
営業から別の職種に移りたい。ノルマから離れたい、数字に追われる働き方を変えたい。そう考えて求人を見ると、未経験可の職種はあるものの、自分の経験がそこで役に立つのかが分かりません。
「営業はつぶしが利く」とよく言われます。この言葉は半分正しく、半分は雑です。正確には、営業の経験のうち持ち運べるのは一部で、その一部をどう書くかで評価がまったく変わります。
この記事では、営業の経験を4つに分解し、持ち運べるものと持ち運べないものを分けたうえで、数字が語れない場合の書き方、移りやすい職種、伝え方までを解説します。異業種転職の全体像は未経験の異業種転職で後悔する人の共通点で扱っています。
営業は「つぶしが利く」のか
評価されるのは経験の中身
厚生労働省の「令和2年転職者実態調査」によると、企業が処遇を決める際に最も重視するのは「これまでの経験・能力・知識」で53.7%です。「営業職だったから」という職種名そのものが評価されるわけではありません。
つまり「つぶしが利く」かどうかは、営業という肩書きではなく、その中で何をどこまでやってきたかで決まります。同じ営業職でも、扱っていた商材と担当範囲で、持ち運べる経験の量は大きく変わります。
「人と話せる」は評価軸にならない
営業の強みとして「コミュニケーション能力」を挙げる人が多くいますが、これは評価に使えません。反対に「人と話せません」と自己PRに書く人がいないため、差がつかないからです。
差になるのは、選択の余地がある行動です。「初回の商談で決裁者の同席を依頼する」の反対は「担当者とだけ話を進める」で、これは実際に多くの営業がやっています。反対側に実在する人がいる表現だけが、強みとして機能します。
営業の経験を4つに分解する
分解すると、持ち運べるものが見える
①〜③は職種と業界を越えて持ち運べます。④だけが業界に固定されます。職務経歴書の中心に置くべきなのは①〜③で、④は同業界に移る場合にのみ前面に出します。
この図を使うときは、自分の1日の業務を4つに振り分けてみてください。多くの営業職では、時間の大半が②と④に使われている一方、書類で語れる材料は①と③に集中しています。時間を使っている業務と、評価につながる業務は一致しません。
振り分けたときに①と③がほとんど出てこない場合は、指示された訪問と報告を繰り返す働き方になっている可能性があります。その場合は、次章の「工程の数字」を記録するところから始めてください。記録があれば、①と③の材料は後から作れます。
とくに強いのは③
4つのうち、他職種から見て希少なのが③の「数字の設計と分析」です。目標から逆算して行動量を決め、未達の原因を工程ごとに切り分ける。この手順を日常的に回している職種は、実はそれほど多くありません。
管理部門や企画職では、数字を扱えるが現場の肌感覚がない人が多く、営業出身者はその両方を持ちます。ここを書けると、未経験職種でも評価の土俵に乗ります。
数字が語れない営業の書き方
目標達成率だけが実績ではない
「達成率120%」と書ける人ばかりではありません。担当エリアや商材によって、そもそも数字が伸びにくいこともあります。この場合、達成率を無理に前に出す必要はありません。
代わりに書けるのは、工程の数字です。担当社数、商談件数、提案から受注までの平均期間、失注理由の分類。これらは達成率と関係なく、正確に書けます。
工程の数字で書く例
| よくある書き方 | 工程の数字で書いた例 |
|---|---|
| 法人向けのルート営業を担当。売上目標を達成 | 製造業30社を担当し、月20件の訪問から追加提案の機会を作る流れを設計。初回提案から受注までの平均期間は45日 |
| 新規開拓営業として新規顧客の獲得を担当 | 週50件の架電から月8件の商談を作り、うち2件を受注。失注理由を5分類して記録し、提案資料を四半期ごとに改訂 |
| 既存顧客のフォローを担当 | 担当50社の利用状況を月次で確認し、解約の兆候がある顧客を優先訪問。担当期間中の解約は年2社以内に維持 |
| チームリーダーとしてメンバーを管理 | メンバー4名の商談同行を週1回行い、失注の多い工程を特定して提案の型を共有。新人2名が6か月で単独商談に移行 |
右列は、達成率が書かれていなくても「何をどこまでやる人か」が伝わります。読み手が知りたいのは結果の数字だけではなく、その結果を出す過程を設計できるかどうかです。
数字がまったくない場合
工程の数字も記録していない場合は、期間と範囲で書きます。「担当30社」「週次で」「3年間」といった数字は、記録がなくても思い出せます。
避けるべきは「多くの顧客」「大幅に改善」といった曖昧な表現です。深掘りされたときに答えられず、信用を落とします。正確な小さい数字のほうが強いという原則は、営業職でも変わりません。
移りやすい職種と、その理由
4つの機能がそのまま使える職種
| 職種 | 使える機能 | 補足 |
|---|---|---|
| カスタマーサクセス | ①課題の特定 ②進行管理 | 顧客と長く伴走する。営業より関係構築の比重が高い |
| 企画・マーケティング | ①課題の特定 ③数字の設計 | 現場の肌感覚を持つ企画職は希少 |
| 人事(採用) | ①課題の特定 ②進行管理 | 候補者と現場の調整。選考の進行管理が営業と同構造 |
| 事業企画・営業企画 | ②進行管理 ③数字の設計 | 営業の経験がそのまま分析対象の理解につながる |
| 同業界の別職種 | ①〜④すべて | 業界知識が残るため、下げ幅が最も小さい |
最終行が重要です。業界を変えずに職種だけを変える道なら、④の業界知識が評価対象として残ります。年収の下げ幅を抑えたい場合は、この選択肢を先に検討してください。
移りにくい職種
逆に、①〜③があまり使われない職種は負荷が大きくなります。専門知識を一から積む技術職や、対人の要素がほとんどない職種がこれに当たります。
避けるべきという意味ではありません。その場合は評価されない期間が長くなると理解したうえで、生活面から何年耐えられるかを先に計算しておくことが必要です。
判定の目安は、その職種の求人票に書かれている業務のうち、①〜③で説明できるものがいくつあるかです。3つのうち1つも重ならないなら、入社直後から貢献できる部分がないことになります。1つでも重なるなら、そこを起点に信用を作れます。
「営業から逃げた」と読まれない伝え方
ノルマを理由の中心にしない
採用する側が警戒するのは、「きつい仕事から逃げる人ではないか」という点です。ノルマや数字のプレッシャーを理由の中心に置くと、この懸念が直接的に立ち上がります。
実態としてそれが理由であっても、伝え方としては「次に何をしたいか」を前に出してください。「顧客の課題を聞き出すところまでは自分でできたが、その先の仕組みを作る側に回りたい」。これは営業の経験を土台にした前向きな理由になります。
営業を否定しない
もう1つの落とし穴は、営業という仕事そのものを否定する言い方です。「売ることに意味を感じられなかった」という説明は、応募先に営業部門がある限り、共に働く人への評価とも受け取られます。
否定するのではなく、範囲の話にしてください。「売るところまでは担当できたが、その後の定着まで見たい」という形なら、営業の価値を認めたうえで、次を語ることになります。
「数字が苦手」とは言わない
数字から離れたい気持ちがあっても、それを言葉にすると、③の強みを自分で否定することになります。前述のとおり、数字の設計と分析は営業出身者の最大の武器です。
正確に言うなら、離れたいのは「短期の売上目標に追われる状態」であって、数字そのものではないはずです。この2つは分けて話してください。理由の整理は納得のいく転職理由の作り方で扱っています。
年収が下がりやすいパターン
インセンティブ分が消える
営業からの転職で見落とされやすいのが、賃金の構成の違いです。基本給に加えてインセンティブや歩合を得ていた場合、移った先が固定給のみだと、総額が下がります。
比較するときは、提示された固定給と、現職の「基本給+平均的なインセンティブ」を並べてください。提示額だけを見ると、実質の差を見誤ります。
平均を出すときは、直近1年ではなく2〜3年分で計算してください。1年だけだと、たまたま良かった年や悪かった年に引きずられます。賞与を含む年収ベースで、2〜3年の平均を出すのが最も正確です。
逆に、固定給が中心の職種へ移ると、収入の振れ幅は小さくなります。総額が下がっても、毎月の見通しが立つことを利点として評価するかどうかは、自分の状況次第です。金額だけでなく、安定性も比較の軸に入れてください。
転職全体でも減る人は4割
参考として、転職による賃金変化は増加39.0%・変わらない20.2%・減少40.1%です(同調査)。3割以上減った人も10.9%います。営業からの職種転換に限らず、減る人は一定数います。
ただし20歳以上49歳以下の年齢階級では、増加が減少を上回る(D.I.がプラス)という注記もあります。20代なら、条件次第で上がる余地は残っています。詳細は転職で年収は上がるのかで扱っています。
下げ幅を抑える順序
下げ幅を抑えたいなら、優先順位は明確です。①業界を変えずに職種を変える、②職種を変えずに業界を変える、③両方変えるの順で、下げ幅は大きくなります。
営業から他職種へ移りたい場合、まず①を検討してください。同じ業界内なら、商材の知識と顧客の理解がそのまま使えるため、評価される材料が残ります。
③を選ぶのは、業界そのものが縮小している場合や、その業界にいる限り実現できないことがある場合に限ります。この判断には、自社だけの問題か業界全体の問題かの切り分けが必要です。同業他社も同じ動きをしているなら業界の問題で、③を選ぶ理由になります。
営業を続ける選択肢も比べる
職種ではなく、商材や体制が合っていない可能性
営業から離れたい理由が「短いサイクルで数字を追うのがつらい」であれば、職種ではなく商材や営業のスタイルが合っていない可能性があります。
単価が高く検討期間が長い商材の法人営業と、短期で回転する個人向け営業では、働き方がまったく違います。同じ「営業」でも、月次の目標に追われるか、案件を年単位で育てるかで、日々の負荷は変わります。
比べる前提を揃える
職種を変える場合、前述のとおり評価される材料が減り、年収が下がる可能性があります。一方、同職種で商材や体制を変える場合は、経験がそのまま評価されます。
「営業が嫌なのか、今の営業のやり方が嫌なのか」を先に切り分けてください。後者なら、職種を変えずに解決できる可能性があります。この切り分けは転職するか迷うのは情報不足ではないで扱っている「不満の分解」と同じ作業です。
現職で試せることもある
担当する商材や顧客層の変更は、社内の異動で実現できることがあります。引き止めの際に提示される条件として最も多いのも「他部署への異動」(37%)で、会社側にとっても現実的な選択肢です。
異動で解決するなら、転職に伴う年収の変動も、経験のリセットも起きません。転職を決める前に、社内で1回試す価値はあります。
依頼するときは、異動そのものより先に「担当したい顧客層や商材」を具体的に伝えてください。「今の担当は短期で回転する商材が中心ですが、検討期間の長い案件を担当したいと考えています」という形なら、退職の意思表示とは受け取られず、希望の表明として扱われます。
試した結果として動かなかった場合、その事実は転職理由として面接で語れる材料になります。どちらに転んでも判断材料が増えるので、順序としては先に試すほうが得です。
まとめ
- 「営業はつぶしが利く」かどうかは肩書きではなく中身で決まる。処遇決定で最重視されるのは経験・能力・知識53.7%(厚生労働省 令和2年転職者実態調査)
- 「コミュニケーション能力」は評価軸にならない。反対の行動を自己PRに書く人がいないため差がつかない
- 営業の経験は4つに分解できる。①課題の特定 ②案件の進行管理 ③数字の設計と分析 ④業界・商材の知識。①〜③は持ち運べ、④は業界に固定される
- 他職種から見て希少なのは③。数字を扱えて現場の肌感覚も持つ人材は多くない
- 達成率が書けない場合は工程の数字で書く。担当社数、商談件数、提案から受注までの平均期間、失注理由の分類
- 移りやすいのはカスタマーサクセス、企画・マーケティング、人事(採用)、事業企画。最も下げ幅が小さいのは同業界の別職種
- 伝え方では、ノルマを理由の中心にしない、営業そのものを否定しない、「数字が苦手」と言わない。離れたいのは短期の売上目標であって数字ではない
- インセンティブ分が消えて総額が下がることがある。現職は「基本給+平均的なインセンティブ」で比べる
- 「営業が嫌なのか、今の営業のやり方が嫌なのか」を切り分ける。後者なら社内の異動で解決する可能性がある
- 転職による賃金変化は増加39.0%・変わらない20.2%・減少40.1%。ただし20〜49歳の年齢階級では増加が減少を上回る
よくある質問(FAQ)
営業経験は他の職種で本当に活きますか。
活きる部分と活きない部分があります。課題の特定、案件の進行管理、数字の設計と分析の3つは職種と業界を越えて持ち運べます。業界・商材の知識は、同じ業界に移る場合にのみ有効です。職務経歴書の中心に置くべきなのは前の3つで、「営業職でした」という肩書きだけでは評価されません。
売上目標を達成できていません。書けることがありません。
達成率を前に出す必要はありません。工程の数字で書いてください。担当社数、月の商談件数、初回提案から受注までの平均期間、失注理由の分類などは、達成率と関係なく正確に書けます。読み手が知りたいのは結果の数字だけでなく、その結果を出す過程を設計できるかどうかです。
ノルマがつらいという理由を、面接で言ってもいいですか。
理由の中心には置かないでください。「きつい仕事から逃げる人ではないか」という懸念が直接立ち上がります。代わりに「次に何をしたいか」を前に出します。「顧客の課題を聞き出すところまではできたが、その先の仕組みを作る側に回りたい」という形なら、営業の経験を土台にした前向きな理由になります。
営業から他職種に移ると、年収は下がりますか。
下がる可能性があります。特にインセンティブや歩合を得ていた場合、移った先が固定給のみだと総額が下がります。比較は、提示された固定給と現職の「基本給+平均的なインセンティブ」で行ってください。下げ幅を抑えるなら、業界を変えずに職種だけを変える順序が最も有利です。
どの職種に移るのが現実的ですか。
カスタマーサクセス、企画・マーケティング、人事(採用)、事業企画・営業企画は、営業の①〜③がそのまま使えるため移りやすい職種です。最も下げ幅が小さいのは、同じ業界内で職種だけを変える道で、業界知識が評価対象として残ります。
営業自体は嫌いではないのですが、今の働き方がつらいです。
その場合は、職種ではなく商材や営業のスタイルが合っていない可能性があります。単価が高く検討期間の長い法人営業と、短期で回転する営業では、日々の負荷がまったく違います。商材や顧客層の変更は社内の異動で実現できることもあり、引き止め時に提示される条件でも「他部署への異動」が37%と最多です。転職の前に社内で1回試す価値はあります。
転職は、人生の経営判断です
営業の経験は、肩書きではなく工程で書くと伝わります。まずは達成率をいったん外して、担当社数・商談件数・受注までの期間の3つを書き出してみてください。そこに、職種を越えて使える材料があります。
出典:厚生労働省「令和2年転職者実態調査の概況」(図1・表13)/エン・ジャパン「カウンターオファー」実態調査(2017年・775社)