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退職を伝えたら引き止められた|65%の企業が実施する引き止めを、受けるか断るかの判断基準

並んだ複数の扉。退職を伝えたあとに引き止めを受け、どちらを選ぶか迷っている状態のイメージ

退職を伝えたら、「待ってほしい」と言われた。条件を見直す、異動も検討する、と提案された。転職先はもう決まっているのに、急に迷いが出てきた。この状況は、退職を切り出した人の多くが通ります。

引き止め(カウンターオファー)を受けたときに判断を誤る原因は、感情で処理してしまうことにあります。提示された条件は、実質的に「3つ目の内定」です。そう扱えば、判断の手順は内定を比べるときと同じになります。

この記事では、企業がどれくらいの頻度で・どんな条件で引き止めているかを調査データで確認したうえで、受けるかどうかの判断基準、受ける場合の確認事項、断る場合の伝え方までを解説します。内定そのものの比べ方は内定が2つ出て決められないで扱っています。

引き止めは、6割以上の企業が実施している

65%の企業が「引き止めをした」と回答

エン・ジャパンが2017年に775社を対象に行った「カウンターオファー」実態調査によると、65%の企業が「カウンターオファー(退職希望者の引き留め)をした」と回答しています。

つまり引き止めは例外的な出来事ではなく、退職を申し出れば起こりうる標準的な反応です。「自分だけ特別に引き止められた」と受け取ると判断が甘くなります。まずこれは起きるものだと理解して、事前に対応を決めておくのが正しい準備です。

起きる前提で、退職を伝える前に決めておく

準備として最も有効なのは、退職を伝える前に「引き止められても受けない」または「この条件なら受ける」を決めておくことです。その場で考えると、目の前の提示と情に流されます。

決めておく内容は1行で足ります。「昇給の提示があっても受けない。理由は辞めたい理由が賃金ではないから」。この1行を書いてから退職の面談に臨むと、その場での判断が要らなくなります。

引き止めの中身は「昇給」より「異動」が多い

提示される条件の内訳

同じ調査では、引き止めの際に提示した条件も集計されています。最も多かったのは「他部署への異動」で37%、次いで「昇給」が21%でした。

引き止めで提示される条件と、その対応先 エン・ジャパン「カウンターオファー」実態調査(775社) 他部署への異動 37% 昇給 21% その条件が効く「辞めたい理由」 異動 → 仕事の中身・人間関係・担当領域 昇給 → 賃金への不満だけ 参考:転職先を選んだ理由(厚労省) 仕事の内容・職種 41.0%/技能が活かせる 36.0% 賃金が高い 12.2%(10項目中7位) 提示された条件が、自分の辞めたい理由に 対応しているかだけを見る

この順序は重要です。引き止めの主流は「金額を上げる」ではなく「環境を変える」だということです。異動の提示は、仕事の中身や人間関係への不満に対応します。昇給は賃金への不満にしか対応しません。

異動の提示が来たときの考え方

異動を提示された場合、それは転職で得ようとしていたもの(仕事の中身の変化)を、会社を変えずに得られる可能性を意味します。転職先が同じ職種なら、比較の余地は実際にあります。

ただし確認が要ります。その異動は、いつ・どの部署へ・どの業務でという形で確定しているか。「検討する」「前向きに考える」の段階なら、それは提示ではなく口約束です。辞令が出る時期まで確認してください。

昇給の提示が来たときの考え方

昇給の提示は判断が分かれます。辞めたい理由が本当に賃金だったなら、合理的な選択肢になります。一方、理由が仕事の中身や働き方だった場合、金額が上がっても状況は変わりません。

ここで思い出してほしいのが、厚生労働省「令和2年転職者実態調査」の数字です。転職先を選んだ理由として「賃金が高いから」を挙げた人は12.2%で10項目中7位、転職後の満足度も賃金が19.5ポイントで最も低い項目でした。金額は、満足の持続という点では弱い材料だと理解しておいてください。

なぜ引き止められるのか

理由の1位は「退職意向者が優秀だから」

同じ調査で、企業が引き止めをした理由(複数回答)は、「退職意向者が優秀」が72%で最も高く、「育てた人材を手放したくない」が61%、「新規採用が困難」が44%と続きます。

この数字は、受け取る側にとって重要な意味を持ちます。引き止められること自体は、評価されていた証拠です。辞めると言った途端に評価されるのは理不尽に感じられますが、事実として、社内での評価は低くなかったということになります。

ただし「評価されていた」と「今後も評価される」は別

ここで注意が必要です。引き止めの理由には「新規採用が困難」も44%含まれています。あなたの代わりを採るのが大変だから、という会社側の事情も混ざっているということです。

この2つは、受ける側からは区別がつきません。区別する方法は1つで、提示された条件が、辞意を伝える前から動いていたかを確認することです。「次の期から等級を上げる予定だった」なら評価に基づく提示、辞意を受けてから決まったなら引き留めのための提示です。後者が悪いわけではありませんが、性質は違います。

感謝と判断を分ける

引き止められると、申し訳なさが生まれます。育ててもらった恩、迷惑をかける負い目。これは自然な感情で、否定する必要はありません。

ただし感謝と判断は分けてください。感謝は言葉で伝える。判断は条件と自分の軸で決める。この2つを混ぜると、「お世話になったから残る」という、あとで説明できない選択になります。

分け方は実務的です。面談の場では感謝だけを述べ、判断は持ち帰る。「ありがたいお話です。一度持ち帰って検討させてください」と言えば、その場での即答を避けられます。引き止めの面談でその場で答える義務はありません。

持ち帰ったあと、辞めたい理由を書いた紙と提示された条件を並べて突き合わせます。面談の空気から離れた場所で見ると、同じ条件でも見え方が変わります。半日でも間を空けると、感謝と判断が自然に分かれます。

企業側も、成功率は低いと見ている

61%の企業が「成功確率20%以下」と回答

同じ調査で、カウンターオファーの成功確率を聞いた結果、「20%以下」(0%・1〜10%・11〜20%の合計)と回答した企業が61%を占めています。引き止めを実施している企業自身が、効果は限定的だと見ているということです。

この数字が示しているのは、引き止めが効かないのが標準的な結果だということです。断ることは珍しい選択ではなく、多数派の反応です。断りにくさを感じる必要はありません。

なぜ成功率が低いのか

理由は単純で、条件の提示は辞めたい理由の一部にしか対応できないからです。辞意が固まるまでには通常、複数の要因が積み重なっています。そのうち1つに条件で応えても、残りは手つかずのまま残ります。

さらに、辞意を伝えた事実は消えません。残った場合、上司や同僚との関係に「一度辞めると言った人」という前提が加わります。これが働きやすさに影響するかは職場によりますが、影響ゼロではないと見ておくのが現実的です。

受けるかどうかは「辞めたい理由との対応」で決める

対応表で判断する

判断の方法は1つです。自分が最初に書き出した「辞めたい理由」と、提示された条件を突き合わせる。それだけです。

辞めたい理由 対応する提示 対応しない提示と、その理由
仕事の中身が変わらない 部署・担当の変更(辞令の時期まで確定) 昇給:金額が上がっても業務は同じ
特定の人との関係 部署の変更、報告ラインの変更 昇給:相手は変わらない
評価基準が不透明 評価制度の明文化・面談頻度の変更 今回だけの特別昇給:来期また同じ
労働時間が長い 人員の追加、業務の再配分 昇給:時間は変わらず単価が上がるだけ
賃金が低い 昇給(等級変更を伴うもの) 異動:金額が変わらなければ未解決
会社の方向性・事業の縮小 (個人への提示では対応できない) 昇給・異動とも:構造は変わらない

最終行に注目してください。会社の方向性や事業構造が理由なら、どんな個人向けの提示も対応しません。この場合は、条件の良し悪しを検討する意味がありません。

複数の理由があるときは、1位だけを見る

辞めたい理由が複数ある場合、すべてに対応する提示はまず来ません。そこで、理由の1位だけを見て判断してください。1位が解決するなら検討の余地があり、1位が手つかずなら他がいくら改善しても答えは変わりません。

1位が決まらない場合は、まだ辞めたい理由の整理ができていない状態です。整理の手順は納得のいく転職理由の作り方で扱っています。

受ける場合に確認する4つ

1:書面になっているか

提示を受ける場合、必ず書面で確認してください。昇給なら辞令または給与改定の通知、異動なら発令の予定を含む書面です。口頭の合意は、担当者が変わると残りません。

依頼の仕方は簡単です。「ありがたいお話なので、条件を書面でいただけますでしょうか」。この依頼を嫌がられる場合、その提示は実現の確度が低いと考えてください。

2:いつから適用されるか

次に、適用の時期です。「次の評価から」「来期から」といった提示は、実際には半年以上先になることがあります。その間の状況は今と変わりません。

確認すべきは具体的な年月です。「次の給与改定から」「翌月1日付で異動」のように時期が出るなら確度が高く、「なるべく早く」であれば確定していません。

日付が出ない場合、何が決まれば確定するのかを聞いてください。「人事の承認が必要」「次の役員会で決裁」といった手続きが残っているなら、その会議がいつ開かれるかまで確認します。決裁の予定日が言えないなら、その提示はまだ社内で合意されていません。

内定先への回答期限が先に来る場合は、順序が崩れます。引き止めの条件が確定する日が、内定先への回答期限より後なら、確定していない条件と確定した内定を比べることになります。この状態で残る判断をすると、あとで条件が変わっても戻れません。

3:他の人にも同じ条件が適用されるか

3つ目は見落としやすい点です。自分だけに特別な条件が適用される場合、それは社内の制度から外れた措置になります。周囲に知られた場合の影響や、次年度以降に維持されるかという問題が生じます。

制度に基づく変更(等級の変更、役職の変更)なら、根拠が明確で維持されます。制度外の特別措置は、提示した人がいなくなると根拠も消えます。どちらなのかを確認してください。

4:転職先への断り方を先に決める

引き止めを受けると決めたら、内定先への連絡は同日中に行います。ここを先延ばしにすると、相手の採用計画に実害が出ます。

伝えることは、検討の結果現職に残ること、時間をいただいた礼、この2点で足ります。理由を詳しく説明する必要はありません。断り方の丁寧さは、数年後に同じ会社や担当者と関わる可能性を考えると、実利のある投資でもあります。

断る場合の伝え方

理由を戦わせない

引き止めを断るとき、理由を詳しく説明して納得してもらおうとすると、多くの場合、反論が返ってきます。「それはうちでもできる」「その考えは甘い」。議論になると時間がかかり、関係も悪くなります。

断るときに必要なのは、納得してもらうことではなく、決定が変わらないと伝えることです。「検討しましたが、決意は変わりません。ご配慮いただいたことには感謝しています」。この2文で足ります。

「条件次第では残る」と誤解させない

断り方で最も避けたいのは、条件が足りないから断るという印象を与えることです。そう受け取られると、さらに上の条件が提示され、話が長引きます。

そのため、条件への言及は避けてください。「金額の問題ではなく」と言うのも、金額の話を続けることになります。理由には触れず、決定の事実だけを伝えるのが最短です。

「どこの会社に行くのか」「何がそんなに良かったのか」と聞かれることもあります。答える義務はありませんが、沈黙すると角が立つので、「同じ業界ではありません」「条件で決めたわけではありません」程度にとどめてください。転職先の社名を伝える必要はありません。

それでも食い下がられる場合は、同じ言葉を繰り返します。「検討しましたが、決意は変わりません」。言い方を変えて説明を足すと、新しい反論の材料を渡すことになります。同じ文を落ち着いて繰り返すのが、最も早く終わる方法です。

感謝は具体的に伝える

理由を語らないぶん、感謝は具体的に伝えてください。「◯◯の案件を任せていただいたことが、いちばんの経験になりました」。具体的な事実を1つ挙げると、形式的な挨拶とは受け取られません。

退職までの期間は、引き継ぎで関係が続きます。最後の印象は、在籍中のどの場面よりも記憶に残ります。断る場面こそ丁寧に進めてください。

まとめ

  • 65%の企業が退職希望者の引き止めを実施している(エン・ジャパン「カウンターオファー」実態調査、2017年2〜3月、775社)。引き止めは例外ではなく標準的な反応
  • 提示される条件は「他部署への異動」37%が最多で、「昇給」は21%。引き止めの主流は金額ではなく環境の変更
  • 引き止めの理由は「退職意向者が優秀」72%、「育てた人材を手放したくない」61%、「新規採用が困難」44%。評価されていた証拠である一方、会社側の事情も混ざる
  • 企業の61%が成功確率を「20%以下」と回答。断ることは珍しい選択ではない
  • 受けるかどうかは、辞めたい理由の1位に提示が対応しているかだけで決める。会社の方向性や事業構造が理由なら、個人向けの提示では対応できない
  • 受ける場合は4つ確認する。書面になっているか、いつから適用されるか、制度に基づくか特別措置か、そして内定先へは同日中に連絡する
  • 断る場合は理由を戦わせない。決定が変わらないことと感謝の2点だけを伝え、条件には言及しない
  • 提示は実質的に3つ目の内定。感情ではなく、内定を比べるときと同じ手順で扱う

よくある質問(FAQ)

引き止められました。残るべきでしょうか。

自分が最初に書き出した「辞めたい理由」の1位に、提示された条件が対応しているかだけで判断してください。理由が仕事の中身なら異動の提示は対応しますが、昇給は対応しません。理由が賃金なら昇給は合理的な選択です。理由が会社の方向性や事業構造にあるなら、個人向けのどんな提示でも対応しないので、検討する意味がありません。

引き止められるのは、評価されていたということですか。

その側面はあります。企業が引き止めをした理由の1位は「退職意向者が優秀」で72%です。ただし「新規採用が困難」も44%含まれるため、会社側の事情も混ざっています。区別するには、提示された条件が辞意を伝える前から動いていたかを確認してください。前から決まっていたなら評価に基づく提示です。

昇給を提示されました。受けても大丈夫でしょうか。

辞めたい理由が賃金だったなら合理的です。そうでない場合、金額が上がっても状況は変わりません。厚生労働省の調査では、転職先を選んだ理由として賃金を挙げた人は12.2%で10項目中7位、転職後の満足度も賃金が19.5ポイントで最下位でした。金額は満足の持続という点では弱い材料です。受ける場合は、書面・適用時期・制度に基づくかの3点を必ず確認してください。

引き止めを断ると、残りの在籍期間が気まずくなりませんか。

断り方で変わります。理由を詳しく説明して納得してもらおうとすると議論になり、関係が悪くなります。決定が変わらないことと、具体的な感謝の2点だけを伝えてください。条件への言及は避けます。「金額の問題ではなく」と言うのも金額の話を続けることになるので、理由には触れないのが最短です。

異動を提示されました。転職より条件がよく見えます。

検討の余地はあります。ただし、その異動が「いつ・どの部署へ・どの業務で」という形で確定しているかを確認してください。「検討する」「前向きに考える」の段階なら提示ではなく口約束です。辞令が出る時期まで確認し、書面で受け取ってから判断してください。

引き止められる前に、準備しておけることはありますか。

退職を伝える前に「引き止められても受けない」または「この条件なら受ける」を1行で書いておいてください。「昇給の提示があっても受けない。辞めたい理由が賃金ではないから」という形です。その場で考えると、目の前の提示と情に流されます。事前に決めておけば、面談中に判断する必要がなくなります。

転職は、人生の経営判断です

引き止めは、あなたの価値が認められた瞬間であると同時に、判断が最も揺れる瞬間でもあります。感謝は言葉で伝え、判断は辞めたい理由との対応だけで決めてください。この2つを分けられれば、どちらを選んでも説明できる選択になります。

出典:エン・ジャパン「カウンターオファー」実態調査(2017年・775社)/厚生労働省「令和2年転職者実態調査の概況」(表21-1・表22)

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