
物販を始めると、売れているのに手元にお金がない、という状態が起きます。帳簿では黒字。ですが、次の仕入れができない。
原因は、お金が入るタイミングと出るタイミングのずれです。そして、このずれの一部は、条文が求めている表示と関係しています。いつ払ってもらい、いつ渡すか。これは自分で決めて、書くものだからです。
この記事では、通信販売について定めた条文を読みます。扱うのは、表示すべき事項、そのうちの「いつ」に関わるもの、省略できる場合、前払いを受けたときの通知、引渡しから8日の規定、特約の表示、返送費用、資金の回り方、出品前に決めること、想定モデル、つまずく場所です。
この記事は、公開されている条文を紹介するものであり、法律の解説ではありません。個別の判断は、弁護士などの専門家や、消費生活センター・消費者庁の窓口にご相談ください。この出品は違反である、といった判断は書きません。
引用は、デジタル庁が運営するe-Gov法令検索で公開されている「特定商取引に関する法律」(昭和51年法律第57号)の条文を、取得して確認したものです。法令は改正されます。実際に判断するときは、最新の条文をご確認ください。
出品ページに何を書くかは、条文で決まっている
まず、前提の話です。
「通信販売」という言葉
ネットで物を売る行為は、条文の言葉では通信販売に当たり得ます。そして、この法律には通信販売についての章があります。
フリマアプリでも、自分のショップでも、条文の定義に当てはまるかどうかで判断されます。プラットフォームの名前で決まるわけではありません。
条文の言葉と、日常の言葉は違います。自分の行為を、条文の言葉に置き換えてみてください。置き換えられて初めて、どの条を読めばよいかが決まります。
そして、章ごとに扱う取引の種類が違います。訪問販売、通信販売、電話勧誘販売。自分の取引がどの章かを決めてから読んでください。
主語は「販売業者又は役務提供事業者」
条文の主語を見ると、「販売業者又は役務提供事業者は」となっています。個人だから関係ない、とは書かれていません。
販売業者に当たるかどうかについては、教材販売の回でも扱いました。繰り返し売っているかどうかが関わる論点です。この記事では、当たる場合に何が求められるかを見ます。
主語を確認する読み方は、他の法律でも同じです。誰に対する規定なのか。自分が当てはまらなければ、その条は読まなくてよい。読む量を減らす方法でもあります。
プラットフォームが用意してくれている場合もある
出品画面に、入力欄が最初から用意されていることがあります。それは、表示すべき事項に対応している場合があります。
ただし、欄があっても、中身を書くのは自分です。空欄のまま、あるいは適当に埋めたまま出品していないかを確認してください。
そして、欄の名前と条文の項目は一致しないことがあります。言い換えられていることが多い。条文の6項目を手元に置いて、対応を確かめてください。
そして、欄がない項目は自分で書き足すことになります。商品説明の中に入れる形でも構いません。欄の有無ではなく、表示されているかどうかです。
条文を読む意味
何を書けばよいかを人に聞くより、条文の列挙を見るほうが早い。6つしかありません。
そして、条文には省略できる場合も書かれています。読んでおけば、無駄に悩まずに済みます。
読むのは3条で足ります。第十一条、第十三条、第十五条の三。全部で10分もかかりません。出品する前に一度、目を通しておいてください。
そして、読んだ日付を控えてください。法令は改正されます。いつ時点の理解かを言えるようにしておく。
読むときは、条文をそのまま写しておくのも手です。後から見返すのが速くなります。自分の言葉で要約すると、条件が落ちることがあります。
表示すべき事項は6つ挙げられている
中心の条文を読みます。
第十一条の本文
見出しは「通信販売についての広告」。こう始まります。「販売業者又は役務提供事業者は、通信販売をする場合の商品若しくは特定権利の販売条件又は役務の提供条件について広告をするときは、主務省令で定めるところにより、当該広告に、当該商品若しくは当該権利又は当該役務に関する次の事項を表示しなければならない」。
語尾は「表示しなければならない」です。そして「次の事項」として、6つが並びます。
「主務省令で定めるところにより」という一節も入っています。細かい方法は省令の側にある、ということです。条文だけで完結しない部分があると分かるだけでも、調べ方が変わります。
第一号と第二号
「一 商品若しくは権利の販売価格又は役務の対価(販売価格に商品の送料が含まれない場合には、販売価格及び商品の送料)」。括弧の中に、送料についての条件が入っています。
そして「二 商品若しくは権利の代金又は役務の対価の支払の時期及び方法」。支払の時期と、方法。この2つが並んで書かれています。
第一号の括弧は、見落とされやすい部分です。送料込みかどうかで、書くべき内容が変わります。送料別なら、送料も表示する対象になります。
第三号と第四号
「三 商品の引渡時期若しくは権利の移転時期又は役務の提供時期」。いつ渡すか、です。
そして「四 商品若しくは特定権利の売買契約又は役務提供契約に係る申込みの期間に関する定めがあるときは、その旨及びその内容」。「定めがあるときは」という条件つきの項目です。
第四号は「定めがあるときは」という条件つきです。期間を定めていないなら、この号は関係しません。条件つきの号は、自分に当てはまるかを先に判断してください。
第五号と第六号
「五 商品若しくは特定権利の売買契約又は役務提供契約の申込みの撤回又は解除に関する事項」。返品やキャンセルについての事項です。括弧の中で、特約がある場合にはその内容を含む、とされています。
そして「六 前各号に掲げるもののほか、主務省令で定める事項」。6つ目は「省令で定める事項」なので、条文だけでは中身が分かりません。省令を見に行く必要がある項目です。
第六号のように省令に委ねられている項目は、条文を読んだだけでは終わりません。ですが、5つまで分かれば大半は書けます。完璧を目指すより、まず列挙されている項目を埋めてください。
そのうち2つは「いつ動くか」の話
資金繰りにつながる部分です。
第二号は、お金が動く時期
「代金又は役務の対価の支払の時期及び方法」。買う人がいつ払うかを、こちらが書きます。
先払いなのか、商品の到着後なのか。この設定が、自分の手元にお金が入る時期を決めています。書かされる項目ですが、決めるのは自分です。
そして、書いた内容は守ることになります。表示した時期と、実際の運用がずれないように。守れない条件を書かないでください。
方法についても書きます。クレジットカード、銀行振込、代金引換。使える方法を並べるだけで足ります。
第三号は、物が動く時期
「商品の引渡時期」。いつ発送し、いつ届くのか。
発送までの日数を長く設定すれば、準備に余裕ができます。ですが、その間はお金も入りません。条件によっては、入金がさらに後ろにずれます。
余裕を持った日数を書くほうが安全です。早く届けば喜ばれますが、遅れると問題になります。非対称なので、長めに書くほうが得です。
書き方は「ご入金確認後、3営業日以内に発送」のような形です。起点と日数をセットで書く。起点がないと、数えられません。
2つの間隔が、資金繰りを決める
先にお金をもらって、後から送る。この形なら、手元の現金は先に増えます。逆に、先に送って後から入金なら、その間は立て替えの状態になります。
条文が求めているのは表示ですが、表示する内容は自分で決められます。だから、この2項目は資金繰りの設計そのものです。
この間隔は、自分で図に書いてみてください。時間の線を引いて、出る日と入る日を置く。図にすると、どこで詰まるかが一目で分かります。
そして、図は1回書けば十分です。取引の形が同じなら、毎回同じ図になります。形を変えるときだけ、書き直してください。
ただし、決められない部分もある
プラットフォームを使う場合、支払いの方法も時期も、その仕組みで決まっていることが多い。自分で選べる範囲が限られます。
その場合は、仕組みがどうなっているかを、使う前に確認してください。売上金がいつ自分の口座に入るのかは、出品する前に知っておくべき情報です。
選べない場合でも、知っておく価値はあります。知っていれば、計画が立てられるからです。変えられないことと、知らなくてよいことは違います。
複数のサービスを使うなら、それぞれ違います。入金の日数も、手数料も。一覧にして比べておくと、どこで売るかの判断材料になります。
ただし書きに、省略できる場合が書かれている
第十一条には続きがあります。
条文のただし書き
こうあります。「ただし、当該広告に、請求により、これらの事項を記載した書面を遅滞なく交付し、又はこれらの事項を記録した電磁的記録を遅滞なく提供する旨の表示をする場合には、販売業者又は役務提供事業者は、主務省令で定めるところにより、これらの事項の一部を表示しないことができる」。
請求があれば書面や電磁的記録を遅滞なく渡す、という旨を表示していれば、「これらの事項の一部を表示しないことができる」とされています。
「ただし」で始まる文は、前の文の例外です。本文だけを読んで判断すると、例外を見落とします。条文は、本文とただし書きをセットで読んでください。
「一部」であって、全部ではない
読み飛ばしやすいのですが、「一部を表示しないことができる」です。全部を省略してよい、とは書かれていません。
そして、どの一部かは「主務省令で定めるところにより」とされています。省令を見なければ分かりません。この記事では、そこまでは扱いません。
数量を示す言葉は、条文では正確に使われています。一部、全部、いずれか、すべて。この種の言葉は、読み替えないでください。
そして、省令まで確認するかどうかは目的によります。6項目を全部書くなら、省略の話は関係しません。書ききれない事情があるときだけ、調べてください。
省略には条件がついている
条件は「請求により……遅滞なく交付し……する旨の表示をする場合」です。つまり、省略するなら、代わりに別の表示が必要になります。
何も書かずに省略できる、という構造ではありません。条文のただし書きは、たいていこの形をしています。
条件つきの緩和は、条文でよく出てくる形です。代わりに別のことをするなら、こちらは省いてよい。交換条件になっていると考えると、理解しやすい。
そして、代わりにやることの手間も見てください。請求されたら遅滞なく渡す、という運用が必要になります。省略したほうが手間が増えることもあります。
実務としては、書いたほうが早い
省略の条件を満たす表示を用意するより、6項目を書いてしまうほうが手間は少ないことが多い。
そして、書いてあること自体が、買う人の安心にもつながります。省略を検討するのは、書ききれない事情がある場合です。
一度書けば、次の出品でも使えます。定型文として保存しておいてください。商品ごとに変わるのは、金額と発送の日数くらいです。
そして、書いた定型文は見直してください。取引の形が変わったのに、文だけ古いままになりがちです。年に1回は読み返してください。
先にお金を受け取ったら、通知の義務がある
資金繰りに直結する条文です。
第十三条の本文
見出しは「通信販売における承諾等の通知」。条文はこう始まります。「販売業者又は役務提供事業者は、……当該商品の引渡し……に先立つて当該商品……の代金……の全部又は一部を受領することとする通信販売をする場合において、郵便等により……申込みを受け、かつ、……代金……の全部又は一部を受領したときは、遅滞なく、主務省令で定めるところにより、その申込みを承諾する旨又は承諾しない旨……その他の主務省令で定める事項をその者に書面により通知しなければならない」。
先にお金を受け取る形にしている場合の規定です。受け取ったら、遅滞なく通知しなければならない、とされています。
長い条文ですが、構造は単純です。先にお金を受け取ったら、遅滞なく通知する。条件と義務の2つだけを取り出せば、読めます。
ただし書きがある
続けてこうあります。「ただし、当該商品若しくは当該権利の代金又は当該役務の対価の全部又は一部を受領した後遅滞なく当該商品を送付し、若しくは当該権利を移転し、又は当該役務を提供したときは、この限りでない」。
受け取った後、遅滞なく商品を送ったなら、この限りでない。つまり、すぐ送るなら通知は不要という構造になっています。
「遅滞なく」という言葉が、条件と免除の両方に出てきます。遅滞なく通知するか、遅滞なく送るか。どちらかを速やかにやる、という構造です。
だから、発送が遅れると義務が増える
先にお金をもらって、発送まで日数が空く。この形だと、通知についての規定が関わってきます。
資金繰りのために前払いにしたら、別の作業が増えた、ということが起こり得ます。設計するときは、こちらも見てください。
設計するときは、2つを並べて考えてください。資金繰りの都合と、増える作業。片方だけを見て決めると、後から気づきます。
そして、発送までの日数は在庫の持ち方でも変わります。手元に在庫があるか、注文後に仕入れるか。在庫を持たない形ほど、日数が延びます。
電磁的方法も認められている
第2項にこうあります。「販売業者又は役務提供事業者は、前項の規定による書面による通知に代えて、政令で定めるところにより、当該申込みをした者の承諾を得て、当該書面に記載すべき事項を電磁的方法により提供することができる」。
そして「この場合において、当該販売業者又は当該役務提供事業者は、当該書面による通知をしたものとみなす」とされています。条件つきで、電子的な方法も認められている形です。
「みなす」という言葉が使われています。条件を満たせば、書面で通知したものとして扱われる。条文では強い意味を持つ言葉です。
引渡しから8日という規定がある
返品についての条文です。
第十五条の三の本文
見出しは「通信販売における契約の解除等」。条文にはこうあります。「……その売買契約に係る商品の引渡し又は特定権利の移転を受けた日から起算して八日を経過するまでの間は、その売買契約の申込みの撤回又はその売買契約の解除……を行うことができる」。
起点は「商品の引渡し……を受けた日」で、そこから「八日を経過するまでの間」とされています。
この条文の存在を知らない人は多い。知っておくだけで、慌てずに対応できます。起きてから調べるより、先に読んでおくほうが楽です。
誰ができると書かれているか
主語を確認します。条文は「……申込みを受けた場合におけるその申込みをした者又は売買契約を締結した場合におけるその購入者……は」としています。
できるのは購入者の側です。売る側から見れば、8日間はこの可能性がある期間ということになります。
主語が購入者側であることは、条文の性格を示しています。買う人を保護するための規定です。売る側は、その前提で設計することになります。
そして、この期間中に代金をどう扱うかも決めておいてください。使ってしまってから返すことになると、苦しくなります。入金されても、しばらくは動かさないという運用もあります。
「通販にクーリング・オフはない」との関係
よく言われる説明ですが、条文にはこの第十五条の三が置かれています。呼び方の問題ではなく、条文に何が書かれているかを見てください。
そして、この条文にはただし書きがあります。次で見ます。
この種の要約は、広く流通しています。要約が間違っているというより、条件が落ちている。条文に当たれば、条件ごと分かります。
そして、人に説明するときも条文を示してください。「第十五条の三にこう書かれています」。自分の意見ではなく、書かれていることとして伝えられます。
期間の数え方も書かれている
「引渡し……を受けた日から起算して八日を経過するまでの間」。起算点が明記されています。
発送した日ではなく、相手が受け取った日が起点です。配送に日数がかかれば、その分だけ後ろにずれます。
起算点を確かめる習慣は、他の場面でも使えます。契約の期間、保証の期間、支払いの期限。いつからかが決まらないと、いつまでかも決まりません。
そして、配送状況の記録は残しておいてください。いつ届いたかが、起点になります。追跡の記録がそのまま材料になります。
特約を表示していた場合は、この限りでない
この記事でいちばん重要な部分です。
ただし書きの条文
こうあります。「ただし、当該販売業者が申込みの撤回等についての特約を当該広告に表示していた場合(当該売買契約が電子消費者契約に関する民法の特例に関する法律……第二条第一項に規定する電子消費者契約に該当する場合その他主務省令で定める場合にあつては、当該広告に表示し、かつ、広告に表示する方法以外の方法であつて主務省令で定める方法により表示していた場合)には、この限りでない」。
特約を「当該広告に表示していた場合」には「この限りでない」とされています。
括弧が入れ子になっていて読みにくい部分です。一度、括弧の中を飛ばして読んでみてください。骨格が分かってから、括弧を戻して読むと理解しやすい。
表示していたかどうかで変わる
条件は「表示していた場合」です。特約を決めていただけでは足りず、表示していたかどうかが書かれています。
だからこそ、第十一条の第五号が「申込みの撤回又は解除に関する事項」を表示すべき事項として挙げているのです。2つの条文がつながっています。
条文どうしがつながっているのは、偶然ではありません。表示すべき事項に挙げられているから、表示が条件になる。1つの法律の中で、条文は互いに参照し合っています。
そして、表示は見える場所に置いてください。書いてあっても、たどり着けない場所では意味が薄い。商品説明の中か、すぐ開ける場所に。
括弧の中に、別の条件がある
ただし書きの括弧の中を読んでください。電子消費者契約に該当する場合などは、「当該広告に表示し、かつ、広告に表示する方法以外の方法であつて主務省令で定める方法により表示していた場合」とされています。
広告への表示に加えて、別の方法での表示も求められる場合がある、という構造です。具体的な方法は省令によるので、この記事では扱いません。
「かつ」でつながれているので、両方が必要になります。広告への表示と、別の方法での表示。接続詞を見落とすと、条件の数を間違えます。
結論は書きません
自分の出品がどう扱われるかは、状況によって判断が分かれる部分です。
ここで押さえたいのは、「表示していたかどうか」が条文の条件になっている、という構造のほうです。迷う場面では、消費生活センターや専門家に相談してください。
相談先は複数あります。消費生活センター、消費者庁の窓口、弁護士。費用をかけずに聞ける窓口もあります。
そして、相談するときは自分の出品ページを見せてください。一般論より、実物を見せるほうが早い。画面を印刷するか、リンクを持っていく。
返送の費用は誰が負担すると書かれているか
第十五条の三には第2項があります。
第2項の条文
こうあります。「申込みの撤回等があつた場合において、その売買契約に係る商品の引渡し又は特定権利の移転が既にされているときは、その引取り又は返還に要する費用は、購入者の負担とする」。
「購入者の負担とする」と書かれています。返送の費用についての規定です。
負担する人が条文に書かれているのは、親切な構造です。当事者で決める必要がない。書かれていることは、そのまま知識として使えます。
そして、この規定を知っていると、案内の文も書けます。「返送にかかる費用はご負担をお願いしております」。条文に沿った案内なら、説明もできます。
この条文が想定している場面
撤回等があって、商品が既に渡っている場合です。その引取りや返還にかかる費用が対象になっています。
誰が負担するかが条文に書かれているので、あらかじめ知っておけば、その場で慌てずに済みます。
想定されている場面を把握すると、自分に関係するかも分かります。商品が既に渡っているかどうか。渡る前なら、この項の場面ではありません。
そして、場面を分けて考える癖をつけてください。渡す前、渡した後、完了した後。段階ごとに、関わる条文が変わります。
ただし、代金の扱いは別の話
この第2項が定めているのは、引取りや返還にかかる費用についてです。商品の代金そのものの扱いは、この項には書かれていません。
条文は、扱う対象を限定して書かれています。何について定めた条文かを、毎回確認してください。
条文に書かれていないことを、書かれていると思い込まないでください。書かれている範囲だけが、その条文の内容です。足りない部分は、別の条文か、別の法律にあります。
そして、分からない部分は分からないままにせず、窓口に聞いてください。条文に書かれていないことは、調べても出てきません。人に聞くほうが早い場面です。
プラットフォームの規約との関係
実際の取引では、使っているサービスの規約も関わります。条文と規約の両方を見ることになります。
どちらか片方だけを見ていると、実際の扱いが分かりません。規約は自分が同意しているものなので、一度は読んでおいてください。
規約は長いので、関係する部分だけを探してください。返品、キャンセル、入金。この3語で検索すれば、必要な箇所に辿り着けます。
そして、規約は変わります。変更の通知が来たら、目を通してください。自分の運用に関わる部分だけでも確認する。
だから、手元の現金が回らなくなる
資金繰りの話に戻ります。
お金が出ていく順番
仕入れの代金、送料、梱包資材。これらは、売れる前に出ていきます。
そして、売れてから入金されるまでには時間がかかる。出るのが先で、入るのが後。この順番が、資金が詰まる理由です。
この順番は、物販の構造そのものです。仕入れてから売る、という形である限り変わりません。だから、資金の余裕が事業の上限を決めます。
そして、この順番を変えることもできます。受注してから仕入れる形にする。ただし、発送までの日数は延びます。どちらを取るかの選択になります。
3つの待ち時間がある
売れてから商品が届くまで。届いてから8日の期間。そして、プラットフォームから自分の口座に振り込まれるまで。
これらが積み上がります。売れた日と、使えるお金になる日は、同じではありません。
3つとも、日数を調べられます。配送の目安、条文の期間、サービスの入金サイクル。調べて足すだけで、待ち時間の合計が出ます。
そして、待ち時間は短縮できる部分もあります。発送を速くする、完了を促す。自分で動かせるところと、動かせないところを分けてください。
売れるほど詰まる構造
売上が伸びると、仕入れも増えます。出ていくお金が先に増える。
入金は後から追いついてきますが、成長している間は、常に立て替えの額が増え続けます。黒字でも現金が足りなくなるのは、この構造によります。
この構造を知らないと、売れているのに苦しい理由が分かりません。やり方が悪いと思ってしまう。構造の問題だと分かれば、対処も変わります。
そして、この構造は規模が大きくなるほど効きます。個人でも、会社でも同じです。黒字倒産という言葉があるのは、この構造があるからです。
対処は3つ
仕入れのペースを落とす。入金の早い売り方を選ぶ。手元の資金に余裕を持つ。どれも当たり前ですが、意識していないと選べません。
そして、いちばん大事なのは、時間差を数字で把握することです。何日ずれているのかを知らなければ、余裕の量も決められません。
このうち、すぐできるのは1つ目です。仕入れのペースを落とす。苦しくなってからでは選びにくいので、先に基準を決めておいてください。
そして、3つ目には限度があります。手元の資金は、無限には増えません。1つ目と2つ目を先に考えてください。
出品前に決める5項目
売り始める前に決めておくことです。
- 支払の時期と方法:条文の第二号に当たる部分
- 引渡時期:第三号。発送までの日数を含む
- 返品についての方針:第五号。特約を置くかどうか
- 送料の扱い:第一号の括弧の部分
- 入金までの日数:自分の口座に入るまで
1つ目から4つ目は、条文の項目そのもの
条文が表示すべきとしている事項を、そのまま自分の決め事にしています。
決めていないものは、書けません。書くために決める、という順番になります。
決めるときは、紙に書き出してください。頭の中だけで決めると、書くときに迷います。書き出したものを、そのまま出品ページに写せる状態にしておく。
そして、決めた内容は商品によって変えられます。大きい商品は発送に日数がかかる、というように。商品の種類ごとに決めておくと、迷いません。
5つ目は、条文の外の話
自分の口座に入るまでの日数は、条文ではなく使っているサービスの仕組みで決まります。
ここを知らずに始めると、資金繰りの計画が立ちません。出品する前に、公式の案内で確認してください。
公式の案内は、サービスによって置き場所が違います。ヘルプ、手数料のページ、振込の案内。見つからないときは、サポートに直接聞いてください。
そして、入金の日数は変更されることがあります。サービス側の都合で変わる。通知が来たら、資金繰りの計算をやり直してください。
3つ目は、慎重に決める
返品についての方針は、第十五条の三のただし書きと関わります。この記事では、どう決めるべきかは書きません。
条文には「特約を当該広告に表示していた場合」という条件が書かれている、という事実だけをお伝えします。判断に迷う場合は、専門家や窓口にご相談ください。
そして、決めた内容は変えられます。ただし、変える前の取引には、そのときの表示が関わります。いつ変えたかを記録しておいてください。
そして、他の出品者の書き方を見るのも参考になります。同じ商品を扱っている人がどう書いているか。ただし、真似るのではなく参考にする。判断は自分でしてください。
書いたものは、保存しておく
出品ページに書いた内容は、後から変えることがあります。
いつ、どう書いていたか。画面を保存しておくと、後から確認できます。これは他の回でも繰り返している話です。
保存は、画面の写しで足ります。日付が分かる形にしておく。変更のたびに撮っておけば、履歴になります。
そして、保存したものは取引ごとのフォルダに入れてください。後から探せる形にする。保存しても、見つけられなければ意味がありません。
ファイル名に日付を入れておくと、並べ替えるだけで履歴になります。手間は数秒です。名前の付け方を決めておくと、後が楽になります。
資金の回り方の想定モデル
入金までの日数はサービスによって違い、公的な統計もありません。以下は、時間差の構造を示すために置いた本メディアの想定モデルで、統計ではありません。実際の日数は、必ずご自身が使うサービスの公式の案内でご確認ください。
| できごと | 日数の例 | 手元の現金 |
|---|---|---|
| 仕入れの支払い | 0日目 | −20,000円 |
| 出品・売れる | 10日目 | −20,000円 |
| 発送・到着 | 13日目 | −21,000円(送料と資材) |
| 取引の完了 | 21日目 | −21,000円 |
| 口座への入金 | 28日目 | +9,000円 |
28日かかっている
仕入れの支払いから、口座に入るまでで28日。約1か月、お金が戻ってこない計算です。
この間に次の仕入れをすると、立て替えの額が2倍になります。3件並行なら3倍です。
この28日は、1件あたりの数字です。件数が増えても、1件あたりの日数は変わりません。変わるのは、同時に寝ている金額のほうです。
そして、この日数は季節でも変わります。大型連休や年末年始は、配送も入金も遅れます。その時期は、余裕を多めに見てください。
売上30,000円でも、手元は9,000円
仕入れ20,000円、送料と資材で1,000円。売上30,000円から手数料などが引かれた金額が入ってくる形です。差し引きで手元に残るのは9,000円という想定にしています。
この9,000円を得るために、28日間、21,000円を寝かせていたことになります。
この金額には、自分の作業時間が入っていません。仕入れ、撮影、出品、梱包、発送。時間を入れて計算する話は、ハンドメイドの回で扱いました。
そして、この9,000円から税金も引かれます。手元に残る金額は、さらに少なくなります。利益の計算には、税金の分も見込んでおいてください。
並行して動かすと、何が起きるか
月に3件回すなら、常に3件分の立て替えが発生します。21,000円×3で63,000円。
手元にこの金額の余裕がなければ、回せません。売上ではなく、立て替えの総額で考えてください。
だから、件数を増やす前に資金を確認してください。売れる見込みがあっても、回せなければ増やせません。上限は、需要ではなく資金が決めます。
そして、回転を速くすると必要な資金は減ります。28日が14日になれば、立て替えの期間も半分です。金額を増やすより、期間を短くするほうが効くこともあります。
だから、日数を先に数える
使うサービスの入金サイクルを調べて、この表を自分で作ってみてください。1回作れば、必要な資金の量が分かります。
そして、その金額を超えて仕入れないと決めておく。これが、続けるための基準になります。
表は1回作れば使い回せます。同じサービスを使う限り、日数は変わりません。サービスを変えるときだけ、作り直してください。
そして、実際にかかった日数も記録してください。想定と違うことがあります。実績が溜まれば、より正確な計画が立てられます。
つまずく場所は5つに決まっている
この分野でつまずくのは、ほぼ5つです。
| つまずく場所 | 条文に書かれていること |
|---|---|
| 出品ページを埋めずに出す | 次の事項を表示しなければならない |
| 返品について書かない | 特約を当該広告に表示していた場合には、この限りでない |
| 送料の扱いを書かない | 販売価格に商品の送料が含まれない場合には、販売価格及び商品の送料 |
| 前払いで、発送を遅らせる | 受領したときは、遅滞なく……通知しなければならない |
| 入金までの日数を数えない | (記載外。資金繰りの問題) |
1・出品ページを埋めずに出す
第十一条は「次の事項を表示しなければならない」としています。6つが列挙されています。
欄が用意されていても、中身を書くのは自分です。一度、自分の出品を見返してみてください。
見返すときは、6項目を1つずつ照らしてください。あるかないかだけを見る。内容の良し悪しは、その後の話です。
そして、1件確認したら、他の出品も同じ形にしてください。1件ずつ直すと、抜けが出ます。まとめて見直すほうが確実です。
見直す日を決めておくのもよい方法です。月初に1回、全件を確認する。予定に入れてしまえば、忘れません。
2・返品について書かない
第十五条の三のただし書きは「特約を当該広告に表示していた場合……には、この限りでない」としています。
表示していたかどうかが条件になっています。決めているだけでは、条文の条件とは違います。
書く内容は、短くて構いません。方針が伝わる形になっていることが大事です。長い文章より、明確な一文のほうが伝わります。
そして、書いた内容は守ってください。書いたことと運用が違うと、信用の問題になります。守れる内容だけを書く。
3・送料の扱いを書かない
第一号の括弧の中に「販売価格に商品の送料が含まれない場合には、販売価格及び商品の送料」とあります。
送料込みかどうかで、書くべき内容が変わります。括弧の中まで読んでください。
そして、送料込みかどうかは金額の印象も変えます。買う人にとっては、支払う総額が問題です。総額が分かる書き方にしてください。
そして、地域によって送料が変わる場合も書いてください。離島や遠方は別、という形が多い。後から追加請求するのは、揉める原因になります。
4・前払いで、発送を遅らせる
第十三条は、先に代金を受領した場合の通知について定め、ただし書きで「受領した後遅滞なく当該商品を送付し……たときは、この限りでない」としています。
資金繰りのために前払いにすると、別の規定が関わってきます。両方を見てから決めてください。
発送までの日数は、正直に書いてください。短く書いて遅れるほうが、問題になります。余裕のある日数を書いて、早く送る。
そして、遅れそうなときは連絡してください。黙って遅れるのが、いちばん問題になります。一言あれば、たいていは待ってもらえます。
5・入金までの日数を数えない
これは条文の話ではなく、資金繰りの問題です。売れた日と、使えるお金になる日は違います。
日数を数えて、立て替えの総額を出してください。それが、仕入れの上限になります。
数えるのは1回で足ります。紙に書いて、見える場所に貼っておいてください。忘れたころに効いてくる数字です。
そして、数えた結果は仕入れの判断に使ってください。数えただけでは、何も変わりません。上限を決めて、それを超えないという運用にする。
上限は、余裕を持って決めてください。ぎりぎりに設定すると、想定外のことが起きたときに詰まります。使える資金の7割程度を目安にする考え方もあります。
30代につながるのは、お金の時間差を見る目
このメディアは、20代の副業を「30代に何が残るか」で選ぶ立場で書いています。この分野で残るのは、物販の技術だけではありません。
入るタイミングと出るタイミングを分けて見る
残るのは、利益が出ているかと、現金が回っているかを、別々に見る習慣です。この2つは違う問いです。
30代になると、この違いが効く場面が増えます。事業でも、家計でも、黒字なのに苦しい状態は起こります。時間差を見られる人は、その理由を説明できます。
この2つを分けて説明できると、相談もしやすくなります。利益は出ているが、現金が足りない。状況を正確に言えれば、適切な助言が得られます。
そして、この見方は家計でも使えます。収入の日と、支払いの日。給料日前に苦しいのも、同じ構造です。
書くために、決めるという順番
今回の6項目は、表示するために決めるものでした。決めていないことは、書けません。
書こうとすると、決めていないことに気づく。この順番は、あらゆる仕事で使えます。文書にしてみると、抜けが見つかります。
そして、書いたものは他人に見られます。見られる前提だと、決め方も慎重になります。公開することが、質を上げる仕組みにもなります。
そして、書けないことに気づいたら、それが決めるべきことです。書こうとして手が止まった部分。そこを埋めれば、準備が終わります。
条件つきの規定を、条件ごと覚える
「特約を表示していた場合には、この限りでない」。この形は、条文でも契約でも頻出します。
結論だけを覚えると、条件が抜けます。条件ごと覚えておけば、自分の状況に当てはめられます。これは他の記事でも繰り返してきた読み方です。
覚え方のコツは、条件を先に置くことです。「表示していた場合には」「この限りでない」。条件から覚えると、結論だけを取り違えません。
そして、条件が分からないまま結論を人に伝えないでください。条件が抜けた情報は、誤解を生みます。伝えるなら、条件ごと伝える。
まとめ
- 第十一条は「販売業者又は役務提供事業者は、通信販売をする場合の……広告をするときは……次の事項を表示しなければならない」とし、6つを列挙している(e-Gov法令検索)
- そのうち第二号が「代金……の支払の時期及び方法」、第三号が「商品の引渡時期」。この2つが、手元の現金の回り方を決めている
- ただし書きでは、請求により書面等を遅滞なく交付する旨を表示する場合には「これらの事項の一部を表示しないことができる」とされている。全部ではなく一部
- 第十三条は、先に代金を受領する通信販売について「受領したときは、遅滞なく……通知しなければならない」とし、ただし書きで「受領した後遅滞なく当該商品を送付し……たときは、この限りでない」としている
- 第十五条の三は「商品の引渡し……を受けた日から起算して八日を経過するまでの間は……申込みの撤回又は……解除……を行うことができる」とし、ただし書きで「特約を当該広告に表示していた場合……には、この限りでない」としている
- 同条第2項は「その引取り又は返還に要する費用は、購入者の負担とする」としている
- 資金が詰まるのは、出ていくのが先で、入ってくるのが後だから。想定モデルでは仕入れから入金まで28日、3件並行なら63,000円の立て替えになる
- この記事は公開されている条文の紹介であり、法律の解説ではありません。個別の判断は弁護士などの専門家や、消費生活センター・消費者庁の窓口にご相談ください
よくある質問(FAQ)
個人がフリマアプリで売る場合も、この条文は関係しますか。
この記事では、当たるか当たらないかという結論は書きません。条文の主語は「販売業者又は役務提供事業者」で、個人だから対象外とは書かれていません。販売業者に当たるかどうかについては、繰り返し売っているかどうかなどが関わる論点で、教材販売の回でも扱っています。ご自身の状況が条文の定義に当てはまるかどうかは、消費生活センターや弁護士などの専門家にご相談ください。
「通販にクーリング・オフはない」と聞きましたが。
呼び方の問題ではなく、条文に何が書かれているかをご確認ください。第十五条の三には「その売買契約に係る商品の引渡し又は特定権利の移転を受けた日から起算して八日を経過するまでの間は、その売買契約の申込みの撤回又はその売買契約の解除……を行うことができる」とあります。そして、ただし書きで「当該販売業者が申込みの撤回等についての特約を当該広告に表示していた場合……には、この限りでない」とされています。表示していたかどうかが条件として書かれている、という構造です。
返品された場合、送料は誰が払うのですか。
第十五条の三第2項には「申込みの撤回等があつた場合において、その売買契約に係る商品の引渡し又は特定権利の移転が既にされているときは、その引取り又は返還に要する費用は、購入者の負担とする」と書かれています。ただし、この項が定めているのは引取りや返還にかかる費用についてであり、商品の代金そのものの扱いはこの項には書かれていません。また、実際の取引では使っているサービスの規約も関わります。条文と規約の両方をご確認ください。
売れているのに、手元にお金がありません。
お金が出ていくタイミングと、入ってくるタイミングのずれによるものです。仕入れの代金、送料、梱包資材は売れる前に出ていき、入金は売れた後になります。さらに、商品が届くまで、取引が完了するまで、口座に振り込まれるまでと、待ち時間が積み上がります。この記事の想定モデルでは、仕入れから入金まで28日かかる計算にしています。まずは、ご自身が使っているサービスの入金サイクルを公式の案内で確認し、同じ表を作ってみてください。立て替えの総額が分かれば、仕入れの上限も決められます。
副業として始めるとき、確定申告や会社への影響はどうなりますか。
この記事では通信販売の表示と資金の回り方だけを扱っています。副業全般の論点は姉妹メディア「20代の放課後」で扱っています。確定申告と20万円ルール、副業の始め方を参照してください。物販の周辺では、古物商許可の回、仕入れ判断の回、検品と返品対応の回もあわせてどうぞ。
出品する前に、条文そのものを読んでおく
通信販売について定めた法律は、e-Gov法令検索で全文が公開されています。今回見たのは第十一条、第十三条、第十五条の三。法令は改正されるので、判断するときは最新の条文を確認し、個別の相談は専門家や消費生活センターへ。