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退去費用、払わなくていいものは決まっている|国土交通省ガイドラインの負担区分と、6年で1円になる耐用年数

机の上で書類にペンを添えて内容を確認している手元のイメージ

退去の立会いで見積書を渡されて、「え、こんなに?」となる。そのまま払ってしまった、という人は少なくないはずです。

でも、貸主が負担すべきものと借主が負担すべきものは、国の指針でかなり細かく分けられています。しかも借主が負担する場合でも、住んだ年数によって負担割合は下がっていきます。

国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改訂版)」(平成23年8月、国土交通省住宅局)をもとに、その中身を整理します。

先に、このガイドラインの位置づけ

これを外すと話がずれるので、最初に置いておきます。

本ガイドラインについては、賃貸住宅標準契約書(平成5年1月29日住宅宅地審議会答申)と同様、その使用を強制するものではなく、原状回復の内容、方法等については、最終的には契約内容、物件の使用の状況等によって、個別に判断、決定されるべきものであると考えられる。

「ガイドラインに書いてあるから払わない」が、そのまま通るわけではありません。同じ文書は、賃貸借契約について「契約自由の原則により、民法、借地借家法等の法令の強行法規に抵触しない限り有効」ともしています。

では何のための文書かというと、「近時の裁判例や取引等の実務を考慮のうえ」まとめた一般的な基準です。交渉やトラブル解決のときに、話を組み立てる土台になるもの、と理解してください。

原則は「経年変化・通常損耗は貸主負担」

布で覆った家具と積まれた段ボール箱が並ぶ引っ越し前の部屋のイメージ

ガイドラインの出発点はここです。

原状回復は、賃借人が借りた当時の状態に戻すものではないということを明確にし、原状回復を「賃借人の居住、使用により発生した建物価値の減少のうち、賃借人の故意・過失、善管注意義務違反、その他通常の使用を超えるような使用による損耗・毀損(以下「損耗等」という。)を復旧すること」と定義して、その考え方に沿って基準を策定した。

つまり境界線は「通常の使い方の範囲か、それを超えているか」です。普通に住んでいれば当然こうなる、という劣化は貸主の負担。

これはガイドラインだけの話ではありません。民法第621条にも、こう書かれています。

賃借人は、賃借物を受け取った後にこれに生じた損傷(通常の使用及び収益によって生じた賃借物の損耗並びに賃借物の経年変化を除く。以下この条において同じ。)がある場合において、賃貸借が終了したときは、その損傷を原状に復する義務を負う。ただし、その損傷が賃借人の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。

通常損耗と経年変化は、条文の段階で原状回復義務から除かれています。ガイドライン自体に強制力はありませんが、この原則そのものは法律に書かれているものです。

理由も書かれています。経年変化や通常損耗の分は賃借人が賃料として支払ってきているため、退去時にも負担させると二重に評価されることになるから、という説明です。

払わなくていいもの一覧

ガイドラインの「賃貸人・賃借人の修繕分担表」から、貸主の負担となるものを部位別に挙げます。

部位 貸主の負担となるもの
床
畳・フローリング・カーペット
畳の裏返し、表替え(特に破損していないが、次の入居者確保のために行うもの)/フローリングのワックスがけ/家具の設置による床、カーペットのへこみ、設置跡/畳の変色、フローリングの色落ち(日照、建物構造欠陥による雨漏りなどで発生したもの)
壁、天井
クロスなど
テレビ、冷蔵庫等の後部壁面の黒ずみ(いわゆる電気ヤケ)/壁に貼ったポスターや絵画の跡/壁等の画鋲、ピン等の穴(下地ボードの張替えは不要な程度のもの)/エアコン(賃借人所有)設置による壁のビス穴、跡/クロスの変色(日照などの自然現象によるもの)
建具
襖・柱など
網戸の張替え(破損はしていないが、次の入居者確保のために行うもの)/地震で破損したガラス/網入りガラスの亀裂(構造により自然に発生したもの)
設備、その他 専門業者による全体のハウスクリーニング(賃借人が通常の清掃を実施している場合)/エアコンの内部洗浄(喫煙等の臭いなどが付着していない場合)/消毒(台所・トイレ)/浴槽、風呂釜等の取替え(破損等はしていないが、次の入居者確保のために行うもの)/鍵の取替え(破損、鍵紛失のない場合)/設備機器の故障、使用不能(機器の寿命によるもの)

よく請求されるのに貸主負担とされているものが、いくつもあります。

【特に知っておきたい4つ】

  • 画鋲やピンの穴:下地ボードの張替えが不要な程度なら貸主負担
  • 家具を置いてできたへこみ・跡:家具の設置は必然的なものとして貸主負担
  • テレビや冷蔵庫の裏の黒ずみ(電気ヤケ):貸主負担
  • ハウスクリーニング:通常の清掃をしていれば貸主負担(ただし特約がある場合は後述)

ここでいう「通常の清掃」については、ガイドラインが具体的に挙げています。ゴミ撤去、掃き掃除、拭き掃除、水回り清掃、換気扇やレンジ回りの油汚れの除去です。これをやっていれば、専門業者のクリーニング代は貸主負担というのが原則の考え方になります。

払うことになるもの一覧

逆に、借主の負担となるものです。

部位 借主の負担となるもの
床 カーペットに飲み物等をこぼしたことによるシミ、カビ(こぼした後の手入れ不足等の場合)/冷蔵庫下のサビ跡(サビを放置し、床に汚損等の損害を与えた場合)/引越作業等で生じた引っかきキズ/フローリングの色落ち(賃借人の不注意で雨が吹き込んだことなどによるもの)
壁、天井 日常の清掃を怠ったための台所の油汚れ/結露を放置したことで拡大したカビ、シミ(通知もせず、拭き取るなどの手入れを怠り、壁等を腐食させた場合)/クーラーから水漏れし、放置したため壁が腐食/タバコ等のヤニ・臭い/壁等のくぎ穴、ネジ穴(重量物をかけるためにあけたもので、下地ボードの張替えが必要な程度のもの)/天井に直接つけた照明器具の跡/落書き等の故意による毀損
建具 飼育ペットによる柱等のキズ・臭い/落書き等の故意による毀損
設備、その他 ガスコンロ置き場、換気扇等の油汚れ、すす(清掃・手入れを怠った結果汚損が生じた場合)/風呂、トイレ、洗面台の水垢、カビ等(同)/日常の不適切な手入れもしくは用法違反による設備の毀損/鍵の紛失または破損による取替え/戸建賃貸住宅の庭に生い茂った雑草

並べてみると、分かれ目がはっきりします。同じ汚れでも、「放置したかどうか」で負担が変わるということです。

結露そのものは避けられなくても、放置して壁を腐食させたら借主負担。冷蔵庫の下にサビが出ること自体は通常の範囲でも、放置して床を傷めたら借主負担。ガイドラインはこの考え方を繰り返し使っています。

6年で1円になる。耐用年数の考え方

ここからが、知っていると金額が変わるところです。

借主負担になった場合でも、全額を払うわけではありません。ガイドラインは、経過年数によって負担割合を下げる考え方を採用しています。

賃借人の負担については、建物や設備等の経過年数を考慮し、年数が多いほど負担割合を減少させることとするのが適当である。

理由は前に書いたとおり、経年変化・通常損耗の分はすでに家賃で払っているから、二重取りになるためです。

そして減り方の基準がこれです。平成19年の税制改正で残存価値が廃止され、耐用年数経過時に残存簿価1円まで償却できるようになったことを踏まえ、6年で残存価値1円となるような直線(または曲線)を描いて負担を決定する、とされています(カーペットの場合の説明)。

耐用年数6年のもの(クロスなど)の負担割合 100% 50% 0% 0年 3年 6年 経過年数 入居直後なら全額 3年住めば約半分 6年で残存価値1円 この線は入居時に新品だった場合。中古で入居していれば線は下にシフトします。 年数が過ぎていても、故意・過失で壊した場合は負担が生じることがあります。 出典:国土交通省「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改訂版)」

3年住んでいれば、クロスの張替え代のうち借主が負担するのは、おおよそ半分ということです。「全額請求されている」場合は、ここを確認する価値があります。

ただし、これは「入居時に新品だった場合」の線です

ここは読み違えると損をするので、続けて書いておきます。

ガイドラインは、経過年数のグラフを入居年数で代替する方式を採っています。そのうえで、こう書かれています。

入居時点の設備等の状況は、必ずしも価値100%のものばかりではないので、その状況に合わせて経過年数のグラフを下方にシフトさせて使用することとする

出発点をどこにするかは「契約当事者が確認のうえ、予め協議して決定することが適当」とされ、「入居直前に設備等の交換を行った場合には、グラフは価値100%が出発点となるが、そうでない場合には、当該賃貸住宅の建築後経過年数や個々の損耗等を勘案して1円を下限に適宜グラフを決定する」と続きます。

つまり「3年で約半分」は、入居時にそのクロスが張替え直後だった場合の線です。中古の状態で入居していたなら、借主の負担割合はこれより低くなります。

入居時に張り替えたばかりだったのかどうか。ここは立会いのときに確認する価値があります。

年数が過ぎていれば何をしてもいいわけではありません

大事な但し書きがあるので、あわせて置いておきます。

経過年数を超えた設備等を含む賃借物件であっても、賃借人は善良な管理者として注意を払って使用する義務を負っていることは言うまでもなく、そのため、経過年数を超えた設備等であっても、修繕等の工事に伴う負担が必要となることがあり得る…

ガイドラインが挙げている例は、クロスに故意に行った落書きを消すための費用(工事費や人件費等)です。年数が過ぎていても、壊せば負担は生じます。

部位・設備ごとの耐用年数

白い壁と木の床だけの空室のイメージ

ガイドラインが挙げている年数をまとめます。

対象 耐用年数
壁(クロス) 6年で残存価値1円
畳床、カーペット、クッションフロア 6年で残存価値1円
流し台 5年
エアコン、冷蔵庫、ガス機器、金属製以外の家具(書棚・たんす等) 6年
主として金属製の器具・備品 8年
便器、洗面台等の給排水・衛生設備、インターホン 15年
ユニットバス、浴槽、下駄箱(建物に固着して一体不可分なもの) 当該建物の耐用年数

よく問題になるクロスが6年、というのがいちばん使える数字だと思います。

経過年数を考慮しないものもある

一方で、年数で割り引かれないものもあります。ここを知らないと「なぜ全額なのか」が分かりません。

【経過年数を考慮しないとされているもの】

  • 畳表、襖紙、障子紙:消耗品に近く、減価償却資産になじまないため
  • フローリング:原則として考慮しない(ただし全体にわたる毀損で床全体を張り替えた場合は、当該建物の耐用年数で算定)
  • 襖・障子等の建具部分、柱:考慮しない(考慮する場合は当該建物の耐用年数で算定)
  • 鍵の紛失:考慮しない。交換費用相当分を全額借主負担
  • クリーニング:考慮しない。通常の清掃を実施していない場合は、部位もしくは住戸全体の清掃費用相当分を全額借主負担

鍵の紛失は年数に関係なく全額です。ここは覚えておいて損がありません。

ただし裏返すと、紛失も破損もしていないのに行われる鍵の取替えは、貸主負担とされています。次の入居者のための交換であれば、借主が払うものではありません。

「一面分まで」。負担する範囲の話

金額を左右するもうひとつが、どこまでの範囲を直す費用を負担するかです。

クロスについて、ガイドラインはこう書いています。

㎡単位が望ましいが、賃借人が毀損させた箇所を含む一面分までは張替え費用を賃借人負担としてもやむをえないとする。

つまり、壁の一部を汚したからといって部屋全体の張替え費用を負担するのが当然、とはされていません。上限の目安は、その面まで。

さらに、こうも書かれています。

可能な限り毀損部分の補修費用相当分となるよう限定的なものとする。この場合、補修工事が最低限可能な施工単位を基本とする。いわゆる模様あわせ、色あわせについては、賃借人の負担とはしない。

「色を合わせるために他の面も張り替える」分は、借主の負担ではないということです。

ただし例外があります。タバコ等のヤニや臭いについては、喫煙等により当該居室全体においてクロス等がヤニで変色したり臭いが付着した場合のみ、居室全体のクリーニングまたは張替費用を借主負担とすることが妥当、とされています。

負担単位の目安も示されています。畳は原則1枚単位、フローリングは原則㎡単位、襖は1枚単位、柱は1本単位です。

特約があれば覆るのか。最高裁の判断

ここまで読んで、「でも契約書にクリーニング代は借主負担と書いてある」という人が多いはずです。

ガイドラインは、特約が無条件に有効になるわけではないとして、3つの要件を示しました。

【賃借人に特別の負担を課す特約の要件】

  • ① 特約の必要性があり、かつ、暴利的でないなどの客観的、合理的理由が存在すること
  • ② 賃借人が特約によって通常の原状回復義務を超えた修繕等の義務を負うことについて認識していること
  • ③ 賃借人が特約による義務負担の意思表示をしていること

そしてガイドラインは、最高裁判例の判断をこう引いています。

建物の賃借人にその賃貸借において生ずる通常損耗及び経年変化についての原状回復義務を負わせるのは、賃借人に予期しない特別の負担を課すことになるから、賃借人に同義務が認められるためには、少なくとも、賃借人が補修費用を負担することになる通常損耗及び経年変化の範囲が賃貸借契約書の条項自体に具体的に明記されているか、仮に賃貸借契約書では明らかでない場合には、賃貸人が口頭により説明し、賃借人がその旨を明確に認識し、それを合意の内容としたものと認められるなど、その旨の通常損耗補修特約が明確に合意されていることが必要であると解するのが相当である

ポイントは「範囲が具体的に明記されているか」です。「原状回復は借主負担とする」とだけ書いてあるような条項では、この水準を満たしているとは言いにくい、という整理になります。

あわせてガイドラインは、消費者契約法第10条が「消費者の権利を制限し、又は消費者の義務を加重する消費者契約の条項であって、消費者の利益を一方的に害するものは、無効とする」と規定している点にも言及しました。

なお、特約を設ける場合の客観性・必要性については、「例えば家賃を周辺相場に比較して明らかに安価に設定する代わりに、こうした義務を賃借人に課すような場合等が考えられるが、限定的なものと解すべき」とされています。

ここは個別の契約内容と事情によって結論が変わる領域です。実際に揉めている場合は、消費生活センターや専門家に相談してください。

今日からできること

スマートフォンを横向きに構えて部屋を撮影している手元のイメージ

退去はまだ先でも、効くのは今やることです。

ステップ1(今日・10分):入居時の写真があるか確認する

揉めたときに効くのは、記録です。入居時に撮った写真が残っていれば、それが「最初からあったキズ」の証拠になります。

写真がないなら、今の状態を撮っておいてください。今日撮った写真は、少なくとも「これ以降に増えた損耗ではない」ことを示せます。日付が残る形(スマホの写真ならそのまま)で、部屋の四隅、壁、床、水回りを撮っておく。10分で終わります。

ステップ2(今週・15分):契約書の原状回復条項を読む

見るのは2か所です。

【契約書で確認する2か所】

  • 特約の有無と書き方:ハウスクリーニング代や畳の表替えが借主負担と書かれているか。書かれている場合、金額や範囲まで具体的に明記されているか
  • 敷金の精算方法:どのタイミングで、何を差し引いて返還されるのか

入居前なら、ここは交渉できる余地があります。ガイドライン自身も「原状回復にかかる費用は、入居当初には発生しないものの、いずれ賃借人が一定に負担する可能性のあるもの」として、契約時の条件開示を求めています。

ステップ3(退去が決まったら):立会いには必ず同席する

見積書をその場で渡されて、サインを求められることがあります。その場で署名しないといけない決まりはありません。

確認するのはこの3つです。

【立会いで確認する3つ】

  • 項目ごとに、貸主負担か借主負担か:この記事の一覧と照らす
  • 経過年数が反映されているか:クロスなら6年。3年住んだなら約半分になっているか
  • 範囲は妥当か:一面分を超えて部屋全体になっていないか。色合わせ分が入っていないか

その場で結論を出さず、「持ち帰って確認します」と言って明細をもらう。これだけで変わることがあります。

まとめ

原状回復は借りた当時の状態に戻すことではありません。国土交通省のガイドラインは、経年変化・通常損耗は貸主負担、故意・過失や善管注意義務違反による損耗は借主負担、と整理しています。

画鋲の穴、家具のへこみ、テレビ裏の電気ヤケ、通常の清掃をしていればハウスクリーニング。これらは貸主負担とされています。

借主負担になる場合も全額とは限りません。クロスは6年で残存価値1円。3年住んでいれば、おおよそ半分です。ただし鍵の紛失とクリーニングは経過年数を考慮せず全額で、年数を超えていても故意・過失で壊せば負担は生じます。

範囲についても、クロスは毀損箇所を含む一面分までが目安で、色合わせのための張替えは借主負担とはしないとされています。

そして最初に書いたとおり、このガイドラインは使用を強制するものではなく、最終的には契約内容と使用状況によって個別に判断されます。特約があっても3要件と最高裁の判断があるので、諦める前に契約書を読んでください。

よくある質問(FAQ)

Q1. 退去費用で払わなくていいものは何ですか?

国土交通省「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改訂版)」の修繕分担表では、次のようなものが貸主の負担とされています。畳の裏返し・表替え(次の入居者確保のために行うもの)、フローリングのワックスがけ、家具の設置による床・カーペットのへこみや設置跡、テレビや冷蔵庫等の後部壁面の黒ずみ(いわゆる電気ヤケ)、壁等の画鋲・ピン等の穴(下地ボードの張替えが不要な程度のもの)、クロスの変色(日照などの自然現象によるもの)、賃借人が通常の清掃を実施している場合の専門業者による全体のハウスクリーニング、鍵の取替え(破損、鍵紛失のない場合)などです。ただしガイドラインは使用を強制するものではなく、最終的には契約内容や使用状況によって個別に判断されるとされています。

Q2. 壁紙(クロス)の張替えは何年住めば負担しなくてよくなりますか?

ガイドラインでは、壁(クロス)について「6年で残存価値1円となるような直線(または曲線)を想定し、負担割合を算定する」とされています。つまり6年で借主の負担割合はほぼゼロに近づきます。3年住んでいればおおよそ半分です。ただしこれは入居時にそのクロスが張替え直後だった場合の線です。ガイドラインは経過年数のグラフを入居年数で代替する方式を採ったうえで、「入居時点の設備等の状況は、必ずしも価値100%のものばかりではないので、その状況に合わせて経過年数のグラフを下方にシフトさせて使用する」としています。中古の状態で入居していた場合、借主の負担割合はこれより低くなります。ただし経過年数を超えた設備等であっても、賃借人は善良な管理者として注意を払って使用する義務を負っており、故意・過失による毀損については負担が必要となることがあり得るとされています。ガイドラインはクロスに故意に行った落書きを消すための費用を例に挙げています。

Q3. 画鋲やピンの穴は借主負担になりますか?

ガイドラインの修繕分担表では、壁等の画鋲、ピン等の穴で「下地ボードの張替えは不要な程度のもの」は貸主の負担とされています。一方で、壁等のくぎ穴・ネジ穴のうち「重量物をかけるためにあけたもので、下地ボードの張替えが必要な程度のもの」は借主の負担とされています。穴の有無ではなく、下地ボードの張替えが必要かどうかが分かれ目です。

Q4. ハウスクリーニング代は払う必要がありますか?

ガイドラインの原則では、賃借人が通常の清掃を実施している場合、専門業者による全体のハウスクリーニングは貸主の負担とされています。ここでいう通常の清掃とは、ゴミ撤去、掃き掃除、拭き掃除、水回り清掃、換気扇やレンジ回りの油汚れの除去です。ただし通常の清掃を実施していない場合は、部位もしくは住戸全体の清掃費用相当分が全額借主負担となり、この場合は経過年数を考慮しないとされています。また契約に特約がある場合は、後述の3要件を満たすかどうかで扱いが変わります。

Q5. 契約書に「クリーニング代は借主負担」と書いてあれば払うしかないですか?

必ずしもそうとは限りません。ガイドラインは、賃借人に特別の負担を課す特約について3つの要件を挙げています。特約の必要性があり暴利的でないなどの客観的・合理的理由が存在すること、賃借人が通常の原状回復義務を超えた義務を負うことを認識していること、賃借人が義務負担の意思表示をしていることです。また最高裁判例として、賃借人が補修費用を負担することになる通常損耗および経年変化の範囲が賃貸借契約書の条項自体に具体的に明記されているなど、通常損耗補修特約が明確に合意されていることが必要である、との判断も引用されています。個別の契約内容によって結論が変わるため、揉めている場合は消費生活センターや専門家に相談してください。

Q6. 部屋の壁を一か所汚したら、部屋全体の張替え費用を払うのですか?

ガイドラインは、クロスについて「㎡単位が望ましいが、賃借人が毀損させた箇所を含む一面分までは張替え費用を賃借人負担としてもやむをえない」としています。また負担範囲の基本的な考え方として「可能な限り毀損部分の補修費用相当分となるよう限定的なものとする」「いわゆる模様あわせ、色あわせについては、賃借人の負担とはしない」とも書かれています。ただし例外として、喫煙等により当該居室全体においてクロス等がヤニで変色したり臭いが付着した場合のみ、居室全体のクリーニングまたは張替費用を賃借人負担とすることが妥当とされています。

Q7. 年数が経てば何でも負担しなくてよくなりますか?

いいえ。経過年数を考慮しないとされているものがあります。畳表、襖紙、障子紙は消耗品に近く減価償却資産になじまないため考慮しません。フローリングも原則として考慮しません(ただし全体にわたる毀損で床全体を張り替えた場合は当該建物の耐用年数で算定します)。襖・障子等の建具部分や柱も考慮しません。さらに鍵の紛失は経過年数を考慮せず交換費用相当分が全額借主負担、クリーニングも経過年数を考慮せず全額借主負担とされています。なお、紛失も破損もしていない場合の鍵の取替えは、修繕分担表で貸主の負担とされています。

Q8. このガイドラインに従わせることはできますか?

できません。ガイドライン自身が「その使用を強制するものではなく、原状回復の内容、方法等については、最終的には契約内容、物件の使用の状況等によって、個別に判断、決定されるべきもの」としています。賃貸借契約は契約自由の原則により、民法・借地借家法等の強行法規に抵触しない限り有効とされます。ガイドラインは、近時の裁判例や取引等の実務を考慮のうえまとめられた一般的な基準であり、交渉や紛争解決の際の指針として使うものと理解してください。

Q9. 退去の立会いで、その場で署名を求められたらどうすればいいですか?

内容に納得できない場合は、その場で署名せず明細を持ち帰って確認するという選択があります。確認する観点は、項目ごとに貸主負担か借主負担かがガイドラインの区分と合っているか、経過年数が反映されているか、負担する範囲が一面分を超えて広がっていないか、色合わせ分が含まれていないかです。なお、退去の連絡時期や立会いの取り決めは契約書によって異なるため、あわせて確認してください。

Q10. 入居時の写真を撮っていませんでした。もう手遅れですか?

手遅れとは限りません。今の状態を撮っておけば、少なくともそれ以降に生じた損耗ではないことを示す材料になります。ガイドラインも、トラブルの未然防止として入居時・退去時の物件状況の確認と記録を重視しており、入居時および退去時に当事者が立会いのうえ十分に確認するためのものとして「入退去時の物件状況及び原状回復確認リスト(例)」を示しています。退去時には立会いによる物件の確認と記録を行うことがトラブル回避につながる、とされています。



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