
転職しようと思うたびに、足がすくむ。今より悪くなったらどうしよう。この会社を辞めたことを後悔するのではないか。決めきれないまま、また求人サイトを閉じる。
この状態を抜けるために、まず1つ受け入れる必要があります。怖さが消えてから決める、という順番は成立しません。結果が分からない選択への恐れは、決めた後にも残ります。
この記事では、怖さを3種類に分解し、そのうち作業で減らせる2つと、最後まで残る1つを区別します。さらに、怖さが正しい警告である場合の見分け方まで扱います。迷いそのものの整理は転職するか迷うのは情報不足ではないで扱っています。
怖さは、決断の前に消えない
「確信が持てたら動く」は永久に来ない
多くの人が待っているのは「これなら間違いない」という確信です。ですが転職は、入社してみないと分からない要素を必ず含みます。面接で聞ける範囲には限界があり、確信は構造的に得られません。
確信を条件にすると、条件が満たされる日が来ないため、判断が無期限に先送りされます。待っている間に状況が変わり、選択肢が減っていくこともあります。
怖さがないほうが危ない
逆に、まったく怖さを感じていない場合は注意が必要です。失うものを正確に見積もれていない可能性があるからです。怖さは、判断が現実的であることの証拠でもあります。
実際、転職には失うものがあります。今の会社で積んだ関係、慣れた業務の快適さ、社内での評価。これらを認識していれば、怖さが出るのは自然な反応です。
減らせる部分と、減らせない部分がある
怖さ全体をゼロにはできませんが、分解すると作業で減らせる部分が出てきます。減らせるものを減らしたうえで、残った分を抱えたまま決める。これが現実的な進め方です。
この考え方は、怖さを我慢することとは違います。我慢は量を変えませんが、分解は量そのものを減らします。3つあった怖さのうち2つが消えれば、残った1つは抱えられる大きさになります。
実際に書き出してみると、多くの人は「思っていたより、聞けば分かることが多い」と気づきます。漠然と1つの塊として抱えているうちは大きく見えますが、分けると具体的な質問に落ちるものがほとんどです。次の章で、その分解を行います。
怖さを3種類に分解する
3つの分類
①と②は作業で減らせます。③は減りません。この区別をつけないまま「怖いから動けない」と考えると、減らせるはずの部分まで手つかずで残ります。
3つの比率は人によって違いますが、書き出してみると①が最も多いことが一般的です。次の職場のことは、まだ何も知らない段階で怖がっているためです。②は事実確認で大きく減り、③だけが最後まで残ります。
順序も決まっています。①→②→③の順に処理してください。③から考え始めると、答えが出ないまま時間が過ぎます。
自分の怖さがどれかを判定する
判定は簡単です。「何が怖いのか」を3つ書き出してください。書き出した項目それぞれについて、「これは誰かに聞けば分かることか」を確認します。
聞けば分かるなら①、統計や事実で確かめられるなら②、どちらでもないなら③です。多くの場合、書き出すと①が最も多いことに気づきます。
判定に迷う項目が出たときは、「これを誰かに聞くとしたら、誰に何を聞くか」を考えてください。相手と質問文が思い浮かぶなら①です。思い浮かばず、かつ数字で確かめられそうなら②。どちらも出てこないなら③に分類します。
情報不足による怖さは、質問で減らせる
聞けば分かることを、聞かないまま怖がっている
「次の職場でやっていけるか」という不安の中身を分解すると、たいていは具体的な項目に落ちます。最初に任される業務、教えてくれる人がいるか、どのくらいの期間で独り立ちを期待されるか。
これらはすべて面接で聞けます。聞かずに想像すると、悪い方向に膨らみます。実際、厚生労働省の「令和2年転職者実態調査」では、転職者に教育訓練を実施した事業所は74.5%で、内訳は計画的なOJTが79.4%、入職時のガイダンスが46.6%でした。多くの会社には受け入れの仕組みがあります。
減らすための質問
| 怖さの中身 | そのまま使える質問 |
|---|---|
| やっていけるか分からない | 入社後3か月と6か月では、それぞれどの業務を担当する想定でしょうか |
| 教えてもらえるか不安 | 未経験で入られた方には、どのような教育を行っていますか |
| 人間関係が合うか不安 | 配属予定の部署の方とお話しする機会をいただけますか |
| 忙しすぎないか不安 | この部署の直近の所定外労働は、平均でどのくらいでしょうか |
| 評価されるか不安 | この職種の方は、どのような基準で評価されていますか |
質問の作り方は、怖さの言葉を、事実が返る形に変換するだけです。「やっていけるか」は聞けませんが、「3か月後に何を担当するか」は聞けます。逆質問の使い方は転職面接の逆質問で詳しく扱っています。
聞いても消えない場合は②か③
質問して答えをもらっても怖さが残るなら、それは①ではありません。②か③に分類し直してください。①を潰しきることに意味があるのは、残りの正体がはっきりするからです。
ただし、聞いた答えが曖昧で減らなかった場合は例外です。それは情報が渡されていないだけなので、まだ①のままです。同じ質問を別の段階の面接で繰り返すか、別の相手に聞いてください。答えが得られないこと自体も、判断材料になります。
回復可能性への怖さは、事実で減らせる
「戻れない」は多くの場合、事実ではない
失敗したら終わりだ、という感覚は強く働きますが、統計を見ると景色が変わります。転職した人の「今後の転職希望」は、今の職場で働きたい52.7%、わからない24.9%、機会があれば転職したい21.0%です(同調査)。
つまり転職した人の45.9%が、次の機会も視野に入れて働いているということです。1回の選択で人生が固定されるわけではありません。
短期間での再転職も珍しくない
もう1つ、直前の勤め先の通算勤務期間を見ると、6か月未満が7.8%、6か月以上1年未満が9.9%、1年以上2年未満が17.1%です。在籍2年未満で転職した人が34.8%を占めます。
短期での再転職が有利だとは言いませんが、それが極端に珍しい経路ではないことは事実です。「1社目を辞めたら後がない」という前提は、データと合いません。
年収も戻しうる
年収についても、転職による変化は増加39.0%・変わらない20.2%・減少40.1%で、方向は両方に振れます。減った場合も、移った先で経験を積めば処遇に反映される余地があります。
処遇を決める最大の要素は「これまでの経験・能力・知識」で53.7%です。時間をかけて経験を積めば、評価の対象は増えます。年収の実態は転職で年収は上がるのかで扱っています。
残るのは「自分で決めること」への怖さ
これは減らない
①と②を潰しても、最後に残るものがあります。自分で決めた結果は、自分で引き受けるしかないという事実への怖さです。これは情報でも統計でも減りません。
減らそうとして情報を集め続けると、いつまでも決まりません。ここまで来たら、減らす対象ではなく、抱えて進む対象だと切り替えてください。
③が残ること自体は、判断が甘いからではありません。自分で選ぶ以上、結果を引き受けるのは自分だという構造から生じるものなので、どれだけ準備しても残ります。むしろ③が残っているということは、①と②を潰し終えた合図だと考えてください。
「誰かに決めてほしい」に注意する
③が強いとき、人は無意識に「誰かに決めてもらう」形を探します。エージェントに「転職すべきか」を聞く、家族に判断を委ねる、占いや診断に頼る。
これらが危ういのは、結果が悪かったときに、決めた相手のせいにできてしまう点です。責任を外に置くと、次の判断の材料が自分の中に蓄積しません。エージェントとの距離の取り方は転職エージェントに「迷っている」と相談していいのかで扱っています。
抱える量を減らす方法はある
③そのものは減りませんが、抱える量は減らせます。方法は、決めた基準を言葉にしておくことです。「3年後に◯◯の経験が書ける方を選んだ」と書いておけば、後で振り返ったときに、判断の過程を検証できます。
基準を書かずに決めると、結果が悪かったときに「なぜあんな選択をしたのか」しか残りません。基準があれば、「基準は妥当だったが、前提が違った」という形で学習に変えられます。
怖さが正しい警告である場合
すべての怖さを乗り越えるべきではない
ここまで「怖さを抱えて進む」と書いてきましたが、例外があります。怖さが、具体的な事実にもとづく警告である場合です。この場合は進むべきではありません。
見分け方は1つ。その怖さの理由を、事実で3つ挙げられるかです。挙げられるなら警告、挙げられないなら漠然とした不安です。
ここでいう事実とは、実際に起きた出来事や、相手の具体的な言動を指します。「なんとなく雰囲気が」ではなく「3回聞いたが3回とも具体的な答えが返ってこなかった」という形です。日付と場面まで思い出せるなら、それは事実です。
警告として扱うべき4つのサイン
| サイン | なぜ警告なのか |
|---|---|
| 労働条件の書面が出てこない | 条件が確定していない可能性。入社後に交渉できない |
| 質問への答えが毎回曖昧 | 基準が属人的か、答えにくい事情がある |
| 極端に短い回答期限を求められる | 比較させない意図がある場合がある |
| 離職率や定着状況を聞くと話が逸れる | 定着していない実態が背景にある可能性 |
4つのうち1つでも当てはまるなら、怖さは正当です。この場合の対処は「勇気を出す」ことではなく、確認を重ねるか、見送ることです。条件の確認方法は内定を承諾する前にで扱っています。
心身の状態も判断材料になる
もう1つ、現職に留まることへの怖さが強い場合も見逃さないでください。眠れない、休日に回復しない、週明けが怖い。この状態なら、動かないことのほうがリスクになります。
この場合は、転職の可否を検討する前に、環境から距離を取ることを優先してください。判断力が落ちた状態で決めると、次の選択も誤りやすくなります。
怖さを抱えたまま進める手順
4ステップで進める
- 怖さを3つ書き出す(漠然としたままにしない)
- それぞれを①②③に分類する(聞けば分かるか、事実で確かめられるか、どちらでもないか)
- ①は質問し、②は数字を確認する(この2つは作業で終わる)
- 残った③を抱えたまま、基準を書いて決める
この手順の要点は、3番目まで終わらせてから4番目に進むことです。減らせるものを残したまま決めると、決めた後に「あれを確認しておけば」という後悔が出ます。
期限を決める
手順を回すために、期限を1つ置いてください。目安は3か月です。転職活動を始めてから離職までの期間は、1か月以上3か月未満が28.8%で最多、1か月未満が18.3%、転職活動期間なしが23.6%と、7割前後が3か月以内に決着しています。
3か月で決めると決めておけば、それまでの期間は「怖がる時間」ではなく「①②を潰す時間」になります。時期の決め方は転職を決断するタイミングで扱っています。
決めた後にも怖さは残る
最後に、正直に書いておきます。決めた後も怖さは残ります。入社日まで、入社後しばらくも続くことがあります。それは判断を誤った証拠ではなく、選択に伴う自然な反応です。
残る怖さを消そうとして決断を撤回すると、また同じ位置に戻ります。決めた基準を書き残しておけば、揺れたときにそれを読み返せます。基準が妥当なら、怖さがあっても判断は変えなくて構いません。
まとめ
- 怖さが消えてから決める、という順番は成立しない。転職は入社してみないと分からない要素を必ず含むため、確信は構造的に得られない
- 怖さがまったくない状態のほうが危うい。失うものを正確に見積もれていない可能性がある
- 怖さは3種類に分かれる。①情報不足、②回復可能性への不安、③自分で決めることへの怖さ。①②は作業で減らせる
- ①は質問で減らす。「やっていけるか」は聞けないが「3か月後に何を担当するか」は聞ける。教育訓練を実施した事業所は74.5%(厚生労働省 令和2年転職者実態調査)
- ②は事実で減らす。転職した人の45.9%が次の機会も視野に入れており、在籍2年未満での転職者も34.8%いる
- ③は減らない。抱えて進む。ただし決めた基準を言葉にしておけば、抱える量は減らせる
- 「誰かに決めてほしい」に流れると、結果が悪かったときに責任を外に置くことになり、次の判断材料が蓄積しない
- 怖さが正しい警告である場合もある。書面が出ない、答えが毎回曖昧、極端に短い回答期限、定着状況を聞くと話が逸れる、の4つは見送りの材料
- 手順は4つ。怖さを3つ書き出す、①②③に分類する、①は質問し②は数字で確認する、残りを抱えたまま基準を書いて決める
- 期限は3か月が目安。転職活動は1〜3か月未満が28.8%で最多、1か月未満18.3%、活動期間なし23.6%と、7割前後が3か月以内に決着している
よくある質問(FAQ)
怖くて決められません。どうすれば怖さが消えますか。
消えません。転職は入社してみないと分からない要素を含むため、確信は構造的に得られないからです。代わりに、怖さを3つに分けてください。情報不足による怖さは面接での質問で減り、回復可能性への怖さは統計と事実の確認で減ります。残るのは「自分で決めること」への怖さで、これは抱えたまま進むものです。
失敗したら戻れないのが怖いです。
データ上は、1回の選択で固定されるわけではありません。転職した人の今後の転職希望は、今の職場で働きたい52.7%、わからない24.9%、機会があれば転職したい21.0%で、45.9%が次の機会も視野に入れています。また在籍2年未満で転職した人も34.8%います。有利だとは言いませんが、極端に珍しい経路ではありません。
周りに相談しても、余計に迷います。
相談相手にはそれぞれ立場があるため、答えが偏ります。エージェントは転職が成立して報酬が入り、現職の上司は残ってほしく、家族は安定を望みます。相談するなら「転職すべきか」ではなく、相手が持っている事実(相場、社内の見通し、決めた過程)を聞いてください。判断は自分で持ちます。
怖さがあるのは、やめたほうがいいサインではないですか。
そうとは限りません。むしろ怖さがまったくない状態のほうが、失うものを見積もれていない可能性があります。ただし、怖さの理由を事実で3つ挙げられる場合は警告として扱ってください。書面が出てこない、答えが毎回曖昧、極端に短い回答期限、定着状況を聞くと話が逸れる、といった事実があるなら、見送りの材料になります。
決めた後も不安が続いています。
自然な反応です。決めた後、入社日まで、入社後しばらくも続くことがあります。判断を誤った証拠ではありません。決めた基準を書き残しておけば、揺れたときに読み返せます。基準が妥当なら、怖さがあっても判断を変える必要はありません。
今の会社に残るのも怖いのですが。
現職に留まることへの怖さが強く、かつ眠れない・休日に回復しない・週明けが怖いといった状態があるなら、動かないことのほうがリスクになります。この場合は転職の可否を検討する前に、環境から距離を取ることを優先してください。判断力が落ちた状態で決めると、次の選択も誤りやすくなります。
転職は、人生の経営判断です
怖さを消してから決めるのではなく、減らせる分を減らしてから決めます。まずは何が怖いのかを3つ書き出して、それぞれが「聞けば分かること」かどうかを確かめてください。多くは、聞けば分かることです。
出典:厚生労働省「令和2年転職者実態調査の概況」(表12・表13・表19・表23・転職者に対する教育訓練の実施状況)