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転職の軸は何個必要か|統計が示す「3つ」と、軸の正体が捨てる基準である理由

放射状に分かれる道の空撮。転職の軸をどう決めるかを考えている状態のイメージ

転職の軸を決めましょう、とどの記事にも書いてあります。ですが「何個決めればいいのか」「どうやって絞るのか」になると、多くは「1〜3つ程度に」とだけ書かれていて、その根拠までは示されていません。

個数の答えは、実は公的統計の設計そのものが示しています。そしてもう1つ、多くの記事が書かない本質があります。軸とは「選ぶ基準」ではなく「捨てる基準」だという点です。3つ選ぶということは、7つ捨てると宣言することに等しい。捨てられないなら、それは軸を持っていない状態です。

この記事では、軸の個数を統計から裁定したうえで、転職理由との違い、10項目から3つを選ぶ具体的な手順、選んだ軸が本物かを確かめるテストまでを解説します。転職理由そのものの作り方は納得のいく転職理由の作り方で扱っています。

転職の軸は何個が適切か、統計の設計から裁定する

「3つまで」で聞かれ、上位3つに集中している

厚生労働省の「令和2年転職者実態調査」は、転職した人に「現在の勤め先を選んだ理由」を3つまでの複数回答で聞いています。結果の分布が、そのまま軸の個数の答えになります。

転職先を選んだ理由(3つまで選択) 厚生労働省 令和2年転職者実態調査 仕事の内容・職種 41.0 技能・能力が活かせる 36.0 労働条件(賃金以外) 26.0 転勤が少ない・通勤が便利 20.8 職場環境がよい 15.1 地元だから 13.9 賃金が高い 12.2 将来性・規模知名度・紹介 7.9以下 上位3つで頭打ち。4位以降は20.8%以下に落ちる = 軸は3つ。4つ目以降は選択に効いていない

上位3つは41.0%・36.0%・26.0%と続きますが、4位は20.8%に落ち、以降は右肩下がりです。3つまで選んでよい調査で、実際に票が集まったのは上位3つ。これが「軸は3つ」の実証的な根拠になります。

ただし「一番の軸」は人によってバラバラ

同じ調査で「一番の理由」を1つだけ選ばせた集計を見ると、最も高い「仕事の内容・職種に満足がいくから」でも18.8%にとどまります。つまり1位が何になるかは人によって大きく分かれているということです。

この2つを合わせると、実務的な結論が出ます。軸は3つ持つ。ただしその3つの中で、どれが1番かは自分で決める必要がある。世の中の多数派に合わせる意味はありません。18.8%しか集まらない項目が最多なのですから、正解の型は存在しません。

なぜ4つ以上だと機能しないのか

軸が4つ以上になると、求人を絞る道具として働かなくなります。条件をすべて満たす求人がほぼ存在しなくなるためです。結果として「全部満たす求人がないから決められない」という、軸を作る前と同じ状態に戻ります。

逆に1つだと、その1点だけで選んでしまい、他の重大な欠点を見落とします。年収だけで選んで業務内容が合わなかった、という失敗はこの形です。3つというのは、絞り込みが効きつつ、見落としも防げる数だと理解してください。

軸と転職理由は、何が違うのか

時間の向きが違う

転職理由は「なぜ今の会社を辞めるのか」で、過去に向いています。軸は「次に何を満たしたいか」で、未来に向いています。ここまでは多くの記事が書いているとおりです。

ただし、よく見かける「転職理由をポジティブに言い換えて軸にする」という手順には注意が必要です。言い換えただけの軸は、求人を絞れません。「上司と合わない」を「風通しのよい組織で働きたい」に変えても、風通しのよさは求人票で判定できないため、フィルタとして機能しないからです。

使う場面が違う

もう1つの違いは、使う場面です。転職理由は面接で聞かれたときに答えるもの。軸は、面接の前に自分が求人を絞るために使うものです。

転職理由 転職の軸
時間の向き 過去(今の会社で何が起きたか) 未来(次で何を満たすか)
主な用途 面接で説明する 求人を絞り込む・内定を比べる
必要な条件 事実であること 求人票や面接で確認できること
個数 1つ(辞める理由の中心) 3つ(優先順位付き)
変わるか 変わらない(過去の事実だから) 変わりうる(情報が増えれば更新する)

この表で最も重要なのは「必要な条件」の行です。軸は、求人票や面接で確認できる形になっていなければ使えません。確認できない軸は、気持ちの表明であって軸ではありません。

順番は「理由が先、軸が後」

作る順番は、転職理由が先です。辞めたい理由を言い換えずに書き出し、そこから「では次に何が必要か」を具体的な名詞に翻訳する。翻訳された名詞が軸の候補になります。

逆に、軸から先に作ると、どこかで見た一般的な軸(成長・裁量・やりがい)を借りてくることになり、自分の状況と接続しません。軸は借りるものではなく、自分の不満から導くものです。

軸の正体は「選ぶ基準」ではなく「捨てる基準」

3つ選ぶとは、7つ捨てると決めること

ここがこの記事の中心です。前掲の調査には10項目が並んでいます。そこから3つを選ぶということは、残る7つについては「満たされなくても受け入れる」と決めることを意味します。

多くの人が軸を決められないのは、選ぶのが難しいからではありません。捨てるのが難しいからです。仕事の中身も、年収も、通勤も、休日も、全部大事に思える。それは自然な感覚ですが、全部大事なら優先順位は存在せず、求人は1件も絞れません。

捨てるとは「ゼロにする」ことではない

誤解を避けるために書いておくと、捨てるとは「その条件を無視する」ことではありません。足切りの線は引いたうえで、その線を超えていれば比較材料にしない、という扱いです。

たとえば年収を捨てるなら、「年収400万円を下回る求人は見ない。ただし400万円を超えていれば、420万円と450万円の差では選ばない」という形になります。捨てる項目にも最低線は引いておく。これが実務的な捨て方です。

捨てられているかを確認する一言

自分が本当に捨てられているかは、次の質問で分かります。「軸の3つを完全に満たすが、捨てた項目のうち2つは平均以下という求人が出たら、応募するか」。

ここで「応募する」と即答できるなら、捨てる作業は完了しています。「それは迷う」と感じるなら、捨てたはずの項目が実は軸に入っています。その場合、軸を入れ替えるか、3つのうち1つを降ろしてください。

10項目から3つを選ぶ手順

手順1:10項目を、自分の言葉に置き換える

まず調査の10項目を、自分の状況に合わせた言葉に書き直します。抽象的なままだと選べないためです。

調査の項目 自分の言葉に置き換えた例
仕事の内容・職種 顧客の課題を聞いて企画から提案する仕事であること
技能・能力が活かせる これまでの法人営業の経験がそのまま使えること
労働条件(賃金以外) 所定外労働の平均が月20時間以内で、実績が公開されていること
転勤・通勤 転居を伴う異動がない、または本人同意が必要と明記されていること
職場環境 週2日以上の在宅勤務が制度として認められていること
地元 実家から2時間以内で通える範囲にあること
賃金 固定残業代を除いた基本給が月28万円以上であること
会社の将来性 直近3期の売上が横ばい以上であること
規模・知名度 従業員100名以上であること
紹介・縁故 (該当しない場合は空欄でよい)

右列の書き方に共通するのは、求人票を見るか、面接で1問聞けば判定できる形になっていることです。「風通しがよい」「成長できる」のような判定できない表現は、この段階で具体化してください。

手順2:足切りの線を、全項目に引く

次に、10項目すべてに「これを下回るなら応募しない」という線を引きます。年収なら金額、通勤なら時間、残業なら時間数。数字にできない項目は「あるか・ないか」で書きます。

この作業をすると、実は足切りさえ超えていれば気にならない項目が見つかります。それが捨ててよい項目です。逆に、線を引こうとすると「どこまでなら許せるか」が決まらない項目が出てきます。それは自分にとって重い項目なので、軸の候補になります。

手順3:3つ選び、順位をつける

候補が絞れたら3つ選び、1位から3位まで順位をつけます。順位が必要なのは、内定が複数出たときに使うためです。3つすべてを比べると並びますが、1位だけで比べると差が出ます。

順位の決め方は、「この項目を諦めた自分は、3年後に後悔するか」で考えてください。後悔が大きい順に並べます。内定が複数出たときの比べ方は内定が2つ出て決められないで扱っています。

手順4:紙に書いて、求人を見る前に確定させる

最後に、3つの軸と順位、そして捨てた7項目の足切り線を1枚にまとめます。重要なのは、求人を見始める前にこれを確定させることです。

求人を見ながら軸を決めると、目の前の魅力的な求人に合わせて軸が動きます。これでは絞り込みの道具になりません。先に決めて、あとから見る。順番を守ってください。

1枚にまとめる形式は決まっていません。紙でもテキストファイルでも表計算でも構いませんが、応募のたびに開く場所に置いてください。求人を見るとき、面接の逆質問を考えるとき、内定を比べるときの3場面で同じ1枚を参照します。

書く内容は3つだけです。軸3つとその順位、捨てた7項目の足切り線、そして作成日。作成日を入れておくと、あとで軸を更新したときに「いつの判断だったか」が分かります。所要時間は30分程度で、この30分が求人を見る時間を大幅に減らします。

選んだ軸が本物かを確かめる3つのテスト

テスト1:その軸で、求人が半分以下に減るか

軸を使って求人サイトで検索したとき、候補が半分以下に減らなければ、その軸は絞り込みとして働いていません。絞れない軸は、軸の形をした願望です。

減らない原因はたいてい、条件が抽象的すぎることにあります。「成長できる環境」では絞れませんが、「入社1年目から企画の起案ができる」なら、募集要項や面接で確認する対象になり、多くの求人が外れます。

テスト2:その軸を満たさない求人を、実際に外せるか

次に、軸を満たさないが他が魅力的な求人を1件見つけて、外してみてください。外せたなら本物です。外せず「でもこの会社は…」と理由を探し始めたなら、その軸は1位ではありません。

この現象が起きたときは、軸の設定を見直す好機です。自分が本当は何を重く見ているかは、こうやって迷ったときにだけ表面化します。迷った回数だけ、軸の精度は上がります。

テスト3:面接で、その軸について逆質問できるか

3つ目は、面接でその軸を確認する質問を作れるかです。「入社1年目から企画の起案ができる」が軸なら、「直近1年で入社された方は、どの段階から起案に関わっていますか」と聞けます。

質問が作れないなら、その軸は確認できない項目です。確認できないものを軸にすると、入社するまで満たされるかどうか分かりません。それでは選択の基準として使えません。

面接で「転職の軸は」と聞かれたときの答え方

3つ全部は言わない。1つに絞って話す

面接で軸を聞かれたとき、3つ並べると印象が散ります。1位の軸を1つだけ話し、その理由を具体的な経験で説明するのが基本形です。残り2つは、聞かれたら答えます。

形としては「◯◯できる環境であることを最も重視しています。前職では△△という状況で、□□までは自分で進められましたが、その先は構造的に難しかったためです」。軸と、その軸を持つに至った事実がセットになっていると、借り物でないことが伝わります。

「御社が第一志望です」より効く言い方

採用する側が知りたいのは志望度の高さそのものではなく、その人の基準と自社が合っているかです。だから「第一志望です」と言われるより、軸を具体的に示されるほうが判断しやすくなります。

むしろ軸が明確な候補者は、入社後に期待とずれる可能性が低いと読まれます。基準を言える人は、入社後も自分で判断できる人だと見られるからです。

軸と自社が合わないと分かったら、それも成果

軸を正直に話した結果、「うちではその軸は満たせない」と言われることがあります。これは失敗ではありません。入社前に分かったのだから、双方にとって最良の結果です。

軸を曖昧にして通過しても、入社後に同じ問題が出ます。転職した人の45.9%が転職後もまた動く可能性を抱えている(厚生労働省 令和2年転職者実態調査)という数字の背景には、こうした事前確認の不足も含まれていると考えられます。

途中で軸が変わったとき

変わること自体は正常

転職活動を進めると、面接で知った事実によって軸が変わることがあります。これは迷いではなく、情報が増えた結果です。軸は最初に決めたら固定するものではなく、情報が増えたら更新するものです。

ただし、更新には条件をつけてください。「新しい事実を知ったから変える」のは正常、「目の前の求人に合わせて変える」のは危険です。この2つは自分では見分けにくいので、次の基準を使います。

変えていいのは「事実」を知ったとき

軸を変えてよいのは、面接や調査で具体的な事実を知り、それによって前提が崩れたときです。「この職種は入社3年目まで起案に関われないのが業界の標準だと分かった」といった場合です。

逆に、特定の求人が魅力的に見えたから軸を緩める、という変更は避けてください。1社のために軸を変えると、その1社と比較できる相手がいなくなります。比較できない状態で決めるのは、軸を作る前と同じです。

変えたら記録し、以降はその軸で通す

軸を更新したら、いつ・何を知って・どう変えたかを1行で記録してください。記録があると、あとで振り返ったときに「揺れていた」のか「学習して更新した」のかを区別できます。

そして更新後は、それまでに見送った求人も新しい軸で見直します。軸を変えるとは、過去の判断も新しい基準で見直すということです。見直さずに前へ進むと、基準が2つ併存した状態になります。

まとめ

  • 転職先を選んだ理由は「3つまでの複数回答」で聞かれ、上位3つ(41.0%・36.0%・26.0%)に集中し、4位は20.8%に落ちる(厚生労働省 令和2年転職者実態調査)。軸は3つが実証的な目安
  • ただし「一番の理由」は最多でも18.8%。1位に何を置くかは人によって分かれるので、多数派に合わせる意味はない
  • 4つ以上だと全部満たす求人が存在せず絞れない。1つだと他の重大な欠点を見落とす
  • 転職理由は過去・面接で説明するもの、軸は未来・求人を絞るもの。軸は求人票や面接で確認できる形でなければ機能しない
  • 軸の正体は「選ぶ基準」ではなく「捨てる基準」。3つ選ぶとは7つ捨てると決めること。捨てる項目にも足切り線は引く
  • 手順は4つ。10項目を自分の言葉に置き換える、全項目に足切り線を引く、3つ選んで順位をつける、求人を見る前に確定させる
  • 軸が本物かは3つのテストで確認する。求人が半分以下に減るか、満たさない求人を実際に外せるか、面接で確認する質問を作れるか
  • 面接では1位の軸を1つだけ話し、その軸を持つに至った事実をセットで説明する。合わないと分かったらそれも成果
  • 軸は事実を知ったときに更新してよい。特定の求人に合わせて緩めるのは危険。更新したら過去に見送った求人も見直す

よくある質問(FAQ)

転職の軸は何個にすべきですか。

3つです。厚生労働省の調査は転職先を選んだ理由を「3つまで」で聞いており、実際の回答も上位3つ(41.0%・36.0%・26.0%)に集中し、4位は20.8%に落ちます。4つ以上にすると全部を満たす求人がなくなり絞れなくなり、1つだと他の重大な欠点を見落とします。3つに順位をつけて持つのが実務的です。

転職の軸と転職理由は、同じものではないのですか。

別のものです。転職理由は過去(なぜ辞めるか)で、面接で説明するために使います。軸は未来(次で何を満たすか)で、求人を絞るために使います。作る順番は理由が先です。軸から先に作ると、どこかで見た一般的な軸を借りることになり、自分の状況と接続しません。

どうしても3つに絞れません。

絞れないのは選ぶのが難しいからではなく、捨てるのが難しいからです。まず10項目すべてに「これを下回るなら応募しない」という足切り線を引いてください。線さえ超えていれば気にならない項目が見つかり、それが捨ててよい項目です。線を引こうとして「どこまでなら許せるか」が決まらない項目こそ、軸の候補です。

「成長できる環境」を軸にするのは駄目ですか。

そのままでは機能しません。求人票でも面接でも判定できないためです。「入社1年目から企画の起案ができる」のように、確認できる形に具体化してください。判定基準は、その軸で求人を検索したときに候補が半分以下に減るかどうかです。減らなければ、絞り込みとして働いていません。

面接では3つの軸を全部話すべきですか。

1位の軸を1つだけ話してください。3つ並べると印象が散ります。軸と、その軸を持つに至った具体的な経験をセットで説明すると、借り物でないことが伝わります。残り2つは聞かれたときに答えれば足ります。

活動の途中で軸が変わってしまいました。

事実を知って変わったなら正常です。「この職種は3年目まで起案に関われないのが業界標準だと分かった」といった場合は、更新してください。危険なのは、目の前の求人が魅力的だから軸を緩めるケースです。1社のために軸を変えると比較相手がいなくなります。更新したら、それまで見送った求人も新しい軸で見直してください。

転職は、人生の経営判断です

軸を決めるとは、何を得るかを決めることではなく、何を諦めるかを決めることです。まずは10項目に足切り線を引いて、線さえ超えれば気にならない項目を見つけてください。そこが、あなたが捨てられる場所です。

出典:厚生労働省「令和2年転職者実態調査の概況」(表21-1・表21-2・表23)

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