
ネットショップを始めようとすると、最初に引っかかるのが手続きの話です。開業届は出すのか、古物商は要るのか、食品を扱うには何がいるのか。
調べると情報が出てきますが、書いてあることが記事ごとに違うことがあります。とくに開業届の提出期限は、よく見る説明と役所の案内が食い違っています。
この記事では、国税庁・警察庁・厚生労働省・消費者庁が出している一次情報だけを見て、何が要るのかを順番に整理します。条文が確認できたものは条文番号まで書き、確認できなかったものは「確認できなかった」と書きます。
ネットショップそのものに許可は要らない
先に結論から書きます。ネットショップを開くこと自体に、許可や免許は必要ありません。
必要になるのは、次の2つに当てはまる場合です。
① 事業として続けるなら、税務署への届出
許可ではなく「届け出るだけ」のものです。審査はありません。
② 扱う商品によっては、許可・免許・届出
中古品、食品、化粧品、お酒。ここは商品が決まってから確認します。
つまり「何を売るか」が決まらないと、何が必要かも決まりません。 手続きを先に調べ始めると、どこまで調べればいいのか分からなくなります。商品を決めてから、この記事の該当箇所だけを見るのが早いです。
屋号だけで始めるなら、この記事の範囲で足ります
法人を作る場合は登記が必要になり、別の話になります。この記事は、個人が屋号でネットショップを開く前提で書いています。
最初から法人にするかどうかは、売上の見込みと、取引先が法人を求めるかどうかで変わります。ただ、開店の手続きという観点だけで言えば、個人のほうが圧倒的に少なくて済みます。まず個人で始めて、必要になってから法人化する順番でも遅くありません。
開業届は「いつまで」なのか
正式な書類の名前は「個人事業の開業・廃業等届出書」です。税務署に出します。
この書類は、許可を求めるものではありません。審査もなく、出せば受理されます。書く内容も、屋号、事業の種類、事業を始めた日、納税地といった程度で、A4用紙1枚です。
にもかかわらず、この手続きでいちばん質問が多いのが提出期限です。そして、ここでネットに出ている説明と役所の案内が食い違っています。
よく見る「1か月以内」は、国税庁の案内と違う
ネットの記事では「開業から1か月以内に出す」と書かれていることが多くあります。ところが、国税庁が出している手続案内(A1-5)には、こう書かれています。
事業の開始等の事実があった日の属する年分の確定申告期限までに提出してください。
出典:国税庁「A1-5 個人事業の開業・廃業等届出書」
つまり現在の案内では、その年の確定申告の期限までとなっています。1月に始めても12月に始めても、翌年の確定申告期限が区切りです。
「1か月以内」という説明の根拠とされる条文については、今回の取材で原文まで確認できませんでした。確認できたのは上の案内文だけなので、この記事ではそちらを書いています。迷ったら、開業したときに出しておくのがいちばん簡単です。 期限を気にする必要がなくなります。
出さなかったらどうなるか
国税庁の案内に、提出しなかった場合の罰則についての記載はありません。ただし「記載がない」だけで、出さなくていいという意味ではありません。
出しておくと実際に効いてくる場面があります。屋号名義の銀行口座を作るとき、開業届の控えを求められることがあります。補助金や融資の申請でも同じです。事業をやっている証明として使われる場面がある、と考えておくといいです。
ただ、実務上いちばん影響が出るのは、次に書く青色申告のほうです。こちらには明確な期限があり、過ぎるとその年は使えません。
青色申告をするなら、こちらの期限のほうが厳しい
青色申告にすると、帳簿をきちんと付けることを条件に控除が受けられます。これを使うには別の書類「所得税の青色申告承認申請書」が必要で、こちらには明確な期限があります。
青色申告書による申告をしようとする年の3月15日まで(その年の1月16日以後、新たに事業を開始したり不動産の貸付けをした場合には、その事業開始等の日から2月以内。)に提出してください。
出典:国税庁「A1-9 所得税の青色申告承認申請手続」
1月16日以後に始めたなら、開業日から2か月以内。 ここを過ぎると、その年は青色申告ができません。開業届と一緒に出してしまうのが確実です。
中古品を売るなら古物商許可
ここが個人のネットショップでいちばん判断を間違えやすいところです。
間違えやすい理由は2つあります。ひとつは、「古物」という言葉から想像する範囲と、法律上の範囲がずれていること。もうひとつは、必要かどうかの分かれ目が「何を売るか」ではなく「どう仕入れるか」にあることです。
感覚で判断すると外します。古物営業法の条文を見ると、線がどこにあるかがはっきりするので、そちらを読みます。
「古物」の範囲は思っているより広い
まず定義から確かめます。第2条第1項です。読みにくい条文ですが、ここを押さえておかないと、あとの判断ができません。
この法律において「古物」とは、一度使用された物品(鑑賞的美術品及び商品券、乗車券、郵便切手その他政令で定めるこれらに類する証票その他の物を含み、大型機械類(中略)で政令で定めるものを除く。)若しくは使用されない物品で使用のために取引されたもの又はこれらの物品に幾分の手入れをしたものをいう。
出典:古物営業法 第2条第1項(e-Gov法令検索)
注意したいのは「使用されない物品で使用のために取引されたもの」という部分です。新品でも、一度誰かの手に渡ったものは古物に含まれます。未開封の転売品もここに入ります。
分かれ目は「売るだけか、買って売るか」
許可が必要な営業の定義は、第2条第2項第1号にあります。
古物を売買し、若しくは交換し、又は委託を受けて売買し、若しくは交換する営業であつて、古物を売却すること又は自己が売却した物品を当該売却の相手方から買い受けることのみを行うもの以外のもの
出典:古物営業法 第2条第2項第1号(強調は筆者)
読みにくい条文ですが、太字の部分が判断の軸です。「売却することのみ」を行うものは、この営業から外れています。
自分が使っていた物を売るだけ
売却のみなので、条文上はこの営業に当たりません。不要品の整理がこれです。
仕入れて売る
買う行為が入るので「売却のみ」ではありません。許可が必要になります。
古着を買い付けて売る、リサイクルショップで仕入れて売る、中古本を集めて売る。買ってから売るなら、規模にかかわらず許可の対象です。
許可を受けずに営んだ場合
ここまでの届出は、出さなくても罰則の定めがありませんでした。古物商許可は違います。許可なく営業した場合の罰則が、条文に直接書かれています。
第三条の規定に違反して許可を受けないで第二条第二項第一号又は第二号に掲げる営業を営んだ者は、三年以下の拘禁刑又は百万円以下の罰金に処する。
出典:古物営業法 第31条第1号(要約)
ここは他の届出と性質が違います。罰則がはっきり定められています。 中古品を仕入れて売る予定があるなら、開店前に済ませておくところです。
申請先と手数料
申請は、主たる営業所の所在地を所轄する警察署を経由して、都道府県公安委員会に出します。手数料は警視庁の案内で19,000円です。全国一律かどうかは確認できなかったので、申請先の都道府県警のページで確かめます。
許可が下りるまでには時間がかかります。開店日から逆算して動きます。
食品・化粧品・お酒は扱う前に確認する
この3つは、商品として扱うかどうかで手続きが大きく変わります。そして、ここまでの2つと性質が違うところがあります。
開業届も古物商許可も、全国どこでも同じ手続きでした。ところが食品については、許可業種の基準を都道府県が条例で定める仕組みになっています。つまり、全国共通の答えが存在しない部分があります。
以下では、国の資料で確認できたところまでを書きます。確認できなかったところは、そう書きます。
食品
2021年6月1日から、食品を扱う営業の制度が変わりました。厚生労働省の資料によると、営業許可の対象外の業種でも、一部を除いて管轄の保健所への届出が必要です。
届け出る内容には、届出者の氏名、施設の所在地、営業の形態、主に取り扱う食品の情報、そして食品衛生責任者の氏名が含まれます。届出には施設基準がなく、更新も不要です。
届出が不要な業態も挙げられていて、そのひとつが「常温で長期間保存しても腐敗・変敗等による食品衛生上の危害の恐れがない包装食品の販売業」です。包装された常温保存の食品を仕入れて売るだけなら、ここに当たる可能性があります。
なお、自宅のキッチンで作ったものを売れるかどうかについては、厚生労働省の資料に具体的な記載を見つけられませんでした。許可業種の施設基準は都道府県が条例で定める仕組みなので、住んでいる自治体の保健所に直接聞くのが確実です。 ここは推測で判断しないところです。
化粧品
薬機法では「製造販売」が定義されています。
その製造(他に委託して製造をする場合を含み、他から委託を受けて製造をする場合を除く。)をし、又は輸入をした(中略)化粧品(中略)を、それぞれ販売し、貸与し、若しくは授与し(中略)すること
出典:医薬品医療機器等法 第2条第13項
第12条第1項で、この「製造販売」をしようとする者には許可が必要とされています。逆に言うと、自分で作ったり輸入したりせず、他社の化粧品を仕入れて売るだけなら、この定義には当たりません。
ただし、販売業そのものについて薬機法上の許可や届出が要るかどうかは、条文の原文まで確認できませんでした。輸入して売る場合は確実に別の手続きが必要になるので、海外の化粧品を扱うつもりなら、そこから先は都道府県の薬務課に確認します。
お酒
お酒をネットで売るには「通信販売酒類小売業免許」が必要です。申請先は税務署になります。
免許の要件には、人的要件・場所的要件・経営基礎要件・需給調整要件があるとされていますが、それぞれの具体的な中身を国税庁のページ本文から確認できませんでした。数字を含む要件があるため、正確なところは国税庁の「通信販売酒類小売業免許申請の手引」か、所轄の税務署で確認します。
全員に必要な「特定商取引法に基づく表記」
ここまでは商品によって要否が変わる話でした。最後の1つは、ネットで物を売るなら全員が対象になります。
ただし、これまでの3つとは性質がまったく違います。届出ではないのです。どこかに提出するのではなく、自分のサイトに書いて載せるものです。
ここを混同している人をよく見かけます。カートの管理画面に入力欄があるので、埋めれば済むように見えるのですが、書くべき項目は法律と施行規則の2か所に分かれていて、テンプレートに欄が無いものもあります。
特定商取引法第11条と、同法施行規則第23条で、広告に表示すべき事項が決められています。消費者庁の逐条解説から拾うと、次のとおりです。
法律で直接決められているもの
まず第11条です。ここに挙がっているのは、買う人が注文を決める前に知っておくべき条件、という性質でまとまっています。
いくらで、いつ払って、いつ届いて、気に入らなかったらどうなるのか。注文ボタンを押す判断に直接関わるものだけが並んでいる、と読むと覚えやすいです。
- 販売価格(送料が別なら送料も)
- 代金の支払時期と支払方法
- 商品の引渡時期
- 申込みの期間に定めがあるときは、その旨と内容
- 申込みの撤回・解除(返品)に関する事項
施行規則で追加されるもの
次に施行規則第23条です。こちらは「誰が売っているのか」と「価格以外に何が起きるのか」を示す項目が中心になります。カートのテンプレートに欄が無いのは、たいていこちら側の項目です。
項目数が多く見えますが、自分に関係するものだけ書けば足ります。ソフトウェアを扱わないなら動作環境は要りませんし、定期購入をしないならその欄も空きます。該当するものがあるかどうかを一度通しで確認する、という使い方をします。
- 販売業者の氏名または名称、住所、電話番号
- 送料以外に購入者が負担する金銭があれば、その内容と額
- 契約不適合責任を負わない場合は、その旨
- 定期購入(2回以上の継続契約)なら、その旨・金額・契約期間など
- 販売数量の制限などの特別な条件
- 電子メール広告をするなら、メールアドレス
ここでつまずく人が多い場所
氏名と住所です。逐条解説では、個人事業者は戸籍上の氏名または商業登記簿上の商号と書かれています。屋号やサイト名では足りません。電話番号も「確実に連絡が取れる番号」とされています。
自宅の住所を出したくない場合はどうするか。ここには条件付きで省略できる仕組みがあります。特定商取引法第11条のただし書です。
ただし、当該広告に、請求により、これらの事項を記載した書面を遅滞なく交付し、又はこれらの事項を記録した電磁的記録を遅滞なく提供する旨の表示をする場合には、販売業者又は役務提供事業者は、主務省令で定めるところにより、これらの事項の一部を表示しないことができる。
出典:特定商取引に関する法律 第11条ただし書(e-Gov法令検索)
同法施行規則第25条で、省略できる対象に氏名・住所・電話番号(規則第23条第1号)が含まれます。 ただし、次の3つがそろって初めて省略できます。
- 広告に「請求があれば遅滞なく書面または電磁的記録を提供する」旨を表示する
- 実際に請求されたら、省略した事項の全てを遅滞なく提供できる体制を用意しておく
- 提供する書面・記録には、省略した事項の全てを記載する
つまり「どこにも書かなくていい」わけではありません。 聞かれたら出す、という約束を先に掲げておく仕組みです。体制がないまま省略すると、条件を満たしません。
それから、返品に関する事項と申込みの有効期限は、どちらの場合も省略できません。 規則で明文で除かれています。住所を伏せるなら返品条件は必ず出す、という組み合わせになります。
なお、第11条の違反そのものに罰則はありませんが、指示(第14条)や業務停止命令(第15条)の対象になります。虚偽・誇大広告(第12条)には100万円以下の罰金、申込み画面の不表示・不実表示(第12条の6)には3年以下の懲役または300万円以下の罰金が定められています。
よくある失敗と、その直し方
手続きの失敗には、あとから取り返せるものと、取り返せないものがあります。
青色申告の申請を忘れた場合、その年はもう青色申告ができません。翌年からやり直しです。一方、特商法の表記が足りなかった場合は、気づいた時点で書き足せば済みます。この違いを知っておくと、どこに注意を払うかが決まります。
実際によくあるものを4つ挙げます。
開業届は出したが、青色申告の申請を忘れた
原因:2つが別の書類だと知らなかった
直し方:同時に出す。青色申告のほうが期限が厳しく、過ぎるとその年は使えません
「新品だから古物商は要らない」と判断した
原因:古物の定義に「使用されない物品で使用のために取引されたもの」が入っている
直し方:新品・中古ではなく「買ってから売るかどうか」で判断します
特商法の表記に屋号だけを書いた
原因:カートのテンプレートが空欄のままだった
直し方:個人事業者は戸籍上の氏名を書きます。開店前に自分のページを見て埋めます
食品の可否をネットの記事だけで判断した
原因:許可業種の施設基準は都道府県の条例で決まる
直し方:自分の自治体の保健所に聞きます。全国共通の答えは存在しません
この記事で確認した届出のまとめ
扱う商品ごとに、何を、どこへ出すのかを並べておきます。手数料の金額が確認できたものだけ書いています。
並べてみると分かるのですが、提出先が全部バラバラです。税務署、警察署を経由して公安委員会、保健所、都道府県の薬務課。ひとつの窓口で済ませることはできません。
だからこそ、扱う商品を先に決めるほうが早くなります。商品が決まれば、この中の3つか4つに絞れます。
全員(事業として続けるなら)
個人事業の開業・廃業等届出書:納税地を所轄する税務署長へ。その年の確定申告期限まで
所得税の青色申告承認申請書:同じ税務署へ。1月16日以後の開業なら開業日から2か月以内
中古品・転売品を仕入れて売るなら
古物商許可:主たる営業所を所轄する警察署を経由して都道府県公安委員会へ。手数料19,000円(警視庁)。無許可営業は3年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金
食品を扱うなら
営業許可または営業届出:管轄の保健所へ。届出には食品衛生責任者の氏名が要ります。常温で長期保存できる包装食品の販売は、届出不要の業態に挙げられています
化粧品を扱うなら
他社の製品を仕入れて売るだけなら、薬機法の「製造販売」には当たりません。自分で作る・輸入する場合は製造販売業許可が必要です。都道府県の薬務課へ
お酒を扱うなら
通信販売酒類小売業免許:所轄の税務署へ。要件の中身は手引きか税務署で確認します
全員(ページに書くもの)
特定商取引法に基づく表記:届出ではなく、自分のサイトに載せるものです。氏名・住所・電話番号を含みます
※内容は各公式サイトを確認したものです。制度は変わります。手続きの前に、必ず提出先の最新の案内を見てください。
よくある質問
趣味の延長で月に数千円しか売れなくても、開業届は要りますか
国税庁の案内は「新たに事業所得、不動産所得又は山林所得を生ずべき事業の開始等をした方」が対象としています。事業として続けるつもりがあるかどうかが軸になります。金額の基準は案内に書かれていません。判断に迷う規模なら、税務署に電話して聞くのがいちばん確実で、相談自体は無料です。
自分の不要品をまとめて売るだけなら、古物商許可は要りませんか
古物営業法第2条第2項第1号は「古物を売却することのみを行うもの」を営業から外しています。自分が使っていた物を売るだけなら、条文上はここに当たります。ただし、売るために買ってくる行為が入った時点で「売却のみ」ではなくなります。不要品の整理から仕入れに移るタイミングが分かれ目です。
特商法の表記に自宅の住所を書きたくありません
条件付きで省略できます。特定商取引法第11条のただし書と施行規則第25条で、氏名・住所・電話番号は省略できる対象に含まれています。ただし「請求があれば遅滞なく提供する」旨を広告に表示し、実際に請求されたら省略した事項の全てを遅滞なく出せる体制が要ります。書かずに済ませるのではなく、聞かれたら出す約束を掲げる仕組みです。なお、返品に関する事項と申込みの有効期限は、この省略の対象から外れています。
手続きは開店前に全部終わらせるべきですか
性質が違うので分けて考えます。古物商許可と食品の許可は、無いまま営業すると違反になるため開店前です。開業届と青色申告の申請は税務上の手続きなので、開業後でも期限内なら間に合います。特商法の表記は、公開ボタンを押す前にページへ入れておくものです。
海外から商品を輸入して売る場合は何が変わりますか
扱う品目によって、国内で仕入れる場合とは別の手続きが加わります。化粧品は薬機法の「製造販売」に輸入が明記されているため、仕入れて売るだけとは扱いが変わります。食品も同様に、輸入時の届出が関わります。品目ごとに窓口が違うので、個別に確認が必要です。この記事では国内で仕入れる前提の範囲までを扱っています。
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まず「何を売るか」を1つに決める
扱う商品が決まれば、必要な手続きは3つか4つに絞れます。手続きを先に調べ始めると終わりが見えません。商品を決めて、この記事の該当箇所だけを見るのが近道です。