
中古住宅を買うとき、建物状況調査(インスペクション)という言葉が出てきます。中古マンション重要事項説明書で扱ったとおり、宅地建物取引業法第35条第1項6号の2により、実施しているかどうかが重要事項説明の対象です。
ただ、実施したとして、その調査で何が分かるのかは、あまり書かれていません。「専門家が建物を見てくれる」という説明で止まりがちです。
調査の中身は、国土交通省の告示で決まっています。既存住宅状況調査方法基準(平成29年国土交通省告示第82号)です。部位ごとに、何をもって劣化事象等とするかが、ミリメートル単位の数字で並んでいます。
この記事は、その告示と、国土交通省が公表している「既存住宅状況調査方法基準の解説」(令和6年10月25日)、そして宅地建物取引業法施行規則だけを根拠に、この調査で分かること、そして分からないことを整理します。
結論:見るのは2か所だけ。それ以外は対象として規定されていない
対象は「構造耐力上主要な部分」と「雨水の浸入を防止する部分」
宅地建物取引業法第34条の2第1項4号が、建物状況調査をこう定義しています。
「建物の構造耐力上主要な部分又は雨水の浸入を防止する部分として国土交通省令で定めるもの(中略)の状況の調査であつて、経年変化その他の建物に生じる事象に関する知識及び能力を有する者として国土交通省令で定める者が実施するもの」
調べるのは、この2つです。建物全体を見るという制度ではありません。
2つの範囲は、品確法施行令が定義している
解説は、この2つの定義を住宅の品質確保の促進等に関する法律施行令から引いています。
| 範囲 | 含まれるもの |
|---|---|
| 構造耐力上主要な部分 | 住宅の基礎、基礎ぐい、壁、柱、小屋組、土台、斜材(筋かい、方づえ、火打材その他これらに類するもの)、床版、屋根版又は横架材(はり、けたその他これらに類するもの)で、自重・積載荷重・積雪・風圧・土圧・水圧・地震その他の震動や衝撃を支えるもの |
| 雨水の浸入を防止する部分 | 住宅の屋根若しくは外壁又はこれらの開口部に設ける戸、わくその他の建具/雨水を排除するため住宅に設ける排水管のうち、屋根若しくは外壁の内部又は屋内にある部分 |
要するに、建物が立っていられるかどうかと、雨が入らないかどうか。この2点に限定されています。
配管・設備・雨樋は、調査対象として規定されていない
解説の書き方は明快でした。
「なお、配管・設備、雨樋など、調査対象として規定していない部位や劣化事象等についても、既存住宅状況調査と同じタイミングで追加調査することを妨げるものではない」
裏返すと、配管・設備・雨樋は標準の調査対象ではありません。給湯器、エアコン、給排水設備の動作、シロアリ(木造の土台・床組の調査で蟻害は見ますが、建物全体の防蟻状況の診断ではありません)。これらを見てほしいなら、別途の追加調査として依頼する必要があります。
「インスペクションをしたから設備も大丈夫」とはなりません。ここが、期待と制度がずれるいちばん大きな点です。
「劣化事象等」には、数字の基準がある
まず、用語の定義から
告示第2条第13項は「この基準において『劣化事象等』とは、劣化事象その他不具合である事象をいう」としています。
そして判断の水準は、解説のほうに書かれました。「部位ごとに劣化事象等が認められるか否かの判断は、第五条から第十条までの判断基準に基づき、詳細な調査を要する程度の事象があるかどうか、又は補修を要する程度の事象があるかどうかにより判断する」。
つまり、目に見える傷がすべて「有」になるわけではありません。詳細な調査か補修が必要な程度かどうかが線引きです。
基礎は0.5ミリメートルと20ミリメートル
告示第5条(木造)と第9条(鉄筋コンクリート造等)は、基礎について同じ基準を置いています。
- 幅0.5ミリメートル以上のひび割れ(計測又は目視)
- 深さ20ミリメートル以上の欠損(計測又は目視)
- コンクリートの著しい劣化(打診又は目視)
- さび汁を伴うひび割れ又は欠損(白華を含む)(目視)
- 鉄筋の露出(計測又は目視)
0.5ミリメートル未満のひび割れは、この基準では劣化事象等になりません。現地で見て気になったひび割れが報告書に載っていない場合、幅が基準に届いていない可能性があります。
傾きは「1000分の6」で測る
床と柱の傾きにも、条文が数値を置きました。告示の書き方はこうです。
床について。「千分の六以上の勾配の傾斜(凹凸の少ない仕上げによる床の表面における二点(三メートル程度離れているものに限る。)の間を結ぶ直線の水平面に対する角度をいう。)」
柱について(木造)。「柱の千分の六以上の勾配の傾斜(凹凸の少ない仕上げによる柱の表面と、その面と垂直な鉛直面との交差する線(二メートル程度以上の長さのものに限る。)の鉛直線に対する角度をいう。)」
1000分の6は、3メートル離れた2点で18ミリメートルの高低差にあたります。測り方まで条文に書いてあります。「なんとなく傾いている気がする」を数字にするのが、この基準の役割です。
なお鉄筋コンクリート造等の柱は「柱の著しい傾斜」とされており、木造のような数値基準ではありません。
木造と鉄筋コンクリート造では、見る部位が違う
構造ごとに条文が分かれました。告示第4条第1項が、木造は第5条・第6条、鉄骨造は第7条・第8条、鉄筋コンクリート造等は第9条・第10条と割り当てています。混構造は「その構造に応じて前三号に定める調査に準じる調査」です。
| 部位 | 木造(第5条) | 鉄筋コンクリート造等(第9条) |
|---|---|---|
| 基礎 | 0.5mm以上のひび割れ/20mm以上の欠損/鉄筋の露出ほか | 同左 |
| 土台及び床組 | 著しいひび割れ、劣化又は欠損 | 区分なし |
| 床 | 著しいひび割れ・劣化・欠損/著しい沈み/1000分の6以上の傾斜 | 著しいひび割れ・劣化・欠損(さび汁、白華、鉄筋の露出を含む)/1000分の6以上の傾斜 |
| 柱及び梁 | 著しいひび割れ等/梁の著しいたわみ/柱の1000分の6以上の傾斜 | 著しいひび割れ等(さび汁、白華、鉄筋の露出を含む)/柱の著しい傾斜 |
| 外壁 | 仕上げ(乾式・タイル・塗壁・その他)ごとに基準。下地材まで到達するひび割れ等 | 打放し・塗装は0.5mm/20mmの基準。タイル・塗壁は下地材まで到達するひび割れ等 |
| 内壁・天井 | 下地材まで到達するひび割れ等/傾斜 | 0.5mm/20mmの基準、鉄筋の露出ほか |
木造には床の沈み・梁のたわみという項目があり、鉄筋コンクリート造等にはさび汁・白華・鉄筋の露出が繰り返し出てきます。劣化の出方が構造によって違うためです。
雨水の浸入を防止する部分は、跡を探す
雨水側の調査(木造は第6条、鉄筋コンクリート造等は第10条)は、項目がぐっと少なくなります。鉄筋コンクリート造等では次のとおりです。
- 外壁(開口部、笠木、バルコニーその他の部位との取り合い部分を含む):シーリング材の破断又は欠損/建具の周囲の隙間又は建具の著しい開閉不良
- 内壁:雨漏りの跡
- 天井:雨漏りの跡
- 屋根:著しい防水層のひび割れ、劣化若しくは欠損又は水切り金物等の不具合
内壁と天井は「雨漏りの跡」です。今漏っているかではなく、跡があるかを見ます。調査当日に雨が降っているかどうかに左右されない設計です。
方法は目視・計測・打診。原則として非破壊
告示が指定しているのは3つの方法
告示の表は、部位ごとに方法まで指定しています。出てくるのは計測、目視、打診、そして建具については操作です。令和5年の改正で「デジタル技術を活用した方法を含む」という文言が加わりました。
解説は前提をこう述べています。「既存住宅状況調査は、既存住宅の構造耐力上主要な部分及び雨水の浸入を防止する部分の状況の調査を原則として非破壊で行うものであり、調査すべき箇所そのものを確認できない場合も少なくないため、構造及び防水の観点で主要な部分に劣化又は不具合があった場合に発生する劣化事象等を調査対象としている」。
壁を壊して中を見る調査ではありません。だから、内部の劣化そのものではなく、それが表に出たときの現象(ひび割れ、さび汁、雨漏りの跡)を項目にしています。
足場は設置しない。点検口がなければ見ない
告示第4条第4項が、調査する位置を限定しています。
「調査は、少なくとも歩行その他の通常の手段により移動できる位置において、対象部位のうち少なくとも移動が困難な家具等により隠蔽されている部分以外の部分について行うものとする」
解説は、これをもっと具体的に言い換えました。「外構における足場の設置等を要しないこととするとともに、移動が困難な家具等により隠蔽されている部分や点検口がなく調査できない部分についても調査を要しない」。
整理すると、標準の調査では次が行われません。
- 足場を組んで外壁の高い位置を見ること
- 大型の家具を動かしてその裏を見ること
- 点検口がない床下・小屋裏に入ること
- 仕上材を剥がして下地を見ること
ただし解説は「一方、足場の設置、家具や仕上材の除却等により、大規模又は詳細な調査を行うことを妨げるものではない」とも書いています。追加で依頼することは可能です。標準に含まれないだけです。
「無」と「調査できなかった」は別の結果
報告書の結果は3択になっている
国土交通省が公表している「建物状況調査の結果の概要(重要事項説明用)」の様式を見ると、部位ごとのチェック欄が「有/無/調査できなかった」の3つに分かれています。
根拠は告示第4条第5項です。「前項の規定により、対象部位について調査することができる部分がない場合には、当該対象部位は、調査できないものとして取り扱うものとする」。
そして第4条第6項第4号が、結果の概要に記載する事項として「対象部位ごとの劣化事象等の有無(前項の規定により調査できないものとして取り扱う対象部位にあつては、その旨)」を挙げています。
「存在しない部位」と「調査できない部位」も違う
もう1つ、紛らわしい区別があります。告示第4条第2項です。
「前項に規定する調査(中略)の対象となる部位(中略)には、対象住宅(中略)に存在しない部位を含まないものとする」
解説は、この違いに念を押しています。「第2項は、構造耐力上主要な部分等の調査にあたり、調査対象となる部位が存在しない場合については、調査対象外とすることとしている。第5項の規定により調査できないものとして取り扱う部位とは異なる点に留意する必要がある」。
バルコニーのない住戸にバルコニーの欄はありません(存在しない)。バルコニーはあるが物置で埋まっていて見られなかった場合は「調査できなかった」です。前者は情報の欠落ではなく、後者は情報の欠落です。
だから、報告書で最初に見るのは「調査できなかった」の数
「劣化事象等 無」が並んでいる報告書は、一見すると安心材料です。しかし、その「無」は見えた範囲で基準に達する事象がなかったという意味しか持ちません。
床下に点検口がなく、小屋裏にも入れず、家具で内壁の大半が隠れていた。この場合も、調査した範囲では「無」が並びます。実際に情報があるかどうかは、「調査できなかった」がいくつあり、それがどこかで決まります。
解説は、報告書に盛り込むべき内容として「調査結果の裏付けとなる写真(特に確認された劣化事象等の写真)」「劣化事象等の確認結果を記載したチェックシート等」を挙げています。概要だけでなく報告書本体を受け取り、写真とチェックシートまで見てください。
マンションは、どこまで見るかが2通りある
住戸型調査と住棟型調査
告示第4条第3項が、共同住宅等の共用部分について2つの調査区分を置いています。
- 住戸型調査:対象住戸の位置により共用部分の調査箇所が決まる調査。対象は「外壁、屋根(対象住宅が長期修繕計画を有するものである場合を除く。)並びに当該共同住宅等の主要な出入口から当該対象住戸に至る経路上及び当該対象住戸から確認できる部分」
- 住棟型調査:建物全体を対象とする調査。外壁、屋根に加えて、構造と規模に応じた階の部分
住戸型は、玄関から自分の部屋までの経路と、部屋から見える範囲が共用部分の調査対象です。どちらを行うかは「依頼者が調査の委託契約時に選択することが想定される」と解説にあります。
なお、住戸型でも住棟型でも「外壁の調査と併せて基礎(立ち上がり部分を含む。)の調査も行うこととする」とされています。
住棟型でも、全階を見るとは限らない
住棟型調査の対象となる階は、第4条第3項第2号にあります。
- 木造の共同住宅等、および木造以外の小規模住宅である共同住宅等:全ての階
- 木造以外の大規模住宅である共同住宅等:原則として、最下階、最上階、最下階から数えて2の階、および最下階から数えて3に7の自然数倍を加えた数の階(最上階を除く)
後者は、10階、17階、24階……という飛び飛びの指定です。大規模なマンションの住棟型調査でも、全階を回るわけではありません。
住戸型では、配筋調査もコンクリート強度調査もしない
鉄筋コンクリート造等では、第9条第2項・第3項に追加の調査があります。大規模住宅の場合、鉄筋の本数及び間隔を電磁波レーダ法または電磁誘導法で調べ、コンクリートの圧縮強度を日本工業規格A1155による反発度の測定等で調べます。
ただし、どちらにも除外があります。第9条第2項のただし書きは「住戸型調査又は検査済証(平成十一年五月一日以降に確認済証の交付を受けた新築住宅に係るものに限る。)若しくは建設住宅性能評価書(既存住宅に係るものを除く。)の交付を受けた対象住宅で、第二号に掲げる調査箇所に係る劣化事象等がなかつたと認められるものの住棟型調査にあつては、調査することを要しない」としています。
第3項のただし書きも同じ形で、「平成十一年五月一日以降に確認済証の交付を受けた対象住宅の住戸型調査にあつては、調査することを要しない」と書かれました。
住戸型調査を選ぶと、配筋もコンクリート強度も調べない扱いになりえます。中古マンションの1住戸を買うときに依頼する調査は、通常こちらです。何を選んだかで結果の意味が変わるので、報告書の「住戸型調査又は住棟型調査の別」の欄を確認してください。これは第4条第6項第3号で記載事項とされています。
調査するのは建築士。規模で資格が分かれる
宅建業法の建物状況調査は、実施者が限定されている
宅地建物取引業法施行規則第15条の8第1項が、実施できる者を定めています。
「法第三十四条の二第一項第四号の国土交通省令で定める者は、次の各号のいずれにも該当する者とする。一 建築士法(中略)第二条第一項に規定する建築士 二 国土交通大臣が定める講習を修了した者」
「いずれにも」です。建築士であり、かつ講習を修了している必要があります。この講習を修了した者が「既存住宅状況調査技術者」です。
そして同条第2項が「前項に規定する者は、建物状況調査を実施するときは、国土交通大臣が定める基準に従つて行うものとする」としています。この基準が、ここまで見てきた告示です。
建物の規模で、必要な建築士の種別が変わる
告示第3条第1項は、対象住宅の区分に応じて調査できる建築士を分けました。建築士法上、その建物の設計等を行える資格と対応します。
| 対象住宅 | 調査できる者 |
|---|---|
| 建築士法第3条第1項第2号から第4号までに掲げる建築物である既存住宅 | 一級建築士 |
| 建築士法第3条の2第1項各号に掲げる建築物である既存住宅(上記を除く) | 一級建築士または二級建築士 |
| 上記以外の既存住宅 | 一級建築士、二級建築士または木造建築士 |
そう分けた理由も、解説に添えられました。「既存住宅状況調査の実施者には、表面的な劣化事象等から構造・防水に関する劣化や不具合の存在を推定することが求められており、建築物の構造、材料等について十分な知識を有する必要があるためである」。表に出た現象から中身を推定する仕事だから、構造の知識が要るという整理です。
「ホームインスペクション」と同じとは限らない
解説は、この基準の外側にも触れています。「既存住宅状況調査は、既存住宅状況調査技術者以外の者が行うことを禁止されているものではないものの、既存住宅状況調査に関する講習を修了した既存住宅状況調査技術者が行う場合には、本告示に定める水準及び方法に則つて公正に実施することとし、適正な既存住宅状況調査の普及を図ることとしている」
民間の住宅診断サービスは、この告示に縛られません。範囲が広い場合もあれば、狭い場合もあります。重要事項説明の対象になる「建物状況調査」は、規則第15条の8の者が告示に従って行ったものです。依頼するときは、どちらなのかを確認してください。
耐震性は「書類の確認」で行う
調査ではなく、確認
告示第4条第1項は、調査の構成に「第十一条の規定による確認」を含めています。解説によれば、調査は3本立てです。構造耐力上主要な部分の調査、雨水の浸入を防止する部分の調査、そして耐震性に関する書類の確認です。
第11条第1項は、対象住宅が次のいずれかに該当するかを確認するとしています。
- 昭和56年6月1日以降に確認済証の交付を受けた既存住宅(完了後に構造耐力上主要な部分に影響を及ぼす工事等が行われたと認められるものは、構造耐力に関する基準に適合することが確認できるものに限る)
- それ以外で、建築物の耐震改修の促進に関する法律第17条第3項第1号に基づく基準(平成18年国土交通省告示第185号)に適合することが確認できるもの
昭和56年6月1日は、新耐震基準が適用された日です。この確認は耐震診断そのものではありません。書類でどちらに当たるかを確かめる手続きです。
確認に使える書類が列挙されている
解説には、使える書類の例が並びます。1号(新耐震)については、確認済証、検査済証、確認台帳記載事項証明、新築時の建設住宅性能評価書、(新築)住宅瑕疵担保責任保険の付保証明書。
2号については、既存住宅に係る建設住宅性能評価書(耐震等級1以上であるもの)、既存住宅売買瑕疵保険の付保証明書、耐震基準適合証明書、住宅耐震改修証明書、耐震診断の結果報告書、固定資産税減額証明書、構造計算書です。
手元にどれもない場合、確認できないという結果になります。売主に書類の有無を先に聞いておくと、調査の結果が変わります。なお、この確認結果は結果の概要ではなく報告書のほうに載ります。解説が「耐震性に関する書類の確認結果を含む詳細な情報を盛り込んだ『既存住宅状況調査の結果の報告書』」と書いているためです。
重要事項説明の対象になるのは1年以内、マンションは2年以内
施行規則が期間を区切っている
宅地建物取引業法第35条第1項6号の2イは、建物状況調査を実施しているかどうかと、実施している場合の結果の概要を説明事項としています。ただし、いつ実施したものでもよいわけではありません。
同法施行規則第16条の2の2が、こう定めています。
「法第三十五条第一項第六号の二イの国土交通省令で定める期間は、一年(鉄筋コンクリート造又は鉄骨鉄筋コンクリート造の共同住宅等(中略)にあつては、二年)とする」
実施から1年、鉄筋コンクリート造・鉄骨鉄筋コンクリート造の共同住宅等は2年。それを超えた調査は、この規定による説明の対象になりません。
「以前に調査しています」と言われた場合、いつ実施したものかを確認してください。手付金の上限と保全措置と同じで、制度が守ってくれる範囲には条件がついています。
媒介契約の段階で「あっせん」の欄がある
買主や売主が自分で調査会社を探さなくても、入口は媒介契約の側にあります。宅地建物取引業法第34条の2第1項4号は、媒介契約書面の記載事項として「当該建物が既存の建物であるときは、依頼者に対する建物状況調査(中略)を実施する者のあつせんに関する事項」を挙げています。
あっせんを実施する義務ではなく、あっせんに関する事項を書面に書く義務です。媒介契約書の該当欄に「無」と書かれていれば、その業者はあっせんしないという意思表示です。媒介契約の3種類と書面の見方は媒介契約3種類の選び方で扱いました。
費用は誰が持つか
告示にも宅地建物取引業法にも、調査費用の負担者を定めた規定はありません。売主が実施して結果を提示する場合もあれば、買主が自分で手配する場合もあります。依頼者が費用を負担するのが基本の構造です。
金額の相場は、公的機関が公表しているものを見つけられませんでした。この記事では相場として金額を示すことはしません。構造、規模、住戸型か住棟型か、追加調査を含むかで変わるため、複数の調査者から見積りを取り、見積書に「既存住宅状況調査方法基準に基づく調査」と明記されているかを確認するのが確実です。
まとめ
建物状況調査で見るのは構造耐力上主要な部分と雨水の浸入を防止する部分の2つだけです。配管・設備・雨樋は、解説が明記するとおり調査対象として規定されていません。
「劣化事象等」には数字の基準があります。基礎は幅0.5ミリメートル以上のひび割れと深さ20ミリメートル以上の欠損、床と柱の傾きは1000分の6以上。測り方まで告示に書いてあります。
方法は目視・計測・打診で、原則として非破壊です。足場は組まず、動かせない家具の裏は見ず、点検口がない床下や小屋裏には入りません。
だから結果は3択になります。「有」「無」「調査できなかった」。報告書で最初に見るべきは、「無」の数ではなく「調査できなかった」がいくつあり、それがどこかです。
マンションでは住戸型調査と住棟型調査で範囲がまったく違います。住戸型では配筋調査もコンクリート圧縮強度調査もしない扱いになりえます。報告書の「住戸型調査又は住棟型調査の別」を確認してください。
耐震性は調査ではなく書類の確認です。昭和56年6月1日以降の確認済証があるかどうかを、列挙された書類で確かめます。
そして、重要事項説明の対象になるのは実施から1年以内、鉄筋コンクリート造等の共同住宅は2年以内のものです。
この調査は、建物のすべてを保証するものではありません。何が調べられ、何が調べられなかったかを書面で残す制度です。そう理解して報告書を読むと、使い方が変わります。
よくある質問(FAQ)
建物状況調査をすれば、設備の不具合も分かりますか
標準の調査では分かりません。国土交通省の「既存住宅状況調査方法基準の解説」は「配管・設備、雨樋など、調査対象として規定していない部位や劣化事象等についても、既存住宅状況調査と同じタイミングで追加調査することを妨げるものではない」としています。裏返すと、これらは標準の対象外です。この調査が見るのは構造耐力上主要な部分と雨水の浸入を防止する部分の2つで、宅地建物取引業法第34条の2第1項4号の定義がそうなっています。給湯器やエアコン、給排水設備の動作を確認したい場合は、追加調査として別に依頼してください。
報告書に「無」ばかり並んでいれば安心ですか
「無」は「見えた範囲で、基準に達する事象がなかった」という意味です。告示第4条第4項は、調査を「歩行その他の通常の手段により移動できる位置」で、かつ「移動が困難な家具等により隠蔽されている部分以外の部分」について行うとしています。解説も、足場の設置や点検口のない部分の調査は要しないと述べました。そのため、見られなかった部位は第4条第5項により「調査できない」ものとして扱われます。まず「調査できなかった」がいくつあり、どの部位かを確認してください。判断材料が実際にどれだけあるかは、そこで決まります。
気になったひび割れが報告書に載っていません
基準に達していない可能性があります。告示は基礎について「幅〇・五ミリメートル以上のひび割れ」「深さ二十ミリメートル以上の欠損」を劣化事象等としています。0.5ミリメートル未満のひび割れは、この基準では劣化事象等になりません。また解説は、劣化事象等に当たるかの判断を「詳細な調査を要する程度の事象があるかどうか、又は補修を要する程度の事象があるかどうか」によるとしています。見えるすべての傷を記録する制度ではありません。気になる箇所があれば、調査者にその場所を伝えて所見を聞いてください。
マンションの調査で、建物全体は見てもらえますか
選んだ区分によります。告示第4条第3項は、共同住宅等について住戸型調査と住棟型調査を分けています。住戸型調査の共用部分の対象は「外壁、屋根(対象住宅が長期修繕計画を有するものである場合を除く。)並びに当該共同住宅等の主要な出入口から当該対象住戸に至る経路上及び当該対象住戸から確認できる部分」です。住棟型でも、木造以外の大規模住宅である共同住宅等では、原則として最下階、最上階、最下階から数えて2の階、最下階から数えて3に7の自然数倍を加えた数の階が対象で、全階ではありません。どちらで行うかは委託契約時に選択することが想定されており、報告書にも「住戸型調査又は住棟型調査の別」が記載されます。
調査をすれば耐震性が分かりますか
耐震診断ではなく、書類の確認です。告示第11条第1項は、対象住宅が「昭和五十六年六月一日以降に確認済証の交付を受けた既存住宅」か、それ以外で耐震改修促進法第17条第3項第1号に基づく基準(平成18年国土交通省告示第185号)に適合することが確認できるものかを確認するとしています。確認に使える書類として、解説は確認済証、検査済証、確認台帳記載事項証明、建設住宅性能評価書、耐震基準適合証明書、耐震診断の結果報告書などが並びます。書類がなければ確認できないという結果になるので、売主に書類の有無を先に確認しておいてください。
数年前の調査結果があると言われました。重要事項説明で使えますか
期間を確認してください。宅地建物取引業法施行規則第16条の2の2は、法第35条第1項6号の2イの国土交通省令で定める期間を「一年(鉄筋コンクリート造又は鉄骨鉄筋コンクリート造の共同住宅等にあつては、二年)」としています。木造の戸建てなら実施から1年、鉄筋コンクリート造・鉄骨鉄筋コンクリート造のマンションなら2年です。これを超えた調査結果は、この規定による重要事項説明の対象にはなりません。資料として受け取ること自体は有用ですが、そのときの状態であることを前提に読んでください。
判断基準は告示の解説に全部載っています
国土交通省の「既存住宅状況調査方法基準の解説」は、告示の条文と逐条の解説がまとまった資料です。部位ごとの数値基準の表がそのまま載っているので、報告書を受け取ったら横に置いて読んでください。
既存住宅状況調査方法基準の解説
国土交通省 既存住宅インスペクション
本記事は一般的な情報提供を目的としています。特定の調査事業者を推奨または否定するものではありません。個別の物件についての判断は、既存住宅状況調査技術者または建築士にご相談ください。解説は令和6年10月25日版によります。