
会社を辞めるとき、退職金や有給の消化には気が回ります。ところが企業型確定拠出年金(企業型DC)だけは、手続きを忘れても誰も止めてくれません。書類の山に紛れて、そのまま半年が過ぎる。
そうなると、資産は自動的に国民年金基金連合会へ移されます。これが「自動移換」です。運用は止まり、手数料だけが引かれ続けます。その状態の人が、いま82万4,209人。決して珍しいケースではありません。
この記事では、国民年金基金連合会と特定運営管理機関が公表している一次情報をもとに、何が起きるのか、いくらかかるのか、どう確かめてどう戻すのかを整理します。
退職・転職から6か月。手続きしないと「自動移換」になる

まず仕組みから。自動移換の事務を担っている特定運営管理機関は、こう説明しています。
ポイントは「6ヶ月以内」と「一時仮預かり」の2つです。
6か月という期限は、退職日からではなく加入者資格を失った日から数えます。そして移された先は運用の場ではありません。あくまで預かっているだけの状態です。
転職先に企業型DCがあれば、そこへ移すのが基本。無ければ自分でiDeCoの口座を作って移す必要があります。どちらも自分で動かないと始まりません。
いま82万人。資産額0円の人を含めると147万人
規模を数字で見ておきます。国民年金基金連合会が公表している令和7年度業務報告書によると、令和8(2026)年3月31日現在の状況は次のとおりです。
| 項目 | 人数 | 資産額 |
|---|---|---|
| 自動移換者(管理資産額あり) | 824,209人 | 3,581億4,800万円 |
| 資産額0円を含む自動移換者 | 1,469,151人 | — |
| 令和7年度に新しく自動移換された人 | 151,757人 | 689億5,200万円 |
| 令和7年度に企業型・個人型へ戻った人 | 63,415人 | 446億3,200万円 |
読み方を3つ補います。
ひとつめ。1年間で15万人以上が新たに自動移換されています。企業型・個人型へ戻った人は6万3,415人。報告書にはこのほかに死亡一時金872件・脱退一時金980件・70歳裁定0件が並んでおり、令和7年度の自動移換者の増加は8万6,490人と記載されています。つまり状況は改善しておらず、毎年積み上がっています。
ふたつめ。管理されている資産は3,581億円。運用されないまま置かれている金額です。
みっつめ。人数に2つの数字があるのが気になるところでしょう。管理資産額のある人が82万4,209人、資産額0円の人まで含めると146万9,151人。差は64万人あまりです。報告書はこの0円の内訳や理由を示していないため、ここでは事実として数字を並べるにとどめます。ただ、記録だけが残っている状態の人がそれだけいる、という事実は頭に置いておく価値があります。
自動移換されると起きる4つのこと
特定運営管理機関の公式サイトの記載を整理すると、自動移換されたままの状態で起きることは4つあります。どれも見落とされがちなので、ひとつずつ見ます。
1. 資産の運用ができない
一時仮預かりなので、商品を選ぶことも、預け替えることもできません。公式の表現は「運用機会を逸する」。企業型DCで積み上げてきたお金が、その時点で増えも減りもしない状態で止まります。
2. 管理手数料は資産から差し引かれる
運用が止まっているのに、手数料は発生し続けます。しかも資産そのものから引かれるので、放置するほど元本が目減りします。金額は次の章で。
3. 通算加入者等期間に算入されない
これが地味に効きます。確定拠出年金の老齢給付金は、加入していた期間の長さで受け取り開始できる年齢が変わる仕組みです。自動移換されている間はその期間にカウントされないため、受け取りを始められる時期が後ろにずれる可能性があります。
4. 受給可能年齢になっても請求できない
公式にこう書かれています。「受給可能年齢に到達しても自動移換されたままでは老齢給付金の請求はできません」。受け取るには、先にiDeCoなどへ移す手続きが要ります。
かかるお金。2026年4月から月98円に上がった

ここが今回いちばん伝えたい部分です。2026年4月から手数料の体系が変わりました。
国民年金基金連合会の業務報告書によると、自動移換者の管理コストは自動移換者から徴収する手数料で賄うという考え方のもと、月額の管理手数料が新設されました。金額は令和8(2026)年度から令和12(2030)年度の5年間に見込まれる費用から算出した40円です。あわせて特定運営管理機関側も52円から58円に改定されました。
特定運営管理機関が公表している2026年4月時点の一覧は次のとおりです。
| タイミング | 手数料 | 金額 |
|---|---|---|
| 自動移換されるとき | 特定運営管理機関手数料 | 3,300円 |
| 連合会手数料 | 1,048円 | |
| 自動移換されている間 | 管理手数料 | 98円/月 |
| 移し換えるとき | 移換手数料 | 550円 |
入口だけで4,348円かかります。そのうえで毎月98円。管理手数料は自動移換されてから4か月が経過すると発生し、年1回3月末に年度分をまとめて年金資産から差し引かれる仕組みです。
これから放置した場合の負担を試算してみます。入口の4,348円に、4か月の猶予を差し引いた月数ぶんの98円を足した金額です。2026年4月に改定された料率(月98円)がそのまま続いた場合の金額で、すでに自動移換されている人の過去分は当時の料率(月52円)で計算されている点に注意してください。
| 今後の放置期間 | 管理手数料の累計 | 入口も含めた合計 |
|---|---|---|
| 1年 | 784円 | 5,132円 |
| 5年 | 5,488円 | 9,836円 |
| 10年 | 11,368円 | 15,716円 |
金額そのものは、正直なところ生活を脅かす額ではありません。本当の損失は、その10年間ずっと運用されていなかったことのほうです。20代で転職して10年放置すれば、30代半ばまで資産が止まったままになります。
なお移換手数料は、同じ改定で1,100円から550円に下がりました。戻すコストは安くなっています。
6か月のカウントダウンと、放置した年数ごとの負担
ここまでを1枚に整理します。
自分が自動移換されていないか確かめる
心当たりがある人は、まずここから。確認の手がかりは3つあります。
手がかり1:通知が届いているか
特定運営管理機関の公式サイトには「自動移換された方へお送りする通知」として、「確定拠出年金に関する重要なお知らせ(自動移換通知)」と「同(定期通知)」の2つが挙げられています。国民年金基金連合会の報告書でも、自動移換者対策として自動移換時に約15.1万人、年1回で約82.4万人への手続勧奨通知を行ったと記載されています。心当たりのある封筒がないか、探してみてください。
手がかり2:転職時に何を出したか思い出す
転職先の企業型DCへ移す手続きをしたか、iDeCoの口座を自分で開いたか。どちらもしていなければ、6か月を過ぎた時点で自動移換されている可能性が高いと考えたほうが自然です。
手がかり3:問い合わせる
分からなければ、特定運営管理機関の自動移換者専用コールセンターに確認できます。基礎年金番号が分かるものを手元に用意しておくと話が早く進みます。ただしここでできるのは仮預かりになっている資産の記録の照会までで、公式サイトに「個人型確定拠出年金(iDeCo)への年金資産の移換や脱退一時金の請求等のお手続きの受付は行っておりません」と明記されています。移し換えの手続きそのものは、移換先の運営管理機関(金融機関)に申し込みます。
- 「移換戻し」という仕組みがあります。基礎年金番号等が合致するなど一定の条件を満たした場合、本人の申し出がなくても自動的に本人の企業型・個人型DC口座へ資産が移されます
- 令和7年度は63,415人がこの仕組みで戻っています
- ただし条件を満たさなければ戻りません。待っていれば解決する話ではないので、自分で確認するのが確実です
移し換え先は3つ。どれを選ぶか

自動移換された資産の行き先は、大きく3つです。
選択肢1:転職先の企業型DCへ移す
転職先に企業型DCがあるなら、これがいちばん素直です。掛金は会社が出すので、自分の負担は増えません。手続きは転職先の担当部署に「前職の確定拠出年金を移したい」と伝えるところから始まります。
選択肢2:iDeCoへ移す
転職先に企業型DCが無い場合、あるいはフリーランスになった場合はこちら。自分で金融機関を選んで口座を開きます。移すだけなら掛金を出さない「運用指図者」になることもできます。掛金を出す余裕がまだ無い人でも、運用を再開させる目的だけで移す価値はあります。
選択肢3:そのまま置いておく
選択肢というより、何もしない状態です。ここまで見てきたとおり、運用は止まり、手数料は引かれ続けます。積極的に選ぶ理由は見当たりません。
| 運用 | 掛金 | 向いている人 | |
|---|---|---|---|
| 転職先の企業型DC | できる | 会社が拠出 | 転職先に制度がある人 |
| iDeCo(加入者) | できる | 自分で拠出 | 積み増しも続けたい人 |
| iDeCo(運用指図者) | できる | 出さない | いまは掛金を出す余裕がない人 |
| 自動移換のまま | できない | — | 該当なし |
移すときにかかるのは、特定運営管理機関の移換手数料550円です。移換先の機関でも手数料がかかる場合があるので、そこは口座を開くときに確認してください。
iDeCoそのものの仕組みや、NISAとどちらを優先するかについては、iDeCoとNISA、20代はどっちから始めるべき?で比較しています。
20代がやりがちな3つの判断ミス
1. 「少額だから後でいい」と思う
新卒から数年で転職した場合、企業型DCの残高は数十万円ということも珍しくありません。金額が小さいほど後回しにしがちですが、手数料は残高に関係なく定額で引かれます。残高が小さいほど、比率としての目減りは大きくなります。
2. 通知を「よくある金融機関のお知らせ」だと思って開けない
自動移換の通知は、封筒だけ見ると他のダイレクトメールと区別がつきません。差出人が特定運営管理機関や国民年金基金連合会の郵便は、開けてから捨てる。これだけで気づけます。
3. 転職先に企業型DCが無いと「何もできない」と思い込む
そんなことはありません。iDeCoに移せばいいだけです。掛金を出す余裕がなければ運用指図者という形もあります。「制度が無い=行き場が無い」ではないことは、知っておいて損はないでしょう。
今日からできること
ステップ1(今日):過去の勤務先で企業型DCに入っていたか確認する
給与明細や入社時の書類、あるいは在職中に届いていた残高のお知らせを探します。心当たりがあるのに手続きした記憶がなければ、次へ進んでください。
ステップ2(今週中):通知の封筒を探す、または問い合わせる
「確定拠出年金に関する重要なお知らせ」という封筒が家のどこかにないか探します。見つからなければ、特定運営管理機関の自動移換者専用コールセンターへ。基礎年金番号が分かるものを手元に置いてから電話するとスムーズです(ここで分かるのは記録の照会までで、移し換えの申し込みは移換先の金融機関に行います)。
ステップ3(今月中):移し換え先を決めて手続きを始める
転職先に企業型DCがあれば担当部署へ。無ければiDeCoの口座をどの金融機関で開くかを決めます。掛金を出すかどうかは後から変えられるので、まず口座を作って資産を動かすことを優先しましょう。
転職後の資産をどう置き直すかを含めて全体像を確かめたい場合は、20代の投資ガイドにまとめています。
まとめ
企業型DCは、加入者資格を失ってから6か月以内に手続きしないと自動移換されます。そうなると運用は止まり、通算加入者等期間にも算入されず、手数料だけが資産から引かれ続けます。
その状態の人は令和8年3月末時点で82万4,209人、資産額0円の人まで含めると146万9,151人。管理されている資産は3,581億円にのぼります。しかも2026年4月から管理手数料は月98円に上がりました。
金額そのものより重いのは、その間ずっと運用されていないことです。逆にいえば、移換手数料550円を払って動かすだけで、止まっていた資産が再び動き出します。転職の経験がある人は、今日のうちに心当たりを確かめてください。
あわせて読みたい
よくある質問(FAQ)
Q1. 自動移換とは何ですか?
企業型確定拠出年金に加入していた人が離職・転職などで加入者資格を失い、6ヶ月以内に他の確定拠出年金などへ資産を移さなかった場合に、その資産が国民年金基金連合会へ移されて一時仮預かりの状態になることをいいます。特定運営管理機関が公式にそう説明しています。
Q2. 自動移換されている人はどれくらいいますか?
国民年金基金連合会の令和7年度業務報告書によると、令和8年3月31日現在で管理資産額のある自動移換者は824,209人、資産額0円を含めると1,469,151人でした。管理資産額は3,581億4,800万円です。令和7年度に新しく自動移換された人は151,757人でした。
Q3. 自動移換されたままだと何が困りますか?
特定運営管理機関の公式サイトの記載を整理すると4つあります。資産の運用ができない、管理手数料が資産から差し引かれる、老齢給付金を受けるための通算加入者等期間に算入されない、受給可能年齢に到達しても自動移換されたままでは老齢給付金の請求ができない、の4つです。
Q4. 手数料はいくらかかりますか?
2026年4月時点で、自動移換されるときに特定運営管理機関手数料3,300円と連合会手数料1,048円、自動移換されている間は管理手数料が月98円です。管理手数料は自動移換されてから4ヶ月経過すると発生し、年1回3月末に年度分をまとめて年金資産から差し引かれます。他の制度へ移し換えるときは移換手数料550円がかかります。
Q5. 管理手数料はいつ上がったのですか?
国民年金基金連合会の令和7年度業務報告書によると、令和8(2026)年4月から月額の管理手数料が新設されました。連合会分が0円から40円に、特定運営管理機関分が52円から58円に改定され、合計で月98円になっています。一方で移換手数料は1,100円から550円に下がりました。
Q6. 転職先に企業型DCがない場合はどうすればいいですか?
iDeCoへ移すことができます。掛金を出す余裕がない場合は、掛金を拠出せずに運用だけを行う「運用指図者」という形も選べます。転職先に制度がないことは、移せない理由にはなりません。
Q7. 手続きしなくても自動的に戻ることはありますか?
「移換戻し」という仕組みがあります。基礎年金番号等が合致するなど一定の条件を満たした場合、本人の申し出がなくても自動的に本人の企業型・個人型DC口座へ資産が移されるものです。令和7年度は63,415人がこの仕組みで戻りました。ただし条件を満たさなければ戻らないため、自分で確認するほうが確実です。


