
AIを副業に使うとき、意識せずに規約違反に近づいてしまう使い方があります。悪意がなくても、線を知らないと踏みます。
この記事では、副業で実際に踏みやすい4つの線を、AIサービスの利用ポリシーの原文から確認します。推測ではなく、公開されている文言をそのまま引きます。
先に言っておくと、これは「怖がらせる話」ではありません。4つとも、知っていれば避けられます。そして避け方は、どれも作業を増やすものではありません。
※本記事で引用した利用ポリシーは公式ページで確認したものです。規約は改定されるため、実際の運用前にご自身で最新の内容をご確認ください。この記事は法的助言ではありません。
4つの線
① 人が書いたように見せる
Anthropicの利用ポリシーには、禁止される使い方として次のように書かれています(Effective September 15, 2025)。
Impersonate a human by presenting results as human-generated, or using results in a manner intended to convince a natural person that they are communicating with a natural person when they are not
2つのことが書かれています。出力を人が作ったものとして提示すること。そして、相手に「人と話している」と思わせる形で使うこと。
副業で踏みやすい場面
| 場面 | なぜ危ういか |
|---|---|
| 問い合わせ対応を自動返信にする | 相手は人が返信していると思っている |
| レビューや口コミを生成する | 実際の利用者の声として出ることになる |
| 体験談として書かせる | 体験していない内容を、体験として提示する |
| SNSで会話形式の運用をする | 相手は人と話していると思っている |
1つめはメール返信をAIに下書きさせるで「送信まで自動にしない」と書いた理由の1つでもあります。下書きまでで止めて、人が読んで送れば、この線には触れません。
避け方
ブログ記事を書くこと自体は、この線に当たりません。読者は「記事を読んでいる」のであって、書き手とリアルタイムで会話していると思っているわけではないからです。
危ういのは、相手が人と対話していると認識している場面です。そこでAIに応対させるなら、AIであることを分かる形にする。それだけです。
体験談については、もう1つ理由があります。事実でない体験を書くのは、規約以前に読者を欺くことになります。AIでブログ記事を書く手順でも、体験していないことを体験風に書かないよう書きました。
② 専門的な助言を、確認なしに出す
同じポリシーに、こうあります。
Human-in-the-loop: When using our products or services to provide advice, recommendations, or in subjective decision-making directly affecting individuals or consumers, a qualified professional in that field must review the content or decision
読み解くと、個人や消費者に直接影響する助言・推奨・主観的な判断を提供する場合、その分野の有資格の専門家が内容を確認しなければならないということです。
副業で関係してくる分野
- 法律 — 契約書のチェック、トラブル対応のアドバイス
- 医療・健康 — 症状の説明、サプリメントや治療法の記事
- お金 — 投資、保険、税務の判断に関わる内容
- 就職・進路 — 個別の状況に対する推奨
これらは、記事のジャンルとして単価が高いことがあります。だから受けたくなる。でも、専門家の確認を通せないなら受けないほうが安全です。
「一般的な情報」と「個別の助言」は違う
ここが実務上の分かれ目です。
| 性質 | 例 |
|---|---|
| 一般的な情報 | 「必要経費の定義は、国税庁のページにこう書かれています」と出典つきで紹介する |
| 個別の助言 | 「あなたの場合はこの割合で計上して問題ありません」と断定する |
この記事の姉妹記事であるAI副業の確定申告と経費で、「この記事で書けないこと」という節をわざわざ作ったのは、この線を越えないためです。
公的資料を引用して考え方を整理するのは、一般的な情報です。個別の状況に対して「こうすべき」と断定するのは、助言になります。後者は、資格のある人の仕事です。
③ 他人の情報を、断りなく渡す
これは、副業でいちばん頻度が高い線です。そして、悪意なく踏みます。
渡してしまいがちなもの
| 渡すもの | 何が入っているか |
|---|---|
| 依頼主から受け取った資料 | 社名、担当者名、未公開の情報 |
| 文字起こし用の音声 | 氏名、連絡先、取引の内容、場合によっては健康の話 |
| メールの本文をそのまま | 差出人の氏名、メールアドレス、やり取りの経緯 |
| 本業の資料 | 勤務先の情報。規程に触れる可能性がある |
避け方は2段階
第1段階:そもそも渡さずに済む形にする。
意外と多くの場合、実物を渡す必要がありません。
- 返信の型を作るだけなら、実際のメール本文は不要。「こういう種類の問い合わせに、この型で返す」という設計だけで足ります
- 集計の関数を書かせるだけなら、実データは不要。列の構成を伝えれば式は書けます
- 構成を作らせるだけなら、資料の要点を自分で箇条書きにして渡せば足ります
第2段階:それでも渡す必要があるなら、先に了承を取る。
文字起こしのように、音声そのものを渡さないと成立しない作業があります。この場合は、受注の段階でAI利用の可否を確認してください。
作業の効率化のため、文字起こしにAIサービスを使用することを検討しています。音声データを外部のサービスにアップロードすることになりますが、差し支えございませんでしょうか。差し支えがある場合は、使用せずに対応します。
この1通です。依頼主が知らないうちに第三者のサービスに音声が渡る、という状態を避けられます。詳しくはAI文字起こしを副業にするに書きました。
本業のデータは、別扱いで考える
副業の話とは別に、勤務先の情報を個人で契約したサービスに通すのは、就業規則や情報管理の規程に触れる可能性があります。
「副業で使っているAIに、本業の資料をちょっと入れた」が、いちばん起きやすくて、いちばん影響が大きい。作業する端末とアカウントを分けておくと、この事故が物理的に起きにくくなります。
④ 出力を確認せずにそのまま出す
これは規約というより、納品物の責任の話です。ただ、結果として規約にも関わってきます。
確認せずに出すと、何が起きるか
| 起きること | 何に関わるか |
|---|---|
| 事実が間違っている | 納品物の品質。誤情報を広めることにもなる |
| 既存の作品と似ている | 著作権。認識して似せた場合は侵害が成立しうる |
| 根拠のない断定が入る | 景品表示法など、表示に関わる規制 |
| 実在の人物や企業について誤った記述 | 名誉やプライバシーに関わる |
2つめについては、文化庁の資料に明確な記述があります。既存の著作物を認識したうえで、その創作的表現を有するものを生成させた場合、依拠性が認められて著作権侵害が成立しうる、と整理されています。詳しくはAI画像生成で副業は成立するかに原文を引用しました。
確認は、全文でなくていい
「全部確認するのは無理だから、やらない」が最悪です。確認する対象を絞ってください。
- 数字(金額、件数、パーセント、日数)
- 固有名詞(制度名、サービス名、人名、社名)
- 日付(施行日、公表日、改定日)
- 言い切りの表現(「必ず」「絶対に」「全員が」)
この4つだけなら、記事1本でも10分程度です。そして、事故の大半はこの4つのどれかで起きます。
さらに減らす方法もあります。AIでブログ記事を書く手順で書いた「材料の範囲を区切る指示」を入れると、確認すべき箇所が印として返ってくるので、全文を疑う必要がなくなります。
4つの線を、1枚のチェックに落とす
毎回ポリシーを読み返すのは現実的でないので、作業の前に1回だけ見る形にします。新しい案件を受けるたびに、この5つを確認してください。
| 確認 | 質問 | 該当したら |
|---|---|---|
| ① | 読む人・話す相手は、AIが関わっていることを知れる状態か | 知れないなら、その形では使わない |
| ② | 法律・医療・お金・進路など、個人の判断に直接影響する内容か | 専門家の確認を通せないなら受けない |
| ③ | 他人の情報を、そのまま渡すことになるか | 渡さずに済む形を探す。無理なら了承を取る |
| ④ | 数字・固有名詞・日付が本文に入るか | 出典に当たって照合する |
| ⑤ | 納品先・投稿先のAI利用の方針を確認したか | していないなら、応募の段階で聞く |
5つとも「いいえ」なら、そのまま進めて問題ありません。1つでも該当したら、そこだけ手を打つ。全部の案件で全部を気にする必要はありません。
記録に残しておくと、後で効く
確認した内容は、案件ごとに1行残しておいてください。
2026/10/07 サンプル商事の記事作成 AI利用は応募時に申告済み・了承あり 専門分野に該当せず 個人情報の受け渡しなし
後から「あのとき確認したか」を思い出す必要がなくなります。そして、同じ依頼主から次の依頼が来たとき、前回の取り決めをそのまま引き継げます。
この記録は、作業時間の記録と同じシートに列を足す形でかまいません。別の場所に作ると、見なくなります。記録の作り方はスプレッドシートの集計をAIに任せるに書きました。
判断に迷ったときの基準
グレーに見える使い方に出会ったら、次の順で考えてください。
- 相手に説明できるか。依頼主に「こういう使い方をしています」と言えるなら、たいてい問題ありません。言いにくいなら、そこが線です
- 公開されたら困るか。やり方が公になって困るなら、避けたほうがいい使い方です
- それでも迷うなら、使わない。迷う時間のほうが、使って得られる時短より長いことがほとんどです
1つめが実務的にはいちばん使えます。「説明できるか」だけで、ほとんどの判断がつきます。
規約は改定される。どう追うか
ここまで引用した内容も、いずれ変わります。全部を追い続けるのは現実的でないので、確認するタイミングだけ決めておいてください。
| タイミング | 確認すること |
|---|---|
| 新しいサービスを使い始めるとき | 利用ポリシー全体を一度読む。特に禁止事項 |
| 新しい分野の仕事を受けるとき | ②の専門分野に当たらないか |
| 納品先が変わったとき | そのプラットフォームのAI利用の方針 |
| 半年に1回 | 使っているサービスのポリシーの更新日を見る |
最後の行は、全文を読み直す必要はありません。更新日だけ見て、変わっていたら差分を確認する。これで足ります。
そして、ポリシーには「Effective」や「最終更新日」が書かれています。自分が読んだ日と、その日付をメモに残しておくと、次に見るときに比べられます。
作業ごとの具体的な線は、別の記事で扱っています。素材の条件はAI画像の「使ってよい素材」を見分ける、翻訳で機械に任せられない範囲はAI翻訳を副業にするです。
まとめ
副業で踏みやすい4つの線と、避け方です。
- 人が書いたように見せる — 相手が人と対話していると思っている場面で使わない。記事を書くこと自体は当たらない
- 専門的な助言を確認なしに出す — 法律・医療・お金など、個人に直接影響する分野。専門家の確認を通せないなら受けない。「一般的な情報」と「個別の助言」は違う
- 他人の情報を断りなく渡す — まず「渡さずに済む形」を探す。それでも必要なら、受注の段階で了承を取る
- 出力を確認せずに出す — 全文でなくていい。数字・固有名詞・日付・言い切りの4つだけで、事故の大半は防げます
4つとも、作業を増やすものではありません。知っていれば避けられて、知らないと踏む。それだけの違いです。
そして、規約は改定されます。全部を追わなくていいので、新しいサービスを使い始めるときと、半年に1回の更新日チェックだけ決めておいてください。
よくある質問
AIで書いた記事に「AIを使いました」と書く義務はありますか?
一律の義務として定められているわけではありません。ただし、プラットフォームによって求められることがあります。Googleは自己評価の質問として「AIによる生成などの自動化を使用していることを、開示などの方法でユーザーに対して明確にしていますか」を挙げています。動画については、実在の人物や出来事を改変する場合に開示が必要とされる一方、字幕の作成やアイデアの生成は対象外とされています。使う場所ごとにルールが違うので、納品先や投稿先の方針を確認してください。
クライアントに黙ってAIを使うのは規約違反ですか?
AIサービス側の規約というより、プラットフォームや依頼主との取り決めの問題です。クラウドソーシング各社はAI利用について方針を出していて、禁止していない場合でも意図的に隠さないことを求めているのが一般的です。募集文に書かれていなければ、応募の段階で一言確認してください。それで揉めません。
「AIが出力したので」は言い訳になりますか?
なりません。納品したのは自分です。事実の誤りも、既存の作品との類似も、納品した側の責任として扱われます。だからこそ、④の確認を飛ばさないでください。数字・固有名詞・日付・言い切りの4つだけでも見れば、事故の大半は防げます。
無料プランでも、同じ規約が適用されますか?
利用ポリシーは、有料か無料かにかかわらず適用されるのが一般的です。「無料だから何をしてもいい」ということはありません。また、無料プランでは入力内容の扱いが有料プランと異なる場合があります。他人の情報を扱う予定があるなら、データの取り扱いに関する公式の説明を必ず読んでください。
ポリシーが英語で読めません
日本語版が用意されている場合はそちらを。ない場合でも、禁止事項の項目名だけ拾えば、当たりがつきます。そのうえで、自分がやろうとしている使い方に近い項目を1つずつ確認してください。全文を訳す必要はありません。判断に迷う内容なら、そもそもその使い方を避けるという選択もあります。
この記事の内容は、どのAIサービスにも当てはまりますか?
4つの線という考え方は共通していますが、具体的な文言と範囲はサービスごとに違います。この記事で引用したのは特定のサービスのポリシーで、確認日も明記しています。実際に使うサービスのポリシーを、ご自身で確認してください。この記事は、どこを見ればいいかの地図として使ってください。
使っているサービスのポリシーを、一度通して読む
禁止事項の項目名を拾うだけでも、自分の使い方が線に近いかどうかの見当がつきます。更新日をメモしておくと、次に見るときに差分だけ確認できます。