
営業や接客から事務職へ移りたい。ただ「事務は人気で受からない」とも聞くし、年収が下がるという話もある。何を準備すればいいのか分からない。
先に構造を示します。事務職が難しいのは能力の問題ではなく、欠員補充で少人数しか募集されない職種だからです。そして企業が処遇を決めるとき最も重視するのは「経験・能力・知識」で53.7%です。未経験でも、前職の経験を事務の言葉に翻訳できれば評価の対象になります。
この記事では、募集構造、事務職の種類、前職経験の翻訳、年収の見積もり、動機の組み立て、未経験から入る経路、入る前の確認項目までを扱います。書類の書き方は異業種転職の職務経歴書と合わせて読んでください。
事務職が「人気だが枠が少ない」構造
採用理由の内訳
事業所が中途採用を行う理由は、「経験を活かし即戦力になるため」60.7%、「離職者の補充のため」53.6%が上位です(厚生労働省 令和2年転職者実態調査)。事務職はこの後者の性格が強い職種です。
欠員が出たときに1名を補充する形なので、募集が出る頻度が低く、出ても枠が1つです。営業や技術職のように複数名をまとめて採る形にはなりません。倍率が上がるのはこの構造によるものです。
「受からない」の内訳
落ちる理由は2つに分かれます。1つは枠の問題で、これは能力と無関係です。もう1つは、応募書類が事務職の要件に翻訳されていないことです。後者は自分で対処できます。
実際、転職者を採用する際の問題として「応募者の能力評価に関する客観的な基準がない」と答えた事業所は38.8%あります。基準を持たない相手に営業の言葉で書類を出すと、事務の能力として読まれません。
募集を見つける頻度
枠が少ないため、求人の出るタイミングを逃さないことが重要になります。在職中に活動して、出たときに応募できる状態を作っておくのが現実的です。書類を作ってから探すと、間に合いません。
企業側の募集方法はハローワーク等57.3%、求人サイト43.2%、自社サイト26.6%です(同調査 表5)。ハローワークの比率が最も高いため、事務職はここを外さないほうがよい職種です。
事務職は1種類ではない
4種類で難易度が違う
| 種類 | 主な業務 | 未経験からの入りやすさ |
|---|---|---|
| 営業事務 | 受発注、見積作成、顧客対応、納期調整 | 最も入りやすい。営業・接客経験が直接使える |
| 一般事務 | 書類作成、電話応対、備品管理、データ入力 | 枠が最も少なく倍率が高い |
| 経理事務 | 伝票処理、月次処理、支払管理 | 簿記2級以上があれば未経験でも可能性あり |
| 人事・労務事務 | 入退社手続き、勤怠管理、社会保険 | 法令知識が必要。経験者優先が多い |
最も入りやすいのは営業事務です。顧客との折衝と納期調整が業務に含まれるため、営業や接客の経験が直接使えます。一般事務を第一希望にすると倍率で不利になります。
求人票の職種名だけで判断しない
「一般事務」と書かれていても、実際は営業事務の業務だったり、その逆もあります。職種名より業務内容の記載を読んでください。受発注や見積が入っていれば営業事務です。
もう1つ紛らわしいのが「事務職(営業サポート)」のような併記です。この場合、営業の数値目標が一部かかる職場もあります。目標の有無は業務内容の欄に書かれないため、必ず確認してください。
記載が曖昧な場合は、応募前に確認してください。書かれていない項目から読むのが求人票の基本です。読み方の手順は求人票の読み方で扱っています。
資格の位置づけ
免許・資格を最重視した事業所は10.7%で、経験・能力・知識の53.7%には及びません(同調査 図1)。資格だけで入れる職種ではありません。ただし経理事務では、簿記が実務との接続を示す材料になります。
書き方は、資格と業務を接続する形です。「簿記2級を保有し、前職では月次の売上集計を担当」。資格を単独で並べると、最も見られている53.7%の部分が空欄になります。
前職の経験が事務職で評価される部分
4機能に分解する
翻訳の要点は、相手を「お客様」ではなく「社外」「他部門」と書くことです。事務職の業務は、社内外の調整と書類の正確性で構成されています。同じ行動でも、この枠組みで書き直すと要件に対応します。
接客職からの場合も同じ方法です。レジ締めは「日次の現金管理と差異の確認」、シフト作成は「複数名の勤務予定の作成と調整」、発注は「在庫数に基づく数量の算出と発注処理」。どれも事務職の業務名として通ります。
注意点は、翻訳であって誇張ではないことです。やっていないことを書くと面接で崩れます。実際にやった業務を、別の呼び方で書くだけに留めてください。
最も評価されるのは正確性の実績
事務職で最も見られるのは、間違えないことです。数字の確認をどうしていたか、二重チェックの手順を持っていたか。これは営業でも接客でも発生していた業務です。
書き方の例を挙げます。「受注データの入力後、単価と数量を発注書と照合する手順を自分で決めて運用した」。成果ではなく手順を書くのが、事務職向けの書類の特徴です。
使えるソフトは具体的に書く
表計算ソフトは「使用可」ではなく、できる操作を書きます。関数名、ピボットテーブル、条件付き書式など。操作の名前が書いてあると、実務の水準が伝わります。
前職で使っていた業務システムも書いてください。名称が違っても、「基幹システムへの受注入力を日次で担当」と書けば、同種の作業に対応できることが示せます。自己PRの組み方は自己PRの作り方で扱っています。
年収は下がる前提で計算する
賃金の変化の実態
転職による賃金変化は、増加39.0%・変わらない20.2%・減少40.1%です(同調査 表13)。3割以上減った人も10.9%います。職種を変える転職では、減少側に入る確率が上がります。
理由は処遇の決め方です。最重視されるのは経験・能力・知識53.7%で、前職の賃金を最重視した事業所は0.4%しかありません。前の年収は引き継がれません。
営業からの場合はインセンティブ分が消える
営業職からの転職では、固定給以外の部分が減ります。歩合、賞与の変動部分、残業代。比較するときは、総支給の年額同士で見てください。月給だけで比べると実態を見誤ります。
計算の手順は3つです。①現職の昨年の総支給額 ②提示額の内訳(固定・変動・手当) ③手取りの差額を月額で出す。3番目まで出すと、生活への影響が具体になります。
下がった場合の耐久月数
下がる場合は、貯蓄で何か月成り立つかを計算してください。月の固定費が22万円、貯蓄が120万円、転職後の手取りが18万円なら、不足は月4万円。120÷4で30か月、つまり2年半は維持できます。
この数字があると、判断が感情から条件に移ります。「2年半のうちに元の水準に戻せるか」という問いに変わります。年収の実態は転職で年収は上がるのかで扱っています。
「楽そう」という動機が落ちる理由
採用側が警戒している点
事務職の選考で警戒されるのは、「業務量が少ないと思って応募していないか」です。実際の事務職は、締め日前後に業務が集中し、複数部門からの依頼が並行します。
この誤解を持ったまま入ると、早期に辞めます。採用側は過去にそれを経験しているため、動機の中身を確認します。「落ち着いて働きたい」という表現は、この警戒に触れます。社会人経験が短い場合は、評価の見方そのものが変わります。第二新卒の転職で扱っています。
動機の置き換え方
| 避ける表現 | 置き換え | 理由 |
|---|---|---|
| 落ち着いて働きたい | 業務の精度を上げる仕事に集中したい | 業務量が少ないと思っていると読まれる |
| ノルマがない仕事がしたい | 個人目標ではなく部門全体の進行を支えたい | 逃避の動機として読まれる |
| 体力的に続けられない | 前職で得た調整と管理の部分を主業務にしたい | 事務職も繁忙期の負荷はある |
| 人と話すのが苦手 | 社内外の窓口として正確に伝える役割を担いたい | 事務職も電話と折衝が中心業務 |
共通するのは、「何から逃げるか」ではなく「何を主業務にしたいか」で書くことです。前職で実際にやっていた業務のうち、事務職で中心になる部分を指定する形です。
体力や健康が理由の場合
身体的な理由が実際にある場合は、伏せる必要はありません。ただし書き方を変えます。「立ち仕事が続けられない」ではなく「デスクワーク中心の環境で長く続けたい」という形です。
配慮が必要な事項がある場合は、内定前に伝えてください。入社後に判明すると、双方が困ります。事実として伝え、できる業務の範囲を明示するのが最も通ります。志望動機の組み方は志望動機の作り方で扱っています。
未経験から入る2つの経路
経路① 同じ業界の営業事務へ
最も通りやすいのが、業界を変えず職種だけ変える形です。業界知識がそのまま使えるため、覚える範囲が業務の進め方だけに絞られます。企業側の教育コストも下がります。
書き方も明確になります。「前職で扱っていた製品の仕様と納期の慣習は理解しているため、受発注の実務に早く入れます」。業界知識を具体名で書けるのが、この経路の強みです。
経路② 現職内で職種を変える
もう1つは、転職せずに社内で異動する経路です。引き止めの提示で最も多いのは「配置転換をする」で37.0%です(同調査 表12)。会社側も異動を手として持っています。
この経路の利点は、年収が下がりにくいことです。同じ会社の中なら、等級や賃金の基礎が維持される場合があります。職種を変える目的が業務内容なら、まず社内を確認してください。判定は社内異動という選択肢で扱っています。
派遣・契約から入る場合
正社員の枠が空かない場合、派遣や契約社員から入る選択もあります。転職者の現在の就業形態は正社員69.9%、正社員以外17.3%(契約社員8.0%・その他7.3%・嘱託1.5%)です(同調査 表11)。
この経路を選ぶ場合は、正社員への転換実績を必ず確認してください。制度があるかではなく、直近3年で何人転換したかです。実績がなければ、制度は運用されていません。
入る前に確認する4項目
①担当範囲の境界
事務職の求人で最も曖昧なのが担当範囲です。「一般事務」の中に経理も人事も含まれている場合があります。誰がどこまでを担当しているのかを、応募前に確認してください。
2024年4月から、就業場所と業務内容の「変更の範囲」が労働条件の明示事項に追加されています(労働基準法施行規則の改正)。将来的に担当が広がる可能性も、書面で確認できます。
②繁忙期の実態
事務職は業務が特定の時期に集中します。月末月初、四半期末、決算期。「繁忙期の残業時間は月何時間か」を数字で聞いてください。平均値ではなく、最も多い月の数字です。
答えが曖昧な場合は記録しておいてください。回答が曖昧な項目は、入社後に問題になりやすい項目です。複数内定を比べる段階で、この記録が効きます。
③人数と引き継ぎ
事務職が1名体制の職場では、引き継ぎの期間が短くなりがちです。前任者が在籍しているか、いつまでいるかを確認してください。すでに退職している場合、引き継ぎ資料だけで始まります。
1名体制自体が問題というわけではありません。ただし休みが取りにくい構造になるため、有給の取得実績も併せて確認してください。確認項目の全体は内定を承諾する前にで整理しています。
④昇給の仕組み
事務職は成果が数字で出にくいため、昇給の仕組みが職種によって異なります。何をもって評価されるのか、昇給の頻度と幅を確認してください。年収が下がる転職の場合、戻せる見込みがあるかの判断材料になります。
処遇を決める最大の要素は経験・能力・知識で53.7%なので、入ってから経験を積めば評価の対象は増えます。ただしそれが処遇に反映される仕組みがあるかは、会社ごとに違います。
まとめ
- 事務職が難しいのは能力ではなく構造。中途採用の理由は「離職者の補充」53.6%が上位で、欠員1名の補充として募集されるため枠が少ない
- 落ちる理由は枠の問題と、書類が事務職の要件に翻訳されていないことの2つ。後者は自分で対処できる
- 企業側の募集方法はハローワーク等57.3%が最多。事務職ではここを外さない
- 事務職は4種類。営業事務が最も入りやすく、一般事務は枠が最も少ない。職種名より業務内容の記載を読む
- 免許・資格を最重視した事業所は10.7%。資格は実務と接続して書く
- 翻訳の要点は、相手を「お客様」ではなく「社外」「他部門」と書くこと。同じ行動が事務の要件に対応する
- 最も評価されるのは正確性。成果ではなく、二重チェックなどの手順を書く
- 賃金変化は増加39.0%・変わらない20.2%・減少40.1%。前職の賃金を最重視は0.4%で、前の年収は引き継がれない
- 営業からの場合は歩合・賞与の変動部分・残業代が減る。総支給の年額同士で比較する
- 警戒されるのは「業務量が少ないと思って応募していないか」。「落ち着いて働きたい」は避け、何を主業務にしたいかで書く
- 未経験から入る経路は2つ。業界を変えず職種だけ変える形と、現職内での異動。引き止めの提示で最多は「配置転換」37.0%
- 派遣・契約から入る場合は、制度の有無ではなく直近3年の正社員転換人数を確認する
- 入る前に確認するのは4項目。担当範囲の境界・繁忙期の残業時間(最も多い月)・人数と引き継ぎ・昇給の仕組み
よくある質問(FAQ)
事務職は未経験では無理ですか。
無理ではありません。難しいのは構造の問題です。事務職は欠員1名の補充として募集されるため枠が少なく、倍率が上がります。ただし処遇を決めるとき最重視されるのは経験・能力・知識で53.7%なので、前職の経験を事務の言葉に翻訳できれば評価の対象になります。最も入りやすいのは営業事務で、営業や接客の経験が直接使えます。
どの種類の事務職を狙うべきですか。
未経験なら営業事務です。受発注、見積作成、顧客対応、納期調整が業務なので、営業や接客の経験が直接対応します。一般事務は枠が最も少なく倍率が高いため、第一希望にすると不利になります。経理事務は簿記2級以上があれば可能性があり、人事・労務は法令知識が必要で経験者優先が多い傾向です。
職務経歴書はどう書き換えますか。
相手を「お客様」ではなく「社外」「他部門」と書き換えてください。クレーム処理は「社外からの問い合わせを一次対応で完結」、見積作成は「社内書式での書類作成と数値の整合確認」、納期調整は「複数部門をまたぐ日程の調整と進行管理」になります。また、成果ではなく手順を書いてください。「受注データ入力後に単価と数量を発注書と照合する手順を運用した」のような形です。
年収はどのくらい下がりますか。
個別の金額は会社によりますが、下がる前提で計算してください。転職による賃金変化は増加39.0%・変わらない20.2%・減少40.1%で、3割以上減った人も10.9%います。前職の賃金を最重視した事業所は0.4%なので、前の年収は引き継がれません。営業職からの場合は歩合・賞与の変動部分・残業代が減るため、総支給の年額同士で比較してください。
「落ち着いて働きたい」と書くのはだめですか。
避けてください。採用側が最も警戒しているのは「業務量が少ないと思って応募していないか」です。実際の事務職は締め日前後に業務が集中し、複数部門からの依頼が並行します。「業務の精度を上げる仕事に集中したい」「部門全体の進行を支えたい」のように、何から逃げるかではなく何を主業務にしたいかで書いてください。
派遣から正社員を狙うのは有効ですか。
選択肢としては有効ですが、確認が必要です。制度があるかではなく、直近3年で何人が正社員に転換したかを聞いてください。実績がなければ制度は運用されていません。転職者の就業形態は正社員69.9%、正社員以外17.3%で、正社員以外から入る人も一定数います。あわせて、担当範囲と繁忙期の残業時間も確認してください。
転職は、人生の経営判断です
事務職で通らない原因は、能力ではなく翻訳です。お客様を「社外」に、クレーム処理を「一次対応で完結」に。同じ経験が、言い換えるだけで要件に対応します。
出典:厚生労働省「令和2年転職者実態調査の概況」(図1・表5・表11・表12・表13・中途採用を行う理由)/2024年4月施行の労働条件明示ルール