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講師料・原稿料で振り込まれる額が違う理由|10.21%の対象になるものと、ならないもの

請求書の横で電卓を手に持ち、金額を計算している手元

講師やライティングの仕事を受けると、振り込みの通知を見て戸惑うことがあります。30,000円のはずが、入っているのは26,937円。3,063円が引かれています。

これは、相手が勝手に減らしたわけではありません。源泉徴収という仕組みで、支払う側が差し引いて納めることになっているものです。そして、その率も計算式も公開されています。

この記事では、国税庁が公開している記述を読みます。扱うのは、差額の正体、対象になる報酬、税率と計算式、100万円を超えた場合、対象にならないもの、名目と実態、交通費、消費税の区分、請求書の書き方、受注前に確認すること、想定モデル、つまずく場所です。

この記事は、公開されている記述を紹介するものであり、税務の解説ではありません。個別の判断は、所轄の税務署や税理士にご相談ください。この報酬は対象である、といった判断は書きません。

引用は国税庁のタックスアンサー「No.2792 源泉徴収が必要な報酬・料金等とは」と「No.2795 原稿料や講演料等を支払ったとき」を、取得して確認したものです。制度は改正されます。実際に判断するときは、最新のページをご確認ください。

約束した額と、振り込まれた額が違う

まず、何が起きているかを整理します。

引かれているのは、支払う側の義務による

「No.2795 原稿料や講演料等を支払ったとき」には、こうあります。「居住者である作家に原稿料を支払うときや大学教授などに講演料を支払うときは、報酬・料金等として所得税および復興特別所得税……を源泉徴収しなければなりません」。

語尾は「源泉徴収しなければなりません」です。支払う側の義務として書かれています。

主語は支払う側です。受け取る側が申請して差し引かれるものではありません。だから、こちらが手続きを忘れて損をする、という性質のものでもない。

だから、交渉する話ではない

差し引かれた金額について、相手に抗議しても意味がありません。相手は、決められたとおりに処理しているだけです。

ここを理解していないと、「話が違う」というやりとりに時間を使うことになります。仕組みを知っていれば、受け取る前に計算できます。

むしろ、差し引かずに満額が振り込まれたときのほうが、確認の対象になります。相手の処理が違う可能性がある。多くても少なくても、計算が合うかを見てください。

そして、差し引かれること自体は不利ではありません。前もって納めているだけです。不利なのは、計算を知らずに驚くことのほうです。

知っておくと、見積もりが変わる

手取りがいくらになるかを、受ける前に計算できます。30,000円の仕事が、手元でいくらになるのか。

そして、請求書の書き方によって、対象になる金額が変わる場合もあります。これは後で見ます。

手取りで考える癖をつけると、案件の比較もできます。提示額が同じでも、条件によって手元に残る額は違う。総額ではなく、手取りで並べてください。

計算の手順は決まっているので、表計算に式を1つ入れておくだけで済みます。金額を入れれば手取りが出る形にする。毎回電卓を叩く必要はありません。

引かれた分の行き先

差し引かれた金額は、支払う側が国に納めます。同じページには「源泉徴収した所得税および復興特別所得税の額は、支払った月の翌月10日までに……納付します」とあります。

そして「(注)納期の特例の対象とはなりません」という一文も置かれています。他の源泉所得税にある特例が、この報酬には使えないという意味です。

この納付の期限は、こちらには関係しません。ですが、相手にとっては毎月の作業です。請求を月内に出すか翌月に回すかで、相手の処理の時期が変わります。

対象になる報酬が、列挙されている

どの仕事が対象になるのかを確認します。

8つが挙げられている

「No.2792 源泉徴収が必要な報酬・料金等とは」には、支払を受ける者が居住者である場合の範囲として8つが並んでいます。その1つ目が「原稿料や講演料など」です。

2つ目が「弁護士、公認会計士、司法書士等の特定の資格を持つ人などに支払う報酬・料金」。副業で関わるのは、ほぼ1つ目です。

残りの6つは、プロスポーツ選手やホステス、芸能関係など、性質の違うものが並びます。副業の文脈で見るのは1つ目だけで足ります。全部を覚える必要はありません。

「など」という書き方

1つ目は「原稿料や講演料など」と書かれています。原稿料と講演料だけに限られる、という書き方ではありません。

自分の仕事がこれに当たるかどうかは、名前ではなく中身で見ることになります。判断に迷う場合は、税務署や税理士に確認してください。

「など」が付く列挙は、条文でも公式ページでも頻出します。例示であって限定ではない、という合図です。限定なら「に限る」と書かれます。

そして、自分の仕事の名前が一覧になくても、安心材料にはなりません。中身で見る必要があります。名前で探すのをやめて、性質で考えてください。

詳細は別の資料にあると書かれている

同じページには「源泉徴収の対象となる代表的なものは以下のとおりですが、詳細は源泉徴収のあらましをご確認ください」とあります。

つまり、この一覧は代表的なものであって、全部ではありません。網羅的な確認が必要なら、参照先を見ることになります。

自分の仕事が微妙な位置にあるなら、参照先まで見てください。代表例に載っていないから対象外、とは限りません。載っていないことと、対象でないことは別です。

参照先の名前も書かれています。「源泉徴収のあらまし」。固有の名前が示されているので、探すのは簡単です。

物で払う場合も含まれる

注意事項にこうあります。「金銭ではなく、物品その他の経済的利益で支払う場合も報酬・料金等に含まれます」。

謝礼として品物を受け取る場合も、この記述の対象になり得ます。現金かどうかで分かれるわけではありません。

書籍や商品券で受け取る場合も、この記述の範囲に入り得ます。珍しい形ですが、起こり得ます。現金以外で受け取るときは、扱いを確認してください。

そして、金額の評価という別の論点も出てきます。その物がいくらなのか。現金以外での受け取りは、話が複雑になります。避けられるなら、現金のほうが単純です。

計算式は2段階で示されている 支払金額(=A)が100万円以下 A × 10.21% (30,000円なら 3,063円) 支払金額が100万円超 (A − 100万円)× 20.42% + 102,100円 ※ 求めた税額に1円未満の端数があるときは、これを切り捨てます 対象に含まれる 謝金・取材費・調査費・車代でも 実態が同じなら対象 含まれないと書かれている 試験問題の出題料 答案の採点料 など
計算式と、対象の範囲

税率は10.21パーセントと書かれている

計算の話です。

公式の計算式

「No.2795」には、計算方法が表の形で示されています。支払金額をAとしたとき、100万円以下なら税額は「A×10.21%」。

この10.21パーセントという数字が、副業で関わるほとんどの場面で使われます。100万円を超える単発の報酬は、そう多くないからです。

この率は、覚えてしまうのがいちばん早い。10.21パーセント。桁を1つずらして考えれば、おおよその額は暗算できます。3万円なら約3千円です。

30,000円で計算してみる

30,000円に10.21パーセントを掛けると、3,063円です。差し引かれた後は26,937円。

冒頭の例がこれです。端数のない金額を約束しても、振り込まれる額には端数が出ます。計算式を知っていれば、通知を見て驚くことはありません。

1万円なら1,021円、5万円なら5,105円。金額に比例するので、計算は単純です。1度やっておけば、通知を見た瞬間に合っているか分かります。

逆算もできます。手取りで30,000円が欲しいなら、提示額は約33,412円。公式にも手取契約の場合の計算方法についてのリンクが置かれています。

端数の扱いも書かれている

表の下に注記があります。「(注)求めた税額に1円未満の端数があるときは、これを切り捨てます」。

税額のほうを切り捨てる、と書かれています。自分で計算した金額と1円ずれる場合は、ここを確認してください。

切り捨てるのは税額のほうです。手取りが1円多くなる方向になります。どちらを切り捨てるかは、条件によって変わるものなので確認してください。

1円の違いを問題にする必要はありませんが、計算が合わないときの原因の1つとして知っておいてください。合わない理由が分かれば、確認の手間が減ります。

内訳の名前

条文上の名前は「所得税および復興特別所得税」です。ページには「(令和9年分以後は所得税、防衛特別所得税および復興特別所得税。以下同じです。)」という注記も入っています。

将来、内訳の名前が変わることが予告されています。率が変わるかどうかは、そのときの最新のページで確認してください。

名前が変わっても、計算式が変わるとは限りません。変わるのは内訳の呼び方です。率そのものは、そのときの最新のページで確認してください。

100万円を超えると、式が変わる

大きい金額の場合です。

2段階目の式

表の2行目は「100万円超」の行で、税額は「(A-100万円)×20.42%+102,100円」と示されています。

100万円までの部分に対する102,100円という固定の額があり、超えた部分に20.42パーセントを掛けて足す形です。

この形は、累進の考え方を単純化したものです。超えた部分にだけ高い率がかかる。全額に20.42パーセントがかかるわけではありません。

102,100円という固定の額は、100万円×10.21パーセントです。1段階目の上限額がそのまま入っています。式の成り立ちが分かると、覚えやすくなります。

公式の具体例

ページには例も示されています。「<150万円の原稿料を支払う場合>(150万円-100万円)×20.42%+102,100円=204,200円」。

そして「源泉徴収すべき所得税および復興特別所得税の額は204,200円になります」と結ばれています。150万円の仕事なら、20万円以上が差し引かれる計算です。

公式が具体例を置いているのは、計算を間違えやすいからです。自分の金額でも、同じ手順でなぞってみてください。例に自分の数字を入れるのが、いちばん確実です。

「1回の支払」の単位で見る

この式は、支払金額に対するものです。年間の合計ではなく、その支払についての計算です。

月ごとに分けて支払われる場合と、まとめて支払われる場合で、計算の出発点が変わる可能性があります。該当しそうな金額を扱うなら、事前に確認してください。

だから、まとめて受け取るか分けて受け取るかで、計算が変わる可能性があります。ただし、これも実態で判断される部分です。分けることで有利にする、という発想は避けてください。

副業の規模では、1段階目で足りる

1回の報酬が100万円を超える場面は、副業ではそう多くありません。まずは10.21パーセントを覚えておけば足ります。

そして、大きい仕事を受けるときに、もう一度この式を確認してください。金額が大きいほど、差も大きくなります。

そして、大きい仕事が来たときに慌てないよう、式の存在だけは覚えておく。100万円という区切りがある、という記憶で足ります。必要になったら、そのとき調べれば間に合います。

そして、年間の合計が100万円を超えても、この式には関係しません。1回の支払で見る式だからです。年間の話は、確定申告のほうの論点になります。

「採点料などは含まれません」という記述

講師の仕事をする人には、ここが重要です。

公式の記述

「No.2795」の項目4に、こうあります。「原稿料には、試験問題の出題料や答案の採点料などは含まれません」。

出題料と採点料が、名指しで「含まれません」とされています。

この一文は、講師の仕事をする人にとって実務的な意味を持ちます。同じ現場の仕事でも、扱いが分かれ得る。知らないと、分けて請求するという発想自体が出てきません。

そして、この記述は「No.2795」のほうにあります。「No.2792」には見当たりません。同じ制度でも、ページによって書かれている内容が違います。両方読む意味があります。

同じ相手からの報酬でも、扱いが分かれる

講義をして講演料を受け取り、そのうえで答案の採点も引き受ける。この2つは、同じページの記述では別の扱いになります。

1枚の請求書にまとめていると、この区別が消えます。だから、分けて書く意味が出てきます。

分けて書くこと自体には、何のリスクもありません。実際にやった作業を、そのまま書くだけです。まとめるほうが楽ですが、情報は失われます。

相手が同じでも、依頼が2つなら請求も2行です。1件の取引にまとめる必要はありません。実態のとおりに書くのが、いちばん簡単です。

「など」が付いている

「出題料や答案の採点料など」という書き方です。この2つだけに限られるとは書かれていません。

似た性質の作業が他にもあり得る、という読み方になります。自分の作業がどちらに当たるかは、個別の判断です。税務署や税理士にご確認ください。

判断に迷う作業があるなら、内訳を分けたうえで相手に相談してください。こちらで結論を出す必要はありません。分けて出せば、相手が判断できます。

そして、判断が分かれそうな作業ほど、記録を丁寧に残してください。何を頼まれ、何をしたか。後から説明するときの材料になります。

知らないと、多く引かれたままになる

相手が区別せずに処理すれば、全額から差し引かれます。この記述を知らなければ、それに気づけません。

もちろん、最終的には確定申告で精算されるので、損をしたままになるわけではありません。ですが、手元に入る時期は変わります。

そして、時期の問題は生活に効きます。年内に手元にあるか、翌年に戻るか。金額が同じでも、いつ使えるかは違います。

そして、気づいたときに相手を責める必要もありません。次回からの内訳を分けて出すだけです。過去に遡って直すより、次から変えるほうが簡単です。

名目ではなく、実態で判断される

逆の方向の記述もあります。

「No.2795」の記述

項目1にこうあります。「謝金、取材費、調査費、車代などの名目で支払をする場合がありますが、これらの実態が原稿料や講演料と同じ場合には、すべて源泉徴収の対象になります」。

名目を変えても、実態が同じなら対象になる、と書かれています。

この記述があることで、名目の工夫が意味を持たないと分かります。先回りして書かれている、という読み方もできます。公式が挙げた名目は、実際に使われてきたものでしょう。

「すべて」という言葉も入っています。一部は対象外、という書き方ではありません。強い言い切りで書かれている部分です。

「No.2792」にも同じ趣旨がある

注意事項の2にこうあります。「謝礼、研究費、取材費、車代などの名目で支払われていても、その実態が報酬・料金等と同じであれば源泉徴収の対象になります」。

2つのページに同じ趣旨が書かれています。繰り返し書かれている内容は、実際に問題になりやすい部分だと考えてください。

2つのページで表現が少し違います。片方は「謝金」、もう片方は「謝礼」「研究費」。両方を読むと、挙げられている名目の幅が広がります。

そして、どちらのページにも「実態」という言葉が使われています。制度全体を貫く考え方だと分かります。1つの記述としてではなく、原則として覚えてください。

だから、名前の付け替えでは変わらない

「謝金」にすれば対象外になる、という話ではありません。公式が名指しで、その名目を挙げています。

実態で判断されるという原則は、税の分野で広く出てくる考え方です。他の場面でも同じように読んでください。

そして、付け替えを提案されたときも、この記述を知っていれば判断できます。相手に悪意がなくても、誤解していることはあります。公式の記述を示せば、話が早く済みます。

そして、こちらから付け替えを提案するのも避けてください。提案した記録が残ります。実態のとおりに書く、が唯一の方針です。

逆に、実態が違えば別の扱いになり得る

採点料の記述も、この原則の裏返しと読めます。作業の性質が違うから、扱いが分かれる。

だからこそ、何の作業に対する報酬なのかを、請求書で明確にする意味があります。

実態を示すのは、請求書の内訳と、やりとりの記録です。何を頼まれ、何をしたか。記録が実態の証拠になります。

依頼の文面も残しておいてください。何を頼まれたかが、そこに書かれています。自分の説明より、相手の依頼文のほうが材料として強い。

そして、依頼の内容が途中で変わったときは、その記録も残してください。当初の依頼と、実際にやったことが違う場合があります。変わった経緯が残っていれば、説明できます。

交通費の扱いには条件がある

実務で迷いやすい部分です。

原則が書かれている

「No.2795」の項目2にこうあります。「旅費や宿泊費などの支払も原則的には報酬・料金等に含まれます」。

まず原則として、含まれると書かれています。交通費だから対象外、ではありません。

ここを誤解している人は多い。実費だから関係ない、と考えてしまう。原則は含まれる、と明記されています。

「原則的には」という書き方なので、例外があることも同時に示されています。次の文まで読んでください。原則だけを読むと、判断を誤ります。

例外の条件

続けてこうあります。「しかし、通常必要な範囲の金額で、報酬・料金等の支払者が直接ホテルや旅行会社等に支払った場合は、報酬・料金等に含めなくてもよいことになっています」。

条件は2つです。「通常必要な範囲の金額」であることと、「支払者が直接」支払うこと。両方が書かれています。

2つの条件が「かつ」の関係で並んでいます。片方だけでは足りません。金額が妥当でも、支払い方が違えば条件から外れます。

「通常必要な範囲」という基準は、金額が示されていません。ここも判断が必要な部分です。高額な移動を伴う仕事では、先に確認してください。

自分が立て替えると、条件から外れる

自分で切符を買って、後から実費を受け取る。この形は「支払者が直接」には当たりません。

同じ金額でも、誰が誰に払ったかで扱いが変わる構造です。オンラインの仕事では交通費自体が発生しませんが、対面の仕事では関わってきます。

対面の仕事を受けるときは、交通費の払い方を先に聞いてください。「切符はこちらで手配しますか」。金額の話ではなく、手続きの話として聞けます。

オンラインの仕事なら、この論点は発生しません。移動がないからです。対面の仕事を受けるときだけ、思い出せば足ります。

「No.2792」にも同じ記述がある

こちらにも「報酬・料金等の支払者が、直接交通機関、ホテル、旅館等へ通常必要な範囲の交通費や宿泊費などを支払った場合は、報酬・料金等に含めなくてもよいことになっています」とあります。

「交通機関」まで挙げられているのは、こちらのページです。2つを読み合わせると、範囲がより具体的になります。

同じ論点が2ページに書かれているのは、問い合わせが多い証拠です。迷う人が多い部分だと考えてください。迷ったら、税務署や税理士に聞くのが早い。

消費税を区分すると、対象の金額が変わる

請求書の書き方に直結する記述です。

原則と、例外

「No.2795」の項目5にこうあります。「報酬・料金等の額の中に消費税および地方消費税の額……が含まれている場合は、原則として、消費税等の額を含めた金額を源泉徴収の対象としますが、請求書等において報酬・料金等の額と消費税等の額が明確に区分されている場合には、その報酬・料金等の額のみを源泉徴収の対象とする金額として差し支えありません」。

原則は税込の金額が対象。ただし、明確に区分されていれば、税抜の額のみを対象としてよいとされています。

この記述は、こちらの作業で結果が変わる数少ない部分です。書き方を決めるだけで対応できます。知っているかどうかだけの差になります。

「明確に区分されている場合」が条件

条件は、請求書等で区分されていることです。頭の中で区別していても、書面がそうなっていなければ条件を満たしません。

つまり、書き方の問題です。これは自分で対応できる部分になります。

請求書の様式は、一度作れば使い回せます。本体、消費税、合計。この3行を分ける。毎回作り直す必要はありません。

そして、区分するのは難しくありません。行を1つ増やすだけです。これだけで条件を満たせるなら、やらない理由がありません。

インボイス後も変わらないと明記されている

注記にこうあります。「(注)消費税の仕入税額控除制度における適格請求書等保存方式(インボイス制度)開始後も、上記の取扱いは変更ありません」。

2つのページの両方に、同じ注記が置かれています。制度が変わったときに、この点が問い合わせの多い部分だったのだろうと読めます。

注記がわざわざ置かれているということは、変わったと誤解されやすい部分だということです。制度が変わったときは、関連する取扱いの注記を探してください。

金額で確かめてみる

税込33,000円(本体30,000円)の報酬で考えます。区分がなければ33,000円が対象で、税額は3,369円。区分されていれば30,000円が対象で、税額は3,063円。

差は306円です。1件では小さいですが、請求書の書き方を決めておくだけの話なので、やらない理由がありません。

年間で10件受ければ3,060円の差です。大きくはありませんが、手間はゼロに近い。手間のかからない改善から先にやってください。

だから、請求書の書き方で手取りが変わる

ここまでを実務に落とします。

3つを分けて書く

報酬の本体、消費税、そして性質の違う作業。この3つを行として分けます。

消費税を分けるのは「明確に区分されている場合」という条件を満たすためです。作業を分けるのは、扱いが違う可能性があるものを混ぜないためです。

行を分けるだけで、情報が伝わります。相手が処理しやすくなる効果もあります。読み取りに迷わせない請求書は、支払いも早い。

そして、合計額も明記してください。内訳と合計の両方があると、確認が速い。相手の事務の負担を減らすことにもなります。

作業の名前を、実態に合わせる

「講師料」「採点料」のように、何に対する報酬かが分かる名前にします。「一式」ではなく、内訳を書く。

ただし、名前を工夫すれば扱いが変わる、という話ではありません。実態で判断されると公式に書かれています。実態に合った名前を書く、ということです。

名前に迷ったら、依頼のメールで使われていた言葉を使ってください。相手の言葉に合わせるのが自然です。独自の名前をつけると、確認の手間が増えます。

そして、依頼にない作業を勝手に足さないでください。やっていない作業を書くのは論外です。実態に合わせる、というのは両方向の話です。

源泉徴収の有無を、先に聞く

相手が源泉徴収をするかどうかは、受ける前に聞けます。「お支払いの際、源泉徴収はございますでしょうか」。

この一言で、手取りの計算ができるようになります。請求書の書き方も、その答えによって決められます。

この質問は、事務的なものとして受け取られます。金額の交渉とは別の話だからです。聞きにくい質問ではありません。

そして、相手が個人の場合は扱いが違うことがあります。支払う側の状況によります。だから、こちらで決めつけずに聞くのが確実です。

支払調書を受け取れるか確認する

年明けに、支払われた額と差し引かれた額をまとめた書類が発行されることがあります。確定申告のときに、記録として役に立ちます。

この記事では、発行の義務については扱いません。ただ、自分でも記録を残しておくことは誰でもできます。振込の通知を保存しておいてください。

届かない場合でも、自分の記録があれば足ります。振込の通知と、請求書の控え。両方を残しておけば、いくら引かれたかが分かります。

そして、記録は年をまたいで保管してください。確定申告は翌年です。年末に慌てて探すことになりがちな書類です。

受ける前に確認する5項目

講師や執筆の仕事を受けるときに、着手前に確認することです。

  • 源泉徴収の有無:差し引かれるかどうか
  • 提示額が税込か税抜か:消費税の扱い
  • 作業の内訳:講義・執筆と、それ以外の作業を分けられるか
  • 交通費の支払い方:実費精算か、相手が直接支払うか
  • 支払いの時期:いつ振り込まれるか

1つ目と2つ目は、セットで聞く

「30,000円」と言われたとき、税込か税抜か、源泉徴収があるかで手取りが4通りに分かれます。だから、この2つは同時に確認します。

聞き方はこれで足ります。「ご提示の金額は税抜でしょうか。また、源泉徴収の有無もあわせて教えてください」。

4通りというのは、税込か税抜か×源泉徴収の有無です。同じ「30,000円」でも、手取りは最大で3,000円以上変わります。だから、金額を聞いたら必ずこの2つも聞く。

そして、答えはメモに残してください。案件ごとに条件が違います。複数の相手と取引していると、混ざります。

3つ目が、この記事の中心

公式に「試験問題の出題料や答案の採点料などは含まれません」と書かれている以上、分けて把握しておく価値があります。

ただし、どう処理するかは支払う側が判断します。こちらは内訳を明確にして請求するところまでです。

そして、分けて記録しておくことは、時間の管理にもなります。どの作業に何時間使ったか。報酬と時間の両方を、同じ単位で分けておいてください。

そして、内訳を出したうえで、相手が一式で処理することもあります。それはそれで構いません。こちらの役割は、分かる形で出すところまでです。

5つ目は、生活に効く

差し引かれる分より、入る時期のほうが生活には影響します。月末締めの翌月末払いなのか、その都度なのか。

この論点はテストライティングの回でも扱いました。支払期日について定めた条文があります。

源泉徴収で引かれる分は戻る可能性がありますが、入金が遅い分は戻りません。時期のほうが、実は影響が大きい。

そして、支払いが遅い相手とは、量を増やさない判断もあります。条件は金額だけではありません。時期も条件の一部です。

聞いた内容は、文字で残す

口頭で聞いただけでは、後から確認できません。メッセージで聞いて、答えをもらう形にしてください。

特に金額に関わることは、必ず文字にしておく。これは他の回でも繰り返している話です。

そして、1度聞けば、その相手とは以後同じ条件で進みます。毎回聞く必要はありません。最初の1回だけの手間です。

そして、2回目以降の案件では、前回の条件を引用して確認できます。「前回と同じ条件でよろしいでしょうか」。記録があると、確認が1行で済みます。

1コマあたりの想定モデル

オンライン講師の作業時間に公的な統計はありません。以下は、60分の講義を1コマ行う場合を置いた本メディアの想定モデルで、統計ではありません。

工程 時間 備考
内容の準備 90分 資料の確認と、話す順番の整理
接続と機材の確認 15分 開始前に済ませる
講義 60分 1コマ
振り返りと記録 20分 次回に向けたメモ
連絡と事務 15分 日程調整・請求

合計200分、3時間20分

60分の講義に、3時間20分かかっている計算です。

講義の時間は全体の3割。準備のほうが長いのが、この仕事の構造です。時給で考えるときは、準備を含めた時間で割ってください。

初めてのテーマなら、準備はもっとかかります。調べる時間が加わるからです。得意な領域で受けるほうが、条件は良くなります。

そして、移動がある場合はさらに加わります。オンラインの利点は、ここにあります。同じ報酬でも、実質の時間あたりが変わります。

報酬30,000円なら、時間あたり約8,081円

30,000円から10.21パーセントを引くと、手取りは26,937円。3時間20分で割ると、時間あたり約8,081円です。

講義の60分だけで割れば約27,000円ですが、実際に使っている時間は3倍以上あります。どちらの数字で考えるかで、判断が変わります。

この金額は、他の副業と比べても高い水準です。講師業が条件の良い分野である理由がここにあります。ただし、受注の機会自体が多くありません。

そして、この計算は受けるかどうかの判断に使えます。準備に何時間かかりそうかを先に見積もる。準備が読めない依頼は、条件も読めません。

2回目以降は、準備が短くなる

同じ内容をもう一度話すなら、準備は90分から30分程度に縮みます。合計140分、2時間20分。

同じ30,000円なら、時間あたりは約11,544円。同じ講義を繰り返せるかどうかが、この仕事の条件を決めます。1回きりの登壇より、継続の枠を取るほうが有利です。

だから、資料は必ず残してください。次に同じ話をするときの資産になります。その場で作って捨てると、毎回90分かかります。

そして、資料は改善しながら使ってください。2回目に気づいた点を足す。使い回すだけでなく、育てる資産になります。

採点がある場合は、別に数える

採点を引き受けるなら、その時間も別に数えてください。報酬の扱いが分かれる可能性がある以上、時間も分けて把握しておく。

分けて記録しておけば、請求書にも分けて書けます。後からまとめて思い出すのは難しい作業です。

採点は時間が読みにくい作業でもあります。枚数と、1枚あたりの時間を記録してください。2回目から、見積もりが正確になります。

そして、枚数に上限を設けるのも手です。「1回あたり50枚まで」。量が読めない仕事は、上限を決めてから受けてください。

つまずく場所は5つに決まっている

この分野でつまずくのは、ほぼ5つです。

つまずく場所 公式に書かれていること
手取りを計算せずに受ける 100万円以下なら A×10.21% と公開されている
税込か税抜かを聞かない 明確に区分されている場合には、報酬・料金等の額のみ
作業を一式でまとめる 試験問題の出題料や答案の採点料などは含まれません
名目を変えれば済むと考える 実態が原稿料や講演料と同じ場合には、すべて対象
準備時間を数えない (記載外。時間の問題)

1・手取りを計算せずに受ける

計算式は公開されています。30,000円なら3,063円が引かれて26,937円。

受ける前に計算できるものを、受けてから知る必要はありません。一度計算しておけば、感覚でも分かるようになります。

計算を先にすると、受けるかどうかの判断も変わります。手取りで見て割に合うか。提示額で判断しないでください。

そして、断るときの理由にもなります。「手取りで換算すると、条件が合いません」。数字で言えると、角が立ちません。

2・税込か税抜かを聞かない

「請求書等において報酬・料金等の額と消費税等の額が明確に区分されている場合には、その報酬・料金等の額のみを源泉徴収の対象とする金額として差し支えありません」と書かれています。

書き方で対象が変わる部分なので、聞いておく価値があります。聞くのは、受ける前です。

そして、自分から税抜で提示する形にしておくと、毎回の確認が減ります。「本体価格30,000円(税別)」と書く。最初の提示で決めてしまうのがいちばん早い。

3・作業を一式でまとめる

「原稿料には、試験問題の出題料や答案の採点料などは含まれません」。性質の違う作業が混ざっているなら、分けて書いてください。

処理の判断は相手がしますが、材料はこちらが出せます。

一式でまとめるのは、書く側が楽だからです。ですが、情報を捨てていることになります。分けて書くのに、余計な時間はかかりません。

そして、分けた内訳は自分の記録にもなります。どの作業でいくら稼いだか。次に何を増やすかの判断材料になります。

4・名目を変えれば済むと考える

「謝金、取材費、調査費、車代などの名目で支払をする場合がありますが、これらの実態が原稿料や講演料と同じ場合には、すべて源泉徴収の対象になります」。

名前の付け替えは効きません。実態に合った名前を書く、というのが正しい対応です。

この誤解は、人から聞いた話として広まりやすい。公式の記述を一度読めば、はっきりします。又聞きではなく、出どころを確かめてください。

そして、誤った情報を人に伝えないでください。自分が損をするだけでなく、相手にも影響します。出どころを確かめてから話す。

5・準備時間を数えない

これは税の話ではなく、時間の問題です。60分の講義に3時間20分かかっていました。

講義時間だけで時給を計算すると、実態の3倍に見えます。準備を含めて割ってください。

そして、準備時間は減らせる部分でもあります。資料を使い回す、型を作る。まず数えて、それから減らす順番です。

そして、数えるのはタイマーで十分です。正確さより、続けられることを優先してください。5分単位の記録でも、傾向はつかめます。

そして、数えた結果は案件を選ぶときに使ってください。準備に時間がかかる分野と、かからない分野があります。得意な領域ほど、準備が短く済みます。

30代につながるのは、名目と実態を分ける目

このメディアは、20代の副業を「30代に何が残るか」で選ぶ立場で書いています。この分野で残るのは、税の知識だけではありません。

名前ではなく中身で判断する習慣

残るのは、「何と呼ばれているか」ではなく「実態はどうか」で見る習慣です。公式が2か所で同じことを書いていました。

30代になると、名前と中身がずれている場面に多く出会います。役職の名前、制度の名前、契約の名前。中身で見られる人は、判断を誤りません。

この見方は、情報を受け取るときにも使えます。どう呼ばれているかではなく、何が起きているか。言葉に流されない読み方が身につきます。

そして、この習慣は自分の仕事の説明にも使えます。肩書きではなく、何をしているか。中身で語れる人は、信用されます。

手元に入る額で考える習慣

提示された金額と、実際に使える金額は違います。手数料、源泉徴収、消費税。

総額ではなく手取りで比べる癖をつけると、条件の良し悪しが正確に見えます。これは転職でも、契約でも同じです。

そして、手取りで考えると、条件の改善点も見えます。どこで減っているのかが分かるからです。減る場所が分かれば、対処も決まります。

そして、比べるときは同じ条件に揃えてください。税込と税抜を混ぜない。揃えないと、比較になりません。

書き方で変わる部分を、知っていること

請求書に消費税を分けて書くかどうかで、対象の金額が変わる。自分の側の作業で変えられる部分があると知っているかどうかです。

全部が決められているわけではありません。自分で動かせる範囲を探す姿勢が、どの仕事でも効きます。

そして、動かせる部分は意外に多い。請求書の書き方、作業の分け方、聞くタイミング。どれも、相手の許可なしに自分で決められます。

そして、動かせない部分は受け入れる。両方を区別できることが大事です。動かせないことに時間を使わない判断も含みます。

まとめ

  • 差し引かれるのは、支払う側の義務による。公式は「原稿料を支払うときや大学教授などに講演料を支払うときは……源泉徴収しなければなりません」としている(国税庁)
  • 計算式は、支払金額をAとして100万円以下なら「A×10.21%」、「100万円超」なら「(A-100万円)×20.42%+102,100円」。端数は「1円未満の端数があるときは、これを切り捨てます」
  • 対象の範囲は8つ列挙され、1つ目が「原稿料や講演料など」。ただし「代表的なものは以下のとおりですが、詳細は源泉徴収のあらましをご確認ください」とされている
  • 一方で「原稿料には、試験問題の出題料や答案の採点料などは含まれません」という記述がある。同じ相手からの報酬でも、作業の性質で扱いが分かれ得る
  • 名目については「謝金、取材費、調査費、車代などの名目で支払をする場合がありますが、これらの実態が原稿料や講演料と同じ場合には、すべて源泉徴収の対象になります」
  • 交通費は「原則的には報酬・料金等に含まれます」が、「通常必要な範囲の金額で……支払者が直接ホテルや旅行会社等に支払った場合は……含めなくてもよい」とされている
  • 消費税は原則として税込が対象だが、「請求書等において報酬・料金等の額と消費税等の額が明確に区分されている場合には、その報酬・料金等の額のみ」でよいとされ、インボイス制度開始後も取扱いは変更なしと明記されている
  • 想定モデルでは60分の講義に3時間20分。講義時間だけで時給を計算すると、実態の3倍に見える
  • この記事は公開されている記述の紹介であり、税務の解説ではありません。個別の判断は所轄の税務署や税理士にご相談ください

よくある質問(FAQ)

30,000円の約束が、26,937円しか振り込まれませんでした。

国税庁のタックスアンサー「No.2795」には、源泉徴収すべき税額の計算式が表で示されており、支払金額をAとして100万円以下なら「A×10.21%」とされています。30,000円に10.21%を掛けると3,063円で、差し引くと26,937円になります。支払う側は「源泉徴収しなければなりません」と書かれているため、勝手に減らしているわけではありません。ご自身の報酬が対象に当たるかどうかの個別の判断は、所轄の税務署や税理士にご確認ください。

採点の仕事も、同じように差し引かれますか。

「No.2795」の項目4には「原稿料には、試験問題の出題料や答案の採点料などは含まれません」と書かれています。ただし、この記事では、ご自身の作業がこれに当たるかどうかの結論は書きません。実務としては、請求書で作業の内訳を分けて書いておくことをおすすめします。処理を判断するのは支払う側ですが、判断の材料を明確にすることはこちらでできます。個別の判断は税務署や税理士にご相談ください。

「謝金」という名目なら、差し引かれませんか。

公式には「謝金、取材費、調査費、車代などの名目で支払をする場合がありますが、これらの実態が原稿料や講演料と同じ場合には、すべて源泉徴収の対象になります」と書かれています。別のページ(No.2792)にも「謝礼、研究費、取材費、車代などの名目で支払われていても、その実態が報酬・料金等と同じであれば源泉徴収の対象になります」とあり、2か所に同じ趣旨が記載されています。名目を変えることで扱いが変わる、という構造にはなっていません。

請求書はどう書けばよいですか。

消費税については「請求書等において報酬・料金等の額と消費税等の額が明確に区分されている場合には、その報酬・料金等の額のみを源泉徴収の対象とする金額として差し支えありません」と書かれています。条件は「明確に区分されている場合」なので、書面で分けておくことに意味があります。また、性質の違う作業が含まれる場合は、その内訳も分けて書いておくとよいでしょう。ただし、名前を工夫すれば扱いが変わるという話ではなく、実態に合った内訳を書く、ということです。

差し引かれた分は、戻ってこないのですか。

この記事では、確定申告での取り扱いについては詳しく扱いません。源泉徴収は、所得税を前もって差し引いて納める仕組みです。最終的な税額は確定申告で計算されます。ご自身の場合にどうなるかは、所轄の税務署や税理士にご確認ください。副業全般の論点は姉妹メディア「20代の放課後」で扱っています。確定申告と20万円ルール、副業の始め方を参照してください。講師業の周辺ではオンライン講座を開く回、まとめ売りの回もあわせてどうぞ。


受ける前に、計算式を見ておく

税率も計算式も、国税庁のページに表の形で公開されています。制度は改正されるので、判断するときは最新のページを確認し、個別の相談は所轄の税務署や税理士へ。

国税庁「原稿料や講演料等を支払ったとき」を見る

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