けて書き出す。1回作れば、次からはその表を使い回せます。

そして、新しく何かを買ったときに、その表に足していく。買った瞬間が、いちばん忘れていないタイミングです。後でまとめて思い出そうとすると、必ず抜けます。

2・制作時間だけを測る

撮影、説明文、梱包、やりとり。これらは制作ではありませんが、仕事の時間です。

1週間、全部の時間を記録してみてください。制作以外に使っている時間の多さが、いちばん驚く発見になるはずです。

制作以外の時間は、作品の数が増えるほど効いてきます。1個なら15分でも、20個なら5時間です。量が増えたときに苦しくなる原因は、たいていここにあります。先に数えておいてください。

そして、この時間は減らせる部分でもあります。梱包の手順を決める、説明文の型を作る。繰り返す作業ほど、工夫が効きます。まず数えて、それから減らす順番です。

3・自宅の費用をなんとなく入れる

公式には「明らかに区分できる場合のその区分できる金額に限られます」とあります。しかも「取引の記録などに基づいて」が前提です。

感覚で割合を決めると、この条件を満たしません。どう区分したかを説明できる材料を残してください。判断に迷うときは、税務署や税理士に相談する場面です。

そして、感覚で決めた割合は、後から説明できません。説明できないものは、記録としても弱い。どう数えたかを一緒に残しておくのが、いちばん確実です。

4・支払った年に全部入れる

「その年に支払った場合でも、その年に債務の確定していないものはその年の必要経費になりません」。支払いと計上は、別のタイミングです。

年末のまとめ買いは、特に確認が要る場面です。買う前に確認しておけば、後から悩まずに済みます。

ここは、自分で判断せずに確認してください。年末の買い物は、金額が大きくなりがちです。大きい金額ほど、間違えたときの影響も大きくなります。

確認するタイミングは、買う前がいちばんよい。買った後では、選べる手が減ります。年末にまとめ買いを考え始めたら、先に聞いてください。

5・手数料を足し算で計算する

率で引かれるものは、率で戻します。原価に手数料額を足すのではなく、原価を(1-手数料率)で割る。

この1回の割り算を知っているかどうかで、毎回の値付けが変わります。足し算でやると、必ず手数料の分だけ足りません。

数字で確かめてみてください。原価1,500円に1割を足すと1,650円ですが、1,650円から1割引かれると1,485円しか残りません。15円足りない。割り算なら1,667円で、引かれた後にちょうど1,500円が残ります。

30代につながるのは、2種類の計算を持てること

このメディアは、20代の副業を「30代に何が残るか」で選ぶ立場で書いています。この分野で残るのは、作り方の技術だけではありません。

ルールの計算と、自分の計算を分ける発想

残るのは、決められたルールに従う計算と、自分の判断のための計算を、両方持てることです。片方しかない人は、どちらかで損をします。

30代になると、この場面が増えます。会社の制度と、自分のキャリアの計算。予算のルールと、実際に必要な金額。両方を持ったうえで、違いを説明できる人が信頼されます。

そして、2つを持っていると、人に説明するときにも強い。「制度上はこうですが、実際にはこれだけかかります」と言える。片方しか持っていない人は、どちらかの言い分しか話せません。

見えないコストを数える習慣

自分の時間は、記録しなければ存在しないことになります。この構造は、仕事のあらゆる場面にあります。

会議の準備時間、確認の往復、やり直しの時間。帳簿に出ない時間こそ、いちばん量が多い。これを数えられる人は、無理のない計画を立てられます。

数える習慣は、断る判断にもつながります。かかる時間が見えていれば、引き受けられない仕事も分かる。見えていないと、全部引き受けて後から苦しくなります。

そして、断る理由を数字で言えるようになります。「忙しいので」ではなく「この作業に何時間かかるので」。理由が具体的だと、相手も納得しやすい。

定義から読む習慣

感覚で足していくのではなく、公式に定義されているものから確認する。この順番は、どの分野でも使えます。

他の記事でも繰り返してきましたが、要約ではなく定義を読む人は、抜けの少ない判断ができます。そして、判断の理由を人に説明できます。

定義は、たいてい読みにくく書かれています。それでも読む価値があるのは、そこが判断の出発点だからです。要約は誰かの解釈で、定義は共通の土台です。迷ったときに戻れる場所を持っておいてください。

まとめ

  • 国税庁は必要経費に算入できる金額を「(1)総収入金額に対応する売上原価その他その総収入金額を得るために直接要した費用の額」「(2)その年に生じた販売費、一般管理費その他業務上の費用の額」の2つとしている(No.2210)
  • 材料費は(1)の一部でしかない。手数料・送料・資材・道具は性質として(2)の側で考えることになる
  • 自宅で作る場合は「家事関連費」に当たり、必要経費になるのは「取引の記録などに基づいて、業務遂行上直接必要であったことが明らかに区分できる場合のその区分できる金額に限られます」
  • 計上の時期は「その年において債務の確定した金額」。「その年に支払った場合でも、その年に債務の確定していないものはその年の必要経費になりません」
  • 生計を一にする親族への給与は「原則として必要経費にはなりません」が、青色事業専従者給与・事業専従者控除という特別の取扱いがある(No.2075)
  • 自分の作業時間を金額に置き換える項目は、この定義の中にない。だから帳簿では黒字に見えても、時間で割ると割に合っていないことがある
  • 対処は、帳簿の計算と値付けの計算を分けて持つこと。想定モデルでは、材料費900円・資材120円・作業135分の作品を2,000円で売ると時間あたり約347円になった
  • この記事は公開されている記述の紹介であり、税務の解説ではありません。個別の判断は所轄の税務署や税理士にご相談ください

よくある質問(FAQ)

材料費以外に、原価として考えるべきものは何ですか。

国税庁のタックスアンサー「No.2210 必要経費の知識」では、必要経費に算入できる金額を「(1)総収入金額に対応する売上原価その他その総収入金額を得るために直接要した費用の額」と「(2)その年に生じた販売費、一般管理費その他業務上の費用の額」の2つとしています。材料費は(1)の一部です。販売の場に払う手数料、送料、梱包資材、撮影に使う道具といったものは、性質としては(2)の側で考えることになります。どれがどちらに当たるかの個別の判断は、所轄の税務署や税理士にご確認ください。

自宅で作っている場合、電気代や家賃は入れられますか。

この記事では、入れられる・入れられないという結論は書きません。公式に書かれているのは、家事上と業務上の両方にかかわる費用が「家事関連費」と呼ばれること、そして「この家事関連費のうち必要経費になるのは、取引の記録などに基づいて、業務遂行上直接必要であったことが明らかに区分できる場合のその区分できる金額に限られます」ということです。ポイントは、記録に基づいて区分できることが条件になっている点です。割合の決め方までは公式のページに書かれていないため、所轄の税務署や税理士にご相談ください。

自分の作業時間は、経費に入れられないのですか。

必要経費の定義は「費用の額」を2つの束で示したもので、自分が働いた時間を金額に置き換える項目は、その定義の中にありません。人件費についての記述も、生計を一にする親族に支払う給与など、支払う相手がいる場合のものです。だからこそ、税金の計算とは別に、自分で時間の値段を置いた計算を持つことをおすすめしています。置かなければ、ゼロを置いたのと同じになるためです。

時間単価は、いくらに設定すればよいですか。

正解はありません。今のアルバイトの時給でも、将来こうなりたいという金額でも構いません。大事なのは数字にして記録しておくことです。決めた金額と、決めた日付をメモに残してください。半年後に見直すときの基準になります。上げるときは理由も書いておくと、価格を変える判断がしやすくなります。慣れて早くなったのか、技術が上がったのか。理由があれば、説明もできます。

副業として始めるとき、確定申告はどうなりますか。

この記事では原価の考え方だけを扱っています。副業全般の論点は姉妹メディア「20代の放課後」で扱っています。確定申告と20万円ルール、副業の始め方を参照してください。物販の仕入れ判断についてはせどりの仕入れ判断、発送と返品の扱いについては物販の検品と返品対応でも触れています。


値付けの前に、必要経費の定義を読んでおく

何が費用として認められるのかは、国税庁のページに2つの束で書かれています。制度は改正されるので、実際に判断するときは最新のページを確認し、個別の相談は所轄の税務署や税理士へ。

国税庁「必要経費の知識」を見る

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